【解決手段】コロイダルシリカ砥粒含有液を用いて研磨用組成物を製造する方法が提供される。この方法では、前記コロイダルシリカ砥粒含有液は、フィルタによって濾過されている。また、前記フィルタは、平均繊維径D
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
<研磨用組成物の製造方法>
ここに開示される研磨用組成物の製造は、コロイダルシリカ砥粒を含有する液(以下、「コロイダルシリカ砥粒含有液」ともいう。)を用いて行う。この明細書において「コロイダルシリカ砥粒含有液を用いて」とは、コロイダルシリカ砥粒含有液に各種成分を添加、混合すること、コロイダルシリカ砥粒含有液を希釈(典型的には、水により希釈)すること等の操作のいずれか1つの操作を単独で行って研磨用組成物を製造すること、上記操作のうち2以上の操作を組み合わせて研磨用組成物を製造すること、を包含する。あるいは、コロイダルシリカ砥粒含有液をそのまま研磨用組成物として使用することも上記「コロイダルシリカ砥粒含有液を用いて」に包含される。
【0018】
(濾過対象)
ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒含有液は、コロイダルシリカ砥粒とともにフィィルム状微小片を含む。この微小片は、
図1に示すように典型的には矩形状(具体的には長方形状)を有するフィルム(換言すると、薄板または薄膜)である。この微小片は、多くは長方形状の形態で存在しており、通常、長辺の長さは凡そ1μm以上(典型的には凡そ1〜3μm)であり、短辺の長さは凡そ0.1μm以上(典型的には凡そ0.1〜0.3μm)であり、厚さは凡そ0.1μm未満(典型的には凡そ0.02〜0.05μm)である。したがって、長辺と短辺との比によっては、フィルム状微小片の形状は短冊状、帯状と表現され得る。このようなフィルム状微小片は、研磨液に含まれた状態で被研磨物に供給されると、被研磨物表面に面接触により付着する。そして、この面接触による付着は、フィルム状微小片が薄厚であることもあって洗浄後も残存してしまい、結果的に凸欠陥の原因となり得る。あるいは、例えば化学的な洗浄によってフィルム状微小片を除去しても、被研磨物のフィルム状微小片付着部分はフィルム状微小片が付着してなかった部分(非付着部分)と比べて研磨されずに残るので、やはり凸欠陥の原因となり得る。この微小片が、ここに開示される技術における濾過対象である。
【0019】
上記微小片の長径Lは、典型的には1μm以上であり得る。所定以上の長さを有するフィルム状微小片は、後述のフィルタ繊維に絡まりやすい形状であるため、フィルタ繊維に捕捉されやすい。例えば、長径Lが1.2μm以上(例えば1.5μm以上、典型的には1.8μm以上)のフィルム状微小片は、後述のフィルタ繊維に捕捉される傾向がより大きい。長径Lは、フィルム状微小片が長方形状を有する場合は長辺とする。フィルム状微小片は必ずしも矩形状を有するとは限らないため、そのような場合、便宜的に最長径を長径Lとすればよい。
【0020】
また、上記微小片の厚さLは、典型的には0.1μm未満である。フィルム状微小片は薄厚になるほどフィルタを通過しやすくなる一方、小径のフィルタ繊維に絡まりやすくなると考えられる。例えば、厚さLが0.07μm以下(例えば0.05μm以下、典型的には0.03μm以下)のフィルム状微小片は、後述のフィルタ繊維に捕捉される傾向がより大きい。なかでも、上記長径Lと厚さTとを有するフィルム状微小片は、小径のフィルタ繊維に好適に捕捉される形状を有するため、ここに開示される濾過対象として特に好ましい。
【0021】
また、ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記微小片の厚さTに対する長径Lの比(L/T)は、凡そ10より大きく、15以上(例えば50以上、典型的には100以上)であることが好ましい。上記比(L/T)を満たすフィルム状微小片は、小径のフィルタ繊維に好適に捕捉され得る。その理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、上記比(L/T)を有するフィルム状微小片は、長尺方向に変形しやすく、小径のフィルタ繊維に絡まりやすいためと推察される。
【0022】
ここに開示されるフィルム状微小片の長径(典型的には長辺)、短辺および厚さの値は、次の方法で測定される。すなわち、測定対象であるコロイダルシリカ砥粒含有液を、フィルム状微小片を捕捉可能なフィルタにより濾過する。次いで、上記フィルタに捕捉されたフィルム状微小片につき、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像を得る。この画像から、フィルム状微小片10個を任意に抽出して計測を行い、その平均値を上記値として採用すればよい。より具体的には、測定対象であるコロイダルシリカ砥粒含有液サンプルを2mL採取し、イオン交換水で10倍に希釈する。次いで、孔径1〜2μm程度の第1メンブレンフィルタで吸引濾過した後、孔径0.3μm以下の第2メンブレンフィルタでさらに濾過を行う。上記第2メンブレンフィルタ上の残渣物をSEMにて撮影し、そのSEM画像から、フィルム状微小片10個を任意に抽出して計測を行い、その平均値を上記値として採用すればよい。第1メンブレンフィルタとしては、例えば孔径1.2μmのポリカーボネート製メンブレンフィルタ(日本ミリポア社製の商品名「アイソポアRTTP」)を用いることができる。第2メンブレンフィルタとしては、例えば孔径0.2μmのポリカーボネート製メンブレンフィルタ(ADVANTEC社製の商品名「K020A−047A」)を用いることができる。
【0023】
また、上記微小片は、少なくとも、SiO
2とNa等の金属アルカリとを含有するケイ酸アルカリ含有液(例えばケイ酸ナトリウム含有液)を出発原料とするコロイダルシリカの製造において副次的に生成することが判っている。したがって、上記微小片は、少なくとも、上記製法によって得られたコロイダルシリカ砥粒含有液に不可避的に含まれ得る成分である。なお、上記微小片は、少量の金属アルカリを含有し得るシリケート化合物であることが判明している。
【0024】
(フィルタ)
