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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-26482(P2015-26482A)
(43)【公開日】2015年2月5日
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20150109BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20150109BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20150109BHJP
【FI】
   H01M4/96 M
   H01M12/06 F
   H01M4/88 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-154594(P2013-154594)
(22)【出願日】2013年7月25日
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】向井 紳
(72)【発明者】
【氏名】荻野 勲
(72)【発明者】
【氏名】森 武士
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 寛
(72)【発明者】
【氏名】錦織 英孝
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB12
5H018EE05
5H018EE16
5H018HH03
5H018HH04
5H018HH08
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS12
5H032CC11
5H032CC16
5H032HH04
5H032HH06
(57)【要約】
【課題】空気電池に使用されることにより従来の空気電池よりも電流密度を高くすることができる多孔質炭素材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】空気電池の正極に用いられる多孔質炭素材料であって、平均孔径1〜10μmの細孔と、平均孔径50nm以下のメソ細孔と、を備えることを特徴とする、多孔質炭素材料。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気電池の正極に用いられる多孔質炭素材料であって、
平均孔径1〜10μmの細孔と、
平均孔径50nm以下のメソ細孔と、
を備えることを特徴とする、多孔質炭素材料。
【請求項2】
平均厚さが200μm以上である、請求項1に記載の多孔質炭素材料。
【請求項3】
バインダーを用いずに一体成型して得られる炭素骨格を有する、請求項1又は2に記載の多孔質炭素材料。
【請求項4】
空気電池の正極に用いられる多孔質炭素材料の製造方法であって、
少なくとも、フェノール化合物及びアルデヒド化合物を含むカーボンゾル原料、並びに平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える炭素原料を混合し、
得られる混合物をゲル化することによりゲルを調製し、
前記ゲルを1,000〜3,000℃の温度条件下で加熱することにより、平均孔径1〜10μmの細孔、及び平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える多孔質炭素材料を製造することを特徴とする、多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料、及び前記請求項4に記載の製造方法により製造される多孔質炭素材料の、少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする、空気電池用正極。
【請求項6】
少なくとも正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する電解質層を備える空気電池であって、
前記正極は、前記請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料、及び前記請求項4に記載の製造方法により製造される多孔質炭素材料の、少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする、空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池に使用されることにより従来の空気電池よりも電流密度を高くすることができる多孔質炭素材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池の正極には、正極中の導電性を担保するため、炭素材料を配合させることが知られている。特許文献1には、正極、電解質層、及び負極をこの順に有し、前記正極は、高比表面積を有するカーボンブラックと、当該カーボンブラックを保持する親水性バインダーとを含む親水性領域、及び、当該カーボンブラックと、当該カーボンブラックを保持する疎水性バインダーとを含む疎水性領域を有し、前記親水性領域と前記電解質層との間に、前記疎水性領域が設けられる金属空気電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−198798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが検討した結果、特許文献1に開示されたような金属空気電池は、電流密度が低くなるおそれのあることが明らかとなった。本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、空気電池に使用されることにより従来の空気電池よりも電流密度を高くすることができる多孔質炭素材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の多孔質炭素材料は、空気電池の正極に用いられる多孔質炭素材料であって、平均孔径1〜10μmの細孔と、平均孔径50nm以下のメソ細孔と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の多孔質炭素材料は、平均厚さが200μm以上であることが好ましい。
【0007】
本発明の多孔質炭素材料は、バインダーを用いずに一体成型して得られる炭素骨格を有することが好ましい。
【0008】
本発明の多孔質炭素材料の製造方法は、空気電池の正極に用いられる多孔質炭素材料の製造方法であって、少なくとも、フェノール化合物及びアルデヒド化合物を含むカーボンゾル原料、並びに平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える炭素原料を混合し、得られる混合物をゲル化することによりゲルを調製し、前記ゲルを1,000〜3,000℃の温度条件下で加熱することにより、平均孔径1〜10μmの細孔、及び平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える多孔質炭素材料を製造することを特徴とする。
