【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る重金属溶出低減材について具体的に説明する。
本実施形態の重金属溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含む鉱物が軽焼されてなる軽焼生成物と、水酸化カルシウムとを含み、
前記軽焼生成物は、前記MgCO
3が脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)とMgCO
3とCaCO
3とを含む。
【0016】
前記軽焼生成物は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されたものであって、且つ、前記炭酸マグネシウムが脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含むものである。
【0017】
炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを含む前記鉱物とは、好ましくは、炭酸マグネシウムを20質量%以上、好ましくは40質量%以上含み、且つ炭酸カルシウムを15質量%以上、好ましくは、50質量%以上含む鉱物が挙げられる。
前記鉱物の具体例としては、ドロマイト等を挙げることができる。
【0018】
前記ドロマイトとしては、炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを含有してなるものであれば特に限定されず、天然に産出するドロマイト(白雲石)の他、水酸化マグネシウムスラリーと石灰乳との混合物を焼成して得られた合成ドロマイト等を用いることもできる。
尚、天然に産出するドロマイトは、一般に、CaO/MgOで表わされる複塩のモル比が0.70〜1.63の範囲であり、CaCO
3をCaO換算で概ね9〜40質量%、MgCO
3をMgO換算で概ね10〜38質量%含有するものである。
【0019】
本実施形態の前記鉱物は、例えば、数mm〜100mm程度、好ましくは、3mm〜10mm程度の大きさであってもよい。
かかる大きさの鉱物にするために、例えば、前記鉱物を粉砕して大きさを調整してもよい。
尚、前記鉱物の大きさは、所定の目開きのふるいを用いて鉱物をふるって測定することができる粒径をいう。
前記粒径とは、JIS Z 8801−1「試験用網ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定された試験用ふるいを用いて行う分級によって測定される粒径をいう。
すなわち、公称目開き3mmのふるいの上に留まり、且つ、公称目開き10mmのふるいを通過した粒子が、90質量%以上含まれていることを、本発明において、粒径が3mm以上10mm以下の粒子であるという。
【0020】
また前記鉱物を粉砕することで大きさを調整する場合、前記鉱物のブレーン値は2000〜3000cm/g程度の範囲であることが好ましい。
また、前記ブレーン値は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定する比表面積試験の方法に準拠した方法で測定した値をいう。
【0021】
本実施形態の前記鉱物は、MgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含む生成物が生成されるように軽焼する。
かかる軽焼の際の温度条件としては、640〜990℃の範囲とし、好ましくは690〜890℃とし、さらに好ましくは760〜850℃とする。
また、軽焼時間は温度条件によっても変動するが、通常、10〜60分である。
【0022】
尚、本実施形態において軽焼とは、前記鉱物を加熱して、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部を脱炭酸させることをいう。
【0023】
前記のような軽焼を行なうことにより、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部を脱炭酸してMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)を生成することができる。
すなわち、前記軽焼を行なうことにより、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO
3)は実質的には脱炭酸させないことによって、前記MgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含む軽焼生成物を得ることができる。
前記鉱物を、高温長時間焼成して完全な焼成物とした場合、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウム(MgCO
3)が脱炭酸されると同時に、炭酸カルシウム(CaCO
3)も脱炭酸されてしまい、前記のような3つの成分を実質的に含む軽焼生成物を得ることができない。
【0024】
前記軽焼生成物における前記MgC
xO
yは、例えば、MgCO
3の基本構造が脱炭酸によって変化し基本構造の規則性が崩れた不定形な形で存在していると考えられる。
【0025】
また、前記軽焼生成物における前記MgCO
3および前記MgC
xO
yはおそらく非晶質であると考えられる。
前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO
3)は実質的には脱炭酸させない状態で軽焼を停止することによって、残存するMgCO
3および生成されるMgC
xO
yは非晶質化するものと考えられる。
このことは、前記のようなXRDによる同定結果およびXPSによる検出スペクトル解析から推測しうる。
すなわち、前記軽焼生成物を、XPSによる成分分析を行うと、MgCO
3およびMgC
xO
yのピークが検出されるが、同時にXRDによる同定を行うと、MgCO
