【実施例】
【0031】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
まず、実施例では、結晶性熱可塑性樹脂として、以下の材料を使用した。
実施例1〜5:ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)(ポリプラスチックス(株)製、無充填系PPS樹脂組成物、「ジュラファイド(登録商標)0220A9」)
実施例6:ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)(ウィンテックポリマー(株)製、0.5%充填系PBT樹脂組成物、「ジュラネックス(登録商標)CS7000NY」)を用いた。
実施例7:ポリオキシメチレン樹脂(POM樹脂)(ポリプラスチックス(株)製、無充填系POM樹脂組成物、「ジュラコン(登録商標)M90−44」)
実施例8:液晶樹脂(LCP樹脂)(芳香族ポリエステル液晶樹脂1) ※芳香族ポリエステル液晶樹脂1の合成方法は後記の通りである。
実施例9:ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)(ダイセル・エボニック(株)製、無充填系PEEK樹脂組成物、「ベスタキープ(登録商標)2000G」)
【0033】
(芳香族ポリエステル液晶樹脂1の合成方法)
実施例8で用いた芳香族ポリエステル液晶樹脂1は、次のようにして製造されたものである。
攪拌機、留出管、ガス導入管、排出孔等を備えた反応器を用い、p-ヒドロキシ安息香酸345質量部(73mol%)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸175質量部(27mol%)、酢酸カリウム0.02質量部、及び無水酢酸350質量部を反応器内に仕込み、この反応器内を十分に窒素で置換した後、常圧下で150℃まで温度を上げ、攪拌を開始した。150℃で30分攪拌し、更に徐々に温度を上昇させ、副生する酢酸を留去した。温度が300℃に達したところで徐々に反応器内を減圧し、5Torr(即ち、665Pa)の圧力で1時間攪拌を続け、目標の攪拌トルクに達した時点で、反応器下部の排出孔を開け、窒素圧を使って生成した樹脂をストランド状に押し出して取り出した。取り出されたストランドをペレタイザーで粒子状に成形した。この全芳香族ポリエステル液晶樹脂の融点は280℃、300℃での溶融粘度は50.1Pa・sであった。
【0034】
[実施例1]
シリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件で射出成形により、ポリフェニレンサルファイド樹脂の100mm×100mm×1mmt(すなわち、寸法が幅100mm×長さ100mm×肉厚1mm)の平板状成形品を2枚準備し、そのうち1枚はアニール処理を行わずそのまま用い、もう1枚については、200℃で2時間のアニール処理を行った。すなわち、2枚の成形品は、それぞれ、(1)アニール前の成形品及び(2)200℃で2時間のアニール処理をした成形品である。
上記(1)及び(2)の成形品に対し、フーリエ変換型赤外分光光度計((株)パーキンエルマージャパン製、spectrum one)を用い、透過法により赤外吸収スペクトルを測定した。上記(1)アニール前の成形品について得られた赤外吸収スペクトルを
図1に示す。
図1は、波数4500〜1800cm
−1の領域のスペクトルを示しており、
図1において、2250〜2000cm
−1の領域を拡大し、上記(1)及び(2)の2枚の成形品について得られた赤外吸収スペクトルを示したのが
図2である。
図2において、「結晶1」(2123cm
−1)、「非晶1」(2193cm
−1)として示したのは、それぞれ成形品の結晶部分及び非晶部分に帰属した各吸収ピークである。なお、結晶部分及び非晶部分の帰属は、アニール前の成形品のスペクトル及びアニ―ル処理をした成形品のスペクトルの差スペクトルを計算し、結晶部、非晶部に支配されるピークを抽出することで行った。
【0035】
[実施例2]
シリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件で射出成形により、ポリフェニレンサルファイド樹脂の100mm×100mm×2mmt(すなわち、寸法が幅100mm×長さ100mm×肉厚2mm)の平板状成形品を用いたこと以外は実施例1と同様にして赤外吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルの2250〜2000cm
−1の波数領域を
図3に示す。
【0036】
[実施例3]
シリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件で射出成形により、ポリフェニレンサルファイド樹脂の100mm×100mm×3mmt(すなわち、寸法が幅100mm×長さ100mm×肉厚3mm)の平板状成形品を用いたこと以外は実施例1と同様にして赤外吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルの2250〜2000cm
−1の領域を
図4に示す。
【0037】
<アニール条件に対する結晶化度の評価>
以上の実施例1〜3において、さらにアニール温度及びアニール時間をそれぞれ変えて得られた成形品に対して各実施例と同様にして赤外吸収スペクトルを測定した。具体的には、肉厚1mmの成形品については、アニール温度は150℃、170℃、及び200℃の3つの温度とし、各アニール温度におけるアニール時間は0.5時間、1時間、及び2時間とした。これら9種及び未アニールのものを含めて計10種の成形品に対し赤外吸収スペクトルを測定し、得られたスペクトルにおいて、結晶部分及び非晶部分の吸収ピークを帰属し、非晶部分の吸収ピーク強度に対する結晶部分の吸収ピーク強度の比(2123cm
−1/2193cm
−1)の値を算出した。算出結果を表1及び
図5に示す。
図5は、アニール条件(温度、時間)と、非晶部分の吸収ピーク強度に対する結晶部分の吸収ピーク強度の比の値との関係を示すプロット図である。
また、肉厚2mm及び3mmの成形品については、アニール温度は170℃及び200℃の2つの温度とし、各アニール温度におけるアニール時間は2時間とした。上記と同様に算出した、肉厚2mm及び3mmの成形品の非晶部分と結晶部分の吸収ピーク強度比(2123cm
−1/2193cm
−1)の値を、表2及び
図6に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表1、2(又は
図5、
図6)より、アニール温度を高くするか又はアニール時間を長くすると、非晶部分の吸収ピーク強度に対する結晶部分の吸収ピーク強度の比の値が大きくなることが分かる。結晶性樹脂に対するアニール処理において、アニール温度を高くするか又はアニール時間を長くすると結晶化度が向上するのは周知事実であり、上記評価はその周知事実の通りとなっている。すなわち、上記のように帰属した吸収ピーク強度は、結晶化度と相関関係があるものと推察される。
【0041】
<結晶化度の算出>
肉厚1mmの成形品について、水中置換法(JIS Z8807固体比重測定方法に準拠)にて成形品の密度を測定し、以下の式(3)により、結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=(成形品密度−非晶部密度)÷(結晶部密度−非晶部密度)×100 ・・・式(3)
なお、結晶部密度及び非晶部密度は、以下の文献値を用いた。
結晶部密度: 1.43g/cm
3
非結晶部密度: 1.32g/cm
3
※ 文献1: B. J. Tabor, E. P. Margre and J. Boon, Europ. Polym. J., 7, 1127(1971)
文献2: P. P. Huo and P. Cebe, Polym. Mater. Sci. Eng., 67, 472(1992)
結晶化度の算出結果を、表1に示す。
【0042】
上述した肉厚1mmの平板状成形品についての密度法による結晶化度データと、FT−IRの強度比(2123cm
−1/2193cm
−1)をプロットし、上述した、ピーク強度比と結晶化度の関係式(式(2))
I/I’=(X+D)/(B(1−X)+C)
を用いてフィッティング(回帰分析)することにより、各係数B、C、Dを算出した。