【0009】
本発明の空気電池用正極は、上記多孔質炭素材料、及び上記製造方法により製造される多孔質炭素材料の、少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の空気電池は、少なくとも正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する電解質層を備える空気電池であって、前記正極は、上記多孔質炭素材料、及び上記製造方法により製造される多孔質炭素材料の、少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多孔質炭素材料が細孔及びメソ細孔を併せ持つことにより、空気電池に使用された場合に、酸素等の反応物の拡散が促進されるため、従来の空気電池よりも電流密度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の空気電池の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。
図2】実施例1の空気電池用正極の断面SEM画像である。
図3】実施例4−実施例6及び比較例4−比較例6のリチウム空気電池について、電流密度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.多孔質炭素材料
本発明の多孔質炭素材料は、空気電池の正極に用いられる多孔質炭素材料であって、平均孔径1〜10μmの細孔と、平均孔径50nm以下のメソ細孔と、を備えることを特徴とする。
【0014】
一般的に、空気電池における正極は、厚さが薄いほど空気電池の出力が向上する。一方、電池ケースやセパレータ等の他の電池部材の厚さには下限がある。したがって、他の電池部材の厚さを薄くするには限界がある以上、いくら正極を薄くして空気電池の出力向上を図ったとしても、空気電池全体に占める正極の体積が相対的に減ってしまうため、空気電池としての出力密度(又はエネルギー密度)が低下してしまうというデメリットがあった。
本発明者らは、正極を厚く保ったまま、空気電池の出力を向上させることを目指し、鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、細孔及びメソ細孔を備える多孔質炭素材料を正極に用いることによって、酸素等の反応物の正極における拡散性が向上する結果、正極が比較的厚い場合であっても、従来の空気電池よりも電流密度を高くできることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明の多孔質炭素材料は、細孔、及び当該細孔よりも孔径の小さいメソ細孔とを併せ持つ。本発明の多孔質炭素材料が空気電池の正極に用いられた際、細孔は正極における反応物の拡散を促進する役割を果たし、メソ細孔は電極反応の反応場を提供して電極反応を促進する効果に寄与する。
本発明において、正極における反応物とは、正極活物質である酸素、並びに、負極活物質である金属及びそのイオンである。本発明においては、正極の中に酸素及び金属が保持される。通常、空気電池の正極における酸素の拡散及び金属の拡散は、正極における電極反応において、いずれか一方が律速段階となることもあるし、両方が律速段階となることもある。
なお、負極活物質として金属リチウムを用いた場合、空気電池の放電時の正極における電極反応は、下記式(I)及び式(II)に示す通りである。
2Li+O+2e→Li (I)
2Li+1/2O+2e→LiO (II)
生じた過酸化リチウム(Li)及び酸化リチウム(LiO)は、固体として正極に蓄積される。空気電池の充電の際には、上記式(I)及び式(II)の逆反応が進行する。
【0016】
本発明における細孔は、平均孔径が通常1〜10μmであり、好適には2〜9μmであり、より好適には3〜8μmである。平均孔径が1μmよりも小さい場合には、酸素及び金属等の反応物の拡散が阻害されるおそれがある。また、平均孔径が10μmよりも大きい場合には、多孔質炭素材料の強度が弱くなり、空気電池の正極に用いた場合に、空気電池全体の耐久性が低下するおそれがある。
細孔の延伸方向の形状及び断面形状は、上記反応物が主に厚さ方向に沿って十分量通過できるものであれば、特に限定されない。細孔の延伸方向の形状としては、例えば、直線状、円弧状、蛇行形状等が挙げられる。また、細孔の断面形状としては、円形状、楕円形状、多角形状、不定形状等が挙げられる。後述する製造方法に示すように、樹脂粒子を予め原料混合物中に配合し、当該原料混合物をゲル化した後、当該ゲルを加熱処理することにより樹脂粒子を除去する場合には、形成される細孔の形状は、当該樹脂粒子の形状とほぼ同様となる。
【0017】
本発明におけるメソ細孔は、JISZ8831−2の3.11に規定されるメソ細孔と同様であり、平均孔径が通常50nm以下であり、好適には30nm以下であり、より好適には2〜10nmである。平均孔径が2nm未満である場合には、十分広い反応場が提供できなくなるおそれがある。
メソ細孔の延伸方向の形状及び断面形状は、細孔の延伸方向の形状及び断面形状と同様、特に限定されず、細孔と同様の形状を採用することができる。後述する製造方法に示すように、メソ細孔を予め有する原料(例えば、カーボンブラック等)を用いて製造する場合には、形成されるメソ細孔の平均孔径及び形状は、当該原料が有するメソ細孔の平均孔径及び形状とほぼ同様となる。
細孔及びメソ細孔は、互いにランダムに配置されていてもよいし、規則的に組み合わさって配列されていてもよい。また、1又は2以上の細孔が、1又は2以上のメソ細孔と連結していてもよい。
【0018】
本発明における細孔及びメソ細孔の平均孔径の測定方法は、従来から公知の方法による。例えば、測定方法としてJIS R1671に規定される方法を用いてもよく、この場合に細孔及びメソ細孔の平均孔径は、JIS R1671の8.2.1又は8.2.2により算出される水力等価直径により表すことができる。
【0019】
本発明における細孔及びメソ細孔の数の割合は特に限定されない。後述する製造方法に示すように、細孔及びメソ細孔がその原料により規定される場合には、当該原料の混合比によって、細孔及びメソ細孔の割合を調節することができる。
本発明における細孔及びメソ細孔の数の割合は、例えば、細孔:メソ細孔=10%:90%〜90%:10%としてもよい。
