特開2015-25198(P2015-25198A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-25198無電解めっき用触媒、これを用いた金属皮膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-25198(P2015-25198A)
(43)【公開日】2015年2月5日
(54)【発明の名称】無電解めっき用触媒、これを用いた金属皮膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/30 20060101AFI20150109BHJP
   B01J 31/06 20060101ALI20150109BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20150109BHJP
【FI】
   C23C18/30
   B01J31/06 M
   B01J37/02 301N
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-115146(P2014-115146)
(22)【出願日】2014年6月3日
(11)【特許番号】特許第5648232号(P5648232)
(45)【特許公報発行日】2015年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-131013(P2013-131013)
(32)【優先日】2013年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】深澤 憲正
(72)【発明者】
【氏名】新林 昭太
(72)【発明者】
【氏名】関根 信博
(72)【発明者】
【氏名】佐野 義之
(72)【発明者】
【氏名】森脇 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】河村 香
(72)【発明者】
【氏名】大塚 邦顕
(72)【発明者】
【氏名】姜 俊行
(72)【発明者】
【氏名】森口 朋
【テーマコード(参考)】
4G169
4K022
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169DA05
4G169FA01
4G169FB21
4K022AA04
4K022AA18
4K022AA42
4K022BA08
4K022CA02
4K022CA03
4K022CA04
4K022CA06
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】少ない工程数で、有用な被めっき物に対して、一般的なカチオン化表面処理を施した後、単純な浸漬操作のみで充分な吸着量を示し、かつ触媒活性を発現する、安定性に優れた無電解めっき用触媒、及び、当該無電解めっき用触媒を用いた金属皮膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基及びスルフェン酸基からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する単量体混合物を重合してなる化合物と、金属ナノ粒子との複合体である無電解めっき用触媒、ならびに、前記無電解めっき用触媒を用いて得られる金属皮膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基及びスルフェン酸基からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する単量体混合物(I)を重合してなる化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)との複合体であることを特徴とする無電解めっき用触媒。
【請求項2】
前記単量体混合物(I)が、更に、エチレングリコールの平均ユニット数が20以上のポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する請求項1に記載の無電解めっき用触媒。
【請求項3】
前記化合物(X)の質量平均分子量が3,000〜20,000の範囲である請求項1又は2に記載の無電解めっき用触媒。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子(Y)の金属種が、銀、銅又はパラジウムである請求項1〜3の何れか1項に記載の無電解めっき用触媒。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子(Y)の透過型電子顕微鏡写真から求められる平均粒子径が0.5〜100nmの範囲である請求項1〜4の何れか1項に記載の無電解めっき用触媒。
【請求項6】
前記単量体混合物(I)が、(メタ)アクリル酸、リン酸基含有(メタ)アクリル酸及びスルホン酸基含有(メタ)アクリル酸からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する請求項1〜5の何れか1項に記載の無電解めっき用触媒。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の無電解めっき用触媒を用いて無電解めっきを行って得られたものであることを特徴とする金属皮膜。
【請求項8】
無電解めっき金属皮膜を製造する方法であって、
カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基及びスルフェン酸基からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する単量体混合物(I)を重合してなる化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)との複合体を触媒とし、(1)被めっき物表面をカチオン性処理剤(a)で処理する工程、(2)前記工程(1)後の処理被めっき物を、前記触媒を水性溶媒に分散させた無電解めっき用触媒液に浸漬し、当該処理被めっき物表面上に前記化合物(X)と前記金属ナノ粒子(Y)との複合体を吸着させる工程、及び(3)前記工程(2)で得られた複合体吸着被めっき物を、無電解めっき用の金属イオン液(b)に浸漬する工程、を有することを特徴とする金属皮膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性化合物で保護された金属ナノ粒子を用いる無電解めっき金属皮膜の製造方法と、当該製造方法に好適に用いられる無電解めっき用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき用触媒としては種々の貴金属が用いられており、その中でもパラジウムが最も広く用いられているが、被めっき物にこのような貴金属触媒を付着させる方法としては、以下2つの方法が主として用いられている。
【0003】
(1)被めっき物をセンシタイザー溶液(塩化パラジウムの塩酸溶液)に浸漬した後、被めっき物上でパラジウム塩を還元してパラジウムコロイド付着体を得る方法(センシターザー−アクチベーター法)。
(2)スズ−パラジウム混合コロイド溶液に浸漬して、被めっき物にコロイドを付着させた後、硫酸などの酸性溶液からなるアクセレーター溶液に浸漬して、過剰のスズイオンを溶解させ、触媒活性を発現させる方法(キャタリスト−アクセラレーター法)。
【0004】
すなわち、始めに触媒金属化合物を被めっき物表面に付着させ、続いて触媒効果を発現する還元金属微粒子へと転換する方法が一般的であるが、これらの方法は、二段階(付与と活性化)の工程を経る必要があり、非常に煩雑な方法である上に、工程数が増えることにより、プロセスコストが大きくなるという欠点がある。
【0005】
これに対し、還元操作を必要としない、予め調製した金属ナノ粒子(又は金属コロイド)を被めっき物に付与してめっき触媒として使用する方法も古くから開発されており、パラジウムコロイドの他、銀コロイドや銀ナノ粒子、銅ナノ粒子のような経済的な金属種を用いたものも提案されている(例えば、特許文献1〜4及び非特許文献1、2参照。)。しかしながら、浴安定性や充分な触媒付着量が得られない等の理由から、積層電子回路基板のように、高い信頼性が求められ、銅めっき膜とプラスチック基材間、及び銅箔間の接着強度が要求され、かつ、微細な孔部や間隙への均一析出性が問題となるような用途には対応できておらず、専ら前述のような煩雑な二段階工程を経るめっき手法が使用されているのが現状である。
【0006】
電子回路形成等の用途においては、ガラスやプラスチック基材は被めっき物として極めて重要で産業上の利用価値も高いが、これらの基材を前記の触媒液に浸漬するだけでは、当該基材上に充分な量の触媒は付着しない。そこで、被めっき物には何らかの表面前処理が必須となっている。このような前処理としては、アニオン性又はカチオン性の化合物を被めっき物表面に付与する方法がある。これは被めっき物表面に電荷を付与することで、触媒金属イオン、もしくは帯電した触媒粒子を静電気的に吸着させようとするものである。一般的には、カチオン性化合物がガラスやプラスチック表面に吸着しやすく、また、付着安定性もあるので、めっき薬品中で除去されにくい。そのため、カチオン性化合物による前処理が有利で好まれている(例えば、特許文献5及び非特許文献2参照。)。
【0007】
特許文献5及び非特許文献2には、カチオン性高分子で処理した被めっき物表面に対して、Sn−Ag還元法により調製した銀コロイド粒子触媒を付与させる方法が述べられている。この方法で調製された銀コロイド粒子には酸化スズ系化合物が含まれており、触媒粒子と、触媒能のないスズ化合物が、被めっき物上に競争的に吸着するため、ABS樹脂、エポキシ樹脂、ガラス、セラミックスなどの被めっき物表面に、充分な触媒量を均一に吸着させることが困難で、工業的に使用した場合には、めっき不良、密着不良の原因になりやすいという欠点があった。
【0008】
また、スズ化合物を用いたコロイド触媒系では、電解めっき工程前にスズ除去工程が必要で、工程が煩雑となるうえ、除去工程を経ても、スズ化合物由来の塩素イオンなどの夾雑物が残留するため、金属ウィスカーの形成や電子回路形成後のイオンマイグレーションなど、電子回路の信頼性を損ねる懸念が払拭できないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−227175号公報
【特許文献2】特開昭62−207877号公報
【特許文献3】特開昭64−68478号公報
【特許文献4】特開平10−229280号公報
【特許文献5】特開2005−82879号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A.Vaskelis et al.,Electrochim.Acta 2005,50,4586.
