特開2015-50003(P2015-50003A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特開2015-50003色素増感型太陽電池用ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池
<>
  • 特開2015050003-色素増感型太陽電池用ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-50003(P2015-50003A)
(43)【公開日】2015年3月16日
(54)【発明の名称】色素増感型太陽電池用ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 14/00 20060101AFI20150217BHJP
   H01L 31/04 20140101ALI20150217BHJP
【FI】
   H01M14/00 P
   H01L31/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-180141(P2013-180141)
(22)【出願日】2013年8月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22〜24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構太陽エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム次世代高性能技術の開発 三層協調界面構築による高効率・低コスト・量産型色素増感太陽電池の研究開発(高効率・高耐久性モジュール材料の研究開発)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】八久保 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】高野 真悟
【テーマコード(参考)】
5F151
5H032
【Fターム(参考)】
5F151AA14
5F151FA03
5F151FA06
5F151FA08
5F151GA03
5H032AA06
5H032AS16
5H032BB05
5H032CC11
5H032EE02
5H032EE16
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】高い光電変換効率を実現可能な色素増感型太陽電池用ペーストを提供する。
【解決手段】比表面積が55m2/g以上70m2/g以下である酸化物半導体粒子と、前記酸化物半導体粒子の比表面積を維持して分散させる分散媒とを含有する色素増感型太陽電池用ペーストである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が55m2/g以上70m2/g以下である酸化物半導体粒子と、前記酸化物半導体粒子の比表面積を維持して分散させる分散媒とを含有する色素増感型太陽電池用ペースト。
【請求項2】
前記酸化物半導体粒子は、平均長軸長が20nm以上200nm以下であり、長軸と短軸の比から算出される平均アスペクト比が2以上10以下の範囲であるロッド状粒子、及び平均粒子径が1nm以上20nm以下である微粒子である、請求項1に記載の色素増感型太陽電池用ペースト。
【請求項3】
前記酸化物半導体粒子が酸化チタンである、請求項1又は2に記載の色素増感型太陽電池用ペースト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ペーストを、透明導電性基板上で焼成し、形成されてなる酸化物半導体膜。
【請求項5】
請求項4に記載の酸化物半導体膜に色素を吸着させてなる、酸化物半導体電極。
【請求項6】
請求項5に記載の酸化物半導体電極を備えている、色素増感型太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色素増感型太陽電池用ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池に関し、特に、高い光電変換効率を有する色素増感型太陽電池用ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料に代わるエネルギー源として太陽光を利用する太陽電池が注目され、種々の研究が行われている。近年、新しいタイプの太陽電池として、金属錯体の光誘起電子移動を応用した色素増感型太陽電池が開示されている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、シリコン系やCdTe/CdS等の半導体太陽電池など、多くの研究がされている。
【0003】
