特開2015-63430(P2015-63430A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-63430アンモニアを含む排ガスの処理方法および利用方法、ならびにこれを利用したセメントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-63430(P2015-63430A)
(43)【公開日】2015年4月9日
(54)【発明の名称】アンモニアを含む排ガスの処理方法および利用方法、ならびにこれを利用したセメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/44 20060101AFI20150313BHJP
   B01D 53/56 20060101ALI20150313BHJP
   B01D 53/58 20060101ALI20150313BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20150313BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20150313BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20150313BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20150313BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20150313BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20150313BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20150313BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20150313BHJP
【FI】
   C04B7/44
   B01D53/34 129B
   B01D53/34 131
   B01D53/14 102
   B01D53/14 103
   B01J20/20 BZAB
   B01J20/18 B
   B01J20/10 D
   B01J20/02 A
   B01J20/04 A
   B01J20/26 A
   B01J20/34 D
   B01J20/34 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-198527(P2013-198527)
(22)【出願日】2013年9月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】君田 美智雄
(72)【発明者】
【氏名】濱平 眞一
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G066
4G112
【Fターム(参考)】
4D002AA12
4D002AA13
4D002AB02
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA02
4D002BA04
4D002BA06
4D002CA01
4D002CA06
4D002CA07
4D002CA11
4D002DA04
4D002DA07
4D002DA17
4D002DA18
4D002DA22
4D002DA26
4D002DA41
4D002DA45
4D002DA46
4D002DA70
4D002EA08
4D002FA01
4D002HA10
4D020AA10
4D020BA12
4D020BA15
4D020BA19
4D020BB03
4D020BC01
4D020CB01
4D020CB25
4G066AA05B
4G066AA22B
4G066AA32B
4G066AA36B
4G066AA39B
4G066AA50B
4G066AA61B
4G066AC11B
4G066BA20
4G066BA28
4G066BA36
4G066CA29
4G066DA02
4G066GA01
4G112KA06
(57)【要約】