3およびMgC
xO
yは検出されない。これは、XRDでは結晶質のものしか検出できないため、前記軽焼生成物中に含まれる前記MgCO
3および前記MgC
xO
yは非晶質化しているものと推定される。
【0026】
前記軽焼生成物における、前記MgCO
3および前記MgC
xO
yの合計含有量は、32.1質量%〜40.3質量%、好ましくは34.5質量%〜39.6質量%であることが好ましい。
かかる範囲の含有量であることで、重金属溶出低減材とした場合に溶出低減効果を向上させることができる。
【0027】
前記軽焼生成物における、前記CaCO
3の含有量は40質量%〜65質量%、好ましくは45質量%〜65質量%であることが好ましい。
かかる範囲の前記CaCO
3の含有量であることで、重金属溶出低減材とした場合に、長期間溶出低減効果を維持することができる。
前記MgCO
3および前記MgC
xO
yの合計含有量、前記CaCO
3の含有量の測定は、例えば、X線回析法(XRD)による同定結果およびX線光電子分光法(XPS)による成分分析により、測定することが可能である。
【0028】
前記軽焼生成物が前記のような3つの成分を実質的に含む軽焼生成物であることは、X線光電子分光法(XPS)によって検出されるスペクトルにおいて示される前記各ピーク値によって明確に確認できる。
本実施形態では、例えば、X線光電子分光装置 Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて、前記軽焼生成物を試料ペレットに埋めて表面をエッチング処理等適宜前処理した試料から検出される、
図1に示すような、XPSスペクトルのO1sに対応するスペクトルにおけるピークを調べることで、前記軽焼生成物が前記のような3つの成分を含む場合には、各成分のピークが現れる。
【0029】
本実施形態の前記軽焼生成物は、CaOを実質的に含まないことが好ましい。
前記鉱物を軽焼した場合には、前記鉱物中のMgCO
3の一部を脱炭酸させるが、CaCO
3を実質的には脱炭酸する温度での焼成ではないため、前記軽焼生成物中には、実質的にCaOは含まれていない。
【0030】
本実施形態において、前記軽焼生成物がCaOを実質的に含まない、とは、X線回析法(XRD)による同定結果および前記X線光電子分光法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、CaOのピークが現れないことを意味する。
【0031】
前記軽焼生成物は、前記鉱物を軽焼することで質量が減少するが、かかる軽焼による質量減少率は9〜20%、好ましくは10〜17%、より好ましくは16〜17%であるように軽焼することが好ましい。
前記軽焼による質量減少率をこのような数値範囲内とすることにより、炭酸マグネシウム等からの脱炭酸反応を適切に生じさせ、前記鉱物中の炭酸マグネシウムの一部を残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、かかる脱炭酸によって生じる前記MgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含む軽焼生成物を適切に生成させることができるものと考えられる。
尚、焼成雰囲気等の他の焼成条件や、焼成に用いる焼成装置については、従来公知の焼成条件および焼成装置を採用することができる。
【0032】
例えば、前記焼成雰囲気としては、大気雰囲気中であることが好ましい。
また、前記焼成装置としては、電気炉やロータリーキルン等を用いることが好ましい。
【0033】
本実施形態の重金属溶出低減材は、水酸化カルシウムを含む。
水酸化カルシウム源としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の酸性ガス中和用の特号消石灰、工業用消石灰、食品添加用消石灰、土壌改良用消石灰、農業用消石灰、アセチレン(C
2H
2)ガスを発生させた後に残る水酸化カルシウムを多量に含むカルシウムカーバイド等が挙げられる。
中でも、工業用消石灰が、純度、粒度、比表面積等を所望の範囲に調整することが容易であるため好ましい。前記水酸化カルシウム源は、純度の高いものが好ましいが、重金属類を含んでいなければ、ケイ素。アルミニウム、鉄、マグネシウム等の不純物を、重金属溶出低減効果に影響のない範囲で含有していてもよい。
【0034】
本実施形態の重金属溶出低減材において、前記軽焼生成物と水酸化カルシウムとの混合比率は、重量比で、軽焼生成物:水酸化カルシウム=1:9〜6:4、好ましくは1:9〜3:7である。
軽焼生成物と水酸化カルシウムとの混合比率が前記範囲である場合には、複数の重金属類の溶出を効果的に低減させることができる。
【0035】
本実施形態の重金属溶出低減材は、鉄塩をさらに含んでいてもよい。
【0036】
前記鉄塩は、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の硫酸塩、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の塩化鉄等が挙げられる。
中でも、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の硫酸鉄が、任意のpHに調整しやすく、且つ還元力が比較的大きいため、好ましい。
前記鉄塩は、単独でまたは二種以上混合して用いられてもよい。
【0037】
本実施形態の重金属溶出低減材における前記鉄塩の含有量は、例えば、Feとして、1.0質量%〜10.0質量%、好ましくは1.0質量%〜4.0質量%程度である。
鉄塩の含有量が前記範囲である場合には、複数の重金属類の溶出をより効果的に抑制できるため好ましい。
【0038】
本実施形態の重金属溶出低減材は、使用時に、pH10〜pH13程度を維持できるように調整されていることが好ましい。
