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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-68703(P2015-68703A)
(43)【公開日】2015年4月13日
(54)【発明の名称】放射性物質汚染水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/16 20060101AFI20150317BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20150317BHJP
【FI】
   G21F9/16 521C
   G21F9/12 501G
   G21F9/16 511A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-202310(P2013-202310)
(22)【出願日】2013年9月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】若杉 三紀夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕明
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 一彰
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正博
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放射性物質汚染水を安全に処理することができ、且つ処理後に発生する処理物の取り扱いが容易である放射性物質汚染水の処理方法を提供する。
【解決手段】放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得、前記膨潤液と水硬性材料の水溶液とを混合して混合物を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得る膨潤化工程と、
前記膨潤液と、水硬性材料の水溶液とを混合して混合物を得る混合工程とを備える放射性物質汚染水の処理方法。
【請求項2】
水硬性材料と放射性物質汚染水とを混合して水硬性材料の水溶液を得る水硬性水溶液作製工程を備える請求項1に記載の放射性物質汚染水の処理方法。
【請求項3】
前記混合物を硬化させる硬化工程を備える請求項1または2に記載の放射性物質汚染水の処理方法。
【請求項4】
前記硬化させた混合物を乾燥させる乾燥工程を備えた請求項3に記載の放射性物質汚染水の処理方法。
【請求項5】
前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液とを別々に、前記混合工程を実施する混合現場まで移送する移送工程を備える請求項1乃至4のいずれか一項に記載の放射性物質汚染水の処理方法。
【請求項6】
前記移送工程において、前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液とを前記混合現場まで圧送する請求項5に記載の放射性物質汚染水の処理方法。
【請求項7】
前記粘土鉱物は、モンモリロナイトを含む粘土鉱物である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の放射性物質汚染水の処理方法。
【請求項8】
前記水硬性材料は、セメント、高炉スラグ、石膏及び石灰からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の放射性物質汚染水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質汚染水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質を含む放射性物質含有物、例えば、原子力発電所の事故で発電所から漏れ出した放射性物質により汚染された水、土壌、廃棄物、それらの焼却灰等の処理方法については、種々検討されている。
【0003】
例えば、放射性物質を含む焼却灰や、土壌等の固体の放射性物質含有物を処理する方法としては、特許文献1乃至3のような方法が挙げられる。
特許文献1には、放射性物質含有焼却灰を、ベントナイト等の水膨潤性粘土、セメント等の固化材、ゼオライト等の吸着材と混合して、圧縮成型することが記載されている。
特許文献2には、放射性廃棄物を高炉スラグ、セメント等と混合して固形化することが記載されている。
特許文献3には、放射性廃棄物を、ベントナイト粉末を層状に敷き詰めたコンクリート製収容容器に収容することが記載されている。
