【課題】形状が均一であり、厚みが薄く、高アスペクト比を有し、しかも保磁力の小さな平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子の製造方法及び平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子を提供する。
【解決手段】本発明の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子の製造方法は、平板状のニッケル鉄合金粒子をモリブデン粒子と混合して混合物とし、次いで、この混合物を不活性雰囲気下にて加熱し、厚みが1μm以下、長径が10μm以下、平均アスペクト比が2以上、かつ保磁力が60Oe以下の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子を得る。
平板状のニッケル鉄合金粒子をモリブデン粒子と混合して混合物とし、次いで、この混合物を不活性雰囲気下にて加熱することを特徴とする平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子の製造方法。
ニッケルを74質量%以上かつ84質量%以下、モリブデンを0.5質量%以上かつ7質量%以下含有し、残部を鉄及び不可避不純物としたことを特徴とする請求項3記載の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子。
【背景技術】
【0002】
近年、軟磁性の金属粒子は、磁性顔料として有機バインダー中に分散した塗料を塗布して得られる塗膜、あるいは樹脂中に磁性フィラーとして分散した軟磁性金属/樹脂複合体、等として様々な分野で用いられている。
塗膜としては、磁気シールド膜が挙げられ、電気機器の電子回路や電子部品を外部磁界から保護する目的、あるいは電子機器から生じる磁界が外部へ漏洩するのを防止する目的のために用いられている。また、この磁気シールド膜は、クレジットカード等の磁気カードにおいても、データの偽造や変造を防止する目的で用いられている。
さらに、RFIDシステムのICタグにおいても、軟磁性金属の高透磁率による磁界収束効果を応用した電磁シールド膜が用いられている。
【0003】
一方、軟磁性金属/樹脂複合体は、高透磁率による波長短縮効果によりアンテナの小型化や電子回路の消費電力の削減が可能であることから、小型アンテナ基板や高周波電子回路基板に用いられている。
このような軟磁性金属としては、センダスト(登録商標)と称されるAl−Si−Fe系合金(特許文献1)、あるいはパーマロイ(商品名)と称されるNi−Fe系合金(特許文献2)等の高透磁率合金が用いられている。
また、軟磁性の金属粒子としては、厚みが1μm以下の平板形状であることが求められており、扁平状、鱗片状、フレーク状等、様々な平板形状の軟磁性金属粒子が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)
【0004】
これらの平板形状の軟磁性金属粒子は、塗膜や軟磁性金属/樹脂複合体の表面平滑性を高めるだけでなく、塗料を塗布する際あるいは軟磁性金属/樹脂複合体を成形する際に外部磁場をかけることで、平板形状の軟磁性金属粒子が特定方向に平行に整列(配向)させ、面方向の反磁場係数を低くし、配向方向の透磁率を高めることができる。また、厚みが1μm以下であることから、表皮効果により交流電流を透過させることができ、渦電流による損失を低減することができる。
【0005】
このような平板状軟磁性粒子の製造方法としては、金属イオンを含む溶液を還元することにより球状の軟磁性金属粒子を合成し、この球状の軟磁性金属粒子をボールミル等を用いて混合しつつ機械的に凝着させることにより、厚みが1μm以下、粒子径が5μm以下、アスペクト比が2以上の平板状軟磁性金属粒子を得る方法が提案されている(特許文献4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の高透磁率合金として知られるNi−Fe系の合金においては、磁気異方性が0であることに起因して低い保磁力を示すことが知られている。しかしながら、金属イオンを含む溶液を還元して球状の軟磁性金属粒子を合成する方法のように、比較的低温で合成された場合には、アトマイズ法のような高温で合成された磁性粒子と比べて、Ni3Fe規則格子と称される結晶相の生成が多くなり、それに伴って、磁気異方性が発現し、保磁力が増大するという問題点があった。
例えば、アトマイズ法のような高温で合成されたNi−Fe系合金粒子の保磁力が5〜30Oeであるのに対し、金属イオンを含む溶液を還元する方法のような低温で合成されたNi−Fe系合金粒子の保磁力は70〜90Oeと大きな値になってしまう。
一方、高温にて合成した粒子は、粒子径が1μm以上と大きいことにより、渦電流損失が発現するという問題点があった。
【0008】
保磁力の増大は、磁場と磁化の関係を示す曲線中のヒステリシス部分の面積を大きくすることとなり、その結果、上述したような小型アンテナ基板や高周波電子回路基板においては、ヒステリシス損失が大きくなってしまうという問題点が生じることとなる。
したがって、平板状Ni−Fe系合金粒子においても、Ni3Fe規則格子の生成を抑制して、保磁力を低下させることが望まれている。
