【課題】より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性で、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池用正極活物質を作製することができ、しかも、製造工程が簡単で、正極活物質を効率よく生産することができるリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン電池用正極活物質を提供する。
(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)の原料となるA源及びP源を混合してスラリーとするスラリー調製工程と、このスラリーを、密閉状態にて、100℃以上かつ150℃未満の温度範囲で加熱処理し、さらに、150℃以上かつ200℃以下の温度範囲で加熱処理する加熱処理工程と、を有する。
前記スラリー調製工程は、前記Mn源に対する前記A源のモル比A/Mnを0.04以上かつ0.20以下となるように調製する工程を有することを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン電池用正極活物質を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
[リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、オリビン型LiMnPO
4粒子の表面にオリビン型LiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜を被覆してなるリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であって、
前記LiMnPO
4粒子の原料となるLi源及びMn源、及び前記LiAPO
4の原料となるA源及びP源を混合しスラリーとするスラリー調製工程と、
前記スラリーを、密閉状態にて、100℃以上かつ150℃未満の温度範囲で加熱処理し、さらに、150℃以上かつ200℃以下の温度範囲で加熱処理する加熱処理工程と、
この加熱処理工程にて得られたLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子と、炭素源となる有機化合物及び溶媒とを混合して第2のスラリーとする第2のスラリー調製工程と、
前記第2のスラリーを乾燥した後、非酸化性雰囲気下にて500℃以上かつ1000℃以下の温度範囲で加熱処理する第2の加熱処理工程と、
を有する製造方法である。
次に、この製造方法を詳細に説明する。
【0017】
(スラリー調製工程)
オリビン型LiMnPO
4粒子の原料となるLi源及びMn源、及びオリビン型LiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)の原料となるA源及びP源を混合しスラリーとする工程である。
【0018】
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO
3)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)等のリチウム無機酸塩及びこれらの水和物、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)
2)等のリチウム有機酸塩及びこれらの水和物が挙げられ、これらの中から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
Mn源としては、Mn塩が好ましく、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl
2)、硫酸マンガン(II)(MnSO
4)、酢酸マンガン(II)(Mn(CH
3COO)
2)及びこれらの水和物の中から選択された1種または2種以上が好ましい。
【0019】
A源としては、Fe、Niの少なくとも1種を含む金属塩が好ましく、例えば、Fe、Niの少なくとも1種を含む塩化物、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩及びこれらの水和物の中から選択された1種または2種以上が好ましい。
P源としては、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)及びこれらの水和物の中から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
【0020】
これらLi源、Mn源、A源及びP源の混合方法としては、各々の原料固体を水溶媒へ加える方法、各々の原料水溶液を混合する方法が挙げられるが、原料を均一に混合する観点から後者の方法が好ましい。
これらの原料を混合する際には、Mn源に対するA源のモル比A/Mnを0.04以上かつ0.20以下となるように調製することが好ましい。
【0021】
ここで、Mn源に対するA源のモル比A/Mnを上記の範囲に限定した理由は、この範囲が、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性と、長期のサイクル安定性及び安全性とを両立することの出来る範囲だからである。
なお、モル比A/Mnが0.04未満では、オリビン型LiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜の被覆が不十分となるので好ましくなく、一方、モル比A/Mnが0.20を超えると、電解液からオリビン型LiMnPO
4粒子へのリチウムイオンの移動が阻害されるので好ましくない。
【0022】
(加熱処理工程)
上記の工程にて得られたスラリーを、密閉状態にて、100℃以上かつ150℃未満の温度範囲で加熱処理し、さらに、150℃以上かつ200℃以下の温度範囲で加熱処理する工程である。