ここに開示される研磨用組成物の製造方法では、コロイダルシリカ砥粒含有液はフィルタによって濾過されている。このフィルタは、平均繊維径D
AVEが1μm未満のフィルタ繊維から構成されたフィルタ繊維層を備える。これによって、コロイダルシリカ砥粒含有液が上述のフィルム状微小片を含む場合に、該微小片を効率よく除去することができる。上記フィルタ繊維の平均繊維径D
AVEは、好ましくは0.5μm以下(例えば0.4μm以下、典型的には0.3μm以下)である。特に好ましい平均繊維径D
AVEは0.21μm以下である。D
AVEの下限は特に限定されないが、入手容易性等を考慮して通常は0.05μm以上(例えば0.1μm以上)であり得る。ここに開示される平均繊維径D
AVEは、下記の方法で測定された値を採用すればよい。
【0025】
[平均繊維径D
AVEの測定方法]
(1)測定対象であるフィルタ試料につき、SEM画像を撮影する。画像サイズは特に限定されず、例えば後述の計測点数が100点程度となるサイズを目安とすればよい。例えば、計測点数が50〜150点(典型的には80〜120点)の範囲内となるサイズが適当である。画像は典型的には矩形状であり、縦横比は通常1:1〜1:2(例えば2:3)の範囲内程度とするのが適当である。
(2)次に、上記で得たSEM画像の一辺(縦横比2:3の長方形画像の場合、例えば長辺)に平行する直線を10本、SEM画像上に引く。各直線の間隔(上記一辺と直交する方向における間隔)は等間隔であることが望ましいが、測定結果への影響が誤差程度であれば、そこまでの厳密さは要求されない。例えば、上記間隔の各々は、任意の一間隔を基準として、0.5〜2倍の範囲内としてもよい。
(3)そして、上記SEM画像において上記10本の直線と交わるフィルタ繊維について、該直線と交わる線分であって計測可能な線分の長さを計測する。この1線分の長さを1点として、上記計測可能な線分の全部につき、長さを計測する。この長さを各フィルタ繊維の繊維径とする。ここで、直線と交わるフィルタ繊維とは、典型的には直線と交差するフィルタ繊維のことを指し、単に直線と重なっているだけでは「交わる」とはみなされない。例えば、フィルタ繊維が直線と重なってはいるが折れ曲がる等して上記直線を通過していない場合、このフィルタ繊維は上記直線と交わっているとはみなされない。また、計測可能な線分とは、線分の両端を明確に特定できる線分のことを指す。したがって、上記直線とほぼ平行するなどして、当該線分の一端および他端のいずれかが画像外となるような線分は、上記計測可能な線分とならず、その長さは採用されない。また、繊維同士が重なることによって上記線分の一端および他端のいずれかを特定できないフィルタ繊維の線分についても、その長さは採用されない。
(4)上記で計測した全線分の長さ(繊維径)から平均値を求め、これを平均繊維径D
AVEとして採用する。
後述の実施例においても上記の測定方法が採用される。
【0026】
平均繊維径D
AVEが1μm未満であることによってコロイダルシリカ砥粒含有液中のフィルム状微小片を効率よく除去し得る理由としては、限定的に解釈されるものではないが、例えば次のことが考えられる。すなわち、上記微小片は上述のように短冊状や帯状等特有の形状を呈しており、コロイダルシリカ砥粒含有液中の濾過に際して自由に変形してフィルタを通過し得る。この変形可能な構造を有するフィルム状微小片は、目開き(典型的には孔径)の相当小さいフィルタをも通過することが可能である。フィルタの目開きをさらに微細化すると、濾過寿命の短縮、圧力損失の上昇を招く虞がある。実際、目開きを微細化しても、フィルム状微小片の捕捉性はあまり改善せず、濾過寿命の短縮等の不利益が増大する傾向がある。そこで本発明者らは、フィルタの目開きではなく、フィルタを構成する繊維の径に着目した。具体的には、
図2に示すように、フィルタ繊維F’の直径(繊維径)がフィルム状微小片Xの長さに対して相対的に所定以上の場合、フィルム状微小片Xは、変形する等してコロイダルシリカ粒子Pとともに濾過流(
図2中、矢印で示す流れ)に沿ってフィルタ1を通過してしまう。しかし、フィルタ繊維径がフィルム状微小片Xの長さに対して相対的に小さくなると、
図3に示すように、各繊維Fの一本一本がフィルム状微小片Xの絡みつくサイトとして機能し得る。この絡まり作用によってフィルム状微小片Xはフィルタ1に捕捉され、コロイダルシリカ砥粒含有液から除去されるものと考えられる。なお、フィルタ繊維径が異なっていても、ほぼ同じ目開き(例えば孔径)、空隙率を確保することは可能なので、フィルタ繊維の小径化それ自体は、濾過寿命、圧力損失、流量に実質的に影響しないものであり得る。したがって、平均繊維径D
AVEが1μm未満のフィルタ繊維から構成されたフィルタ繊維層を用いることにより、濾過寿命、低圧力損失、高流量を確保しつつ、フィルム状微小片だけを高い選択性をもって捕捉する濾過を実施し得る。要するに、ここに開示される技術によると、高い濾過効率とフィルム状微小片の効率的除去とを両立することができる。
【0027】
また、ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記微小片の長径Lに対する上記フィルタ繊維の平均繊維径D
AVEの比(D
AVE/L)は1/2以下であることが好ましい。上記比(D
AVE/L)を満たすことによって、フィルム状微小片は、その長尺方向がフィルタ繊維に絡まりやすい傾向が高まる。上記比(D
AVE/L)は、1/3以下(例えば1/5以下、典型的には1/10以下)であることがより好ましい。
【0028】
ここに開示されるフィルタ繊維は、1μm未満の繊維径の比率が50%以上であることが好ましい。これにより、小径のフィルタ繊維によるフィルム状微小片捕捉作用が好適に発揮される。1μm未満の繊維径の比率は、70%以上(例えば80%以上、典型的には90%以上)であることがより好ましい。特に好ましい一態様に係るフィルタ繊維は、1μm未満の繊維径の比率が95%以上(例えば97%以上、典型的には98%以上)である。また、上記フィルタ繊維は、0.6μm以上の繊維径の比率が30%以下(例えば10%以下、典型的には5%以下)であることが好ましく、0.4μm以上の繊維径の比率が30%以下(例えば20%以下、典型的には15%以下)であることがより好ましい。特に好ましい一態様に係るフィルタ繊維は、0.4μm未満の繊維径の比率が50%以上(例えば80%以上、典型的には90%以上)であり、0.2μm未満の繊維径の比率が50%以上(例えば60%以上、典型的には65%以上)である。フィルタ繊維の繊維径の比率は、上記平均繊維径D