また、Ni−Fe系合金では、Ni3Fe規則格子と称される結晶相の生成を抑制するには、モリブデン(Mo)を約5質量%添加することが効果的であるといわれているが、モリブデン(Mo)を金属イオンから還元することは、通常の還元剤を使用する限りにおいては困難である。さらに、還元剤を選択することにより球状のモリブデンニッケル鉄合金粒子が得られたとしても、モリブデン(Mo)自体が硬い金属であることから、粒子同士の凝着が困難であり、その結果、平板状のモリブデンニッケル鉄合金粒子を得ることが難しいという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、形状が均一であり、厚みが薄く、高アスペクト比を有し、しかも保磁力の小さな平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子の製造方法及び平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、平板状のニッケル鉄合金粒子をモリブデン粒子と混合して混合物とし、次いで、この混合物を不活性雰囲気下にて加熱することとすれば、厚みが1μm以下、長径が10μm以下、アスペクト比が2以上、かつ保磁力が60Oe以下の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子を容易に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子の製造方法は、平板状のニッケル鉄合金粒子をモリブデン粒子と混合して混合物とし、次いで、この混合物を不活性雰囲気下にて加熱することを特徴とする。
【0012】
前記加熱の温度範囲は、450℃以上かつ650℃以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子は、本発明の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子の製造方法により得られた平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子であって、厚みは1μm以下、長径は10μm以下、アスペクト比は2以上、かつ保磁力は60Oe以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子では、ニッケルを74質量%以上かつ84質量%以下、モリブデンを0.5質量%以上かつ7質量%以下含有し、残部を鉄及び不可避不純物としたことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子の製造方法によれば、平板状のニッケル鉄合金粒子をモリブデン粒子と混合して混合物とし、次いで、この混合物を不活性雰囲気下にて加熱するので、厚みが1μm以下、長径が10μm以下、アスペクト比が2以上、かつ保磁力が60Oe以下の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子を、効率よく、工業的規模で、廉価に製造することができる。
【0016】
本発明の平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子によれば、厚みを1μm以下、長径を10μm以下、アスペクト比を2以上、かつ保磁力を60Oe以下としたので、有機バインダーや有機高分子等に対する分散性を向上させることができる。
また、この平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子を、塗膜、あるいはモリブデンニッケル鉄合金粒子/樹脂複合体に適用した場合、この平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子の保磁力が小さいことから、ヒステリシス損失を小さくすることができる。
さらに、この平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子を、小型アンテナ基板や高周波電子回路基板に適用した場合、この平板状モリブデンニッケル鉄合金粒子が平板状であることから、透磁率を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の平板状モリブデンニッケル鉄合金(Mo−Ni−Fe合金)粒子の製造方法及び平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
[平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の製造方法]
本実施形態の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の製造方法は、平板状のニッケル鉄合金(Ni−Fe合金)粒子をモリブデン(Mo)粒子と混合して混合物とし、次いで、この混合物を不活性雰囲気下にて加熱する方法である。
本実施形態における「平板状」とは、扁平状、鱗片状、フレーク状、薄板状等、厚みが薄い板状のものを全て含む。
【0019】
次に、本実施形態の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の製造方法について、詳細に説明する。
まず、平板状Ni−Fe合金粒子をMo粒子と混合して混合物とする。
ここで、平板状のNi−Fe合金粒子の厚みは0.7μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下であり、その長径は、7μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下であり、さらにアスペクト比(長径/厚み)は、2以上が好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上である。
【0020】
