【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
まず、セメントクリンカについて説明する。
本実施形態のセメントクリンカは、3CaO・SiO
2を30質量%以上70質量%以下、11CaO・7Al
2O
3・CaF
2を5質量%以上20質量%以下含み、且つ4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3が5質量%以下である。
【0017】
セメントクリンカ中に含まれる化合物の含有量が前記範囲である場合には、かかるセメントクリンカを含むセメント組成物の流動性を比較的長時間保持できると同時に、比較的短時間で硬化体の強度を所望の範囲にさせることができる。
【0018】
より具体的には、本実施形態のセメントクリンカは、3CaO・SiO
2(以下C
3Sともいう。)が30質量%以上70質量%以下、好ましくは、30質量%を超えて70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以上70質量%以下含まれている。
また、本実施形態のセメントクリンカは、11CaO・7Al
2O
3・CaF
2(以下C
11A
7CaF
2ともいう。)が5質量%以上20質量%以下、好ましくは5質量%以上15質量%以下含まれている。
さらに、本実施形態のセメントクリンカは、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3(以下、C
4AFともいう。)が5質量%以下、好ましくは0質量%を超えて5質量%以下含まれている。
【0019】
本実施形態のセメントクリンカは、さらに、2CaO・SiO
2(以下、C
2Sともいう。)が5質量以上50質量%以下、好ましくは10質量%以上45質量%以下程度含まれていてもよい。
【0020】
本実施形態のセメントクリンカは、さらに、3CaO・Al
2O
3(以下、C
3Aともいう。)の含有量が5質量%未満であることが好ましい。
セメントクリンカ中に含まれるC
3Aの含有量が5質量%未満である場合には、C
11A
7CaF
2の含有量が前記範囲になるようにセメントクリンカの製造条件を調整しやすくなるため好ましい。
【0021】
尚、本実施形態において、前記各セメントクリンカ中のC
11A
7CaF
2、C
3S、C
2S、C
3A、C
4AF等の化合物の組成は、セメントクリンカ中のCaO、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3の含有量からBogueの計算式に基づき算出することができる。
また、セメントクリンカ中のCaO、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3の含有量は、JIS R 5202「セメントの化学分析方法」によって測定することができる。
【0022】
本実施形態のセメントクリンカは、遊離酸化カルシウム(遊離石灰:f−CaO)の含有量が1質量%未満であってもよい。
遊離酸化カルシウムの含有量は、セメントクリンカの焼成状態の指標であり、少ないほど焼成状態が良好であることを示している。
遊離酸化カルシウムの含有量が前記量の範囲であることで、硬化体とした場合の強度の低下を抑制することができる。
【0023】
尚、本実施形態において、セメントクリンカ中の遊離酸化カルシウムの含有量は、セメント協会標準試験方法 JCAS I−01−1997 遊離酸化カルシウムの測定方法(エチレングリコール法)に従って測定した含有量をいう。
【0024】
本実施形態のセメントクリンカは、例えば、各種クリンカ原料を混合し、焼成することで得ることができる。
クリンカ原料は、特に限定されるものではなく、通常のポルトランドセメント用のクリンカ原料として用いられる石灰石、生石灰、消石灰等のCaO源、珪石、粘土等のAl
2O
3源、鉄滓、鉄ケーキ等のFe
2O
3源、蛍石、下水汚泥等のフッ素源等が挙げられる。
さらに、クリンカ原料として、産業廃棄物、一般廃棄物、建設発生土等を用いても良い。
産業廃棄物としては、例えば、高炉スラグ;石炭灰;生コンスラッジ、下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等の各種汚泥;廃石膏ボート等の石膏廃材;ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰、建設廃材、コンクリート廃材などが挙げられる。
一般廃棄物としては、例えば下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。
建設発生土としては、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土、さらには廃土壌等が挙げられる。
【0025】
前記各クリンカ原料の配合は、前述のような化学組成になるように適宜決定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、クリンカを1t製造する場合、主にCaO源としての石灰石を900〜1200kg、主にSiO
2源としての珪石を100〜300kg、主にAl
2O
3源とFe
2O
3源としてのボーキサイトを50〜150kg、主にフッ素源としての蛍石を2〜15kg程度混合することが好ましい。
【0026】
前記クリンカ原料を、例えば、粉砕し混合することで混合原料として、該混合原料を予備加熱し、さらに焼成炉で焼成し、冷却することでセメントクリンカを製造することができる。
