【解決手段】発泡ポリウレタン製の研磨面を有する研磨パッドを前処理する工程Cと、該研磨パッドを備える研磨装置に研磨用組成物を供給して該研磨パッドにより基板を研磨する工程Dと、を含む基板製造方法が提供される。上記工程Cは、上記研磨面を磨耗処理する工程C1と、その磨耗処理後の研磨パッドに対して上記研磨面からの溶出物量を低減させる処理を施す工程C2とを含む。上記工程C2は、上記研磨面の水抽出液の電気伝導度σ
前記溶出物量低減処理工程C2は、前記磨耗処理工程C1を経た研磨パッドの研磨面に水を供給して該研磨面から溶出物を抽出する処理を含む、請求項1または2に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0013】
<研磨パッド>
ここに開示される方法に用いられる研磨パッドは、少なくとも研磨面に発泡ポリウレタンを有するものであれば特に限定されず、例えば、全体が発泡ポリウレタンにより構成されている研磨パッド、発泡ポリウレタンの層が不織布等のパッド基材に支持された研磨パッド等であり得る。研磨面を構成する発泡ポリウレタンとしては、典型的には、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の発泡体が用いられる。
【0014】
発泡ポリウレタン(典型的には、湿式成膜法により製造された発泡ポリウレタン)の製造においては、発泡剤、発泡助剤、整泡剤、成膜助剤等の目的で界面活性剤が使用され得る。したがって、上記研磨面の水抽出液には、該研磨面からの溶出物として、発泡ポリウレタンの製造過程で使用された界面活性剤が含有され得る。
【0015】
上記界面活性剤として、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンエチレンオキシドポリオキシド化合物等のポリオキシアルキレン付加物;複数種のオキシアルキレンの共重合体(ジブロック型、トリブロック型、ランダム型、交互型);等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。上記パッド流出成分に含まれ得る界面活性剤の他の例として、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の代表例として、ポリオキシアルキレン・ジメチルシロキサンコポリマー、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・ジメチルシロキサンコポリマー等のようなポリエーテル変性シリコーンが挙げられる。研磨面を構成する発泡ポリウレタンは、このような界面活性剤の1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて含有し得る。界面活性剤の使用量は、研磨パッド用発泡ポリウレタン(典型的には軟質発泡ポリウレタン)の製造における通常の使用量と同程度であり得る。
【0016】
<前処理工程C>
研磨パッドを前処理する工程Cは、典型的には、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態で行われる。研磨装置としては、研磨パッドを用いる研磨の分野において公知の各種片面研磨装置、両面研磨装置等を用いることができ、特に限定されない。前処理工程Cは、このような研磨装置の定盤に研磨パッドが、例えば接着剤を用いて固定された状態で好ましく実施され得る。研磨パッドの研磨面には、研磨装置に装着される前にバフ処理が施されていてもよく、バフ処理が施されていなくてもよい。ここに開示される技術は、例えば、バフ処理が施されていない研磨パッドを研磨装置に装着して前処理工程Cを行う態様で好ましく実施され得る。
【0017】
前処理工程Cは、磨耗処理工程C1と溶出物量低減処理工程C2とを含み得る。
磨耗処理工程C1は、研磨装置に装着されている研磨パッドにドレッシング処理を施す工程であり得る。研磨パッドのドレッシング処理は、公知の材料や条件を適用して行うことができる。好ましい一態様では、磨耗処理工程C1において、研磨装置の定盤に固定されている研磨パッドに対し、アルミニウム等の金属からなる基材の表面に電着または焼結によりダイヤモンド粉末を固定させたパッドコンディショナー(パッドドレッサーとも呼ぶ。)を用いて研磨パッドの表層を削り取るダイヤモンドドレッシングを行う。ダイヤモンドドレッシングは、典型的には、上記研磨パッドの表層を、2μm以上の深さまで削り取るか、あるいは研磨パッドの発泡部分(気泡)が2μm以上、通常は5μm以上の平均開口径で表面に現れるまで削り取るように行われる。このとき、例えば1〜1.5L/分程度のレートで水を供給するとよい。
【0018】
溶出物量低減処理工程C2は、研磨パッドの研磨面から溶出する成分(溶出物)の量を低減し得る処理を含む工程であればよく、特に限定されない。かかる処理の好適例として、磨耗処理工程C1を経た研磨パッドの研磨面に水を供給して該研磨面から溶出物を抽出する(洗い出す)処理が挙げられる。水としては、イオン交換水、蒸留水、純水等を用いることができる。研磨面への水の供給は、例えば、該研磨面に水(例えば、高圧ジェット水流)を吹き付けることにより行うことができる。また、研磨装置に水を供給しながら研磨面をダミー基板に押し付けて互いに回転させる、いわゆるダミー研磨により研磨面に水を供給してもよい。これらの処理は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて適用することができる。処理効率の観点から、研磨面に水を吹き付ける処理を好ましく採用し得る。
【0019】
溶出物量低減処理工程C2は、上記研磨面の水抽出液の電気伝導度σ
1と当該抽出に使用される水の電気伝導度σ
Wとの差として求められる電気伝導度差σ
Dが、予め設定した目標値をクリアするように行うことができる。電気伝導度差σ
Dの目標値は、例えば、基板研磨工程Dに使用する研磨用組成物の組成やpH、研磨圧力その他の研磨条件、研磨対象物および目標とする表面品質等に応じて、適宜設定することができる。
特に限定するものではないが、一例として、溶出物量低減処理工程C2は、上記電気伝導度差σ