本発明における細孔及びメソ細孔の数の割合の算出方法の例は以下の通りである。まず、適切な倍率(例えば、1,000〜100万倍)の透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;以下、TEMと称する。)画像又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;以下、SEMと称する。)画像において、ある1つの視野について、細孔及びメソ細孔の数を算出する。このようなTEM画像又はSEM画像による細孔及びメソ細孔の数の算出を、200〜300の異なる視野について行い、これらの視野における細孔及びメソ細孔の総数(A)、細孔の総数(B)、並びにメソ細孔の総数(C)をそれぞれ算出する。細孔の総数(B)を総数(A)により除して100を乗じた値を細孔の数の割合(%)とし、メソ細孔の総数(C)を総数(A)により除して100を乗じた値をメソ細孔の数の割合(%)とする。
【0020】
本発明の多孔質炭素材料は、平均厚さが200μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることがさらに好ましい。本発明の多孔質炭素材料の平均厚さが200μm未満である場合には、空気電池に用いた際、他の部材(例えば電池ケースやセパレータ等)の厚さとの関係から、空気電池全体に占める正極の体積が相対的に小さくなるため、空気電池としての出力密度(又はエネルギー密度)が低下し、本発明の効果を十分享受できないおそれがある。
本発明の多孔質炭素材料の平均厚さの測定例は以下の通りである。まず、当該多孔質炭素材料を厚さ方向に切断した切片を作製する。次に、光学顕微鏡を用いて、適切な倍率(例えば、10〜2,000倍)条件下で、当該切片について厚さを3〜10か所測定する。測定した厚さを平均したものを、当該多孔質炭素材料の平均厚さとする。
本発明においては、反応物の拡散と反応場の確保とを両立させることにより、平均厚さが200μm以上という厚肉条件下においても正極出力を向上させることができる。なお、本発明の多孔質炭素材料は、平均厚さが3mm以下であってもよい。
【0021】
本発明の多孔質炭素材料は、バインダーを用いずに一体成型して得られる炭素骨格を有することが好ましい。電極の作製に従来使用されてきたバインダーは、電極部材同士をつなぎとめ、電極の形状を維持する働きがある一方、電極反応には関与しないため、酸素や金属等の反応物の拡散を阻害するおそれがある。
本発明においては、一体成型して得られる炭素骨格を採用することにより、多孔質炭素材料内部における電気伝導性及び反応物の拡散性を、従来の電極材料よりも高めることができる。
一体成型して得られる炭素骨格の例としては、後述するカーボンゲル骨格等が挙げられる。これらの中でも、バインダーを含まずに構造を維持できるカーボン骨格を用いることが好ましい。
【0022】
2.多孔質炭素材料の製造方法
本発明の多孔質炭素材料の製造方法は、空気電池の正極に用いられる多孔質炭素材料の製造方法であって、少なくとも、フェノール化合物及びアルデヒド化合物を含むカーボンゾル原料、並びに平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える炭素原料を混合し、得られる混合物をゲル化することによりゲルを調製し、前記ゲルを1,000〜3,000℃の温度条件下で加熱することにより、平均孔径1〜10μmの細孔、及び平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える多孔質炭素材料を製造することを特徴とする。
【0023】
本発明は、(1)混合工程、(2)ゲル調製工程、及び(3)加熱工程を有する。本発明は、必ずしも上記3工程のみに限定されることはなく、上記3工程の他にも、例えば、溶媒交換工程、及び/又は乾燥工程等を有していてもよい。
以下、上記工程(1)〜(3)について、順に説明する。
【0024】
2−1.混合工程
本工程は、少なくとも、フェノール化合物及びアルデヒド化合物を含むカーボンゾル原料、並びに平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える炭素原料を混合する工程である。
【0025】
本発明に使用されるカーボンゾル原料中のフェノール化合物とは、ベンゼン環上の少なくとも1つの水素がヒドロキシ基(−OH)に置換された化合物を指し、ベンゼン環上のその他の水素の一部又は全部がヒドロキシ基以外の他の置換基により置換されている化合物を含む。フェノール化合物としては、例えば、下記式(1)に示される化合物が挙げられる。
【0026】
【化1】
(上記式(1)中、Rは水素原子、又は、ハロゲン原子若しくは置換基で置換されていてもよいアルキル基を表す。また、上記式(1)中、mは0〜3の整数を表し、nは0〜5の整数を表し、かつm+n≦5である。)
【0027】
上記式(1)により表される化合物の具体例としては、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、o−エチルフェノール、i−プロピルフェノール、ブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、2−クロロフェノール、4−メトキシフェノール、2,4−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、4−クロロ−3−メチルフェノール、カテコール、3−メチルカテコール、4−t−ブチルカテコール、レゾルシノール、2−メチルレゾルシノール、4−エチルレゾルシノール、4−クロロレゾルシノール、5−メチルレゾルシノール、2,5−ジメチルレゾルシノール、5−メトキシレゾルシノール、5−ペンチルレゾルシノールやピロガロール等を挙げることができる。
フェノール化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0028】
カーボンゾル原料中のアルデヒド化合物とは、少なくとも1つのアルデヒド基(−CHO)を有する化合物である。アルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒドが好ましい。また、アルデヒド化合物としては、ホルマリン等の水溶液を用いてもよい。
【0029】
カーボンゾル原料中における、フェノール化合物とアルデヒド化合物の混合割合は特に限定されない。カーボンゾル原料中における、フェノール化合物とアルデヒド化合物のモル比は、通常、フェノール化合物:アルデヒド化合物=1:1〜1:3であり、好適には、フェノール化合物:アルデヒド化合物=1:1.2〜1:2.5である。
【0030】
カーボンゾル原料は、上述したフェノール化合物及びアルデヒド化合物の他にも、後述するゲル調製工程に用いられる触媒及び水等を含んでいてもよい。
【0031】