【非特許文献2】Ohno et al.,J. Electrochem. Soc. 1985,132,2323.
【非特許文献3】高橋ら,表面技術 2007,58(12),841.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような技術背景に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、二段階工程を経ず、少ない工程数で、ガラス、プラスチックなどの有用な被めっき物に対して、一般的なカチオン化表面処理を施した後、単純な浸漬操作のみで充分な吸着量を示し、かつ触媒活性を発現する、安定性に優れた無電解めっき用触媒を提供することである。更に、当該無電解めっき用触媒を用いることにより、微小部分へのめっき付き回り性、析出金属膜上への密着性に優れるため、積層電子回路基板の層間接続部(スルーホール、ビアホール)への金属皮膜形成に好適に用いることができる金属皮膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のアニオン性官能基を有する化合物と金属ナノ粒子との複合体を、無電解めっき用触媒として用いることで、従来、一般的に用いられている二段階の工程を経る必要がないため、工程数を減らすことができ、めっき触媒液として安定で、かつ、被めっき物に対して充分な触媒を付与でき、良好な析出金属皮膜を形成できることを見出した。更に、当該特定の複合体を触媒として用いることにより、被めっき物は一般的なカチオン化法で処理すればよく、積層電子回路基板のスルーホール、ビアホールへのめっき付き回り、絶縁材料や銅配線に対するめっき膜の密着性も充分に確保されることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基及びスルフェン酸基からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する単量体混合物(I)を重合してなる化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)との複合体であることを特徴とする無電解めっき用触媒、及びこれを用いる無電解めっき法を用いた金属皮膜の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の無電解めっき用触媒は、アニオン性官能基を有する化合物と、金属ナノ粒子の複合体であり、これを水性溶媒に分散した触媒液として好適に用いることができる。この様な特定構造のアニオン性化合物と金属ナノ粒子の複合体を用いることにより、複合体が有する電荷と立体反発基の効果により、これを分散した触媒液は、凝集沈殿することなく、加温状態においても分散安定性に優れる。これにより、建浴後の触媒能の保持性も極めて良好でプロセス管理も簡便であり、かつ、一般的なカチオン性処理剤で前処理した被めっき物表面に充分な吸着性(触媒付与効果)を示す。
【0015】
また、本発明の無電解めっき用触媒である複合体は、遠心分離や限外濾過のような既知の精製法によって夾雑イオンを除去できるので、電子回路基板製造のような信頼性が求められるめっき触媒の用途にも好適に用いることができる。
【0016】
更に、本発明の無電解めっき用触媒を用いて得られる金属皮膜は、従来のパラジウム系触媒で得られるめっき皮膜に比べて遜色がない。また、銀、もしくは銅ナノ粒子の複合体を触媒として用いた場合、パラジウムに比べて極めて安価で、価格変動リスクも少ないため、より高い経済性が期待できる。
【0017】
更にまた、本発明の無電解めっき用触媒、及び金属皮膜の製造方法を用いることで、従来用いられている無電解めっき工程から、工程数を減じることができ、プロセスコストを大きく低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例2において、ビアホール形成したビルドアップ基板に、触媒液−4を用いてめっき処理を行った基材の断面SEM写真である[(a)倍率1000倍、(b)倍率5000倍]。
図2】実施例2において、ビアホール形成したビルドアップ基板に、比較例1で用いたSn−Pd触媒液を用いてめっき処理を行った基材の断面SEM写真である[(a)倍率1000倍、(b)倍率5000倍]。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔無電解めっき用触媒:化合物(X)と金属ナノ粒子の複合体(Y)との複合体〕
<化合物(X)>
本発明で用いる無電解めっき用触媒は、カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基及びスルフェン酸基からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、すなわちアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する重合性単量体を含有する単量体混合物(I)を重合してなる化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)との複合体であり、それを水系溶媒に分散した触媒液として用いることができる。
【0020】
前記カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基は、ヘテロ原子が有する非共有電子対を介して金属ナノ粒子(Y)に吸着する機能を有すると同時に、金属ナノ粒子(Y)表面に負の電荷を付与するので、粒子間の電荷反発によりコロイド粒子の凝集を防ぐことができ、水系溶媒中で化合物(X)と金属ナノ粒子(Y)との複合体を安定的に分散させることが可能である。
【0021】
本発明で用いる化合物(X)に、前記アニオン性官能基を導入する方法としては、これらの官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を必須とする単量体混合物(I)を重合させる方法であればよく、特に(メタ)アクリル酸系単量体からなる単量体混合物を重合させることが好ましい。
【0022】
例えば、カルボキシ基を導入した化合物(X)は、(メタ)アクリル酸の単独重合、又はその他の(メタ)アクリル酸系単量体との混合物を種々の方法で共重合させることで容易に得ることができる。同様に、リン酸基、亜リン酸基を導入した化合物(X)は、リン酸基含有(メタ)アクリル酸系単量体を必須とし、これの単独重合、あるいは、その他の単量体との混合物を調製してこれを共重合させることによって容易に得ることができる。更に、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基を化合物(X)に導入する場合も同様であり、スルホン酸基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する単量体類を重合すればよい。
【0023】
化合物(X)は、単独重合体であっても共重合体であってもよく、特に前述のアニオン性官能基を複数種有する共重合体であってもよい。共重合形式には特に限定されるものではなく、ランダム、あるいはブロックのいずれであっても好ましく用いることができる。また、異なるアニオン性官能基を有する2種類以上の化合物(X)を混合して使用してもよい。
【0024】
前記化合物(X)中における、前記特定のアニオン性官能基の導入量としては特に限定されるものではないが、金属ナノ粒子(Y)への吸着と分散体としたときの安定性の観点より、1分子中に3個以上で含まれることが好ましい。
【0025】
化合物(X)の質量平均分子量としては、特に限定されるものではないが、前述のように、金属ナノ粒子(Y)との複合体として、無電解めっき触媒の効果(基板への吸着、分散液としたときの分散安定性等)の観点より、3,000〜20,000が好ましく、4,000〜8,000がより好ましい。
【0026】
また、前記化合物(X)分子中に、媒体中で適当な体積をもって広がることで分散安定化を発現させるポリエチレングリコール鎖、ポリアルキレン鎖等を組み入れると、電荷による斥力発現と同時に、立体反発効果によるコロイド保護作用を利用することができるため、好ましい。
【0027】