Dが5μS/cm以下となるように行うことができる。電気伝導度差σ
Dの下限は特に限定されない。製造効率との兼ね合いから、通常は、上記目標値(電気伝導度差σ
D)を0.5μS/cm以上、例えば1μS/cm以上の値に設定することが適当である。
【0020】
電気伝導度σ
W,σ
1の測定は、常法により行うことができる。測定機器としては、例えば、堀場製作所製の導電率計(型式「DS−12」、使用電極「3552−10D」)を使用することができる。
電気伝導度σ
1の測定に使用する測定サンプルとしては、例えば、研磨パッドの研磨面2792cm
2を1Lの水で抽出して取得される水抽出液を用いることができる。水としては、イオン交換水、蒸留水、純水等を用いることができる。
【0021】
また、ここに開示される方法は、例えば、研磨パッドを研磨装置に装着する前に前処理工程Cを行い、その前処理工程Cを経た研磨パッドを研磨装置に装着して基板研磨工程Dを行う態様で実施することも可能である。
【0022】
<基板研磨工程D>
基板研磨工程Dでは、研磨装置に研磨用組成物を供給して、上記前処理工程Cを経た研磨パッドにより基板を研磨する。上記研磨用組成物は、典型的には、少なくとも砥粒および水を含む。研磨装置に供給される研磨組成物は、当初の研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)やpH調整等の操作を加えて調製された研磨液であり得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として用いてもよい。
【0023】
上記研磨液を研磨装置に供給し、常法により基板を研磨する。例えば、前処理工程Cを経た研磨パッドが装着された研磨装置に研磨対象(被研磨物)としての基板をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記被研磨物の表面(被研磨面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、被研磨物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て被研磨物の研磨が完了する。
【0024】
<用途>
ここに開示される基板製造方法の適用対象(製造目的物)は特に限定されない。例えば、磁気ディスク基板や、シリコンウエハ等の半導体基板のように、高精度な表面が要求される各種基板の製造に適用され得る。好ましい適用対象として、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板(Ni−P基板)が例示される。上記基材ディスクは、例えば、アルミニウム合金製、ガラス製、ガラス状カーボン製等であり得る。このような基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。なかでも好ましい適用対象として、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するNi−P基板が挙げられる。
【0025】
以下、上記基板研磨工程Dにおいて好ましく使用し得る研磨用組成物につき説明するが、ここに開示される方法に使用する研磨用組成物を限定する意図ではない。
【0026】
ここに開示される基板製造方法において用いられる研磨用組成物は、典型的には、砥粒および水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水、純水等を用いることができる。
【0027】
<砥粒>
砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。
砥粒の好適例としては、コロイダルシリカ砥粒、ヒュームドシリカ砥粒、沈降性シリカ砥粒等のシリカ砥粒が挙げられる。また、砥粒はシリカ以外の材質からなる砥粒(以下、非シリカ砥粒ともいう。)であってもよい。非シリカ砥粒の具体例としては、アルミナ砥粒、チタニア砥粒、ジルコニア砥粒、セリア砥粒等の金属酸化物砥粒や、ポリアクリル酸等の樹脂砥粒が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。なかでもシリカ砥粒が好ましく、そのなかでもコロイダルシリカ砥粒、ヒュームドシリカ砥粒が特に好ましい。
【0028】
砥粒の平均一次粒子径は、典型的には5nm以上、好ましくは10nm以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。
砥粒の平均一次粒子径の上限は特に限定されない。より平滑性の高い表面を得る観点から、平均一次粒子径は、典型的には300nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。例えば、一次研磨を終えたNi−P基板を研磨する用途向けの研磨用組成物において、上記の平均一次粒子径を有する砥粒を好ましく採用し得る。
【0029】
砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法により測定される比表面積S(m
2/g)から平均一次粒子径(nm)=2727/Sの式により算出することができる。砥粒の比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0030】
研磨用組成物中における砥粒の平均二次粒子径は、典型的には10nm以上であり、通常は20nm超、好ましくは30nm超、より好ましくは40nm超、さらに好ましくは50nm超である。平均二次粒子径の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。
砥粒の平均二次粒子径の上限は特に限定されず、例えば1μm以下であり得る。分散安定性等の観点から、平均二次粒子径は、通常は500nm以下が適当であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは110nm以下、特に好ましくは70nm以下である。さらに高品位の表面を得る観点から、平均二次粒子径は、例えば55nm以下であってもよい。
