【課題】廃棄ロスを低減することが可能なリチウムイオン電池用正極活物質を提供する。また、このようなリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、このようなリチウムイオン電池用正極活物質を有するリチウムイオン電池用電極およびリチウムイオン電池を提供する。
前記加熱する工程で得られた反応生成物と、有機化合物とを含むスラリーを乾燥させ、得られた固体を非酸化性雰囲気下で熱処理する工程をさらに有する請求項6に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一態様に係るリチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン電池用電極およびリチウムイオン電池について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0022】
[リチウムイオン電池用正極活物質]
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質は、一般式Li
xMnAO
4(ただし、AはPまたはSのいずれか一方または両方であり、0.7<x≦2である)で表される無機粒子を含み、前記無機粒子は、比表面積が15m
2/g以上35m
2/g以下であり、YI(黄色度)が8以上16以下である。
【0023】
本実施形態においては、無機粒子の比表面積は、窒素(N
2)吸着によるBET法により測定して得られる値を指す。具体的には、比表面積計(BELSORP−mini、日本ベル社製)を用いて、窒素(N
2)吸着によるBET法により測定される値を採用する。
【0024】
無機粒子の比表面積は、15m
2/g以上であると、一次粒子の内部抵抗が大きくなりにくい。その結果、このような無機粒子を正極活物質に用いたリチウムイオン電池において、高速充放電レートにおける放電容量を十分確保できるため好ましい。
また、無機粒子の比表面積は、35m
2/g以下であると、この一次粒子の表面を薄膜状の炭素にて十分に被覆することができ、高速充放電レートにおける放電容量を高くすることができる。その結果、このような無機粒子を正極活物質に用いたリチウムイオン電池において、充分な充放電レート性能を実現することが可能となるため好ましい。
【0025】
本発明においてYI(黄色度)は、ASTM E 313(Calculating Yellowness Indices from Instrumentally Measured Color Coordinates)で規定された計算式に基づいて算出される値を意味する。
具体的には、分光型測色計(カラーアナライザー(型番TC−1800)、東京電色社製)を用いて反射光2度視野測定を行い、得られた三刺激値から上記計算式に基づいて算出される値を意味する。測定時には、シャーレにムラなく測定対象の正極活物質を載せて測定する。
【0026】
発明者の検討により、Li
xMnAO
4で表される無機粒子に含まれる不純物の量と、Li
xMnAO
4で表される無機粒子のYI(黄色度)と、に相関があることが分かった。
【0027】
Li
xMnAO
4で表される無機粒子に含まれる不純物として、代表的には遷移金属であるMnの酸化物が挙げられる。Li
xMnAO
4で表される無機粒子に含まれる不純物の量は、当該無機粒子を活物質として用いた電池の電池特性に影響する。
【0028】
無機粒子中のMn酸化物の量が増えると、Mn酸化物の色に起因して、無機粒子のYIが大きくなることが考えられる。一方で、Mn酸化物の量が増えると、無機粒子が粗大化しやすいため、粒子の体積当たりの散乱強度が増加する。すると、YIの測定時に散乱光に起因して、無機粒子のYIが小さくなることが考えられる。
【0029】
発明者の検討により、Li
xMnAO
4で表される無機粒子のYI(黄色度)が8以上16以下の範囲に含まれる場合には、無機粒子に含まれる不純物の量が少なく、良好な電池特性を実現可能となることが分かった。
【0030】
本実施形態のリチウム電池用正極活物質が有する無機粒子は、結晶性粒子であっても非晶質粒子であってもよく、結晶質粒子と非晶質粒子が共存した混晶粒子であってもよい。無機粒子は、固相法、液相法、気相法等の公知の方法を用いて製造することができる。
【0031】
本実施形態のリチウム電池用正極活物質の大きさは、特に限定されないが、一次粒子径の平均粒子径が5nm以上かつ500nm以下であるもの好ましい。
リチウム電池用正極活物質の一次粒子径の平均粒子径が5nm以上であると、充放電により体積変化しても結晶構造が破壊されるおそれがなく好ましい。また、一次粒子径の平均粒子径が500nm以下であると、粒子内部への電子の供給量が不足しにくく、利用効率の低下を抑制できるため好ましい。
【0032】
本実施形態のリチウム電池用正極活物質は、無機粒子と、無機粒子の表面を被覆する炭素質被膜と、を有することが好ましい。無機粒子の表面を炭素質被膜で被覆することにより、リチウム電池用正極活物質を用いた電極の密度を大きく低下させること無く、電極に良好な電子伝導性を付与することができる。
