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特開2015-45023グリセリド組成物及び該グリセリド組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-45023(P2015-45023A)
(43)【公開日】2015年3月12日
(54)【発明の名称】グリセリド組成物及び該グリセリド組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 3/10 20060101AFI20150213BHJP
   C11B 3/00 20060101ALI20150213BHJP
   C11B 3/04 20060101ALI20150213BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20150213BHJP
【FI】
   C11B3/10
   C11B3/00
   C11B3/04
   A23D9/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-229170(P2014-229170)
(22)【出願日】2014年11月11日
(62)【分割の表示】特願2010-175282(P2010-175282)の分割
【原出願日】2010年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2009-206504(P2009-206504)
(32)【優先日】2009年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】村野 賢博
(72)【発明者】
【氏名】中澤 祐人
(72)【発明者】
【氏名】平井 浩
(72)【発明者】
【氏名】有本 真
(72)【発明者】
【氏名】斎田 利典
(72)【発明者】
【氏名】小森 亮平
【テーマコード(参考)】
4B026
4H059
【Fターム(参考)】
4B026DC05
4B026DG04
4B026DG05
4B026DL01
4B026DP10
4H059AA06
4H059BA30
4H059BC13
4H059CA21
4H059CA33
4H059CA72
4H059EA25
(57)【要約】
【課題】グリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの少ないグリセリド組成物、該グリセリド組成物の製造方法、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの含有量を低減する方法、並びにグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの生成を抑制する方法を提供すること。
【解決手段】本発明のグリセリド組成物の製造方法は、3−クロロプロパン−1,2−ジオール、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−クロロプロパン−1,2−ジオール、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理し、
前記脱臭処理前、前記脱臭処理中及び/又は前記脱臭処理後に、前記グリセリド組成物を(1)の方法で酸性下に暴露することを特徴とするグリセリド組成物の製造方法。
(1)前記グリセリド組成物を、0.01〜10質量%のリン酸賦活活性炭、又は、0.001〜0.7質量%の無機酸と100〜180℃で接触させる
【請求項2】
前記グリセリド組成物は精製油である請求項1に記載のグリセリド組成物の製造方法。
【請求項3】
前記無機酸は、硫酸、リン酸、硝酸及び塩酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載のグリセリド組成物の製造方法。
【請求項4】
3−クロロプロパン−1,2−ジオール、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理し、
前記脱臭処理前、前記脱臭処理中及び/又は前記脱臭処理後に、前記グリセリド組成物を(1)の方法で酸性下に暴露することにより、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルを低減又はこれらの生成を抑制する方法。
(1)前記グリセリド組成物を、0.01〜10質量%のリン酸賦活活性炭、又は、0.001〜0.7質量%の無機酸と100〜180℃で接触させる
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリド組成物、グリセリド組成物の製造方法、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの含有量を低減する方法、並びにグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの生成を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油脂の風味や安定性を向上させるための試みが種々、なされている。油脂の風味や安定性といった品質の低下には、様々な要素が関係しており、それぞれの要素に応じた方法が報告されている。例えば、特許文献1には、熱酸化分解物の発生に伴うフライ用油脂の劣化臭を抑制する試みとして、抗酸化剤であるアスコルビン酸等を油脂中に含有させる方法が開示されている。これによれば、アスコルビン酸等の油脂難溶性の有機酸を水溶液の状態で油脂中に添加し、高温・高減圧下で脱水処理をすることで、抗酸化剤を油脂中に含有させることができ、長期間使用しても加熱劣化臭が生じ難い。
【0003】