カーボンゾル原料自体は、ゲル化して電極とした場合に、電極反応場をそれほど多く提供できるものではない。後述する比較例5及び比較例6のリチウム空気電池は、カーボンゾル原料を用い、かつカーボンブラックを用いずに作製した空気電池用正極を用いたものである。比較例5及び比較例6の放電試験結果は、カーボンブラックを電極に用いた従来のリチウム空気電池(比較例4)よりも劣るものであった。以上の結果から、カーボンゾル原料をゲル化させた電極(カーボンゲル電極)においては、比表面積をいかに大きく稼いで電極反応場を広く維持できるかが課題であった。
本発明においては、カーボンゾル原料と併せて、平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える炭素原料を用いることにより、得られる多孔質炭素材料に、カーボンゾル原料由来の平均孔径1〜10μmの細孔に加えて、平均孔径50nm以下のメソ細孔を導入することができる。
【0032】
平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える炭素原料(以下、炭素原料と称する場合がある。)としては、例えば、カーボンブラック、メソポーラスカーボン、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、及びカーボンファイバー等が挙げられる。これら炭素原料の中でも、加熱後においても安定して平均孔径50nm以下のメソ細孔を多孔質炭素材料に導入できるという観点から、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0033】
カーボンゾル原料と炭素原料との混合比は、質量比にして、カーボンゾル原料:炭素原料=10質量%:90質量%〜90質量%:10質量%であることが好ましい。カーボンゾル原料が10質量%未満である場合には、一体成型が困難となるおそれがある。一方、炭素原料が10質量%未満である場合には、得られる多孔質炭素材料中のメソ細孔が少なくなりすぎるため、電極反応場が小さくなるおそれがある。
カーボンゾル原料と炭素原料との混合比は、質量比にして、カーボンゾル原料:炭素原料=15質量%:85質量%〜85質量%:15質量%であることがより好ましく、カーボンゾル原料:炭素原料=20質量%:80質量%〜80質量%:20質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
本工程においては、カーボンゾル原料及び炭素原料の他に、PMMA粒子(ポリメチルメタクリレート粒子)等の樹脂粒子を混合してもよい。樹脂粒子を混合することにより、加熱工程において樹脂粒子が熱分解し、熱分解物が多孔質炭素材料外へ放出される結果、多孔質炭素材料内に球状の空洞を形成することができる。
樹脂粒子の材料としては、後述する1,000℃以上の加熱工程において熱分解するものであれば、特に限定されず、分子量等も特に制限が無い。また、樹脂粒子の平均粒径は、多孔質炭素材料中に形成したい細孔及び/又はメソ細孔の平均孔径に合わせて、適宜調整することができる。
1,000℃以上の加熱により速やかに分解するという観点から、樹脂粒子としてPMMA粒子を用いることが好ましい。
【0035】
本工程においては、カーボンゾル原料、及び炭素原料等の材料を混合するに当たって、アルコール等の分散媒を混合してもよい。
【0036】
2−2.ゲル調製工程
本工程は、上記混合工程において得られる混合物をゲル化することによりゲルを調製する工程である。
【0037】
本工程においては、カーボンゾル原料及び上記炭素原料を含有する水の存在下、ゾル−ゲル反応を実施することが好ましい。
本工程において、ゾル−ゲル反応に使用される水の量は、フェノール化合物、アルデヒド化合物、及び上記炭素原料の合計量100質量部あたり、通常は50〜6,000質量部の範囲であり、好ましくは50〜2,000質量部の範囲であり、より好ましくは、50〜1,000質量部の範囲である。なお、例えば、アルデヒド化合物として、ホルマリンのような水溶液を用いる場合は、当該水溶液に含まれる水も、上記水の使用量に含まれる。
【0038】
本工程におけるゾル−ゲル反応には、塩基性触媒を用いてもよい。塩基性触媒としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸バリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウムやリン酸カリウム等が挙げられる。
塩基触媒としては、炭酸ナトリウムが好ましい。塩基性触媒の使用量は、フェノール化合物1モル当り、通常は0.00001〜5モルの範囲であり、好ましくは0.00001〜2モルの範囲であり、さらに好ましくは0.00001〜0.1モルの範囲である。
【0039】
本工程の反応温度は、通常は0〜100℃の範囲であり、好ましくは30〜90℃の範囲である。
【0040】
本工程におけるゾル−ゲル反応を、ディスク状容器中で行うことにより、ゲルをタブレット状に成型することができる。
反応容器の形状は、目的とする多孔質炭素材料の形状に合わせて、適宜選択できる。例えば、ディスク状の鉢型容器を用いた場合には、当該鉢型容器の厚みは、通常は0.5〜5mmの範囲であり、好ましくは1〜3mmの範囲である。
容器の材質は、鋳型の作製に通常使用される金属や樹脂が好ましい。
【0041】
上記ゾル−ゲル反応により得られる樹脂は湿潤ゲルである。本発明においては、湿潤ゲルを脱水し、乾燥ゲルとすることが好ましい。湿潤ゲルを脱水する方法としては、例えば、湿潤ゲル中の水を親水性有機溶媒で置換し(溶媒交換工程)、その後湿潤ゲルを乾燥させる(乾燥工程)方法が挙げられる。
溶媒交換工程に用いられる親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール及びt−ブチルアルコール等のアルコール類;アセトニトリル等の脂肪族ニトリル類;アセトン等の脂肪族ケトン類;ジメチルスルホキシド等の脂肪族スルホキシド類;酢酸等の脂肪族カルボン酸類が挙げられる。これらの親水性有機溶媒のうち、t−ブチルアルコール、ジメチルスルホキシド又は酢酸が好ましく用いられ、t−ブチルアルコールが特に好ましく用いられる。
【0042】
乾燥工程における乾燥方法は特に限定されないが、ゾル−ゲル反応により形成された湿潤ゲル中の三次元の網目状構造を保持できるという観点から、凍結乾燥を用いることが好ましい。凍結乾燥により、湿潤ゲルの三次元網目状構造中に入り込んだ親水性有機溶媒等の液体を除去でき、不均一な乾燥や泡立ち、変質等を防ぎつつ、三次元の網目状構造を維持できるため、上記湿潤ゲルの形状を保った乾燥ゲルが得られる。
さらに、凍結乾燥装置を用いることにより、湿潤ゲルを短時間で乾燥することができると共に、乾燥ゲルの製造コストを低減化することができる。
凍結乾燥における凍結温度は、通常は−70〜−5℃の範囲であり、好ましくは−30〜−10℃の範囲である。
【0043】
このように、凍結乾燥を実施することにより、形態及び機能的に三次元の網目状構造が有する性状を維持しつつ、湿潤ゲル中の親水性有機溶媒等の液体を除去することができる。
【0044】