【課題】例えば養鶏畜産業などから生じる臭気を有する排ガス中のアンモニアを有効に利用できる排ガスの処理方法および排ガスの利用方法ならびに、これを利用したセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】養鶏畜産業などで生じる臭気を有するアンモニアを含む排ガスからアンモニアを固定剤に吸収固定化させる回収工程と、吸収固定化した固定剤を加熱し、分離したアンモニアガスを燃焼炉あるいはセメント焼成炉に通気し、燃焼排ガス中のNOxを還元するとともに、アンモニアに付随して回収されるガス成分を燃焼する、燃焼処理工程と、を有するアンモニアを含む排ガスの処理方法、およびアンモニアを含む排ガスを燃焼排ガス中のNOxの低減化に利用する排ガスの利用方法、並びにこれを利用したセメントの製造方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを含む排ガスからアンモニアを固定剤に吸収固定化させる回収工程と、
吸収固定化した固定剤を加熱し、分離したアンモニアガスを燃焼炉あるいはセメント焼成炉に通気し、燃焼排ガス中のNOxを還元するとともに、アンモニアに付随して回収されるガス成分を燃焼する、燃焼処理工程と、
を有するアンモニアを含む排ガスの処理方法であって、
アンモニアを含む排ガスが、各種生産工程での排ガス、あるいは、養鶏畜産業での臭気、糞尿堆肥化処理での臭気、コンポスト化での臭気、廃水処理での臭気、又は産業廃棄物処理過程での臭気を有する排ガスである、アンモニアを含む排ガスの処理方法。
【請求項2】
アンモニアの回収工程に用いる固定剤が、リン酸、硫酸、シュウ酸、炭酸、酢酸から選ばれる酸性溶液、または、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)、IIa族およびVIII族ハロゲン化物、アンモニア反応性付与樹脂から選ばれる吸着剤である、請求項1に記載のアンモニアを含む排ガスの処理方法。
【請求項3】
アンモニア分離後の固定剤を再びアンモニア回収工程で利用する請求項1又は2に記載のアンモニアを含む排ガスの処理方法。
【請求項4】
各種生産工程での排ガス、あるいは、養鶏畜産業での臭気、糞尿堆肥化処理での臭気、コンポスト化での臭気、廃水処理での臭気、又は産業廃棄物処理過程での臭気を有するアンモニアを含む排ガスから、アンモニアを固定剤により吸収固定化したあと、固定剤を加熱して、固定剤から分離したアンモニアガスを、燃焼排ガス中のNOxの低減化に利用するため、燃焼炉あるいはセメント焼成炉に通気する、アンモニアを含む排ガスの利用方法。
【請求項5】
アンモニアを含む排ガスを発生する排ガス発生源において、アンモニアを含む排ガスからアンモニアを固定剤に吸収固定化させる回収工程と、
回収工程によりアンモニアを吸収固定化した固定剤を、固定剤からアンモニアを分離するための分離施設まで移動する第一の移動工程と、
分離施設において、吸収固定化した固定剤を加熱して、アンモニアガスを分離する分離工程と、
分離したアンモニアガスを燃焼炉あるいはセメント焼成炉に通気し、燃焼排ガス中のNOxを還元するとともに、アンモニアに付随して回収されるガス成分を燃焼する、燃焼処理工程と、
アンモニア分離後の固定剤を、排ガス発生源に移動する第二の移動工程と、
排ガス発生源において、アンモニア分離後の固定剤を用いて、再びアンモニアを含む排ガスからアンモニアを固定剤に吸収固定化させる回収工程を繰り返す工程と、
を有するセメントの製造方法であって、
アンモニアを含む排ガスの排ガス発生源が、各種生産工程での排ガス、あるいは、養鶏畜産業での臭気、糞尿堆肥化処理での臭気、コンポスト化での臭気、廃水処理での臭気、又は産業廃棄物処理過程での臭気を有する排ガスを発生する施設である、セメントの製造方法。
【請求項6】
アンモニアの回収工程に用いる固定剤が、リン酸、硫酸、シュウ酸、炭酸、酢酸から選ばれる酸性溶液、または、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)、IIa族およびVIII族ハロゲン化物、アンモニア反応性付与樹脂から選ばれる吸着剤である、請求項5に記載のセメントの製造方法。
【請求項7】
アンモニアを吸収固定化した固定剤およびアンモニア分離後の固定剤の発生源と分離施設と間の移動状態をコンピュータで管理する請求項5又は6に記載のセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、養鶏畜産業などで発生する臭気を有するアンモニア含有排ガスから固定剤を用いてアンモニアを回収し、この固定剤からアンモニアを分離揮散させて燃焼排ガス中のNOx低減に利用して処理し、さらにアンモニア分離後の固定剤を繰り返しアンモニア吸収に利用することに関する。すなわち、本発明は、アンモニアを含む排ガスの処理方法とこれを利用したセメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、養鶏畜産業などで発生する臭気を有するアンモニアを含む排ガスの処理は、洗浄塔などにより水や酸性溶液にアンモニアを吸収させ、これを廃液処理してから下水等に放流することが一般的に行われている。このため、回収したアンモニアが有効利用されることはなかった。
