【解決手段】共にソース接地されたミラートランジスタ101及びアンプトランジスタ102は、各々のゲートがゲート抵抗器301を介して相互に接続され、ミラートランジスタ101の電流を基準電流として、ミラートランジスタ101及びアンプトランジスタ102によりカレントミラー回路を構成することにより、高周波信号の増幅を行うアンプトランジスタ102のドレイン電流を制御可能としてなる高周波増幅器であって、ミラートランジスタ101は、そのゲートとグランドとの間にシャント抵抗器302が接続されると共に、そのドレインとアンプトランジスタ102のゲートは、ドレイン・ゲート間抵抗器303を介して接続され、ミラートランジスタ101のドレインには、負荷601を介して基準電圧が印加可能に構成されたものとなっている。
ソース接地された第1及び第2の電界効果トランジスタを有し、前記第1及び第2の電界効果トランジスタの各々のゲートが相互に接続され、前記第1の電界効果トランジスタの電流を基準電流として前記第1及び第2の電界効果トランジスタによりカレントミラー回路を構成することにより、高周波信号の増幅を行う前記第2の電界効果トランジスタのドレイン電流を制御可能としてなる高周波増幅器において、
前記第1及び第2の電界効果トランジスタのゲート間にゲート抵抗器が接続されると共に、前記第1の電界効果トランジスタのゲートとグランドとの間にシャント抵抗器が接続され、前記第1の電界効果トランジスタのドレインと前記第2の電界トランジスタのゲート間にドレイン・ゲート間抵抗器が接続され、前記第1の電界効果トランジスタのドレインには、負荷を介して基準電圧が印加可能に構成されてなることを特徴とする高周波増幅器。
前記第1又は第2の電界効果トランジスタは、ゲートが、ショットキー結合、又は、pn接合で形成されてなり、ゲート順方向電流が流れるよう構成されてなるエンハンスメント型電界効果トランジスタであることを特徴とする請求項1、又は、請求項2記載の高周波増幅器。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信技術の発達に伴い、高周波増幅器は、携帯電話、無線LAN、衛星測位システム等々、その用途は益々広がっている。同時に、これらの無線通信システムを搭載した端末機器は、その生産数量が爆発的に増加しており、無線通信部品のコストダウンと製造能力拡大が、より強く求められつつある。
【0003】
従来、無線通信端末のRF(Radio Frequency:無線周波数)フロントエンド部は、高周波特性、線形性の優れたGaAs pHEMT(Pseudomorphic High Electron Mobility Transistor)やGaAs HBT(Heterojunction Bipolar Transistor)等の化合物半導体集積回路が使用されてきた。
ところで、最近、より低コストであるSi半導体集積回路の高周波特性向上がめざましく、一部のRFフロントエンド部品では、Si半導体の採用が進んでいるものの、線形性が要求される状況での化合物半導体の需要は未だ根強く存在している。
【0004】
また、一般に、GaAs半導体プロセスの製品歩留まりは、GaAs HBTプロセスのほうが、GaAs pHEMTプロセスよりも高いと言われており、GaAs pHEMTプロセスの製品歩留まりがGaAs HBTプロセスに劣る理由として、FETのしきい値電圧の製造ばらつきが大きいため、製品歩留まりが低下することが挙げられている。言い換えれば、GaAs pHEMT集積回路には、現状、FETしきい値電圧の製造ばらつきの問題が存在するため、製品歩留まり改善によるコストダウンの余地が残されている。
【0005】
図8には、RFフロントエンド受信部のLNA(Low Noise Amplifier:低雑音増幅器)回路として使用されているFET増幅器の従来の回路構成例が示されており、以下、同図を参照しつつ、かかる従来回路について説明する。
LNA回路は、微弱な受信信号を低雑音で増幅する回路であるが、受信電力は、受信状況により大きく変動し、加えて、受信信号以外の隣接周波数の信号が強入力されることもあるため、耐入力性能も要求される部品である(例えば非特許文献1等参照)。
