【解決手段】対物レンズを介して加工対象物の所定位置に加工用レーザー光を集光して加工を行う加工手段と、非点収差を有した光学系であって、対物レンズを介して加工対象物で反射された検出光の反射光を受光する非点収差光学系と、加工用レーザー光の集光位置におけるオフセット量を調整可能であって、非点収差光学系に設けられるオフセット量調整手段と、オフセット量に対応する位置に加工用レーザー光を集光させるように加工対象物に対する対物レンズの相対位置を調整する相対位置調整手段と、を備える加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例としての実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0018】
(第一実施形態)
図1は第一実施形態に係る加工装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、加工装置100は、レーザー加工部(加工手段)10と、該レーザー加工部10から射出される加工用レーザー光を所定位置に集光させるオートフォーカス光学系(非点収差光学系)20と、制御部50とを備えている。
【0019】
レーザー加工部10は、加工対象物5を載置するステージ1と、加工用レーザー光源2と、ステージ1に載置される加工対象物5に対向配置される対物レンズ3と、を有する。
ステージ1は、加工対象物5を載置する載置面1aが上面に設けられている。ステージ1は、制御部50により、その移動が制御されている。本実施形態において、加工対象物5は、シリコンウエハーを用いた。なお、制御部50は、例えばCPU、ROM、及びRAM等から構成されている。
【0020】
なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。ステージ1における加工対象物5の載置面1aと平行な面内における一方向をX軸方向、該面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0021】
制御部50は、載置面1a上の加工対象物5と対物レンズ3とを近接或いは離間させる方向(例えば、鉛直方向)に沿ってステージ1を移動させる。また、制御部50は、鉛直方向に直交する方向(例えば紙面貫通方向や、紙面左右方向)に沿ってもステージ1を移動させることができる。
これにより、ステージ1は、載置面1a上の加工対象物5と対物レンズ3との相対位置を微調整可能とされており、本発明の相対位置調整手段を構成する。
【0022】
なお、本実施形態では、ステージ1の位置を調整することで加工対象物5及び対物レンズ3の相対位置を調整する場合を例に挙げて説明するが、例えばピエゾ素子等を設けることで対物レンズ3を直接動かし、加工対象物5に対する対物レンズ3の相対位置を変化させるようにしてもよい。
【0023】
加工用レーザー光源2は、加工対象物5に対し、Z軸方向に沿って加工用レーザー光Lを射出するためのものであり、加工用レーザー光Lをパルス発振等するレーザ光源から構成される。レーザ光源は、加工用レーザー光Lとして赤外光をパルス発振する。
対物レンズ3は、加工用レーザー光Lを載置面1a上の加工対象物5の所定位置に集光する。
【0024】
オートフォーカス光学系20は、加工対象物5の表面形状に応じて変化する前記レーザー加工部10(加工用レーザー光源2)から射出される加工用レーザー光Lを所定の位置に集光させるためのものである。本実施形態に係る加工装置100は、上記オートフォーカス光学系20を用いることで、加工用レーザー光Lを加工対象物5の表面或いは表面から内側に所定量だけオフセットした位置に集光させることが可能である。
【0025】
加工用レーザー光Lは、加工対象物5を透過すると共に加工対象物5の内部の集光点近傍(オフセット量に対応した位置)にて特に吸収され、これにより、加工対象物5に改質領域を形成する。すなわち、本実施形態に係る加工装置100は、内部吸収型レーザー加工を行うためのものである。