一方、燃焼排ガス中のNOx低減には、工業製品としてのアンモニアや尿素を燃焼排ガスの高温域に注入してNOxを還元分解することが一般に行われている。
また、セメント製造において発生するNOxの低減化では、アンモニアや尿素等の他、これらの成分を含む産業廃棄物を用いており、特許文献1には、セメントキルン排ガスのNOx低減方法として、セメントの製造時にプレヒーターの下部から乾式キルンの窯尻部までの間に、廃水処理で生じるアンモニアを含む有機汚泥を導入して、NOxを還元し、NOxの低減を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−194800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、養鶏畜産施設の臭気およびその堆肥化設備等から発生する排気ガスのような臭気を有する排ガス中のアンモニアは、洗浄除去されており、アンモニアを回収し再利用されることはなく、排ガス処理や廃液処理の程度によっては環境に対する負荷も少なくはなかった。
また、排ガス中のアンモニアを洗浄除去するため酸性溶液や、アンモニアを吸着する固形固定剤のような脱臭剤などを使用する場合、定期的にこれらを補充、交換しなければならず、またアンモニアを固定させた固定剤を処分するにしても廃液処理や焼却処理などが必要となるなど、処理するにしても、手数がかかり面倒なものであった。
一方、セメントの製造における燃焼排ガスのNOx低減にはアンモニアや尿素など化学薬剤を使用しなければならず、費用削減が難しい。これにかえてアンモニアや尿素などを含む産業廃棄物を使用した場合には、これらの産業廃棄物中に存在する成分が、排ガスの成分やセメントの特性に悪影響を与えるおそれもある。
本発明は、環境面に対する負荷を少なくするとともに、従来利用されていなかった、例えば養鶏畜産業などから生じる臭気を有する排ガス中のアンモニアを有効に利用できる排ガスの処理方法および排ガスの利用方法ならびに、これを利用したセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来利用されていなかった、例えば養鶏畜産業などから生じる臭気を有する排ガス中のアンモニアを回収・分離し、これをNOxの低減に還元剤として利用できることを見いだし発明を完成した。本発明は、燃焼排ガスのNOx低減のために、悪臭や環境汚染の原因となる排ガス中のアンモニアを、固定剤を用いて回収して利用することで安全に処理するとともに、アンモニア回収に使用した固定剤をアンモニア分離後に再びアンモニア回収に使用するものである。
【0006】
すなわち、本発明は、(1)アンモニアを含む排ガスからアンモニアを固定剤に吸収固定化させる回収工程と、吸収固定化した固定剤を加熱し、分離したアンモニアガスを燃焼炉あるいはセメント焼成炉に通気し、燃焼排ガス中のNOxを還元するとともに、アンモニアに付随して回収されるガス成分を燃焼する、燃焼処理工程と、を有するアンモニアを含む排ガスの処理方法であって、アンモニアを含む排ガスが、各種生産工程での排ガス、あるいは、養鶏畜産業での臭気、糞尿堆肥化処理での臭気、コンポスト化での臭気、廃水処理での臭気、又は産業廃棄物処理過程での臭気を有する排ガスである、アンモニアを含む排ガスの処理方法であり、アンモニアの回収工程に用いる固定剤が、リン酸、硫酸、シュウ酸、炭酸、酢酸から選ばれる酸性溶液、または、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)、IIa族およびVIII族ハロゲン化物、アンモニア反応性付与樹脂から選ばれる吸着剤であることが好ましく、また、アンモニア分離後の固定剤を再びアンモニア回収工程で利用することがさらに好ましい。
また、本発明は、(2)各種生産工程での排ガス、あるいは、養鶏畜産業での臭気、糞尿堆肥化処理での臭気、コンポスト化での臭気、廃水処理での臭気、又は産業廃棄物処理過程での臭気を有するアンモニアを含む排ガスから、アンモニアを固定剤により吸収固定化したあと、固定剤を加熱して、固定剤から分離したアンモニアガスを、燃焼排ガス中のNOxの低減化に利用するため、燃焼炉あるいはセメント焼成炉に通気する、アンモニアを含む排ガスの利用方法である。