【0006】
図8に示されたLNA回路は、ミラートランジスタ101Aとソース接地アンプトランジスタ102Aとで構成されたカレントミラー回路と、このカレントミラー回路による電流制御を受けるアンプトランジスタ102A,103Aとで構成されたカスコード接続アンプとに大別されて構成されたものとなっている
【0007】
かかる構成のLNA回路の動作について説明する。
最初に、基本的なDC動作について説明する。
まず、一般的なLAN回路のアンプ動作は、A級バイアスとなっている。
カスコード接続アンプを構成するアンプトランジスタ102A,103Aのドレイン電流IDDは、ミラートランジスタ101Aのドレイン電流である基準電流IREFに比例した電流となる。より具体的には、基準電流IREFが負荷抵抗RLにおいて電圧降下VL=RL×IREFを発生させる結果、ミラートランジスタ101Aのドレインには、電源電圧VDDからVLだけ減じた電圧Vd1が印加される。このとき、ミラートランジスタ101Aのゲート電圧Vg1は、Vd1と等しい。
【0008】
また、ミラートランジスタ101Aのゲート電圧Vg1は、ミラートランジスタ101Aのドレイン電流がIREFとなるバイアス点で均衡し、このゲート電圧Vg1は、抵抗器301Aを介してソース接地トランジスタ102Aのゲートへ印加される。
ここで、ミラートランジスタ101Aの総ゲート幅をWgt1、ソース接地アンプトランジスタ102Aの総ゲート幅をWgt2とし、ソース接地アンプトランジスタ102Aのドレイン電圧及びゲート電圧が、ミラートランジスタ101Aのドレイン電圧Vd1及びゲート電圧Vg1とほぼ等しいと仮定したとき、ソース接地アンプトランジスタ102Aのドレイン電流IDDは、(Wgt2/Wgt1)×IREFだけ流れる。
【0009】
なお、ゲート接地アンプトランジスタ103Aのバイアス点は、ソース接地アンプトランジスタ102Aの動作を妨げない範囲に設定される。より具体的には、負荷抵抗器RLを抵抗分割することで生成される、VDDからVd1の範囲で任意の電圧がゲート接地アンプトランジスタ103Aのゲートに印加される。
しかして、カスコード接続アンプのアンプトランジスタ間接続ノードの電圧は、ゲート接地アンプトランジスタ103Aのドレイン電流がIDDとなるソース電圧で均衡する。このとき、ゲート接地アンプトランジスタ103Aのドレインには、インダクタ501Aを介して電源電圧VDDが印加されている。
また、分割抵抗器304Aと分割抵抗器305Aの接続ノードにシャント接続されている3段直列ダイオード201A〜203Aは、電源電圧VDDが定格値より高いときに、IDD増加を抑制するために設けられているものである。
【0010】
次に、従来のLNA回路のRF動作について説明する。
図8に示された構成において、カスコード接続アンプは、前段がソース接地アンプ、後段がゲート接地アンプからなる2段アンプ構成と見なすことができる。
このため、高周波入力端子RFINは、前段アンプの入力側にDCカットキャパシタ401Aを、高周波出力端子RFOUTは、後段アンプの出力側にDCカットキャパシタ402Aを介して接続されている。
【0011】
先に述べたように、ゲート接地アンプトランジスタ103Aのゲートは、VDDからVd1の範囲で任意の電圧が印加されているためDC接地されておらず、代わりにバイパスキャパシタ403Aを接続することにより、AC接地されている。
抵抗器301Aは、ミラートランジスタ101Aのゲートに、高周波信号が侵入して、アンプ回路のバイアスが変動するのを防ぐと共に、ソース接地アンプのNF(Noise Figure:雑音指数)劣化を防ぐよう機能するものである。
【0012】
一般的に、LNA回路に使用されるソース接地アンプトランジスタは、総ゲート幅が小さく、入力インピーダンスが高い。上述の抵抗器301Aの抵抗値は、ソース接地アンプトランジスタの入力インピーダンスと比べて十分大きくする必要があり、数十キロオームの高抵抗が用いられる。
