【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0044】
グリセリド組成物中に含まれる3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの低減可能性の検討を行った。
【0045】
<酸性下の暴露条件の検討>
[原料グリセリド組成物1]
常法により精製した大豆・菜種混合精製油(大豆脱色油と菜種脱色油の混合油)1600gに、0.256gのグリシドールの脂肪酸エステル(Glycidol Stearate,東京化成工業株式会社製)と0.192gの3−MCPDの脂肪酸エステル(1−Stearoyl−3−chloropropanediol,和光純薬工業株式会社製)とを添加し、混合して、原料グリセリド組成物1(3−MCPD換算量として85.35ppm)を得た。
【0046】
[比較例1]
原料グリセリド組成物1を減圧下110℃で20分間撹拌して、比較例1のグリセリド組成物を得た。
【0047】
[実施例1]
原料グリセリド組成物1に、該原料グリセリド組成物1の量に対して5質量%の活性炭(リン酸賦活活性炭:CA1,日本ノリット株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌させた後、ろ過により活性炭を除去して、実施例1のグリセリド組成物を得た。
【0048】
[実施例2]
5質量%の活性炭の代わりに、5質量%の活性白土(硫酸処理白土:水澤化学工業株式会社製)を用いる以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例2のグリセリド組成物を得た。
【0049】
[実施例3]
原料グリセリド組成物1に、該原料グリセリド組成物1の量に対して5質量%の活性白土(硫酸処理白土:水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下、常温(28℃)で20分間撹拌させた後、ろ過により活性白土を除去して、実施例3のグリセリド組成物を得た。
【0050】
[原料グリセリド組成物2]
原料グリセリド組成物1と、大豆脱色油とを83:17の重量比で混合し、原料グリセリド組成物2(3−MCPD換算量として14.30ppm)を得た。
【0051】
[実施例4]
原料グリセリド組成物2に、該原料グリセリド組成物2の量に対して5質量%の活性炭(リン酸賦活活性炭:CA1,日本ノリット株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌させた後、ろ過により活性炭を除去して、実施例4のグリセリド組成物を得た。
【0052】
[実施例5]
5質量%の活性炭の代わりに、5質量%の活性白土(硫酸処理白土:水澤化学工業株式会社製)を用いる以外は、実施例4と同様の方法にて、実施例5のグリセリド組成物を得た。
【0053】
[原料グリセリド組成物3]
原料グリセリド組成物1と、大豆脱色油とを86:14の重量比で混合し、原料グリセリド組成物3(3−MCPD換算量として11.65ppm)を得た。
【0054】
[実施例6]
原料グリセリド組成物3に、該原料グリセリド組成物3の量に対して5質量%の活性炭(リン酸賦活活性炭:CA1,日本ノリット株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌させた後、ろ過により活性炭を除去して、実施例6のグリセリド組成物を得た。
【0055】
[実施例7]
5質量%の活性炭の代わりに、5質量%の活性白土(硫酸処理白土:水澤化学工業株式会社製)を用いる以外は、実施例6と同様の方法にて、実施例7のグリセリド組成物を得た。
【0056】
(定量法)
グリセリド組成物中の3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの定量は、ドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))に準拠して行った。この方法では、測定試料を調製する際に、グリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCPDの脂肪酸エステルが3−MCPDに変換されるため、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの全てを遊離3−MCPDとして測定した。
原料グリセリド組成物1〜3、実施例1〜7,及び比較例1のサンプル100mgに、50μLの内部標準物質(3−MCPD−d5 20μg/mL溶液)を加えた後、1mLのナトリウムメトキシド溶液(0.5mol/L メタノール)を加え、室温にて反応させ、エステルのけん化分解を行った。次いで、これに酢酸を微量に含んだ3mLの食塩水(20%)と3mLのヘキサンとを加えて混合した後、ヘキサンを除去した。なお、この際に、グリシドールは3−MCPDに、グリシドールの脂肪酸エステルはエステル結合が切れるとともに3−MCPDに変換される。その後、250μLのフェニルホウ酸水溶液(25%)により誘導体化し、2mLのヘキサンにて抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析装置にて測定した。
上記ガスクロマトグラフ質量分析装置の測定にて得られたクロマトグラムを用い、内部標準である3−MCPD−d5と、3−MCPDのイオン強度を比較することで、グリセリド組成物中のグリシドール、グリシドールの脂肪酸エステル、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステルの総量を遊離3−MCPD換算にて算出した。