AVEの測定方法にしたがって得たフィルタ繊維の繊維径に基づき計測することによって求められる。具体的には、計測した繊維径の総数(全本数)に対する繊維径1μm未満の数の比から算出される。したがって、上記比率の単位は本数%と表現され得る。後述の実施例においても上記の測定方法が採用される。計測点数(計測繊維径の総数)は50〜150点(典型的には80〜120点)程度とすればよい。
【0029】
フィルタ繊維の材質は特に限定されない。ガラス繊維(GF)、炭素繊維等の無機繊維や、ポリマー繊維等の有機繊維を用いることができる。無機繊維(好適にはGF)は、樹脂を含浸したものが好ましく用いられる。ポリマー繊維としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリウレタン、セルロース、セルロースアセテートの1種または2種以上からなる繊維を好ましく用いることができる。なかでも、強酸、強アルカリへの耐性等を考慮して、フィルタ繊維は、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、フッ素樹脂繊維が好ましく、ポリプロピレン繊維がより好ましい。また、GF等の無機繊維の1種または2種以上と、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維の1種または2種以上とを組み合わせて使用してもよい。
【0030】
また、ここに開示されるフィルタ繊維(ひいてはフィルタ繊維層やフィルタ)は、カチオン化処理されたものであることが好ましい。カチオン化処理されることで、その静電作用によりフィルム状微小片を吸着除去することができる。また、上記カチオン化処理により、フィルタ繊維(ひいてはフィルタ繊維層やフィルタ)は正のゼータ電位を有するものとなり得る。カチオン化処理の方法は特に限定されず、例えばアミン(第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン)や第四級アンモニウム等のカチオン性基を有するカチオン性物質(カチオン性ポリアミド)をフィルタ繊維に添加(例えば含浸)する方法が挙げられる。上記カチオン化処理されたフィルタ繊維は、上記のカチオン性物質を保持したものであり得る。
【0031】
また、ここに開示されるフィルタは、式:
N
A/N
B≦15/100
(N
Bは、該濾過前におけるコロイダルシリカ砥粒含有液の単位体積当たりのフィルム状微小片の個数を示す。N
Aは、該濾過後におけるコロイダルシリカ砥粒含有液の単位体積当たりのフィルム状微小片の個数を示す。);を満足するフィルタであることが好ましい。上記N
A/N
Bを満たすフィルタによると、研磨用組成物からフィルム状微小片が除去または有意に低減され、表面欠陥が高度に低減した高品位表面が実現される。上記比N
A/N
Bは、10/100以下であることがより好ましく、5/100以下(例えば1/100以下、典型的には5/1000以下)であることがさらに好ましい。
【0032】
上記N
AおよびN
Bの測定方法は特に限定されない。N
AとN
Bとの相対的関係を求め得る方法であれば、比N
A/N
Bを求めることができるので、コロイダルシリカ砥粒含有液の単位体積当たりのフィルム状微小片の個数の厳密に求める必要はない。例えば、同じ方法によりN
AおよびN
Bを測定して、N
AとN
Bとの相対的関係を求める方法が好ましく採用される。N
A、N
Bの測定方法としては、例えば下記の方法を採用すればよい。
【0033】
[N
A、N
Bの測定方法]
(1)濾過対象であるコロイダルシリカ砥粒含有液を用意する。コロイダルシリカ砥粒含有液中のコロイダルシリカの含有量は特に限定されないが、例えば約40重量%とすることが好ましい。
(2)上記で用意したコロイダルシリカ砥粒含有液を定格濾過精度が約1μm(例えば0.8〜1.2μm、好ましくは1μm)の予備濾過フィルタで予備濾過を行い、これをサンプル液とする。予備濾過フィルタとしては、定格濾過精度が1μmのポリプロピレン製デプスフィルタ(ポール社製の商品名「プロファイルII」)を用いることができる。
(3)次いで、N
Aの測定においては、上記で得たサンプル液につき、評価対象フィルタを用いて濾過中の差圧が0.3MPa以下(例えば0.05〜0.3MPa)となるように濾過を行う。N
Bの測定においては、この手順(3)は省略される。
(4)上記濾過(N
Bの測定においては、上記予備濾過のみ)を行ったサンプル液を2mL採取し、イオン交換水で10倍に希釈する。次いで、孔径1〜2μm程度の第1メンブレンフィルタで吸引濾過した後、孔径0.3μm以下の第2メンブレンフィルタでさらに濾過を行う。第1メンブレンフィルタとしては、例えば孔径1.2μmのポリカーボネート製メンブレンフィルタ(日本ミリポア社製の商品名「アイソポアRTTP」)を用いることができる。第2メンブレンフィルタとしては、例えば孔径0.2μmのポリカーボネート製メンブレンフィルタ(ADVANTEC社製の商品名「K020A−047A」)を用いることができる。
(5)上記第2メンブレンフィルタ上の残渣物をSEMにて撮影し、その約4μm×6μmの長方形SEM画像を1視野(観察領域)とし、50視野からフィルム状微小片の個数を計測し、これをフィルム状微小片残渣として記録する。計測に用いるSEM画像は10,000倍程度とするのが好ましい。
【0034】
ここに開示されるフィルタの目開きは、研磨用組成物の生産効率の観点から、0.05μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上である。また、異物や凝集物の除去効果を高める観点から、フィルタの目開きは、10μm以下が好ましく、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下(例えば1μm以下、典型的には0.6μm以下)である。
【0035】