【0031】
この明細書において、砥粒の平均二次粒子径とは、超音波方式で測定される粒度分布における体積基準の平均粒子径(mean particle diameter)をいう。平均二次粒子径は、例えば、日本ルフト社製の超音波方式粒度分布・ゼータ電位測定装置(商品名「DT−1200」)を用いて測定することができる。
【0032】
研磨用組成物中における砥粒の含有量(すなわち、研磨用組成物の砥粒濃度)は、特に制限されない。研磨用組成物の砥粒濃度は、例えば30重量%以下とすることができ、通常は20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。また、研磨用組成物の砥粒濃度は、1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは3重量%以上である。砥粒濃度が低すぎると、物理的な研磨作用が小さくなり、研磨速度が低下するため、実用上好ましくない場合がある。
上記砥粒濃度は、被研磨物に供給される研磨液の砥粒濃度にも好ましく適用され得る。
【0033】
<酸または塩>
研磨用組成物は、砥粒および水の他に、研磨促進剤として、酸または塩を含有することが好ましい。ここで、酸または塩を含むとは、酸および塩の少なくとも一方を含むことを指し、酸を含み塩を含まない態様、塩を含み酸を含まない態様、および酸と塩の両方を含む態様、のいずれをも包含する意味である。
【0034】
酸の例としては、無機酸や有機酸(例えば、炭素原子数が1〜10程度の有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸等)が挙げられるが、これらに限定されない。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
無機酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、フッ化水素酸等が挙げられる。
有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、クロトン酸、ニコチン酸、酢酸、アジピン酸、ギ酸、シュウ酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ニコチン酸、ピコリン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタンヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0035】
研磨用組成物中に酸を含む場合、その含有量は、0.1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上である。酸の含有量が少なすぎると、研磨速度が低下し、実用上好ましくない場合がある。
また、研磨用組成物中に酸を含む場合、その含有量は、10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下である。酸の含有量が多すぎると、研磨対象物の表面精度が悪くなり、実用上好ましくない場合がある。
【0036】
塩の例としては、前述した無機酸または有機酸の、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の金属塩、例えばアルカリ金属塩;アンモニウム塩、例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;等が挙げられる。塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金蔵リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。例えば、L−グルタミン酸二酢酸四ナトリウムを好ましく使用し得る。塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
研磨用組成物中に塩を含む場合、その含有量は、0.1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上である。酸の含有量が少なすぎると、研磨速度が低下し、実用上好ましくない場合がある。
また、研磨用組成物中に酸を含む場合、その含有量は、10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは7重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。酸の含有量が多すぎると、研磨対象物の表面精度が悪くなり、実用上好ましくない場合がある。
【0038】
このような酸または塩は、典型的には後述する酸化剤と合わせて用いられることにより、研磨促進剤として効果的に作用し得る。研磨効率の観点から好ましい酸として、メタンスルホン酸、硫酸、硝酸、リン酸、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸等が例示される。なかでも好ましい酸として、メタンスルホン酸、クエン酸およびリン酸が挙げられる。研磨効率の観点から好ましい塩として、リン酸塩やリン酸水素塩、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0039】
<酸化剤>
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒および水の他に、研磨促進剤として、酸化剤を含有することが好ましい。
【0040】
酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
【0041】
研磨用組成物中に酸化剤を含む場合、その含有量は、0.1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.3重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、例えば0.6重量%以上である。酸化剤の含有量が少なすぎると、研磨対象物を酸化する速度が遅くなり、研磨速度が低下するため、実用上好ましくない場合がある。