2−3.加熱工程
本工程は、前記ゲルを1,000〜3,000℃の温度条件下で加熱することにより、平均孔径1〜10μmの細孔、及び平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える多孔質炭素材料を製造する工程である。
【0045】
上記ゲル調製工程により得られたゲル、好ましくは溶媒交換工程及び乾燥工程を経て得られた乾燥ゲルを、1,000〜3,000℃の温度条件下で加熱することにより、本発明の多孔質炭素材料を製造することができる。加熱温度が1,000℃未満である場合には、多孔質炭素材料の一体化が十分に進行せず、強度が弱くなるおそれがある。また、加熱温度が3,000℃を超える場合には、加熱条件が苛烈すぎるため、得られる多孔質炭素材料中にひび割れが生じるおそれがある。焼成(炭化)温度は、好適には1,500〜3000℃の範囲であり、より好適には2,000〜2,500℃の範囲である。焼成時間は、通常は数分間〜数時間の範囲である。
温度以外の加熱条件は特に限定されないが、不活性ガス雰囲気中で焼成(炭化)することが好ましい。焼成(炭化)時の不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、水素等が好ましい。
【0046】
このように、(1)混合工程、(2)ゲル調製工程、及び(3)加熱工程を経ることにより、カーボンゾル原料に由来する平均孔径1〜10μmの細孔、及び上記炭素原料に由来する平均孔径50nm以下のメソ細孔を備える多孔質炭素材料を製造することができる。
【0047】
3.空気電池用正極
本発明の空気電池用正極は、上記多孔質炭素材料、及び上記製造方法により製造される多孔質炭素材料の、少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0048】
本発明に係る空気電池用正極は、正極層として上記多孔質炭素材料を含む層を備える。本発明に係る空気電池用正極は、上記多孔質炭素材料を含む層を集電体として用いてもよいし、上記多孔質炭素材料を含む層の他に、正極集電体をさらに備えていてもよい。
【0049】
正極層は、さらに、必要に応じて触媒を含有していても良い。
本発明に使用される正極用の触媒としては、例えば、酸素活性触媒が挙げられる。酸素活性触媒の例としては、例えば、ニッケル、パラジウム及び白金等の白金族;コバルト、マンガン又は鉄等の遷移金属を含むペロブスカイト型酸化物;ルテニウム、イリジウム又はパラジウム等の貴金属酸化物を含む無機化合物;ポルフィリン骨格又はフタロシアニン骨格を有する金属配位有機化合物;酸化マンガン等が挙げられる。正極層における触媒の含有割合としては、特に限定されるものではないが、例えば、正極層全体の質量を100質量%としたとき、0〜90質量%、中でも1〜90質量%であることが好ましい。
電極反応がよりスムーズに行われるという観点から、上述した多孔質炭素材料に触媒が担持されていてもよい。
【0050】
本発明に使用される正極集電体は、正極層の集電を行うものである。正極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、カーボン等を挙げることができる。正極集電体の形状としては、例えば箔状、板状、及びメッシュ(グリッド)状等を挙げることができる。中でも、本発明においては、集電効率に優れるという観点から、正極集電体の形状がメッシュ状であることが好ましい。この場合、通常、正極層の内部にメッシュ状の正極集電体が配置される。さらに、本発明の空気電池は、メッシュ状の正極集電体により集電された電荷を集電する別の正極集電体(例えば箔状の集電体)を備えていても良い。また、本発明においては、後述する電池ケースが正極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
正極集電体の厚さは、例えば10〜1,000μm、中でも20〜400μmであることが好ましい。
【0051】
4.空気電池
本発明の空気電池は、少なくとも正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する電解質層を備える空気電池であって、前記正極は、上記多孔質炭素材料、及び上記製造方法により製造される多孔質炭素材料の、少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0052】
図1は、本発明の空気電池の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明の空気電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
空気電池100は、正極層2及び正極集電体4を備える正極6と、負極活物質層3及び負極集電体5を備える負極7と、正極6及び負極7に挟持される電解質層1を備える。
本発明の空気電池に使用される正極は、上述した通りである。以下、本発明の空気電池を構成する、負極及び電解質層、並びに本発明の空気電池に好適に使用されるセパレータ及び電池ケースについて、詳細に説明する。
【0053】
本発明に使用される負極は、好ましくは負極活物質を含有する負極活物質層を備え、通常、負極集電体、及び当該負極集電体に接続された負極リードをさらに備える。
【0054】
本発明に使用される負極活物質層は、金属材料、合金材料、及びグラファイト等の炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む負極活物質を含有する。負極活物質に用いることができる金属及び合金材料としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素;銀等の第11族元素;アルミニウム等の第13族元素;亜鉛、鉄等の遷移金属;これらの金属を含有する合金;又は、これらの金属を含有する金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物等の化合物;を例示することができる。
リチウム元素を含有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属酸化物としては、例えばリチウムチタン酸化物等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。また、負極活物質層には、固体電解質をコートしたリチウムを用いることもできる。
【0055】
上記負極活物質層は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電性材料及び結着剤の少なくとも一方を含有するものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極活物質層とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質及び結着剤を含有する負極活物質層とすることができる。