フィルタの濾過精度は特に限定されない。例えば、濾過精度が1μm未満(例えば、0.01〜0.8μm、典型的には0.05〜0.6μm)のフィルタであって、平均繊維径D
AVEが1μm未満(あるいは0.5μm以下、例えば0.4μm以下、典型的には0.3μm以下)のフィルタ繊維から構成されたフィルタ繊維層を備えるフィルタを好ましく用いることができる。上記濾過精度を有するフィルタのなかから、さらに平均繊維径D
AVEが1μm未満のフィルタ繊維から構成されたフィルタ繊維層を備えるものを選択して用いることにより、粗大粒子等のコロイダルシリカ砥粒含有液中の一般的な異物の除去に加えて、フィルム状微小片の除去を効率よく実現することができる。ここに開示されるフィルタはまた、上記のようにフィルム状微小片に対して高精度濾過を実現しつつ、長寿命や低圧力損失、高流量を実現することができる。上記濾過精度は、メーカーによる定格値を採用すればよい。後述の実施例においても同様である。
【0036】
ここに開示されるフィルタのメディア形状は特に限定されず、種々の構造、形状、機能を有するフィルタを適宜採用することができる。具体例としては、コロイダルシリカ砥粒含有液の濾過性に優れるプリーツ型やデプス型、デプスプリーツ型のフィルタを採用することが好ましい。なかでも、デプス型、デプスプリーツ型のフィルタがより好ましい。
【0037】
プリーツ型フィルタは、ひだ折り形状を有するフィルタであり、濾過面積が相対的に大きく、優れた表層濾過機能を有する。また、デプス型フィルタは、所定の厚さを有するフィルタの内部でも濾過機能(深層濾過機能)を有するフィルタである。デプス型フィルタは、典型的には濾材の出口側の孔径が入口側の孔径より小さいフィルタ構造を有しており、上記孔径の変化は連続的または段階的であり得る。これによって、表層濾過だけでなく濾過流方向にも濾過(深層濾過)機能を有するものとなり得る。デプスプリーツ型のフィルタは、デプス型およびプリーツ型の構造的特徴が組み合わさったフィルタである。デプス型やデプスプリーツ型のフィルタは、濾過精度の異なるフィルタメディア(濾材)層を厚さ方向に2層以上配置して構成されたものであり得る。ここに開示されるフィルタを構成するフィルタ繊維層は、そのうちの少なくとも1層であり得る。なお、上記フィルタには、珪藻土等の濾過助剤が含まれていてもよい。
【0038】
ここに開示されるフィルタを含むフィルタ要素の全体構造は特に限定されない。フィルタ要素は、例えば、実質的に円筒型であり得る。かかるフィルタ要素は、定期的な交換が可能なカートリッジタイプのものであり得る。上記フィルタ要素は、濾材のほかにコア等の他部材を含み得るが、それらについては本発明を特徴づけるものではないので、ここでは特に説明しない。
【0039】
(コロイダルシリカ砥粒含有液)
ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒含有液は、コロイダルシリカ砥粒を含む。コロイダルシリカ砥粒含有液はまたフィルム状微小片を含むが、これについては上述のとおりであるので、ここでは説明は繰り返さない。コロイダルシリカ砥粒含有液に含まれるコロイダルシリカ砥粒は、高品位の表面を実現し得る砥粒として、種々の研磨用途において好ましく使用されている。ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒は、一次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態の砥粒と二次粒子の形態の砥粒とが混在していてもよい。
【0040】
コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径D
P1は特に制限されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。また、より平滑性の高い表面が得られやすいという観点から、上記平均一次粒子径D
P1は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。ここに開示される技術は、より高品位の表面を得やすい等の観点から、平均一次粒子径D
P1が35nm以下(より好ましくは32nm以下、例えば30nm未満)のコロイダルシリカ砥粒を用いる態様でも好ましく実施され得る。
【0041】
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均一次粒子径D
P1は、例えば、BET法により測定される比表面積S(m
2/g)から平均一次粒子径D
P1(nm)=2727/Sの式により算出することができる。砥粒の比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0042】
コロイダルシリカ砥粒の平均二次粒子径D
P2は特に限定されないが、研磨速度等の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上である。また、より平滑性の高い表面を得るという観点から、上記平均二次粒子径D
P2は、200nm以下が適当であり、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。ここに開示される技術は、より高品位の表面を得やすい等の観点から、平均二次粒子径D
P2が70nm未満(より好ましくは60nm以下、例えば50nm未満)のコロイダルシリカ砥粒を用いる態様でも好ましく実施され得る。
コロイダルシリカ砥粒の平均二次粒子径D
P2は、対象とする砥粒の水分散液を測定サンプルとして、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0043】
コロイダルシリカ砥粒の平均二次粒子径D
P2は、一般に砥粒の平均一次粒子径D
P1と同等以上(D
P2/D
P1≧1)であり、典型的にはD
P1よりも大きい(D
P2/D
P1>1)。特に限定するものではないが、研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点から、上記D
P2/D
P1は、通常は1.0〜3.0の範囲にあることが適当であり、1.0〜2.5の範囲が好ましく、1.0〜2.3の範囲がより好ましい。
【0044】
