【解決手段】 (A)ニッケル元素を主成分として含有する第1の微粒子10と、第1の微粒子10の表面に点在し、貴金属元素を主成分として含有する第2の微粒子20と、を備えた複合ニッケル微粒子100、及び、(B)有機バインダー、を含有する導電性ペースト。複合ニッケル微粒子100は、第1の微粒子10の走査型電子顕微鏡による平均粒子径が20nm以上120nm以下の範囲内であり、粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径)が0.24以下であり、貴金属元素の含有量が、第1の微粒子10に含有されるニッケル元素に対して、0.1質量%以上5質量%未満の範囲内である。
内部電極層と、該内部電極層に積層された誘電体層とを有する電子部品における前記内部電極層の材料として用いられるものである請求項1から3のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
ニッケル元素を主成分として含有する第1の微粒子と、前記第1の微粒子の表面に点在する貴金属元素を主成分として含有する第2の微粒子と、を備え、前記第1の微粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径が20nm以上120nm以下の範囲内であり、粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径)が0.24以下であり、
前記貴金属元素の含有量が、前記第1の微粒子に含有されるニッケル元素に対して、0.1質量%以上5質量%未満の範囲内である複合ニッケル微粒子の製造方法であって、
下記の工程a〜d;
a)ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程、
b)前記錯化反応液にマイクロ波を照射して加熱することにより、平均粒子径が20nm以上120nm以下の範囲内であり、かつ、ニッケル元素を含有する第1の微粒子を形成する工程、
c)前記第1の微粒子を含有する有機溶媒のスラリーを前記貴金属塩の還元温度を下回る温度まで冷却する工程、
d)前記第1の微粒子を含有する有機溶媒のスラリーに、貴金属塩を添加した後、マイクロ波照射を照射して前記第1の微粒子を加熱することにより前記第2の微粒子を析出させ、前記第1の微粒子の表面に前記第2の微粒子が複合化した複合ニッケル微粒子を得る工程、
を備える複合ニッケル微粒子の製造方法。
前記貴金属元素が、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の複合ニッケル微粒子の製造方法。
【背景技術】
【0002】
MLCCは、セラミックス誘電体と内部電極とを交互に層状に重ねて圧着し、焼成して一体化させたものである。MLCCの内部電極を形成する際には、内部電極材料である金属ニッケル微粒子をペースト化したのち、これをセラミックス基板上に印刷する。次いで、乾燥、積層及び圧着した後、通常、酸素雰囲気下で約250〜400℃に加熱して有機物を除去するための脱バインダー処理を行なう。このような加熱処理を行なうことによって、金属ニッケル微粒子は酸化され、それにより体積膨張が起きる。さらにその後、還元性雰囲気下で高温(例えばチタン酸バリウム系セラミックス誘電体では約1200〜1400℃)で焼結を行なう。この焼結により、一旦酸化された金属ニッケル微粒子が還元されるとともに、体積の収縮が生じる。
【0003】
このように、MLCCの製造工程では、酸化反応や還元反応によって金属ニッケル微粒子が膨張・収縮して体積変化が生じる。また、セラミックス誘電体も焼結により膨張・収縮し、体積変化が生じる。ところが、金属ニッケル微粒子とセラミックス誘電体とでは、焼結時における膨張・収縮による体積変化の挙動が異なる。すなわち、金属ニッケル微粒子の焼結開始温度(約500℃)とセラミックス誘電体の焼結開始温度(約1000℃)が大きく異なるために、デラミネーションやクラック等の欠陥を生じるおそれがある。
【0004】
近年、MLCCにおいて小型化・高容量化が進んでいる。MLCCの小型化、高容量化に対して、誘電体層(BaTiO
3)と内部電極層(Ni)の両方の薄膜化が検討されており、それぞれの材料であるBaTiO
3微粒子及びニッケル微粒子の小粒子径化が進んでいる。しかし、誘電体層においては、BaTiO
3微粒子の粒子径が小さくなることにより、誘電率も急激に低下して、150nm以下の小粒子径化がなかなか進んでいない。一方、内部電極層においても、ニッケル微粒子の粒子径が150nm以下になると、気相合成によるニッケル微粒子では、粒子の粒度分布が広く、現存の分級技術では粗大粒子の除去が困難である。そのため、わずかに存在する粗大粒子が原因となって製品のショートが発生し、製品歩留まりが低下するという問題が生じている。従って、微細で粒度分布がシャープであり、粗大粒子が存在しないニッケル微粒子を製造することが可能な、湿式でのマイクロ波照射による合成方法が注目されている。
【0005】
しかし、粒子径が150nm以下のニッケル微粒子は、従来の大粒子径のニッケル微粒子に比べて、MLCC製造時、特に脱バインダー過程ではニッケル粒子の酸化が進みやすいために、誘電体層への酸化物のマイグレーションによる製品特性の劣化が起こりやすい。また、還元雰囲気での焼結過程では、ニッケル電極層と誘電体層との熱収縮の差が大きくなることで、内部電極層と誘電体層とのデラミネーションや内部電極層の膜切れが多くなり、製品歩留まりが低下しやすいという問題がある。
【0006】
このような状況において、ニッケル微粒子の表面の改質や合金化により微細なニッケル微粒子の熱特性の改善が報告されている。例えば、特許文献1では、塩化ニッケルガスと、高温の融点をもつタングステンなどの金属塩化物ガスとの混合ガスを、高温で気相水素還元することにより、MLCC製造時のデラミネーションの発生しにくい100nm未満のニッケル合金粉末を製造する方法を提案している。
【0007】
また、特許文献2では、ニッケル粒子表面に、添加元素としてリン及び/又はホウ素と、更にタングステンとを含むニッケル合金メッキ層を形成することで、耐酸化性に優れた表面処理ニッケルを製造する方法を提案している。
【0008】