これらの加熱処理におけるそれぞれの時間は、LiMnPO
4粒子の表面にLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜を被覆してなるLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子を1回の水熱処理により大量に効率よく得ることができればよい。
これらの条件を勘案すると、例えば、100℃以上かつ150℃未満の温度範囲で1時間以上かつ12時間以下加熱処理し、次いで、150℃以上かつ200℃以下の温度範囲で1時間以上かつ6時間以下加熱処理することが好ましい。
【0023】
なお、初めの100℃以上かつ150℃未満の温度範囲での加熱処理においては、100℃未満ではLiMnPO
4の反応が進まず、また、150℃以上ではLiMnPO
4粒子の表面にLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜を被覆してなるLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子が生成されず、しかも粒子内にMnおよびA(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)がまんべんなく存在する粒子が生成されてしまうので好ましくない。
次の150℃以上かつ200℃以下の温度範囲での加熱処理おいては、150℃未満ではLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)の反応が進まず、一方、200℃以上では結晶成長が進行し粗大な粒子となるので好ましくない。
【0024】
この加熱処理工程では、100℃以上かつ150℃未満の温度範囲、さらに、150℃以上かつ200℃以下の温度範囲、という2段階の温度範囲で加熱処理することにより、LiMnPO
4粒子の表面にLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜を被覆してなるLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子を、1回の水熱処理により大量に効率よく得ることができる。
【0025】
この2段階の温度範囲での加熱処理後、放冷または水冷等により室温(25℃)になるまで冷却し、沈殿しているケーキ状の反応生成物を得る。
次いで、この沈殿物(=沈殿しているケーキ状の反応生成物)を、蒸留水または純水を用いて複数回十分に水洗し、次いで、温風乾燥機、バッチ式乾燥機等を用いて乾燥する。
これにより、LiMnPO
4粒子の表面にLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜を被覆してなるLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子を、容易かつ簡便に作製することができる。
【0026】
(第2のスラリー調製工程)
上記の加熱処理工程にて得られたLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子と、炭素源となる有機化合物及び溶媒とを混合して第2のスラリーとする工程である。
この炭素源となる有機化合物としては、非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより炭素を生成する有機化合物であればよく、特に制限はされないが、例えば、ヘキサノール、オクタノール等の高級一価アルコール、アリルアルコール、プロピノール(プロパルギルアルコール)、テルピネオール等の不飽和一価アルコール、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0027】
この有機化合物を溶解させる溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
このスラリー中の炭素源となる有機化合物の濃度は、特に限定されるものではないが、LiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子の表面に、炭素質を含む被覆層を均一に形成するためには、1質量%以上かつ25質量%以下が好ましい。
【0029】
(第2の加熱処理工程)
上記の第2のスラリー調製工程にて得られた第2のスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を、非酸化性雰囲気下にて500℃以上かつ1000℃以下の温度範囲で加熱処理する工程である。
非酸化性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気、あるいは、窒素ガス中に水素ガスを数質量%程度含む還元性雰囲気が好ましい。
【0030】
この熱処理の時間は、熱処理時の温度にもよるが、炭素源となる有機化合物から炭素が生成する時間の範囲であればよく、例えば、非酸化性雰囲気下にて500℃以上かつ1000℃以下の温度範囲で加熱処理する場合、1時間以上かつ24時間以下が好ましい。
以上により、LiMnPO
4粒子の表面にLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜が被覆され、さらにその表面が炭素質被膜により被覆された炭素質及びLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子を、容易かつ簡便に作製することができる。
【0031】
[リチウムイオン電池用正極活物質]
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質は、本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法により得られた正極活物質であり、LiMnPO