【0033】
炭素質被膜の炭素量は、無機粒子100質量部に対して0.6質量部以上かつ10質量部以下であることが好ましい。また、炭素量は、0.8質量部以上であることが好ましく、2.5質量部以下であることが好ましい。これら上限値下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0034】
炭素質被膜中の炭素量が0.6質量部以上であると、炭素質被膜の被覆率が80%以上となり、電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が大きくなる。そのため、充分な充放電レート性能を実現することが可能となる。
一方、炭素量が10質量部以下であると、正極活物質に対して炭素質被膜の量が多くなりすぎない。そのため、必要な導電性を得る量以上の炭素を含むことなく、単位体積あたりのリチウムイオン電池の電池容量の低下を抑制することができる。
【0035】
また、無機粒子の表面が炭素質被膜で被覆されたリチウム電池用正極活物質は、複数個集合して2次粒子を形成していることが好ましい。
リチウム電池用正極活物質が2次粒子を形成することにより、1次粒子間にリチウムイオンの拡散浸透が可能な細孔が形成されるため、リチウムイオンは正極活物質の表面に到達することができ、リチウムイオンの挿入脱離反応を効率的に行うことができる。また、各1次粒子間が炭素質被膜により結合されるため、粒子間の電子伝導が容易となる。
【0036】
さらに、炭素質被膜中にアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、黒鉛など炭素粒子を混合しても良い。
【0037】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質は、YI(黄色度)を8以上16以下とすることで、リチウムイオン電池を組み上げて実測しなくても、良品のリチウムイオン電池を製造しやすいものとすることができる。
【0038】
[リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、一般式Li
xMnAO
4(ただしAはPまたはSのいずれか一方または両方、0.7<x≦2)で表され、YI(黄色度)が8以上16以下であるリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であって、Li化合物と、Mn化合物と、リン化合物または硫黄化合物のいずれか一方または両方と、を含む液状体を、pH5以上pH7以下に調整する工程と、前記液状体を密閉容器内で加熱する工程と、を有する。
【0039】
なお、本実施形態において、「液状体」とは、溶液および分散液(スラリー)の両方を含む。
【0040】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、水熱合成法を採用している。
【0041】
液状体は、(1)Li化合物と、(2)Mn化合物と、(3)リン化合物または硫黄化合物のいずれか一方または両方と、を含む。
【0042】
(1)Li化合物としては、例えば、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、塩化リチウム(LiCl)、水酸化リチウム(LiOH)等のリチウム塩を挙げることができる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
(2)Mn化合物としては、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl
2)、酢酸マンガン(II)(Mn(CH
3COO)
2)、硫酸マンガン(II)(MnSO
4)等のマンガン塩を挙げることができる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
(3)リン化合物としては、例えば、リン酸(H
3PO
4)、またはリン酸2水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)等のリチウム塩を挙げることができる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
硫黄化合物としては、例えば、硫酸(H
2SO
4)、または硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、硫酸リチウム(Li
2SO
4)等の硫酸塩を挙げることができる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
液状体は、これらの化合物と水とを混合して得られる。混合は、通常知られた方法を用いることができる。また、各化合物は、水に対して固体の各化合物を複数添加して混合することとしてもよく、各化合物をそれぞれ水溶液または分散液としたうえで、各水溶液または分散液同士を混合することとしてもよい。
