【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第19回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会(2013年)講演集,第414頁及び第415頁 公益社団法人日本地下水学会、公益社団法人日本水環境学会、一般社団法人廃棄物資源循環学会、公益社団法人地盤工学会、一般社団法人土壌環境センター 発行日:平成25年5月20日
【背景技術】
【0002】
近年、工場跡地における土壌汚染や、産業廃棄物等の不法投棄による土壌汚染が社会問題として指摘されるようになり、このような汚染土壌から化学物質が溶出することを抑制する方法が、種々試みられている。
【0003】
例えば、該汚染土壌中に含まれる重金属に対しては、酸化マグネシウム、軽焼ドロマイト、セメント、ゼオライト、鉄塩、高炉スラグなど用いて溶出低減処理を図ることが提案されている。
特に、ドロマイトは、栃木県葛生地方など日本国内でも大量に産出する鉱物であるため、比較的安価に入手することができ、該ドロマイトを低温で焼成した軽焼ドロマイトは、溶出低減材としても注目され、例えば特開2006−289306号公報(特許文献1)には、フッ素および(または)重金属を含有する廃棄物からのフッ素および重金属の溶出を抑制する方法であって、固化剤としての水硬性物質と、安定化剤としての焼成ドロマイトの粉末とからなる安定化処理剤を添加し、水を加えて混練することにより反応させ、凝結固化させることからなる溶出抑制方法が開示されている。
【0004】
しかし、この軽焼ドロマイトは、ドロマイトの主成分であるCaCO
3やMgCO
3に由来するカルシウムイオンやマグネシウムイオンが、ポゾラン反応やゲル化反応を起こすことによって重金属の溶出を抑制するものと言われているが、従来の軽焼ドロマイトにおいては、重金属等の溶出抑制効果が十分とは言えず、溶出低減効果を高めるために他の溶出低減手段を併用しなければならないという問題があった。
【0005】
また特開2013-31795号公報(特許文献2)には、炭酸マグネシウム(MgCO
3)精製物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO
3が脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO
3とを含む軽焼生成物を含有することを特徴とする溶出低減材が、また特開2013−32431号公報(特許文献3)には、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO
3が脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO
3と、CaCO
3とを含む軽焼生成物を含有することを特徴とする溶出低減材が記載されている。
【0006】
一方、水銀汚染土壌については、他の第2種特定有害物質とは異なりセメント再資源化には制限があることに加え、管理型処分場へ搬入するには、土壌汚染対策法(環境省)に基づく第二溶出量基準以下にまで溶出量を低減させる必要があるため、不溶化処理が切望されている。
上記特許文献2及び特許文献3に記載の溶出低減材は、汚染土壌中から重金属が溶出することを抑制するものではあるが、水銀を必ず第二溶出量基準以下にまで溶出量を低減させるための溶出低減材であることは記載されていない。
したがって、水銀に汚染された土壌から第二溶出量基準以下にまで水銀の溶出量を低減させることができる、溶出低減材が期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の如き従来技術の問題点に鑑み、水銀に汚染された水銀汚染土壌からの水銀の溶出抑制作用の優れた溶出低減材、特に第二溶出量基準以下にまで溶出量を低減させることができる水銀溶出低減材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載の水銀溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、軽焼により当該鉱物中のMgCO
3が脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO
3と、CaCO
3とを含む軽焼生成物及び水溶性硫酸塩を、質量比で8:2〜9:1で含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2記載の水銀溶出低減材は、請求項1記載の水銀溶出低減材において、前記軽焼生成物は、X線光電子分光法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおける前記MgC
xO
yのピークが、MgCO
3およびCaCO
3の各ピークの中間領域に位置することを特徴とする。
【0011】
また本発明の3記載の水銀溶出低減材は、請求項1又は2記載の溶出低減材において、前記軽焼生成物には、酸化カルシウム(CaO)が実質的に含まれないことを特徴とする。
本発明の請求項4記載の水銀溶出低減材は、請求項1〜3いずれかの項記載の溶出低減材において、前記水溶性硫酸塩が硫酸第一鉄であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5記載の水銀溶出低減材の製造方法は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物を640〜990℃で軽焼して、当該鉱物中のMgCO