抵抗器301Aの代わりに、同等の高周波インピーダンスを有するチョークインダクタを接続することも可能であるが、インダクタンス値が大きいために集積回路化には不向きである。
【0013】
同様に、抵抗器306Aも高周波信号遮断のために接続される。
また、このLNA回路を使用する際には、高周波入力端子RFIN、高周波出力端子RFOUTの外側に、受動素子からなるインピーダンス整合回路が接続される。
さらに、ソース接地アンプトランジスタ102Aのソースとグランドとの間にインダクタを接続して直列帰還をかけることで、インピーダンス整合とNF整合を両立させることが一般的に行われている。
【0014】
ここで、上述の従来回路の製品歩留まりについて考える。
先に述べたように、GaAs pHEMTプロセスでは、FETしきい値電圧の製造ばらつきが、製品歩留まりに大きく影響すると言われている。LNA回路は、カスコード接続アンプのドレイン電流IDDの増減により、その特性が大きく変動するため、製品歩留まり確保のためには、ドレイン電流IDDを一定に保つ必要がある。
【0015】
FETしきい値電圧がΔVth変動する場合、ミラートランジスタ101Aのゲート電圧Vg1とソース接地アンプトランジスタ102Aのゲート電圧Vg2が共にΔVth分だけ変動すれば、ドレイン電流IDDを一定に保つことが可能であるが、実際には、ドレイン電流IDDのばらつきが発生する。
このドレイン電流IDDのばらつきの第1の原因は、抵抗器301Aが高抵抗であり、かつ、ソース接地アンプトランジスタ102Aの順方向ゲート電流が流れることで、抵抗器301Aに電圧降下が生じてしまうことにある。結果として、ゲート電圧Vg1とVg2が一致せず、Vg2の変動量ΔVg2は、FETしきい値電圧の変動量ΔVthよりも小さくなる。
【0016】
GaAs pHEMTプロセスのFET構造として、ゲート電極がショットキー接合であるMESFET(MEtal-Semiconductor FET)や、pn接合であるJFET(Junction FET)が使用されている。これらのFETは、いずれもゲート・ドレイン間、ゲート・ソース間にダイオードを有しており、ソース接地トランジスタの場合、ゲート・ソース間ダイオードが導通することによりゲート順方向電流が流れる。
【0017】
このゲート順方向電流の大きさは、ダイオード立ち上がり電圧Vfとダイオード接合面積によって定まり、ダイオード接合面積は、トランジスタの総ゲート幅に比例する。
一方、ダイオード立ち上がり電圧Vfは、接合の種類によって異なり、GaAsの場合、ショットキー接合で0.6V程度、pn接合で1.0V程度である。ソース接地アンプトランジスタ102Aがエンハンスメント型MESFETの場合は、ゲート順方向電流が多く流れるが、これは、
図8に示された従来のLNA回路でも同様である。
【0018】
また、ドレイン電流IDDのばらつきの第2の原因は、ミラートランジスタ101Aの負荷が純抵抗であるため、基準電流IREFを一定に保てないことにある。
FETしきい値電圧が変動すると、ミラートランジスタ101Aのゲート電圧Vg1と共にドレイン電圧Vd1も変動するため、負荷抵抗RLにかかる電圧差が変動し、その結果、基準電流IREFも変動する。
以上のことから、ゲート電圧Vg1とVg2が一致しないことに加えて、基準電流IREFも変動することで、カレントミラー回路が理想動作から外れ、ドレイン電流IDDのばらつきが発生するということが言える。
【0019】
この場合、各トランジスタのゲート電圧の関係は、Vg1>Vg2、ΔVg1<ΔVth、ΔVg2<ΔVthとなっている。加えて、カレントミラー回路以外の付加回路、特に、抵抗器304A,305Aの接続ノードにシャント接続されている3段直列ダイオード201A〜203Aは、ドレイン電流IDDのばらつきをさらに拡大させている。
【0020】
図9には、従来回路におけるドレイン電流IDDとソース接地アンプトランジスタ102Aのゲート電圧Vg2の、電源電圧VDDとFETしきい値電圧Vthに対する依存性のシミュレーション結果が示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
【0021】
まず、