ところで、3員環のエーテルであるオキシラン構造は、化学的に不安定であり、反応性に富むことが知られており、重合等の化学反応を起こす。また、ハロゲンが結合した3−クロロプロパン類も反応しやすい。一部のグリセリド組成物には、かかるオキシラン構造を有するエポキシドの1種であるグリシドールの脂肪酸エステルが、極微量ではあるが存在し、重合等の化学変化を引き起こす可能性が高い。また、グリシドールの脂肪酸エステルから誘導される可能性のある3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルも同様の化学反応を引き起こす可能性が高い。重合等により劣化した油脂は、フライ時の泡立ちや不快臭を生じるため、その存在は好ましくない。
【0004】
しかしながら、特許文献1のような抗酸化剤を添加する方法では、油脂中にすでに存在するグリシドールの脂肪酸エステル、又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルを低減することはできない。更に、その他の従来法においても、油脂中のグリシドールの脂肪酸エステル、又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルを低減する方法に特化したものは、報告されておらず、その開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/096506号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、グリシドールの脂肪酸エステル、及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの少ないグリセリド組成物、該グリセリド組成物の製造方法、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの含有量を低減する方法、並びにグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの生成を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、3−クロロプロパン−1,2−ジオール、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、特定の温度条件にて脱臭処理したり、更に、酸性下に暴露したり、通常より低温で脱臭したり、酸価を規定の範囲として加熱処理したりすることにより、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステルや3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルが低減すること、また、同じ方法により、同じ官能基を有するグリシドールや3−クロロプロパン−1,2−ジオールの低減も期待できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 3−クロロプロパン−1,2−ジオール、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理することを特徴とするグリセリド組成物の製造方法。
【0009】
(2) 上記グリセリド組成物は、グリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルを含有する(1)に記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0010】
(3) 上記グリセリド組成物は精製油である(1)又は(2)に記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0011】
(4) 上記グリセリド組成物は、酸価が2〜30であり、上記脱臭処理の前に、上記グリセリド組成物を加熱処理する(1)〜(3)いずれかに記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0012】
(5) 上記脱臭処理の前に、上記グリセリド組成物を酸性下に暴露する(1)〜(3)いずれかに記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0013】
(6) 上記脱臭処理の後に、上記グリセリド組成物を酸性下に暴露する(1)〜(3)いずれかに記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0014】
(7) 上記酸性下での暴露は、上記グリセリド組成物を酸性の加工助剤に接触させることである(5)又は(6)に記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0015】
(8) 上記酸性の加工助剤は、活性白土、酸性の活性炭及び無機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である(7)に記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0016】
(9) 上記無機酸は、硫酸、リン酸、硝酸及び塩酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である(8)に記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0017】
(10) 上記酸性下での暴露は、20〜260℃にて行われる(5)〜(9)いずれかに記載のグリセリド組成物の製造方法。
【0018】
(11) (1)〜(10)いずれかに記載の製造方法により得られたグリセリド組成物。
【0019】
(12) ジグリセリドを3質量%以上含有し、且つ、3−クロロプロパン−1,2−ジオール、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を3−クロロプロパン−1,2−ジオール換算量として合計10ppm未満含有することを特徴とするグリセリド組成物。
【0020】
(13) (11)又は(12)に記載のグリセリド組成物を含む食品。
【0021】