また、ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒は、上述のようにケイ酸アルカリ含有液を出発原料として製造されたものであり得る。その場合、コロイダルシリカ砥粒含有液は、出発原料に由来するアルカリ成分を含み得る。そのようなアルカリ成分としては、例えば、Na、K、Li、Rb、Cs等のアルカリ金属類が挙げられる。典型的なコロイダルシリカ砥粒含有液はNaを含み得る。
【0045】
コロイダルシリカ砥粒含有液の溶媒(以下、溶媒および分散媒を包含する媒体の意味で用いられる。)は特に限定されないが、典型的には溶媒として水を含む。上記水としては、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水等を好ましく用いることができる。
ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒含有液は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、コロイダルシリカ砥粒含有液に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99〜100体積%)が水であることがより好ましい。
【0046】
ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒含有液に含まれるコロイダルシリカ砥粒の含有量は特に制限されないが、通常は凡そ0.1重量%以上であり、1重量%以上が適当である。また、上記含有量の上限は、粘度の増大を抑制する観点から、50重量%以下(例えば45重量%以下、典型的には40重量%以下)とするのが適当である。あるいは、ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒含有液を、実質的にそのまま研磨液または濃縮液として利用する場合、当該液中におけるコロイダルシリカ砥粒の含有量として、後述の研磨液や濃縮液における砥粒の含有量が好ましく採用され得る。
【0047】
コロイダルシリカ砥粒含有液はまた、上述のように、上記の濾過処理を経たものをそのまま研磨用組成物として用いることができる。したがって、ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒含有液は、後述の研磨用組成物に含有され得る成分を、例えば後述の含有割合で含むものであり得る。
【0048】
(濾過)
ここに開示されるコロイダルシリカ砥粒含有液は、ここに開示されるフィルタによって濾過される。典型的には、ここに開示される技術はコロイダルシリカ砥粒含有液をフィルタで濾過する操作を含む。濾過の条件(例えば濾過差圧、濾過速度)については、この分野の技術常識に基づき、目標品質や生産効率等を考慮して適宜設定すればよい。ここに開示される濾過は、例えば、濾過差圧0.8MPa以下(例えば0.5MPa以下、典型的には0.3MPa以下)の条件で好ましく実施され得る。濾過の方法は特に限定されず、例えば、常圧で行う自然濾過の他、吸引濾過、加圧濾過、遠心濾過等の公知の濾過方法を適宜採用することができる。
【0049】
ここに開示される技術の好ましい一態様に係る濾過は、式:
N
A/N
B≦15/100
(N
Bは、該濾過前におけるコロイダルシリカ砥粒含有液の単位体積当たりのフィルム状微小片の個数を示す。N
Aは、該濾過後におけるコロイダルシリカ砥粒含有液の単位体積当たりのフィルム状微小片の個数を示す。);を満足する。このようにフィルム状微小片が除去または有意に低減されたコロイダルシリカ砥粒含有液によると、表面欠陥を高度に低減することができる。上記比N
A/N
Bは、10/100以下であることがより好ましく、5/100以下(例えば1/100以下、典型的には5/1000以下)であることがさらに好ましい。上記N
AおよびN
Bの測定は、上述の方法が採用される。
【0050】
また、ここに開示される技術では、上記濾過の前後で、粗大粒子の除去や高精度濾過等の目的に応じて、予備的にまたは多段階に、任意に追加の濾過処理を行ってもよい。例えば、上記追加の濾過処理は、ここに開示される濾過より前に行われ得るものであってもよく、該濾過で用いられるフィルタと同程度の濾過精度を有するフィルタまたは該濾過で用いられるフィルタよりも濾過精度の大きいフィルタを用いての追加の濾過処理であってもよい。あるいはまた、追加の濾過処理は、ここに開示される濾過より後に行われ得るものであってもよく、該濾過で用いられるフィルタと同程度の濾過精度を有するフィルタまたは該濾過で用いられるフィルタよりも濾過精度の小さいフィルタを用いての追加の濾過処理であってもよい。好ましい一態様では、ここに開示される濾過より前に、粗大粒子等の異物を除去することを目的として、上記濾過に用いるフィルタより濾過精度の大きいフィルタを用いて追加の濾過処理を行うものであり得る。この場合、ここに開示される濾過は、多段階濾過のうちの一工程であり得る。
【0051】
(混合)
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は、コロイダルシリカ砥粒含有液がフィルタによって濾過されている他は特に制限はないが、例えば研磨用組成物に含まれる成分を混合する工程を含み得る。典型的には、研磨用組成物は、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合して製造することができる。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0052】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、コロイダルシリカ砥粒含有液を用いて製造されるものである。そのため、コロイダルシリカ砥粒含有液に含まれるコロイダルシリカ砥粒を含有する。上記研磨用組成物はまた、上記コロイダルシリカ砥粒に加えて、その他の砥粒をさらに含むものであってもよい。あるいはまた、砥粒として上記コロイダルシリカ砥粒のみを含むものであってもよい。上記その他の砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このようなその他の砥粒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記その他の砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましい。その他の砥粒はシリカ粒子であってもよい。シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。その他の砥粒として用いられるコロイダルシリカは、ケイ酸アルカリ含有液を出発物質とする方法以外の方法(例えばゾルゲル法)により製造されたものである。
