【解決手段】心材の両面に皮材をクラッドした磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、皮材はMg:3.0〜6.0mass%(以下、「%」)、Cu:0.005〜0.150%、Zn:0.05〜0.60%、Cr:0.01〜0.30%、Si:0.001〜0.030%、Fe:0.001〜0.030%を含有し、残部Alと不可避的不純物からなり、前記心材はMg:3.0〜6.0%、Mn:1.0〜2.0%を含有し、残部Alと不可避的不純物からなり、心材の金属組織中に円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物が30個/100μm
心材の両面に皮材をクラッドした磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、前記皮材はMg:3.0〜6.0mass%、Cu:0.005〜0.150mass%、Zn:0.05〜0.60mass%、Cr:0.010〜0.300mass%、Si:0.001〜0.030mass%、Fe:0.001〜0.030mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、前記心材はMg:3.0〜6.0mass%、Mn:1.0〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、心材の金属組織中に円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物が30個/100μm3以上分散していることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
心材の両面に皮材をクラッドした磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、前記皮材はMg:3.0〜6.0mass%、Cu:0.005〜0.150mass%、Zn:0.05〜0.60mass%、Cr:0.010〜0.300mass%、Si:0.001〜0.030mass%、Fe:0.001〜0.030mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、前記心材はMg:3.0〜6.0mass%、Mn:1.0〜2.0mass%、Cr:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、心材の金属組織中に円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物が30個/100μm3以上分散していることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、前記心材と皮材の合わせ材を均質化処理する均質化処理工程と、均質化処理材を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程を含み、前記均質化処理工程において、前記合わせ材を500℃を超え560℃以下の温度で1〜20時間保持し、前記熱間圧延工程において圧延開始温度を500℃未満とすることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられるアルミニウム合金製磁気ディスクは、良好なメッキ性を有することとともに機械的特性や加工性が優れたJIS5086(Mg:3.5〜4.5mass%、Fe:0.50mass%以下、Si:0.40mass%以下、Mn:0.20〜0.70mass%、Cr:0.05〜0.25mass%、Cu:0.10mass%以下、Ti:0.15mass%以下、Zn:0.25mass%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる)を用いたアルミニウム合金基板、JIS5086中の不純物であるFe、Si等を制限しマトリックス(母相)中の金属間化合物を小さくしたアルミニウム合金基板、或いは、CuやZnを意識的に添加してメッキ性を改善したアルミニウム合金基板等から製造されている。
【0003】
一般的なアルミニウム合金製磁気ディスクは、まず円環状アルミニウム合金基板を作製し、次いで該合金基板表面に磁性体を付着させることにより製造されている。
【0004】
例えば前記JIS5086合金によるアルミニウム合金製磁気ディスクは以下の工程により製造される。まず、鋳塊を熱間圧延し、次いで焼鈍を施しながら冷間圧延し圧延材を作製する。次に、該圧延材を円環状に打抜き、円環状のアルミニウム合金板を積層し、両面から加圧して平坦化する焼鈍(加圧焼鈍)を行う工程により、円環状アルミニウム合金基板が作製される。
【0005】
このようにして作製された円環状アルミニウム合金基板に、前処理として切削加工、研削加工、脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、次いで下地処理として硬質非磁性金属であるNi−Pを無電解メッキし、該メッキ表面にポリッシングを施した後、磁性体をスパッタリングしてアルミニウム合金製磁気ディスクが製造される。
【0006】