図9(A)において、横軸は電源電圧VDDを、縦軸はドレイン電流IDDとゲート電圧Vg2を、それぞれ表している。
同図において、電源電圧VDDの変化に対するドレイン電流IDDの変化が実線の特性線で、電源電圧VDDの変化に対するゲート電圧Vg2の変化が破線の特性線で、それぞれ示されている。
【0022】
また、
図9(B)において、横軸はFETしきい値電圧Vthを、縦軸はドレイン電流IDDと、ゲート電圧Vg2とFETしきい値電圧Vthとの差を、それぞれ表している。
同図において、FETしきい値電圧Vthの変化に対するドレイン電流IDDの変化が実線の特性線で示されている。
また、同図において、FETしきい値電圧Vthの変化に対するゲート電圧Vg2の変化は、ゲート電圧Vg2の変化そのものをプロットするのではなく、(Vg2−Vth)をプロットしたものが破線によりゲート電圧Vg2の変化特性として示されている。
【0023】
シミュレーションの前提として、カレントミラー回路に関する具体的な回路定数は、ミラートランジスタ101Aがエンハンスメント型FETで総ゲート幅Wgt1=6μm、ソース接地アンプトランジスタ102Aがエンハンスメント型FETで総ゲート幅Wgt2=200μm、ゲート接地アンプトランジスタ103Aがエンハンスメント型FETで総ゲート幅Wgt3=200μm、抵抗器301Aの抵抗値R1=20kΩ、抵抗器304Aの抵抗値R4=6.5kΩ、抵抗器305Aの抵抗値R5=4.6kΩ、抵抗器306Aの抵抗値R6=15kΩである。なお、本回路は、電源電圧VDD=3.3V時にドレイン電流IDD=8mAとなるように設定されている。
【0024】
同図によれば、電源電圧VDDの変化に対してゲート電圧Vg2は殆ど大きな変化は無いにもかかわらず、ドレイン電流IDDは電源電圧VDDの上昇と共に大きく増加することが理解できる(
図9(A)参照)。
一方、FETしきい値電圧の変動に対してゲート電圧Vg2は追従しておらず、特に、FETしきい値電圧が上昇した際にドレイン電流IDDが減少することが理解できる(
図9(B)参照)。
【0025】
このようなFETしきい値電圧の製造ばらつきを原因とするドレイン電流IDDのばらつきを抑制する方法としては、例えば、カレントミラー回路の負荷抵抗RLに、非線形素子である電流飽和抵抗を使用する方法などが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、
図1乃至
図7を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における高周波増幅器の基本回路構成例について、
図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における高周波増幅器は、高周波信号の増幅を行うアンプトランジスタ(第2の電界効果トランジスタ)102と、このアンプトランジスタ102とカレントミラー回路を構成するミラートランジスタ(第1の電界効果トランジスタ)101とを主たる構成要素として構成されたものとなっている。
本発明の実施の形態において、ミラートランジスタ101とアンプトランジスタ102には、共に、エンハンスメント型FETが用いられている。
【0033】
以下、具体的な回路構成について説明すれば、まず、ミラートランジスタ101とアンプトランジスタ102は、共にソース接地されると共に、各々のゲートがゲート抵抗器301を介して相互に接続されている。
さらに、ミラートランジスタ101とアンプトランジスタ102の各々のゲートは、シャント抵抗器302を介してグランドに接続される一方、ゲート用DCカットキャパシタ401及び高周波入力端子11を介して外部から高周波信号が入力可能となっている。
【0034】
また、ミラートランジスタ101のドレインは負荷(
図1においては「LOAD」と表記)601及び基準電圧端子13を介して外部から基準電圧が印加可能となっていると共に、ドレイン・ゲート間抵抗器303を介してアンプトランジスタ102のゲートと接続されている。