ここで、本実施形態に係る加工装置100により形成される改質領域とは、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。具体的に改質領域とは、例えば、溶融処理領域、クラック領域(絶縁破壊領域)、及び屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域も含む。
【0026】
溶融処理領域とは、一旦溶融後再固化した領域や、まさに溶融状態の領域や、溶融状態から再固化する状態の領域であり、相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。
つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。
【0027】
クラック領域とは、加工対象物の内部に加工用レーザー光Lが吸収されることで生じた光学的損傷である。このような光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部に、1つ又は複数のクラックを含むクラック領域が形成される。クラック領域は絶縁破壊領域とも言える。なお、クラック領域は、例えば、加工対象物としてガラスやLiTaO
3からなる圧電材料を用い、集光点における電界強度が1×10
8(W/cm
2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件で加工用レーザー光Lを照射した場合に生じる。
【0028】
屈折率変化領域とは、パルス幅が極めて短い状態で加工対象物5の内部に加工用レーザー光Lが吸収されると、そのエネルギーが熱エネルギーに転化せず、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されることで形成されたものである。なお、屈折率変化領域は、例えば、加工対象物としてガラスを用い、集光点における電界強度が1×10
8(W/cm
2)以上で且つパルス幅が1ns以下の条件で加工用レーザー光Lを照射した場合に生じる。
【0029】
本実施形態において、上記オートフォーカス光学系20は、非点収差を用いたオートフォーカス機能を有している。オートフォーカス光学系20は、載置面1a上の加工対象物5に対して検出光を照射し、該加工対象物5の表面で反射された検出光(以下、反射検出光(反射光)と称す場合もある)を受光する。
【0030】
オートフォーカス光学系20は、光源29と、コリメートレンズ21と、偏光ビームスプリッター22と、凸レンズ23と、シリンドリカルレンズ24と、光検出部(検出部)28と、λ/4板26と、焦点距離調整装置27と、ダイクロイックミラー25とを有する。ダイクロイックミラー25は、加工用レーザー光源2と対物レンズ3との間における加工用レーザー光Lの光路上に配置されている。ダイクロイックミラー25は、上記オートフォーカス光学系20における検出光を反射させるが、上記加工用レーザー光Lを透過させる光学特性を有する。
【0031】
光源29は、例えばレーザーダイオードから構成され、所定の波長(色)の検出光L1を射出する。光検出部28は4分割フォトダイオードから構成される。焦点距離調整装置27は、凸レンズ27aと、該凸レンズ27aの位置を移動させる移動機構(第1移動部)27bと、を含む。移動機構27bは、例えば、ピエゾ素子等のアクチュエータから構成される。移動機構27bは、制御部50により、その駆動が制御される。
【0032】
オートフォーカス光学系20においては、光源29から射出された検出光L1がコリメートレンズ21により平行光に変換された後、偏光ビームスプリッター22、及びλ/4板26を透過し、ダイクロイックミラー25で反射される。ダイクロイックミラー25で反射された検出光L1は、対物レンズ3を介して載置面1a上の加工対象物5の表面に照射される。
【0033】
加工対象物5の表面で反射された反射検出光L1は、ダイクロイックミラー25で反射され、凸レンズ27aを透過してλ/4板26に入射する。ここで、反射検出光L1は、加工対象物5に向かう往路と該加工対象物5で反射された復路とでλ/4板26を2回通過しているため、その偏光方向が90°回転する。そのため、反射検出光L1は、偏光ビームスプリッター22において反射され、凸レンズ23により集光されてシリンドリカルレンズ24に入射する。
【0034】