ところで、近年、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化が求められている。大容量化のためには、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数が増加しており、それに伴い磁気ディスクの薄肉化も求められている。しかしながら、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を薄肉化すると強度が低下してしまうため、アルミニウム合金基板の高強度化が求められている。
【0007】
また、磁気ディスクの記録密度の高密度化には、磁気ディスクに対する磁気ヘッドの浮上量をより少なく、かつより安定させる必要がある。このためには、磁気ディスク用アルミニウム合金基板には高い平滑性が求められる。
【0008】
このような実情から、近年ではアルミニウム合金基板の高強度化と高い平滑性が強く望まれ、様々な検討がなされている
【0009】
特許文献1には、Al−Mg系合金にMnを0.05〜1mass%添加し、最終の冷間圧延の加工率を10〜50%とすることで、アルミニウム合金基板の再結晶温度を上げ、未再結晶組織とし高強度化させる高強度磁気ディスク用Alサブストレートの製造方法が記載されている。
【0010】
特許文献2には、不純物元素の含有を極力抑えたAl−Mg系合金の皮材と、皮材と組成が近い心材をクラッドすることで、平滑性を向上させた磁気ディスク用アルミニウム基合金板及びその製造方法が記載されている。
【0011】
特許文献3には、Al−Mg系合金に再結晶温度を上げる効果を有するZrを添加した心材に、不純物元素の含有を極力抑えたAl−Mg系合金の皮材をクラッドすることで、加圧焼鈍時に皮材を再結晶組織に心材を未再結晶組織として、高強度化を図り、かつ平滑性を向上させた磁気ディスク用アルミニウム基合金板及びその製造方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
先ず、アルミニウム合金基板の製造工程から磁気ディスクの製造工程を
図1に示すフローに従って説明する。
【0023】
1.製造工程
(1)まず、ステップ1のアルミニウム合金の調整において、必要に応じたアルミニウム合金に配合する。例えば後述する表1に示す成分組成のアルミニウム合金に配合する。
(2)次に、ステップ2の心材の作製において、ステップ1で配合したアルミニウム合金を鋳造し、更に鋳塊の面削を行って心材とする。
(3)次に、ステップ3の皮材の作製において、配合したアルミニウム合金を鋳造し、鋳塊の面削を行い、更に均質化処理を行なう。ここで、均質化処理は必須ではない。均質化処理後に、熱間圧延して皮材とする。
(4)次に、ステップ4の合わせ材の均質化処理において、心材と皮材を合わせて合わせ材とし、更に合わせ材を均質化処理する。
(5)次に、ステップ5の熱間圧延において、均質化処理した合わせ材を熱間圧延して板材とする。
(6)次に、ステップ6の冷間圧延において、熱間圧延した板材を冷間圧延してアルミニウム合金圧延板とする。なお、冷間圧延中又はその前に中間焼鈍を行なってもよい。
(7)次に、ステップ7のディスクブランクの作製において、アルミニウム合金圧延板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作製する。
(8)次に、ステップ8の加圧平坦化処理において、ディスクブランクを加圧焼鈍することにより平坦化してアルミニウム合金基板を作製する。
(9)次に、ステップ9の研削加工において、アルミニウム合金基板に切削加工と研削加工を施し、更に、脱脂処理とエッチング処理を施す。
(10)次に、ステップ10のジンケート処理において、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面にジンケート処理(Zn置換処理)を施す。
(11)次に、ステップ11の下地メッキ処理において、ジンケート処理した基板表面に下地処理(Ni−Pメッキ)を施す。
(12)次に、ステップ12の磁性体の付着工程において、下地メッキ処理した基板表面にスパッタリングによって磁性体を付着させて磁気ディスクとする。
【0024】
2.心材
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板の心材について説明する。
心材を構成するアルミニウム合金は、Mg:3.0〜6.0mass%(質量%ともいう。以下、単に「%」と記す)、Mn:1.0〜2.0%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる。
【0025】
Mg:3.0〜6.0%
Mgは、主としてアルミニウム合金基板の強度を向上させる効果を有する元素である。
Mgの含有量が3.0%未満ではその効果が十分に得られず、6.0%を超えると熱間圧延時の変形抵抗が大きくなり圧延荷重が増加し、圧延負荷が圧延機の能力を超えてしまうような場合には圧延できなくなる。従って、Mgの含有量は3.0〜6.0%とする。Mgの含有量は、強度及び製造の容易さの兼合いから3.5〜5.5%とするのが好ましい。
【0026】
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、微細なAl−Mn系金属間化合物として生成され、又は、マトリックスに一部固溶して、加圧焼鈍時に再結晶粒の粗大化を抑制する効果を発揮し、強度などの機械的特性を向上させる元素である。Mn含有量が1.0%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が2.0%を超えても上記効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。好ましいMn含有量は、1.4〜1.8%である。