さらに、本発明は、(3)アンモニアを含む排ガスを発生する排ガス発生源において、アンモニアを含む排ガスからアンモニアを固定剤に吸収固定化させる回収工程と、回収工程によりアンモニアを吸収固定化した固定剤を、固定剤からアンモニアを分離するための分離施設まで移動する第一の移動工程と、分離施設において、吸収固定化した固定剤を加熱して、アンモニアガスを分離する分離工程と、分離したアンモニアガスを燃焼炉あるいはセメント焼成炉に通気し、燃焼排ガス中のNOxを還元するとともに、アンモニアに付随して回収されるガス成分を燃焼する、燃焼処理工程と、アンモニア分離後の固定剤を、排ガス発生源に移動する第二の移動工程と、排ガス発生源において、アンモニア分離後の固定剤を用いて、再びアンモニアを含む排ガスからアンモニアを固定剤に吸収固定化させる回収工程を繰り返す工程と、を有するセメントの製造方法であって、アンモニアを含む排ガスの排ガス発生源が、各種生産工程での排ガス、あるいは、養鶏畜産業での臭気、糞尿堆肥化処理での臭気、コンポスト化での臭気、廃水処理での臭気、又は産業廃棄物処理過程での臭気を有する排ガスを発生する施設である、セメントの製造方法であり、アンモニアの回収工程に用いる固定剤が、リン酸、硫酸、シュウ酸、炭酸、酢酸から選ばれる酸性溶液、または、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)、IIa族およびVIII族ハロゲン化物、アンモニア反応性付与樹脂から選ばれる吸着剤であることが好ましく、また、アンモニアを吸収固定化した固定剤およびアンモニア分離後の固定剤の発生源と分離施設と間の移動状態をコンピュータで管理するものであることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば養鶏畜産業などから生じる臭気を有する排ガスに対する、環境負荷の少ない処理方法が提供され、従来利用されていなかった、臭気を有する排ガス中のアンモニアの新たな利用方法が提供される。そして、このアンモニアの新たな利用方法を用いた、セメントの製造方法によれば、セメント製造時における燃焼排ガス中のNOxの低減が達成できるとともに、アンモニアや尿素を含む廃棄物を用いてNOxを低減させたセメントの製造方法により得られる従来品に比べ、同等以上の品質をもつ製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、悪臭や環境汚染の原因となるアンモニアを含む排ガス中のアンモニアを、固定剤を用いて回収し、固定剤からアンモニア分離し、これを燃焼炉あるいはセメント焼成炉に通気し、燃焼排ガス中のNOx低減に用いることを基本とする発明である。
【0009】
本発明で用いるアンモニアを含む排ガスとは、一般に臭気を有し、各種施設で発生し、例えば、アンモニアを含む排ガスが、各種生産工程での排ガスの他、例えば、養鶏畜産業での臭気、糞尿堆肥化処理での臭気、コンポスト化、廃水処理での臭気、産業廃棄物処理過程での臭気などがあげられる。通常、これらの排ガスには、アンモニアの他、メルカプタン類、アミン類、アルデヒド類などが含まれ、アンモニアの濃度としては、最大5%程度のものである。なお、各種生産工程での排ガスの場合は、生産対象の製品により、種々変化するもので、アンモニアの濃度も高い場合や、特定の成分が混入していることが多い。そして、アンモニア濃度が高い場合には、通常回収され再使用されることが多く、本発明では、養鶏畜産業や糞尿堆肥化処理の際の臭気のようなアンモニア濃度が比較的低い排ガスを対象とすることが好ましい。
【0010】
本発明で用いるアンモニアを含む排ガスからアンモニアを吸収固定化する固定剤として、アンモニアの吸収・吸着量が多く、吸収・吸着したアンモニアは速やかに排出・脱着できるものが好ましい。このようなものとしては、例えば、無機酸(リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸)、有機酸(炭酸、カルボン酸(シュウ酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、乳酸、酒石酸))などの酸性溶液、または活性炭、ゼオライト、シリカゲル、リン酸マグネシウム、MAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)、IIa族およびVIII族ハロゲン化物、アンモニア反応性賦与樹脂などの固形固定化剤を用いることができる。また、活性炭としては、通常の活性炭よりも、酸性物質が添着された特殊な活性炭を使用することが好ましい。
【0011】