【0047】
さらに、リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法では、液状体をpH5以上pH7以下に調整する(調整する工程)。pHの調整は、リン酸、シュウ酸などの酸性物質、およびNH
3のような塩基性物質を添加することにより行うことが好ましい。
pHの調整にリン酸を用いる場合、生じるリン酸イオンは目的物であるLiMnPO
4の原料として消費されるため、不純物の混入を抑制することができる。
また、pHの調整にシュウ酸やNH
3を用いると、急激なpH変化を生じさせることなくpHの調整が可能であるため好ましい。
【0048】
一方、例えば、pHの調整に希硫酸を用いた場合、pH調整は可能であるが、硫酸イオンに由来する硫黄原子が不純物として混入するおそれが生じる。
また、pHの調整に強酸を用いると、pHが低くなりすぎた場合に正極活物質の粒子表面が腐食するおそれが生じる。
【0049】
次いで、得られた液状体を耐圧密閉容器内で加熱し、高温、高圧下、例えば、120℃以上かつ250℃以下、0.1MPa以上にて、1時間以上かつ24時間以下で、水熱反応を行う(加熱する工程)。これにより、反応生成物として一般式Li
xMnAO
4(ただし、AはPまたはSのいずれか一方または両方であり、0.7<x≦2である)で表される無機粒子が得られる。
【0050】
水熱反応の処理温度を高くすると、得られる無機粒子の比表面積は小さくなりやすく、処理温度を低くすると、得られる無機粒子の比表面積は大きくなりやすい。
また、水熱反応の処理時間を短くすると、得られる無機粒子の比表面積は大きくなりやすく、処理温度を長くすると、得られる無機粒子の比表面積は小さくなりやすい。
これらの処理条件をそれぞれ制御することで、得られる無機粒子の比表面積を適宜調整することができる。すなわち、同じ比表面積となる処理条件であっても、処理温度や処理時間の組み合わせは無数に想定される。
【0051】
一方、水熱反応の処理温度を高くすると、得られる無機粒子のYIは小さくなりやすく、処理温度を低くすると、得られる無機粒子のYIは大きくなりやすい。
また、水熱反応の処理時間を短くすると、得られる無機粒子のYIは大きくなりやすく、処理温度を長くすると、得られる無機粒子のYIは小さくなりやすい。
これは、無機粒子の比表面積が変化すると、無機粒子に含まれるMnの酸化しやすさが変化し、結果として無機粒子に含まれる不純物量が変化するためであると考えられる。
【0052】
しかし、生じる不純物の量は処理温度や処理時間によって異なる。上述のように、同じ比表面積となる処理条件であっても、処理温度や処理時間の組み合わせは無数に想定されることから、同じ比表面積であってもYIが異なる無機粒子が生じうる。そのため、本実施形態では、所定の範囲の比表面積を有する無機粒子の中でも、所望の範囲のYI値を有する無機粒子を含むものが、良好な性質を有するリチウムイオン電池用正極活物質であると判断している。
【0053】
また、本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法においては、前記加熱する工程で得られた反応生成物と、有機化合物とを含むスラリーを乾燥させ、得られた固体を非酸化性雰囲気下で熱処理する工程をさらに有することが好ましい。
【0054】
有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコールが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン等が挙げられる。
【0055】
上述の反応生成物と、有機化合物とを溶媒に溶解または分散させ、均一なスラリーを調整する。溶媒としては、水を好適に用いることができる。
【0056】
さらに、上記スラリーには、後述する熱処理において有機化合物の炭化を促進するための炭化触媒を含んでもいてもよい。
【0057】
炭化触媒としては、リン化合物や硫黄化合物を用いることができる。
炭化触媒であるリン化合物としては、黄リン、赤リン、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)及びこれらの水和物等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
炭化触媒である硫黄化合物としては、硫酸(H
2SO
4)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、硫酸リチウム(Li
2SO
4)等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
炭化触媒は、予め水溶液とした上で混合すると、各化合物が均一に混合されたスラリーとすることができ好ましい。
【0060】
炭素質被膜で被覆されたリチウムイオン電池用正極活物質を製造する場合、まず、このようにして調整されるスラリーを乾燥させる。
【0061】
