【課題】ジリジリ感のような体感を感じる虞がなく、高い熱線遮蔽性、高い可視光透過率及び高い耐摩耗性を長期間に亘って維持することが可能な透明樹脂組成物及び塗膜並びに熱線遮蔽フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の透明樹脂組成物は、透明性樹脂と、無機粒子とを含有してなる透明樹脂組成物であり、厚みを1.0μmとしたときの可視光透過率は80%以上、1500nm以上かつ2200nm以下の波長領域の光の平均透過率は10%以下である。
前記無機粒子は、スズ添加酸化インジウム、アンチモン添加酸化スズ、セシウム添加酸化タングステン、アルミニウム添加酸化亜鉛、ガリウム添加酸化亜鉛及びニオブ添加酸化チタンの群から選択される1種または2種以上の金属複合酸化物を含有してなることを特徴とする請求項1記載の透明樹脂組成物。
前記無機粒子の表面は、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基のうちいずれか一方または双方を含む有機基にて修飾されていることを特徴とする請求項1または2記載の透明樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の透明樹脂組成物及び塗膜並びに熱線遮蔽フィルムを実施するための形態について説明する。
なお、以下の実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
[透明樹脂組成物]
本実施形態の透明樹脂組成物は、透明性樹脂と、無機粒子とを含有してなる透明樹脂組成物であり、厚みを1.0μmとしたとき、可視光透過率は80%以上、1500nm以上かつ2200nm以下の波長領域の光の平均透過率は10%以下である。
【0018】
透明性樹脂としては、透明であればよく、特に限定されることはないが、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂等の熱硬化型樹脂あるいは紫外線硬化型樹脂が好適に用いられる。
【0019】
無機粒子としては、導電性を有することが好ましく、自由電子密度が10
20/cm
3以上かつ10
22/cm
3以下の導電性粒子が好ましい。
このような無機粒子としては、例えば、アンチモン添加酸化スズ(ATO)、スズ酸化インジウム(ITO)、セシウム添加酸化タングステン、アルミニウム添加酸化亜鉛、ガリウム添加酸化亜鉛及びニオブ添加酸化チタンの群から選択される1種または2種以上の金属複合酸化物が挙げられる。
これらの金属複合酸化物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
無機粒子の平均一次粒子径は、用途に応じて適宜選択すればよいが、透明性及び耐摩耗性に優れたものとするためには、3nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以上かつ75nm以下、さらに好ましくは7nm以上かつ40nm以下である。
【0021】
本実施形態において、「平均一次粒子径」とは、個々の無機粒子そのものの粒子径のことである。
この平均一次粒子径の測定方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて、無機粒子それぞれの長径、例えば、100個以上の金属酸化物粒子、好ましくは500個の金属酸化物粒子それぞれの長径を測定し、その算術平均値を算出する方法が挙げられる。
【0022】
この透明樹脂組成物における無機粒子の含有率は、5体積%以上かつ40体積%以下が好ましく、10体積%以上かつ30体積%以下がより好ましい。
この透明樹脂組成物における無機粒子の含有率を上記の範囲とすることにより、この透明樹脂組成物における無機粒子の良好な分散安定性を得ることができる。
【0023】
この無機粒子の表面は、1つの分子中にアクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基のうちいずれか一方または双方を含む有機基を有する有機化合物にて修飾されていることが好ましい。
このような有機化合物としては、特に限定されないが、反応性、透明性、耐候性、硬度に優れた多官能アクリレート、シランカップリング剤等が好ましい。ここで多官能アクリレートとは、3個以上の官能基を有するアクリレートのことである。3個以上の官能基は、全て同種の官能基であってもよく、異なる2種以上の官能基であってもよい。
【0024】
多官能アクリレートの具体例としては、例えば、(メタ)トリメチロールプロパントリアクリレート、(メタ)ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、(メタ)ペンタエリスリトールトリアクリレート、(メタ)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、(メタ)ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールポリアクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、ポリシロキサンアクリレート等が挙げられる。これらの多官能アクリレートは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