太陽電池の光電変換効率を向上させるためには、電流密度を高くすること、電子伝導性を高くすること、及び電解質移動性に優れること等が求められる。これらの要求を満たすために、光電変換を行う半導体膜は、その表面に色素がより多く吸着すること、色素から注入された電子を効率的に外部回路に移動されること、及び多孔質空間が電解質の移動を妨げない程度の大きさを有すること等が必要となる。
【0004】
光電変換効率を向上させる1つの方法として、酸化物半導体粒子の表面に色素をより多く吸着させるためには、酸化物半導体粒子の粒径を小さくし、比表面積を大きくする手段が挙げられる。
しかし、酸化物半導体粒子として、微小なナノ粒子を用いると、ナノ粒子同士が接触する点が増えるため、多孔質半導体膜の電気抵抗が増加して電子の輸送効率が低下する。その結果、光電変換効率を低下させるという問題があった。また、微粒子化するに伴い多孔質空間が小さくなることにより、電解質移動性が低下する問題があった。また、焼結時の収縮による割れが起こりやすくなり、成膜性が低下したり結果、光電変換効率を低下させるという問題があった。
【0005】
上記問題を解決するために、色素吸着量が多い粒径が数nmの酸化チタン微粒子からなる膜と、電子移動を効率的に行うロッド状の酸化チタン微粒子からなる膜を順次積層して多孔質半導体膜とすることにより、光電変換率を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平5−504023号公報
【特許文献2】特許第2664194号公報
【特許文献3】国際公開第94/05025号パンフレット
【特許文献4】特開2007−70136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4に記載された多孔質半導体膜では、膜を順次積層させる必要があるために製造工程が煩雑となってしまう課題がある。また、酸化チタン微粒子からなる膜の問題を直接改良できたわけではないため、多孔質空間が小さくて、電解質の移動が不十分となる場合は、光電変換効率が低下してしまう課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高い光電変換効率を実現可能な色素増感型太陽電池用ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、比表面積を55m2/g以上70m2/g以下に調整した酸化物半導体粒子を用いることにより、光電変換効率を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、次の[1]〜[6]を提供するものである。
[1]比表面積が55m2/g以上70m2/g以下である酸化物半導体粒子と、前記酸化物半導体粒子の比表面積を維持して分散させる分散媒とを含有する色素増感型太陽電池用ペースト。
[2]前記酸化物半導体粒子は、平均長軸長が20nm以上200nm以下であり、長軸と短軸の比から算出される平均アスペクト比が2以上10以下の範囲であるロッド状粒子、及び平均粒子径が1nm以上20nm以下である微粒子である、[1]に記載の色素増感型太陽電池用ペースト。
[3]前記酸化物半導体粒子が酸化チタンである、[1]または[2]に記載の色素増感型太陽電池用ペースト。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用ペーストを、透明導電性基板に焼成してなる酸化物半導体膜。
[5][4]に記載の酸化物半導体膜に色素を吸着させてなる、酸化物半導体電極。
[6][5]に記載の酸化物半導体電極を備えている、色素増感型太陽電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い光電変換効率を実現可能な色素増感型太陽電池用ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】色素増感型太陽電池の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態により説明する。なお、この実施形態は、発明の趣旨をよりよく理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
[色素増感型太陽電池用ペースト]
本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストは、比表面積が55m2/g以上70m2/g以下である酸化物半導体粒子と、酸化物半導体粒子の比表面積を維持して分散させる分散媒とを含有してなる。
【0015】
本実施形態の酸化物半導体粒子の比表面積は、55m2/g未満であると、色素を十分に吸着させることができず、70m2/gより大きいと酸化半導体膜を形成、焼成した際に割れ等が発生してしまうため好ましくない。上記の観点から、酸化物半導体粒子の比表面積は、57m2/g以上70m2/g以下であることが好ましく、60m2/g以上70m2/g以下であることがより好ましい。
本実施形態における酸化物半導体粒子の比表面積は、窒素吸着によるBET多点法を用いて測定した値である。