特許文献1及び2に記載の方法では、放射性物質を吸着するゼオライトやベントナイト及び固化材であるセメントと混合して固化させることで、放射性物質を固化体の内部に閉じ込めることができる。
また、特許文献3に記載の方法では、コンクリート製容器内のベントナイト粉末の層に放射性物質を吸着させてコンクリート製容器内部から外部へ放射性物質が漏れることを抑制できる。
【0004】
一方、液体の放射性物質含有物は、固体の放射性物質含有物以上に周囲に流出しやすく、取り扱いにより注意を要する。このような液体の放射性物質含有物、例えば、放射性物質により汚染された水(以下、放射性物質汚染水ともいう。)は、貯蔵タンクに密閉されて保管されているが、貯蔵タンクは保管場所として広いスペースが必要であり、保管場所が不足するという問題がある。さらに、貯蔵タンク内に長期間保管した場合、貯蔵タンクの劣化により内部から汚染水が流出するおそれもあり、安全に保管できるような放射性物質汚染水の処理方法が要望されている。
【0005】
放射性物質汚染水の処理方法としては、例えば、特許文献4に、粘土鉱物を表面及び内部に散在させた多孔質粒子に、放射性物質汚染水を接触させることで汚染水中の放射性物質を多孔質粒子に吸着させて除去することが記載されている。
しかし、特許文献4に記載の方法で処理した後の多孔質粒子には、放射性物質汚染水中の放射性物質が吸着されており、かかる多孔質粒子から放射性物質が飛散しやすく、処理後の処理物である該多孔質粒子の取り扱いが煩雑であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−79810号公報
【特許文献2】特開平9−211194号公報
【特許文献3】特開2013−101094号公報
【特許文献4】特開2013−68438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題を鑑みて、放射性物質汚染水を安全に処理することができ、且つ処理後に発生する処理物の取り扱いが容易である放射性物質汚染水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る放射性物質汚染水の処理方法は、
放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得る膨潤化工程と、
前記膨潤液と、水硬性材料の水溶液とを混合して混合物を得る混合工程とを備える。
【0009】
本発明によれば、放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得る膨潤化工程を実施することで、粘土鉱物に放射線物質汚染水を保持させて放射性物質を外部に流出しにくい状態の膨潤液とすることができる。よって、放射性物質汚染水を安全に処理することができる。
さらに、前記膨潤液と、水硬性材料の水溶液とを混合して混合物を得る混合工程とを備えるため、前記粘土鉱物と水硬性材料とが反応して可塑性を有する固体状の混合物が得られる。かかる混合物は、固体状であるため液体のように周囲に流出しにくく、また、放射性物質が前記粘土鉱物に保持されているため周囲に飛散しにくい。さらに、混合物は可塑性を有する固体状であるため、保管場所に合わせた形状にすることができ保管スペースを確保しやすい。よって、処理後に発生する混合物の取り扱いが容易である。
【0010】
本発明において、水硬性材料と放射性物質汚染水とを混合して水硬性材料の水溶液を得る水硬性水溶液作製工程を備えていてもよい。
【0011】
水硬性材料と放射性物質汚染水とを混合して水硬性材料の水溶液を得る水硬性水溶液作製工程を備えている場合には、前記水硬性材料の水溶液にも放射性物質汚染水を用いることで、より多くの放射性物質汚染水を処理することができる。
【0012】
本発明において、前記混合物を硬化させる硬化工程を備えていてもよい。
【0013】
前記混合物を硬化させる硬化工程を備えている場合には、前記混合物を所望の容器や保管場所で硬化させることで、放射性物質の飛散をより抑制しにくくすることができる。
【0014】
本発明において、前記硬化させた混合物を乾燥させる乾燥工程を備えていてもよい。
【0015】
前記硬化させた混合物を、乾燥させる乾燥工程を備えている場合には、混合物を乾燥させることで体積を減少させることができ、保管スペースをより確保しやすくなり、より容易に混合物を取り扱うことができる。
【0016】
本発明において、前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液とを別々に前記混合工程を実施する混合現場まで移送する移送工程を備えていてもよい。
【0017】
前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液とを別々に、前記混合工程を実施する混合現場まで移送する移送工程を備えている場合には、放射性物質汚染水を処理する場所と、処理後の前記混合物を保管する場所とが離れている場合にも、放射性物質汚染水を放射性物質が外部に流出しにくい膨潤液として混合現場付近まで安全に移送して、混合現場まで移送することができる。