シランカップリング剤としては、1つの分子中にアクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基のうちいずれか一方または双方を有していればよく、特に限定されないが、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
また、シランカップリング剤としては、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルエチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエチルジエトキシシラン、p−スチリルエチルジメトキシシラン、p−スチリルエチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン、アリルエチルジメトキシシラン、アリルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0027】
さらに、シランカップリング剤としては、ビニルジエチルメトキシシラン、ビニルジエチルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、p−スチリルジエチルメトキシシラン、p−スチリルジエチルエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルジエチルエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジエチルエトキシシラン、アリルジエチルメトキシシラン、アリルジエチルエトキシシラン等が挙げられる。
これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を同時に用いてもよい。
【0028】
この透明樹脂組成物は、厚みを1.0μmとしたときの可視光透過率は80%以上が好ましく、より好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上である。
この透明樹脂組成物の可視光透過率が80%未満では、この透明樹脂組成物を用いて自動車のフロントガラスや建築物の窓ガラスの表面に塗膜を形成した場合に、可視光透過率が低くなり、透明性を十分に確保することができなくなるので好ましくない。
【0029】
また、この透明樹脂組成物は、厚みを1.0μmとしたときの1500nm以上かつ2200nm以下の波長領域の光の平均透過率は10%以下が好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。
この透明樹脂組成物の1500nm以上かつ2200nm以下の波長領域の光の平均透過率が10%を超えると、この透明樹脂組成物を用いて自動車のフロントガラスや建築物の窓ガラスの表面に塗膜を形成した場合に、遮蔽係数等の定量的指標の数値以上にジリジリ感のような体感を感じることとなるので好ましくない。
【0030】
この透明樹脂組成物における無機粒子の平均分散粒径は、5nm以上かつ600nm以下が好ましく、より好ましくは、10nm以上かつ500nm以下、さらに好ましくは、20nm以上かつ300nm以下である。
【0031】
この透明樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲内で分散剤、重合開始剤、帯電防止剤、屈折率調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、レベリング剤、消泡剤、無機充填剤、カップリング剤、防腐剤、可塑剤、流動調整剤、増粘剤、pH調整剤、重合開始剤等の各種添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0032】
分散剤としては、例えば、硫酸エステル系、カルボン酸系、ポリカルボン酸系等のアニオン型界面活性剤、アミン類等のカチオン型界面活性剤、高級脂肪酸ポリエチレングリコールエステル系等のノニオン型界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アマイドエステル結合を有する高分子系界面活性剤等が挙げられる。
これらの分散剤の種類や量は複合粒子の粒子径や目的とする分散媒の種類により適宜選択すればよく、上記分散剤のうち1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
アミン類としては、例えば、アミン、アミド、アミン系分散剤、アミン系界面活性剤、アミド型モノマー、アミン系溶媒、アミド系溶媒等が挙げられる。
アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれを用いてもよく、これらを混合して用いてもよいが、三級アミンを用いることがより好ましい。
アミド型モノマーとしては、例えば、アクリルアミド型モノマーやメタクリルアミド型モノマーが好適に用いられる。このようなアミド型モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド等が挙げられる。
【0034】
重合開始剤は、用いるモノマーの種類に応じて、適宜選択される。光硬化性樹脂のモノマーを用いる場合には、光重合開始剤が用いられる。光重合開始剤の種類や量は、使用する光硬化性樹脂のモノマーに応じて適宜選択される。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ジケトン系、アセトフェノン系、ベンゾイン系、チオキサントン系、キノン系、ベンジルジメチルケタール系、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、フェニルフォスフィンオキサイド系等の公知の光重合開始剤が挙げられる。