4粒子の表面にLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜が被覆され、さらにその表面が炭素質被膜により被覆された炭素質及びLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子(以下、単に表面被覆LiMnPO
4粒子とも称する)である。
【0032】
この表面被覆LiMnPO
4粒子の大きさは、特に限定されないが、平均1次粒子径は20nm以上かつ400nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上かつ150nm以下である。
ここで、平均1次粒子径が20nm未満では、充放電による体積変化によりLiMnPO
4粒子自体が破壊される虞があるので好ましくなく、一方、平均1次粒子径が400nmを超えると、粒子内部への電子の供給量が不足し、利用効率が低下するので好ましくない。
上記の平均1次粒子径とは、個数平均粒子径のことである。この粒子の平均1次粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0033】
この表面被覆LiMnPO
4粒子の形状は、特に限定されないが、球状、特に真球状の2次粒子からなる電極材料を生成し易いことから、その形状も球状、特に真球状であることが好適である。
ここで、表面被覆LiMnPO
4粒子の形状として、球状、特に真球状が好ましい理由としては、この表面被覆LiMnPO
4粒子からなる電極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して電極形成用塗料または電極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、この電極形成用塗料または電極形成用ペーストの集電体への塗工も容易となるからである。
【0034】
また、表面被覆LiMnPO
4粒子の形状が球状であれば、この表面被覆LiMnPO
4粒子を用いて作製された電極材料の表面積が最小となり、この電極材料に添加するバインダー樹脂(結着剤)の添加量を最小限に抑制することができ、得られる正電極の内部抵抗を小さくすることができるので好ましい。
さらに、最密充填し易いことから、単位体積当たりの正極材料の充填量が多くなり、電極密度を高くすることができ、その結果、高容量のリチウムイオン電池を提供することができるので好ましい。
【0035】
この表面被覆LiMnPO
4粒子におけるLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜の厚みは、1nm以上かつ5nm以下であることが好ましい。
このLiAPO
4被膜の厚みの範囲が1nm以上かつ5nm以下が好ましい理由は、この範囲が、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性と、長期のサイクル安定性及び安全性とを両立することができる範囲だからである。ここで、厚みが1nm未満では、オリビン型LiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜の被覆が不十分となるので好ましくなく、一方、厚みが5nmを超えると、電解液からオリビン型LiMnPO
4粒子へのリチウムイオンの移動が阻害されるので好ましくない。
【0036】
この表面被覆LiMnPO
4粒子における炭素質被膜の厚みは、2nm以上かつ10nm以下であることが好ましい。
この炭素質被膜の厚みが2nm未満であると、炭素質被膜が薄すぎてしまい、この表面被覆LiMnPO
4粒子の電子電導性を向上させることが難しくなり、一方、炭素質被膜の厚みが10nmを超えると、電池活性、例えば、電極材料の単位質量あたりの電池容量が低下する虞がある。
【0037】
[電極]
本実施形態の電極は、本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質を含有してなる電極である。
本実施形態の電極を作製するには、上記のリチウムイオン電池用正極活物質(=表面被覆LiMnPO
4粒子)と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、電極形成用塗料または電極形成用ペーストを調整する。この際、必要に応じて導電助剤を添加してもよい。
【0038】
このような導電助剤としては、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、繊維状炭素であるカーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維等が挙げられる。特に導電性に優れる炭素としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックが好ましい。アセチレンブラック、ケッチェンブラックは容易に入手可能であるから、好適である。
【0039】
上記の結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
上記のリチウムイオン電池用正極活物質とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオン電池用正極活物質100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部以上かつ30質量部以下、好ましくは3質量部以上かつ20質量部以下とする。
【0040】
この電極形成用塗料または電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよく、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