【0054】
また、ここに開示される研磨用組成物は、フィルム状微小片が除去または有意に低減されたものであり得る。したがって、研磨用組成物は、単位体積当たりのフィルム状微小片の個数Nが、15以下(例えば10以下、典型的には5以下)であることが好ましい。上記Nの測定は、上述のN
Bの測定方法と同じ方法を採用すればよい。
【0055】
ここに開示される研磨用組成物に含まれる溶媒としては、コロイダルシリカ砥粒含有液の溶媒と同じものを好ましく使用することができる。したがって、ここでは繰返しの説明は行わない。
【0056】
ここに開示される研磨用組成物(典型的にはスラリー状の組成物)は、例えば、その固形分含量(non-volatile content;NV)が0.01重量%〜50重量%であり、残部が水系溶媒(水または水と上記有機溶剤との混合溶媒)である形態、または残部が水系溶媒および揮発性化合物である形態で好ましく実施され得る。上記NVが0.05重量%〜40重量%である形態がより好ましい。なお、上記固形分含量(NV)とは、研磨用組成物を105℃で24時間乾燥させた後における残留物が上記研磨用組成物に占める重量の割合を指す。
【0057】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、研磨促進剤、水溶性高分子、防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、キレート剤、pH調整剤等の、研磨用組成物(例えば磁気ディスク基板用の研磨用組成物、典型的にはガラス基板の研磨に用いられる研磨用組成物)に含まれ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ここに開示される技術はまた、研磨用組成物が研磨促進剤、水溶性高分子、界面活性剤、キレート剤、pH調整剤等の添加剤を含まない態様で実施されてもよい。
【0058】
研磨促進剤の例としては、金属材料の研磨では、酸化剤、酸およびその塩が挙げられる。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩等が挙げられるが、これらに限定されない。このような酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸、過ヨウ素酸、臭素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、過硫酸、それらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等、が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。ガラス材料の研磨では、アルカリ剤、酸およびその塩が例示される。
【0059】
酸の例としては、鉱酸(硝酸、硫酸、塩酸、リン酸等)や有機酸(炭素原子数が1〜10程度の有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸等)が挙げられるが、これらに限定されない。有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、クロトン酸、ニコチン酸、酢酸、アジピン酸、ギ酸、シュウ酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、メタンスルホン酸、等が挙げられる。このような酸は、典型的には前述の酸化剤と合わせて用いられることにより、研磨促進剤として効果的に作用し得る。研磨効率の観点から好ましい酸として、メタンスルホン酸、硫酸、硝酸、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸等が例示される。なかでも硝酸、メタンスルホン酸が好ましい。なお、酸は、該酸との塩の形態で用いられてもよい。酸の塩としては特に制限はなく、例えば適当な金属やアンモニウム等との塩が挙げられる。
【0060】
アルカリ剤の例としては、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩が挙げられる。好適例としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素アンモニウム、クエン酸カリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸水素アンモニウム、酒石酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸アンモニウム、酒石酸水素アンモニウム、臭素酸カリウム、ソルビン酸カリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、硝酸カルシウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化アンモニウム、過ヨウ素酸カリウム、フェリシアン化カリウム、酢酸アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウムの1種または2種以上が挙げられる。なかでも、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素アンモニウムがより好ましい。
【0061】
ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子をさらに含有してもよい。水溶性高分子をさらに含有させることにより、研磨用組成物による研磨後の表面粗さ(例えば、磁気ディスク基板の表面粗さ)がより一層低減され得る。水溶性高分子としては、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0062】