また、研磨用組成物中に酸化剤を含む場合、その含有量は、3重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5重量%以下である。酸化剤の含有量が多すぎると、研磨対象物の表面精度が悪くなり、実用上好ましくない場合がある。
【0042】
<塩基性化合物>
研磨用組成物には、塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン、リン酸塩やリン酸水素塩、有機酸塩等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類、等が挙げられる。
リン酸塩やリン酸水素塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0044】
<アニオン性界面活性剤>
研磨用組成物は、分散安定性向上等の目的で、アニオン性界面活性剤を含んでいてもよい。アニオン性界面活性剤としては、例えば、スルホン酸系のアニオン性界面活性剤を好ましく使用し得る。ここでいうスルホン酸系アニオン性界面活性剤の概念には、スルホン酸系化合物およびその塩が包含される。スルホン酸塩化合物の例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸等が挙げられる。このようなスルホン酸系化合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。スルホン酸系化合物塩の一好適例として、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩が挙げられる。
スルホン酸系のアニオン性界面活性剤のなかでも、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレンスルホン酸系化合物およびその塩が好ましい。
【0045】
アニオン性界面活性剤の他の例として、ポリアクリル酸およびその塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩)等のポリアクリル酸系アニオン性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤のさらに他の例として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0046】
アニオン性界面活性剤を含む態様の研磨用組成物では、アニオン性界面活性剤の含有量を、例えば0.001重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.02重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは5重量%以下、例えば1重量%以下である。
【0047】
<その他の成分>
研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤や防腐剤等の、研磨用組成物(典型的には、Ni−P基板等のような磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0048】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸およびα−メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0049】
上述のような研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で被研磨物(磁気ディスク基板)に供給されて、該被研磨物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、研磨用組成物を希釈して調製されたものであり得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、被研磨物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液との双方が包含される。
【0050】
研磨用組成物は、被研磨物に供給される前には濃縮された形態(濃縮液の形態)であってもよい。かかる濃縮液の形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば1.5倍〜50倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、通常は、2倍〜20倍(典型的には2倍〜10倍)程度の濃縮倍率が適当である。
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を被研磨物に供給する態様で好適に使用することができる。
【0051】
研磨用組成物のpHは特に限定されない。例えば、研磨レートや表面平滑性等の観点から、pH4以下が好ましく、pH3以下がより好ましい。研磨液において上記pHが実現されるように、必要に応じて有機酸、無機酸等のpH調整剤を含有させることができる。上記pHは、例えば、Ni−Pの研磨に用いられる研磨液に好ましく適用され得る。
【0052】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0053】
<実施例1>
[研磨パッド]
ノニオン性の界面活性剤を用いて湿式成膜法により作製された発泡ポリウレタンを研磨面に有する研磨パッドを用意した。上記研磨パッドのサイズは、外径640mm、内径232mmのドーナツ盤状であり、したがって研磨面の面積は2792cm
2である。上記研磨パッド2枚を、両面研磨装置(スピードファム社製「9B−5P」)の定盤に固定した。そして、1〜1.5L/分のレートでイオン交換水を供給しながら、研磨面のダイヤモンドドレッシングを行った。
次いで、上記研磨パッドが引き続き定盤に固定された状態で、該研磨パッドの研磨面に高圧ジェット水流を吹き付けて洗浄した。より詳しくは、研磨パッド1枚当たり1リットル(すなわち、研磨面2792cm