【0027】
心材の強度を更に向上させるために、CrとZrの両方を、又は一方を更に加えてもよい。
Cr:0.05〜0.30%
Crは微細な金属間化合物として生成され、又はマトリックスに一部固溶して、加圧焼鈍時に再結晶粒の粗大化を抑制する効果を発揮し、強度などの機械的特性を向上させる元素である。Cr含有量が0.05%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が0.3%を超えても上記効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。なお、Crと共にZrを共存させることにより、上記効果は更に大きくなる。
【0028】
Zr:0.05〜0.30%
Zrは微細な金属間化合物として生成され、又はマトリックスに一部固溶して、加圧焼鈍時に再結晶粒の粗大化を抑制する効果を発揮し、強度などの機械的特性を向上させる元素である。Zr含有量が0.05%未満では上記効果が十分に得られない。一方、Zr含有量が0.3%を超えても上記効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。上述のように、ZrとCrとを共存させることにより、上記効果は更に大きくなる。
【0029】
不可避的不純物
上記各元素の他は、Al及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えばSi、Fe、Ti、V、Ga、B等が挙げられる。ここで、SiとFeが共に0.3%以下で、それ以外の元素がそれぞれ0.05%以下であれば、本発明で得られるアルミニウム合金基板としてその特性を損なうことはない。
【0030】
3.皮材
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板の皮材について説明する。
皮材を構成するアルミニウム合金は、Mg:3.0〜6.0%、Cu:0.005〜0.150%、Zn:0.05〜0.60%、Cr:0.01〜0.30%、Si:0.001〜0.030%、Fe:0.001〜0.030%を含有し、残部Alと不可避的不純物からなる。
【0031】
Mg:3.0〜6.0%
Mgは、主としてアルミニウム合金基板の強度を向上させる効果を有する元素である。Mgの含有量を3.0〜6.0%に規定した理由は、3.0%未満では強度が不十分であり、6.0%を超えると熱間圧延時の変形抵抗が大きくなり圧延荷重が増加し、圧延負荷が圧延機の能力を超えてしまうような場合には圧延できなくなる。Mgの含有量は、強度及び製造の容易さの兼合いから3.5〜5.5%とするのが好ましい。
【0032】
Cu:0.005〜0.150%
Cuは、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させる効果を有する元素である。このような効果により、次工程のNi−Pからなるメッキ表面の平滑性を向上させることができる。
【0033】
Cuの含有量を0.005〜0.150%に規定した理由は、以下の通りである。0.005%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、0.150%を超えると粗大なAl−Cu−Mg−Zn系金属間化合物が生成して、メッキ処理後ピットが発生し平滑性が低下する。更に、0.150%を超えると、材料自体の耐食性を低下させるため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、メッキの密着性や平滑性が低下する。好ましいCu含有量は、0.005〜0.100%である。
【0034】
Zn:0.05〜0.60%
Znは、Cuと同様にジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のメッキ表面の平滑性を向上させる効果を有する元素である。
【0035】
Znの含有量を0.05〜0.6%に規定した理由は、以下の通りである。0.05%未満では上記効果が十分に得られない。一方、0.60%を超えると、粗大なAl−Cu−Mg−Zn系金属間化合物が生成して、メッキ処理後ピットが発生し平滑性が低下する。更に、0.60%を超えると、材料自体の加工性や耐食性を低下させる。好ましいZn含有量は、0.05〜0.50%である。
【0036】
Cr:0.010〜0.300%
Crは、鋳造時に微細な金属間化合物を生成するが、一部はマトリックスに固溶して強度向上に寄与する。また、切削性と研削性を向上させ、更に再結晶組織を微細にして、メッキ層の密着性を向上させる効果を発揮する。
【0037】
Crの含有量を0.010〜0.300%に規定した理由は、以下の通りである。0.010%未満では上記効果が十分に得られない。一方、0.300%を超えると鋳造時に過剰分が晶出すると同時に粗大なAl−Cr系金属間化合物が生成し、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きなピットが発生し、メッキ面の平滑性が低下する。好ましいCr含有量は、0.010〜0.200%である。
【0038】
Si:0.001〜0.030%