更にまた、特許文献3では、ニッケルを主成分とするコア部の周囲をルテニウムなどの金属で被覆層を形成させることで、焼成段階でのニッケル粒子の成長を抑制し、球状化、電極途切れを有効に防止し、静電容量の低下を効果的に抑制することができる導電性粒子の製造方法を提案している。
【0009】
しかし、特許文献1に記載の方法では、高温での気相合成法であることから、粒子同士が連結した粒子の混在は避けることはできておらず、その存在によりショートによる生産歩留まりの問題が残されている。特許文献2に記載の方法では、ニッケル粒子とは別途に無電解メッキ液を作成して、ニッケル粒子表面に合金メッキ層を形成させるための煩雑な工程が必要となる。さらに、特許文献3に記載の方法でも、ニッケル粒子とは別途にルテニウムなどの塩が溶解した水溶液を作成して、ニッケル粒子に金属を付着させ、その後熱処理して2〜10nmの被覆層を形成させる為の工程が必要となる。
【0010】
なお、MLCCの内部電極材料以外の用途に関するものとして、例えば特許文献4では、平均粒子径が50nm〜1μmの範囲内にある第1の金属粒子と、第2の金属材料を含有する平均粒子径が5nm〜500nmの範囲内にある第2の金属粒子とを混合して混合物を得るとともに、第2の金属粒子を溶融させた溶融物によって第1の金属粒子を結合し、金属多孔質体を製造する方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、例えばMLCCの内部電極層の形成等の用途に有用で、熱収縮が抑制されており、焼結開始温度の高い電極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ニッケルと固溶化しにくい貴金属元素を含有する微粒子をニッケル微粒子に複合化させることによって、ニッケル微粒子の耐焼結性を向上させ得ることを見出した。さらに、このようにして得られる複合ニッケル微粒子は、例えばMLCCの内部電極用材料として使用した場合に、内部電極層の収縮や膜切れを効果的に抑えることが可能であるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の導電性ペーストは、次の成分(A)及び(B);
(A)ニッケル元素を主成分として含有する第1の微粒子と、前記第1の微粒子の表面に点在し、貴金属元素を主成分として含有する第2の微粒子と、を備えた複合ニッケル微粒子、及び、
(B)有機バインダー、
を含有する。本発明の導電性ペーストは、前記(A)成分の複合ニッケル微粒子において、前記第1の微粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径が20nm以上120nm以下の範囲内であり、粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径)が0.24以下である。また、本発明の導電性ペーストは、前記貴金属元素の含有量が、前記第1の微粒子に含有されるニッケル元素に対して、0.1質量%以上5質量%未満の範囲内である。
【0015】
本発明の導電性ペーストは、前記貴金属元素が、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0016】
本発明の導電性ペーストは、前記第2の微粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径が0.5nm以上10nm以下の範囲内であってもよい。
【0017】
本発明の導電性ペーストは、内部電極層と、該内部電極層に積層された誘電体層とを有する電子部品における前記内部電極層の材料として用いられるものであってもよい。
【0018】
本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、ニッケル元素を主成分として含有する第1の微粒子と、前記第1の微粒子の表面に点在する貴金属元素を主成分として含有する第2の微粒子と、を備えた複合ニッケル微粒子の製造方法である。ここで、前記複合ニッケル微粒子は、前記第1の微粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径が20nm以上120nm以下の範囲内であり、粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径)が0.24以下であり、前記貴金属元素の含有量が、前記第1の微粒子に含有されるニッケル元素に対して、0.1質量%以上5質量%未満の範囲内である。
【0019】
本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、下記の工程a〜d;
a)ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程、
b)前記錯化反応液にマイクロ波を照射して加熱することにより、平均粒子径が20nm以上120nm以下の範囲内であり、かつ、ニッケル元素を含有する第1の微粒子を形成する工程、
c)前記第1の微粒子を含有する有機溶媒のスラリーを前記貴金属塩の還元温度を下回る温度まで冷却する工程、
d)前記第1の微粒子を含有する有機溶媒のスラリーに、貴金属塩を添加した後、マイクロ波照射を照射して前記第1の微粒子を加熱することにより前記第2の微粒子を析出させ、前記第1の微粒子の表面に前記第2の微粒子が複合化した複合ニッケル微粒子を得る工程、
を備えている。
【0020】
本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、前記貴金属元素が、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0021】