【0016】
比表面積の調整としては、比表面積が上記範囲となるように、粒子の大きさや形状を調整したり、大きさや形状が異なる2種以上の粒子を組み合わせたりして、酸化物半導体粒子全体としての比表面積を調整してもよい。
例えば、酸化物半導体粒子は、球状ではなく、かつ粒子表面に凹凸を有するような粒子を用いてもよい。平均長軸長が20nm以上200nm以下であり、長軸と短軸の比から算出される平均アスペクト比が2以上10以下の範囲であるロッド状粒子、及び平均粒子径が1nm以上20nm以下である微粒子を、25:75〜75:25、好ましくは40:60〜60:40、より好ましくは50:50の質量比の範囲内で混合して用いてもよい。
【0017】
<酸化物半導体粒子>
酸化物半導体粒子としては、単金属酸化物又はペロブスカイト構造を有する化合物を使用することができる。単金属酸化物として、好ましくはチタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、及びタンタル等の酸化物が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する化合物として、好ましくはチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、及びニオブ酸カリウム等が挙げられる。
【0018】
酸化物半導体粒子としては、上述の中でも、後に吸着させる色素との電子授受を容易に行うことができ、光電変換素子として構成した場合の発電効率を向上させるという観点から、酸化チタン及び酸化亜鉛を用いることが好ましく、酸化チタンを用いることが特に好ましい。
【0019】
酸化物半導体粒子としての酸化チタンは、粒径制御、結晶性、粒子の分散性について高い特性を得るという観点から、湿式合成法によって作製した酸化チタン粒子を用いることが好ましい。
湿式合成法としては、チタンアルコキシド及びチタン金属塩等のチタン原料を加水分解して得た前駆体を水熱条件下で酸化物へ結晶化させる方法を採用することができる。また、他の湿式合成法としては、チタン原料を水単独、又は水並びにアルコール等の溶媒、及び酸塩基触媒の共存下で、加水分解して重合するゾルゲル法を採用することができる。
これらのような合成法を用いることにより、後述するロッド状粒子や微粒子も作製することができる。
例えば、ロッド状の酸化チタン粒子の製造方法は、特開2007−70136号公報や、特開2008−201655号公報等に詳述されている。
また、酸化チタン微粒子の製造方法は、特開2007−176753号公報等に詳述されている。
【0020】
酸化物半導体粒子の形状は、比表面積が55m2/g以上70m2/g以下の範囲内であれば特に限定されず、比表面積が上記範囲内である粒子を1種または2種以上用いてもよく、比表面積が上記範囲内にないものとあるものを2種以上混合し、全体として測定したときの比表面積が上記範囲内にあるものを用いてもよい。
【0021】
本実施形態に係る酸化物半導体粒子としては、平均長軸長が20nm以上200nm以下であり、長軸と短軸の比から算出される平均アスペクト比が2以上10以下の範囲であるロッド状粒子、及び平均粒子径が1nm以上20nm以下である微粒子を混合して用いることが好ましい。上記のロッド状粒子及び微粒子を混合して用いることで、色素吸着量を増大させることができ、かつ、電子伝導性も向上させることができる。
【0022】
ロッド状粒子の平均長軸長は、30nm以上100nm以下であることがより好ましく、平均アスペクト比は3以上8以下であることがより好ましい。
平均長軸長と平均アスペクト比が上記範囲内であることにより、光の散乱が抑制されて酸化物半導体粒子による光吸収が効率的になされ、かつ、粒子が適度な長さを有することにより良好な電子伝導性が得られる。
【0023】
ロッド状粒子の平均長軸長は、例えば、100個以上のロッド状粒子、好ましくは500個以上のロッド状粒子それぞれの長軸長を測定し、平均値を算出することで求められる。
ロッド状粒子の平均アスペクト比は、例えば、100個以上のロッド状粒子、好ましくは500個以上のロッド状粒子それぞれの長軸長と短軸長を測定することにより、個々のロッド状粒子のアスペクト比(長軸/短軸)を求め、これらのアスペクト比の平均値を算出することで求められる。
【0024】
微粒子は、平均粒子径は、1nm以上15nm以下であることがより好ましい。
微粒子の粒子径とは、粒子の短径(粒子内における最小長さ)と長径(粒子内における最大長さ)を測定した平均粒子径をいう。微粒子の平均粒子径は、複数個の微粒子それぞれの粒子径、例えば、100個以上の微粒子、好ましくは500個以上の微粒子それぞれの粒子径を測定し、平均値を算出することで求められる。
微粒子の形状は特に限定されないが、比表面積が大きくなる形状が好ましく、表面に凹凸等を有していることが好ましい。
【0025】