次いで、この電極形成用塗料または電極形成用ペーストを、金属箔の一方の面に塗布し、その後、乾燥し、上記のリチウムイオン電池用正極活物質とバインダー樹脂との混合物からなる塗膜が一方の面に形成された金属箔を得る。
次いで、この塗膜を加圧圧着し、乾燥して、金属箔の一方の面に電極材料層を有する電極を作製する。
このようにして、本実施形態の電極を作製することができる。
【0042】
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態の電極からなる正極と、金属Li、Li合金、Li
4Ti
5O
12、炭素材料等からなる負極と、電解液とセパレータあるいは固体電解質を備えている。
このリチウムイオン電池は、本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質を用いて電極を作製することにより、Liの脱離・挿入が良好となり、よって、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性と、長期のサイクル安定性及び安全性とを両立させることができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法によれば、LiMnPO
4粒子の原料となるLi源及びMn源、及びLiAPO
4の原料となるA源及びP源を混合しスラリーとするスラリー調製工程と、このスラリーを、密閉状態にて、100℃以上かつ150℃未満の温度範囲で加熱処理し、さらに、150℃以上かつ200℃以下の温度範囲で加熱処理する加熱処理工程と、この加熱処理工程にて得られたLiAPO
4被覆LiMnPO
4粒子と、炭素源となる有機化合物及び溶媒とを混合して第2のスラリーとする第2のスラリー調製工程と、この第2のスラリーを乾燥した後、非酸化性雰囲気下にて500℃以上かつ1000℃以下の温度範囲で加熱処理する第2の加熱処理工程と、を有するので、LiMnPO
4粒子の表面に、LiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜が形成され、さらにその表面が炭素質被膜により被覆された表面被覆LiMnPO
4粒子を、1回の水熱処理により大量に効率良く得ることができる。したがって、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性で、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池用正極活物質を、簡単な工程で、効率よく生産することができる。
【0044】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質によれば、LiMnPO
4粒子の表面にLiAPO
4(但し、AはFe、Niの少なくとも1種)からなる被膜を被覆し、さらにその表面を炭素質被膜により被覆して表面被覆LiMnPO
4粒子としたので、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性と、長期のサイクル安定性及び安全性とを両立させることができる。
このリチウムイオン電池用正極活物質をリチウムイオン電池に適用することにより、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性で、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0046】
「実施例1」
水熱合成法により、LiMnPO
4粒子の表面にLiFePO
4からなる被膜を被覆したLiFePO
4被覆LiMnPO
4粒子を作製した。
ここでは、Li源及びP源としてLi
3PO
4を、Mn源としてMnSO
4水溶液を、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、これらをモル比でLi:P:Mn:Fe=3:1:0.9:0.1となるように混合し、全体の容量が200mlの原料スラリーを作製した。
【0047】
次いで、この原料スラリーを耐圧密閉容器に収容し、110℃にて1時間加熱反応を行った後、170℃にて1時間加熱反応を行った。
この反応後、室温(25℃)になるまで水冷して、沈殿物であるケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて十分に水洗し、その後、乾燥機を用いて120℃にて12時間乾燥し、LiFePO
4被覆LiMnPO
4粒子を得た。
【0048】
次いで、このLiFePO
4被覆LiMnPO
4粒子95質量部と、有機化合物としてポリビニルアルコール(PVA)を10質量%含むポリビニルアルコール水溶液5質量部とを、混合し、PVA含有スラリーとした。
次いで、このPVA含有スラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥し、得られた乾燥物を、窒素ガス雰囲気下、600℃にて1時間加熱処理し、実施例1のリチウムイオン電池用正極活物質である表面被覆LiMnPO
4粒子を得た。
【0049】
「実施例2」
水熱合成法により、LiMnPO
4粒子の表面にLiNiPO
4からなる被膜を被覆したLiNiPO
4被覆LiMnPO
4粒子を作製した。
ここでは、Li源及びP源としてLi
3PO
4を、Mn源としてMnSO
4水溶液を、Ni源としてNiSO
4水溶液を用い、これらをモル比でLi:P:Mn:Ni=3:1:0.9:0.1となるように混合し、全体の容量が200mlの原料スラリーを作製した。
【0050】
次いで、この原料スラリーを耐圧密閉容器に収容し、110℃にて1時間加熱反応を行った後、190℃にて1時間加熱反応を行った。