本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、前記第2の微粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径が0.5nm以上10nm以下の範囲内であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の導電性ペーストによれば、例えばMLCCの内部電極用材料として用いた場合に、MLCC製造時の焼結工程において、ニッケル微粒子同士の接触・焼結による収縮を抑える事が可能である。その結果、例えばMLCCの製造過程で、焼結時のデラミネーションやクラック等の欠陥の発生を防ぐことが可能となり、MLCCの信頼性を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法によれば、マイクロ波を利用することによって、第1の微粒子の粒度分布をシャープにすることができる。さらにマイクロ波によって第1の微粒子を均一に加熱することによって、第1の微粒子の近傍で第2の微粒子を析出させて、第1の微粒子の表面に第2の微粒子を効率よく点在させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
[導電性ペースト]
本発明の一実施の形態に係る導電性ペーストは、次の成分(A)及び(B);
(A)ニッケル元素を主成分として含有する第1の微粒子と、第1の微粒子の表面に点在する貴金属元素を主成分として含有する第2の微粒子と、を備えた複合ニッケル微粒子、
及び、
(B)有機バインダー、
を含有する。
【0027】
<複合ニッケル微粒子>
図1は、本実施の形態に係る導電性ペーストに使用される複合ニッケル微粒子の構成を示す模式図である。複合ニッケル微粒子100は、ニッケル元素を主成分として含有する第1の微粒子10と、第1の微粒子10の表面に点在し、貴金属元素を主成分として含有する第2の微粒子20とを含有する。本実施の形態の複合ニッケル微粒子100において、「複合」とは、第1の微粒子10表面に第2の微粒子20が付着するか、又は、第1の微粒子10の間に第2の微粒子20が混在している状態を意味し、「複合化」とは、前記状態を作り出すことを意味する。
【0028】
(第1の微粒子)
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10は、例えば球状、疑似球状等の形状の微粒子であり、主成分としてニッケル元素を含有する。すなわち、第1の微粒子10は、全金属成分に対し、ニッケル元素を90質量%以上含有することが好ましく、95〜99質量%の範囲内とすることがより好ましい。第1の微粒子10の全金属成分に対するニッケル元素の含有量が90質量%未満であると、電気抵抗が大きくなり、電極特性に悪影響を及ぼす場合がある。なお、各種元素の含有量は、元素分析により確認することができる(以下、同様である)。
【0029】
第1の微粒子10は、ニッケル以外の金属元素を含有することができる。ニッケル以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の貴金属、希土類金属を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよく、これらの合金であってもよい。また、第1の微粒子10は、例えば水素、炭素、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよい。
【0030】
第1の微粒子10は、金属成分を90質量%以上含有することが好ましい。金属成分の含有量が90質量%未満であると、電気抵抗が大きくなり、例えばMLCCの内部電極材料用途として好ましくない。
【0031】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10の一次粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径は、20nm以上120nm以下の範囲内であり、30nm以上100nm以下の範囲内がより好ましい。第1の微粒子10の一次粒子の平均粒子径が120nmを上回ると、本実施の形態の導電性ペーストを使用して例えばMLCCの内部電極層を形成した場合に、電極層の薄膜化が困難になる。一方、第1の微粒子10の一次粒子の平均粒子径が20nmを下回ると、凝集が激しくなるばかりかニッケル微粒子自身の焼結温度が低下し、ボイドが多く発生しやすくなる。その結果、本実施の形態の導電性ペーストを使用して例えばMLCCの内部電極層を形成した場合に静電容量が得にくくなり、それを避けるためには、複合化させる貴金属粒子の存在割合を多くする必要があり、経済的ではない。
【0032】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10の粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径)は0.24以下である。第1の微粒子10の粒子径の変動係数が0.24を超えると、粗大粒子の存在からショートによる製品不良や製品歩留まりの低下を招く可能性があり好ましくない。
【0033】
なお、(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10及び第2の微粒子20の平均粒子径及び変動係数は、いずれもSEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出し、それぞれの面積を求めることによって算出することができる。
【0034】
(第2の微粒子)
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第2の微粒子20は、貴金属元素を主成分として含有する。すなわち、第2の微粒子20は、全金属成分に対し、貴金属元素を90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましい。第2の微粒子20の全金属成分に対する貴金属元素の含有量が90質量%未満であると、耐焼結性を改善する効果が少なくなる傾向となる。貴金属元素としては、例えば、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらの貴金属元素は2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0035】
第2の微粒子20は、貴金属以外の元素を含有することができる。貴金属以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の希土類金属を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよく、これらの合金であってもよい。また、第2の微粒子20は、例えば水素、炭素、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよい。