一方、アンプトランジスタ102のドレインは、インダクタ501及び電源電圧端子14を介して外部から電源電圧が印加可能とされると共に、ドレイン用DCカットキャパシタ402及び高周波出力端子12を介して増幅された高周波信号を外部へ出力可能となっている。
【0035】
次に、かかる構成における回路動作について説明する。
最初に、基本的なDC動作について説明する。
この高周波増幅器におけるカレントミラー回路は、従来と異なり、ミラートランジスタ101のドレインとゲートの接続がない構成となっている。
ミラートランジスタ101のゲート電圧Vg1は、ミラートランジスタ101のドレイン電圧Vd1が、ゲート抵抗器301、ドレイン・ゲート間抵抗器303、及び、シャント抵抗器302での電圧降下で分圧されることによって設定され、ゲート抵抗器301とシャント抵抗器302の接続ノードの電圧が印加されるようになっている。
【0036】
また、アンプトランジスタ102のゲート電圧Vg2も同様であり、ドレイン・ゲート間抵抗器303とゲート抵抗器301の接続ノードの電圧が印加されるようになっている。
アンプトランジスタ102のゲート順方向電流が無視できない場合、ドレイン・ゲート間抵抗器303にはシャント抵抗器302を流れる電流に加えて、アンプトランジスタ102のゲート順方向電流も流れるため、ドレイン・ゲート間抵抗器303での電圧降下量が増加する。
【0037】
他方、ミラートランジスタ101の総ゲート幅は、通常、十分小さいため、ミラートランジスタ101のゲート順方向電流は無視できる。
ミラートランジスタ101のドレインには、負荷601を介して基準電圧VREFが印加されており、ミラートランジスタ101のドレイン電圧Vd1は、負荷601の電流特性がミラートランジスタ101のドレインを流れる基準電流IREF及びドレイン・ゲート間抵抗器303を流れる電流の和と一致するバイアス点で均衡する。
【0038】
また、アンプトランジスタ102のドレインには、インダクタ501を介して電源電圧VDDが印加されている。
以上のようにして、アンプトランジスタ102のゲート電圧Vg2は、カレントミラー回路型バイアス回路と抵抗バイアス回路の合成回路によって設定され、それに応じたドレイン電流IDDが流れるようになっている。
【0039】
次に、FETしきい値電圧変動時のドレイン電流IDDばらつきについて説明する。
ミラートランジスタ101とアンプトランジスタ102から構成されるカレントミラー回路は、ミラートランジスタ101のドレイン電流が基準電流IREFとなるように、ミラートランジスタ101のゲート電圧Vg1を可変させる回路もあるが、本発明の実施の形態においては、ミラートランジスタ101のゲートにシャント抵抗器302が接続されることで逆に固定化されるものとなっている。
ミラートランジスタ101のゲート電圧Vg1の可変量は、シャント抵抗器302の大きさに比例する。
【0040】
ここで、FETしきい値電圧が変動すると、ミラートランジスタ101のゲート電圧Vg1が固定化されているために、ミラートランジスタ101のドレイン電流IREFが変動する。具体的には、FETしきい値電圧増加時に電流IREFは減少し、FETしきい値電圧減少時に電流IREFは増加する。
また、同時に、アンプトランジスタ102のゲート順方向電流Ig2は、FETしきい値電圧増加時に増加し、FETしきい値電圧減少時に減少する。
一方、シャント抵抗器302を流れる電流は、ゲート電圧Vg1が固定されているため変動は少ない。
【0041】
FETしきい値電圧がΔVth変動した時の基準電流IREFの変動量をΔIREF、アンプトランジスタ102のゲート電流Ig2の変動量をΔIg2とし、簡単化のため、シャント抵抗器302を流れる電流は変動しないと仮定すると、負荷601を流れる電流Iloadの変動量ΔIloadは、ΔIg2−ΔIREFとなる。ここで、ΔIREFは、調整可能なパラメータである。
また、ドレイン・ゲート間抵抗器303の抵抗値をR3とし、負荷601が抵抗性負荷である場合、負荷601での電圧降下の変動量がΔVth+R3×ΔIg2となるようなΔIloadとすべくΔIREFを適宜調整した場合、アンプトランジスタ102のゲート電圧変動量ΔVg2はΔVthと一致し、ドレイン電流IDDのばらつきは発生しない。