この例としては、前記単量体混合物(I)にポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有させ、前述の(メタ)アクリル酸、リン酸基を有する(メタ)アクリル酸、スルホン酸基を有する(メタ)アクリル酸等と共重合させることで容易に得ることができる。
【0028】
特にエチレングリコールの平均ユニット数が20以上のポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体を用いて重合させてなる化合物であるアニオン性官能基を有する化合物(X)は、貴金属、特に銀、銅のナノ粒子を安定化する能力が高く、好適な保護剤となり、好ましいものである。このようなアニオン性官能基とポリエチレングリコール鎖とを有する化合物の合成等は例えば、特許第4697356号公報や特開2010−209421号公報等を参照することで、容易に得ることができる。
【0029】
前記のエチレングリコールの平均ユニット数が20以上のポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体の質量平均分子量としては、1,000〜2,000が好ましい。質量平均分子量がこの範囲であると、金属ナノ粒子(Y)との複合体の水分散性がより良好となる。質量平均分子量が2,000を超えるものについては、現状市販品が少ないため、安価な原料入手が難しくなっている。
【0030】
例えば、市販されている2−メタクリロイルオキシホスフェート(例えば、共栄社化学製「ライトエステルP−1M」)、と市販のポリエチレングリコール鎖を有するメタクリル酸エステルモノマー(例えば、日油製「ブレンマーPME−1000」)を任意の重合開始剤(例えば、油溶性アゾ重合開始剤「V−59」)で共重合させることにより、得ることができる。
【0031】
この時、リン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーの質量分率を単量体混合物(I)に対して30%未満とすると、金属ナノ粒子(Y)の保護に関与しないポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体の単独重合体等の副生成物の発生を抑制し、得られる化合物(X)による分散安定性が向上する。
【0032】
前記単量体混合物(I)は、アニオン性基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体以外の第3の重合性モノマーを含んでいてもよい。このとき第3の重合性モノマーが疎水性モノマーである場合の質量分率は、良好な水分散性を担保するため、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体に対して20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。第3の重合性モノマーが疎水性モノマーでない場合はこの範囲に限定しない。
【0033】
前述のように、化合物(X)の質量平均分子量は3,000〜20,000の範囲であることが好ましいが、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体を併用した場合、重合反応により得られる化合物(X)は、分子量分布を有することになる。質量平均分子量の小さいもの程、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体由来構造を含まないものであることから、金属ナノ粒子(Y)との複合体を水性媒体に分散する場合の分散安定性には寄与しないことになるので、この観点からは、化合物(X)の質量平均分子量は4,000以上であることがより好ましくなる。逆に質量平均分子量が大きくなると、金属ナノ粒子(Y)との複合体の粗大化が起こりやすく、触媒液中に沈殿を生じやすくなる観点から、化合物(X)の質量平均分子量は8,000以下であることがより好ましい。
【0034】
前記化合物(X)の質量平均分子量を上記の範囲内に調整するためには、公知文献、例えば特開2010−209421号公報等に記載の連鎖移動剤を用いてもよく、連鎖移動剤を使用せずに重合条件によって制御してもよい。
【0035】
被めっき物表面がカチオン性であると、この様なアニオン性官能基を有する化合物(X)と複合した金属ナノ粒子(Y)は、被めっき物表面に効果的に吸着でき、その溶液に浸漬するだけで被めっき物表面に触媒を高濃度に吸着させることが可能となる。また、被めっき物の形状によらず、微小な凹部、貫通/非貫通孔部にも、当該触媒を均一に吸着させることができ、これにより、付き回り性が良好なめっき析出を可能とするものである。
【0036】
この様に、本発明の無電解めっき触媒は、前記化合物(X)に含まれるアニオン性官能基による静電相互によって、カチオン性の被めっき物表面上に吸着されるが、ポリエチレングリコール鎖やポリアルキレン鎖を組み入れた化合物(X)の場合は、更に、これらの鎖による立体反発効果によって、液中だけでなく、被めっき物上での凝集も抑制することができるため、より均一なめっき皮膜を形成することができる。
【0037】
<金属ナノ粒子(Y)>
前述のように、本発明の無電解めっき用触媒は、前記の化合物(X)をコロイド保護剤として製造した、銀、銅、パラジウム等の金属ナノ粒子(Y)との複合体である。
【0038】
前記化合物(X)を水性媒体に溶解又は分散させた後、ここに金属化合物、例えば硝酸銀、酢酸銅、硝酸パラジウム等を添加し、必要に応じて錯化剤を併用して均一な分散体とした後、或いは錯化剤と同時に還元剤を混合することによって、これらの金属化合物を還元し、還元された金属がナノサイズ粒子(ナノメートルオーダーの大きさを有する微粒子)となると同時に前記化合物(X)と複合した金属ナノ粒子(Y)の水性分散体を得ることができる。
【0039】
本発明においては、この様な方法で得られた金属ナノ粒子(Y)を含む複合体の水性分散体を、そのまま無電解めっき用触媒液として用いてもよく、或いは、余剰の錯化剤、還元剤、又は原料として用いた金属化合物に含まれた対イオン等を限外ろ過法や沈殿法、遠心分離、減圧蒸留、減圧乾燥等の各種精製法を単独或いは2種以上を組み合わせて行う精製工程を経たものや、これを更に濃度(不揮発分)や水性媒体を変更して新たに分散体として調製し直したものなどを用いてもよい。電子回路形成など、実装用途の目的で用いる場合には、前記の精製工程を経た水性媒体を用いることが好ましい。
【0040】
前記の金属ナノ粒子(Y)が化合物(X)で保護されてなる複合体は、前述の化合物(X)と、平均粒子径が好ましくは0.5〜100nmの範囲にある金属ナノ粒子(Y)とを成分とするものである。
【0041】
この金属ナノ粒子(Y)は、その大きさを透過型電子顕微鏡写真によって見積もることが可能であって、その100個の平均値が0.5〜100nmの範囲であるものは、例えば、前述の特許第4697356号公報や特開2010−209421号公報等の方法に従うことによって容易に得ることができる。このようにして得られる金属ナノ粒子(Y)は、前記化合物(X)で保護されて1個ずつが独立して存在し、室温下では融着せず安定に存在し得る。本発明においては、より緻密で均一な金属被覆基板が得られる観点から、その平均粒子径が0.5〜50nmであるものを無電解めっき用触媒として用いることが好ましい。
【0042】
金属ナノ粒子(Y)の粒子径は、金属化合物の種類、コロイド保護剤となる前記化合物(X)の分子量や、化学構造、その使用割合、錯化剤や還元剤の種類やその使用量、還元反応時における温度等によって容易に制御可能であり、これらについては、前述の特許文献等における実施例を参照すればよい。
【0043】
金属ナノ粒子(Y)の金属種としては、無電解めっき工程における触媒として機能できるものであればよく、特に限定されるものではないが、触媒機能、複合体の水系媒体中における安定性の観点からは、銀、銅、パラジウムであることが好ましく、めっき工程の後に金属皮膜と一体化して導電性を有効に発現させる観点からは、銀、銅の単独からなるものや、銀コア銅シェル粒子、銅シェル銀コア粒子であることが好ましく、銀単独からなるものが経済性の観点から最も好ましい。銀ナノ粒子である場合には、その平均粒子径が5〜50nmの範囲であるものが、触媒としては最も好ましい。