Siは本発明の必須元素であるMgと結合し、メッキ層において欠陥となる金属間化合物を生成するため、アルミニウム合金中にSiが含有されることは好ましくない。しかしながら、Siはアルミニウム地金に不可避的不純物として存在する元素である。アルミニウム合金の組成調整には純度の高い、例えば純度99.9%以上のアルミニウム地金を採用するが、このような地金にもSiが不可避的に含有する。アルミニウム地金からSiを0.001%未満まで取り除くことはアルミニウム地金を高純度に精錬することとなり、コスト高を招く。一方、Siの含有量が0.030%を超えると粗大なMg−Si系金属間化合物が生成して、ピットなどの発生原因になる。従ってSiの含有量が0.03%以下となるよう調整する。好ましいSi含有量は、0.001%以上0.025%未満である。
【0039】
Fe:0.001〜0.030%
Feはアルミニウム中には殆ど固溶せず、Al−Fe系金属間化合物としてアルミニウム地金中に存在する。このアルミニウム地金中に存在するFeは、本発明の必須元素であるAlと結合し、メッキ層において欠陥となる金属間化合物を生成するため、アルミニウム合金中にFeが含有されることは好ましくない。しかしながら、Feを0.001%未満まで取り除くのはアルミニウム地金を高純度に精錬することになりコスト高を招く。一方、Fe含有量が0.03%を超えると粗大なAl−Fe系金属間化合物が生成して、ピットなどの発生原因になる。好ましいFe含有量は、0.001〜0.025%である。
【0040】
Be:0.0001〜0.0050%
Mgを含有するアルミニウム合金は、一般にその鋳造時において、Mgの溶湯酸化を抑制するため微量のBeを添加する。従って、本発明のアルミニウム合金においても、微量のBeを添加することは許容される。但し、Be添加量が0.0001%未満では、上記効果が得られない。一方、Be添加量が0.0050%を超えても上記効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。従って、Beを添加する場合のBe添加量は、0.0001〜0.0050%とするのが好ましく、0.0001〜0.0025%とするのが更に好ましい。
【0041】
不可避的不純物
上記各元素の他は、Al及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、上記Si、Feを除く、例えばTi、V、Ga、B等が挙げられる。ここで、これらの元素がそれぞれ0.05%以下であれば、本発明で得られるアルミニウム合金基板としてその特性を損なうことはない。
【0042】
4.心材のAl−Mn系金属間化合物の分布状態
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板の心材におけるAl−Mn系金属間化合物の分布状態について説明する。
上記のように、心材の金属組織中において、0.05〜1.00μmの円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物が30個/100μm
3以上、好ましくは100個/100μm
3以上の体積密度で分散する。これにより、加圧焼鈍時において再結晶粒の粗大化が抑制され、強度などの機械的特性を向上させることができる。円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の分散密度が30個/100μm
3未満であって、分散する他のAl−Mn系金属間化合物の円相当直径が0.05μm未満の場合には、加圧焼鈍時に再結晶粒が粗大化し、強度が低下する。一方、円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の分散密度が30個/100μm
3未満であって、分散する他のAl−Mn系金属間化合物の円相当直径が1.00μmを超える場合には、加圧焼鈍時に再結晶粒が粗大化し、強度が低下する。なお、円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の分散密度の上限は特に規定されるものではないが、アルミニウム合金の組成と製造工程によって自ずとこの上限は決まり、本発明で採用する合金組成と製造工程によれば、2000個/100μm
3が分散密度の上限となる。
【0043】
心材の金属組織中に分散するAl−Mn系金属間化合物のうち、円相当直径が0.05μm未満のものと1.00μmを超えるものについては、加圧焼鈍の際に再結晶粒の粗大化を十分に抑制することができないため、分散密度の対象から外した。
【0044】
5.心材の結晶組織と強度及び平坦度
クラッド材の強度の大半は、心材が担っている。心材の強度はその結晶粒径が小さいほど高くなることから、心材の結晶粒径は40μm以下とすることが好ましく、30μm以下とするのがより好ましい。心材の結晶粒径が40μmを超える場合は、十分な強度が得られない。また、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板の心材と皮材の組織は、平坦度の観点から歪が少ない再結晶組織とすることが好ましい。
【0045】
6.磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法について詳細に説明する。この製造方法における各ステップは