なお、本実施形態における酸化物半導体粒子の大きさや形状は、例えば、透過型電子顕微鏡(H−800、日立ハイテク社製)により観察する。
【0026】
<分散媒>
本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストは、上記酸化物半導体微粒子を分散させてペーストにするための分散媒を含む。
本実施形態に係る分散媒は、酸化物半導体粒子を分散させることができれば特に限定されないが、ヘキシレングリコール、プロピレングリコール等のジオール類、及びターピネオール等の高沸点有機溶媒を用いることが好ましい。
【0027】
<その他含有物>
本実施形態に係る色素増感型太陽電池ペーストは、粘度や膜厚を調整するためのエチルセルロース等のセルロース系樹脂及びアクリル系樹脂等が含有されていてもよい。
【0028】
本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストは、レベリング剤、キレート化剤、界面活性剤、チタンカップリング剤、増粘剤等の一般的に用いられる添加剤を適宜添加してもよい。
レベリング剤としては、水、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びグリセリン等が挙げられる。
キレート化剤としては、アセチルアセトン、ベンジルアセトン、酢酸等が挙げられる。
界面活性剤としては、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
増粘剤としては、セルロース系の増粘剤が挙げられる。
【0029】
<色素増感型太陽電池用ペースト製造方法>
本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストは、上記の酸化物半導体粒子、分散媒、及びその他含有物等を適宜混合することにより得られる。
【0030】
[酸化物半導体膜]
本実施形態に係る酸化物半導体膜は、本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストを透明導電性基材上で焼成し、形成されてなる。
酸化物半導体膜の厚さは、色素が吸着するのに十分な膜の表面積を得る観点から、1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以上50μm以下、さらに好ましくは5μm以上30μm以下である。
尚、酸化物半導体膜は、複数層であってもよい。
【0031】
<透明導電性基材>
透明導電性基材としては、特に制限はないが、一般的には、ガラス基板等の透明基板と、その透明基板上に形成される酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、及びアルミニウムドープ酸化亜鉛等を設けた基材が用いられる。透明導電性基材は、さらに、表面に酸化スズ又はフッ素ドープ酸化スズの被膜を設けた光透過性の透明導電膜を構成した基材であってもよい。
【0032】
本実施形態に係る酸化物半導体膜の製造方法は、本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストを透明導電性基材の表面に塗布して塗膜を形成し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することにより得られる。
【0033】
本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストを透明導電性基材上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法及びインクジェット法等を採用することができる。
【0034】
焼成温度は、250℃以上600℃以下が好ましく、より好ましくは400℃以上550℃以下である。焼成温度が上記の範囲であれば、良好な粒子間結合が得られ、作製した酸化物半導体膜が低抵抗な膜となる。また、焼成温度が上記の範囲であれば、近傍の粒子との粒成長が抑制され、比表面積が増加して好適な光電変換素子の電極にすることができる。
【0035】
さらに、このようにして得られた酸化物半導体膜に、四塩化チタン水溶液を塗布または浸漬し、空気中550℃程度以下の温度で焼成する工程を行うことが好ましい。この工程により、酸化物半導体膜中の酸化物半導体微粒子同士の接触部分の電子移動性を向上させることができる。
【0036】
[酸化物半導体電極]
本実施形態に係る酸化物半導体電極は、本実施形態に係る酸化物半導体膜に色素を吸着させてなる。
【0037】
<色素>
酸化物半導体膜に吸着させる色素としては、例えば、金属錯体系色素、有機色素等を用いることができる。金属錯体系色素としては、金属フタロシアニン、クロロフィル、ヘミン等やルテニウム、オスミウム、鉄、亜鉛を1以上含有する錯体等の金属錯塩が挙げられる。なかでも、ルテニウム金属錯体を好ましく用いることができ、その中でもルテニウムビピリジン錯体、ルテニウムターピリジン錯体が好ましい。一方、有機色素としては、クマリン誘導体系色素、ポリエン系色素、メロシアニン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、スチリル系色素、キサンテン系色素等などが挙げられる。なかでも、クマリン誘導体系色素を好ましく用いることができる。