オートフォーカス光学系20は、シリンドリカルレンズ24を有するため、反射検出光L1に非点収差を生じさせる。
【0035】
図2は、オートフォーカス光学系20が有する非点収差の説明図である。
図2に示されるように、シリンドリカルレンズ24は、円柱を軸方向に沿って半分にした略半円柱状を呈する。シリンドリカルレンズ24は、例えば、X方向のみにレンズ効果を有し、Y方向においてはレンズ効果を有しない。すなわち、反射検出光L1は、シリンドリカルレンズ24を通過する際、X軸方向の焦点位置とY軸方向の焦点位置がずれて非点収差が発生した状態で光検出部28に入射する(
図3参照)。
【0036】
シリンドリカルレンズ24を透過した反射検出光L1は、ビームの形状が光軸上の位置によって縦長楕円、円形、横長楕円の順に変化する。そのため、4分割フォトダイオードからなる光検出部28でビームを受光すると、ビームの形状に応じて各分割領域に入射する光量のバランスが変化する。
【0037】
図3は、光検出部28における反射検出光L1のビームの受光状態を説明するための図であり、
図3(a)はビームが縦長楕円形の場合を示し、
図3(b)はビームが円形の場合を示し、
図3(c)はビームが横長楕円形の場合を示すものである。
【0038】
図3(a)に示されるように、ビームが縦長楕円形の場合、光検出部28における分割領域A及びCの入射光量が大きくなる。また、
図3(b)に示されるように、ビームが円形の場合、光検出部28における分割領域A、B、C、Dの入射光量が等しくなる。また、
図3(c)に示されるように、ビームが横長楕円形の場合、光検出部28における分割領域B及びDの入射光量が大きくなる。
【0039】
光検出部28は、分割領域A、B、C、Dで検出した入射光量を制御部50に送信する。制御部50は、分割領域A及び分割領域Cの入射光量の和と、分割領域B及び分割領域Dの入射光量の和とについて差分を取る演算処理を行う。
【0040】
図3(a)に示したビームが縦長楕円形の場合、上記の差分値は正(0よりも大きい)となる。
図3(b)に示したビームが円形の場合、差分値は0(ゼロ)となる。
図3(c)に示したビームが横長楕円形の場合、差分値は負(0よりも小さい)となる。
【0041】
本実施形態において、オートフォーカス光学系20では、ビーム形状が
図3(b)に示した円形となる場合を基準として加工対象物5の表面に対する対物レンズ3の位置を規定する。すなわち、オートフォーカス光学系20では、上記差分値が0となるように加工対象物5に対する対物レンズ3の位置を規定する。具体的に、制御部50は、上記差分値が0となるように加工対象物5及び対物レンズ3の相対位置を調整する。
【0042】
これにより、対物レンズ3は、加工対象物5の表面を所定距離だけ離間した状態で追従する。また、加工用レーザー光Lは、対物レンズ3を介して加工対象物5に照射される。本実施形態において、対物レンズ3による加工用レーザー光Lの焦点位置は、対物レンズ3による検出光L1の焦点位置と異なる。
【0043】
そのため、対物レンズ3を介した加工用レーザー光Lは、例えば、加工対象物5の内側に所定量だけオフセットされた位置に照射される。すなわち、制御部50は、上記差分値が0となるように対物レンズ3の位置を制御することで加工用レーザー光Lのオフセット量を制御している。
【0044】
このような構成に基づき、加工装置100は、加工対象物5の表面形状に倣うように対物レンズ3を移動させることで加工用レーザー光Lにおける加工対象物5の表面からのオフセット量を一定に保持した状態で加工を行うことができる。
【0045】
本実施形態において、加工装置100は、オートフォーカス光学系20に設けられたオフセット量調整手段を利用することによってオフセット量を調整することが可能である。具体的に加工装置100は、オフセット量調整手段として上記焦点距離調整装置27を有している。
【0046】
以下、オフセット量を調整する方法について説明する。
焦点距離調整装置27は、移動機構27bが凸レンズ27aを移動させることでオートフォーカス光学系20における検出光L1の焦点距離を変化させて後述のようにオフセット量の調整を可能としている。
【0047】