【0057】
(GC−MS分析条件)
分析装置:Agilent Technology社製,機種名6890GC
カラム:Restek社製,製品名Rtx−5MS(長さ30m、径0.25mm)
カラム温度:60℃(1分)〜190℃(昇温速度6℃/分)〜280℃(昇温速度20℃/分)
検出器:MS(EI,SIMモード)
スプリットレス:1μL注入
キャリアガス:He
【0058】
【表1】
【0059】
無機酸にて賦活した活性炭や硫酸で処理した白土で処理を行うことにより、グリセリド組成物中の3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの総量(3−MCPD換算量)が、著しく低減することが確認された(表1:実施例1〜7,原料トリグリセリド組成物1〜3、比較例1)。なお、グリセリド組成物に添加したグリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCの量を考慮すると、グリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCPDが低減したことは明らかである。
【0060】
[原料グリセリド組成物4]
常法により精製した大豆・菜種混合油(大豆脱色油と菜種脱色油の混合油)160gに、20.8mgのグリシドールの脂肪酸エステル(Glycidol Stearate,東京化成工業株式会社製)と16.0mgの3−MCPDの脂肪酸エステル(1−Stearoyl−3−chloropropanediol,和光純薬工業株式会社製)とを添加し、混合して、原料グリセリド組成物4(3−MCPD換算量として70.61ppm)を得た。
【0061】
<酸処理の検討>
[実施例8]
原料グリセリド組成物4に対して、0.025質量%の硫酸を添加し、常圧下150℃で10分間撹拌して、実施例8のグリセリド組成物を得た。
【0062】
【表2】
【0063】
硫酸により酸処理したグリセリド組成物は、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの総量(3−MCPDの換算量)が著しく低減することが確認された(表2:実施例8)。なお、グリセリド組成物に添加したグリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCPDの脂肪酸エステルの量を考慮すると、両者が低減したことは明らかである。
【0064】
<脱臭条件の検討>
[実施例9]
原料グリセリド組成物1のグリセリド組成物に対して、水蒸気(合計量:グリセリド組成物量に対して3質量%)を吹き込みながら減圧下(4torr)、210℃で90分間、脱臭を行い、実施例9のグリセリド組成物を得た。
【0065】
【表3】
【0066】
3−MCPD換算量の算出は、上記定量法の記載に従った。低温で脱臭処理を行うことにより、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの総量の減少が確認された(表3:実施例9)
【0067】
<脱臭条件及び酸価と加熱処理条件の検討>
ジグリセリドを多く含有するグリセリド組成物を調製し、これを活性白土で処理することにより、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの合計含有量を低減させたものを試料とした。そして、加熱処理における温度と遊離脂肪酸添加の有無とが、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの生成抑制に及ぼす影響について検討した。
【0068】
[原料グリセリド組成物5]
常法により精製した大豆脱色油と菜種脱色油の混合油をリパーゼで部分加水分解し、分子蒸留した。更に、250℃にて1.5時間脱臭したグリセリド組成物に対して、5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、原料グリセリド組成物5(グリセリド組成は、モノグリセリド0.6重量%、ジグリセリド88.7重量%、トリグリセリド10.7重量%、3−MCPD換算量として0.76ppm)を得た。
【0069】
[実施例10]
グリセリド組成物5(グリセリド組成物の酸価:0.2)を常圧下、220℃にて90分処理し、実施例10のグリセリド組成物を得た。
【0070】
[実施例11]
グリセリド組成物の酸価が5.8になるようにパルミチン酸を添加する以外は、実施例10と同様の方法にて、実施例11のグリセリド組成物を得た。
【0071】
[実施例12]
グリセリド組成物の酸価が10.9になるようにパルミチン酸を添加する以外は、実施例10と同様の方法にて、実施例12のグリセリド組成物を得た。
【0072】
[実施例13]
温度を230℃とする以外は、実施例10と同様の方法にて、実施例13のグリセリド組成物を得た。
【0073】
[実施例14]
温度を230℃とする以外は、実施例11と同様の方法にて、実施例14のグリセリド組成物を得た。
【0074】
[実施例15]
温度を230℃とする以外は、実施例12と同様の方法にて、実施例15のグリセリド組成物を得た。
【0075】
[比較例2]
温度を240℃とする以外は、実施例10と同様の方法にて、比較例2のグリセリド組成物を得た。
【0076】
[実施例16]
温度を240℃とする以外は、実施例11と同様の方法にて、実施例16のグリセリド組成物を得た。
【0077】
[実施例17]
温度を240℃とする以外は、実施例12と同様の方法にて、実施例17のグリセリド組成物を得た。
【0078】
【表4】
【0079】