スラリーの乾燥は、噴霧熱分解法を好適に用いることができる。例えば、噴霧熱分解法を用いて、上記スラリーを高温雰囲気中、例えば70℃以上かつ250℃以下の大気中に噴霧し、乾燥して造粒体を生成する。
【0062】
次いで、得られた固体である造粒体を非酸化性雰囲気下で熱処理する(熱処理する工程)。
ここで、「非酸化性雰囲気下」とは、不活性雰囲気下または還元性雰囲気下のことである。
【0063】
熱処理の温度条件は、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましい。また、1000℃以下であることが好ましく、900℃以下であることがより好ましい。これら上限値下限値は任意に組み合わせることができる。
【0064】
熱処理時間は、有機化合物が充分に炭化される時間であればよく、特に制限はないが、例えば0.1時間以上かつ10時間以下である。
【0065】
以上のような製造方法とすることで、好適に無機粒子の表面が炭素質被膜で被覆されたリチウムイオン電池用正極活物質を製造することができる。
【0066】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、良品のリチウムイオン電池を製造しやすいリチウムイオン電池用正極活物質を容易に製造することができる。
【0067】
[リチウムイオン電池用電極]
本実施形態のリチウムイオン電池用電極は、本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料を有している。
リチウムイオン電池用電極は、例えば本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質と結着剤との混合物をアルミニウム等の金属箔上に塗布し、乾燥してシート状とすることで製造することができる。
【0068】
本実施形態のリチウムイオン電池用電極は、本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質を用いることにより、不良品が生じにくく、信頼性の高い電極とすることができる。
【0069】
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン電池であって、正極が本実施形態のリチウムイオン電池用電極を有する。
【0070】
リチウムイオン電池は、例えば、本実施形態のリチウムイオン電池用電極と、黒鉛系炭素材料を用いた負極と、これら正極及び負極を仕切る多孔質ポリプロピレン等からなるセパレーターと、リチウムイオン伝導性を有する電解液とを有している。
【0071】
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態のリチウムイオン電池用電極を用いることにより、不良品が生じにくく、信頼性の高い電池とすることができる。
【0072】
以上のような構成のリチウムイオン電池用正極活物質によれば、YIを測定することで、好適な電池特性を示す活物質かどうかが判断されているため、電池にまで組み立てた後の検査における不良廃棄品を減らすことができる。
【0073】
以上のような構成のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法によれば、良品のリチウムイオン電池を製造しやすいリチウムイオン電池用正極活物質を容易に製造することができる。
【0074】
また、以上のような構成のリチウムイオン電池用電極は、信頼性の高い電極とすることができる。
また、以上のような構成のリチウムイオン電池は、信頼性の高い電池とすることができる。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0076】
[実施例]
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
例えば、本実施例では、導電助剤としてアセチレンブラックを用いているが、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素材料を用いてもよい。また、対極にLi金属を用いた電池で評価しているが、当然ながら天然黒鉛、人造黒鉛、コークスのような炭素材料、Li
4Ti
5O
12やLi合金等の負極材料を用いても良い。また、非水電解液としての非水電解質溶液として1mol/LのLiPF
6を含む炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積%で1:1に混合したものを用いているが、LiPF
6の代わりにLiBF
4やLiClO
4、炭酸エチレンの代わりにプロピレンカーボネートやジエチルカーボネートを用いても良い。また電解液とセパレーターの代わりに固体電解質を用いても良い。
【0078】
本実施例においては、以下のような測定を行い、得られたLiMnPO
4粉末(以下、単に粉末と称することがある)について評価を行った。
【0079】
(1.黄色度(YI)の測定)