酸性溶液としては、酸性のものであれば使用することができるが、酸解離定数が大きいいわゆる弱酸の方がアンモニアを固定化した後の脱離性能がよく、多くのアンモニアを分離できることから、リン酸、シュウ酸などが好ましい。一方、固定化できるアンモニア量としては、強酸、弱酸にかかわらず、溶液のpHが中性域(pH8程度)を上回ると低下し、アンモニアが吸収しきれなくなるため、これらを総合すると、リン酸、シュウ酸等が好ましく、特にリン酸が好ましい。また、これらの酸性溶液の濃度としては、特にこだわらないが、回収効率を考慮すると、例えば、リン酸は、試薬では純度85%以上、工業用では純度15%以上が好ましく、シュウ酸は、試薬では1規定溶液程度が好ましい。
また、酸性溶液への排ガス中のアンモニアの吸収固定方法としては、酸性溶液中に排ガスを吹き込むバブリング法、排ガスに酸性溶液を噴霧し、両者を接触させる噴霧・散水法などの方法を採用することができる。なお、この吸収固定化は、通常0〜80℃、常圧下から弱減圧下で行うことができる。
【0012】
アンモニアの吸着量と脱着量および繰り返しの使用に耐えることなどを考慮すると、固形固定剤としては、活性炭、シリカゲル、ゼオライトなどが好ましく、特殊活性炭(添着活性炭)がさらに好ましい。
なお、使用する固定剤の種類や量、また固定化方法については、発生源の規模や種類、また固定剤の交換頻度などに応じて適宜定められる。
【0013】
次に、アンモニアが吸収固定化された固定剤を加熱することなどにより、固定剤からアンモニアが分離されるとともに、固定剤が再生される。このとき、アンモニアとともに吸着ないし吸収されていた他のガス類も分離される。
固定剤の加熱方法としては特に限定はされず、アンモニアが一定量づつ分離され燃焼炉などに供給できればよく、熱風を固定剤に直接吹き込み接触させて加熱する、あるいは間接的に固定剤を加熱することなどにより行われる。
【0014】
アンモニアを固定剤から分離するには、固定剤が酸性溶液の場合は、加熱温度は酸性溶液の沸点であることが好ましく、この場合に水が蒸発して無くなることを防ぐため、加熱容器の上部に冷却装置を設けることで水蒸気は水に戻し、アンモニアガスおよび同時に吸収されていた他の揮発成分を燃焼排ガスに通じるようにすることが好ましい。このように、アンモニアが吸収された酸性溶液を加熱還流することにより酸性溶液からアンモニアを脱気し、分離することができる。
【0015】
また、固定剤が吸着剤のような固形固定剤の場合には、固形固定剤を加熱することによりアンモニアガスを分離することができる。この場合、カートリッジ中の固形固定剤をそのまま加熱してもよいし、カートリッジなどから固形固定剤を取り出し、固形固定剤そのものを加熱してもよい。加熱する際の温度は、用いた固形固定剤により一概にはいえないが、活性炭、シリカゲル、ゼオライトのような吸着による場合は、40〜200℃程度が好ましく、減圧下で、例えば、0.1〜1気圧程度の圧力下で行うことが好ましい。
【0016】
固定剤から定量的にアンモニアを分離させるには、例えば、固定剤を一定量づつ加熱装置に投入し、アンモニア分離温度で固定剤を加熱させることが好ましい。アンモニア分離後の固定剤は貯蔵容器に回収する。分離してくるアンモニアは、直接燃焼炉などに導入してもよく、また、一旦、貯蔵容器に貯めた後、アンモニアを貯蔵容器から燃焼炉などに導入することもできる。
また、別の定量的なアンモニアの分離方法として、加熱用の熱風を一定量づつ固定剤に通気して加熱し、分離してくるアンモニアとともに燃焼炉などに通気してもかまわない。いずれにしても、必要に応じて燃焼炉などにアンモニアを供給できればよく、アンモニアを分離した後の固定剤は再びアンモニアを含む排ガスからアンモニアを回収する工程に戻し、アンモニア回収に繰り返し利用される。
【0017】
次に、アンモニアを固定された固定剤を加熱することにより、分離されたアンモニアは、ガスとして燃焼炉あるいはセメント焼成炉の500℃以上の温度域のNOxを含む燃焼ガスに通じることにより、アンモニアが消費される。燃焼炉などの温度としては800〜1000℃程度であることが、十分な還元反応を生じるために必要である。なお、温度が高すぎる場合には、アンモニアが分解・酸化され、NOxとなるため、適切ではない。
【0018】
すなわち、NOxを含む燃焼ガス中に導入されたアンモニアがNOxを還元分解し、窒素にすることで、燃焼排ガスが浄化されるとともに、さらにアンモニアとともに吸着されていた他のガス成分も安全に分解されるため、例えば、養鶏畜産場で発生する臭気を有する排ガスの処理を簡便に行うことができ、有効な臭気対策となる。
アンモニアを通じる燃焼炉としては、産業廃棄物処理に適している乾溜ガス化炉、一般可燃ゴミ等の焼却に用いられるストーカー式焼却炉、流動床式焼却炉などもあるが、セメント製造時における燃焼炉であるロータリーキルンが好ましく、セメント製造時における燃焼炉や焼成炉中のNOx低減に用いることが、好ましい。
【0019】