【0042】
このとき、各トランジスタのゲート電圧の関係は、Vg1<Vg2、ΔVg1<ΔVth、ΔVg2=ΔVthとなっている。
また、負荷601が定電流特性を有している場合であっても、ミラートランジスタ101のドレイン電圧の変動量ΔVd1が、ΔVth+R3×ΔIg2となるようΔIREFを適宜調整することで、同様の作用、効果を得ることが可能である。
【0043】
次に、上述の基本回路の具体的回路構成例の第1の実施例について、
図2を参照しつつ説明する。
なお、
図1に示された構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第1の実施例は、
図1における負荷601を抵抗負荷で構成したものである。
【0044】
すなわち、負荷抵抗器304が負荷としてミラートランジスタ101のドレインと電源電圧端子14との間に直列接続されて設けられたものとなっている。
各素子の具体的な回路定数は、ミラートランジスタ101がエンハンスメント型FETで、総ゲート幅Wgt1=12μm、アンプトランジスタ102がエンハンスメント型FETで、総ゲート幅Wgt2=200μm、ゲート抵抗器301の抵抗値R1=15kΩ、シャント抵抗器302の抵抗値R2=200kΩ、ドレイン・ゲート間抵抗器303の抵抗値R3=15kΩ、負荷抵抗器304の抵抗値R4=17kΩである。なお、本回路は、電源電圧VDD=3.3V時にドレイン電流IDD=8mAとなるように設定されている。
【0045】
この第1の実施例においては、
図1に示された基本回路と異なり、
図1における基準電圧端子13が、電源電圧端子14と共通化されているが、電源電圧VDDの増加と同時に基準電圧VREFも増加する条件下で、電源電圧依存性シミュレーションを実施するためであり、DC特性上は、
図1に示された基本回路との違いは無い。
【0046】
図3(A)には、この第1の実施例におけるドレイン電流IDDとアンプトランジスタ102のゲート電圧Vg2の、電源電圧VDDに対する依存性のシミュレーション結果が、
図3(B)には、この第1の実施例におけるドレイン電流IDDのFETしきい値電圧Vthに対する依存性のシミュレーション結果、及び、アンプトランジスタ102のゲート電圧Vg2とFETしきい値電圧Vthとの差のFETしきい値電圧Vthに対する依存性のシミュレーション結果が、それぞれ示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
【0047】
まず、
図3(A)において、横軸は電源電圧VDDを、縦軸はドレイン電流IDDとゲート電圧Vg2を、それぞれ表している。
図3(A)において、電源電圧VDDの変化に対するドレイン電流IDDの変化が実線の特性線で、電源電圧VDDの変化に対するゲート電圧Vg2の変化が破線の特性線で、それぞれ示されている。
【0048】
また、
図3(B)において、横軸はFETしきい値電圧Vthを、縦軸はドレイン電流IDDと、ゲート電圧Vg2とFETしきい値電圧Vthとの差を、それぞれ表している。
図3(B)において、FETしきい値電圧Vthの変化に対するドレイン電流IDDの変化が実線の特性線で示されている。
また、
図3(B)において、FETしきい値電圧Vthの変化に対するゲート電圧Vg2の変化は、ゲート電圧Vg2の変化そのものをプロットするのではなく、(Vg2−Vth)をプロットしたものを破線によりゲート電圧Vg2の変化特性として示している。
【0049】
同図によれば、抵抗負荷の電源電圧依存性を反映して、ゲート電圧Vg2及びドレイン電流IDDは、電源電圧依存性が大きいことが理解できる(
図3(A)参照)。
一方、FETしきい値電圧の変動に対してゲート電圧Vg2は、従来回路と異なり、追従しており、ドレイン電流IDDのばらつきが非常に少ないことが理解できる(
図3(B)参照)。
【0050】
次に、上述の基本回路の具体的回路構成例の第2の実施例について、
図4を参照しつつ説明する。
なお、
図1、又は、
