特開2015-81331(P2015-81331A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2015081331-樹脂組成物及びそれを用いた被覆材料 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-81331(P2015-81331A)
(43)【公開日】2015年4月27日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びそれを用いた被覆材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20150331BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20150331BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20150331BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20150331BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20150331BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08L27/18
   H01B3/44 C
   H01B7/00 301
   H01B11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-221193(P2013-221193)
(22)【出願日】2013年10月24日
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 紫野
【テーマコード(参考)】
4J002
5G305
5G309
5G319
【Fターム(参考)】
4J002BD152
4J002CN011
4J002GQ01
5G305AA02
5G305AB01
5G305AB08
5G305AB15
5G305BA13
5G305CA03
5G305CA35
5G305CA38
5G309AA11
5G319AA08
(57)【要約】
【課題】低比誘電率であり、引張伸び(靭性)に優れ、表面剥離が生じにくい樹脂組成物及び被覆材料を提供する。
【解決手段】ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、溶融粘度100〜1000Pa・sの四フッ化エチレン樹脂35〜85質量部を含む混合物を溶融混練して樹脂組成物を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、溶融粘度100〜1000Pa・sの四フッ化エチレン樹脂35〜85質量部を含む混合物を溶融混練して得られる樹脂組成物。
【請求項2】
上記ポリアリーレンサルファイド樹脂の重量平均分子量が、50000〜200000である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
導体に被覆材を被覆してなる電線の被覆材に用いられる請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含んでなる被覆材料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形してなる被覆材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物及びそれを用いた被覆材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野においては、ハイブリッド自動車や電気自動車への展開が加速してきており、その背景から高効率モーターの需要が拡大しつつある。このようなハイブリッド自動車などのモーター周辺に使用される絶縁材(電線被覆材、モーターインシュレーターなど)としては高密度化の要求が高まっており、その要求を満たすためには絶縁材を薄肉化する必要がある。印加電圧に対する絶縁材の膜厚の限界値は誘電率(比誘電率)に依存することから、薄肉化するに当たり絶縁材の低比誘電率化が必須である。
一方、上記のような用途の絶縁材は高電圧下で使用されるため、薄肉化した場合には絶縁破壊を起こす懸念があることから、優れた絶縁破壊特性が要求される。
【0003】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、「PPS樹脂」とも呼ぶ)に代表されるポリアリーレンサルファイド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも呼ぶ)は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有していることから、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。このようにPAS樹脂は優れた諸性能を有するものの、単独では上記のような要求性能を満たすことができず、ハイブリッド自動車などのモーター周辺の絶縁材として使用するのは困難である。
【0004】
一方、四フッ化エチレン樹脂(以下、「PTFE樹脂」とも呼ぶ)に代表されるフッ素樹脂は、摩擦係数が極めて低く、高い耐熱性、絶縁性及び耐化学薬品性を有しており、非粘着性などに優れるエンジニアリングプラスチックとして、長年にわたり様々な分野において使用されている。
【0005】
従来、上述したPAS樹脂とフッ素樹脂を混合して所望の性能を引き出す試みがなされている(例えば特許文献1〜3参照)。
特許文献1においては、PAS樹脂と非晶性樹脂とフッ素樹脂とを配合してなる樹脂組成物が開示されており、PAS樹脂に所定の割合のフッ素樹脂を配合することにより、PAS樹脂本来の性能に加え、摺動性を付与している。
特許文献2においては、PPS樹脂とPTFE樹脂と無機充填剤とを配合してなる樹脂組成物が開示されており、PPS樹脂に所定の割合のPTFE樹脂を配合することにより、PPS樹脂本来の性能を維持しつつ、電気絶縁性を付与している。
特許文献3においては、PAS樹脂とフッ素樹脂とその他の特定のグラフト共重合体と充填剤とを配合してなる樹脂組成物が開示されており、PPS樹脂に所定の割合のPTFE樹脂を配合することにより、PPS樹脂本来の性能を維持しつつ、摩擦特性や摺動性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−273999号公報
【特許文献2】特開2009−30030号公報
【特許文献3】特開平5−78574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、以上の樹脂組成物は、薄肉に成形した場合において低比誘電率化と優れた引張伸び(靭性)及び表面剥離特性とを両立できるものではなかった。