【0044】
また、前記化合物(X)と金属ナノ粒子(Y)との複合体における、前記化合物(X)の含有比率としては、複合体中に1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%である。即ち、複合体においては、その質量の大部分を金属ナノ粒子(Y)が占めるものであることが、後のめっき工程における、均一、かつ安定なめっき金属皮膜形成に適している。
【0045】
前記複合体は、水性媒体、即ち水や水と相溶可能な有機溶剤との混合溶剤中において、0.001〜70質量%程度の範囲で分散することが可能であり、室温(〜25℃)において、数ヶ月程度は凝集することが無く、安定に保存できる。
【0046】
<無電解めっき用触媒液>
本発明の無電解めっき用触媒は、前記複合体を水性媒体中に分散させた触媒液として用いられ得る。被めっき物への吸着量を確保し、且つめっき皮膜の被めっき物との密着性を良好にする点から、無電解めっき用触媒の濃度(不揮発分濃度)が0.05〜5g/Lの範囲であることが好ましく、特に経済性を加味すると、その濃度が0.1〜2g/Lの範囲に調整することがより好ましく、0.2〜2g/Lの範囲に調整することが特に好ましい。
【0047】
無電解めっき用触媒液に用いられる水性媒体としては、水単独、及び水と相溶可能な有機溶剤との混合溶媒を好適に用いることができる。この、水と相溶可能な有機溶媒としては、複合体の分散安定性を損なわず、被めっき物が不要な損傷を受けないものであれば、特に制限無く選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンから選ばれる1種、もしくは複数種の混合液を、目的に応じて適宜選択して使用することができる。
【0048】
無電解めっき用触媒液に用いる水性媒体において、水と混合される、水と相溶可能な有機溶媒の混合割合は、複合体の分散安定性の観点から、50質量%以下であることが好ましく、めっき工程での利便性の観点から、30質量%以下であることが、より好ましい。
【0049】
〔被めっき物(無電解めっき用基材)〕
本発明の無電解めっき用触媒の分散液(無電解めっき用触媒液)を用いてめっき処理を施すことができる被めっき物は、前述の複合体を吸着させ得る基材であればよく、特に限定されるものではない。例えば、素材としては、ガラス繊維強化エポキシ、エポキシ系絶縁材、ポリイミド、PET等のプラスチック類、ガラス、セラミック、金属酸化物、金属、紙、合成又は天然繊維などの材質を1種又は複数種を組み合わせてなるものであり、その形状としては、板状、フィルム状、布状、繊維状、チューブ状等のいずれであってもよい。特に、吸着させる複合体を水性分散体として用いる場合には、被めっき物としては、水にぬれる傾向を示す、即ち、被めっき物表面の水接触角が75°以下であることが望ましい。また、水にぬれにくい材質からなるものであっても、それを表面処理、例えば、プラズマ照射、コロナ放電、紫外線照射、オゾン処理、エッチングなどを施すか、酸、もしくはアルカリ処理により、表面に親水性を付与することが可能なものであれば、好適に用いることができる。表面処理の方法は、前記の種々の処理方法の1種類、もしくは複数の処理方法を適用することができる。
【0050】
本発明の無電解めっき用触媒の分散液を用いると、被めっき物上に、均一な金属皮膜を容易に得ることができるため、特に電子材料用途のめっきに適しており、回路基板用樹脂基材、銅張回路基板、エポキシ系絶縁材、又はセラミック基材を、被めっき物として、特に好適に用いることができる。
【0051】
複合体の水性分散体を無電解めっき用触媒として用いる際には、被めっき物を、そのまま、或いは水洗して、更には乾燥した後のいずれかを、当該水性分散体で処理することにより、容易に被めっき物に触媒機能を有する金属ナノ粒子を吸着させることができる。
【0052】
〔無電解めっき法による金属皮膜の作製工程〕
本発明の無電解めっき用触媒を用いた金属皮膜の製造方法は、従来のパラジウム触媒を用いて行なう無電解めっき金属皮膜作製工程において、パラジウム触媒を、前記の化合物(X)と金属ナノ粒子(Y)からなる複合体に変更した方法であり、本発明の無電解めっき用触媒の触媒効果を得るために適した無電解めっき工程である。
【0053】
即ち、本発明の金属皮膜の製造方法は、
(1)被めっき物表面をカチオン性処理剤(a)で処理する工程、
(2)前記工程(1)後の処理被めっき物を、前記触媒を水性溶媒に分散させた無電解めっき用触媒液に浸漬し、当該処理被めっき物表面上に化合物(X)と金属ナノ粒子(Y)との複合体を吸着させる工程、
(3)前記工程(2)で得られた複合体吸着被めっき物を無電解めっき用の金属イオン液(b)に浸漬する工程
を有することを特徴とする。
【0054】
〔工程(1)(被めっき物表面のカチオン化処理)〕
本発明の製造方法では、工程(1)において、被めっき物表面をカチオン性処理剤(a)で処理するが、必要に応じて、工程(1)の前に、被めっき物基材表面に付着している物質の除去、被めっき物表面の親水化を目的とする、各種の脱脂工程やエッチング工程を入れることができる。
【0055】
本発明の製造方法における、工程(1)において、被めっき物のカチオン化処理に用いられるカチオン性処理剤(a)は、カチオン性の化合物を含有する組成物であり、種々のカチオン性界面活性剤、或いはカチオン性の官能基(アミノ基やアンモニウム塩)を有する化合物を水性媒体に溶解又は分散させたものを用いることができる。
【0056】
前記カチオン性の化合物としては、例えば、モノアルキルアミン塩(酢酸塩)等の高級アルキルモノアミン塩、N−アルキルプロピレンジアミンジオレイン塩等のアルキルジアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩(クロライド)等の4級アンモニウム塩等(アルキル基中の炭素数は6〜32、好ましくは8〜24程度)として市販されているカチオン性界面活性剤や、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩(塩酸、硫酸)、ポリアリルアミン塩ジアリルアミン塩コポリマー、ポリアニリン等のカチオン性ポリマー(質量平均分子量として1,000〜100,000程度、好ましくは5000〜20,000)を好適に使用することができる。
【0057】
前記カチオン性処理剤(a)は、通常、前記のカチオン性の化合物を、0.01〜50g/Lの範囲で水性媒体中に溶解、もしくは分散したものを用いることができ、0.1〜20g/Lであることがより好ましい。この範囲で均一に溶解、もしくは分散しにくい化合物を用いる場合には、水と相溶する有機溶剤を併用してもよい。
【0058】
前記カチオン性処理剤(a)には、pH緩衝剤として、ほう酸、リン酸、塩化アンモニウム、アンモニア、炭酸、酢酸等を使用することができる。pH緩衝剤の使用量は、1〜50g/Lが好ましく、1〜20g/Lがより好ましい。
【0059】
前記工程(1)において、被めっき物表面をカチオン性処理剤(a)で処理する方法としては、特に限定されるものではなく、被めっき物をカチオン性処理剤(a)に浸漬してもよく、被めっき物表面にカチオン性処理剤(a)を塗布してもよいが、積層電子回路基板の層間接続部(スルーホール、ビアホール)など、特に微小な部分へのめっき処理が必要な場合には、カチオン性処理剤(a)に浸漬する方法で処理を行なう方法が最も簡便であり、好ましい。その条件については特に限定されないが、通常、カチオン化処理剤(a)の温度を10〜80℃程度、好ましくは20〜50℃として、これに被めっき物を浸漬する。浸漬時間については、1〜20分間程度が好ましく、2〜10分間の範囲であることがより好ましい。
【0060】
この様なカチオン化処理剤(a)での処理は、一般的に被めっき物表面が酸性サイドのものが多いこと、被めっき物に対するカチオン化処理が、その後の水洗、ソフトエッチング等を含むめっきプロセス中、効果を維持しやすいことに由来しており、アニオン化処理に比べて、プロセスの簡便さとめっき金属皮膜形成の安定性を与えるものである。
【0061】
〔工程(2)触媒付与工程(めっき触媒を付与する方法)〕