図4は、凸レンズ27aの位置を変化させた場合における差分値と対物レンズ位置(加工対象物5と対物レンズ3との距離)との関係を示すグラフである。
図4は、凸レンズ27aをレンズ位置R3(基準位置)、レンズ位置R1(基準位置から−1.0mm移動)、レンズ位置R2(基準位置から−0.5mm移動)、レンズ位置R4(基準位置から+0.5mm移動)、及びレンズ位置R5(基準位置から+1.0mm移動)のいずれかに移動する場合を示す。
なお、
図4において、縦軸は制御部50が算出した差分値を示し、横軸は対物レンズ位置(単位:μm)を示す。ここで、加工用レーザー光Lのオフセット量は、加工対象物5の表面を追従する対物レンズ3の位置(表面と対物レンズ3との距離)に依存するため、横軸に示される対物レンズ位置はオフセット量とみなされる。
【0048】
凸レンズ27aの位置が移動すると光検出部28に入射する検出光L1の焦点位置にもずれが生じる。これにより、
図2、3に示したように光検出部28により検出されるビームの形状も変化する。したがって、制御部50が算出する差分値のプロットは、
図4に示されるように凸レンズ27aの位置に応じて変化する。
【0049】
そのため、凸レンズ27aがレンズ位置R3のときに差分値が0(ゼロ)となる対物レンズ位置も凸レンズ27aの位置に応じて変化する。例えば、凸レンズ27aをレンズ位置R3からレンズ位置R1に移動した場合、上記差分値が0となる対物レンズ位置は+10μmとなる。また、凸レンズ27aをレンズ位置R3からレンズ位置R5の近くに移動した場合、上記差分値が0となる対物レンズ位置は−10μmとなる。
【0050】
このように、制御部50は、凸レンズ27aの位置が変化することで、上記差分値が0となる対物レンズ位置自体も変化する。よって、制御部50は、凸レンズ27aの位置を変化させることで、オフセット量を規定する対物レンズ位置を変化させることが可能である。
【0051】
制御部50は、予め凸レンズ27aの位置と、差分値が0となる対物レンズ位置との関係をデータとして記憶している。これにより、制御部50は、凸レンズ27aの位置調整に応じて対物レンズ位置の調整が可能である。
【0052】
このような構成に基づき、加工装置100は、凸レンズ27aの位置を調整することでオフセット量を調整し、調整したオフセット量に加工用レーザー光Lを集光(フォーカス)させることが可能である。
【0053】
ここで、加工用レーザー光Lは、凸レンズ27aがレンズ位置R3にある場合、対物レンズ3を介して加工対象物5の内側に所定量(例えば、50μm)だけオフセットした状態で集光されるものとする。以下、このオフセット量を基準オフセット量と称す場合もある。
【0054】
この場合において、例えば、オフセット量を40μmに調整する場合、制御部50は、移動機構27bにより凸レンズ27aをレンズ位置R3からレンズ位置R5に移動する。凸レンズ27aがレンズ位置R5に移動すると、
図4に示したように、制御部50は差分値を0とするように対物レンズ位置を−10μmに設定する。これにより、対物レンズ3は、基準オフセット量(50μm)の場合よりも、加工対象物5から10μm遠ざかるように移動する。
なお、制御部50は、光検出部28から送信される差分値を0(ゼロ)とするようにステージ1の位置を調整しつつ、対物レンズ3を加工対象物5の表面に追従させる。よって、加工装置100は、対物レンズ3を介して加工対象物5の表面から内側に40μmオフセットした位置に加工用レーザー光Lを集光させることができる。すなわち、制御部50は、本発明の特許請求の範囲に記載されている相対位置調整手段に相当する。
【0055】
また、例えば、オフセット量を40〜50μmの範囲で調整する場合、制御部50は、移動機構27bにより凸レンズ27aをレンズ位置R3からレンズ位置R5の間で調整すればよい。これにより、加工装置100は、対物レンズ3を介して加工対象物5の表面から内側に40〜50μmオフセットした位置に加工用レーザー光Lを集光させることができる。
【0056】
また、例えば、オフセット量を60μmに設定する場合、制御部50は、移動機構27bにより凸レンズ27aをレンズ位置R3からレンズ位置R1に移動する。凸レンズ27aがレンズ位置R1に移動すると、