【0018】
前記移送工程において、前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液とを前記混合現場まで圧送してもよい。
【0019】
前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液とを前記混合現場まで圧送した場合には、前記膨潤液及び前記水硬性材料の水溶液をより容易に前記混合現場まで移送することができる。
【0020】
本発明において、前記粘土鉱物は、モンモリロナイトを含む粘土鉱物であってもよい。
【0021】
前記粘土鉱物は、モンモリロナイトを含む粘土鉱物である場合には、多量の水を吸収でき、且つ、放射性物質を吸着することができる。よって、放射性物質汚染水を多量に且つ安全に膨潤液に含有させることができる。
【0022】
本発明において、前記水硬性材料は、セメント、高炉スラグ、石膏及び石灰からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0023】
前記水硬性材料は、セメント、高炉スラグ、石膏及び石灰からなる群から選択される少なくとも一種である場合には、前記粘土鉱物と混合した場合に適度な可塑性を有する混合物が得られる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、放射性物質汚染水を安全に処理することができ、且つ処理後に発生する処理物の取り扱いが容易である放射性物質汚染水の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る放射性物質汚染水の処理方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法は、
放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得る膨潤化工程と、
前記膨潤液と、水硬性材料の水溶液とを混合して混合物を得る混合工程とを備える。
【0026】
(膨潤化工程)
前記膨潤化工程においては、放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得る。
本実施形態の処理方法の処理の対象である放射性物質汚染水は、例えば、原子力発電所から排出、放出される放射性物質で汚染された汚染水である。
放射性物質には、放射性元素、その化合物、それらと他の有機物又は無機物が結合又は混合された放射性を有する物質が含まれる。
前記放射性物質汚染水に含まれる放射性物質としては、放射性を有するセシウム134、137、ストロンチウム90、ヨウ素131等を含むものが挙げられる。
【0027】
前記粘土鉱物としては、水分を吸収し、膨潤性を有するものであれば特に限定されるものではない。
例えば、前記粘土鉱物としてはモンモリロナイト、アタパルジャイト、メタカオリン等を含む鉱物が挙げられる。
前記粘土鉱物の中でも、流動性が高く、且つ膨潤性(水を吸収できる性能)が高いため、モンモリロナイトを含む粘土鉱物が好ましい。
尚、本実施形態でいう膨潤液とは、粘土鉱物の乾燥重量100重量部に対して水300重量部〜1000重量部程度吸収している状態の液体をいう。
また、本実施形態において、膨潤性を有するとは、日本ベントナイト工業会 ベントナイト(粉状)の膨潤度試験方法(JBAS−104)によって求められる膨潤度が5ml/2g以上であることをいう。
【0028】
モンモリロナイトを含む粘土鉱物としては、ベントナイトが挙げられる。ベントナイトは多量の水を吸収することから膨潤性が高く、且つ、放射性物質を吸着することができるため好ましい。
また、ベントナイトと水とが混合された膨潤液は流動性を有する液体であるが、カルシウムイオンと接すると、極めて短時間で可塑性を有する固体に変化する性質がある。
従って、ベントナイトを粘土鉱物として用いた場合には、後述する混合工程において水硬性材料の水溶液と混合するまでは、高い流動性を維持し、混合工程において水硬性材料の水溶液と混合されることで短時間で可塑性を有する混合物が得られる。
【0029】
前記粘土鉱物は、水分を吸収しやすいため、粉末状であることが好ましく、例えば、ブレーン値5000〜30000cm2/g、好ましくは15000〜30000cm2/g程度である。
【0030】
膨潤化工程において、放射性物質汚染水と粘土鉱物との混合割合は、特に限定されるものではない。
例えば、放射性物質汚染水と粘土鉱物とが、粘土鉱物100重量部に対して放射性物質汚染水300〜1000重量部、好ましくは600〜1000重量部になるように混合されることが好ましい。