すなわち、重金属溶出低減材と処理対象物とを混合した混合物のろ液のpHが前記範囲になるように調整されていることが好ましい。
かかるpHの範囲になるように調整されている場合には、複数の重金属の溶出をより効果的に抑制できるため好ましい。
前記pHは、例えば、環境庁告示46号に準じた溶出試験で得られた検液を、公知pH測定装置で測定することができる。
【0039】
前記重金属溶出低減材の使用時のpHを調整する場合には、前記水酸化カルシウム及び鉄塩の含有量を調整してもよく、あるいは、他のpH調整剤等を配合してもよい。
【0040】
本実施形態の重金属溶出低減材は、処理対象物に混合することで、処理対象物から重金属類が溶出することを抑制できる。
処理対象物としては、例えば、重金属類を含む廃棄物、汚染土壌等が挙げられる。
前記廃棄物としては、例えば、石炭灰等が挙げられる。
【0041】
石炭灰は、石炭火力発電所から排出される灰の粒子である。かかる石炭灰はセメント原料や土壌改良材等として利用されたり、あるいは、廃棄物として廃棄処分されたりするが、石炭灰中に重金属類が含まれている場合には、利用時や廃棄処分時に、重金属類が外部に溶出するおそれがあり、石炭灰から重金属類が溶出することを抑制することが必要となる。本実施形態の重金属溶出低減材は、石炭灰と混合することで、石炭灰に重金属類が含まれている場合にも、外部への重金属類の溶出を抑制でき、石炭灰の利用や廃棄が容易に行なえる。
【0042】
本実施形態の重金属溶出低減材は、特に、複数の重金属類を含む処理対象物に対して使用することが適している。
本実施形態の重金属溶出低減材が溶出を抑制できる重金属類としては、例えば、六価クロム、砒素、セレン、ホウ素等が挙げられる。
処理対象物に、複数の重金属類が同時に含まれている場合には、環境汚染を抑制する観点からは全ての重金属類の溶出を抑制する必要がある。
本実施形態の重金属溶出低減材は、処理対象物に複数の重金属類が同時に含まれている場合にも、各重金属類の溶出を効果的に抑制しうる。
特に、高濃度でホウ素が含まれている処理対象物において、ホウ素及び他の重金属類を共に溶出を低減する場合には、すべての重金属類の溶出を十分に、例えば、環境基準以下にすることは困難であるが、本実施形態の重金属溶出低減材は、かかる高濃度でホウ素を含み、且つ同時に複数の重金属類を含む処理対象物に対しても高い溶出低減効果を発揮しうる。
【0043】
次に、本実施形態の重金属溶出低減材を用いて処理対象物を処理する場合について説明する。
処理対象物として石炭灰を処理する場合、本実施形態の重金属溶出低減材を石炭灰と均一に混合する。
重金属溶出低減材を混合する量は、処理する石炭灰中に含まれる重金属類の濃度等によって適宜設定可能であるが、例えば、石炭灰100kgに対して、重金属溶出低減材1kg〜15kg程度、混合することがより確実に重金属類の溶出を低減できるため好ましい。
【0044】
重金属溶出低減材を石炭灰に混合した混合物は、1日以上、好ましくは7日程度経過すると、重金属溶出低減材によって石炭灰中に重金属類が含まれている場合でも溶出が抑制されている。従って、混合物を廃棄あるいはセメント原料として利用しても、重金属類による汚染が抑制できる。
【0045】
重金属溶出低減材を石炭灰に混合する場合に、適量の水を混合してもよい。
この場合、処理対象物100kgに対して水20kg〜50kg程度混合することが、材料を混合した際に、粉末材料が飛散することを防止でき、且つ、水和反応に必要な水分量を確保できるため好ましい。
【0046】
本実施形態の重金属溶出低減材は、前述のように、石炭灰等の処理対象物に混合することで、容易に処理対象物に含まれる重金属類が外部に溶出することを抑制できる。
特に、複数の重金属類が含まれている処理対象物である場合には、複数の重金属類の溶出を効果的に抑制することができる。
【0047】
本実施形態にかかる重金属溶出低減材は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示して、本発明にかかる重金属溶出低減材についてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
《溶出試験》
(重金属溶出低減材)
重金属溶出低減材として、下記のものを準備した。
ドロマイト(住友大阪セメント株式会社唐沢鉱業所産)をブレーン値2000〜3000cm
2/gになるように粉砕し、800℃の電気炉(光洋サーモシステム社製)で30分間加熱して軽焼生成物を得た。
この軽焼生成物と、消石灰(入交石灰工業社製、CaO:74.2%)と、硫酸第一鉄(堺化学工業社製)を混合して、表1に記載のNo1から12の重金属溶出低減材を得た。
尚、硫酸第一鉄は、軽焼生成物9重量部に対して1重量部混合した。
また、前記消石灰に代えてセメント(商品名:普通ポルトランドセメント、住友大阪セメント社製)を軽焼生成物に混合したNo13から17の重金属溶出低減材を得た。
処理対象物としてのフライアッシュ(四国電力 橘湾火力発電所産)に、水を36重量%添加して混合し、さらに、各重金属溶出低減材をフライアッシュの乾燥重量に対して10%となるように混合した。尚、フライアッシュの乾燥重量は、フライアッシュを均質化した状態で、100℃の乾燥機で乾燥後に汎用電子天秤で測定した。
各混合物は、混合後1日間、試料を薄く均一化した状態で、25℃、湿度40%の室内で乾燥させた。
【0049】
前記混合物を用いて実施例1乃至9、比較例2乃至8として溶出試験を行なった。溶出試験は「平成3年環境庁告示第46号」に準拠して行った。尚、比較例1として、石炭灰のみを用いて同様の溶出試験をおこなった。
結果を、表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、実施例1〜9では、六価クロム、砒素、セレン、ホウ素の全てが基準値以下の溶出に抑制されていた。これに対して比較例2乃至8では、いずれかの重金属類の溶出量が基準値を超えていた。