図4に示したように、制御部50は差分値を0とするように対物レンズ位置を+10μmに設定する。これにより、対物レンズ3は、基準オフセット量(50μm)の場合よりも、加工対象物5側に10μm近づくように移動する。
なお、制御部50は、光検出部28から送信される差分値を0(ゼロ)とするようにステージ1の位置を調整しつつ、対物レンズ3を加工対象物5の表面に追従させる。よって、加工装置100は、対物レンズ3を介して加工対象物5の表面から内側に60μmオフセットした位置に加工用レーザー光Lを集光させることができる。
【0057】
また、例えば、オフセット量を50〜60μmの範囲で調整する場合、制御部50は、移動機構27bにより凸レンズ27aをレンズ位置R1〜R3の間で移動すればよい。これにより、加工装置100は、対物レンズ3を介して加工対象物5の表面から内側に50〜60μmオフセットした位置に加工用レーザー光Lを集光させることができる。
【0058】
次に、加工装置100を用いて加工対象物5を切断する場合について説明する。
はじめに、ステージ1に加工対象物5としての例えば厚さ300μmの半導体ウエハが載置される。この加工対象物5は、平面視した状態で略円形を有している。
【0059】
続いて、加工装置100は、ユーザーにより調整されたオフセット量に対応させるように加工対象物5に対する対物レンズ3の位置を調整する。具体的に加工装置100は、対物レンズ3を介した加工用レーザー光Lが加工対象物5の切断予定ラインの開始位置に重なるようにステージ1を駆動し、載置面1a上の加工対象物5と対物レンズ3との位置合わせを行う。
【0060】
例えば、基準オフセット(50μm)から−10μm調整してオフセット量を40μmとする場合、制御部50は、焦点距離調整装置27の移動機構27bを駆動して、
図4に示したように凸レンズ27aをレンズ位置R3からレンズ位置R5に移動させる。オートフォーカス光学系20の光検出部28は、加工対象物5による反射検出光L1を受光する。光検出部28は、検出結果を制御部50に送信する。
【0061】
制御部50は、光検出部28の検出信号を取得し、これら検出信号の差分データ(
図4参照)を演算処理によって算出する。そして、差分値が0(ゼロ)となるように、ステージ1の位置を調整することで加工対象物5に対する対物レンズ3の相対位置を調整する。
以上により、切断予定ラインの開始位置において、対物レンズ3と加工対象物5との位置合わせが終了する。
【0062】
上述では説明の便宜上、差分値が0(ゼロ)となる点で位置調整することとしたが、差分値がゼロでない値(たとえば+0.1)を追従するようにしても、制御可能であり、微小なオフセット量調整が容易に可能となる。
【0063】
続いて、制御部50は、加工用レーザー光源2を駆動させる。加工用レーザー光源2は、加工用レーザー光Lを対物レンズ3に向けて照射する。加工用レーザー光Lは、ダイクロイックミラー25を透過して対物レンズ3に入射し、該対物レンズ3により加工対象物5の所定位置に集光される。具体的に、加工用レーザー光Lは、調整されたオフセット量に対応し、加工対象物5の表面から内側に60μmだけ入り込んだ位置に集光される。加工用レーザー光Lは、加工対象物5の集光位置に上述したような改質領域を形成する。
【0064】
制御部50は、加工用レーザー光Lを加工対象物5に照射した状態のまま、ステージ1を移動させることで加工用レーザー光Lを加工対象物5に対して相対移動させることができる。これにより、加工対象物5には、ステージ1の移動方向に沿って設定された切断予定ラインに沿って改質領域が形成されることとなる。
【0065】
制御部50は、加工用レーザー光Lが切断予定ラインの全域を通過するまでステージ1を移動させる。以上により、加工装置100は、加工用レーザー光Lによるレーザー加工を終了させる。
【0066】
続いて、加工対象物5の分断工程について説明する。
図5は分断装置を用いて加工対象物5を分断する工程を示す図である。
図5(a)に示されるように、分断装置30は、押圧部31と、保持部32とを有する。押圧部31は、加工対象物5よりも大きな略円形状を有し、テープ33に貼りつけられた加工対象物5を支持する。なお、テープ33は加工対象物5と同心状の円形を有している。保持部32は、押圧部31の周囲を囲むように配置されており、円形状のテープ33を周方向の全域に亘って保持する。