3−MCPD換算量の算出は、上記定量法の記載に従った。加熱処理において、温度が低いほど、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの総量(3−MCPDの換算量)が抑えられていた(表3:原料グリセリド組成物5、実施例10〜17、比較例2)。脱臭処理のような高温処理の際に、酸価が5.8又は10.9となるように、パルミチン酸を添加すると、温度に伴う3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの生成が顕著に抑制されることが確認された(表3:実施例10〜12、実施例13〜15、比較例2及び実施例16〜17)。
【0080】
[原料グリセリド組成物6]
常法により抽出した米油をリパーゼで部分加水分解し、脱酸した後、該脱酸した米油に対して、2質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下105℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、脱色した米油を得た。次いで、該脱色した米油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)240℃にて90分間脱臭し、精製油(原料グリセリド組成物6)を得た。なお、原料グリセリド組成物6中のジグリセリド含有量をガスクロマトグラフィー法(AOCS Official Method Cd 11b−91)により測定したところ、7質量%であった。
【0081】
[参考例1]
原料グリセリド組成物6に対して、0.1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油(参考例1のグリセリド組成物)を得た。
【0082】
[実施例18]
原料グリセリド組成物6に対して、0.5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)240℃にて90分間脱臭し、実施例18のグリセリド組成物を得た。
【0083】
[実施例19]
原料グリセリド組成物6に対して、0.5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)230℃にて90分間脱臭し、実施例19のグリセリド組成物を得た。
【0084】
[実施例20]
原料グリセリド組成物6に対して、1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)220℃にて90分間脱臭し、実施例20のグリセリド組成物を得た。
【0085】
[実施例21]
原料グリセリド組成物6に対して、1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)200℃にて90分間脱臭し、実施例21のグリセリド組成物を得た。
【0086】
【表5】
【0087】
3−MCPD換算量の算出は、上記定量法の記載に従った。実施例18〜21は、精製油中の3−MCPD換算量を低減することができ、更に、風味良好な食用油ができることが確認できた。なお、再脱臭温度が低いほど、3−MCPD換算量低減効果が高く、再脱色時の活性白土量は0.5質量%の場合に3−MCPD換算量低減効果が高かった。
【0088】
[原料グリセリド組成物7]
菜種脱色油(日清オイリオグループ株式会社製)を85質量%と、グリセリド組成物5を15質量%とを混合し、得られた混合油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)240℃にて90分間脱臭し、精製油(原料グリセリド組成物7)を得た。なお、原料グリセリド組成物7中のジグリセリド含有量をガスクロマトグラフィー法(AOCS Official Method Cd 11b−91)により測定したところ、13.3質量%であった。
【0089】
[参考例2]
原料グリセリド組成物7に対して、0.1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油(参考例2のグリセリド組成物)を得た。
【0090】
[実施例22]
原料グリセリド組成物7に対して、0.5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)240℃にて90分間脱臭し、実施例22のグリセリド組成物を得た。
【0091】
[実施例23]
原料グリセリド組成物7に対して、0.5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)230℃にて90分間脱臭し、実施例23のグリセリド組成物を得た。
【0092】
[実施例24]
原料グリセリド組成物7に対して、1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)220℃にて90分間脱臭し、実施例24のグリセリド組成物を得た。
【0093】
[実施例25]
原料グリセリド組成物7に対して、1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)200℃にて90分間脱臭し、実施例25のグリセリド組成物を得た。
【0094】
【表6】
【0095】
3−MCPD換算量の算出は、上記定量法の記載に従った。実施例22〜25は、精製油中の3−MCPD換算量を低減することができ、更に、風味良好な食用油ができることが確認できた。なお、再脱臭温度が低いほど、3−MCPD換算量低減効果が高く、再脱色時の活性白土量は0.5質量%の場合に3−MCPD換算量低減効果が高かった。