【0056】
負極活物質層が含有する結着剤としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。また、負極活物質層における結着剤の含有量は、負極活物質等を固定化できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。結着剤の含有割合は、通常1〜10質量%の範囲内である。
【0057】
負極活物質層が含有する導電性材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料、ペロブスカイト型導電性材料、多孔質導電性ポリマー及び金属多孔体等を挙げることができる。炭素材料は、多孔質構造を有するものであっても良く、多孔質構造を有しないものであっても良い。多孔質構造を有する炭素材料としては、具体的にはメソポーラスカーボン等を挙げることができる。一方、多孔質構造を有しない炭素材料としては、具体的にはグラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバー等を挙げることができる。
【0058】
本発明に使用される負極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば銅、ステンレス、ニッケル、カーボン等を挙げることができる。負極集電体は、これらの内、SUS及びNiを用いることが好ましい。上記負極集電体の形状としては、例えば箔状、板状及びメッシュ(グリッド)状等を挙げることができる。本発明においては、後述する電池ケースが負極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
【0059】
本発明に使用される電解質層は、正極層及び負極活物質層の間に保持され、正極層及び負極活物質層との間で金属イオンを交換する働きを有する。
電解質層には、電解液、ゲル電解質、及び固体電解質等を用いることができる。これらは、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
電解液としては、水系電解液及び非水系電解液を用いることができる。
非水系電解液の種類は、伝導する金属イオンの種類に応じて、適宜選択することが好ましい。例えば、リチウム空気電池に用いる非水系電解液としては、通常、リチウム塩及び非水溶媒を含有したものを用いる。上記リチウム塩としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO及びLiAsF等の無機リチウム塩;LiCFSO、LiN(SOCF(Li−TFSA)、LiN(SO及びLiC(SOCF等の有機リチウム塩等を挙げることができる。上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル(AcN)、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びこれらの混合物等を挙げることができる。非水系電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5〜3mol/kgである。
【0061】
本発明においては、非水系電解液又は非水溶媒として、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(PP13TFSA)、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(P13TFSA)、N−ブチル−N−メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(P14TFSA)、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(DEMETFSA)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TMPATFSA)に代表されるような、イオン性液体等の低揮発性液体を用いても良い。
上記非水溶媒のうち、上記式(I)又は(II)で表される酸素還元反応を進行させるために、酸素ラジカルに安定な電解液溶媒を用いることがより好ましい。このような非水溶媒の例としては、アセトニトリル(AcN)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(PP13TFSA)、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(P13TFSA)、N−ブチル−N−メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(P14TFSA)、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(DEMETFSA)等が挙げられる。これらの非水溶媒は、その高い酸素ラジカル耐性により、目的とする酸素還元反応以外の副反応を抑制することができる。
【0062】
水系電解液の種類は、伝導する金属イオンの種類に応じて、適宜選択することが好ましい。例えば、リチウム空気電池に用いる水系電解液としては、通常、リチウム塩及び水を含有したものを用いる。上記リチウム塩としては、例えばLiOH、LiCl、LiNO、CHCOLi等のリチウム塩等を挙げることができる。
【0063】
本発明に使用されるゲル電解質は、通常、非水系電解液にポリマーを添加してゲル化したものである。例えば、リチウム空気電池の非水ゲル電解質は、上述した非水系電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)又はポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加し、ゲル化することにより得られる。本発明においては、LiTFSA(LiN(CFSO)−PEO系の非水ゲル電解質が好ましい。
【0064】
固体電解質としては、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、及びポリマー電解質等を用いることができる。
硫化物系固体電解質としては、具体的には、LiS−P、LiS−P、LiS−P−P、LiS−SiS、LiS−SiS、LiS−B、LiS−GeS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−SiS−P、LiS−SiS−LiSiO、LiS−SiS−LiPO、LiPS−LiGeS、Li3.40.6Si0.4、Li3.250.25Ge0.76、Li4−xGe1−x等を例示することができる。
酸化物系固体電解質としては、具体的には、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、La0.51Li0.34TiO0.74、LiPO、LiSiO、LiSiO等を例示することができる。