(14) 3−クロロプロパン−1,2−ジオール、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理することにより、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルを低減又はこれらの生成を抑制する方法。
【0022】
(15) 3−クロロプロパン−1,2−ジオール、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、酸性下に暴露し、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理する、(14)に記載のグリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルを低減又はこれらの生成を抑制する方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、グリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステルの少ないグリセリド組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明では、グリセリドは、グリセリンに脂肪酸が1〜3個エステル結合したものであり、油脂の主要成分であるトリグリセリド(トリアシルグリセロール)の他、ジグリセリド(ジアシルグリセロール)、モノグリセリド(モノアシルグリセロール)も含むものとする。
【0025】
本発明のグリセリド組成物の製造方法は、3−クロロプロパン−1,2−ジオール(以下、3−MCPDと称する。)、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの脂肪酸エステル(以下、3−MCPDの脂肪酸エステルと称する。)、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理することを特徴とする。すなわち、本発明のグリセリド組成物の製造方法では、(A)3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するグリセリド組成物、(B)ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物、又は(C)3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、且つ、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物のいずれかを100〜240℃の温度条件にて脱臭処理する。上記脱臭処理する前のグリセリド組成物がジグリセリドを3質量%以上含有するものである場合には、ジグリセリドの含有量は、10〜98質量%であることがより好ましく、60〜93質量%であることが更に好ましい。ここで、グリセリド組成物におけるジグリセリドの含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィー法(AOCS Official Method Cd 11b−91)により測定することができる。
【0026】
また、上記脱臭処理する前のグリセリド組成物が3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する場合には、グリセリド組成物中の3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの合計含有量は、後述する分析方法により3−MCPD換算量として3ppm以上であることが好ましく、10ppm以上であることがより好ましく、10〜200ppmであることが更に好ましく、10〜100ppmであることが最も好ましい。なお、本発明のグリセリド組成物の製造方法は、グリシドールの脂肪酸エステルや3−MCPDの脂肪酸エステルを減少させる効果を有するため、上記グリセリド組成物に、グリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−MCPDの脂肪酸エステルが含まれている場合に、より有用である。
また、グリシドールの脂肪酸エステル、3−MCPDの脂肪酸エステルと構造が類似しているグリシドールや3−MCPDは、通常の食用油脂には含まれないが、本発明のグリセリド組成物の製造方法は、グリシドールや3−MCPDについても減少させる効果を有する。
【0027】
本発明においては、グリシドール、グリシドールの脂肪酸エステル、3−MCPD及び3−MCPDの脂肪酸エステルの含有量の測定方法として、これらを3−MCPD換算量として測定するドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))を用いた。
【0028】
具体的には、サンプル油脂を採取し、内部標準物質を加えた後、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液を加え、室温にて反応させ、エステルのけん化分解を行う。次いで、これに酢酸を微量に含んだ食塩水とヘキサンとを加えて混合した後、ヘキサンを除去する。なお、この際に3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール、グリシドールの脂肪酸エステルが、全て3−MCPDに変換される。その後、フェニルホウ酸で誘導体化し、ヘキサンにて抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析装置にて測定する。そして、ガスクロマトグラフ質量分析装置の測定にて得られたクロマトグラムを用い、内部標準と3−MCPDのイオン強度を比較することで、油脂中のグリシドール、グリシドールの脂肪酸エステル、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステルの総量を遊離3−MCPD換算にて算出する。
【0029】