前記カチオン性処理剤(a)による処理がなされた被めっき物(処理被めっき物)の表面上に、無電解めっき用触媒である金属ナノ粒子を含有する複合体を付与する方法としては特に限定されるものではなく、例えば、触媒液に浸漬する方法、触媒液を処理被めっき物に塗布する方法等を適用できるが、処理被めっき物が微小な構造を有する場合、例えば、積層電子回路基板の層間接続部(スルーホール、ビアホール)など、特に微小な部分へのめっき処理が必要な場合には、触媒液に浸漬する方法が好ましく、この方法によれば、微小部分を有する被めっき物に対して簡単な操作で触媒(金属ナノ粒子複合体)を均一に付与することができる。
【0062】
前記処理被めっき物表面上にめっき触媒を付与する際の浸漬条件についても、特に限定されるものではなく、通常、触媒液(水性分散体)の温度を5〜70℃、好ましくは10〜60℃程度として、これに工程(1)で得られた処理被めっき物を浸漬すればよい。
【0063】
処理被めっき物を触媒液に浸漬する時間については、後工程の無電解めっき工程において、目的とするめっき金属皮膜を形成させ得る限り、特に制限は無いが、浸漬時間が30分間程度までは、浸漬時間の増加に伴って触媒(金属ナノ粒子を含有する複合体)の吸着量が増加するが、これ以上長時間の浸漬を行っても触媒吸着量は、ほとんど増加しないので、プロセスコスト削減の観点から、浸漬時間を30分間以内とするのが好ましく、通常は2〜15分間程度の浸漬時間で、目的とするめっき皮膜が得られる触媒層を得ることが可能である。
【0064】
〔工程(3)無電解めっき工程〕
上記の工程(1)及び工程(2)を経て得られた複合体吸着被めっき物を無電解めっき用の金属イオン液(b)(無電解めっき液)に浸漬することにより、被めっき物表面上に金属皮膜を形成することができる。
【0065】
<無電解めっき液(b)>
無電解めっき液としては、種々の無電解めっき液を使用することができ、この様な無電解めっき液としては、例えば、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液等の他、金、銀、パラジウム、ロジウム等の貴金属の無電解めっき液を挙げることができる。これら無電解めっき液は市販されており、使用目的に応じて、適宜選択、購入して使用するのが簡便である。
【0066】
実用性の観点からは、銅イオンを含む無電解めっき液を用いることが好ましい。本発明の製造方法によって、銅皮膜基板を容易に得ることができるので、即ち、本発明によれば、従来FR−4として知られているガラスエポキシ銅張積層板(ガラスエポキシ基板)及び積層電子回路基板を安価で、且つ毒性の少ない原料から製造することが可能となるものである。
【0067】
前記で得られた無電解めっきによって析出した金属皮膜は、これを導電性皮膜としてそのまま用いてもよく、更に電解めっきを引き続き行って、目的とする厚みのある金属皮膜を形成させてもよい。更に、得られた金属皮膜の一部をエッチング等で除去し、パターンを形成させて用いることもできる。なお、被めっき物表面の一部に触媒層を吸着させパターン化させてから無電解めっきを行うことにより、導電性パターンを形成させることも可能である。即ち、被めっき物表面に対して、触媒液を含む組成物をパターン形成可能な各種印刷法で印刷すると、当該印刷された部分で無電解めっき皮膜が形成されるので、金属皮膜がパターン化され、導電性パターンが得られるものである。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断わりがない限り「部」、「%」は質量基準である。
【0069】
本発明で用いた分析機器類は下記の通りである。
H−NMR:日本電子株式会社製、AL300、300Hz
TEM観察:日本電子株式会社製、JEM−2200FS
電気伝導度:株式会社堀場製作所製、B−173
SEM観察:株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 S−3400
TG−DTA測定:SIIナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6300
プラズモン吸収スペクトル:株式会社日立製作所製、UV−3500
動的散乱粒径測定装置:大塚電子株式会社製、FPAR−1000
表面抵抗率測定:三菱化学株式会社製、低抵抗率計ロレスタEP(4端子法)
触媒吸着量:SIIナノテクノロジー株式会社製、ICP発光分析装置 SPS3100
【0070】
〔アニオン性官能基を有する化合物と金属ナノ粒子との複合体の水性分散体の合成例〕
本発明で用いる複合体、及びその水性分散体は、特開2010−209421号公報、特許4697356号公報をもとに、下記のように行なった。
【0071】
<合成例1:リン酸基を有する化合物と銀ナノ粒子との複合体の合成>
〔リン酸基を有する化合物(X−1)の合成〕
窒素雰囲気下、反応容器にエタノール210gと2−ブタノン174gを入れ、攪拌しながら75℃に加熱した。ここにライトエステルP−1M(共栄社化学株式会社製)600gをエタノール90gと2−ブタノン90gとの混合溶媒に溶解させた混合溶液を3.5時間かけて滴下し、重合開始剤「V−59」3g、連鎖移動剤(3−メルカプトプロピオン酸メチル)18gを2−ブタノン30gに溶解させたものを4.5時間かけて同時に滴下した。反応開始から21時間後に加熱を停止し、室温まで空冷の後、蒸留水300gを添加した。ロータリーエバポレータで溶剤を減圧留去し、蒸留水100gを足して再び減圧留去を行い、残液をポリプロピレンメッシュで濾過して、アニオン性官能基としてリン酸基を有する化合物(X−1)の水溶液を得た(1,030g、不揮発分58.8%、酸価488)。当該樹脂(化合物(X−1))のゲルパーミエーション・クロマトグラフィーにより測定された質量平均分子量は5,000程度であった。
【0072】
〔化合物(X−1)と銀ナノ粒子との複合体の水性分散体の合成〕
反応容器に、前記合成で得られたリン酸基を有する化合物(X−1)の水溶液14.6gを2−ジメチルアミノエタノール31g(0.35mol)、65%硝酸34g(0.35mol)、蒸留水39gの混合物に溶解させたものを入れ、更に150gの硝酸銀を150gの蒸留水に溶解させたものを添加し、最後に2−ジメチルアミノエタノール34.5g(0.39mol)を添加した。反応容器を油浴に浸け、内温50℃で4時間加熱し、茶黒色の分散体を得た。
【0073】
上記で得られた反応終了後の分散体を中空糸型UF膜モジュール(ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製、膜面積0.13m)を使用して限外濾過精製を行った。濾液の電気伝導度は最初20mS/cm以上であり、これが10μS/cm以下になったところで限外濾過を終了した。次に、この残渣成分から粗大粒子を除去するために孔径0.45μmのメンブレンフィルタで吸引濾過を行い、銀ナノ粒子との複合体の水性分散体を濾液として得た(1,050g、不揮発分8.9%、収率89%)。このときの濾物(粗大粒子)は9.0g(原料の銀換算で8.5%)であった。
【0074】
得られた水性分散体をサンプリングし、10倍希釈液とすると黄褐色の液となり、その可視吸収スペクトルを測定すると、400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められたことから、銀ナノ粒子の生成を確認した。
【0075】
<合成例2:カルボキシ基を有する化合物と銀ナノ粒子との複合体の合成>
〔カルボキシ基を有する化合物(X−2)の合成〕
メチルエチルケトン(以下、MEK)70部を、窒素気流中80℃に保ち、攪拌しながらメタクリル酸10部、メタクリル酸ベンジル10部、ブレンマーPME−1000(日油株式会社製)80部、チオグリコール酸2部、MEK80部、及び重合開始剤(「パーブチル(登録商標)O、日油株式会社製)4部からなる混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、「パーブチル(登録商標)O」2部を添加し、80℃で更に22時間攪拌した。得られた反応混合物に水を加え、減圧脱溶剤した後、水で不揮発分量を調整した。このようにして、アニオン性官能基としてカルボキシ基有する化合物(X−2)の水溶液を得た(不揮発分33%)。当該樹脂(化合物(X−2))のゲルパーミエーション・クロマトグラフィーにより測定された質量平均分子量は10,000、酸価は76.5mgKOH/gであった。