【0067】
図5(b)に示されるように、分断装置30は、押圧部31を上方に移動させるとともに、保持部32がテープ33を径方向の外側に向かって引っ張る。これにより、テープ33に貼りつけられた加工対象物5には中心部から放射状に等方的に引張力が付与されることとなる。加工対象物5は、上記加工装置100による加工用レーザー光Lが照射されることで切断予定ライン5Aに対応する内面に改質領域が形成されている。加工対象物5は、引張力が付与されることで改質領域が破断され、
図5(c)に示されるように、複数のチップ部材5aに個片化される。
以上により、加工対象物5を分断(個片化)する工程が終了する。
【0068】
なお、上記説明では、オフセット量の調整幅として、基準オフセット量に対して±10μmで調整する場合を例に挙げたが、これに限定されず、凸レンズ27aの移動幅、凸レンズ27aの光学特性を変化させることで調整するオフセット量を大きくしてもよい。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、加工用レーザー光Lを所定のオフセット位置に集光させるように調整することが可能なオフセット量調整型のオートフォーカス機能を備えた加工装置100を提供することができる。また、光学系を変更することなく、加工用レーザー光Lのオフセット量が調整可能なため、任意のオフセットに応じた加工を行うことができる汎用性に優れた加工装置100を提供できる。
【0070】
(第二実施形態)
続いて、第二実施形態に係る加工装置の構成について説明する。
本実施形態と上記実施形態との違いは、焦点距離調整装置の構造であり、それ以外の構成は共通である。したがって、以下の説明では、上記実施形態と同一の部材及び共通の構成については同じ符号を付し、その構成の説明については省略若しくは簡略化するものとする。
【0071】
図6は第二実施形態に係る加工装置の概略構成を示す図である。
図6に示されるように、本実施形態に係る加工装置200は、レーザー加工部10と、該レーザー加工部10から射出される加工用レーザー光を所定位置に集光させるオートフォーカス光学系120と、制御部50とを備えている。
【0072】
本実施形態に係るオートフォーカス光学系120は、焦点距離調整装置が検出光L1の集光度を変化させることで焦点を可変可能な焦点可変光学素子127から構成されている。
図7(a)乃至(c)は、焦点可変光学素子の構成例を示すものである。
【0073】
図7(a)は、焦点可変光学素子127が液体レンズ128から構成される場合を示すものである。液体レンズ128は、不図示の容器内に封入された水溶液128a及び油128bと、一対の電極128c、128dと、を有する。液体レンズ128は、電極128c、128d間に所定の電圧を印加することで水溶液128aと油128bの境界面の形状を変化させる。これにより、屈折率の異なる2つの液体の接する曲面のカーブの度合いが変化し、レンズ効果を生じさせることができる。
このような構成に基づき、液体レンズ128は、検出光L1の焦点距離を調整することができる。
【0074】
図7(b)は、焦点可変光学素子127が液晶レンズ129から構成される場合を示すものである。液晶レンズ129は、一対の基板129a、129bと、基板129aの内面側に形成された第1透明電極129cと、基板129bの内面側に形成された円形の穴を有する第2透明電極129dと、これら第1透明電極129c、第2透明電極129d間に配置される液晶分子129eと、を有する。
【0075】
液晶レンズ129は、第1透明電極129c、第2透明電極129d間に電圧を印加して、第2透明電極129dの開口が形成された部分と開口が形成されない部分とで液晶分子の配向状態を異ならせる。第2透明電極129dは、開口が形成されていない部分において第1透明電極129cとの間で比較的強い電界が生じて液晶分子の配向状態が大きく変化する。一方、第2透明電極129dは、開口が形成された部分において、第2透明電極129dの開口端の近傍の液晶分子の配向状態のみが僅かに変化する。
【0076】