3が脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO
3と、CaCO
3とを含む軽焼生成物を調製し、該軽焼生成物と水溶性硫酸塩とを、質量比で8:2〜9:1で混合することを特徴とする、水銀溶出低減材の製造方法である。
【0013】
なお、本発明において「軽焼」とは、前記鉱物を加熱して、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部を脱炭酸させることをいう。
また、「CaOを実質的に含まない」とは、前記軽焼生成物の、X線回析法(XRD)による同定結果およびX線光電子分光法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、CaOのピークを示さないことをいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物が軽焼された軽焼生成物であって、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウムの一部が脱炭酸されて生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)を含み、さらに、脱炭酸されていない炭酸マグネシウム(MgCO
3)および炭酸カルシウム(CaCO
3)を含む、すなわち、3つの成分を含む軽焼生成物と、水溶性硫酸塩とを、上記特定の混合割合で含有することによって、水銀に対して、高い溶出抑制作用を発揮することができる。
また、前記鉱物中のCaCO
3が脱炭酸されたCaOを実質的に含まない軽焼生成物を用いることによって、より水銀の溶出抑制作用を発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を以下の実施形態に基づき具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の水銀溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、軽焼により当該鉱物中のMgCO
3が脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO
3と、CaCO
3とを含む軽焼生成物及び水溶性硫酸塩を、質量比で8:2〜9:1で含む、水銀溶出低減材である。
【0017】
また、本発明の水銀溶出低減材の製造方法は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物を640〜990℃で軽焼して、当該鉱物中のMgCO
3が脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO
3と、CaCO
3とを含む軽焼生成物を調製し、該軽焼生成物と水溶性硫酸塩とを、質量比で8:2〜9:1で混合することにより、水銀溶出低減材を製造する方法である。
【0018】
本発明の水銀溶出低減材に用いる軽焼生成物は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、当該鉱物中の炭酸マグネシウムが脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含むものである。
【0019】
前記炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを主成分として含む鉱物とは、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する鉱物であれば、特に限定されず任意の鉱物を適用することができ、望ましくは、炭酸マグネシウムを20質量%以上、好ましくは40質量%以上含み、且つ炭酸カルシウムを15質量%以上、好ましくは50質量%以上含む鉱物を好適に用いることができる。
かかる鉱物の具体例としては、ドロマイト等を挙げることができる。
【0020】
前記ドロマイトとしては、炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを含有してなるものであれば特に限定されず、天然に産出するドロマイト(白雲石)のほか、水酸化マグネシウムスラリーと石灰乳との混合物を焼成して得られた合成ドロマイト等を用いることもできる。
なお、天然に産出するドロマイトは、一般に、CaO/MgOで表わされる複塩のモル比が0.70〜1.63の範囲であり、CaCO
3をCaO換算で概ね9〜40質量%、MgCO
3をMgO換算で概ね10〜38質量%含有するものである。
【0021】
本発明に用いる軽焼生成物は、前記鉱物を焼成して、該鉱物中の炭酸マグネシウムが脱炭酸されることで生成されるMgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含む生成物が生成されるように軽焼することで得ることができる。
かかる軽焼の際の温度条件としては、640〜990℃の範囲とし、好ましくは690〜890℃とし、さらに好ましくは760〜850℃とする。
また、軽焼時間は温度条件によっても変動するが、通常、10〜60分である。
焼成雰囲気等の上記以外の他の焼成条件や、焼成に用いる焼成装置については、従来公知の焼成条件および焼成装置を採用することができる。
【0022】
このような軽焼を行なうことにより、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部が脱炭酸されてMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)を生成することができる。