セメント製造時の燃焼炉や焼成炉としては、ロータリーキルンに原料を供給するため、原料を加熱するプレヒーター(予熱部)や仮焼炉、あるいはロータリーキルンなどの温度が500℃以上で、NOxが存在している箇所に導入することができ、特にプレヒーターおよび仮焼炉入口などに導入することが好ましい。
一方、セメント製造においては、セメント製造装置が排気系に触媒を用いる脱硝装置を備え、ここでNOxの還元反応を行い、NOxの低減化している場合には、燃焼炉あるいは焼成炉内ばかりでなく、脱硝装置の上流にアンモニアを供給することで、同様な効果が達成できる。
【0020】
これにより、従来は利用されていなかった排ガス中のアンモニアが有効に利用できるとともに、アンモニアを含む排ガスが安全に処分され、アンモニアの排出による環境負荷が低減される。さらに、アンモニア回収に使用する固定剤は繰り返して使用されるため、固定剤の使用量の低減も可能となる。
また、固定剤から加熱分離されたガスを燃焼炉やセメント焼成炉に通気することで、アンモニアを含む排ガスから固定剤に吸収固定化されたアンモニア以外のガス成分も安全に燃焼分解、処理することができる。
【0021】
次に、本発明のセメントの製造方法について説明する。
本発明のセメントの製造方法は、原料をロータリーキルンで焼成し、クリンカを得、これに必要な成分を配合してセメントなどを得るという通常のセメントの製造方法において、次の排ガスからのアンモニアを利用してNOxの低減を図る工程が新たに加わったセメントの製造方法である。本発明の新たな工程を含むセメントの製造方法が、排ガスからのアンモニアを利用してNOxの低減を図る工程として、例えば養鶏畜産業で発生するような臭気を有するアンモニアを含む排ガスからアンモニアを固定剤により吸収固定化し、次いでアンモニアが吸収固定化された固定剤からアンモニアを分離し、分離されたアンモニアをセメント製造時の燃焼炉あるいは焼成炉に通じることにより、排気ガス中のNOxを低減しつつ、セメントを製造することを基本とすることは上述したとおりである。
しかしながら、一般に、NOxの低減にアンモニアを用いるとしても、アンモニアを含む排ガスの発生源と、アンモニアが吸収固定化された固定剤からアンモニアを分離する分離施設のある場所とは、離れた位置にあるのが普通である。したがって、本発明のセメントの製造方法では、これらの発生源で得られるアンモニアが吸収固定化された固定剤を、分離施設まで搬送する第一の移動工程と、分離施設においてアンモニアが分離された固定剤を、分離施設から排ガスの発生源に搬送する第二の移動工程とを有し、固定剤を再利用して、回収工程、第一の移動工程、分離工程、燃焼処理工程、および第二の移動工程の各工程を繰り返して行い、NOx低減のためのアンモニアを得、これを用いてセメントを製造するという、排ガスからアンモニアを利用してNOxの低減を図るための新たな工程が付加されたセメントの製造方法が提供される。
【0022】
移動工程における搬送は、固定剤が発生源と分離施設との間を移動できればよく、搬送の手段は問わない。移動距離が短い場合は、配管などによる直接の移動もあるが、一般には陸路の配送が採用される。なお、分離施設は、セメント製造工場敷地内にあっても、別のところにあっても良いが、工場敷地内かこれに隣接していることが好ましく、セメント製造設備に隣接していることが特に好ましい。
【0023】
また、通常の発生源となる養鶏畜産場などは、契約などにより常時確保しておくことが好ましく、この発生源と分離施設との間の固定剤の移動に際しては、その移動状態をコンピュータにより、管理することが好ましい。なお、管理に際しては、固定剤を収めた
例えば箱状のカートリッジおよびそのカートリッジを纏めて収めたコンテナなどを管理することにより、スムースなデリバリーが達成できる。
次に実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0024】
試験例1〜4
まず、酸性溶液の特性を調べるため、塩化アンモニウム水溶液(質量濃度5%)、硫酸アンモニウム水溶液(質量濃度5%)、シュウ酸アンモニウム水溶液(質量濃度3%)、およびリン酸アンモニウム水溶液(質量濃度5%)50mlを、それぞれ、フラスコにとり、これをマントルヒーターを用いて30分加熱還流させて分離発生するアンモニアの量を測定した。
次いで、残留液にアンモニアを1000ppm含む窒素ガスを通じて飽和させた後、加熱還流して分離発生するアンモニアを測定した。
上記の測定にあたり、分離されたアンモニア量は、ホウ酸溶液で捕集し、イオンクロマトグラフで測定した。結果を表1に示した。
【0025】
【表1】
表1によると、アンモニア分離量の点からいうと、弱酸であるシュウ酸およびリン酸が良く、特にリン酸が分離には良いことがわかった。