このように、上記ドイツ公定法における測定試料の調製方法では、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール、グリシドールの脂肪酸エステルが、全て3−MCPDに変換される。このため、ドイツ公定法による測定値は、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの合計含有量の3−MCPD換算値となる。なお、被測定物は植物油等のグリセリド組成物であるから、上記ドイツ公定法で測定されるものは、グリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCPDの脂肪酸エステルであると推定される。
【0030】
本発明のグリセリド組成物の製造方法は、上記(1)〜(3)のグリセリド組成物のいずれかを、通常の油脂の製造方法で用いられる脱臭温度240〜260℃より低い温度で100〜240℃の温度条件にて脱臭処理することを特徴とし、好ましくは100〜235℃であり、より好ましくは160〜225℃であり、最も好ましくは200〜215℃である。なお、本発明のグリセリド組成物の製造方法は、風味も良好なグリセリド組成物を製造する上では、240〜260℃での水蒸気蒸留処理(通常の脱臭処理)後に、再度、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理が行われることが好ましい。脱臭温度以外の条件は、特に限定されるものではないが、減圧もしくは、水蒸気吹込みが好ましく、減圧で水蒸気吹込みがより好ましい。また、脱臭時間は、15〜150分であることが好ましく、40〜100分であることがより好ましい。
【0031】
本発明のグリセリド組成物の製造方法では、上記グリセリド組成物として、精製油を用いてもよい。精製油を用いることにより、より風味の良好なグリセリド組成物を製造することができる。精製油には、例えば、常法に従って精製された、菜種油、大豆油、米油、サフラワー油、ぶどう油、ひまわり油、小麦はい芽油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、落花生油、フラックス油、エゴマ油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油等の植物油、これら2種以上を混合した調合植物油、又は、これらを分別したパームオレイン、パームステアリン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション等の食用分別油、これらの水素添加油、エステル交換油等のほか、中鎖脂肪酸トリグリセリドのような直接エステル化反応により製造された食用油を用いることができる。植物油の精製方法には、ケミカル精製(ケミカルリファイニング)と、フィジカル精製(フィジカルリファイニング)とがあるが、いずれの精製方法を用いてもよい。なお、前者のケミカル精製は、植物油の精製にて、通常、行われている方法であり、原料となる植物を圧搾・抽出した原油が、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理を経ることで精製され、精製油となる。これに対し、後者のフィジカル精製は、パーム油やヤシ油等にてよく行われている方法であり、原料となるパームやヤシ等を圧搾した原油が、脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を経ることで精製され、精製油となる。
【0032】
本発明のグリセリド組成物の製造方法では、酸価が2〜30である上記グリセリド組成物を、上記脱臭処理の前に加熱処理することが好ましい。酸価が2〜30である上記グリセリド組成物には、元々酸価の高いグリセリド組成物や、酸を添加することで酸価を調整したグリセリド組成物を用いることができ、酸価が2〜15である上記グリセリド組成物を用いることが好ましい。なお、酸価を調整する際に用いる酸は、遊離脂肪酸であることが好ましい。ここで、遊離脂肪酸とは、遊離脂肪酸及びその塩を意味する。遊離脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、炭素数12〜22の脂肪酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0033】
また、加熱処理時の温度は、100〜260℃であることが好ましく、160〜245℃であることがより好ましく、200〜225℃であることが更に好ましい。本発明のグリセリド組成物の製造方法では、加熱処理とは、加熱さえすれば特に限定されるものではないが、具体的には、単に加熱する、減圧下で加熱する、水蒸気を吹込みながら加熱する、減圧下で水蒸気を吹込みながら加熱すること等が挙げられる。温度以外の条件は、特に限定されるものではないが、減圧もしくは、水蒸気吹込みが好ましく、減圧で水蒸気吹込みがより好ましい。また、加熱処理の時間は、特に限定されるものではないが、40〜100分が好ましい。
【0034】
本発明のグリセリド組成物の製造方法では、上記脱臭処理の前に、或いは、上記脱臭処理の後に、上記グリセリド組成物を酸性下に暴露してもよい。脱臭処理の前に酸性下に暴露した方が、風味の点で好ましく、脱臭処理の後に酸性下に暴露すると、グリシドールの脂肪酸エステル、3−クロロプロパン−1,2−ジオールの低減効果が高い。本発明のグリセリド組成物の製造方法では、上記グリセリド組成物を酸性下に暴露する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記グリセリド組成物を酸性の加工助剤に接触させる、上記グリセリド組成物に炭素数1〜22の有機酸を添加する等の方法が挙げられ、これらの方法は2種以上を併用することもできる。
【0035】
また、酸性下での暴露は、20〜260℃にて行われることが好ましく、酸性の加工助剤に接触させる方法の場合には、20〜200℃にて行われることがより好ましく、100〜180℃が最も好ましい。また、炭素数1〜22の有機酸を添加する方法の場合には、100〜260℃にて行われることがより好ましく、180〜260℃にて行われることが最も好ましい。
【0036】