この平板状Ni−Fe合金粒子の形状は、最終的な平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の形状に対して、厚み及び長径が小さいほうが好ましい。その理由は、混合物を不活性雰囲気下にて加熱することにより、平板状Ni−Fe合金粒子同士が焼結したり、あるいは平板状Ni−Fe合金粒子とMo粒子との反応により、得られる平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の厚み及び長径が大きくなるからである。
この平板状Ni−Fe合金粒子を得る方法としては、例えば、上述した特許文献4に記載されている方法があるが、他の既知の方法でもかまわない。
【0021】
この平板状Ni−Fe合金粒子の厚み及び長径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて、複数個の平板状Ni−Fe合金粒子それぞれの厚み及び長径、例えば、100個以上、好ましくは500個の平板状Ni−Fe合金粒子それぞれの厚み及び長径を測定し、これらの厚み及び長径各々の平均値を算出することで求めることができる。
また、この平板状Ni−Fe合金粒子のアスペクト比(長径/厚み)は、複数個の平板状Ni−Fe合金粒子それぞれの厚み及び長径から、平板状Ni−Fe合金粒子それぞれのアスペクト比(長径/厚み)を算出し、さらに、これらのアスペクト比(長径/厚み)の平均値を算出することで求めることができる。
【0022】
Mo粒子の形状は、球状でも平板状でもかまわないが、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以下である。
その理由は、粒子径が小さいほど表面積が大きくなり、よって表面活性が高くなり、その結果、平板状Ni−Fe合金粒子との加熱による合金化反応が生じ易くなり、最終的に得られる平板状Mo−Ni−Fe合金粒子が粗大化し易くなり、よって、所望の形状の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子が得られなくなるからである。
このMo粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて、複数個のMo粒子それぞれの粒子径、例えば、100個以上、好ましくは500個のMo粒子それぞれの粒子径を測定し、これらの粒子径の平均値を算出することで求めることができる。
【0023】
平板状Ni−Fe合金粒子とMo粒子との混合は、これらの粒子が均一に分散・混合する方法であればよく、一般的なボールミル、高速撹拌機、混練機等の混合方法が好適に用いられる。
この混合の際に、分散・混合を効率よく行うためには、分散媒としてアルコール等の有機溶媒を用いることが好ましい。この場合、混合後の有機溶媒の除去をし易くするために、メタノール、エタノール、2−プロパノール等の低沸点有機溶媒を用いることが好ましい。
【0024】
次いで、平板状Ni−Fe合金粒子とMo粒子との混合物を、不活性雰囲気下にて加熱する。
ここで不活性雰囲気としたのは、平板状Ni−Fe合金粒子及びMo粒子それぞれが酸化するのを防止するためである。
不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気があるが、簡単な設備で実施できることから、窒素ガス雰囲気が好ましい。
なお、平板状Ni−Fe合金粒子及びMo粒子それぞれが酸化するのを防止するためには、窒素ガス中に水素ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気、あるいは真空等であってもよい。
【0025】
加熱温度としては、450℃以上かつ650℃以下であることが好ましい。
ここで、加熱温度の範囲を上記の温度範囲とした理由は、450℃未満では、Mo粒子の温度が低すぎてしまい、このMo粒子を構成するMo原子の固相拡散が生ぜず、その結果、平板状Ni−Fe合金粒子とMo粒子との反応が進行せず、平板状Mo−Ni−Fe合金粒子が生成し難くなるので好ましくなく、一方、650℃を超えると、平板状Ni−Fe合金粒子同士、あるいは平板状Ni−Fe合金粒子とMo粒子との焼結が進行し、粒子形状が平板状から球状に変化してしまうので好ましくない。
【0026】
加熱時間については、加熱温度により最適時間が変化するので一概には決められないが、概ね0.5時間以上かつ15時間以下の範囲で、固相拡散の進行度合いに合わせて適宜選択することが好ましい。
この加熱過程にて、Mo粒子を構成するMo原子が平板状Ni−Fe合金粒子の中へ固相拡散し、平板状Mo−Ni−Fe合金粒子が生成する。よって、厚みが1μm以下、長径が10μm以下、アスペクト比(長径/厚みの平均)が2以上、かつ保磁力が60Oe以下の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子が、容易に得られる。
【0027】
[平板状Mo−Ni−Fe合金粒子]
上記の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の製造方法により得られた平板状Mo−Ni−Fe合金粒子は、厚みが1μm以下、長径が10μm以下、平均アスペクト比(長径/厚みの平均)が2以上、かつ保磁力が60Oe以下である。
【0028】
このMo−Ni−Fe合金としては、Niを74質量%以上かつ84質量%以下、Moを0.5質量%以上かつ7質量%以下含有し、残部をFe及び不可避不純物としたMo−Ni−Fe合金が好ましい。
このMo−Ni−Fe合金として最も好ましいのは、Niを79質量%、Moを5質量%、Feを16質量%含むスーパーマロイ(商品名)であるが、78パーマロイ(Ni:78質量%、Fe:22質量%)100質量部に対してMoを0.5〜5質量部添加したMo−Ni−Fe合金も好ましい。
【0029】
この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の厚みは、1μm以下が好ましく、より好ましくは0.7μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。