【0036】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第2の微粒子20の一次粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径は、0.5nm以上10nm以下の範囲内が好ましく、0.8nm以上5.0nm以下の範囲内がより好ましい。第2の微粒子20の一次粒子の平均粒子径が10nmを上回ると、第1の微粒子10に付着、又は第1の微粒子10の粒子間に存在する第2の微粒子20の数が減少し、第1の微粒子10どうしの接触が多くなる。その結果、焼結を抑制する効果が低下するとともに、それを避けるために複合化させる第2の微粒子20の存在割合を多くする必要があり、経済的ではない。第2の微粒子20の一次粒子の平均粒子径が0.5nmを下回ると、第2の微粒子20どうしの凝集が激しくなるばかりか、貴金属元素を主成分とする第2の微粒子20自身の焼結温度が低下し、第1の微粒子10の焼結温度を向上させる効果が低くなる。
【0037】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第2の微粒子20の粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径)は0.3以下であることが好ましい。第2の微粒子20の粒子径の変動係数が0.3を超えると、粗大粒子の存在で第1の微粒子10表面への付着または第1の微粒子10間の均一な混在が不可能となり、安定した耐焼結性が得にくくなる。
【0038】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10に含有されるニッケル元素に対して、第2の微粒子20の割合は、0.1質量%以上5質量%未満、好ましくは0.1質量%以上4質量%以下がよい。第1の微粒子10に含有されるニッケル元素に対して、第2の微粒子20の割合が、0.1質量%未満では焼結を抑制する効果が少なくなり、5質量%以上であると、それ以上の効果の向上が期待できなくなるとともに、経済的にも好ましくない。
【0039】
<(B)有機バインダー>
本実施の形態で用いる有機バインダーとしては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル等のアクリル酸エステル類、アルキッド樹脂、及びポリビニルアルコール等が使用できる。
【0040】
有機バインダーは、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、デカン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジヒドロターピニルアセテート、イソボニルアセテート、イソボニルプロキネート、イソボニルブチレート、イソボニルイソブチレート等のエステル系溶媒、α−テルピネオール、ブチルカルビトール等の長鎖アルコール系溶媒、ジヒドロテルピネオールアセテートやブチルカルビトールアセテート等の長鎖アルコールとカルボン酸とのエステル等の溶媒、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒等の有機溶媒を添加した状態で使用してもよい。なお、有機バインダーの添加量は、目的とする導電性ペーストのレベリング性や垂れ性の粘度特性に応じて適宜調節することができる。
【0041】
<作用>
次に、
図2及び
図3を参照しながら、本実施の形態の導電性ペーストの作用効果について説明する。
図2は本実施の形態の導電性ペーストに使用する複合ニッケル微粒子100を焼結させる前と焼結させた後の状態変化を模式的に示す図面である。また、
図3は、第2の微粒子20が複合化されていない第1の微粒子10のみを有する比較例の微粒子を焼結させる前と焼結させた後の状態変化を模式的に示す図面である。
図2及び
図3において、それぞれ、矢印の左側が焼結前、右側が焼結後を示している。
図2に示したように、複合ニッケル微粒子100は、第1の微粒子10と第2の微粒子20が複合化されており、第1の微粒子10の表面に第2の微粒子20が点在している。複合ニッケル微粒子100では、加熱によって、貴金属が主成分の第2の微粒子20どうしは互いに溶融するが、ニッケルが主成分の第1の微粒子10とは固溶化し難い。そのため、第2の微粒子20の存在によって、第1の微粒子10どうしの接触及び融着が抑制され、熱収縮が起こりにくい。それに対し、
図3に示したように、第2の微粒子20を有しない比較例の微粒子では、加熱によって第1の微粒子10どうしが接触して融着し、合体してしまうことにより、熱収縮が大きくなる。このように、本実施の形態の導電性ペーストは、熱収縮が起こりにくい複合ニッケル微粒子100を含有することによって、焼結時の体積変化が小さく、耐焼結性に優れている。従って、本実施の形態の導電性ペーストは、例えば、MLCCの内部電極材料、配線材料、多孔質材料、電磁波シールド材料、接合材料などの用途に好ましく利用できる。特に、MLCCの製造過程では、セラミックス誘電体材料と内部電極材料とを層状に交互に重ねて圧着した後、有機物を除去するための脱バインダー処理や、還元性雰囲気下での高温焼結処理を行う必要があるが、熱収縮が抑制された複合ニッケル微粒子100を含有する本実施の形態の導電性ペーストを内部電極材料に適用することにより、デラミネーションやクラック等の欠陥の発生を効果的に防止できる。
【0042】
[導電性ペーストの製造方法]
本実施の形態の導電性ペーストを製造する方法は、特に制限はなく、公知の導電性ペーストの製造と同様に行うことができる。例えば、(A)成分の複合ニッケル微粒子100及び(B)成分の有機バインダーを混合した後、撹拌、混練などの処理を行うことにより導電性ペーストを調製できる。好ましい例として、(A)成分の複合ニッケル微粒子100と有機溶媒を含有するスラリーに、(B)成分の有機バインダー(有機溶媒に溶解させた状態でもよい)を所定量添加し、混合、混練等を行うことによって、導電性ペーストを製造する方法を挙げることができる。