図2に示された構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第2の実施例は、
図1における負荷601を、負荷とアクティブロードトランジスタとを有する定電流負荷で構成したものである。
【0051】
すなわち、デプレッション型FETを用いたアクティブロードトランジスタ104のソースは、抵抗器304を介してミラートランジスタ101のドレインに接続されると共に、ミラートランジスタ101のドレインにはアクティブロードトランジスタ104のゲートが接続されている。
そして、アクティブロードトランジスタ104のドレインは、電源電圧端子14に接続されている。
【0052】
各素子の具体的な回路定数は、ミラートランジスタ101がエンハンスメント型FETで、総ゲート幅Wgt1=12μm、アンプトランジスタ102がエンハンスメント型FETで、総ゲート幅Wgt2=200μm、アクティブロードトランジスタ104がデプレッション型FETで、総ゲート幅Wgt4=200μm、ゲート抵抗器301の抵抗値R1=15kΩ、シャント抵抗器302の抵抗値R2=300kΩ、ドレイン・ゲート間抵抗器303の抵抗値R3=15kΩ、抵抗器304の抵抗値R4=1.6kΩである。
図2に示された第1の実施例と比べると、シャント抵抗器302の抵抗値が大きく、FETしきい値電圧変動時の基準電流IREFの変動量ΔIREFを減少させる構成となっている。
【0053】
図5(A)には、この第2の実施例におけるドレイン電流IDDとアンプトランジスタ102のゲート電圧Vg2の、電源電圧VDDに対する依存性のシミュレーション結果が、
図5(B)には、この第2の実施例におけるドレイン電流IDDのFETしきい値電圧Vthに対する依存性のシミュレーション結果、及び、アンプトランジスタ102のゲート電圧Vg2とFETしきい値電圧Vthとの差のFETしきい値電圧Vthに対する依存性のシミュレーション結果が、それぞれ示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
なお、
図5(A)は、先の
図3(A)に、
図5(B)は、先の
図3(B)に、それぞれ準じた特性線図であるので、その具体的な構成についての再度の詳細な説明は省略する。
【0054】
図5(B)によれば、定電流負荷であってもドレイン電流IDDのばらつき低減が可能であることが理解できる。
なお、このシミュレーションでは、デプレッション型FETのしきい値電圧は固定されており、アクティブロードトランジスタのしきい値電圧Vthのばらつきは考慮されていない。
また、定電流負荷のため、ドレイン電流IDDの電源電圧依存性は、
図3(A)に比べて小さいが、完全には無くなっていないことが理解できる(
図5(A)参照)。これは、アンプトランジスタ102のドレイン電圧増加が原因である。
【0055】
次に、上述の基本回路の具体的回路構成例の第3の実施例について、
図6を参照しつつ説明する。
なお、
図1、
図2、又は、
図4に示された構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第3の実施例は、
図8に示された従来回路に本発明を適用した場合の構成例である。
なお、
図6においては、
図8における構成要素の符号に代えて、
図2に示された構成と同一構成部分の構成要素については、
図2に示された構成要素と同一の符号を付し、また、
図2の構成と異なる構成要素については、新たな符号を付して、以下、
図2に示された構成と異なる部分を中心に説明することとする。
【0056】
まず、ミラートランジスタ101のドレインと電源電圧端子14との間には、ミラートランジスタ101のドレイン側から、第1の負荷抵抗器304、第2の負荷抵抗器305が順に直列接続されて設けられている。
第1のアンプトランジスタ102のドレインとインダクタ501の一端との間には、第2のアンプトラジスタ103が直列接続されて設けられている。すなわち、第1のアンプトランジスタ102のドレインには、第2のアンプトランジスタ103のソースが接続され、第2のアンプトランジスタ103のドレインは、インダクタ501の一端とドレイン用DCカットキャパシタ402の接続点に接続されている。