粉末の黄色度(YI)は、分光型測色計(カラーアナライザー(型番TC−1800)、東京電色社製)を用いて反射光2度視野測定を行い、得られた三刺激値からASTM E 313で既定された計算式に基づいて算出される値を用いた。三刺激値の測定時には、シャーレにムラなく測定対象の正極活物質の粉末を載せて測定した。
【0080】
(2.粉末の比表面積の測定)
粉末の比表面積は、比表面積計(BELSORP−mini、日本ベル社製)を用いて、窒素(N
2)吸着によるBET法により測定した。
【0081】
(3.X線回折の測定)
X線回折装置(X’Pert PRO MPD、検出器:X’celarator、パナリティカル社製)を用いて、得られた粉末の結晶構造を解析した。
【0082】
(4.Mn価数の測定)
(4−1.Mn(II)の割合の測定)
粉末に含まれる総Mn量を、JIS−K−0102に記載された過ヨウ素酸吸光光度法で測定した。
また、粉末に含まれるMn(III)量とMn(IV)量との和をヨウ素測定法で測定した。
粉末に含まれるMn(II)量は、総Mn量から、Mn(III)量およびMn(IV)量の和を差し引いて求めた。
その後、得られた総Mn量の値と、Mn(II)量の値と、を用いて粉末に含まれる総Mn量に対するMn(II)量の割合(単位:%)を算出した。
【0083】
(4−2.Mn価数)
粉末に含まれるMn価数(Mnの平均価数)は、上記ヨウ素測定法で測定されたMn(III)とMn(IV)とが全てMn(IV)であると仮定してMn(IV)の割合(単位:%)を算出し、下記計算式から比例配分して求めた。
Mn価数={2×(Mn(II)の割合)+4×(Mn(IV)の割合)}/100
【0084】
(5.充放電特性の測定)
(5−1.リチウムイオン電池の作製)
後述の実施例及び比較例で得られた活物質と、導電助材であるアセチレンブラック(AB)と、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、活物質:AB:PVdF=90:5:5の質量比でN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に混合し、正極材料ペーストを作成した。
得られた正極ペーストを、厚さ30μmのAl箔上に塗布した。ペーストの塗膜は300μmとした。乾燥後、40MPaの圧力にて100μm程度の厚みとなる様に圧着して電極板とした。
得られた電極板を直径16mmの円盤状に打ち抜き、試験電極を作製した。
【0085】
対極は、市販のLi金属を用いた。
セパレーターは、多孔質ポリプロピレン膜(#2500、セルガード社製)を採用した。
非水電解質溶液は、1mol/LのLiPF
6溶液を用いた。なお、このLiPF
6溶液に用いられる溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積%で1:1に混合したものを用いた。
【0086】
これらの試験電極、対極、セパレーター、非水電解液および2032型のコインセルを用いて、実施例および比較例の電池を作製した。
【0087】
(5−2.3C放電容量の測定)
作製したコイン型のリチウムイオン電池の放電容量について、放電容量測定装置(HJ1010mSM8、北斗電工社製)を用いて測定した。
作製したコイン型のリチウムイオン電池について、25℃にて、0.1C電流値で充電電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行った後、定電圧充電に切り替えて電流値が0.01Cとなった時点で充電を終了した。
その後、放電電流3Cで放電を行い、電池電圧が2.0Vとなった時点で放電を終了した。放電終了時の放電容量を測定し、3C放電容量とした。
【0088】
(5−3.3C容量/0.1C容量比の測定)
作製したコイン型のリチウムイオン電池について、上述の条件で充電した後、放電電流0.1Cでの放電を行い、電池電圧が2.0Vとなった時点で放電を終了した。放電終了時の放電容量を測定して得られる0.1C放電容量を、初期容量とした。
その後、得られた初期容量(0.1C放電容量)と、上述の方法で求めた3C放電容量とを用い、3C容量/0.1C容量比を算出した。
【0089】
(5−4.300サイクルの容量維持率の測定)
また、上述の条件で充放電を繰り返し、1回の充電および放電を1サイクルとして300サイクル目の0.1C放電容量を測定して、初期容量に対する容量維持率を算出した。
【0090】
(実施例1)
Li源として酢酸リチウム(LiCH
3COO)、Mn源として硫酸マンガン(II)、P源としてリン酸(H
3PO
4)を用いて、これらをモル比でLi:Mn:P=1:1:1となるように純水に溶解した後、LiOHとH
3PO
4を用いてpH6.6に調整し、200mlの前駆体溶液を作製した。
次いで、得られた前駆体溶液を耐圧容器に入れ、170℃で24時間水熱合成を行った。
反応後、室温になるまで冷却することで、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。