すなわち、前記軽焼を行なうことにより、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部をそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO
3)は実質的には脱炭酸させないことによって、前記MgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含む軽焼生成物を得ることができる。
上記鉱物を、高温長時間焼成して完全な焼成物とした場合、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウム(MgCO
3)がすべて脱炭酸されると同時に、炭酸カルシウム(CaCO
3)も脱炭酸されてしまい、前記のような3つの成分を実質的に含む軽焼生成物を得ることができない。
【0023】
前記軽焼生成物における前記MgC
xO
yは、例えば、MgCO
3の基本構造が脱炭酸によって変化し基本構造の規則性が崩れた不定形な形で存在していると考えられる。
【0024】
また、前記軽焼生成物における前記MgCO
3および前記MgC
xO
yはおそらく非晶質であると考えられる。
前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO
3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO
3)は実質的には脱炭酸させない状態で軽焼を停止することによって、残存するMgCO
3および生成されるMgC
xO
yは非晶質化するものと考えられる。
【0025】
軽焼生成物は、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と炭酸カルシウム(CaCO
3)とを主成分として含む鉱物を軽焼することで、当該鉱物中のMgCO
3が脱炭酸されてMgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)を生成し、これにより該軽焼生成物中に、MgC
xO
y(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO
3と、CaCO
3とが含まれるものである。
これにより、該軽焼物を溶出低減材に用いた場合に、水銀溶出低減効果を向上させることができる。
【0026】
軽焼生成物が、MgCO
3、MgC
xO
y、CaCO
3の3成分を含むことは、XRDによる同定結果およびXPSによる検出スペクトル解析から推測しうる。
すなわち、前記軽焼生成物を、XPSによる成分分析を行うと、MgCO
3およびMgC
xO
yのピークが検出されるが、同時にXRDによる同定を行うと、MgCO
3およびMgC
xO
yは検出されない。これは、XRDでは結晶質のものしか検出できないため、前記軽焼生成物中に含まれるMgCO
3およびMgC
xO
yは非晶質化しているものと推定される。
【0027】
このように、前記軽焼生成物が前記3つの成分を実質的に含む軽焼生成物であることは、X線光電子分光法(XPS)によって検出されるスペクトルにおいて示される前記各ピーク値によって明確に確認できる。
【0028】
本発明の溶出低減材に用いられる前記軽焼生成物が、MgC
xO
y、MgCO
3、CaCO
3を含有することは、X線光電子分光法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて示される各ピークによって、明確に検証可能となる。
すなわち、前記のようなピークを示す前記軽焼生成物であれば、優れた溶出抑制作用を発揮させうる状態で前記MgC
xO
y、MgCO
3、CaCO
3の各成分が含有されている軽焼生成物である。
【0029】
例えば、X線光電子分光法は、X線光電子分光装置 Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて、前記軽焼生成物を試料ペレットに埋めて表面をエッチング処理等適宜前処理した試料を分析し、検出されるXPSスペクトルのO1sに対応するスペクトルにおけるピークを調べることで、前記軽焼生成物が前記のような3つの成分を含む場合には、各成分のピークが現れることとなる。
【0030】
更に、MgCO
3およびMgC
xO
yの合計含有量、CaCO
3の含有量の測定は、例えば、JIS R2212−4に規定するマグネシア及びドロマイト質耐火物の成分分析方法、または、X線回析法(XRD)による同定結果およびX線光電子分光法(XPS)による成分分析により、測定することが可能である。
【0031】
本発明に用いる軽焼生成物は、CaOを実質的に含まないことが好ましい。
前記鉱物を軽焼した場合には、前記鉱物中のMgCO
3の一部が脱炭酸するが、CaCO
3を実質的には脱炭酸する温度での焼成ではないため、前記軽焼生成物中には、実質的にCaOは含まれていない。
【0032】
前記軽焼生成物がCaOを実質的に含まないことは、例えば、X線回析法(XRD)による同定結果および前記X線光電子分光法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、CaOのピークが現れないことで確認することができる。
【0033】