これにより、
図7(b)に示されるように、第2透明電極129dに形成された円形の穴を透過して外部に出射される検査光の光は、穴の中心部分では屈折率が変化せずに穴の端部近傍のみで屈折率が変化する。これにより、液晶レンズ129は、レンズ効果を生じさせることで検出光L1の焦点距離を調整することが可能となる。
【0077】
図7(c)は、焦点可変光学素子127が電気光学効果を利用した可変焦点レンズ130から構成される場合を示すものである。可変焦点レンズ130は、電気光学層130aと、電気光学層130aの一方面側に配置される正極130bと、電気光学層130aの他方面側に配置される負極130cと、を備える。電気光学層130aは、例えば、タン
タル酸ニオブ酸カリウムから構成され、ペロブスカイト型の結晶構造を持つ酸化物である。
【0078】
焦点可変光学素子127は、正極130b及び負極130c間に電圧を印加すると、電極間外に電界が染み出す。これにより、
図7(c)に示されるように、正極130b側から負極130c側に出射された光は、電極間外に染み出した電界によって屈折率が変化する。よって、焦点可変光学素子127は、レンズ効果を生じさせることで検出光L1の焦点距離を調整することが可能となる。
【0079】
以上述べたように、本実施形態においても、オートフォーカス光学系120が焦点可変光学素子127を備えるので、検出光L1の焦点距離を変化させることで、第1実施形態と同様、加工用レーザー光Lの集光位置におけるオフセット量を調整することができる。
【0080】
(第三実施形態)
続いて、第三実施形態に係る加工装置の構成について説明する。
上記実施形態ではオフセット量を調整する手段としてオートフォーカス光学系において検出光L1の焦点距離を調整する場合を例に挙げたが、本実施形態では検出光L1の光路長を調整する点が異なり、それ以外の構成は共通である。したがって、以下の説明では、上記実施形態と同一の部材及び共通の構成については同じ符号を付し、その構成の説明については省略若しくは簡略化するものとする。
【0081】
図8は第三実施形態に係る加工装置の概略構成を示す図である。
図8に示されるように、本実施形態に係る加工装置300は、レーザー加工部10と、該レーザー加工部10から射出される加工用レーザー光を所定位置に集光させるオートフォーカス光学系220と、制御部50とを備えている。
【0082】
本実施形態に係るオートフォーカス光学系220は、光源29と、コリメートレンズ21と、偏光ビームスプリッター22と、凸レンズ23と、シリンドリカルレンズ24と、光検出部28と、λ/4板26と、光路長調整装置227と、ダイクロイックミラー25とを有する。光路長調整装置227は、ミラー228、229と、光学部材230と、該光学部材230の位置を移動させる移動機構(第2移動部)231と、を含む。移動機構231は、例えば、ピエゾ素子等のアクチュエータから構成される。移動機構231は、制御部50により、その駆動が制御される。光学部材230は、一対のミラー230a、230bを含む。ミラー230a、230bは、フレーム部材230cによって一体に保持されている。フレーム部材230cは、移動機構231によりミラー228、229に対して
図8中における上下方向に移動する。
【0083】
オートフォーカス光学系220においては、光源29から射出された検出光L1がコリメートレンズ21により平行光に変換された後、偏光ビームスプリッター22、及びλ/4板26を透過し、ミラー228、230a、230b、229の順に反射された後、ダイクロイックミラー25によって対物レンズ3に向けて反射される。ダイクロイックミラー25で反射された検出光L1は、対物レンズ3を介して載置面1a上の加工対象物5の表面に照射される。
【0084】
加工対象物5の表面で反射された反射検出光L1は、ダイクロイックミラー25で反射された後、ミラー229、230b、230a、228の順に反射されてλ/4板26に入射する。ここで、反射検出光L1は、λ/4板26を往復することにより、その偏光方向が90°回転する。そのため、反射検出光L1は、偏光ビームスプリッター22において反射され、凸レンズ23により集光されてシリンドリカルレンズ24に入射する。