B=0.939
C=0.135
D=0.678
従って、結晶化度100×X(%)におけるXは、式(2)に各係数を代入して、
X=(1.074×(I/I’)−0.678)/(1+0.939×(I/I’))
により算出することが可能である。
【0043】
さらに、肉厚2mm及び3mmの成形品について、FT−IR吸収ピーク強度比(2123cm
−1/2193cm
−1)と、上記の密度法による結晶化度への換算式を用いて 、結晶化度を求めた。この結果を表2に示す。本実施例においても上記の「アニール条件に対する結晶化度の評価」で示したように、アニール時間及びアニール温度を変更した成形品について評価を行った(
図6参照)。
【0044】
[実施例4]
結晶部分及び非晶部分の吸収ピークを帰属する赤外吸収スペクトルの波数領域を2800〜2500cm
−1の領域に変更したこと以外は実施例1と同様にして測定を行った。測定した赤外吸収スペクトルを
図7に示す。
図7において、「結晶2」(2767cm
−1)、「非晶2」(2523cm
−1)として示したのは、それぞれ成形品の結晶部分及び非晶部分に帰属した各吸収ピークである。なお、本実施例においても「アニール条件に対する結晶化度の評価」で示したように、アニール時間及びアニール温度を変更した10種の成形品について評価を行った。評価結果を
図8に示す。
【0045】
[実施例5]
結晶部分及び非晶部分の吸収ピークを帰属する赤外吸収スペクトルの波数領域を4500〜4000cm
−1の領域に変更したこと以外は実施例1と同様にして測定を行った。測定した赤外吸収スペクトルを
図9に示す。
図9において、「結晶3」(4436cm
−1)、「非晶3」(4048cm
−1)として示したのは、それぞれ成形品の結晶部分及び非晶部分に帰属した各吸収ピークである。なお、本実施例においても「アニール条件に対する結晶化度の評価」で示したように、アニール時間及びアニール温度を変更した10種の成形品について評価を行った。評価結果を
図10に示す。
【0046】
実施例4〜5より、実施例1〜3とは異なる波数領域においても、結晶化度に関与する吸収ピークが存在していることが分かる。
【0047】
[実施例6]
シリンダー温度260℃、金型温度40℃の条件で射出成形により、ポリブチレンテレフタレート樹脂の100mm×100mm×1mmt(すなわち、寸法が幅100mm×長さ100mm×肉厚1mm)の平板状成形品を準備し、(1)アニール前、(2)140℃で0.5時間アニール処理後、(3)140℃で2時間アニール処理後の3つの状態について実施例1と同様にして赤外吸収スペクトルの測定を行った。
図11は、上記(3)140℃で2時間アニール処理後の赤外吸収スペクトルを示している。
図12は、
図11における2900〜1800cm
−1の波数領域を拡大し、上記(1)及び(3)の2枚の成形品について得られた赤外吸収スペクトルを示した図である。得られた赤外吸収スペクトルのうち、2760cm
−1の吸収ピーク及び2542cm
−1の吸収ピークを、成形体の結晶部分に対応する吸収ピークと帰属し、2780cm
−1の吸収ピーク及び2576cm
−1の吸収ピークを成形体の非晶部分に対応する吸収ピークと帰属した。そして、アニール前と、アニール処理後のそれぞれについて、非晶部分の吸収ピーク強度に対する結晶部分の吸収ピーク強度の比の値を算出した。
図13は、アニール時間と、2780cm
−1の吸収ピーク(非晶部分)に対する2760cm
−1の吸収ピーク(結晶部分)との関係を示すプロット図である。同様に、
図14は、アニール時間と、2576cm
−1の吸収ピーク(非晶部分)に対する2542cm
−1の吸収ピーク(結晶部分)との関係を示すプロット図である。
図13及び
図14においても、アニール時間の経過に伴い、比の値が増加していることが分かる。
【0048】
[実施例7]
シリンダー温度200 ℃、金型温度80 ℃の条件で射出成形により、ポリオキシメチレン樹脂の100mm×100mm×2mmt(すなわち、寸法が幅100mm×長さ100mm×肉厚2mm)の平板状成形品を準備し、(1)アニール前、(2)110℃で1時間アニール処理後、(3)110℃で3時間アニール処理後、(4)110℃で6時間アニール処理後の4つの状態について実施例1と同様にして赤外吸収スペクトルの測定を行った。