得られた沈殿物を蒸留水で複数回十分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持しケーキ状物質とした。
この沈殿物を一部採取し、70℃で2時間真空乾燥させて得られた粉末についてX線回折を測定したところ、単相のLiMnPO
4が形成されていることが確認された。
【0091】
このLiMnPO
4をカラーアナライザーにて測定した結果、黄色度(YI)は9.8だった。
また、得られたLiMnPO
4粉末の比表面積は17.2m
2/gであった。
充放電特性は3C放電容量が114mAh/gを示した。
また、充放電特性は3C容量/0.1C容量比は70.7%を示した。
【0092】
(実施例2)
NH
3を用いて前駆体溶液のpHを5.5に調整したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の単相のLiMnPO
4を製造した。得られたLiMnPO
4が単相であることは、X線回折を測定することで確認した。
【0093】
得られたLiMnPO
4をカラーアナライザーにて測定した結果、黄色度(YI)が15.6であった。
また、得られたLiMnPO
4粉末の比表面積は28.4m
2/gであった。
得られたLiMnPO
4を用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性は、3C放電容量が117mAh/gであり、3C容量/0.1C容量比が77.0%であった。
【0094】
(実施例3)
NH
3を用いて前駆体溶液のpHを6.1に調整したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の単相のLiMnPO
4を製造した。得られたLiMnPO
4が単相であることは、X線回折を測定することで確認した。
【0095】
得られたLiMnPO
4をカラーアナライザーにて測定した結果、黄色度(YI)が13.6であった。
また、得られたLiMnPO
4粉末の比表面積は24.0m
2/gであった。
得られたLiMnPO
4を用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性は、3C放電容量が102mAh/gであり、3C容量/0.1C容量比が75.6%であった。
【0096】
(比較例1)
NH
3とシュウ酸とを用いて前駆体溶液のpHを4.8に調整したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の単相のLiMnPO
4を製造した。得られたLiMnPO
4が単相であることは、X線回折を測定することで確認した。
【0097】
得られたLiMnPO
4をカラーアナライザーにて測定した結果、黄色度(YI)が7.7であった。
また、得られたLiMnPO
4粉末の比表面積は12.7m
2/gであった。
得られたLiMnPO
4を用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性は、3C放電容量が85mAh/gであり、3C容量/0.1C容量比が64.4%であった。
【0098】
(比較例2)
NH
3を用いて前駆体溶液のpHを7.5に調整したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の単相のLiMnPO
4を製造した。得られたLiMnPO
4が単相であることは、X線回折を測定することで確認した。
【0099】
得られたLiMnPO
4をカラーアナライザーにて測定した結果、黄色度(YI)が17.8であった。
また、得られたLiMnPO
4粉末の比表面積は33.0m
2/gであった。
得られたLiMnPO
4を用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性は、3C放電容量が64mAh/gであり、3C容量/0.1C容量比が52.9%であった。
【0100】
実施例1〜3および比較例1,2について、結果を表1、表2にまとめて示す。
評価においては、3C放電の容量が100mAh/g以上であり、且つ3C容量/0.1C容量比が70%以上であるものを良品と判定した。
【0103】
評価の結果、実施例1〜3は、3C放電の容量が、いずれも100mAh/g以上となった。また、3C容量/0.1C容量比が、いずれも70%以上となった。
対して、比較例1,2は、3C放電の容量が100mAh/g未満であり、また3C容量/0.1C容量比が70%未満となった。
したがって、実施例1〜3は、比較例1,2よりも良好な電池特性を示すことが分かった。
【0104】
なお、実施例1〜3においては、300サイクル容量維持率において3%程度の差が生じているが、300サイクル容量維持率の測定において5%程度の差までは誤差範囲であると評価できる。そのため、実施例1〜3は300サイクル容量維持率において同等の物性を示していると言える。
【0105】
以上の結果から、本発明が有用であることが確認できた。