前記軽焼生成物は、前記鉱物を軽焼することで質量が減少するが、かかる軽焼による質量減少率は9〜20質量%、好ましくは10〜17質量%、より好ましくは16〜17質量%であるように軽焼することが好ましい。
前記軽焼による質量減少率をこのような数値範囲内とすることにより、炭酸マグネシウム等からの脱炭酸反応を適切に生じさせ、前記前記鉱物中の炭酸マグネシウムの一部を残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgC
xO
yとし、かかる脱炭酸によって生じる前記MgC
xO
yと、炭酸マグネシウム(MgCO
3)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)とを含む軽焼生成物を適切に生成させることができるものと考えられる。
【0034】
また、本発明の水銀溶出低減材には、さらに、水溶性硫酸塩が配合される。
前記水溶性硫酸塩としては、例えば、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウム等を挙げることができ、中でも、硫酸第一鉄を用いることが好ましい。
【0035】
本発明の水銀溶出低減材においては、水溶性硫酸塩は、上記軽焼生成物:水溶性硫酸塩の配合質量割合が8:2〜9:1であり、好ましくは8:2である。
このような配合割合とすることで、水銀の溶出を抑制することが可能となり、特に、長期間にわたって、安定して水銀溶出低減効果が継続して得られ、第二溶出基準以下とすることが可能となる。
【0036】
本発明の水銀溶出低減材は、例えば、水銀を含む汚染土壌等に添加する場合には、土壌中の水銀の量に応じて適宜好ましい量を混合することができるが、例えば、汚染土壌に対して20〜200kg/m
3、好ましくは50〜150kg/m
3の濃度になるように添加することが好ましい。
【実施例】
【0037】
本発明を以下の実施例、比較例及び試験例により説明するが、これらに限定されるものではない。
【0038】
軽焼生成物の調製
栃木県葛生地方産出のドロマイト(住友大阪セメント株式会社唐沢鉱業所産)を、800℃の電気炉で0分(加熱処理しない:比較例1)、10分間加熱したもの(以下、比較例2)、30分間加熱したもの(以下、実施例1)及び120分間加熱したもの(比較例3)を準備した。
なお、市販のMgO(泉工業株式会社製、商品名:酸化マグネシウム(純度19.99%):比較例4)も準備した。
【0039】
軽焼生成物の成分分析
上記実施例1、比較例1、比較例3及び比較例4の各材料を、X線光電子分光装置:Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて分析した。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
X線源: AlKa線(1486.6eV)
検出角度:約45°
ビーム径:100W/400μm
パスエネルギー(ワイドスキャン):100eV、Ar(30),C(20),O(30),Mg(10),Ca(10)、(カッコ内は積算回数)
パスエネルギー(元素ナロースキャン):20eV
測定元素:Ar,C,O,Mg,Ca
Ar
+イオンスパッタ速度:約2nm/min(Ta
2O
5膜に換算)
【0040】
前記各材料試料はそれぞれInペレットに埋めて平らにし、カーボンテープで試料台に固定した。
測定は各試料とも300秒、Arイオンでスパッタによるエッチング処理後に測定した。
【0041】
図1乃至
図4に、各材料(実施例1、比較例1、比較例3、比較例4)のXPSスペクトルのOs1のスペクトルを、表1にその分析結果を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
図1は実施例1のXPSスペクトルである。
図1および表1に示すように、実施例1の軽焼生成物からは、MgCO
3およびCaCO
3のピークの間の領域に2種類のMgC
xO
yのピークが現れている。
すなわち、実施例1の軽焼生成物は、ドロマイト中のMgCO
3の一部が脱炭酸されたMgC
xO
yを含み、且つ、MgCO
3およびCaCO
3も含むことを示している。
一方、CaOの位置にはピークが見られないことから、実施例1の軽焼生成物では、ドロマイト中の成分であるCaCO
3が脱炭酸されたCaOを含んでいないことを示している。
【0044】
図2に示す比較例1は、ドロマイト中の成分であるMgCO
3及びCaCO
3のピークのみを示している。
図3に示す比較例3は、MgC
xO
yのピークを示しており、MgCO
3のピークは示していない。
これは、ドロマイト中のMgCO
3のほとんどが脱炭酸されてMgC
xO
yとなったためと考えられる。さらに、「ドロマイト(120分)」はCaOのピークも示しており、これはCaCO
3の一部が脱炭酸されていると考えられる。
図4に示す比較例4はMgOのピークを示している。
実施例1及び比較例3では、この比較例4で示されるピークの位置にはピークが表れていない。すなわち、実施例1及び比較例3では、軽焼または焼成によって生成されるMgC
xO
yはMgOとは異なる化合物であることがわかる。
【0045】
さらに、前記実施例1及び比較例1〜4の各材料を、X線回析装置:X’Pert PRO(PANalytical社製)を用いてXRD回析を行った。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
手法:粉末X線回折、スピンなし
管球:Cu
出力設定:45kV,40mA
2θ:5〜90 °
ステップサイズ:0.05°2Th.