【0076】
〔化合物(X−2)と銀ナノ粒子との複合体の水性分散体の合成〕
上記の合成で得た化合物(X−2)(固形分に換算して0.578g)を水12mLに溶解し、これに1mol/L硝酸12mLを加えた。硝酸銀2.00g(11.77mmol)を水35mLに溶解したものをこれに加え、トリエタノールアミン8.78g(58.85mmol)を加えて60℃で2.5時間攪拌した。得られた懸濁液を限外濾過ユニット(ザルトリウス・ステディム社ビバスピン20、分画分子量10万、4個)で濾過した。濾過残渣に精製水を加えて再び遠心濾過することを4回繰り返し、得られた残渣に水を加えると、化合物(X−2)と銀ナノ粒子の複合体の水性分散体4.23gが得られた(固形分約30w/w%、固形分中の銀含量94.8%(TG−DTA)、粒子径5〜40nm(TEM))。
【0077】
<合成例3:カルボキシ基を有する化合物と銅ナノ粒子との複合体の合成>
〔化合物(X−2)と銅ナノ粒子との複合体の水性分散体の合成〕
前記合成例2で得られた化合物(X−2)(固形分に換算して2.00g)を水40mLに溶解し、酢酸銅水和物10.0g(50.09mmol)を水500mLに溶解したものを加えた。これに穏やかに発泡が起こるよう80%ヒドラジン水溶液10g(約160mmol)を約2時間かけて滴下し、発泡得が止むまで室温で更に1時間攪拌すると、濃褐色の溶液が得られた。
【0078】
これを限外濾過ユニット(ザルトリウス・ステディム社製「ビバフロー50」、分画分子量5万、1個)に通し、更に限外濾過ユニットから約1Lの滲出液がでるまで脱気水を通過させて精製した。脱気水の供給を止め濃縮すると、化合物(X−2)と銅ナノ粒子の複合体の水性分散体15gが得られた(固形分約20w/w%)。この水性分散体一滴をエタノール(50mL)に溶解すると赤い溶液が得られ、その紫外可視吸収スペクトルを測定すると600nm付近に銅ナノ粒子のプラズモン共鳴に由来する吸収がみられた。
【0079】
<合成例4:リン酸基を有する化合物と銀ナノ粒子との複合体の合成>
〔リン酸基を有する化合物(X−3)の合成〕
窒素雰囲気下、反応容器にエタノール210gと2−ブタノン174gを入れ、攪拌しながら75℃に加熱した。ここに、ライトエステルP−1M(共栄社化学株式会社製)120g、ブレンマーPME−1000(日油株式会社製)450g、ブレンマーPME−100(日油株式会社製)30gをエタノール90gと2−ブタノン90gに溶解させた混合溶液を3.5時間かけて滴下し、重合開始剤「V−59」3g、連鎖移動剤(3−メルカプトプロピオン酸メチル)18gを2−ブタノン30gに溶解させたものを4.5時間かけて同時に滴下した。反応開始から21時間後に加熱を停止し、室温まで空冷の後、蒸留水300gを添加した。ロータリーエバポレータで溶剤を減圧留去し、蒸留水100gを足して再び減圧留去を行い、残液をポリプロピレンメッシュで濾過してアニオン性官能基としてリン酸基を有する化合物(X−3)の水溶液を得た(950g、不揮発分62.6%、酸価99)。当該樹脂(化合物(X−3))のゲルパーミエーション・クロマトグラフィーにより測定された質量平均分子量は7,000程度であった。
【0080】
得られた生成物のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDOD)測定結果:
δ(ppm):3.85〜4.45(bs),3.45〜3.75(bs),3.20〜3.40,2.65〜2.95(bs),2.40〜2.65(bs),1.75〜2.35(bs),0.75〜1.50(m)
【0081】
〔化合物(X−3)と銀ナノ粒子との複合体の水性分散体の合成〕
反応容器に、前記で得られた化合物(X−3)の水溶液15.5gを2−ジメチルアミノエタノール155g(1.75mol)、65%硝酸170g(1.75mol)、蒸留水195gの混合物に溶解させたものを入れ、更に150gの硝酸銀を150gの蒸留水に溶解させたものを添加し、最後に2−ジメチルアミノエタノール172.5g(1.95mol)を添加した。反応容器を油浴に浸け、内温50℃で4時間加熱し、茶黒色の分散体を得た。
【0082】
上記で得られた反応終了後の分散体を中空糸型UF膜モジュール(ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製、膜面積0.13m)を使用して限外濾過精製を行った。濾液の電気伝導度は最初20mS/cm以上であり、これが10μS/cm以下になったところで限外濾過を終了した。次に、この残渣成分から粗大粒子を除去するために孔径0.45μmのメンブレンフィルタで吸引濾過を行い、銀ナノ粒子との複合体の水性分散体を濾液として得た(1,029g、不揮発分9.9%、収率97%)。このときの濾物(粗大粒子)は135mg(原料の銀換算で0.14%)であった。
【0083】
得られた分散体をサンプリングし、10倍希釈液とすると黄褐色の液となり、その可視吸収スペクトルを測定すると、400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められたことから、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM観察より球形の銀ナノ粒子(平均粒子径6.8nm)が確認された。TG−DTAを用いて、固体中の銀含有率を測定した結果、93.5%を示し、このことから、複合体中の化合物(X−3)の含有量は6.5%と見積もることができた。
【0084】
<合成例5:リン酸基を有する化合物と銅ナノ粒子との複合体の合成>
〔化合物(X−3)と銅ナノ粒子との複合体の水性分散体の合成〕
反応容器に、前記合成例4で得られた化合物(X−3)の水溶液3.19g(固形分に換算して2.00g)を量り取り、水40mLで希釈した。これに、酢酸銅水和物10.0g(50.09mmol)を水500mLに溶解して加えた。この溶液に、穏やかに発泡が起こるよう80%ヒドラジン水溶液10g(約160mmol)を約2時間かけて滴下し、発泡が止むまで更に室温で1時間攪拌すると、赤褐色の溶液が得られた。
【0085】
これを限外濾過モジュール(ダイセン・メンブレン・システムズ社製、分画分子量15万)に通し、更に限外濾過モジュールから約1Lの滲出液がでるまで、窒素バブリングにより脱気した精製水を通過させて精製した。脱気水の供給を止め濃縮すると、加応物(X−3)と銅ナノ粒子との複合体の分散体15gが得られた(固形分約20w/w%)。この分散体一滴をエタノール(50mL)に溶解すると赤い溶液がえられ、その紫外可視吸収スペクトルを測定すると600nm付近に銅ナノ粒子のプラズモン共鳴に由来する吸収がみられた。
【0086】
<合成例6:リン酸基を有する化合物とパラジウムナノ粒子との複合体の合成>
〔化合物(X−3)とパラジウムナノ粒子との複合体の水性分散体の合成〕
前記合成例4で得られた化合物(X−3)(固形分に換算して0.102g)を水5mLに溶解し、硝酸パラジウム(II)(585mg、2.54mmol)を水5mLに溶解したものを加えた。これにジメチルアミノエタノール1.81g(20.31mmol)と水5mLの混合物を加え、室温で2時間攪拌した。これを限外濾過ユニット(ザルトリウス・ステディム社製「ビバスピン20」、分画分子量5万、2個)に分け入れ、遠心力(5800G)により濾過を行った。濾過残渣に精製水を加えて再び遠心濾過することを4回繰り返し、得られた残渣に水を加えて全量2.5gとすると、化合物(X−3)とパラジウムナノ粒子との複合体の水性分散体が得られた(固形分約10w/w%)。この水性分散体は茶色であり、その一滴をエタノール(50mL)に溶解して紫外可視吸収スペクトルを測定すると、約520nm付近に弱い吸収が確認された。
【0087】
<合成例7:スルホン酸基を有する化合物と銀ナノ粒子との複合体の合成>
〔スルホン酸基を有する化合物(X−4)の合成〕