【0043】
本実施の形態の導電性ペーストには、発明の効果を損なわない範囲で、例えば、可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤、ゲル化防止剤等の任意成分を添加してもよい。さらに、本実施の形態の導電性ペーストには、(A)成分の複合ニッケル微粒子100の100重量部に対して、共材として、例えば5〜20重量部の範囲内でチタン酸バリウムなどの誘電体粒子を添加してもよい。
【0044】
[複合ニッケル微粒子の製造方法]
次に、本実施の形態の導電性ペーストに使用する複合ニッケル微粒子100の製造方法を説明する。複合ニッケル微粒子100は、下記の工程a〜dを実施することにより製造できる。
【0045】
工程a)ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程:
原料のニッケル塩(ニッケル前駆体)としては、例えば塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、カルボン酸ニッケル、Ni(acac)
2(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等を挙げることができる。例えば、塩化ニッケル六水和物(NiCl
2・6H
2O)は、錯体であるtrans―[NiCl
2(H
2O)
4]と、それに弱く結合した2個の水分子からなり、6個の水分子のうち4個のみが直接ニッケルと結合した構造を有している。このような構造のニッケル六水和物の水分子は容易にアミンなどによって置換され得るため、アミンと混合することで容易にアミン錯体を形成することができる。ニッケル塩の一部もしくは全部として塩化ニッケル(II)を用いることで、結晶性が高い金属ニッケルを生成することができる。
【0046】
また、ニッケル塩として、還元過程での解離温度(分解温度)が比較的低いカルボン酸ニッケルを用いることも好ましい。カルボン酸ニッケルとしては、例えば炭素数が1〜12のカルボン酸ニッケルを用いることができる。カルボン酸ニッケルは、カルボキシ基が1つのモノカルボン酸であってもよく、カルボキシ基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。好ましいカルボン酸ニッケルとして、例えばギ酸ニッケル、酢酸ニッケル等を用いることができる。還元温度が低く、第1の微粒子10であるニッケルナノ粒子の生成のための核を生じさせる作用も併有するギ酸ニッケルを用いることがより好ましい。
【0047】
有機アミンとしては、特に、1級の有機アミン(以下、「1級アミン」と略称する。)が好ましい。1級アミンは、ニッケル塩との混合物を溶解することにより、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮しやすいため、加熱による還元温度が高温のニッケル塩に対して有利に使用できる。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定されるものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。
【0048】
常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級の有機アミンであっても、加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0049】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって、生成する第1の微粒子10の粒径を制御することができる。第1の微粒子10の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られる第1の微粒子10の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。
【0050】
1級アミンは、還元反応後に、生成した第1の微粒子10と溶剤または未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点から、室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元して第1の微粒子10を得るときの反応制御の容易性の観点から、還元温度より沸点が高いものが好ましい。1級アミンの量は、ニッケル塩1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られる第1の微粒子10の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点から20mol以下とすることが好ましい。
【0051】
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定されず、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0052】
錯形成反応は、室温に於いても進行することができるが、十分な、且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、例えば100℃〜165℃の範囲内に加熱して反応を行う。この加熱は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、上限を165℃以下の適切な温度に設定することができる。加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0053】
錯化反応液には、第1の微粒子10を構成する金属ニッケルを生成する際の核となる物質(核剤)を配合することが好ましい。核剤としては、核形成が可能な物質であれば特に制限なく使用可能であり、上述のギ酸ニッケルを利用できるほか、例えばギ酸銅、硝酸銀、硝酸銅、パラジウム塩、白金塩、金塩等を用いることができる。これらの核剤を用いることで、粒径が小さく、かつ結晶性の高い金属ニッケルを効率よく生成させることができる。核剤の配合量は、ニッケル塩に対して、0.01〜5モル%の範囲内が好ましい。核剤の配合量がニッケル塩に対して0.01モル%未満では、ニッケル塩から金属ニッケルの生成を促す効果が得られず、ニッケル塩に対して5モル%を超えると、核が多く生成しすぎる結果、第1の微粒子10の粒子径が小さくなる傾向がある。なお、核剤は、工程a(錯化反応液を生成させる工程)に限らず、工程b(第1の微粒子10を形成する工程)におけるマイクロ波照射の前までに配合すればよい。