膨潤液における粘土鉱物の割合が前記範囲である場合には、放射性物質汚染水を十分に粘土鉱物に吸収させることができる。
粘土鉱物がベントナイトである場合には、例えば、ベントナイトの乾燥重量100重量部に対して水300〜1000重量部、好ましくは600〜1000重量部程度である。
膨潤液におけるベントナイトの割合が前記範囲である場合には、放射性物質汚染水を十分にベントナイトに吸収させると同時に、ベントナイト中に放射性物質を吸着させることができ、より放射性物質が周囲に飛散することを抑制できる。
さらに、後述する移送工程を実施する場合には、ベントナイトの乾燥重量100重量部に対して水600〜1000重量部、好ましくは800〜1000重量部程度にすることが好ましい。かかる割合にすることで、放射性物質が周囲に飛散しにくく、且つ移送時に適度に流動性を有して移送しやすい膨潤液が得られる。
【0031】
膨潤化工程において、放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、モルタルミキサー等の公知の混合装置を用いて混合する方法が挙げられる。
混合条件は、特に限定されるものではないが、例えば、5℃〜35℃程度、混合時間は混合装置、混合量によって変化するが概ね5分〜30分程度等の混合条件が挙げられる。
【0032】
(水硬性水溶液作製工程)
本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法では、水硬性材料と放射性物質汚染水とを混合して水硬性材料の水溶液を得る水硬性水溶液作製工程を備える。
尚、本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法において、前記膨潤化工程で得られた膨潤液と混合する水硬性材料の水溶液は、予め作製してもよく、あるいは、後述する混合工程において、膨潤液と混合する際に作製してもよい。
つまり、水硬性水溶液作製工程は、前記膨潤化工程と並行して実施されてもよく、膨潤化工程より前に実施されてもよく、あるいは、膨潤化工程より後に実施されてもよい。
【0033】
本実施形態において、前記水硬性材料は、セメント、高炉スラグ、石膏及び石灰からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
これらの水硬性材料の水溶液は、前記粘土鉱物と混合されることで、適度に可塑性を有する混合物が得られる。
中でも、前記水硬性材料としてセメントを用いることが好ましい。水硬性材料としてセメントを用いる場合には、セメントと水とを混合するだけで、水硬性材料の水溶液が容易に作製できる。また、セメントミルクは、前記膨潤液と混合することで適度に可塑性を有する混合物が得られ、さらに、その後混合物を硬化させる場合にも容易に硬化させることができる。
【0034】
前記水硬性材料として高炉スラグ、石膏、石灰を用いる場合には、高炉スラグに、石膏又は/および石灰を併用することが好ましい。
高炉スラグを、石膏又は/および石灰を併用した場合には、前記膨潤液と混合することで適度に可塑性を有する混合物が得られ、さらに、その後混合物を硬化させる場合にも容易に硬化させることができる。
【0035】
前記高炉スラグと、石膏、石灰との混合割合は、特に制限されるものではないが、例えば、高炉スラグ:石膏=70:30〜95:5(重量部比率)程度、高炉スラグ:石灰(消石灰の場合)70:30〜95:5(重量部比率)程度である。
【0036】
前記セメントとしては、特に制限されるものではなく、各種のものを使用できる。
例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;白色ポルトランド等のポルトランドセメントの成分等を調整したもの;高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメント;アルミナセメント、アーウィン系セメント等;低熱セメント、超速硬セメント等が挙げられる。
【0037】
前記高炉スラグとしては、特に制限されるものではなく、例えば、JIS A 5011−1「コンクリート用スラグ骨材 第1部:高炉スラグ骨材」に適合する高炉スラグ粗骨材(粒径の範囲=5mm〜40mm)および高炉スラグ細骨材(粒径の範囲=5mm未満)を分級又は/および粉砕したもの等が挙げられる。
【0038】
前記石膏としては、特に制限されるものではなく、例えば、無水石膏、二水石膏、半水石膏等の一般的な工業用石膏、天然品、副生品(排煙脱硫時の副生石膏、ふっ酸製造時の副生石膏、りん酸製造時の副生石膏、酸化チタン製造時の副生石膏等)等が挙げられる。
【0039】
石灰としては、特に制限されるものではなく、例えば、JIS R 9001「工業用石灰」に適合する生石灰、特号消石灰、1号消石灰、2号消石灰等が挙げられる。
【0040】