【0026】
実施例1〜4
畜産糞尿の堆肥舎から発生する臭気を活性炭、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)、シリカゲルを充填した円筒の一端に通じ、他端からアンモニアが漏洩するまで含まれるガス成分を吸収、吸着させた。
【0027】
排ガスの吸着方法は、牧場牛舎の畜糞堆肥化設備で発生する排ガスを2.5kgの各固形固定剤、いわゆる吸着剤を充填した中空丸型125A鋼管(内径130.8mm、肉厚4.5mm、長さ300mm、内容積4リットル)を介して、吸引ファンで吸引することにより行った。排ガスの通気速度は、1m3/分であった。ただし、排ガスは高温高湿度蒸気を含んでいるので、予め、除湿管を通して、冷却・除湿を行い、使用した。吸着剤の破過が始まる時間は、アンモニア濃度計(新コスモス電機製XP−3160)を使用することで、検出した。なお、管からの漏洩の有無も、同様に、アンモニア濃度計により確認した。
【0028】
なお、用いた活性炭は、特殊添着炭(アンモニアガス用)である味の素ファインテクノ製、ホクエツ HPであり、粒度4〜6メッシュ90%以上のものを使用した。シリカゲルは、関東化学製 粒状青(中粒)であり、粒度1.68〜4mm 80%以上のものを使用した。また、リン酸マグネシウム、および、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)は、それぞれ、試薬である関東化学製リン酸マグネシウム八水和物 純度95%以上のものを、またリン酸マグネシウムアンモニウムは肥料原料向けに下水廃水処理工程で製造されているものを使用した。
【0029】
次いで、これらの固形固定剤を120℃で加熱することで、アンモニアを他のガスとともに分離させた。分離後の固形固定剤に再び臭気ガスを通じて吸着、吸収させた後に、これを加熱し、吸着していたガスを分離した。各固定剤について、固定量および分離量を、次の方法により求めた。結果を表2に示した。
アンモニアガスの固定量は、吸着剤の吸着前後の質量増減量により、また、分離量は、吸着剤の分離前後の質量増減量により求めた。
各吸着剤ともアンモニアの吸収、脱着による繰り返し利用可能なことが確認された。
【0030】
【表2】
【0031】
実施例5
鶏糞の堆肥化過程で発生する臭気有する排ガスからアンモニアを活性炭に吸着回収した。
すなわち、実施例1で用いた特殊添着炭約100kgを用いて、この特殊添着炭が充填された吸着塔に排ガスを通してアンモニアを回収する。
特殊添着炭は、10kgづつを各カートリッジ(幅500×長さ600×高さ200mm)に充填し、このカートリッジを、2列5段に積み上げ、吸着塔内に配置した。また、このカートリッジは、底面が、ガスが抜けるよう目開き1mmの篩状になっており、それぞれのカートリッジには蓋はないため、ガスが底面から上方に抜けるように構成されている。吸着回収は、吸着塔内に排ガスを20m3/分の速度で、16時間通過させることにより行った。活性炭が破過したことは、アンモニア濃度計(新コスモス電機製XP−3160)で確認した。
【0032】
排ガス中のアンモニアを吸着した活性炭を120℃で加熱し、アンモニアガスを脱離させて回収し、このアンモニアガスをクリンカ1tあたり0.3kgとなるように時産100tのセメントキルンに投入し、キルン排ガス中のNOx、クリンカ中の塩素、リン酸分(P25)を測定した。
【0033】
比較例1
表3に示す組成を有する鶏糞を用いて、鶏糞に含まれる窒素分がアンモニア換算でクリンカ1tあたり0.3kgとなるように鶏糞をセメントキルンに投入し、キルン排ガス中のNOx、クリンカ中の塩素、リン酸分(P25)を測定した。
【0034】
【表3】
【0035】
次いで、実施例5、比較例1で製造されたクリンカを使用して、SO3量が2.1%となるように石膏を添加、粉砕してセメントを試作した。得られたセメントについて、JIS法に基づきモルタル圧縮強度を測定した。結果を表4に示した。
【0036】
【表4】
表4によると、いずれもキルン排ガス中のNOx量は低い値を示しているが、実施例5のアンモニアガスが比較例1の鶏糞に比べより効果的に作用したことがわかる。また、クリンカ中の塩素は、比較例1がJIS基準上限値まで上昇し、モルタル強度は、比較例1では低下していることがわかる。
【0037】
すなわち、本発明によれば、従来技術のような有機汚泥などを用いてNOxの低減を図る場合に生じる、アンモニア以外に余分な成分、特にリン酸分や塩素分などが混入してしまうことの不都合が回避され、従来のセメントに比べても、遜色のない品質のセメントを得ることができるものであることがわかる。