図1に示す通りであり、各ステップは、心材のAl−Mn系金属間化合物の分布状態に関係する。本発明者らは、ステップ4の心材と皮材の合わせ材の均質化処理時の保持温度と保持時間、ならびに、ステップ5の熱間圧延の開始温度に特に注目した。
【0046】
ステップ1
心材用及び皮材用のアルミニウム合金は、従来のように溶解炉にアルミニウム地金等を投入し、加熱・溶融することによって調製される。
【0047】
ステップ2
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板を圧延圧接法で製造する場合、
図1に示すステップ2の心材には、例えば、半連続鋳造(DC鋳造)法で調製した鋳塊を面削したものを用いる。鋳造後、面削や切削等の機械的除去やアルカリ洗浄等の化学的除去を行ってMgOなどの酸化皮膜を除去しておくと、後の皮材との圧接が良好になされる。
【0048】
ステップ3
ステップ3の皮材はDC鋳造法で得た鋳塊を面削し、均質化処理したのち、熱間圧延して所定寸法の板材とする。均質化処理は行わなくても良いが、実施する場合には350〜550℃で1時間以上等の条件で行うことが好ましい。熱間圧延をするに当たっては、特にその条件は限定されるものではなく、熱間圧延開始温度を350〜500℃とし、熱間圧延終了温度は260〜380℃とすることが好ましい。また、熱間圧延後の素板を硝酸や苛性ソーダ等で素洗いすると、熱間加工で生成したMgOなどの酸化皮膜が除去され、心材との圧接が良好になされる。
【0049】
ステップ4
本発明において、心材と皮材をクラッドするには種々の方法が適用できる。例えば、ブレージングシートの製造等に通常使用される圧延圧接法が挙げられる。この圧延圧接法においては、心材と皮材の合わせ材に、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延をこの順序で施すことにより行われる。
【0050】
本発明において、心材と皮材をクラッドするに当たり、皮材のクラッド率(クラッド材全厚さに対する皮材厚さの比率)は特に限定されるものではないが、必要な製品板強度や平坦度、研削量に応じて適宜定められ、3〜30%とするのが好ましく、5〜20%とするのがより好ましい。
【0051】
ステップ4において、心材と皮材の合わせ材を500℃を超え560℃以下の温度で1〜20時間保持することによって均質化処理を施す。均質化処理温度が500℃以下の場合には、Al−Mn系金属間化合物の生成量が少なくなり、加圧焼鈍時に再結晶粒が粗大化して強度が低下する。一方、均質化処理温度が560℃を超える場合には、合わせ材において溶解が起こる可能性がある。均質化処理温度は、好ましくは510〜550℃である。また、均質化処理時間が1時間未満の場合には、Al−Mn系金属間化合物の生成が少なくなり、加圧焼鈍時に再結晶粒が粗大化して強度が低下する。一方、均質化処理時間が20時間を超える場合には、粗大なAl−Mn系金属間化合物が多く生成し、加圧焼鈍時において再結晶粒の粗大化を抑制する効果が低減するため、強度が低下する。均質化処理時間は、好ましくは3〜10時間である。
【0052】
心材と皮材の合わせ材を均質化処理する際には、心材と皮材の界面のMgOの生成を極力抑制する必要がある。そのためには、MgOが生成し易い組成を有するアルミニウム合金を均質化処理する場合には、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス;一酸化炭素などの還元性ガス;真空などの減圧ガス;などの非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0053】
ステップ5
ステップ5における合わせ材の熱間圧延では、熱間圧延の開始温度を500℃未満とする。熱間圧延の開始温度が500℃以上の場合には、熱間圧延中に粗大なAl−Mn系金属間化合物が多く生成し、加圧焼鈍時における再結晶粒の粗大化を抑制する効果が低減するため、強度が低下する。なお、熱間圧延の開始温度の下限値については、アルミニウム合金の組成などにも依存するが、370℃とするのが好ましく、400℃とするのがより好ましい。また、熱間圧延終了温度は特に限定されるものではなく、260〜380℃とすることが好ましい。
【0054】
ステップ6
ステップ6において、熱間圧延した合わせ材に冷間圧延を施す。冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて適宜定めれば良く、通常は圧延率を20〜90%で行なう。また、冷間圧延中又は冷間圧延前に中間焼鈍を施してもよい。中間焼鈍の条件は限定されるものではなく、連続炉を用いた連続式焼鈍、或いは、バッチ炉を用いたバッチ式焼鈍のいずれを用いてもよい。焼鈍条件としては、280〜450℃の温度で0〜10時間の焼鈍処理するのが好ましい。なお、焼鈍時間が0時間とは、所定の焼鈍時間に達して直ちに焼鈍を終了するものである。
【0055】
以上が、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であるが、これらのステップに続いて以下のステップ7〜12により磁気ディスクが製造される。
【0056】
ステップ7〜12
ステップ7において、冷間圧延後又は焼鈍後のアルミニウム合金圧延板を円環状に打ち抜いてディスクブランクを作製する。次いで、ステップ8において、ディスクブランクを、例えば、280〜450℃の大気中で30分以上の加圧焼鈍を行なうことにより加圧平坦化処理を施す。