【0035】
増粘剤としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、ヒアルロン酸、アルブミン、デンプン等の天然の水溶性高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の半合成高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボマー(カルボキシビニルポリマー)、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキシド等の合成高分子、ベントナイト、ラポナイト、ヘクトライト等の無機鉱物等が好適に用いられる。これらの増粘剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
分散剤の添加量は、良好な分散性が得られる程度に適宜調整されればよく、例えば、無機粒子の全質量に対して、10質量%以上かつ40質量%以下であることが好ましく、12質量%以上かつ30質量%以下であることがより好ましく、13質量%以上かつ25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
この透明樹脂組成物は、基材に塗布して塗膜を形成するものであることから、塗工を容易にするためには、粘度が0.2mPa・s以上かつ500mPa・s以下であることが好ましく、0.5mPa・s以上かつ200mPa・s以下であることがより好ましい。
この透明樹脂組成物の粘度が0.2mPa・s以上であれば、塗膜にした時の膜厚が薄くなりすぎず、膜厚の制御が容易であるので好ましい。一方、この透明樹脂組成物の粘度が500mPa・s以下であれば、粘度が高すぎず、塗工時における透明樹脂組成物の取扱いが容易となるので好ましい。
【0038】
この透明樹脂組成物の粘度は、透明樹脂組成物に適宜、有機溶媒を添加して、上記範囲に調整することが好ましい。
有機溶媒としては、上記の透明樹脂組成物と相溶性がよいものであればよく、特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アミド系溶媒、エーテルエステル系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
この透明樹脂組成物は、上述した透明性樹脂と、無機粒子と、必要に応じて分散剤、重合開始剤等を、機械的に混合する方法により得ることができる。
混合装置としては、例えば、撹拌機、自公転式ミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0040】
[塗膜]
本実施形態の塗膜は、本実施形態の透明樹脂組成物を用いて形成されている。
この塗膜の膜厚は、用途に応じて適宜調整されるが、通常0.01μm以上かつ20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上かつ10μm以下であることがより好ましい。
【0041】
この塗膜は、上記の透明樹脂組成物を被塗布物上に塗工することで塗膜を形成する工程と、この塗膜を硬化させる工程とを有する。
塗膜を形成する塗工方法としては、例えば、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ディップコート法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースロールコート法、ナイフコータ法、スクリーン印刷法、キスコータ法等、通常のウェットコート法が用いられる。
【0042】
塗膜を硬化させる硬化方法としては、含まれる透明樹脂の種類に応じて適宜選択される。
例えば、含まれる透明樹脂が熱硬化型樹脂の場合、この樹脂が硬化するのに十分な温度及び時間にて加熱することにより硬化させることができる。
また、含まれる透明樹脂が光硬化型樹脂の場合、この樹脂が硬化するのに十分なエネルギーを有する光を所定時間照射することにより硬化させることができる。
【0043】
光硬化に用いるエネルギー線としては、塗膜が硬化すれば、特に限定されないが、例えば、紫外線、遠赤外線、近紫外線、赤外線、X線、γ線、電子線、プロトン線、中性子線等のエネルギー線が用いられる。これらのエネルギー線の中でも、硬化速度が速く、装置の入手および取り扱いが容易である点から、紫外線を用いることが好ましい。
【0044】
紫外線照射による硬化の場合、200nm〜500nmの波長帯域の紫外線を発生する高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ等を用いて、100〜3,000mJ/cm
2のエネルギーにて、紫外線を照射する方法等が挙げられる。
【0045】
本実施形態の塗膜では、上記の透明樹脂組成物に含まれる無機粒子の大きさがほぼ均一であるから、塗膜中に無機粒子が隙間なく均一に充填され易く、よって、塗膜の成膜性に優れたものとなり、膜面内のすべての箇所での特性が均一となる。したがって、この塗膜の面内における屈折率がほぼ均一となり、塗膜の色ムラの発生が抑制される。