水硬性材料の水溶液は、前記膨潤液と混合することで、膨潤液中の粘土鉱物と水硬性材料中のカルシウムイオンとが反応し可塑性を有する混合物が得られるような水硬性材料の割合であることが好ましい。
例えば、水硬性材料がセメントであって水硬性材料の水溶液としてセメントミルクを作製する場合には、セメント100重量部に対して、水30重量部〜200重量部、好ましくは40重量部〜60重量部程度である。
セメントミルクにおけるセメントの割合が前記範囲である場合には、後述する混合工程において、適度な可塑性を有する混合物を得ることができるため好ましい。
【0041】
水硬性材料として、前記高炉スラグ、石膏、石灰を混合して用いる場合には、その水溶液の配合は、例えば、水硬性材料の合計量100重量部に対して、水40重量部〜200重量部、好ましくは50重量部〜100重量部程度である。
水硬性材料の水溶液における水硬性材料の割合が前記範囲である場合には、適度な流動性を有する水硬性材料の水溶液を得ることができるため好ましい。
【0042】
水硬性水溶液作製工程において、水硬性材料と水とを混合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、モルタルミキサー等の公知の混合装置を用いて混合する方法が挙げられる。
混合条件は、特に限定されるものではないが、例えば、5℃〜35℃程度、混合時間は混合装置、混合量によって変化するが概ね5分〜30分程度等の混合条件が挙げられる。
【0043】
上記のような水硬性材料作製工程を実施する場合には、水硬性材料の水溶液の材料としても放射性物質汚染水を使用することができ、より多くの放射性物質汚染水を処理することができるため好ましい。
【0044】
尚、本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法において、水硬性材料と通常の水とを混合した水硬性水溶液であってもよい。
【0045】
(移送工程)
本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法において、前記膨潤化工程と前記混合工程とは同じ場所で実施してもよく、あるいは、膨潤化工程と混合工程とは別の場所で実施してもよい。
膨潤化工程と混合工程とを別の場所で実施する場合には、前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液とを別々に前記混合工程を実施する混合現場まで移送する移送工程を備えていてもよい。
【0046】
本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法において、前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液とを前記混合現場まで圧送する。
膨潤液と水硬性材料の水溶液とを別々の圧力ホース等の圧送手段を用いて、前記混合現場まで移送する。
前記膨潤液は、水硬性材料の水溶液と混合するまでは流動性を有しているため、ホース内で詰まることなく、圧送することができる。
圧送により移送することで、前記膨潤液及び前記水硬性材料の水溶液をより容易に前記混合現場まで移送することができる。
【0047】
尚、移送工程において、前記膨潤液と前記水硬性材料の水溶液と混合現場まで移送する方法は圧送することには限定されない。
例えば、前記膨潤液と、水硬性材料の水溶液とをそれぞれアジテーター車等で混合現場まで移送すること等が挙げられる。
【0048】
移送工程を実施することで、例えば、放射性物質汚染水が発生する場所等と、処理後の混合物を保管する場所とが離れている場合にも、放射性物質を周囲へ飛散させることを抑制することができる。
すなわち、放射性物質汚染水の発生する場所の付近で前記膨潤化工程を実施して、放射性物質が飛散しにくい膨潤液を得てから、該膨潤液を混合物を保管する場所の付近まで移送して、該保管する場所付近で混合工程を実施することができる。
【0049】
尚、移送工程を実施することには限定されるものではなく、膨潤化工程及び後述する混合工程を、混合物を保管する場所付近で実施してもよい。
あるいは、膨潤化工程及び混合工程を同じ場所で実施し、得られた混合物を保管する場所付近まで移送してもよい。
【0050】
(混合工程)
前記膨潤液と、水硬性材料の水溶液とを混合して混合物を得る混合工程を実施する。
本実施形態では、前記圧送工程を実施することによって、膨潤液または水硬性材料の水溶液を作製した作製場所とは相違する場所で混合工程を実施する。
【0051】
混合工程において、混合される膨潤液と水硬性材料の水溶液との混合比は、特に限定されるものではなく、所望の可塑性を有する混合物が得られるように適宜調整することができる。
例えば、体積比で膨潤液100に対して、水硬性材料の水溶液20〜100、好ましくは25〜50程度である。