【0038】
<酸化物半導体電極の製造方法>
本実施形態に係る酸化物半導体電極は、本実施形態に係る酸化物半導体膜が積層した基板ごと、上記の色素を溶解した色素溶液に浸漬させることによって、酸化物半導体膜に色素を吸着させることで得られる。
【0039】
色素を溶解する溶媒としては、適宜選択して用いればよいが、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類、及びアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル類、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0040】
[色素増感型太陽電池]
本実施形態に係る色素増感型太陽電池は、本実施形態に係る酸化物半導体電極に対して対向電極を配置してセルを構成し、その内部に側枠部材を介して電解質を封入してなる。
【0041】
図1は、太陽電池の一例を模式的に示したものである。
図1に示す色素増感型太陽電池10は、透明電極11と対向電極12とを対向配置してセルを構成し、その内部に側枠部材15を介して電解質14を封入したものである。透明電極11は導電性ガラスからなり、アノード電極を構成する。対向電極12は導電性ガラスからなり、カソード電極を構成する。透明電極11上には、色素が吸着された酸化物半導体電極13が設けられている。酸化物半導体電極13は、例えば酸化物半導体微粒子13A,13Bを溶剤と混合し、それを透明電極11上に塗布、焼成することによって酸化物半導体膜を形成した後、色素を吸着させたものである。
【0042】
透明電極11と対向電極12とは、数十μm〜数mmの間隔をおいて、電解質14を介して対向配置されており、透明電極11の、酸化物半導体電極13に吸着されている色素が可視光によって励起され、発生した電子を酸化物半導体電極(酸化物半導体微粒子13A,13B)13に渡すことによって発電が行われる。
【0043】
対向電極12は、特に限定されず、例えば、Al、ステンレス等の金属、ガラス、及びプラスチック等から構成される基板と、その上に形成されるPt、C、Ni、Cr、ステンレス、フッ素ドープ酸化スズ、及びITO等の導電層から構成される。なお、対向電極12は、表面にフッ素ドープ酸化スズ等の導電層を設けた導電性ガラスを構成することもできる。
【0044】
電解質14は、固体状及び液体状のものを使用することができる。電解質14として、具体的には、ヨウ素系電解質、臭素系電解質、セレン系電解質、硫黄系電解質等各種の電解質を用いることが可能であり、I2、LiI、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨージド等をアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の有機溶剤に溶かした溶液等が好適に用いられる。
なお、液体状の電解質14を用いる場合は、酸化物半導体電極13と対向電極12との間に隔壁を設け、このようにして形成された空間内に電解質14を注入するようにする。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストによれば、比表面積が55m2/g以上70m2/g以下である酸化物半導体粒子と、酸化物半導体粒子の比表面積を維持して分散させる分散媒とを含有してなるので、光電変換効率に優れた酸化物半導体膜を得ることができる。
【0046】
酸化物半導体粒子として、平均長軸が20nm以上200nm以下であり、長軸と短軸の比から算出される平均アスペクト比が2以上10以下の範囲であるロッド状粒子と、平均粒子径が1nm以上20nm以下である微粒子を混合して用いた場合には、さらに光電変換効率に優れた酸化物半導体膜を得ることができる。
【0047】
本実施形態に係る酸化物半導体膜によれば、本実施形態に係る色素増感型太陽電池用ペーストを焼成してなるので、光電変換効率に優れた膜を得ることができる。
【0048】
本実施形態に係る酸化物半導体電極によれば、本実施形態に係る酸化物半導体膜を有しているので、光電変換効率に優れた電極を得ることができる。
【0049】
本実施形態に係る色素増感型太陽電池によれば、本実施形態に係る酸化物半導体電極を備えているので、光電変換効率に優れた太陽電池を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に従って具体的に説明するが、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