スキャンステップ時間:0.5s
スキャン種類:連続
【0046】
図5に、各実施例1、比較例1〜4の各材料のXRD回析スペクトルを示す。
前記XRD回析の結果、比較例1(加熱処理していないドロマイト)及び比較例2からはCaMg(CO
3)
2が、実施例1(軽焼生成物)からはCaCO
3及びCaMg(CO
3)
2が、比較例3(120分焼成ドロマイト)からはCaCO
3およびCaOが、比較例4(市販酸化マグネシウム)からはMgOのみが同定された。
実施例1のXPSスペクトルにおいてはMgCO
3およびMgC
xO
yのピークを示しているにもかかわらず、XRD同定ではこれらのマグネシウム化合物は検出されなかったことから、実施例1に含まれるMgCO
3およびMgC
xO
yはXRDで検出されない非晶質化したものであると推定される。
【0047】
質量減少率
焼成(加熱)前のドロマイト(比較例1)に対する実施例1、比較例2及び比較例3のものの質量減少率を下記表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2より、ドロマイトの焼成が不十分な比較例2では、質量減少が少なく、これはドロマイト中の脱炭酸が進行せず、MgCxOyが生成されていないことを表す。
また、焼成時間が長い比較例3では、質量減少が大きく、これはドロマイト中のMgCO
3のほとんどが脱炭酸されてMgC
xO
yとなったことを表す。
【0050】
溶出低減材の水銀溶出低減評価(焼成度合いの最適化)
前記実施例1、比較例2(10分焼成ドロマイト)及び比較例3(120分焼成ドロマイト)の各材料と硫酸第一鉄一水塩(堺化学工業社製)とを質量比9:1で混合した実施例2及び比較例4乃至5の溶出低減材を調製した。
【0051】
前記各実施例2及び比較例4乃至5の溶出低減材の、水銀に対する溶出低減効果を以下の方法で評価した。
各実施例2、比較例4乃至5の溶出低減材を、それぞれ水銀を0.5mg/lで含む標準溶液100mlに1gの割合で添加し、4時間撹拌混合した後、ろ過した。ろ過後のろ液中の水銀濃度を、還元気化原子吸光法 開放送気方式 水銀分析装置(平沼産業社製、装置名「HG−150」を用いて測定した。
得られた水銀濃度測定値の結果より、下記の算出式(1)を用いて水銀吸着除去率を求めた。
吸着除去率[%]=(初期濃度−ろ液中濃度)÷ 初期濃度 × 100・・・(1)
その結果を下記表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3より、実施例2の溶出低減材は、加熱時間の短いドロマイトを用いた比較例4の溶出材料や加熱時間の長いドロマイトを用いた比較例5の溶出材料に比べ、水銀に対して高い吸着除去率を有することがわかる。
【0054】
溶出低減材の水銀溶出低減評価(硫酸第一鉄一水和物混合比の最適化)
次に上記実施例1(軽焼生成物)と前記硫酸第一鉄一水和物の混合比を10:0〜6:4の間で変化させた実施例2乃至3、比較例6乃至8について、前記と同様の水銀溶出低減試験を行い、水銀の溶出低減効果を評価した。その結果を表4及び
図6に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4及び
図6より実施例1の上記軽焼生成物と硫酸第一鉄一水和物の混合質量比が9:1乃至8:2の溶出低減材とすることで、実施例1の上記軽焼生成物と硫酸第一鉄一水和物の混合質量比が10:0、7:3および6:4の溶出低減材と比較して、優れた水銀吸着性能を示し、これにより土壌汚染対策法による第二溶出基準値以下の水銀溶出防止効果を有することとなる。
【0057】
模擬汚染土による評価
以下の手順にて模擬水銀汚染土を調製するとともに、前記実施例2の溶出低減材を用いて、水銀溶出低減効果を評価した。
【0058】
摸擬汚染土の調製
水銀実汚染土に、さらに水銀分析用標準原液(関東化学社製、1000ppm水銀標準液,製品番号25828−1B)を添加し、高濃度水銀汚染土(環境省告示46号試験での溶出量:0.009ppm)を作製した。上記実施例2の溶出低減材を用い、該高濃度水銀汚染土に対し、粉体で17.8〜89.0kg/m
3割合で添加し、撹拌混合した。
次いで、高濃度水銀汚染土に前記実施例2の溶出低減材をそれぞれ混合した後、材齢1日経過後に、環境庁告示46号に準じて水銀溶出試験を実施して、溶出液中の水銀濃度について測定した。その結果を下記表5に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
表5より、実施例2の溶出低減材は、摸擬汚染土に添加した場合、水銀に対し優れた溶出低減作用を発揮しうるものであることが認められる。