防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0063】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する被研磨物の研磨に適用され得る。被研磨物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された被研磨物であってもよい。なかでも、ガラス基板の研磨に好適である。ここに開示される技術は、例えば、砥粒としてコロイダルシリカ粒子を含む研磨用組成物(典型的には、砥粒としてコロイダルシリカシリカ粒子のみを含む研磨用組成物)であって、研磨対象物がガラス基板である研磨用組成物に対して特に好ましく適用され得る。
被研磨物の形状は特に制限されない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、板状や多面体状等の、平面を有する被研磨物の研磨に好ましく適用され得る。
【0064】
ここに開示される研磨用組成物は、被研磨物のポリシングに好ましく使用され得る。したがって、この明細書によると、上記研磨用組成物を用いたポリシング工程を含む研磨物の製造方法(例えば、ガラス基板の製造方法)が提供される。
【0065】
<研磨液>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で被研磨物に供給されて、その被研磨物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、被研磨物に供給されて該被研磨物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(研磨液の原液)との双方が包含される。ここに開示される研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
【0066】
ここに開示される研磨液における砥粒の含有量は特に制限されないが、通常は0.01重量%以上であり、0.05重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.15重量%以上(例えば1重量%以上、典型的には3重量%以上)である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。経済性の観点から、通常は、上記含有量は50重量%以下が適当であり、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。あるいはまた、上記含有量は10重量%以下であってもよく、例えば7重量%以下、典型的には5重量%以下(さらには2重量%以下あるいは1重量%以下)である。
【0067】
研磨促進剤としての酸化剤を含む態様では、研磨液中における該酸化剤の含有量(複数の酸化剤を含む場合には、それらの合計含有量)を、例えば0.01g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.5g/L以上である。また、研磨組成物の経済性の観点から、酸化剤の含有量は、100g/L以下が適当であり、好ましくは75g/L以下、より好ましくは60g/L以下である。
【0068】
酸を含む態様では、研磨液中における該酸の含有量(複数の酸を含む態様では、それらの合計含有量)を、例えば0.1g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上である。また、研磨組成物の貯蔵安定性等の観点から、上記含有量は、70g/L以下が適当であり、好ましくは50g/L以下、例えば30g/L以下である。
【0069】
アルカリ剤を含む態様では、研磨液中における該アルカリ剤の含有量(複数のアルカリ剤を含む態様では、それらの合計含有量)を、例えば0.1g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上である。また、研磨組成物の貯蔵安定性等の観点から、上記含有量は、70g/L以下が適当であり、好ましくは50g/L以下、例えば30g/L以下である。
【0070】
水溶性高分子を含む態様では、研磨液中における該水溶性高分子の含有量(複数の水溶性高分子を含む態様では、それらの合計含有量)を、例えば0.01g/L以上とすることが適当である。上記含有量は、表面平滑性等の観点から、好ましくは0.05g/L以上、より好ましくは0.08g/L以上、さらに好ましくは0.1g/L以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、10g/L以下とすることが適当であり、好ましくは5g/L以下、例えば1g/L以下である。
【0071】
研磨液のpHは特に制限されない。例えば、pH12.0以下(例えばpH1.0以上12.0以下)とすることができ、pH10.0未満(例えばpH5.0以下、典型的にはpH3.0以下)が好ましい。上記pHは、例えば、ガラス基板の研磨に用いられる研磨液(例えばポリシング用の研磨液)に好ましく適用され得る。
【0072】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、被研磨物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で2倍〜100倍程度とすることができ、通常は2倍〜50倍程度が適当である。好ましい一態様に係る研磨用組成物の濃縮倍率は、例えば2倍〜10倍である。
【0073】
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を被研磨物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の水系溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記水系溶媒が混合溶媒である場合、該水系溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記水系溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。また、後述するように多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