ポリマー電解質は、伝導する金属イオンの種類に応じて、適宜選択することが好ましい。例えば、リチウム空気電池のポリマー電解質は、通常、リチウム塩及びポリマーを含有する。リチウム塩としては、上述した無機リチウム塩及び有機リチウム塩の少なくともいずれか1つを使用できる。ポリマーとしては、リチウム塩と錯体を形成するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0065】
本発明の空気電池は、正極及び負極の間に、セパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製の多孔膜;及びポリプロピレン等の樹脂製の不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
セパレータに使用できるこれらの材料は、上述した電解液を含浸させることにより、電解液の支持材として使用することもできる。
【0066】
本発明の空気電池は、通常、正極、負極、及び電解質層等を収納する電池ケースを備えることが好ましい。電池ケースの形状としては、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。電池ケースは、大気開放型の電池ケースであっても良く、密閉型の電池ケースであっても良い。大気開放型の電池ケースは、少なくとも正極層が十分に大気と接触可能な構造を有する電池ケースである。一方、電池ケースが密閉型電池ケースである場合は、密閉型電池ケースに、気体(空気)の導入管及び排気管が設けられることが好ましい。この場合、導入・排気する気体は、酸素濃度が高いことが好ましく、乾燥空気や純酸素であることがより好ましい。また、放電時には酸素濃度を高くし、充電時には酸素濃度を低くすることが好ましい。
電池ケース内には、電池ケースの構造に応じて、酸素透過膜や、撥水膜を設けてもよい。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、この実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
1.空気電池用正極の製造
[実施例1]
まず、レゾルシノール、ホルムアルデヒド、炭酸ナトリウム、及び水をそれぞれ所定量混合し、RFゾルを調製した(カーボンゾル原料)。次に、RFゾル及びケッチェンブラック(KB)を、RFゾル:KB=75質量%:25質量%となるように混合し、当該混合物中に、さらにポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子及びエタノールを所定量混合した(混合工程)。
得られた混合物を、型に流し込み(molding)、かつゲル化(gelation)した後に、熟成させることにより(aging)、タブレット状のRFハイドロゲルが得られた(ゲル調製工程)。
ここで、タブレット状のRFハイドロゲルを所定量のt−ブチルアルコール(TBA)中に浸漬させることにより、タブレット状RFハイドロゲル中の溶媒を、エタノールからTBAに置換した(溶媒置換工程)。
溶媒置換後のタブレット状RFハイドロゲルを、−10℃で凍結乾燥することにより、RFクライオゲルが得られた(凍結乾燥工程)。
RFクライオゲルを1,000℃で熱処理し、炭化させた(加熱工程)。得られた炭化物を800μmの厚さに加工することにより、実施例1の空気電池用正極を製造した。
【0069】
[実施例2]
実施例1と同様に、混合工程、ゲル調製工程、溶媒置換工程、凍結乾燥工程、及び加熱工程を実施した。得られた炭化物を500μmの厚さに加工することにより、実施例2の空気電池用正極を製造した。
【0070】
[実施例3]
実施例1と同様に、混合工程、ゲル調製工程、溶媒置換工程、凍結乾燥工程、及び加熱工程を実施した。得られた炭化物を200μmの厚さに加工することにより、実施例3の空気電池用正極を製造した。
【0071】
[比較例1]
まず、導電性材料としてケッチェンブラック(KB)を、結着剤としてPTFEを、それぞれ用意した。これらの材料を、KB:PTFE=10質量%:90質量%の比で混合した。
得られた混合物を、ツインローラーによって圧延することにより、フィルム化した。得られたフィルムを適宜裁断した後、120℃で乾燥させることにより、比較例1の空気電池用正極を製造した。
【0072】
[比較例2]
まず、レゾルシノール、ホルムアルデヒド、炭酸ナトリウム、及び水をそれぞれ所定量混合し、RFゾルを調製した(カーボンゾル原料)。次に、RFゾルに、ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子及びエタノールを所定量混合した(混合工程)。すなわち、本比較例2においては、実施例1と異なり、混合物中にケッチェンブラックを混ぜなかった。
あとは、実施例1と同様に、ゲル調製工程、溶媒置換工程、凍結乾燥工程、及び加熱工程を実施した。得られた炭化物を800μmの厚さに加工することにより、比較例2の空気電池用正極を製造した。
【0073】
[比較例3]
比較例2と同様に混合工程を実施した後、実施例1と同様に、ゲル調製工程、溶媒置換工程、凍結乾燥工程、及び加熱工程を実施した。得られた炭化物を500μmの厚さに加工することにより、比較例3の空気電池用正極を製造した。
【0074】
2.SEMによる断面形態観察
SEMにより、実施例1の空気電池用正極の断面形態を観察した。測定の詳細は以下の通りである。
SEM:日立ハイテク製、製品番号SU8030
加速電圧:1kV
エミッション電流:10μA
倍率:5,000倍
【0075】
図2は、実施例1の空気電池用正極の断面SEM画像である。図2から分かるように、実施例1の空気電池用正極の内部には、孔径2〜5μm程度の細孔と、当該細孔よりも非常に小さな孔径を有するメソ細孔が混在している。また、図2から分かるように、実施例1の空気電池用正極は、これら細孔及びメソ細孔が無数に空いているにもかかわらず、一体成型物として形状を維持しており、ひび割れ等が見られない。このように、実施例1の空気電池用正極は、細孔及びメソ細孔を内部に無数に確保する一体成型物であることが分かる。
【0076】
3.リチウム空気電池の製造
[実施例4]
正極として、上記実施例1の空気電池用正極を用いた。
負極集電体としてSUS304箔(株式会社ニラコ製)を用意し、当該SUS箔の片面側にリチウム金属(本城金属製)を貼り合わせて、負極を作製した。