70w/w%エタノール40部を、窒素気流中80℃に保ち、攪拌しながら2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸10部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(分子量100)5部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(分子量1000)85部、β−メルカプトプロピオン酸メチル5部、70w/w%エタノール80部からなる混合物、及び重合開始剤「パーブチル(登録商標)O」(日油株式会社製)0.5部、エタノール5部からなる混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、「パーブチル(登録商標)O」1部を添加し、80℃で12時間攪拌した。
【0088】
得られた溶液に、イオン交換水を加え、減圧脱溶剤により除去した後、水を加えて不揮発分を調製した。このようにして、アニオン性官能基としてスルホン酸基を有する化合物(X−4)の水溶液を得た(不揮発分40%)。ゲルパーミエーション・クロマトグラフィーにより測定された質量平均分子量5,800、酸価は54.1mgKOH/gであった。
【0089】
〔化合物(X−4)と銀ナノ粒子との複合体の水性分散体の合成〕
上記の合成で得た化合物(X−4)0.245g(固形分に換算して0.098g)を水6mLに溶解し、これに1mol/L硝酸6mLを加えた。硝酸銀1.00g(5.89mmol)を水17.5mLに溶解したものをこれに加え、トリエタノールアミン4.39g(29.43mmol)を加えて60℃で2.5時間攪拌した。得られた懸濁液を限外濾過ユニット(ザルトリウス・ステディム社製「ビバスピン20」、分画分子量10万、2個)で濾過した。濾過残渣に精製水を加えて再び遠心濾過することを4回繰り返し、得られた残渣に水を加えて全量を2.1gの分散液とすると、化合物(X−4)と銀ナノ粒子との複合体の水性分散体が得られた(固形分約30w/w%、固形分中の銀含量96.2%(TG−DTA)、粒子径40〜50nm(TEM))。
【0090】
<比較合成例1:カチオン性官能基をする非重合性の化合物を用いた銀ヒドロゾルの合成>
特許文献3の実施例1に基づき、硝酸銀50μmolを純水94mLに溶解した溶液を激しく撹拌しながら、この溶液にステアリルトリメチルアンモニウムクロライド10mgを含む水溶液1mL及び水素化ホウ素ナトリウム200μmolを含む水溶液5mLを順次注入したところ、溶液の色が黄褐色に変化し、銀粒子を0.5mg含有する均一透明な銀ヒドロゾル100mLが得られた。
【0091】
<比較合成例2:スルホン酸基を有する非重合性の化合物を用いた銀ヒドロゾルの合成>
特許文献3に基づき、界面活性剤であるステアリルトリメチルアンモニウムクロライドの代わりにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は、比較合成例1と同様にして、均一透明なヒドロゾルを調製した。
【0092】
<比較合成例3:アニオン性官能基を有さず、ポリエチレングリコール鎖を有する化合物を用いた銀ヒドロゾルの合成>
特許文献3に基づき、界面活性剤であるステアリルトリメチルアンモニウムクロライドの代わりにポリエチレングリコール−p−ノニルフェニルエーテルを用いた以外は、比較合成例1と同様にして、均一透明なヒドロゾルを調製した。
【0093】
<比較合成例4:スルホン酸基を有する非重合性化合物とポリエチレングリコール鎖を有する化合物を同時に存在させた銀ヒドロゾルの合成>
特許文献3に基づき、界面活性剤であるステアリルトリメチルアンモニウムクロライドの代わりにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5mgとポリエチレングリコール−p−ノニルフェニルエーテル5mgと含む水溶液1mLを用いた以外は、比較合成例1と同様にして、均一透明なヒドロゾルを調製した。
【0094】
<比較合成例5:アニオン性官能基を有さない水溶性高分子を用いた銀ヒドロゾルの合成>
特許文献3に基づき、界面活性剤であるステアリルトリメチルアンモニウムクロライドの代わりに水溶性高分子であるポリビニルピロリドンを用いた以外は、比較合成例1と同様にして、均一透明なヒドロゾルを調製した。
【0095】
<比較合成例1〜5で得たヒドロゾルの分散性>
比較合成例1〜5で得た銀ヒドロゾルを、エバポレータで0.5g/Lとなるように濃縮したところ、いずれの場合にも、銀コロイドの凝集が認められ、安定な分散液が得られなかった。
【0096】
前記の合成例1〜7で得た化合物と金属ナノ粒子複合体の水性分散体を、それぞれ精製水で希釈して、所定の濃度に調整したものを触媒液−1〜8とした。同様に、前記の比較合成例1〜5で得たヒドロゾルを、それぞれ精製水で希釈し、0.05g/Lの濃度に調整したものを比較触媒液−1〜5とした。表1に、合成例1〜7、及び比較合成例1〜5で調製した触媒液をまとめた。
【0097】
【表1】
【0098】
<実施例1:触媒液−1〜7を用いた銅の無電解めっき皮膜の作製>
触媒液−1〜7を用いて、下記の被めっき物に対し、下記の工程により無電解めっきを行った。
【0099】
〔被めっき物〕
1.ガラス繊維強化エポキシ樹脂板:FR4規格銅張基板(基板厚み1.6mm、銅箔厚み18μm)。
【0100】
2.1のFR−4規格銅張基板の一部にドリル穿孔して孔長1.6mm×孔径0.8mmのスルーホールを形成した後、過硫酸ナトリウム水溶液に浸漬して、銅箔をエッチングして除去した樹脂基板。
【0101】
3.ビルドアップ基板用層間絶縁材:
FR4基板(基板厚み0.8mm、銅箔厚み18μm)の銅箔表面を、「CZ8100」及び「CZ8300」(メック株式会社製)に浸漬して粗面化処理した後、エポキシ樹脂系絶縁材料「ABF−GX13」(40μm厚)、もしくは「ABF−GX92」(40μm厚)を、真空ラミネートした後、デスミア処理を行ったもの。
【0102】
基材のデスミア処理は、下記の操作により行った。
1)膨潤工程:60℃に設定した、OPC−1080コンディショナー(奥野製薬工業株式会社製)500mL/L、水酸化ナトリウム15g/Lを加えた水1Lに、基材を10分間浸漬した後、水洗した。
2)マイクロエッチング工程:85℃に設定した、KMnO30g/L、「OPC1200エポエッチ」(奥野製薬工業株式会社製)200mL/Lを加えた水1Lに、1)で処理した基材を20分間浸漬した後、水洗した。
3)中和工程:45℃に設定した、OPC−1300ニュートライザー(奥野製薬工業株式会社製)200mL/Lを加えた水1Lに、2)の処理を行った基材を5分間浸漬した後、水洗を行い、デスミア処理を行った。
【0103】
〔無電解めっき工程〕
1.脱脂及びコンディショニング工程:
脱脂・コンディショニング剤(OPCコンディクリーンFCR、奥野製薬工業株式会社製)25mLを水に溶かし500mLとし、65℃に保持した。これに被めっき物を5分間浸漬した。この工程により被めっき物表面の脱脂とカチオン化を行い、その後、温水で2分間洗浄し、続いて流水洗浄を2分間行った。
【0104】
2.ソフトエッチング工程:
過硫酸ナトリウム50g及び98%精製硫酸2.5mLを水に溶かして500mLとし、25℃に保持した。これに、前記脱脂及びコンディショニング工程後の処理被めっき物を2分間浸漬し、その後、流水洗浄を2分間行った。
【0105】
3.脱スマット工程:
98%精製硫酸50mLを水に溶かし、500mLとし、25℃に保持した。これに、前記ソフトエッチング工程後の処理被めっき物を2分間浸漬した後、流水洗浄を2分間行った。更に純水で1分間洗浄した。
【0106】
4.触媒付与工程:
前記触媒液−1〜7を、25℃に保持し、これに前記脱スマット工程後の処理被めっき物をそれぞれ5分間浸漬して当該処理被めっき物の表面に複合体を吸着させた。
【0107】
5.無電解めっき工程:
無電解銅めっき薬液(「MOON−700カッパー−1」(15mL)、「MOON−700カッパー―2」(15mL)、「MOON−700カッパー―3」(100mL)、いずれも奥野製薬工業株式会社製)を水に混合して500mLとし、45℃に保持した。これに前記触媒付与工程後の処理被めっき物を15分間浸漬して、銅めっき皮膜を析出させた。