また、長径は、10μm以下が好ましく、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
さらに、アスペクト比(長径/厚みの平均)は、2以上が好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上である。
【0030】
この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の厚み及び長径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて、複数個の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子それぞれの厚み及び長径、例えば、100個以上、好ましくは500個の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子それぞれの厚み及び長径を測定し、これらの厚み及び長径各々の平均値を算出することで求めることができる。
また、この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子のアスペクト比(長径/厚み)は、複数個の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子それぞれの厚み及び長径から、平板状Mo−Ni−Fe合金粒子それぞれのアスペクト比(長径/厚み)を算出し、さらに、これらのアスペクト比(長径/厚み)の平均値を算出することで求めることができる。
【0031】
この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子は、厚みを1μm以下、長径を10μm以下かつ平均アスペクト比(長径/厚み)を2以上とすることにより、保磁力を60Oe以下、好ましくは55Oe以下、より好ましくは40Oe以下とすることができる。
【0032】
この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子は、外部磁場をかけることにより、その平板状の面内の一方向に沿って、同体積の球状のMo−Ni−Fe合金粒子よりも強く磁化される。よって、その面内の一方向の透磁率が同体積の球状のMo−Ni−Fe合金粒子と比べて格段に大きくなる。これにより、特定方向の磁場に対して、強く磁性を示す高透磁率材料が容易に得られる。
【0033】
この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子は、Mo粒子を構成するMo原子が平板状Ni−Fe合金粒子の中へ固相拡散することにより、Moが合金化されているので、Ni−Fe合金にて生成するNi3Fe規則格子を抑制することができる。したがって、磁気異方性が0に近いままで、保磁力を小さくすることができる。
【0034】
この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を樹脂等の非磁性材料中にフィラーとして配向分散させることにより、高透磁率かつ低保磁力のMo−Ni−Fe合金粒子/樹脂複合体が得られる。
また、この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を非極性の溶媒中に分散させることにより、塗料やペーストとすることが可能である。このような塗料やペーストは、電子機器の筐体やICタグ(RFIDシステム)等に塗布して磁気シールド膜や磁力性集中膜を形成することにより、これら電気機器やICタグ(RFIDシステム)等に磁気シールド性や磁力線の集中性を付与することも可能である。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の平板状平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の製造方法によれば、平板状のNi−Fe合金粒子をMo粒子と混合して混合物とし、次いで、この混合物を不活性雰囲気下、450℃以上かつ650℃以下の加熱温度にて加熱するので、厚みが1μm以下、長径が10μm以下、アスペクト比が2以上、かつ保磁力が60Oe以下の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を、効率よく、工業的規模で、廉価に製造することができる。
【0036】
本実施形態の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子によれば、厚みを1μm以下、長径を10μm以下、アスペクト比を2以上、かつ保磁力を60Oe以下としたので、有機バインダーや有機高分子等に対する分散性を向上させることができ、よって、高透磁率かつ低保磁力のMo−Ni−Fe合金粒子/樹脂複合体を容易に得ることができる。
また、この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を非極性の溶媒中に分散させることにより、塗料やペーストとすることができ、電気機器やICタグ(RFIDシステム)等に磁気シールド性や磁力線の集中性を付与する際に好適である。
【0037】
また、この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を、塗膜、あるいはMo−Ni−Fe合金粒子/樹脂複合体に適用した場合、この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の保磁力が小さいことから、ヒステリシス損失を小さくすることができる。