【0057】
更にステップ9において、平坦化したディスクブランクに切削加工と研削加工の研削加工を施す。その後に、必要に応じて、脱脂やエッチングを行なってもよい。次いで、ステップ10においてジンケート処理、ステップ11において下地メッキ処理、ステップ12においてスパッタリングによる磁性体の付着工程が行なわれ、磁気ディスクが作製される。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明例と比較例により本発明を詳細に説明する。まず、
図1の各ステップについて下記に示す。
【0059】
(1)ステップ1:表1に示す成分組成のアルミニウム合金溶湯(750℃)を溶製した。
(2)ステップ2:アルミニウム合金溶湯をDC鋳造法により厚さ220mmの鋳塊とし、両面10mmの面削を行なって心材とした。
(3)ステップ3:合金No.29以外のアルミニウム合金溶湯をDC鋳造法により厚さ220mmの鋳塊とした。次いで、鋳塊の両面10mmの面削を行い、大気中にて550℃で6時間の均質化処理をし、熱間圧延を行ない表2に示す板厚の熱間圧延板とした。その後、熱間圧延板を苛性ソーダで素洗いし皮材とした。
(4)ステップ4:比較例29では、皮材を用いないで心材のみのアルミニウム合金基板試料とした。比較例29以外では、心材の両面に皮材を合わせて合わせ材とし、表2に示す条件で均質化処理を施した。クラッド率と均質化処理条件を表2に示す。MgOを制御する為、大気雰囲気以外に不活性ガス(アルゴン、窒素)、還元性ガス(一酸化炭素)及び真空の非酸化性雰囲気中で均質化処理を行った。
(5)ステップ5:表2に示す条件で開始温度で熱間圧延を行ない、板厚3.0mmの熱延板とした。
(6)ステップ6:冷間圧延により最終板厚の1.0mmまで圧延し、圧延板とした。
(7)ステップ7:前記圧延板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作成した。
(8)ステップ8:ディスクブランクに380℃で3時間加圧焼鈍を施した。
(9)ステップ9:端面加工、グラインディング加工(表面20μm研削)を行った。その後、AD−68F(上村工業製)により60℃で5分の脱脂を行った後、AD−107F(上村工業製)により65℃で1分のエッチングを行い、更に30%HNO
3水溶液(室温)で20秒間デスマットを行なった。
(10)ステップ10:ディスクブランク表面に、AD−301F−3X(上村工業製)を用いてダブルジンケート処理を施した。
(11)ステップ11:ジンケート処理した表面に無電解Ni−Pメッキ処理液(ニムデンHDX(上村工業製))を用いてNi−Pを17μm厚さに無電解メッキし、その後、羽布により仕上げ研磨(研磨量4μm))を行った。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
上記冷間圧延(ステップ6)後、加圧焼鈍(ステップ8)後、ならびに、メッキ処理(ステップ11)後の磁気ディスク用アルミニウム合金基板について以下の評価を行った。なお、比較例25では均質化処理中にアルミニウム合金基板試料の溶解が発生し、アルミニウム合金基板を作製できなかった。また、比較例12と15では、Mg含有量が6.0%を超えているため熱間圧延時の変形抵抗が大きくなり熱間圧延ができず、アルミニウム合金基板試料を作製できなかった。そのため比較例12、15及び25は下記評価を行っていない。
【0063】
〔強度〕
冷間圧延板を380℃で3時間の条件で加熱した後、圧延方向に沿って切り出したJIS5号試験片の耐力(圧延方向に沿った方向における)を、島津製作所製インストロン型引張試験機AG−50kNGを使用して測定した。測定条件は、標点距離50mm、クロスヘッド速度10mm/分とした。耐力130MPa以上のものを優良(◎印)とし、耐力120MPa以上130MPa未満のものを良好(○印)とし、耐力120MPa未満のものを不良(×印)とした。
【0064】
〔心材の円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の分布〕
円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の分布を体積密度(個/100μm
3)として測定した。体積密度は、加圧焼鈍後のブランクの心材を用い、その圧延方向に沿った厚さ断面の走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察から求めた。Al−Mn系金属間化合物は、STEM−EDS分析で特定した。観察は合計で100μm
3視野となるようにSTEM写真の撮影を複数箇所で行い、円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の個数を数え、100μm
3全体での合計個数をもって体積密度(個/100μm
3)を求めた。なお、このような測定を3回行なって、その算術平均値をもって試料の体積密度(個/100μm
3)とした。
【0065】
〔心材の円相当直径1.00μmを超えるAl−Mn系金属間化合物の分布〕
円相当直径1.00μmを超えるAl−Mn系金属間化合物の分布を体積密度(個/100μm
3)として測定した。体積密度は、上記と同じ方法で測定を行った。なお、円相当直径0.05μm未満のAl−Mn系金属間化合物の分布については、上記測定方法では円相当直径の測定及び存在個数の測定が困難であった。