【0054】
工程b)前記錯化反応液にマイクロ波を照射して加熱することにより、平均粒子径が20nm以上120nm以下の範囲内であり、かつ、ニッケル元素を含有する第1の微粒子10を形成する工程:
本工程bでは、ニッケル塩と有機溶媒との錯形成反応によって得られた錯化反応液を、マイクロ波照射によって加熱し、錯化反応液中のニッケルイオンを還元して金属ニッケルを生成させ、第1の微粒子10であるニッケルナノ粒子のスラリーを得る。マイクロ波照射によって加熱する温度は、得られるニッケルナノ粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは180℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を効率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。
【0055】
マイクロ波照射による錯化反応液の加熱は、該反応液内の均一加熱を可能とし、かつエネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速な加熱を可能とする。これにより、反応液全体を所望の温度に均一にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、結果として粒子径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。特に、平均粒子径が20〜120nmの範囲内にある第1の微粒子10を製造するのに好適である。
【0056】
均一な粒径を有する第1の微粒子10を生成させるには、工程a(錯化反応液を生成させる工程)の加熱温度を特定の範囲内で調整し、工程b(第1の微粒子10を形成する工程)におけるマイクロ波による加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、工程aで加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し、異種の金属種が発生することで、工程bでの粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、工程bの加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり、核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、第1の微粒子10の収率の点からも好ましくはない。
【0057】
工程bにおいては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることが好ましい。本工程bでは、マイクロ波照射によって加熱して得られる第1の微粒子10のスラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、第1の微粒子10を分取し、さらに有機溶媒を加えて再スラリー化してもよい。
【0058】
工程c)第1の微粒子10を含有する有機溶媒のスラリーを貴金属塩の還元温度を下回る温度まで冷却する工程:
本工程cは、冷却工程である。本工程cでは、工程bで得られた第1の微粒子10であるニッケルナノ粒子のスラリーを貴金属塩の還元温度を下回る温度まで冷却する。冷却温度は、貴金属塩の種類によって異なるが、例えば150℃以下が好ましく、50℃以下まで冷却することがより好ましい。冷却方法は、特に限定されず、任意の冷却法を利用できるが、エネルギー効率の点から放冷により行うことが好ましい。
【0059】
本工程cを行わず、工程bで得られた第1の微粒子10のスラリーが150℃を超える高温の状態で貴金属塩を添加すると、貴金属塩の還元が一時期に進行し、第2の微粒子20の粒子径や形状の制御が困難になる。すなわち、次の工程dで貴金属塩を添加するときに、第1の微粒子10のスラリーの温度が150℃を超える場合には、瞬間的に反応が終了(貴金属微粒子が生成)し、得られる複合ニッケル微粒子100に存在する第2の微粒子20が不均一なものとなる可能性がある。特に、第1の微粒子10であるニッケルナノ粒子のスラリー中に還元性のアミンが存在している場合にはこの傾向が強くなる。
【0060】
工程d)第1の微粒子10を含有する有機溶媒のスラリーに、貴金属塩を添加した後、マイクロ波照射を照射して第1の微粒子10を加熱することにより第2の微粒子20を析出させ、第1の微粒子10の表面に第2の微粒子20が複合化した複合ニッケル微粒子100を得る工程:
本工程dでは、工程cで冷却した第1の微粒子10のスラリーに貴金属塩を添加して加熱することによって、第2の微粒子20を析出させて複合ニッケル微粒子100を得る。マイクロ波照射によってスラリーを加熱する温度は、貴金属塩を還元出来る温度であればよく、貴金属塩の種類によって異なるが、析出させる第2の微粒子20の形状のばらつきを抑制する観点から、例えば、100℃以上200℃以下の範囲内が好ましく、120℃以上180℃以下の範囲内がより好ましい。加熱温度が100℃未満では、第2の微粒子20の生成が十分ではなく、200℃を超える場合には、生成した第2の微粒子20同士が焼結・融着して凝集を引き起こす可能性がある。上記温度域における加熱時間としては、例えば、0.5分以上10分以下の範囲内でよい。マイクロ波で短時間に加熱することによって、第1の微粒子10の表面に微細な第2の微粒子20を付着させるか、あるいは、第1の微粒子10の粒子間に第2の微粒子20を混在させた状態(複合化した状態)を作ることが可能となる。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。
【0061】