上記グリセリド組成物を酸性の加工助剤に接触させる方法では、酸性の加工助剤は、特に限定されるものではないが、例えば、酸性を示す加工助剤、水溶液が酸性を示す加工助剤、酸性の気体を内包する加工助剤、酸が残留する加工助剤等が挙げられる。具体的には、白土、活性炭、シリカゲル、イオン交換樹脂、ろ過助剤、ゼオライト、繊維、触媒、酵素、これらを酸処理したもの、無機酸等が挙げられ、これらを単独又は併用することができる。なお、本発明において、白土とは、モンモリロナイトを主体とする粘土のことをいう。白土としては、特に限定されるものではないが、酸性白土又は活性化処理を施されている酸性白土である活性白土のいずれも含む。また、本発明において、活性炭の原料としては、例えば、コークス、人造黒鉛、木炭、骨炭、ガラス状炭素、炭素繊維、カーボンブラック、絹等を用いることができる。特に、木材、種皮、穀物残渣、樹皮、椰子柄等、植物性由来のものが好ましく、木材が最も好ましい。また、賦活方法としては、水蒸気賦活、ガス賦活、化学賦活等、種々の方法が知られており、いずれの方法で賦活したものであっても、好適に用いることができる。これらの中でも、化学賦活したものが好ましい。化学賦活の中でも、塩化亜鉛、リン酸、硫酸、塩化カルシウム等で賦活したものが更に好ましく、リン酸で賦活したものが最も好ましい。また、アルカリ賦活したものであっても、その後、酸性を示すように処理したものであれば、好適に用いることができる。本発明において、ろ過助剤としては、珪藻土、セルロース、パーライト等を用いることができる。繊維としては、化学繊維、植物繊維、動物繊維等を用いることができる。これらの中でも、本発明の酸性の加工助剤としては、酸性白土又は酸性の活性炭が好ましく、活性白土と酸性の活性炭との併用がより好ましい。加工助剤の添加量は、特に限定されるものではないが、無機酸以外の加工助剤の場合は、グリセリド組成物に対して0.01〜10質量%が好ましく、1〜7質量%が更に好ましい。無機酸以外の加工助剤は、一般に固体であり、接触させた後にろ過により除去することが好ましい。
【0037】
酸性の加工助剤として無機酸を用いる方法では、無機酸の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等が挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。これらの中でも、硫酸、リン酸、硝酸及び塩酸が、入手容易という点において好ましい。また、上記グリセリド組成物に対しての無機酸を添加して用いることが好ましいが、添加量が少ないために、無機酸を水溶液として添加することが、添加量を制御する上で好ましい。上記グリセリド組成物に対する無機酸の水溶液の添加は、脱臭処理直後であって、上記グリセリド組成物の温度が100℃以上であることが好ましく、100〜200℃であることがより好ましい。無機酸の添加量は、特に限定されるものではないが、グリセリド組成物に対して0.001〜0.7質量%が好ましく、0.001〜0.05質量%が更に好ましい。また、無機酸を添加接触した後は、無機酸を水洗等で除去することが好ましい。
【0038】
上記グリセリド組成物に炭素数1〜22の有機酸を添加する方法では、有機酸は、特に限定されるものではなく、例えば、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。これらの中でも、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸が油脂への溶解性が良いという点において好ましい。また、クエン酸、リンゴ酸等の結晶であって水溶性の有機酸は、水溶液として添加することが、分散性を高める上で好ましい。上記グリセリド組成物に対する有機酸の水溶液の添加は、脱臭処理直後であることが好ましい。上記グリセリド組成物の温度が100℃以上であることが好ましく、100〜260℃であることがより好ましく、180〜260℃であることが最も好ましい。有機酸の添加量は、特に限定されるものではないが、グリセリド組成物に対して10ppm〜20質量%の範囲が好ましく、グリセリド組成物の酸価が2〜30になるように添加することがより好ましい。また、酸性下での暴露後においては、炭素数1〜4の有機酸は、ろ過又は水洗で、炭素数5以上の有機酸は、蒸留等の手段を用いて除去することが好ましい。
【0039】
本発明のグリセリド組成物は、上述の本発明のグリセリド組成物の製造方法により得られたことを特徴とする。本発明のグリセリド組成物によれば、グリシドールの脂肪酸エステル、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール、3−MCPDを低減したり、グリシドールの脂肪酸エステルや3−MCPDの脂肪酸エステルの生成を抑制したりできるので、得られたグリセリド組成物は、フライ時の泡立ちや風味の低下が生じ難いことが期待できる。
【0040】
本発明のグリセリド組成物は、ジグリセリドを3質量%以上含有し、且つ、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を3−MCPD換算量として合計10ppm未満含有することを特徴とする。本発明のグリセリド組成物は、ジグリセリドを一定量以上含んでいるにもかかわらず、グリシドールやグリシドールの脂肪酸エステルが少ないので、フライ時の泡立ちや風味の低下が生じ難いことが期待できる。なお、ジグリセリドの含有量は、60〜98質量%であることが好ましく、且つ、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を3−MCPD換算量として合計3ppm未満含有することが好ましい。
【0041】
本発明の食品は、上述の本発明のグリセリド組成物を含むことを特徴とする。本発明の食品によれば、原料として使用するグリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル、3−MCPDの脂肪酸エステルが少ないので、フライ時の泡立ちや風味の低下が生じ難いことが期待できる。食品としては、油脂を含み得るあらゆる食品が対象となり得る。例えば、調味油、マヨネーズ、チョコレート、ドレッシング、マーガリン、ファットスプレッド、クリーム等が挙げられる。