【0066】
〔Ni−Pメッキ表面平滑性〕
Ni−Pメッキ処理後のアルミニウム合金基板の表面を光学顕微鏡にて観察(視野:1mm
2)し、ピットの個数を数え、単位面積当たりの個数(個/mm
2)を求めた。なお、このような測定を3回行なって、その算術平均値をもって試料の単位面積当たりの個数(個/m
2)とした。ピットが5個/mm
2未満の場合を優良(◎印)とし、5個/mm
2以上の場合を不良(×印)とした。
【0067】
〔総合評価〕
上記評価が全て◎で構成されている場合を、総合評価が◎(合格)とした。評価が◎と○で構成されている場合を、総合評価が○(合格)とした。評価に×が含まれている場合を、総合評価が×(不合格)とした。以上の評価結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すように、本発明例1〜10では、高強度で平滑性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金基板が得られた。
【0070】
これに対して、比較例では何れも本発明の限定条件を外れる要素を含んでいたため、強度、平滑性の少なくともいずれかが劣り、磁気ディスクの高容量化及び高密度化、薄肉化が可能な磁気ディスク用アルミニウム合金基板が得られなかった。
【0071】
即ち、比較例11では、心材のMgの含有量が少ないために耐力が低かった。
【0072】
比較例13では、心材のMnの含有量が少なく、円相当直径0.05〜1μmのAl−Mn系金属間化合物が少ないために耐力が低かった。
【0073】
比較例14では、皮材のMgの含有量が少ないために耐力が低かった。
【0074】
比較例16では、皮材のCuの含有量が少なかったためにジンケート皮膜が不均一となり、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0075】
比較例17では、皮材のCuの含有量が多かったために粗大なAl−Cu−Mg−Zn系金属間化合物が生成した。その結果、この金属間化合物がメッキ前処理時に脱落し、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0076】
比較例18では、皮材のZnの含有量が少なかったためにジンケート皮膜が不均一となり、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0077】
比較例19では、皮材のZnの含有量が多かったために粗大なAl−Cu−Mg−Zn系金属間化合物が生成した。その結果、この金属間化合物がメッキ前処理時に脱落し、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0078】
比較例20では、皮材のCrの含有量が少なかったために結晶粒が粗大化し、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0079】
比較例21では、皮材のCrの含有量が多かったために粗大なAl−Cr系金属間化合物が生成した。その結果、この金属間化合物がメッキ前処理時に脱落し、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0080】
比較例22では、Feの含有量が多かったために粗大なAl−Fe系金属間化合物が生成した。その結果、この金属間化合物がメッキ前処理時に脱落し、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0081】
比較例23では、Siの含有量が多かったために粗大なMg−Si系金属間化合物が生成した。その結果、この金属間化合物がメッキ前処理時に脱落し、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0082】
比較例24では、均質化処理時の保持温度が低過ぎたために円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の生成が少なく、耐力が低かった。
【0083】
比較例26では、均質化処理時の保持時間が短過ぎたために円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の生成が少なく、耐力が低かった。
【0084】
比較例27では、均質化処理時の保持時間が長過ぎたために円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の生成が少なく、耐力が低かった。
【0085】
比較例28では、熱間圧延の開始温度が高過ぎたために円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の生成が少なく、耐力が低かった。
【0086】
比較例29では、皮材を用いず、均質化処理時の保持温度が低過ぎたために円相当直径0.05〜1.00μmのAl−Mn系金属間化合物の生成が少なく、耐力が低かった。また、粗大なAl−Fe−Mn系の金属間化合物がアルミニウム合金基板表面に多数存在した。その結果、この金属間化合物がメッキ前処理時に脱落し、メッキ表面の平滑性に劣った。
【0087】
上述したように、各比較例では、強度と平滑性のいずれかが劣っていたため、磁気ディスクの高容量化及び高密度化、薄肉化が可能な磁気ディスク用アルミニウム合金基板が得られなかった。