貴金属塩は、粉末、溶媒に分散させたスラリー又は溶媒に溶解させた溶液として使用することができる。溶媒の種類は、特に制限はなく、例えば芳香族系溶媒、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アミン系溶媒など沸点が100℃以上のものが好ましい。
【0062】
また、本工程dで添加する貴金属塩の量は、金属換算で、第1の微粒子10のニッケル金属100重量部に対して1重量部以上15重量部以下の範囲内が好ましい。貴金属塩の添加量が、金属換算で1重量部未満では、複合ニッケル微粒子100中の貴金属量が複合ニッケル微粒子100の0.1質量%未満となってしまう。貴金属塩の添加量が、金属換算で15重量部を超えると、複合ニッケル微粒子100中の貴金属が複合ニッケル微粒子100中の5質量%を超える可能性がある。
【0063】
本工程dでは、マイクロ波加熱を利用することによって、短時間で貴金属塩の還元反応を終了させることができる。また、マイクロ波加熱では、反応液中に存在する第1の微粒子10がマイクロ波の吸収によって速やかに高温に加熱されるため、第1の微粒子10を介して間接的に貴金属塩を加熱することができる。そのため、第1の微粒子10の近傍で第2の微粒子20を生成させ、第1の微粒子10の表面に第2の微粒子20を付着させやすくなる。第1の微粒子10の表面に第2の微粒子20が付着した状態は、耐焼結性に優れ、複合ニッケル微粒子100を洗浄し、製品化させる過程においても、第2の微粒子20の流出が抑制されるため、有利である。
【0064】
以上の工程a〜工程dによって、複合ニッケル微粒子100を得ることができる。工程a〜工程dは、同じ処理容器内において実施できるので、工業的規模での製造において有利である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0066】
[平均粒子径の測定]
SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径を算出した。また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0067】
[熱機械分析(TMA)、熱重量分析(TGA)、5%熱収縮温度]
試料を5Φ×2mmの円柱状成型器に入れ、プレス成型して得られる成型体を作製し、窒素ガス(水素ガス3%含有)の雰囲気下で、熱機械分析(TMA)および熱重量分析(TGA)を行った。また、熱機械分析装置(TMA)により測定される5%熱収縮の温度を5%熱収縮温度とした。
【0068】
(合成例1)
<錯化反応液の調製>
254.2gの酢酸ニッケル四水和物(1.02mol)に745.8gのオレイルアミン(2.79mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱することによって錯化反応液A(ニッケルイオンの濃度;6wt%)を得た。
【0069】
(比較例1)
<ニッケルスラリーの形成>
得られた錯化反応液Aに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Aのスラリーを得た。それを室温まで放冷したのち、トルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥してニッケル微粒子Aを得た。
【0070】
ニッケル微粒子Aの元素分析の結果は、C;0.5、O;1.1、S;<0.1(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Aの結晶構造は、X線回折から、FCC(面心立方格子)構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Aの平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。TMAにより500℃昇温後に、成型体の表面のSEM観察を行ったところ、
図4に示したように、全体的に焼結が進行し、粒子が融着して収縮していた。
【0071】
(実施例1)
比較例1と同様に、得られた錯化反応液Aに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Aのスラリーを得た。それを60℃まで放冷したのち、50gのオクタノールに溶解した1.70gの硝酸銀(0.01mol)を添加して5分間攪拌した後、再度マイクロ波を照射して160℃まで加熱し、その温度を3分間保持して、室温まで放冷した。それをトルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥して複合ニッケル微粒子A1を得た。この複合ニッケル微粒子A1の平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。TMAにより500℃昇温後に、成型体の表面のSEM観察を行ったところ、
図5に示したように、元の粒子形状が残り、収縮が抑制されていた。
【0072】
(実施例2)
比較例1と同様に、得られた錯化反応液Aに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Aのスラリーを得た。それを60℃まで放冷したのち、50gのオクタノールに溶解した3.34gの酢酸銀(0.02mol)を添加して5分間攪拌した後、再度マイクロ波を照射して160℃まで加熱し、その温度を3分間保持して、室温まで放冷した。それをトルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥して複合ニッケル微粒子A2を得た。この複合ニッケル微粒子A2の平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。また、複合ニッケル微粒子A2のSEM写真を
図6に示した。さらに、TMAにより500℃昇温後に、成型体の表面のSEM観察を行ったところ、
図7に示したように、元の粒子形状が残り、収縮が抑制されていた。
【0073】
(実施例3)