【0008】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、比誘電率が低く、引張伸び(靭性)に優れ、表面剥離が生じにくい樹脂組成物及びそれを用いた被覆材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、溶融粘度100〜1000Pa・sの四フッ化エチレン樹脂35〜85質量部を含む混合物を溶融混練して得られる樹脂組成物。
(2)上記ポリアリーレンサルファイド樹脂の重量平均分子量が、50000〜200000である上記(1)に記載の樹脂組成物。
(3)導体に被覆材を被覆してなる電線の被覆材に用いられる上記(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の樹脂組成物を含んでなる被覆材料。
(5)上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の樹脂組成物を成形してなる被覆材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比誘電率が低く、引張伸び(靭性)に優れ、表面剥離が生じにくい樹脂組成物及び被覆材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1、4及び7における耐熱老化性評価の結果をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド樹脂及び四フッ化エチレン樹脂を含有し、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、溶融粘度100〜1000Pa・sの四フッ化エチレン樹脂35〜85質量部を含む混合物を溶融混練して得られることを特徴としている
本発明の樹脂組成物は、PAS樹脂に対して所定のPTFE樹脂を所定量含有することで、比誘電率が低く、引張伸び(靭性)に優れ、表面剥離が生じにくいという効果を発揮するものである。
以下に、各成分について詳述する。
【0013】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂(PAS樹脂)]
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として−(Ar−S)−(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本発明では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0014】
上記アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含んだコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
【0015】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、上記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。なお、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0016】
なお、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造又は架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
【0017】
本発明に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1216sec−1)は、上記混合系の場合も含め600Pa・s以下が好ましく、中でも20〜300Pa・sの範囲にあるものは、機械的物性と流動性のバランスが優れており、特に好ましい。
【0018】
本発明においては、PAS樹脂の重量平均分子量は50000〜200000が好ましく、60000〜150000がより好ましく、70000〜100000がさらにより好ましい。当該重量平均分子量が50000〜200000であると、耐熱老化性を向上させることができる。
【0019】
[四フッ化エチレン樹脂(PTFE樹脂)]
PTFE樹脂は、溶融粘度(360℃・せん断速度1216sec−1)が100〜1000Pa・sのものを用いる。PTFE樹脂の溶融粘度が1000Pa・sを超えると凝集性が悪化する傾向を示し、100Pa・s未満であると表面剥離が生じやすくなる。PTFE樹脂の溶融粘度が低い場合、PAS樹脂のような耐熱性の高い樹脂と混練・成形した際に、PAS樹脂中に完全に溶融した低粘度のPTFE樹脂が混練物又は成形体の表層に移動しやすく、その表層が剥離の原因となると推定している。また、PTFE樹脂が表層に移動しない場合でも、混練物又は成形体の内部に滞留し、表層近傍でフィルム状の層をなす場合、このような層も剥離の要因になると推定している。上記範囲の溶融粘度を有するPTFE樹脂を用いることにより、このような表面剥離を抑制することができる。
【0020】
PTFE樹脂は、PAS樹脂100質量部に対して、35〜85質量部含有する。35質量%未満では、低比誘電率化の効果を発揮することができず、85質量部を超えると、引張伸び(靱性)が低下する傾向を示す。当該PTFE樹脂の含有量は、PAS樹脂100質量部に対して40〜85質量部であることが好ましく、50〜85質量部であることがより好ましい。
【0021】
本発明において用いられるPTFE樹脂としては、樹脂組成物の分野において一般的に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、(株)喜多村製のKT−400M、KT−600M、KTL−450A、KTL−610及びKTL−620等が挙げられる。
【0022】
[他の成分]
本発明の樹脂組成物においては、上記各成分の他、本発明の効果を妨げない範囲で、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、すなわち滑剤、核剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、及びUV吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、その他の樹脂等の高分子や、添加剤などを配合してもよい。
【0023】
本発明の被覆材料は、上述の本発明の樹脂組成物を含んでなる。当該被覆材料は、具体的には、導体に被覆材料を被覆してなる電線の被覆材料、モーターインシュレーター、絶縁被膜、電線皮膜、絶縁電線、絶縁フィルムなどに用いられる。
本発明の樹脂組成物を用いて被覆材料を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記樹脂組成物を、必要に応じて各種添加剤を溶融混合し、得られた組成物を、定法に従い、押出し機等を用いて導体表面に被覆することによって製造することができる。組成物の混合手段としては、押出機、ヘンシェルミキサー、ニーダー、軸型混練機、バンバリーミキサー、ロールミル等のコンパウンディング可能な設備を使用することができる。