【0057】
そして、第2のアンプトランジスタ103のゲートは、第2のゲート抵抗器306を介して、第1及び第2の負荷抵抗器304,305の相互の接続点に接続されると共に、バイパスキャパシタ403を介してグランドに接続されている。
また、第1及び第2の負荷抵抗器304,305の相互の接続点とグランドとの間には、第1乃至第3のダイオード201〜203が直列接続されて設けられている。
【0058】
すなわち、第1のダイオード201のアノードは、第1及び第2の負荷抵抗器304,305の相互の接続点に接続される一方、カソードは、第2のダイオード202のアノードに接続されている。
そして、第2のダイオード202のカソードは、第3のダイオード203のアノードに接続され、第3のダイオード203のカソードは、グランドに接続されたものとなっている。
【0059】
各素子の具体的な回路定数は、ミラートランジスタ101がエンハンスメント型FETで、総ゲート幅Wgt1=12μm、第1のアンプトランジスタ102がエンハンスメント型FETで、総ゲート幅Wgt2=200μm、第2のアンプトランジスタ103がエンハンスメント型FETで、総ゲート幅Wgt3=200μm、第1のゲート抵抗器301の抵抗値R1=15kΩ、シャント抵抗器302の抵抗値R2=100kΩ、ドレイン・ゲート間抵抗器303の抵抗値R3=15kΩ、第1の負荷抵抗器304の抵抗値R4=7kΩ、第2の負荷抵抗器305の抵抗値R5=4.5kΩ、第2のゲート抵抗器306の抵抗値R6=15kΩである。
図2に示された第1の実施例と比べると、シャント抵抗器302の抵抗値が小さく、FETしきい値電圧変動時の基準電流IREFの変動量ΔIREFを増加させる構成となっている。
【0060】
図7(A)には、この第3の実施例におけるドレイン電流IDDとアンプトランジスタ102のゲート電圧Vg2の、電源電圧VDDに対する依存性のシミュレーション結果が、
図7(B)には、この第3の実施例におけるドレイン電流IDDのFETしきい値電圧Vthに対する依存性のシミュレーション結果、及び、アンプトランジスタ102のゲート電圧Vg2とFETしきい値電圧Vthとの差のFETしきい値電圧Vthに対する依存性のシミュレーション結果が、それぞれ示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
なお、
図7(A)は、先の
図3(A)に、
図7(B)は、先の
図3(B)に、それぞれ準じた特性線図であるので、その具体的な構成についての再度の詳細な説明は省略する。
【0061】
図7(B)によれば、従来回路のような複雑なアンプ回路の構成であっても、ドレイン電流IDDのばらつき低減が可能であることが理解できる。
また、ドレイン電流IDDの電源電圧依存性は、定電流負荷である
図4の回路に比べて遜色なく(
図5(A)及び
図7(A)参照))、十分実用に耐えるものである。これは、カスコード接続アンプ構成のため、第1のアンプトランジスタ102のドレイン電圧増加が少ないことによるものである。
【0062】
なお、本発明の実施の形態における回路は、例えば、図示はしないが、アンプトランジスタ102のソースに抵抗器等を挿入するなどして、カレントミラー回路のトランジスタ対の回路対称性を崩したとしても、シャント抵抗器302及びミラートランジスタ101の総ゲート幅を適宜調整することで、ドレイン電流IDDのばらつきを低減させることが可能である。
以上、説明したように、本発明に係る高周波増幅器は、カレントミラー回路の理想動作を妨げる原因であった、ソース接地のアンプトランジスタのゲート順方向電流の存在と基準電流の変動に対して、抵抗バイアスにより意図的にカレントミラー動作を妨げるようにすることで、最終的なドレイン電流IDDのばらつき低減が得られるよう調整可能である。
また、本発明に係る高周波増幅器は、カレントミラー回路の負荷の種類やアンプ回路の複雑さに関わらず、FETしきい値電圧変動時のドレイン電流IDDのばらつきを低減可能としており、製造歩留まりの向上に資するものである。