さらに、この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を、小型アンテナ基板や高周波電子回路基板に適用した場合、この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子が平板状であることから、透磁率を高くすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
78パーマロイ(Ni:78質量%、Fe:22質量%)で、厚みが0.12μm、長径が1.2μm、アスペクト比が10の平板状Ni−Fe合金粒子と、平均粒子径が1.8μmの球状Mo粒子 TMO−10(アライドマテリアル(株)社製)と、2−プロパノールを質量比で100:5:250となるように秤量して、混練機(シンキー(株)社製)にて15分間混合し、スラリーを作製した。
次いで、このスラリーを、真空乾燥機を用いて80℃にて8時間、乾燥し、混合粉体を得た。
次いで、この混合粉体を、窒素雰囲気中、500℃にて1時間加熱し、実施例1の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を得た。
【0040】
[実施例2]
実施例1と同様にして混合粉体を得た。
次いで、この混合粉体を、窒素雰囲気中、500℃にて12時間加熱し、実施例2の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を得た。
【0041】
[実施例3]
実施例1と同様にして混合粉体を得た。
次いで、この混合粉体を、窒素雰囲気中、500℃にて15時間加熱し、実施例3の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を得た。
【0042】
[実施例4]
実施例1と同様にして混合粉体を得た。
次いで、この混合粉体を、窒素雰囲気中、400℃にて12時間加熱し、実施例4の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を得た。
【0043】
[実施例5]
実施例1と同様にして混合粉体を得た。
次いで、この混合粉体を、窒素雰囲気中、700℃にて1時間加熱し、実施例5の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を得た。
【0044】
[比較例]
実施例1と同様にして混合粉体を得、この混合粉体を比較例の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子とした。
【0045】
[平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の評価]
実施例1〜5及び比較例それぞれの平板状Mo−Ni−Fe合金粒子について評価を行った。評価項目は下記のとおりである。
(1)格子定数
X線回折装置を用いて、平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の粉末X線回折(XRD)パターンを得、この粉末X線回折(XRD)パターンから(100)面のピーク角度(2θ)を得た。そして、このピーク角度(2θ)とブラッグの式
2dsinθ=nλ ……(1)
(但し、λはX線の波長、dは面間隔(=格子定数))
から、平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の格子定数を算出した。
【0046】
(2)保磁力
平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の保磁力(Oe)を、振動試料型磁力計 VSM(ハヤマ社製)を用いて測定した。
(3)形状の測定
平板状Mo−Ni−Fe合金粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像から、この平板状Mo−Ni−Fe合金粒子を100個選択し、これら平板状Mo−Ni−Fe合金粒子それぞれの厚み及び長径を測定し、これらの厚み及び長径各々の平均値を算出した。
また、これらの平板状Mo−Ni−Fe合金粒子それぞれの厚み及び長径から、平板状Mo−Ni−Fe合金粒子それぞれのアスペクト比(長径/厚み)を算出し、さらに、これらのアスペクト比(長径/厚み)の平均値を算出し、平板状Mo−Ni−Fe合金粒子のアスペクト比(長径/厚み)とした。
これらの結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1によれば、実施例1〜3の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子では、比較例の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子と比べて、加熱により格子定数が変化していた。これにより、Mo原子の固相拡散による合金化が生じていることが分かった。これに伴って、保磁力が低下しているものの、平板形状は良好に保持されていることが分かった。以上により、保磁力を低減した平板状Mo−Ni−Fe合金粒子が得られていることが分かった。
【0049】
また、実施例4の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子では、加熱が不十分なことから格子定数が変化しておらず、Mo原子の固相拡散による合金化が不十分であることが分かった。その結果、保磁力が十分に低下していないことが分かった。
実施例5の平板状Mo−Ni−Fe合金粒子では、加熱し過ぎたために粒子の焼結が進行し、その結果、厚み及び長径共に増大し、アスペクト比も2未満であった。