<酸化チタン粉末の混合>
水熱合成法で作製した、アナターゼ単相で平均長軸長が90nmであり、平均アスペクト比が3.6であって、比表面積が50m2/gのロッド状酸化チタン粒子と、水熱合成法で作製した、アナターゼ単相で平均粒径が20nmで比表面積が75m2/gの酸化チタン微粒子を、同質量となるように混合した。
この混合粉末は、比表面積計(BelsorpII、日本ベル社製)を用いて窒素吸着によるBET多点法で測定した結果、比表面積は65m2/gであった。
【0052】
<酸化物半導体粒子含有ペーストの作製>
得られた混合粉末と、粘度及び膜厚調整に用いるエチルセルロースと、分散媒としてのターピネオールを混合し、実施例1の酸化物半導体粒子含有ペーストを調製した。
この酸化物半導体粒子含有ペーストの組成比は、酸化チタンが26質量%、ターピネオール66質量%、エチルセルロース8質量%であった。
【0053】
<酸化物半導体膜の作製>
得られた酸化物半導体粒子含有ペーストを透明導電性基板上に、焼成膜厚が7μmとなるようにスクリーン印刷した。次いで、この膜上に、同じ酸化物半導体粒子含有ペーストをスクリーン印刷で焼成膜厚が8μmとなるように積層し、焼成することによって、実施例1の酸化物半導体膜を作製した。
【0054】
<酸化物半導体電極の作製>
得られた酸化物半導体膜を0.3mMのRu金属色素(Black Dye色素、ダイソル社製)溶液中に24時間浸漬させて、実施例1の酸化物半導体電極を得た。
【0055】
<色素増感型太陽電池の作製>
アセトニトリルに、支持電解質として1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムのヨウ素塩を0.6M、ヨウ化リチウムを0.1M、ヨウ素を0.05M、ターシャリーブチルピリジンを0.5Mとなるように混合して、電解液を作製した。
【0056】
得られた酸化物半導体電極と、表面に白金膜が形成された対極基板とを対向するように配置し、基板間に得られた電解液を注入し、密封することにより、実施例1の色素増感型太陽電池を作製した。
【0057】
<光電変換効率の評価>
ソーラーシミュレーター(山下電装社製)を用いて、本実施例の色素増感太陽電池セルに、擬似太陽光を照射し、電流電圧測定装置(山下電装社製)にてI−V特性を測定することによって光電変換効率を求めた。その結果を表1に示す。
【0058】
<成膜性試験>
実施例1の酸化物半導体粒子含有ペーストを用いて、スクリーン印刷法により、焼成膜厚がそれぞれ7μm及び10μmとなるように、塗膜を形成した。
次いでこの膜を500℃で焼成し、その外観を目視で観察した。その結果を表2に示す。いずれの膜厚においても、割れ等は観察されず、成膜性は良好であった。
【0059】
[実施例2]
実施例1の酸化物半導体粒子含有ペーストの作製において、混合粉末の替わりに、アナターゼ単相で平均粒径が22nmで比表面積が65m2/gの酸化チタン微粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、酸化物半導体粒子含有ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池を得た。
実施例1と同様に測定した光電変換効率の結果を表1に示す。
【0060】
実施例1と同様に成膜性試験を行った結果、表2に示すように、7μmの膜厚では割れ等は観察されず、成膜性が良好であった。しかし、10μmの膜厚では、膜表面に細かいひび割れが多数発生した。すなわち実施例1のようにロッド状の粒子を混合することにより、酸化物半導体膜の膜厚を厚くできることが確認された。
【0061】
[比較例1]
実施例1の酸化物半導体粒子含有ペーストの作製において、混合粉末の替わりに、アナターゼ単相で平均長軸長が90nmであり、平均アスペクト比が3.6であって、比表面積が50m2/gのロッド状酸化チタン粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、酸化物半導体粒子含有ペースト、酸化物半導体膜、酸化物半導体電極、及び色素増感型太陽電池を得た。
実施例1と同様に測定した光電変換効率の結果を表1に示す。
【0062】
実施例1と同様に成膜性試験を行った結果、表2に示すように、微粒子を含有していないため、いずれの膜厚においても、割れ等は観察されず、成膜性は良好であった。
【0063】
【表1】
【0064】
光電変換効率の測定結果より、比表面積が55m2/g以上70m2/g以下である酸化物半導体粒子を用いることにより、光電変換効率を向上できることが確認された。また、ロッド状粒子と微粒子を混合した酸化物半導体粒子を用いることにより、さらに光電変換効率を向上できることが確認された。
【0065】
【表2】
【符号の説明】
【0066】
10…色素増感型太陽電池
11…透明電極
12…対向電極
13…酸化物半導体電極
14…電解質
15…側枠部材
図1