かかる膨潤液と水硬性材料の水溶液との混合比の範囲であれば、適度な可塑性を有する混合物が得られるため好ましい。
【0052】
混合工程において、膨潤液と水硬性材料の水溶液とを混合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スタティックミキサー等の公知の混合装置を用いて混合する方法が挙げられる。
混合条件は、特に限定されるものではないが、例えば、5℃〜35℃程度、混合時間は混合装置、混合量によって変化するが概ね3分以下程度等の混合条件が挙げられる。
【0053】
前記粘土鉱物としてベントナイトを用いた場合には、膨潤液中のベントナイトと水硬性材料の水溶液に含まれるカルシウムイオンとが、極めて短時間、例えば、3秒〜20秒程度で反応して、混合物が得られ、混合工程が短時間で実施できる。
【0054】
尚、本実施形態で得られる混合物は、通常の状態では変形しない程度の固体状であって、力を加えると容易に変形可能な程度の可塑性を有することが好ましい。このような混合物は、固体状であるため液体のように周囲に流出しにくく、また、放射性物質が粘土鉱物に保持されているため周囲に飛散しにくく安全に保管することができる。
さらに、可塑性を有する固体状の混合物であるため、保管場所に合わせた形状にすることができ保管スペースを確保しやすい。
よって、例えば、混合物をそのまま保管用の容器に充填して保管してもよい。かかる場合、放射性物質は粘土鉱物に吸着され且つ容器外に流出しにくい固体の混合物中に存在しているため、容器の密閉性が比較的低い場合でも、放射性物質が流出するおそれが低い。
【0055】
(硬化工程)
本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法において、混合物を硬化させる硬化工程を実施してもよい。
前記混合物を所望の容器や保管場所等の任意の保管場所で硬化させることで、放射性物質の飛散をより抑制して安全に混合物を保管することができる。
【0056】
混合物には水硬性材料が含まれているため、適切な硬化条件で混合物を硬化させて硬化物とすることができる。
硬化物の硬さは目的に応じて、前記混合工程における膨潤液と水硬性材料の水溶液との混合割合を調整することで容易に調整することができる。
例えば、硬化後、必要に応じて容易に粉砕可能な程度に硬化させておくことで、硬化物をさらに別の処理に付すことが容易にできる。
硬化物を容易に粉砕可能な程度に硬化させる場合であって、前記水硬性材料がセメントである場合、硬化物中のセメントの量が150kg/m3〜500kg/m3程度であることが好ましい。
【0057】
前記硬化物は、例えば、混合物を容器に充填してから硬化させることで得てもよく、あるいは、地下等に形成された孔の内部に充填してから硬化させてもよい。
【0058】
尚、本実施形態において、前記硬化工程とは、例えば、硬化物の強度が0.1N/mm2程度以上になるまで、混合物を硬化させることが挙げられる。
前記強度とはJIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に従い測定された一軸圧縮強度をいう。
【0059】
(乾燥工程)
本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法において、前記硬化させた混合物(硬化物)を、乾燥させる乾燥工程を実施してもよい。
前記硬化物を乾燥させる乾燥工程を備えている場合には、硬化物を乾燥させることで体積を減少させることができ、保管スペースをより確保しやすくなり、より容易に硬化物を取り扱うことができる。
【0060】
硬化物の乾燥方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、40℃〜90℃程度または、室温(屋外)にて、12時間〜7日程度、静置して、乾燥させる方法等が挙げられる。
【0061】
尚、本実施形態において、前記乾燥工程とは、混合物の重量が混合工程を実施した直後、すなわち混合直後の重量の50%〜90%程度になるまで、乾燥させることをいう。
【0062】
本実施形態の放射性物質汚染水の処理方法において、前記硬化工程および乾燥工程は同時に実施してもよく、硬化工程が終了した直後から連続して乾燥工程を実施してもよく、あるいは硬化工程の実施後に所定時間経過してから乾燥工程を実施してもよい。
硬化工程および乾燥工程を同時に実施する場合とは、例えば、前記混合工程を実施した直後の混合物を、前記一軸圧縮強度になるように、且つ、混合物の重量が混合直後の重量に対して前記重量の範囲になる条件で静置して、硬化および乾燥を行なうことが挙げられる。
【0063】
本実施形態にかかる放射性物質汚染水の処理方法は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。