この反応後、室温(25℃)になるまで水冷して、沈殿物であるケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて十分に水洗し、その後、乾燥機を用いて120℃にて12時間乾燥し、LiNiPO
4被覆LiMnPO
4粒子を得た。
【0051】
次いで、このLiNiPO
4被覆LiMnPO
4粒子95質量部と、有機化合物としてポリビニルアルコール(PVA)を10質量%含むポリビニルアルコール水溶液5質量部とを、混合し、PVA含有スラリーとした。
次いで、このPVA含有スラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥し、得られた乾燥物を、窒素ガス雰囲気下、600℃にて1時間加熱処理し、実施例2のリチウムイオン電池用正極活物質である表面被覆LiMnPO
4粒子を得た。
【0052】
「比較例1」
水熱合成法により、リチウムイオン電池用正極活物質を作製した。
ここでは、Li源及びP源としてLi
3PO
4を、Mn源としてMnSO
4水溶液を、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、これらをモル比でLi:P:Mn:Fe=3:1:0.9:0.1となるように混合し、全体の容量が200mlの原料スラリーを作製した。
【0053】
次いで、この原料スラリーを耐圧密閉容器に収容し、130℃にて1時間加熱反応を行った。
この反応後、室温(25℃)になるまで水冷して、沈殿物であるケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて十分に水洗し、その後、乾燥機を用いて120℃にて12時間乾燥し、粉体を得た。
【0054】
次いで、この粉体95質量部と、有機化合物としてポリビニルアルコール(PVA)を10質量%含むポリビニルアルコール水溶液5質量部とを、混合し、PVA含有スラリーとした。
次いで、このPVA含有スラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥し、得られた乾燥物を、窒素ガス雰囲気下、600℃にて1時間加熱処理し、比較例1のリチウムイオン電池用正極活物質を得た。
【0055】
「比較例2」
水熱合成法により、リチウムイオン電池用正極活物質を作製した。
ここでは、Li源及びP源としてLi
3PO
4を、Mn源としてMnSO
4水溶液を、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、これらをモル比でLi:P:Mn:Fe=3:1:0.9:0.1となるように混合し、全体の容量が200mlの原料スラリーを作製した。
【0056】
次いで、この原料スラリーを耐圧密閉容器に収容し、170℃にて1時間加熱反応を行った。
この反応後、室温(25℃)になるまで水冷して、沈殿物であるケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて十分に水洗し、その後、乾燥機を用いて120℃にて12時間乾燥し、粉体を得た。
【0057】
次いで、この粉体95質量部と、有機化合物としてポリビニルアルコール(PVA)を10質量%含むポリビニルアルコール水溶液5質量部とを、混合し、PVA含有スラリーとした。
次いで、このPVA含有スラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥し、得られた乾燥物を、窒素ガス雰囲気下、600℃にて1時間加熱処理し、比較例2のリチウムイオン電池用正極活物質を得た。
【0058】
「比較例3」
水熱合成法により、リチウムイオン電池用正極活物質を作製した。
ここでは、Li源及びP源としてLi
3PO
4を、Mn源としてMnSO
4水溶液を、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、これらをモル比でLi:P:Mn:Fe=3:1:0.9:0.1となるように混合し、全体の容量が200mlの原料スラリーを作製した。
【0059】
次いで、この原料スラリーを耐圧密閉容器に収容し、110℃にて1時間加熱反応を行った後、250℃にて1時間加熱反応を行った。
この反応後、室温(25℃)になるまで水冷して、沈殿物であるケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて十分に水洗し、その後、乾燥機を用いて120℃にて12時間乾燥し、粉体を得た。
【0060】
次いで、この粉体95質量部と、有機化合物としてポリビニルアルコール(PVA)を10質量%含むポリビニルアルコール水溶液5質量部とを、混合し、PVA含有スラリーとした。
次いで、このPVA含有スラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥し、得られた乾燥物を、窒素ガス雰囲気下、600℃にて1時間加熱処理し、比較例3のリチウムイオン電池用正極活物質を得た。
【0061】
「リチウムイオン電池用正極活物質の評価」
実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池用正極活物質の評価を行った。
評価項目及び評価結果は下記のとおりである。
【0062】
(1)深さ方向の元素分布
オージェ電子分光法を用いて、リチウムイオン電池用正極活物質の深さ方向の元素分布を測定した。
実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池用正極活物質の深さ方向の元素分布の測定結果を表1及び
図1に示す。
【0063】
その結果、実施例1、2のリチウムイオン電池用正極活物質では、粒子表面にFe、Ni、内部にMnが明らかに偏在して存在していることが確認できた。
一方、比較例1のリチウムイオン電池用正極活物質ではFeの存在が確認できず、比較例2、3のリチウムイオン電池用正極活物質ではFeとMnが偏在していることが確認できなかった。