また、導体は、その径や材質など、特に限定はなく、用途に応じて適宜決定することができる。また、樹脂組成物を被覆して得られる被覆層の厚みも、特に制限はなく、導体の径などを考慮して適宜決定することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1〜9、比較例1〜2]
実施例及び比較例において使用した各PAS樹脂成分の詳細は以下の通りである。
・PAS樹脂1:PPS樹脂(株)クレハ製、フォートロンKPS W214A、重量平均分子量(Mw):64000)
・PAS樹脂2:PPS樹脂(株)クレハ製、フォートロンKPS W220A、重量平均分子量(Mw):80000)
・PAS樹脂3:PPS樹脂(株)クレハ製、フォートロンKPS W300、重量平均分子量(Mw):95000)
上記各PAS樹脂の重量平均分子量(Mw)を以下のようにして測定した。
【0026】
(PAS樹脂の重量平均分子量(Mw)の測定)
溶媒として1−クロロナフタレンを使用し、各PAS樹脂をオイルバスで230℃/10分間過熱溶解後、必要に応じて高温濾過により精製し、0.05質量%濃度溶液を調整した。UV検出器(検出波長:360nm、(株)センシュー科学製、SSC−7000)を用いて、高温GPC測定を行い、標準ポリスチレン換算で分子量を算出した。
【0027】
実施例及び比較例において使用した各PTFE樹脂成分の詳細は以下の通りである。
・PTFE樹脂1:(株)喜多村製、KT−400M(溶融粘度:711Pa・s(せん断速度:1216sec−1、360℃))
・PTFE樹脂2:(株)喜多村製、KTL−450A(溶融粘度:323Pa・s(せん断速度:1216sec−1、360℃))
・PTFE樹脂3:(株)喜多村製、KTL−610(溶融粘度:170Pa・s(せん断速度:1216sec−1、360℃))
・PTFE樹脂4:住友スリーエム(株)製、ダイニオン TF9205(溶融粘度:58Pa・s(せん断速度:1216sec−1、360℃))
上記各PTFE樹脂の溶融粘度を以下のようにして測定した。
【0028】
(PTFE樹脂の溶融粘度の測定)
キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製、キャピログラフ1B)を用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度360℃、せん断速度1216sec−1での溶融粘度を測定した。
【0029】
<ペレット(樹脂組成物)の作製>
下記表1の実施例及び比較例に示すように上記各原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して、溶融混練し、ペレット(樹脂組成物)化した。
また、上記各ペレットの溶融粘度を以下のようにして測定した。
【0030】
(ペレットの溶融粘度の測定)
キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製、キャピログラフ1B)を用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec−1での溶融粘度を測定した。
【0031】
【表1】
表中、各成分の数値は「質量部」を意味する。
【0032】
また、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S−2000i100t)により上記各ペレットから各種試験片を作製し、以下の評価を行った。
【0033】
<比誘電率の測定>
上記各ペレットを用い、射出成形にて、シリンダー温度335℃、金型温度150℃で80mm×80mm×1mmtの平板試験片を作製し、LCRメータ(横河・ヒューレット・パッカード(株)製、4284A)及び誘電体用測定電極(横河・ヒューレット・パッカード(株)製、HP16451B)を用いてIEC60250に準じて、測定周波数1kHzでの比誘電率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0034】
<表面剥離性の測定>
上記各ペレットを用い、射出成形にて、シリンダー温度335℃、金型温度150℃で80mm×80mm×1mmtの平板試験片を作製し、JIS K5400−8.5(JIS D0202)に準じて、表面剥離性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0035】
<引張強度の測定>
上記各ペレットを用い、射出成形にて、シリンダー温度335℃、金型温度150℃で厚み1mmtのダンベル試験片を作製し、ASTM D638に準じて引張強さ(TS)及び引張伸び(TE)を測定した(引張速度50mm/min)。測定結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
<耐熱老化性の測定>
実施例1、4及び7のそれぞれのペレットについて、上記引張強度の測定で用いたものと同一の試験片を作製し、200℃に設定したオーブン中に500、1000及び1500時間のそれぞれの時間放置し、取り出した各試験片について、ASTMD638に準じて引張伸び(TE)を測定した(引張速度50mm/min)。上記引張強度の測定で得られた値を初期値として、初期値に対する上記所定時間経過後の引張伸び(TE)の比の値(百分率)を保持率とした。引張伸び(TE)の保持率の結果を図1に示す。
【0038】
以下、上記各測定結果の評価を示す。
【0039】
<比誘電率の評価>
表2の結果から、各実施例及び比較例2の樹脂組成物はいずれも比誘電率が3.0以下と低い値を示した。一方、比較例1の樹脂組成物は比誘電率が3.2と高い値を示した。
【0040】
<表面剥離性の評価>
表2の結果から、各実施例及び比較例1の樹脂組成物は優れた表面剥離性を有していることが示された。一方、比較例2の樹脂組成物は表面剥離性に劣っていることが示された。
【0041】
<引張強度の評価>
表2における各実施例及び比較例2の結果から、引張強さについては大きな差はないものの、引張伸びについては比較例2に比べて各実施例の樹脂組成物において向上していることが示された。特に、溶融粘度が高い(分子量が大きい)PTFE樹脂を用いることにより樹脂組成物の引張伸びが顕著に向上することが示された。
【0042】
<耐熱老化性の評価>
図1の結果から、重量平均分子量が大きいPAS樹脂を用いることにより、樹脂組成物の耐熱老化性が顕著に向上することが示された。
【0043】
上記結果より、実施例1〜9の樹脂組成物においては、低比誘電率と、優れた引張伸び(靭性)及び表面剥離性が両立されていることが示された。さらに、分子量が大きいPAS樹脂を含む場合には、耐熱老化性にも優れることが示された。これに対し、PTFE樹脂を含まない比較例1は、比誘電率について良好な結果が得られなかった。また、溶融粘度が低いPTFE樹脂を含む比較例2は、表面剥離性及び引張伸びについて良好な結果が得られなかった。
以上より、PAS樹脂に対して、本発明で規定する溶融粘度を有するPTFE樹脂を配合することにより、低比誘電率と、優れた引張伸び(靭性)及び表面剥離性が両立できることが分かる。また、分子量が大きいPAS樹脂を使用することにより、上記特性に加えて耐熱老化性を付与できることが分かる。
図1