【0085】
本実施形態においては、光路長調整装置227が移動機構231によってミラー228、229を上下方向に移動すると、ミラー228、230a間の距離及びミラー229、230b間の距離が変化する。すなわち、光路長調整装置227は、オートフォーカス光学系220において検出光L1の光路長を変化させることができる。
【0086】
光路長調整装置227は、検出光L1の光路長を変化させることで検出光L1の焦点距離を変化させる。このように、本実施形態のように光路長を変化させる手法であっても、結果的に、検出光L1における焦点距離を変化させることが可能である。そのため、第一、第二実施形態において検出光L1の焦点距離を変化させた場合と同様に、オフセット量の調整が可能である。なお、光路長調整装置227の光学部材230の位置を変化させた場合における差分値と対物レンズ位置との関係については
図4を用いて説明した場合を同様のことが言えることから説明を省略する。
【0087】
このように本実施形態に係る加工装置300によれば、オートフォーカス光学系220が検出光L1の光路長を調整して該検出光L1の焦点距離を変化させるので、凸レンズ27aの位置を調整する場合と同様、加工用レーザー光Lの集光位置におけるオフセット量を調整することができる。
【0088】
(第四実施形態)
続いて、第四実施形態に係る加工装置の構成について説明する。
本実施形態と上記第三実施形態との違いは、光路長調整装置の構成であり、それ以外の構成は共通である。したがって、以下の説明では、上記実施形態と同一の部材及び共通の構成については同じ符号を付し、その構成の説明については省略若しくは簡略化するものとする。
【0089】
図9は第四実施形態に係る加工装置の概略構成を示す図である。
図9に示されるように、本実施形態に係る加工装置400は、レーザー加工部10と、該レーザー加工部10から射出される加工用レーザー光を所定位置に集光させるオートフォーカス光学系320と、制御部50とを備えている。
【0090】
本実施形態に係るオートフォーカス光学系320は、光路長調整装置として、光検出部28の位置を移動させる移動機構(第3移動部)327を備えている。移動機構327は、例えば、ピエゾ素子等のアクチュエータから構成される。移動機構327は、制御部50により、その駆動が制御される。本実施形態において、オートフォーカス光学系320は、λ/4板26およびダイクロイックミラー25間における光路上に凸レンズ27aが配置されている。本実施形態において、凸レンズ27aは位置が固定されており、検出光L1の焦点距離を変化させることはない。
【0091】
本実施形態においては、移動機構327が光検出部28を直接移動させることによって、オートフォーカス光学系220において光検出部28に入射する反射検出光L1における光路長を調整する(変化させる)ことができる。このように検出光L1の光路長を調整すれば、上述のように検出光L1における焦点距離を変化させることが可能である。
【0092】
以上述べたように本実施形態に係る加工装置400によれば、光検出部28自体を移動することで検出光L1の焦点距離を変化させることができるので、第一実施形態のように凸レンズ27aの位置を調整する場合と同様、加工用レーザー光Lのオフセット量を調整することができる。
【0093】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、上記第一実施形態では、凸レンズ27aの位置を移動することで検出光L1の焦点位置を移動させる場合を例に挙げたが、これに限定されず、シリンドリカルレンズ24と偏光ビームスプリッター22との間に配置された凸レンズ23の位置を調整することで検出光L1の焦点位置を変化させても良い。
【0094】
また、上記実施形態は、半導体ウエハからなる加工対象物5に溶融処理領域を含む改質領域を形成したが、ガラスや圧電材料等、他の材料からなる加工対象物の内部に、クラック領域や屈折率変化領域等、他の改質領域を形成してもよい。
また、上記実施形態では、オートフォーカス光学系20,120の光軸を加工用レーザー光Lの光軸と同軸にして出射する場合を例に挙げたが、非同軸にして出射する構成を採用してもよい。