【0074】
上記濃縮液のNVは、例えば50重量%以下とすることができる。研磨用組成物の安定性(例えば、砥粒の分散安定性)や濾過性等の観点から、通常、濃縮液のNVは、40重量%以下とすることが適当である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、濃縮液のNVは、0.5重量%以上とすることが適当であり、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、例えば5重量%以上である。
【0075】
ここに開示される濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。研磨用組成物の安定性(例えば、砥粒の分散安定性)や濾過性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは45重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下である。好ましい一態様において、砥粒の含有量を30重量%以下としてもよく、20重量%以下(例えば15重量%以下)としてもよい。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上(例えば5重量%以上)である。
【0076】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが混合されて被研磨物の研磨に用いられるように構成され得る。
【0077】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、被研磨物の研磨に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて被研磨物を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(典型的にはスラリー状の研磨液であり、研磨スラリーと称されることもある。)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
【0078】
次いで、その研磨液を被研磨物に供給し、常法により研磨する。例えば、ガラス基板のポリシングを行う場合には、ラッピング工程および予備ポリシング工程を経たガラス基板を一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記ガラス基板の表面(被研磨面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、ガラス基板の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て被研磨物の研磨が完了する。
なお、上記研磨工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。なかでも、スウェードタイプが好ましい。
【0079】
<洗浄>
また、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨された研磨物は、典型的には、研磨後に洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。洗浄液の温度は、例えば常温〜90℃程度とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃〜85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
【0080】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0081】
<実施例1〜3、比較例1〜4>
表1に示す各フィルタを用いて下記の方法で濾過試験を行った。なお、表1中、GFはガラス繊維、PPはポリプロピレンの略である。
【0082】
[濾過試験]
(1)コロイダルシリカ砥粒(平均一次粒子径16nm)を約40%の割合で含有する水性液(コロイダルシリカ砥粒含有液)を用意し、ポール社製のプロファイルII(定格濾過精度1μm)で予備濾過を行った。これをサンプル液として用いた。
(2)上記で得たサンプル液につき、各例に係るフィルタを用いて濾過中の差圧が0.25MPa以下となるように濾過を行った。
(3)上記濾過を行ったサンプル液を2mL採取し、イオン交換水で10倍に希釈した。次いで、孔径1.2μmの第1メンブレンフィルタ(日本ミリポア社製のポリカーボネート製メンブレンフィルタ、商品名「アイソポアRTTP」)で吸引濾過した後、孔径0.2μmの第2メンブレンフィルタ(ADVANTEC社製のポリカーボネート製メンブレンフィルタ、商品名「K020A−047A」)でさらに濾過を行った。
(4)上記第2メンブレンフィルタ上の残渣物をSEMにて撮影し、その約4μm×6μmの長方形SEM画像を1視野(観察領域)とし、50視野からフィルム状微小片の個数を計測し、これを微小片残渣として記録した。計測に用いたSEM画像は10,000倍であった。結果を表1に示す。
【0084】
表1に示されるように、平均繊維径D
AVEが1μm未満のフィルタ繊維から構成されたフィルタ繊維層を備えるフィルタでコロイダルシリカ砥粒含有液に対して濾過を行った実施例1〜3は、平均繊維径D
AVEが1μm以上のフィルタ繊維から構成されたフィルタ繊維層を備えるフィルタで濾過を行った比較例1〜4と比べて、フィルム状微小片の個数が有意に低減された。実施例1〜3、比較例1〜4のフィルタはいずれも濾過精度が0.1〜0.45μmの範囲内であることから、濾過精度ではなく、小径のフィルタ繊維がフィルム状微小片を絡めとる作用によって、上記微小片の濾過(捕捉)が効率よく行われたものと推察される。
【0085】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。