焼成は、通常、電気炉やロータリーキルン等を用いて行われる。
ロータリーキルンを用いて焼成する場合の焼成温度は、例えば、1200℃以上1400℃以下、好ましくは1300℃以上1350℃以下であることが好ましい。
【0027】
本実施形態のセメントクリンカは、前述のような化合物の組成であるため、石膏と混合してセメントとした場合に、添加剤等を配合しなくても、流動性を比較的長時間保持でき、且つ比較的短時間で所望の強度が得られる。
【0028】
次に、本実施形態のセメント組成物について説明する。
本実施形態のセメント組成物は、前述のようなセメントクリンカと、石膏とが含まれている。すなわち、本実施形態のセメントクリンカと石膏とを混合して、粉砕することなどにより、本実施形態のセメント組成物を製造することができる。
【0029】
石膏としては、二水石膏、半水石膏、無水石膏等が挙げられる。
また、石膏は、二水石膏の一種である排煙脱硫酸石膏やチタン石膏、無水石膏の一種であるフッ酸無水石膏のような産業廃棄物から得られる石膏であってもよい。これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
特に、無水石膏がクリンカ中に含まれる化合物(鉱物)との反応性の観点から好ましい。
【0030】
本実施形態のセメント組成物における石膏は、例えば、SO
3/Al
2O
3のモル比が0.9以上2.4以下、好ましくは1.0以上2.0以下となるように含まれている。
セメント組成物におけるSO
3/Al
2O
3のモル比が前記範囲である場合には、セメント組成物の流動性がより長時間保持できると同時に、比較的短時間でのセメント硬化体の強度発現性を向上させることができる。
尚、SO
3/Al
2O
3のモル比は、JIS R 5202「セメントの化学分析方法」によって測定したSO
3とAl
2O
3の値から算出する。
【0031】
本実施形態のセメント組成物は、例えば、セメントクリンカ及び石膏をボールミル等の粉砕装置を用いて所望のブレーン値に調整されていてもよい。
本実施形態のセメント組成物のブレーン値は、例えば、2500〜7000cm
2/g程度であることが好ましい。
ブレーン値が前記範囲である場合には、流動性がより長時間保持でき、且つ、粉砕コストが抑制できるため好ましい。
【0032】
本実施形態のセメント組成物には、さらに、公知の混和材、混和剤が含まれていてもよい。
混和材としては、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、高炉フューム、高炉水砕スラグ微粉末、膨張材、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
混和剤としては、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。
【0033】
本実施形態のセメント組成物には、さらに骨材が含まれていてもよい。
骨材としては、公知の細骨材もしくは粗骨材のうちのいずれか一方、または、両方とも含まれていても良い。
前記粗骨材としては、例えば、砕石、川砂利、天然軽量粗骨材(パーライト、ヒル石等)、副産軽量粗骨材、人工軽量粗骨材、再生骨材等が挙げられる。
前記細骨材としては、例えば、川砂、山砂、海砂、天然軽量細骨材(パーライト、ヒル石等)等の天然細骨材や砕砂、人工軽量細骨材、高炉スラグ細骨材等の人工細骨材、副産軽量細骨材等が挙げられる。
【0034】
前記骨材については、例えば、セメント組成物をモルタル硬化体に用いる場合には細骨材を、セメント100質量部に対して50〜600質量部、好ましくは200〜400質量部程度配合することが好ましい。
セメント組成物をコンクリート硬化体に用いる場合には細骨材を、セメント100質量部に対して100〜600質量部、好ましくは200〜400質量部程度、粗骨材を、セメント100質量部に対して200〜700質量部、好ましくは300〜500質量部程度、配合することが好ましい。
骨材の配合量が前記範囲であることが、流動性確保および材料分離抑制の観点から好ましい。
【0035】
次に、前述のようなセメント組成物を用いて、セメント硬化体を得る方法について説明する。
まず、セメント組成物に水を添加して、混練する。添加する水の量は、例えば、セメント硬化体をコンクリートやモルタルとして用いる場合には、W/C(水/セメント比率)=20〜60質量%となるような量であることが好ましい。
【0036】
次いで、前記混合物に水の全量を添加し終えたら直ちに混練を開始する。
混練は、例えば、公知の混練装置、例えば、二軸強制ミキサーND55型、太平洋機工社製を用いて行なうことができる。
このようにしてセメント組成物を混練することでコンクリートやモルタルが得られる。
【0037】
本実施形態のセメント組成物から得られたコンクリートやモルタルは、混練直後から比較的長時間、例えば、混練からコンクリートやモルタルを打設するまでの間、通常であれば、5〜90分間程度、流動性を保持することができる。
【0038】
本実施形態のセメント組成物を用いたモルタルは、例えば、混練直後から60分間以内、好ましくは90分間以内のフロー値が150mm以上、好ましくは250mm以上であるような流動性を有する。
尚、本実施形態におけるフロー値とは、JIS R 5201に準拠した方法によって測定されるフロー値をいう。
【0039】