この塗膜が、自動車のフロントガラスや建築物の窓ガラスの表面等に適用された場合には、熱線遮蔽性が十分に得られ、透明性及び耐摩耗性が十分に得られる。
【0046】
[熱線遮蔽フィルム]
本実施形態の熱線遮蔽フィルムは、基材上に、本実施形態の塗膜を形成している。
この基材としては、可視光線を透過する樹脂であればよく、例えば、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE) 、ポリ塩化三フッ化エチレン(PCTFE)等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルを材料としたフィルムが透明性、安定性、コスト等の点から好ましく、特に、ポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましい。
【0047】
この基材としては、シート状であってもよく、フィルム状であってもよいが、フィルム状であることが好ましい。
この基材の厚みは、その材料や、形成される熱線遮蔽フィルムの用途等に応じて適宜選択できるが、例えば、25μm〜200μm程度のものが好ましく用いられる。
【0048】
この熱線遮蔽フィルムは、基材上に、本実施形態の透明樹脂組成物を、公知の塗工法、例えば、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ディップコート法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースロールコート法、ナイフコータ法、スクリーン印刷法、キスコータ法等、通常のウェットコート法を用いて塗工することで塗膜を形成し、その塗膜を、加熱または紫外線等の光を照射することにより硬化させることで得られる。
【0049】
この熱線遮蔽フィルムは、視認性を保つために、可視光透過率が70%以上であることが好ましい。
また、透明性を損なわないためには、ヘイズ(Hz)値は2%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。
ここで、「ヘーズ値」とは、全光線透過光に対する拡散透過光の割合(%)のことであり、空気を基準として、ヘイズメーター NDH−2000(日本電色社製)を用い、日本工業規格JIS−K−7136に基づいて測定することにより得ることができる。
【0050】
このヘイズ(Hz)値を2%以下とするためには、この熱線遮蔽フィルムに含まれる無機粒子の平均二次粒子径は1nm以上かつ800nm以下であることが好ましく、より好ましくは1nm以上かつ200nm以下である。
ここで、無機粒子の平均二次粒子径を1nm以上かつ800nm以下とした理由は、平均二次粒子径が1nm未満であると、再凝集により1nmよりも小さい微粒子を合成するのが困難となるので好ましくないからである。
なお、無機粒子の平均二次粒子径が200nm以下となると、無機粒子による可視光のミー散乱が抑制され、高い透明性を実現し易くなるので、好ましい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の酸化ケイ素被覆酸化亜鉛によれば、透明性樹脂と、無機粒子とを含有してなる透明樹脂組成物の厚みを1.0μmとしたとき、可視光透過率を80%以上、1500nm以上かつ2200nm以下の波長領域の光の平均透過率を10%以下としたので、架橋性化合物と無機粒子との反応性を向上させることができる。したがって、高い熱線遮蔽性、特に1500〜2200nmの波長領域の光に対して高い熱線遮蔽性を維持することができ、しかも高い可視光透過率及び高い耐摩耗性を長期間に亘って維持することができる。
【0052】
本実施形態の塗膜によれば、本実施形態の透明樹脂組成物を用いて形成されたので、高い熱線遮蔽性、特に1500〜2200nmの波長領域の光に対する高い熱線遮蔽性、高い可視光透過率及び高い耐摩耗性を長期間に亘って維持することができる。
【0053】
本実施形態の熱線遮蔽フィルムによれば、基材上に、公知の塗工法及び硬化法を用いて塗膜を形成したので、高い熱線遮蔽性、特に1500〜2200nmの波長領域の光に対する高い熱線遮蔽性、高い可視光透過率及び高い耐摩耗性を長期間に亘って維持することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
スズ添加酸化インジウム(ITO)粉体 F−ITO(DOWAエレクトロニクス社製)に、表面修飾剤として3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103;信越化学工業(株)社製)をITO粉体に対し15質量%となるように加え、次いで、アルキルジメチルアミンをITO粉体に対し1.5質量%となるように加え、さらに、メチルイソブチルケトンを、ITO粉体が分散液全体量に対して50質量%となるように添加して混合し、次いで、ビーズミル処理を行い、ITO分散液を作製した。
【0056】
次いで、このITO分散液を53g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA) KAYARAD(日本化薬社製)を17g、イルガキュア127(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.8g、トルエンを29.2g混合し、膜形成用組成物とした。
得られた膜形成用組成物を、基材としてPETフィルム T4300(東洋紡社製)上に、乾燥膜厚が1.0μmとなるようにバーコーターにより塗布し、次いで、80℃にて1分間乾燥させた。次いで、高圧水銀灯(120W/cm)を用いて紫外線を300mJ/cm