【0064】
(2)比表面積
比表面積計 BELSORP−miniを用いて、実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池用正極活物質の比表面積を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
その結果、実施例1、2及び比較例1、2それぞれのリチウムイオン電池用正極活物質では大きな比表面積を有するものの、比較例3のリチウムイオン電池用正極活物質では比表面積が大きく減少していた。この理由は、加熱反応の温度が250℃と高く、したがって、結晶成長が進行したことによるものと考えられる。
【0065】
「リチウムイオン電池の作製及び評価」
実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池用正極活物質と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、結着材(バインダー)としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比が、活物質材料:AB:PVdF=80:10:10となるように混合し、さらに溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を加えて流動性を付与し、実施例1、2及び比較例1〜3それぞれの正極材料ペーストとした。
【0066】
次いで、これらのペーストを、厚み30μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。その後、所定の圧力にて加圧してリチウムイオン電池の電極板を作製し、これらの電極板を直径16mmの円盤状に打ち抜き、実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池の試験電極を作製した。
【0067】
これらのリチウムイオン電池の試験電極に対し、対極としてリチウム(Li)金属を用い、セパレーターとしては、多孔質ポリプロピレン膜を用いた。また、非水電解質溶液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で1:1となるように混合した混合液に濃度1モル/Lとなるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解したLiPF
6溶液を用いた。
次いで、上記の試験電極、対極、非水電解質溶液及び2032型のコインセルを用いて、実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池を作製した。
【0068】
これらのリチウムイオン電池について電池特性の試験を行った。
電池特性試験は、環境温度25℃にて、試験電極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.3Vになるまで電流0.1CAで定電流充電を行い、次いで、4.3Vにおいて電流値が0.01CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止し、試験電極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.0Vになるまで0.1CAおよび1CAの定電流放電を行った。表1に実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池の放電容量を、
図2に実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池の充放電曲線を、それぞれ示す。
【0069】
これらの結果によれば、実施例1、2それぞれのリチウムイオン電池の放電容量及び充放電曲線は、比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池の放電容量及び充放電曲線と比べて、電池特性が優れていた。
この要因は、比較例1〜3それぞれのリチウムイオン電池に、電池特性を低下させる要因があったからであると考えられる。
すなわち、比較例1のリチウムイオン電池では、LiMnPO
4の表面にLiFePO
4が存在しておらず、その結果、電池特性が低下していた。
比較例2のリチウムイオン電池では、LiMnPO
4とLiFePO
4とが固溶しており、よって、表面におけるLiFePO
4の存在割合が減少し、その結果、特性改善作用が効果的に働かず、電池特性が低下していた。
比較例3のリチウムイオン電池では、粒子の比表面積が大きく低下しており、よって、結晶とLiとの反応場が減少することとなり、その結果、電池特性が低下していた。
【0070】
【表1】
【0071】
なお、本実施例では、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を用いているが、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料を用いてもよい。また、対極にリチウム(Li)金属を用いた電池で評価しているが、当然ながら天然黒鉛、人造黒鉛、コークスのような炭素材料、Li
4Ti
5O
12、あるいはリチウム(Li)合金等の負極材料を用いてもよい。
また、非水電解質溶液として、濃度1モル/LのLiPF
6を含む炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積%で1:1に混合したものを用いているが、LiPF
6の代わりにLiBF
4あるいはLiClO
4を用いてもよく、炭酸エチレンの代わりにプロピレンカーボネートあるいはジエチルカーボネートを用いてもよい。
また、電解液とセパレーターの代わりに固体電解質を用いてもよい。