従って、本実施形態のセメント組成物を用いたセメントペーストは、通常のコンクリートと同様に生コン工場において製造され、施工する現場まで運搬された場合でも、流動性は保持され、施工作業が容易に行なえる。
【0040】
本実施形態のセメント組成物から得られたセメント硬化体は、硬化開始から比較的短時間、例えば、9〜12時間程度で、曲げ強度3.5N/mm
2以上、好ましくは5N/mm
2以上程度の強度が得られる。
従って、例えば、本実施形態のセメント組成物を、供用中の道路の補修に用いられるコンクリートやモルタルに用いる場合には、短時間で交通を再開することができる。
尚、本実施形態における曲げ強度とは、JIS R 5201に従って測定される曲げ強度をいう。
【0041】
さらに、本実施形態のセメントクリンカは前述のような化合物の組成であるため、セメント組成物とした場合に、添加剤を配合したり、非常に細かく粉砕したりしなくても、流動性を比較的長く維持でき且つ比較的短時間で実用強度が得られる。従って、セメント組成物の原料コストや、製造コストを抑制することができる。
【0042】
尚、本実施形態にかかるセメントクリンカ及びセメント組成物は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明する。
二酸化ケイ素(試薬、和光純薬工業社製)、アルミナ(試薬、和光純薬工業社製)、炭酸カルシウム(試薬、和光純薬工業社製)、フッ化カルシウム(試薬、和光純薬工業社製)を、表1に示す配合になるように配合し、ボールミル(装置名:試験用ボールミル、住友大阪セメント社製)にて60分間混合粉砕して、各クリンカ原料(No.1〜16)を製造した。
【0044】
【表1】
【0045】
セメントクリンカの化合物組成を表2に示した。クリンカの化合物組成は、セメントクリンカ中のCaO、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3の含有量からBogueの計算式に基づき算出した。
尚、CaO、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3の含有量は、JIS R 5202「セメントの化学分析方法」によって測定した。
また、セメントクリンカ中の遊離酸化カルシウム(f−CaO)の含有量を、セメント協会標準試験方法 JCAS I−01−1997 遊離酸化カルシウムの測定方法(エチレングリコール法)に従って測定した。
尚、比較例用のセメントとして市販品の超早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)を準備した。比較用のセメント中のセメントクリンカの鉱物組成も、セメント中のCaO、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3の含有量から、クリンカ中のCaO、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3の含有量を算出し、前記Bogueの計算式に基づき算出した。
結果を表2に示した。
【0046】
【表2】
【0047】
次に、前記各クリンカに無水石膏(フッ酸無水石膏、旭化学社製)を、表2に記載のSO
3/Al
2O
3のモル比となるように混合した。その後、ボールミル(装置名:試験用ボールミル、住友大阪セメント社製)を用いて、ブレーン値3600±100cm
2/gとなるまで粉砕して実施例1から11、比較例1乃至5のセメントを製造した。
これらのセメント及び前記市販品のセメントを用いて、表3の配合でモルタルを作製した。
モルタルに使用した原料は以下のとおりである。
高性能AE減水剤:SF500H、フローリック社製
遅延剤:ジェットセッター、住友大阪セメント社製
砂:揖斐川産川砂
尚、水/セメント比を『W/C』と、細骨材セメント比を『S/C%』と、高性能AE減水剤及び遅延剤のセメントの重量に対する質量%を『C×%』として表3に記載した。
【0048】
【表3】
【0049】
実施例1〜11及び比較例1〜6のモルタルは以下のように作製した。
まず、セメント及び細骨材のみをホバートミキサ(JIS R5201準拠品)で30秒混合した後に、他の材料を加えて3分間混練した。
得られたモルタルのフロー(混練直後及び混合終了から90分後)及び曲げ強度を以下の方法で測定した。
【0050】
《フロー値の測定》
各実施例および比較例のモルタルフロー値は、JIS R 5201に準拠した方法で計測した。
判定基準としては、フロー値が150〜249mmを○、250〜300mmを◎、それ以下では×、また300mmを超える場合では骨材とセメントペーストとの材料分離の恐れが発生することから×とした。
【0051】
《曲げ強度の測定》
各実施例および比較例のモルタルを用いてJIS R 5201に準拠した方法で4×4×16cmの供試体を作製し、12時間養生後に脱型して同じくJIS R 5201に準拠した曲げ強さ試験にて測定した。
判定基準としては、曲げ強度が3.5N/mm2以上である場合に○とし、5N/mm
2以上を◎、3.5N/mm
2未満を×とした。
結果を表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
表4に示すとおり、各実施例では、各比較例に比べて、混練終了から90分経過後のフロー値は変化が少なく、すなわち流動性が保持されていた。また、その間のフロー値も150mm以上に保たれていた。
また、各実施例では、硬化体の曲げ強度はいずれも3.5N/mm
2以上であった。