【実施例】
【0024】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1〜9、比較例1〜2]
実施例及び比較例において使用した各PAS樹脂成分の詳細は以下の通りである。
・PAS樹脂1:PPS樹脂(株)クレハ製、フォートロンKPS W214A、重量平均分子量(Mw):64000)
・PAS樹脂2:PPS樹脂(株)クレハ製、フォートロンKPS W220A、重量平均分子量(Mw):80000)
・PAS樹脂3:PPS樹脂(株)クレハ製、フォートロンKPS W300、重量平均分子量(Mw):95000)
上記各PAS樹脂の重量平均分子量(Mw)を以下のようにして測定した。
【0026】
(PAS樹脂の重量平均分子量(Mw)の測定)
溶媒として1−クロロナフタレンを使用し、各PAS樹脂をオイルバスで230℃/10分間過熱溶解後、必要に応じて高温濾過により精製し、0.05質量%濃度溶液を調整した。UV検出器(検出波長:360nm、(株)センシュー科学製、SSC−7000)を用いて、高温GPC測定を行い、標準ポリスチレン換算で分子量を算出した。
【0027】
実施例及び比較例において使用した各PTFE樹脂成分の詳細は以下の通りである。
・PTFE樹脂1:(株)喜多村製、KT−400M(溶融粘度:711Pa・s(せん断速度:1216sec
−1、360℃))
・PTFE樹脂2:(株)喜多村製、KTL−450A(溶融粘度:323Pa・s(せん断速度:1216sec
−1、360℃))
・PTFE樹脂3:(株)喜多村製、KTL−610(溶融粘度:170Pa・s(せん断速度:1216sec
−1、360℃))
・PTFE樹脂4:住友スリーエム(株)製、ダイニオン TF9205(溶融粘度:58Pa・s(せん断速度:1216sec
−1、360℃))
上記各PTFE樹脂の溶融粘度を以下のようにして測定した。
【0028】
(PTFE樹脂の溶融粘度の測定)
キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製、キャピログラフ1B)を用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度360℃、せん断速度1216sec
−1での溶融粘度を測定した。
【0029】
<ペレット(樹脂組成物)の作製>
下記表1の実施例及び比較例に示すように上記各原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して、溶融混練し、ペレット(樹脂組成物)化した。
また、上記各ペレットの溶融粘度を以下のようにして測定した。
【0030】
(ペレットの溶融粘度の測定)
キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製、キャピログラフ1B)を用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec
−1での溶融粘度を測定した。
【0031】
【表1】
表中、各成分の数値は「質量部」を意味する。
【0032】
また、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S−2000i100t)により上記各ペレットから各種試験片を作製し、以下の評価を行った。
【0033】
<比誘電率の測定>
上記各ペレットを用い、射出成形にて、シリンダー温度335℃、金型温度150℃で80mm×80mm×1mmtの平板試験片を作製し、LCRメータ(横河・ヒューレット・パッカード(株)製、4284A)及び誘電体用測定電極(横河・ヒューレット・パッカード(株)製、HP16451B)を用いてIEC60250に準じて、測定周波数1kHzでの比誘電率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0034】
<表面剥離性の測定>
上記各ペレットを用い、射出成形にて、シリンダー温度335℃、金型温度150℃で80mm×80mm×1mmtの平板試験片を作製し、JIS K5400−8.5(JIS D0202)に準じて、表面剥離性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0035】
<引張強度の測定>
上記各ペレットを用い、射出成形にて、シリンダー温度335℃、金型温度150℃で厚み1mmtのダンベル試験片を作製し、ASTM D638に準じて引張強さ(TS)及び引張伸び(TE)を測定した(引張速度50mm/min)。測定結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
<耐熱老化性の測定>
実施例1、4及び7のそれぞれのペレットについて、上記引張強度の測定で用いたものと同一の試験片を作製し、200℃に設定したオーブン中に500、1000及び1500時間のそれぞれの時間放置し、取り出した各試験片について、ASTMD638に準じて引張伸び(TE)を測定した(引張速度50mm/min)。上記引張強度の測定で得られた値を初期値として、初期値に対する上記所定時間経過後の引張伸び(TE)の比の値(百分率)を保持率とした。引張伸び(TE)の保持率の結果を
図1に示す。
【0038】
以下、上記各測定結果の評価を示す。
【0039】
<比誘電率の評価>
表2の結果から、各実施例及び比較例2の樹脂組成物はいずれも比誘電率が3.0以下と低い値を示した。一方、比較例1の樹脂組成物は比誘電率が3.2と高い値を示した。
【0040】
<表面剥離性の評価>
表2の結果から、各実施例及び比較例1の樹脂組成物は優れた表面剥離性を有していることが示された。一方、比較例2の樹脂組成物は表面剥離性に劣っていることが示された。
【0041】
<引張強度の評価>
表2における各実施例及び比較例2の結果から、引張強さについては大きな差はないものの、引張伸びについては比較例2に比べて各実施例の樹脂組成物において向上していることが示された。特に、溶融粘度が高い(分子量が大きい)PTFE樹脂を用いることにより樹脂組成物の引張伸びが顕著に向上することが示された。
【0042】
<耐熱老化性の評価>
図1の結果から、重量平均分子量が大きいPAS樹脂を用いることにより、樹脂組成物の耐熱老化性が顕著に向上することが示された。
【0043】
上記結果より、実施例1〜9の樹脂組成物においては、低比誘電率と、優れた引張伸び(靭性)及び表面剥離性が両立されていることが示された。さらに、分子量が大きいPAS樹脂を含む場合には、耐熱老化性にも優れることが示された。これに対し、PTFE樹脂を含まない比較例1は、比誘電率について良好な結果が得られなかった。また、溶融粘度が低いPTFE樹脂を含む比較例2は、表面剥離性及び引張伸びについて良好な結果が得られなかった。
以上より、PAS樹脂に対して、本発明で規定する溶融粘度を有するPTFE樹脂を配合することにより、低比誘電率と、優れた引張伸び(靭性)及び表面剥離性が両立できることが分かる。また、分子量が大きいPAS樹脂を使用することにより、上記特性に加えて耐熱老化性を付与できることが分かる。