【0042】
本発明の方法は、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−MCPDの脂肪酸エステルの含有量を低減又はこれらの生成を抑制する方法である。この方法は、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、及び/又は、ジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド組成物を、100〜240℃の温度条件にて脱臭処理することにより、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−MCPDの脂肪酸エステルを低減又はこれらの生成を抑制する。脱臭処理の条件は、前述のグリセリド組成物の製造方法と同じである。なお、上記グリセリド組成物を酸性下に暴露し、更に100〜240℃の温度条件にて脱臭処理することで、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル及び/又は3−MCPDの脂肪酸エステルを更に低減又はこれらの生成を抑制することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0044】
グリセリド組成物中に含まれる3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの低減可能性の検討を行った。
【0045】
<酸性下の暴露条件の検討>
[原料グリセリド組成物1]
常法により精製した大豆・菜種混合精製油(大豆脱色油と菜種脱色油の混合油)1600gに、0.256gのグリシドールの脂肪酸エステル(Glycidol Stearate,東京化成工業株式会社製)と0.192gの3−MCPDの脂肪酸エステル(1−Stearoyl−3−chloropropanediol,和光純薬工業株式会社製)とを添加し、混合して、原料グリセリド組成物1(3−MCPD換算量として85.35ppm)を得た。
【0046】
[比較例1]
原料グリセリド組成物1を減圧下110℃で20分間撹拌して、比較例1のグリセリド組成物を得た。
【0047】
[実施例1]
原料グリセリド組成物1に、該原料グリセリド組成物1の量に対して5質量%の活性炭(リン酸賦活活性炭:CA1,日本ノリット株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌させた後、ろ過により活性炭を除去して、実施例1のグリセリド組成物を得た。
【0048】
[実施例2]
5質量%の活性炭の代わりに、5質量%の活性白土(硫酸処理白土:水澤化学工業株式会社製)を用いる以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例2のグリセリド組成物を得た。
【0049】
[実施例3]
原料グリセリド組成物1に、該原料グリセリド組成物1の量に対して5質量%の活性白土(硫酸処理白土:水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下、常温(28℃)で20分間撹拌させた後、ろ過により活性白土を除去して、実施例3のグリセリド組成物を得た。
【0050】
[原料グリセリド組成物2]
原料グリセリド組成物1と、大豆脱色油とを83:17の重量比で混合し、原料グリセリド組成物2(3−MCPD換算量として14.30ppm)を得た。
【0051】
[実施例4]
原料グリセリド組成物2に、該原料グリセリド組成物2の量に対して5質量%の活性炭(リン酸賦活活性炭:CA1,日本ノリット株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌させた後、ろ過により活性炭を除去して、実施例4のグリセリド組成物を得た。
【0052】
[実施例5]
5質量%の活性炭の代わりに、5質量%の活性白土(硫酸処理白土:水澤化学工業株式会社製)を用いる以外は、実施例4と同様の方法にて、実施例5のグリセリド組成物を得た。
【0053】
[原料グリセリド組成物3]
原料グリセリド組成物1と、大豆脱色油とを86:14の重量比で混合し、原料グリセリド組成物3(3−MCPD換算量として11.65ppm)を得た。
【0054】
[実施例6]
原料グリセリド組成物3に、該原料グリセリド組成物3の量に対して5質量%の活性炭(リン酸賦活活性炭:CA1,日本ノリット株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌させた後、ろ過により活性炭を除去して、実施例6のグリセリド組成物を得た。
【0055】
[実施例7]
5質量%の活性炭の代わりに、5質量%の活性白土(硫酸処理白土:水澤化学工業株式会社製)を用いる以外は、実施例6と同様の方法にて、実施例7のグリセリド組成物を得た。
【0056】
(定量法)
グリセリド組成物中の3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの定量は、ドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))に準拠して行った。この方法では、測定試料を調製する際に、グリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCPDの脂肪酸エステルが3−MCPDに変換されるため、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの全てを遊離3−MCPDとして測定した。
原料グリセリド組成物1〜3、実施例1〜7,及び比較例1のサンプル100mgに、50μLの内部標準物質(3−MCPD−d5 20μg/mL溶液)を加えた後、1mLのナトリウムメトキシド溶液(0.5mol/L メタノール)を加え、室温にて反応させ、エステルのけん化分解を行った。次いで、これに酢酸を微量に含んだ3mLの食塩水(20%)と3mLのヘキサンとを加えて混合した後、ヘキサンを除去した。なお、この際に、グリシドールは3−MCPDに、グリシドールの脂肪酸エステルはエステル結合が切れるとともに3−MCPDに変換される。その後、250μLのフェニルホウ酸水溶液(25%)により誘導体化し、2mLのヘキサンにて抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析装置にて測定した。