比較例1と同様に、得られた錯化反応液Aに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Aのスラリーを得た。それを60℃まで放冷したのち、25gのオクタノールと25gのオレイルアミンに溶解した2.06gの四塩化金酸4水和物(0.005mol)を添加して5分間攪拌した後、再度マイクロ波を照射して160℃まで加熱し、その温度を3分間保持して、室温まで放冷した。それをトルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥して複合ニッケル微粒子A3を得た。この複合ニッケル微粒子A3の平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。TMAにより500℃昇温後に、成型体の表面のSEM観察を行ったところ、
図8に示したように、元の粒子形状が残り、収縮が抑制されていた。
【0074】
(実施例4)
比較例1と同様に、得られた錯化反応液Aに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Aのスラリーを得た。それを60℃まで放冷したのち、25gのオクタノールと25gのオレイルアミンに溶解した2.43gの塩化白金カリウム(0.005mol)を添加して5分間攪拌した後、再度マイクロ波を照射して160℃まで加熱し、その温度を3分間保持して、室温まで放冷した。それをトルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥して複合ニッケル微粒子A−4を得た。この複合ニッケル微粒子A4の平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。TMAにより500℃昇温後に、成型体の表面のSEM観察を行ったところ、
図9に示したように、元の粒子形状が残り、収縮が抑制されていた。
【0075】
(実施例5)
比較例1と同様に、得られた錯化反応液Aに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Aのスラリーを得た。それを60℃まで放冷したのち、25gのオクタノールと25gのオレイルアミンに溶解した1.15gの硝酸パラジウム(0.005mol)を添加して5分間攪拌した後、再度マイクロ波を照射して160℃まで加熱し、その温度を3分間保持して、室温まで放冷した。それをトルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥して複合ニッケル微粒子A−5を得た。この複合ニッケル微粒子A5の平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。TMAにより500℃昇温後に、成型体の表面のSEM観察を行ったところ、
図10に示したように、元の粒子形状が残り、収縮が抑制されていた。
【0076】
(合成例2)
<錯化反応液の調製>
169.5gの酢酸ニッケル四水和物(0.68mol)に830.5gのオレイルアミン(3.11mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱したのち、0.58gの硝酸銀(0.0034mol)を加えることによって錯化反応液D(ニッケルイオンの濃度;4wt%)を得た。
【0077】
(比較例2)
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Dに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Bのスラリーを得た。それを室温まで放冷したのち、トルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥してニッケル微粒子Bを得た。
【0078】
ニッケル微粒子Bの元素分析の結果は、C;1.9、O;3.2、S;<0.1(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Bの結晶構造は、X線回折から、FCC構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Bの平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。
【0079】
(実施例6)
比較例2と同様に、得られた錯化反応液Dに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Bのスラリーを得た。それを60℃まで放冷したのち、50gのオクタノールに溶解した3.34gの酢酸銀(0.02mol)を添加して5分間攪拌した後、再度マイクロ波を照射して160℃まで加熱し、その温度を3分間保持して、室温まで放冷した。それをトルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥して複合ニッケル微粒子B1を得た。この複合ニッケル微粒子B1の平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。
【0080】
(実施例7)
比較例1と同様に、得られた錯化反応液Aに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Aのスラリーを得た。それを60℃まで放冷したのち、25gのオクタノールと25gのオレイルアミンに溶解した4.12gの四塩化金酸4水和物(0.01mol)を添加して5分間攪拌した後、再度マイクロ波を照射して160℃まで加熱し、その温度を3分間保持して、室温まで放冷した。それをトルエン/メタノール=4/1の溶液で十分洗浄した後、80℃で1昼夜乾燥して複合ニッケル微粒子B2を得た。この複合ニッケル微粒子B2の平均粒子径、CV値、5%収縮率を表1に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
以上のように、ニッケル微粒子のスラリーを冷却した後、貴金属塩を添加し、マイクロ波で再加熱することで、ニッケル微粒子の表面に貴金属微粒子を複合化させることが可能であった。この複合ニッケル微粒子は、貴金属微粒子の存在によってニッケル微粒子どうしの接触及び融着が妨げられることによって、熱収縮を大幅に抑制できることが確認できた。
【0083】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。