図15は、上記(4)110℃で6時間アニール処理後の赤外吸収スペクトルを示している。
図16は、
図15における2700〜2450cm
−1の波数領域を拡大し、上記(1)及び(4)の2枚の成形品について得られた赤外吸収スペクトルを示した図である。得られた赤外吸収スペクトルのうち、2617cm
−1の吸収ピークを、成形体の結晶部分に対応する吸収ピークと帰属し、2528cm
−1の吸収ピークを成形体の非晶部分に対応する吸収ピークと帰属した。そして、アニール前と、アニール処理後のそれぞれについて、非晶部分の吸収ピーク強度に対する結晶部分の吸収ピーク強度の比の値を算出した。
図17は、アニール時間と、2528cm
−1の吸収ピーク(非晶部分)に対する2617cm
−1の吸収ピーク(結晶部分)との関係を示すプロット図である。
図17においても、アニール時間の経過に伴い、比の値が増加していることが分かる。
【0049】
[実施例8]
シリンダー温度290 ℃、金型温度80℃の条件で射出成形により、液晶樹脂の100mm×100mm×1mmt(すなわち、寸法が幅100mm×長さ100mm×肉厚1mm)の平板状成形品を準備し、(1)アニール前、(2)265℃で10分(0.167時間)アニール処理後、(3)265℃で20分(0.333時間)アニール処理後、(4)265℃で40分(0.666時間)アニール処理後の4つの状態について実施例1と同様にして赤外吸収スペクトルの測定を行った。
図18は、上記(4)265℃で40分(0.666時間)アニール処理後の赤外吸収スペクトルを示している。
図19は、
図18における2900〜2600cm
−1の波数領域を拡大し、上記(1)及び(4)の2枚の成形品について得られた赤外吸収スペクトルを示した図である。得られた赤外吸収スペクトルのうち、2796cm
−1の吸収ピークを、成形体の結晶部分に対応する吸収ピークと帰属し、2760cm
−1の吸収ピークを成形体の非晶部分に対応する吸収ピークと帰属した。そして、アニール前と、アニール処理後のそれぞれについて、非晶部分の吸収ピーク強度に対する結晶部分の吸収ピーク強度の比の値を算出した。
図20は、アニール時間と、2760cm
−1の吸収ピーク(非晶部分)に対する2796cm
−1の吸収ピーク(結晶部分)との関係を示すプロット図である。
図20においても、アニール時間の経過に伴い、比の値が増加していることが分かる。
【0050】
[実施例9]
シリンダー温度380℃の条件で射出成形により、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の100mm×100mm×2mmt(すなわち、寸法が幅100mm×長さ100mm×肉厚2mm)の平板状成形品を準備した。この射出成形において、金型温度を(1)80℃、(2)180℃、(3)200℃の3つの条件で成形し、実施例1と同様にして赤外吸収スペクトルの測定を行った。
図21は、上記(1)金型温度が200℃の成形品の赤外吸収スペクトルを示している。
図22は、
図21における2240〜2100cm
−1の波数領域を拡大し、上記(1)及び(3)の2枚の成形品について得られた赤外吸収スペクトルを示した図である。得られた赤外吸収スペクトルのうち、2169cm
−1の吸収ピークを、成形体の結晶部分に対応する吸収ピークと帰属し、2162cm
−1の吸収ピークを成形体の非晶部分に対応する吸収ピークと帰属した。尚、これらの2つのバンドは重複していたため、スペクトルの二次微分の計算により、ピーク位置を求めた。そして、アニール前と、アニール処理後のそれぞれについて、非晶部分の吸収ピーク強度に対する結晶部分の吸収ピーク強度の比の値を算出した。
図23は、金型温度と、2162cm
−1の吸収ピーク(非晶部分)に対する2169cm
−1の吸収ピーク(結晶部分)との関係を示すプロット図である。
図23においては、金型温度が高くなるに伴い、比の値が増加していることが分かる。結晶性樹脂に対する成形において、金型温度を高くすると結晶化度が向上するのは周知事実であり、上記評価はその周知事実の通りとなっている。