上記ガスクロマトグラフ質量分析装置の測定にて得られたクロマトグラムを用い、内部標準である3−MCPD−d5と、3−MCPDのイオン強度を比較することで、グリセリド組成物中のグリシドール、グリシドールの脂肪酸エステル、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステルの総量を遊離3−MCPD換算にて算出した。
【0057】
(GC−MS分析条件)
分析装置:Agilent Technology社製,機種名6890GC
カラム:Restek社製,製品名Rtx−5MS(長さ30m、径0.25mm)
カラム温度:60℃(1分)〜190℃(昇温速度6℃/分)〜280℃(昇温速度20℃/分)
検出器:MS(EI,SIMモード)
スプリットレス:1μL注入
キャリアガス:He
【0058】
【表1】
【0059】
無機酸にて賦活した活性炭や硫酸で処理した白土で処理を行うことにより、グリセリド組成物中の3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの総量(3−MCPD換算量)が、著しく低減することが確認された(表1:実施例1〜7,原料トリグリセリド組成物1〜3、比較例1)。なお、グリセリド組成物に添加したグリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCの量を考慮すると、グリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCPDが低減したことは明らかである。
【0060】
[原料グリセリド組成物4]
常法により精製した大豆・菜種混合油(大豆脱色油と菜種脱色油の混合油)160gに、20.8mgのグリシドールの脂肪酸エステル(Glycidol Stearate,東京化成工業株式会社製)と16.0mgの3−MCPDの脂肪酸エステル(1−Stearoyl−3−chloropropanediol,和光純薬工業株式会社製)とを添加し、混合して、原料グリセリド組成物4(3−MCPD換算量として70.61ppm)を得た。
【0061】
<酸処理の検討>
[実施例8]
原料グリセリド組成物4に対して、0.025質量%の硫酸を添加し、常圧下150℃で10分間撹拌して、実施例8のグリセリド組成物を得た。
【0062】
【表2】
【0063】
硫酸により酸処理したグリセリド組成物は、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの総量(3−MCPDの換算量)が著しく低減することが確認された(表2:実施例8)。なお、グリセリド組成物に添加したグリシドールの脂肪酸エステル及び3−MCPDの脂肪酸エステルの量を考慮すると、両者が低減したことは明らかである。
【0064】
<脱臭条件の検討>
[実施例9]
原料グリセリド組成物1のグリセリド組成物に対して、水蒸気(合計量:グリセリド組成物量に対して3質量%)を吹き込みながら減圧下(4torr)、210℃で90分間、脱臭を行い、実施例9のグリセリド組成物を得た。
【0065】
【表3】
【0066】
3−MCPD換算量の算出は、上記定量法の記載に従った。低温で脱臭処理を行うことにより、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの総量の減少が確認された(表3:実施例9)
【0067】
<脱臭条件及び酸価と加熱処理条件の検討>
ジグリセリドを多く含有するグリセリド組成物を調製し、これを活性白土で処理することにより、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの合計含有量を低減させたものを試料とした。そして、加熱処理における温度と遊離脂肪酸添加の有無とが、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの生成抑制に及ぼす影響について検討した。
【0068】
[原料グリセリド組成物5]
常法により精製した大豆脱色油と菜種脱色油の混合油をリパーゼで部分加水分解し、分子蒸留した。更に、250℃にて1.5時間脱臭したグリセリド組成物に対して、5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、原料グリセリド組成物5(グリセリド組成は、モノグリセリド0.6重量%、ジグリセリド88.7重量%、トリグリセリド10.7重量%、3−MCPD換算量として0.76ppm)を得た。
【0069】
[実施例10]
グリセリド組成物5(グリセリド組成物の酸価:0.2)を常圧下、220℃にて90分処理し、実施例10のグリセリド組成物を得た。
【0070】
[実施例11]
グリセリド組成物の酸価が5.8になるようにパルミチン酸を添加する以外は、実施例10と同様の方法にて、実施例11のグリセリド組成物を得た。
【0071】
[実施例12]
グリセリド組成物の酸価が10.9になるようにパルミチン酸を添加する以外は、実施例10と同様の方法にて、実施例12のグリセリド組成物を得た。
【0072】
[実施例13]
温度を230℃とする以外は、実施例10と同様の方法にて、実施例13のグリセリド組成物を得た。
【0073】
[実施例14]
温度を230℃とする以外は、実施例11と同様の方法にて、実施例14のグリセリド組成物を得た。
【0074】
[実施例15]
温度を230℃とする以外は、実施例12と同様の方法にて、実施例15のグリセリド組成物を得た。
【0075】
[比較例2]
温度を240℃とする以外は、実施例10と同様の方法にて、比較例2のグリセリド組成物を得た。
【0076】
[実施例16]