N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(関東化学株式会社製、DEMETFSA)に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(キシダ化学株式会社製、LiTFSA)を0.35mol/kgの濃度となるように溶解させた。得られた溶液について、アルゴン雰囲気下で24時間攪拌混合したものを電解液とした。ポリオレフィン製セパレータに当該電解液を浸漬させたものを電解質層とした。当該電解質層を、気泡が入らないように、上記正極と負極によって、重力方向略下側から、負極集電体、リチウム金属、電解質層、及び実施例1の空気電池用正極の順となるように挟持し、実施例4のリチウム空気電池を製造した。以上の工程は、全て窒素雰囲気下のグローブボックス内で行った。
実施例4のリチウム空気電池は、ガス置換コック付ガラスデシケーター内に配置した。当該ガラスデシケーターのガス置換コックに酸素ボンベを接続して、実施例4のリチウム空気電池内に純酸素(大陽日酸株式会社製、純度:99.9%)を導入した。
【0077】
[実施例5]
実施例4において、実施例1の空気電池用正極の替わりに実施例2の空気電池用正極を用いたこと以外は、実施例4と同様の材料を用いて、実施例5のリチウム空気電池を製造した。なお、実施例5のリチウム空気電池には、実施例4のリチウム空気電池と同様の態様により純酸素を導入した。
【0078】
[実施例6]
実施例4において、実施例1の空気電池用正極の替わりに実施例3の空気電池用正極を用いたこと以外は、実施例4と同様の材料を用いて、実施例6のリチウム空気電池を製造した。なお、実施例6のリチウム空気電池には、実施例4のリチウム空気電池と同様の態様により純酸素を導入した。
【0079】
[比較例4]
実施例4において、実施例1の空気電池用正極の替わりに比較例1の空気電池用正極を用いたこと以外は、実施例4と同様の材料を用いて、比較例4のリチウム空気電池を製造した。なお、比較例4のリチウム空気電池には、実施例4のリチウム空気電池と同様の態様により純酸素を導入した。
【0080】
[比較例5]
実施例4において、実施例1の空気電池用正極の替わりに比較例2の空気電池用正極を用いたこと以外は、実施例4と同様の材料を用いて、比較例5のリチウム空気電池を製造した。なお、比較例5のリチウム空気電池には、実施例4のリチウム空気電池と同様の態様により純酸素を導入した。
【0081】
[比較例6]
実施例4において、実施例1の空気電池用正極の替わりに比較例3の空気電池用正極を用いたこと以外は、実施例4と同様の材料を用いて、比較例6のリチウム空気電池を製造した。なお、比較例6のリチウム空気電池には、実施例4のリチウム空気電池と同様の態様により純酸素を導入した。
【0082】
4.放電特性評価
実施例4−実施例6及び比較例4−比較例6のリチウム空気電池を、60℃の恒温槽にて3時間静置した後、下記条件にて放電試験を実施し、電池電圧2.4Vにて15分保持後の電流密度の値を測定した。
充放電試験装置:マルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタット(商品名:VMP3、Bio−Logic社製)
電池内温度:60℃
電池内圧力:1気圧
雰囲気:純酸素
【0083】
図3は、実施例4−実施例6及び比較例4−比較例6のリチウム空気電池について、電流密度を比較したグラフである。図3は、縦軸に、電池電圧2.4Vにおける電流密度(mA/cm)を、横軸に空気電池用正極の厚さ(μm)を、それぞれとったグラフである。図3中、三角のプロットは実施例4−実施例6のデータを、菱形のプロットは比較例4のデータを、四角のプロットは比較例5−比較例6のデータを、それぞれ示す。
まず、RFゾルを用いず、ケッチェンブラック及びPTFEバインダーを用いて作製された空気電池用正極(比較例1)を用いた比較例4のリチウム空気電池について検討する。図3から分かるように、比較例4の電流密度は、電圧2.4Vにおいて0.25mA/cmである。
次に、RFゾルを用いるが、カーボンブラックを用いずに作製された空気電池用正極(比較例2−比較例3)を用いた、比較例5及び比較例6のリチウム空気電池について検討する。図3から分かるように、電圧2.4Vにおいて、比較例5の電流密度は0.21mA/cmであり、比較例6の電流密度は0.19mA/cmである。これらの結果から、RFゾル由来の細孔を含むが、メソ細孔を有しない空気電池用正極は、電流密度が0.25mA/cmに満たない。
続いて、RFゾル及びカーボンブラックを用いて作製された空気電池用正極(実施例1−実施例3)を用いた、実施例4−実施例6のリチウム空気電池について検討する。図3から分かるように、電圧2.4Vにおいて、実施例4の電流密度は0.35mA/cmであり、実施例5の電流密度は0.33mA/cmであり、実施例6の電流密度は0.28mA/cmである。
【0084】
以上の結果から、電圧2.4Vにおける電流密度について、実施例4−実施例6のリチウム空気電池は、比較例4のリチウム空気電池よりも0.03mA/cm以上高い。特に、正極の厚さが等しい実施例5と比較例4とを比較すると、その差は0.08mA/cmである。この差は、比較例4に用いられた空気電池用正極(比較例1)が、反応物となる酸素やリチウムの拡散を促進する細孔を有しないため、酸素及びリチウムの拡散が電極反応において律速段階となることにより生じたと考えられる。また、比較例1の空気電池用正極はバインダーを含むため、質量あたりの電極反応場が少なくなり、かつバインダーが反応物の拡散を阻害することも、差が生じた一因であると考えられる。
また、電圧2.4Vにおける電流密度について、実施例4−実施例6のリチウム空気電池は、比較例5−比較例6のリチウム空気電池よりも0.07mA/cm以上高い。特に、正極の厚さが800μmと等しい実施例4と比較例5とを比較すると、その差は0.14mA/cmであり、正極の厚さが500μmと等しい実施例5と比較例6とを比較すると、その差も0.14mA/cmである。これらの差は、比較例5−比較例6に用いられた空気電池用正極(比較例2−比較例3)が、電極反応の反応場となるメソ細孔を有しないため、電極反応の反応効率が低くなることにより生じたと考えられる。
一方、実施例4−実施例6のリチウム空気電池は、電圧2.4Vにおける電流密度がいずれも0.25mA/cmを超える。この結果は、実施例4−実施例6に用いられた空気電池用正極(実施例1−実施例3)が、反応物の拡散を促進する細孔と、反応場となるメソ細孔を併せて備え、かつ、反応物の拡散を阻害するバインダーを用いずに一体成型して作製されたことによって、反応物の拡散が従来の正極よりも促進されることによるものと考えられる。
また、図3から分かるように、実施例4−実施例6のリチウム空気電池は、正極の厚さが厚いほど電流密度が増す傾向にある。したがって、本発明の多孔質炭素材料は、バインダーレスであるにもかかわらず、厚肉化しても性能が落ちることがなく、却って空気電池の放電特性を向上可能なことが分かる。
【符号の説明】
【0085】
1 電解質層
2 正極層
3 負極活物質層
4 正極集電体
5 負極集電体
6 正極
7 負極
8 電池ケース
100 空気電池
図1
図2
図3