2のエネルギーとなるように露光し、ITO粉体を15体積%含む実施例1の熱線遮蔽フィルムを得た。
【0057】
[実施例2]
アルキルジメチルアミンの添加量を1.5質量%から2.25質量%に替えた他は、実施例1と同様にしてITO粉体を20体積%含む実施例2の熱線遮蔽フィルムを得た。
【0058】
[実施例3]
表面修飾剤を、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103;信越化学工業(株)社製)から3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−503;信越化学工業(株)社製)に替えた他は、実施例1と同様にしてITO粉体を15体積%含む実施例3の熱線遮蔽フィルムを得た。
【0059】
[比較例1]
表面修飾剤3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103;信越化学工業(株)社製)の添加量を15質量%から5質量%に替えた他は、実施例1と同様にしてITO粉体を15体積%含む比較例1の熱線遮蔽フィルムを得た。
【0060】
[比較例2]
表面修飾剤を、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103;信越化学工業(株)社製)からリン酸エステル系分散剤に替え、アルキルジメチルアミンの添加量を1.5質量%から0質量%(無添加)に替えた他は、実施例1と同様にしてITO粉体を15体積%含む比較例2の熱線遮蔽フィルムを得た。
【0061】
[評価]
実施例1〜3及び比較例1、2各々の熱線遮蔽フィルムの評価を行った。評価項目は次のとおりである。
(1)可視光透過率
上記の熱線遮蔽フィルムを厚み3mmのガラス板に貼り付け、この熱線遮蔽フィルム及びガラス板を透過する可視光の透過率を分光光度計U−4100(日立製作所社製)を用いて測定した。
【0062】
(2)日射透過率
上記の熱線遮蔽フィルムを厚み3mmのガラス板に貼り付け、この熱線遮蔽フィルム及びガラス板を透過する太陽光の透過率を分光光度計U−4100(日立製作所社製)を用いて測定した。
(3)平均透過率
上記の熱線遮蔽フィルムを厚み3mmのガラス板に貼り付け、この熱線遮蔽フィルム及びガラス板を透過する1500nm以上かつ2200nm以下の波長領域における平均透過率を分光光度計U−4100(日立製作所社製)を用いて測定した。
【0063】
(4)ΔHz
上記の熱線遮蔽フィルムについて、日本工業規格JIS K 5600−5−9「テーバー摩耗試験」に準じて、摩耗輪CS−10F、荷重500g、回転数50回の条件下にてテーバー摩耗試験を行い、このテーバー試験前のヘイズ値とテーバー試験後のヘイズ値をヘイズメーター TC−1800MK/II(日本電色社製)を用いて測定し、テーバー試験前のヘイズ値とテーバー試験後のヘイズ値との差であるΔヘイズ値(ΔHz)を算出した。
【0064】
(5)体感
上記の熱線遮蔽フィルムについてモニタリングを行い、体感の評価を行った。
モニタリング条件は以下の通りである。
(a)場所:住友大阪セメント株式会社 新規技術研究所駐車場(千葉県北西部)
(b)測定日:2013年 7月16日13時
(c)天候:晴れ、温度:31℃、湿度:58%
(d)モニターの人数:20名(男10名、女10名)
(e)光源:太陽光
【0065】
(f)測定条件
ホウケイ酸ガラス(縦20cm、横20cm、厚み0.2cm)の表面全面に上記の熱線遮蔽フィルムを貼りつけて評価用サンプルを作製し、この評価用サンプルの15cm下方にモニターの手を置き、この手が太陽光を浴びた場合の体感を評価した。
ここでは、ジリジリ感が大幅に緩和したと感じた場合を「◎」、ジリジリ感が緩和した
と感じた場合を「○」、ジリジリ感がやや緩和したと感じた場合を「△」、ジリジリ感がほとんど緩和しないと感じた場合を「×」とし、それぞれの人数により体感の程度を評価した。
実施例1〜3及び比較例1、2各々の熱線遮蔽フィルムの材料組成等及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表1によれば、実施例1〜3の熱線遮蔽フィルムは、比較例1、2の熱線遮蔽フィルムと比べて、可視光透過率、日射透過率、平均透過率、ΔHz及び体感の全ての点において優れていることが確認された。
【0069】
[ITO粉体の添加量について]
ITO粉体の添加量の最適値を調べた。
ここでは、実施例1〜3及び比較例1、2それぞれの熱線遮蔽フィルムについて、フィルム中のITO粉体の添加量を5体積%から40体積%まで変化させた試験用熱線遮蔽フィルムをそれぞれ作製し、これらの試験用熱線遮蔽フィルムそれぞれについて、可視光透過率、平均透過率及びΔHzを評価した。
【0070】
図1に実施例1〜3及び比較例1、2それぞれの熱線遮蔽フィルムにおけるITO粉体の添加量と可視光透過率との関係を、
図2に実施例1〜3及び比較例1、2それぞれの熱線遮蔽フィルムにおけるITO粉体の添加量と平均透過率との関係を、
図3に実施例1〜3及び比較例1、2それぞれの熱線遮蔽フィルムにおけるITO粉体の添加量とΔHzとの関係を、それぞれ示す。
これらの図によれば、ITO粉体の添加量は10体積%〜30体積%の範囲が可視光透過率、平均透過率及びΔHzの全ての点において優れていることが確認された。