温度を240℃とする以外は、実施例11と同様の方法にて、実施例16のグリセリド組成物を得た。
【0077】
[実施例17]
温度を240℃とする以外は、実施例12と同様の方法にて、実施例17のグリセリド組成物を得た。
【0078】
【表4】
【0079】
3−MCPD換算量の算出は、上記定量法の記載に従った。加熱処理において、温度が低いほど、3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの総量(3−MCPDの換算量)が抑えられていた(表3:原料グリセリド組成物5、実施例10〜17、比較例2)。脱臭処理のような高温処理の際に、酸価が5.8又は10.9となるように、パルミチン酸を添加すると、温度に伴う3−MCPD、3−MCPDの脂肪酸エステル、グリシドール及びグリシドールの脂肪酸エステルの生成が顕著に抑制されることが確認された(表3:実施例10〜12、実施例13〜15、比較例2及び実施例16〜17)。
【0080】
[原料グリセリド組成物6]
常法により抽出した米油をリパーゼで部分加水分解し、脱酸した後、該脱酸した米油に対して、2質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下105℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、脱色した米油を得た。次いで、該脱色した米油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)240℃にて90分間脱臭し、精製油(原料グリセリド組成物6)を得た。なお、原料グリセリド組成物6中のジグリセリド含有量をガスクロマトグラフィー法(AOCS Official Method Cd 11b−91)により測定したところ、7質量%であった。
【0081】
[参考例1]
原料グリセリド組成物6に対して、0.1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油(参考例1のグリセリド組成物)を得た。
【0082】
[実施例18]
原料グリセリド組成物6に対して、0.5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)240℃にて90分間脱臭し、実施例18のグリセリド組成物を得た。
【0083】
[実施例19]
原料グリセリド組成物6に対して、0.5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)230℃にて90分間脱臭し、実施例19のグリセリド組成物を得た。
【0084】
[実施例20]
原料グリセリド組成物6に対して、1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)220℃にて90分間脱臭し、実施例20のグリセリド組成物を得た。
【0085】
[実施例21]
原料グリセリド組成物6に対して、1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)200℃にて90分間脱臭し、実施例21のグリセリド組成物を得た。
【0086】
【表5】
【0087】
3−MCPD換算量の算出は、上記定量法の記載に従った。実施例18〜21は、精製油中の3−MCPD換算量を低減することができ、更に、風味良好な食用油ができることが確認できた。なお、再脱臭温度が低いほど、3−MCPD換算量低減効果が高く、再脱色時の活性白土量は0.5質量%の場合に3−MCPD換算量低減効果が高かった。
【0088】
[原料グリセリド組成物7]
菜種脱色油(日清オイリオグループ株式会社製)を85質量%と、グリセリド組成物5を15質量%とを混合し、得られた混合油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)240℃にて90分間脱臭し、精製油(原料グリセリド組成物7)を得た。なお、原料グリセリド組成物7中のジグリセリド含有量をガスクロマトグラフィー法(AOCS Official Method Cd 11b−91)により測定したところ、13.3質量%であった。
【0089】
[参考例2]
原料グリセリド組成物7に対して、0.1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油(参考例2のグリセリド組成物)を得た。
【0090】
[実施例22]
原料グリセリド組成物7に対して、0.5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)240℃にて90分間脱臭し、実施例22のグリセリド組成物を得た。
【0091】
[実施例23]
原料グリセリド組成物7に対して、0.5質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)230℃にて90分間脱臭し、実施例23のグリセリド組成物を得た。
【0092】
[実施例24]
原料グリセリド組成物7に対して、1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)220℃にて90分間脱臭し、実施例24のグリセリド組成物を得た。
【0093】
[実施例25]
原料グリセリド組成物7に対して、1質量%の活性白土(V2F,硫酸処理白土,水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌した後、ろ過により活性白土を除去し、再脱色油を得た。次いで、該再脱色油に対して、水蒸気を吹き込みながら(対油3質量%)、減圧下(4torr)200℃にて90分間脱臭し、実施例25のグリセリド組成物を得た。
【0094】
【表6】
【0095】
3−MCPD換算量の算出は、上記定量法の記載に従った。実施例22〜25は、精製油中の3−MCPD換算量を低減することができ、更に、風味良好な食用油ができることが確認できた。なお、再脱臭温度が低いほど、3−MCPD換算量低減効果が高く、再脱色時の活性白土量は0.5質量%の場合に3−MCPD換算量低減効果が高かった。