【0108】
得られためっき皮膜の評価は、以下の方法によった。
〔銅めっき皮膜の評価〕
1.皮膜被覆率(%):
被めっき物の面積と、銅めっき皮膜が形成された面積を計測し、その割合から算出した。
【0109】
2.スルーホールめっき性:
100倍の顕微鏡下、スルーホール部の裏から光を照射し、光透過の程度を観察することでスルーホールのめっき充填度を評価した。
【0110】
3.めっき皮膜断面の観察:
銅めっき皮膜をGa収束イオンビーム法(FIB法)で切断し、断面をSEMにより観察した。これにより、ビアホール部のめっき付き回り性の良否を判断した。
【0111】
<比較例1:Sn−Pdコロイド触媒を用いた無電解銅めっき皮膜>
前記実施例1で用いた触媒液に代えて、市販のパラジウム−錫コロイド液を使用し、実施例1と同様の被めっき物に対して、無電解めっきを行った。工程1〜3については、実施例1と同様であったが、更に、下記の様に、プリディップ、活性化工程の2工程が必要な煩雑な工程であった。
【0112】
4.プリディップ工程:
プリディップ液(「OPC−SAL−M」、奥野製薬工業株式会社製)130gを水で希釈して500mLとし、25℃に保持した。これに前記脱スマット工程後の処理被めっき物を1分間浸漬した。
【0113】
5.触媒化合物の付与工程:
プリディップ液(OPC−SAL−M、奥野製薬工業株式会社製)130gとSn−Pdコロイド触媒液(OPC−90キャタリスト、奥野製薬工業株式会社製)15mLを水で希釈して500mLとし、25℃に保持した。これに前記プリディップ工程後の処理被めっき物を5分間浸漬した後、流水洗浄を2分間行った。
【0114】
6.活性化工程:
活性化液(「OPC−505アクセレーターA」、奥野製薬工業株式会社製)50mL及び活性化液(「OPC−505アクセレーターB」、奥野製薬工業株式会社製)4mLを水で希釈して500mLとし、30℃に保持した。これに前記触媒化合物の付与工程後の処理被めっき物を5分間浸漬した後、流水洗浄を2分間行った。
【0115】
7.無電解めっき工程:
前記のMOON−700カッパーシリーズ(奥野製薬工業株式会社製、無電解銅めっき薬原液)を用いる無電解銅めっきにより、前記活性化工程後の処理被めっき物に銅めっき皮膜を形成した。
【0116】
<比較例2:Pdコロイド触媒を用いた無電解銅めっき皮膜>
前記実施例1で用いた触媒液に代えて、市販のパラジウムコロイド液を使用し、実施例1と同様の被めっき物に対して、下記の工程によって無電解めっきを行った。プリディップ工程、活性化工程を必要とするため、実施例1と比較して2工程を多く必要とする煩雑な工程であった。
【0117】
1.脱脂及びコンディショニング工程:
脱脂・コンディショニング剤(「OPC−370コンディクリーンMA」、奥野製薬工業株式会社製)50mLを水に溶かし500mLとし、65℃に保持した。これに被めっき物を5分間浸漬した。この工程により被めっき物表面の脱脂とカチオン化を行い、その後、温水で2分間洗浄し、続いて流水洗浄を2分間行った。
【0118】
2.ソフトエッチング工程:
実施例1と同様の過硫酸ナトリウムを用いるソフトエッチングを行った。
【0119】
3.脱スマット工程:
実施例1と同様の硫酸を用いる脱スマットを行った。
【0120】
4.プリディップ工程:
プリディップ液(「OPCプリディップ49L」、奥野製薬工業株式会社製)5mL及び98%精製硫酸0.75mLを水に溶かし500mLとし、25℃に保持した。これに前記脱スマット工程後の処理被めっき物を1分間浸漬した。
【0121】
5.触媒化合物の付与工程:
Pdコロイド触媒前駆体液(OPC−50インデューサーAならびにOPC−50インデューサーC、いずれも奥野製薬工業株式会社製)各25mLを水に溶かし500mLとし、40℃に保持した。これに前記脱プリディップ工程後の処理被めっき物を5分間浸漬した後、流水洗浄を2分間行った。
【0122】
6.活性化工程:
活性化液(OPC−150クリスターMU、奥野製薬工業株式会社製)75mLを水に溶かし500mLとし、25℃に保持した。これに触媒化合物の付与工程後の処理被めっき物を5分間浸漬した後、流水洗浄を2分間行った。
【0123】
7.無電解めっき工程:
前記のMOON−700カッパーシリーズ(奥野製薬工業株式会社製、無電解銅めっき薬原液)を用いる無電解銅めっきにより、前記活性化工程後の処理被めっき物に銅めっき皮膜を形成した。
【0124】
<比較例3:Sn−Agコロイド触媒を用いた無電解銅めっき皮膜>
前記実施例1で用いた触媒液に代えて、市販の錫−銀コロイド触媒液を使用し、実施例1と同様の被めっき物に対して、下記の工程によって無電解めっきを行った。Snを除去するための活性化工程を必要とするため、実施例1と比較して1工程を多く必要とする煩雑な工程であった。
【0125】
1.脱脂及びコンディショニング工程:
脱脂・コンディショニング剤(MOON−300コンディクリーン、奥野製薬工業株式会社製)50mLを水に溶かし500mLとし、60℃に保持した。これに被めっき物を5分間浸漬した。この工程により被めっき物表面の脱脂とカチオン化を行い、その後、温水で2分間洗浄し、続いて流水洗浄を2分間行った。
【0126】
2.ソフトエッチング工程:
実施例1と同様の過硫酸ナトリウムを用いるソフトエッチングを行った。
【0127】
3.脱スマット工程:
実施例1と同様の硫酸を用いる脱スマットを行った。
【0128】
4.触媒化合物の付与工程:
Sn−Ag触媒液(「MOONー−500キャタリスト」、奥野製薬工業株式会社製)を25℃に保持した。これに前記脱スマット工程後の処理被めっきを5分間浸漬した後、流水洗浄を2分間行った。
【0129】
5.活性化工程:
活性化液(「MOON−600アクセレーター」、奥野製薬工業株式会社製)50mLを水に溶かし500mLとし、45℃に保持した。これに前記触媒化合物の付与工程後の処理被めっき物を5分間浸漬した後、流水洗浄を2分間行った。
【0130】
6.無電解めっき工程:
前記のMOON−700カッパーシリーズ(奥野製薬工業株式会社製、無電解銅めっき薬原液)を用いる無電解銅めっきにより、前記活性化工程後の処理被めっき物に銅めっき皮膜を形成した。
【0131】
<比較例4:比較触媒液−1〜5を用いた無電解めっき皮膜の作製>
実施例1において、触媒液を比較触媒液−1〜5に変えた以外は、実施例1と同様にして、被めっき物に無電解めっきを行った。
【0132】
実施例1、比較例1〜4において得られためっき皮膜の物性は以下のとおりである。
【0133】
【表2】
【0134】
<実施例2>
実施例1で作製した、ABF−GX92をラミネートしたビルドアップ基板用層間絶縁材に、孔径70μmのビアホールを形成した基材を用い、触媒液−4及び、比較例1で用いたSn−Pdコロイド触媒を用いて、実施例1と同様にして、被めっき物表面上に無電解めっきを行った。ビアホール内へのめっき付き回り性を確認するため、ビアホール部をFIB法で切断し、断面のSEM観察を行ったところ、Sn−Pdコロイド触媒と比べて2工程少ない、簡便な方法によって、同等のめっき付き回り性を示すことが確認できた。図1に、触媒液−4を用いてめっき処理を行った基材の断面SEM写真を、図2に、比較例1で用いたSn−Pd触媒液を用いてめっき処理を行った基材の断面SEM写真、それぞれ示す。
【0135】
<実施例3:触媒液−1〜8を用いた銅の無電解めっき皮膜の作製>
上記とは別の脱脂・コンディショニング剤及び無電解銅めっき薬液を使用する態様として、触媒液−1〜8を用いて、下記の被めっき物に対し、下記の工程により無電解めっきを行った。
上記の無電解めっき工程中、工程1の脱脂・コンディショニング剤としてNACEコンディショナー(奥野製薬工業株式会社製)を使用し(使用量は50mL)、工程5の無電解銅めっき薬液としてNACEカッパー−1(15mL)、NACEカッパー−2(15mL)、NACEカッパー−3」(100mL)(いずれも奥野製薬工業株式会社製)を使用し、工程5中の保持温度を40℃に変更する以外は、上記の無電解めっき工程と同様にして銅めっき皮膜を析出させた。
得られためっき皮膜の評価は、実施例1と同様に行い結果は表3に示す。
【0136】
【表3】
図1
図2