2当たり1リットル)のイオン交換水を、3MPa〜10MPaの水圧にて、1L/minの供給レートで上記研磨面に1分間ノズルから吹き付ける操作を1回として、この操作を8回連続して行った。8回目の洗浄に使用したイオン交換水の排水1Lを採取し、これを本例における研磨面の水抽出液とした。この水抽出液の電気伝導度σ
1と、使用したイオン交換水の電気伝導度σ
Wとから算出した電気伝導度差σ
D(σ
1−σ
W)は、3.4μS/cmであった。ここで、電気伝導度σ
1,σ
Wの測定は、堀場製作所製の導電率計(型式「DS−12」、使用電極「3552−10D」)により行った。
【0054】
上記洗浄後の研磨パッドが引き続き定盤に固定された状態にある両面研磨装置に、被研磨基板をセットした。被研磨基板としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えた直径3.5インチ(約95mm)、厚さ1.27mmのハードディスク用アルミニウム基板を、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS−3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の値が6Åとなるように予備研磨したものを使用した。
【0055】
上記両面研磨装置にセットされた被研磨基板を以下の条件で研磨した。
[研磨条件]
研磨荷重:120g/cm
2
基板装填枚数:2枚/キャリア×4キャリア(計8枚)
下定盤回転数:60rpm
研磨液の供給レート:83mL/分
研磨時間:5分
リンス:イオン交換水(1〜1.5L/分)
【0056】
研磨液としては、以下のようにして調製した研磨用組成物をそのまま使用した。
すなわち、砥粒、リン酸、リン酸水素二カリウム、31%過酸化水素水、アニオン性界面活性剤およびイオン交換水を混合して、砥粒濃度6%、過酸化水素(H
2O
2)濃度0.6%、アニオン性界面活性剤濃度0.04%、pH2.0の研磨用組成物を調製した。砥粒としては、平均一次粒子径23nm、平均二次粒子径28nmのコロイダルシリカを使用した。上記平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定されたものである。また、上記平均二次粒子径は、日本ルフト社製の超音波方式粒度分布・ゼータ電位測定装置(商品名「DT−1200」)を用いて測定されたものである。アニオン性界面活性剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩を使用した。リン酸およびリン酸水素二カリウムの使用量は、研磨用組成物のpHが上記の値となるように設定した。なお、この研磨用組成物の電気伝導度を上記導電率計により測定したところ、13mS/cmであった。
【0057】
<比較例1>
実施例1において、研磨面にイオン交換水を吹き付けて洗浄する回数を、8回から2回に変更した。2回目の洗浄に使用したイオン交換水の排水1Lを採取し、これを本例における研磨面の水抽出液とした。この水抽出液の電気伝導度σ
1と、使用したイオン交換水の電気伝導度σ
Wとから上記と同様にして算出した電気伝導度差σ
Dは、6.0μS/cmであった。
上記洗浄後の研磨パッドが定盤に固定された両面研磨装置に被研磨基板をセットし、実施例1と同様にして該被研磨基板を研磨した。
【0058】
<評価>
[スクラッチ数評価]
実施例1および比較例1により得られた研磨後の基板について、以下の条件で表面のスクラッチ数をカウントした。
(測定条件)
測定器:ケーエルエー・テンコール社製の表面検査装置「Candela OSA6100」
測定範囲:半径位置 20mm〜45mm
検出器チャンネル:P−Sc(Radial & Circumferential laser)
【0059】
その結果を以下の2水準で表1に示した。
○:基板1枚当たりのスクラッチ数が20本未満
×:基板1枚当たりのスクラッチ数が20本以上
【0061】
表1に示されるように、研磨面の水抽出液の電気伝導度差σ
Dが5μS/cm以下となるまで洗浄した研磨パッドを用いて研磨を行った実施例1に比べて、上記電気伝導度差σ
Dが5μS/cm以下となる前に研磨パッドの洗浄を終了した比較例1では、スクラッチの数が明らかに多かった。
【0062】
[粗大粒子数(LPC数)]
上記研磨用組成物と実施例1の研磨面水抽出液とを1:1の体積比で混合して5分間攪拌した後、この混合液の粒度分布を、個別カウント方式の粒度分布計、米国パーティクルサイジングシステムズ(Particle Sizing Systems)社製「アキュサイザー(Accusizer)780」を用いて測定した。
また、上記研磨用組成物と比較例1の研磨面水抽出液とを1:1の体積比で混合して5分間攪拌した後、この混合液の粒度分布を同様にして測定した。
対照として、上記研磨用組成物とイオン交換水とを1:1の体積比で混合して5分間攪拌した後、この混合液の粒度分布を同様にして測定した(参考例1)。
得られた結果を表2に示す。表2において「0.30μm超」のカウント数は、測定サンプル1mL中に含まれる直径0.30μm超の粒子の個数を表している。表2の「相対値」の欄には、各粒径範囲における実施例1および比較例2のカウント数を、同じ粒径範囲における参考例1のカウント数を100%とする相対値に換算して示している。
【0064】
表2に示されるように、実施例1のLPC数と参考例1のLPC数との間には、それほど大きな差異はない。この結果から、実施例1における8回洗浄後の研磨パッドは、該研磨パッドを用いた研磨において、研磨用組成物中に粗大粒子を発生させにくいことがわかる。これに対して、比較例1の粒度分布は、参考例1の粒度分布に比べて、明らかに大粒径側に偏っている。この結果から、比較例1における2回洗浄後の研磨パッドは、該研磨パッドを用いた研磨において、研磨用組成物中に粗大粒子を発生させやすいことがわかる。この粗大粒子がスクラッチ数を増加させる要因になったものと考えられる。
【0065】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。