(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-99033(P2015-99033A)
(43)【公開日】2015年5月28日
(54)【発明の名称】観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20150501BHJP
【FI】
G01W1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-237807(P2013-237807)
(22)【出願日】2013年11月18日
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】吉川 栄一
(72)【発明者】
【氏名】又吉 直樹
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 知雄
(57)【要約】
【課題】局所現象を検出し損なうことを防止しつつ、表示における良好な視認性を確保する観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラムを提供すること。
【解決手段】気象センサSによって取得した観測対象のエコー強度データを含む観測情報を処理する観測情報処理装置10であって、気象センサSの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域Rを複数設定し、エコー強度データの中から各3次元領域R内に含まれる複数の値を抽出する抽出部31と、抽出部31によって抽出された複数の値を母集団として、各3次元領域Rにおけるエコー強度データの要約統計量を算出するエコー要約統計量算出部32と、を有する観測情報処理装置10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象センサによって取得した観測対象のエコー強度データを含む観測情報を処理する観測情報処理装置であって、
前記気象センサの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域を複数設定し、前記エコー強度データの中から前記各3次元領域内に含まれる複数の値を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって抽出された複数の値を母集団として、前記各3次元領域におけるエコー強度データの要約統計量を算出するエコー要約統計量算出部と、
を有することを特徴とする観測情報処理装置。
【請求項2】
過去の複数のタイミングにおける、前記エコー要約統計量算出部によって取得した前記各3次元領域における要約統計量の情報を基に、前記観測対象の移動ベクトルを算出するベクトル算出部と、
前記ベクトル算出部によって取得した複数の移動ベクトルを母集団として、前記移動ベクトルの要約統計量を算出するベクトル要約統計量算出部と、
前記ベクトル要約統計量算出部によって取得した移動ベクトルの要約統計量と、前記エコー要約統計量算出部によって取得したエコー強度データの要約統計量とを基に、前記エコー強度データの要約統計量の予測値を算出する予測情報算出部と、
を更に有することを特徴とする請求項1に記載の観測情報処理装置。
【請求項3】
前記ベクトル要約統計量算出部は、前記要約統計量として、平均値または中央値を算出することを特徴とする請求項2に記載の観測情報処理装置。
【請求項4】
前記予測情報算出部によって算出する前記予測値は、10分〜20分後の予測値であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の観測情報処理装置。
【請求項5】
前記エコー要約統計量算出部は、前記要約統計量として、最大値を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の観測情報処理装置。
【請求項6】
前記水平面内の所定の2次元領域は、各辺の長さが100m以下で設定された矩形領域であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の観測情報処理装置。
【請求項7】
前記鉛直方向の所定範囲は、高度2km以下の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の観測情報処理装置。
【請求項8】
前記気象センサの観測領域は、水平方向において、空港を中心とした半径10海里の範囲で設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の観測情報処理装置。
【請求項9】
気象センサによって取得した観測対象のエコー強度データを含む観測情報を処理する観測情報処理方法であって、
気象センサの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域を複数設定し、前記エコー強度データの中から前記各3次元領域内に含まれる複数の値を抽出し、
抽出された複数の値を母集団として、前記各3次元領域におけるエコー強度データの要約統計量を算出する
ことを特徴とする観測情報処理方法。
【請求項10】
気象センサによって取得した観測対象のエコー強度データを含む観測情報を処理する観測情報処理プログラムであって、
気象センサの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域を複数設定し、前記エコー強度データの中から前記各3次元領域内に含まれる複数の値を抽出する手順と、
抽出された複数の値を母集団として、前記各3次元領域におけるエコー強度データの要約統計量を算出する手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする観測情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の運航においては、その特性から、他の輸送手段と比べて、気象情報の把握が非常に重要である。特に空港周辺においては、突風やマイクロバースト、竜巻といった航空機の離発着時における急激な気象の変化は、重大事故に発展する可能性を秘めている。空港周辺の気象監視を目的として、我が国において、主要な空港では空港用ドップラーレーダが設置、運用されており、出力するデータを空港用途に適したプロダクトをデータ処理した上で、運航安全のための情報提供がなされている。
【0003】
近年、情報処理技術の進歩に伴い、非特許文献1に記載されるKu帯広帯域レーダ(住友電工)、非特許文献2に記載されるフェーズドアレー気象レーダ(東芝)、非特許文献3に記載されるX帯固体化気象レーダ(東芝)、非特許文献4に記載される局地観測用気象レーダ(三菱電機特機システム)といった、従来に比べて近距離を時間的・空間的により詳細(高分解能)に観測するレーダが開発されており、レーダの高分解能化が進んでいる。
【0004】
これらのレーダは、空港気象観測に有効な半径数十kmの範囲を、短時間(1〜2分)かつ高解像(数〜数十mオーダ)で体積スキャンすることが可能である。提供する高分解能データは、上記の局所気象現象に対する検出性を格段に高めることができ、また示される詳細構造が、これまで不可能であった局所現象の予測を可能にすることが期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】E. Yoshikawa, T. Ushio, Z. Kawasaki, T. Mega, S. Yoshida, T. Morimoto, K. Imai, and S. Nagayama, “Development and Initial Observation of High−Resolution Volume−Scanning Radar for Meteorological Application”, IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, Vol. 48, 2010.
【非特許文献2】E. Yoshikawa, T. Ushio, Z. Kawasaki, S. Yoshida, T. Morimoto, F. Mizutani, and M. Wada, “MMSE Beam Forming on Fast−Scanning Phased Array Weather Radar”, IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, Vol. 51, 2013.
【非特許文献3】柏木俊治,村野隆,平井健一,“局地的集中豪雨を監視するX帯固体化気象レーダ”,東芝レビュー,Vol. 66, 2011.
【非特許文献4】Inoue H., et al., “High resolution X−band Doppler radar observation of low−level misocyclones. -First result from the Shonai Area Railroad Weather Project-”, preprints, Fifth Conference on Radar Meteorology and Hydrology, Helsinki, 2008
【非特許文献5】中北英一,山口弘誠,山邊洋之,“レーダー情報を用いたゲリラ豪雨の卵の解析”,京都大学防災研究所年報,第52号B,2009.
【非特許文献6】S. Noda, et al., “Mapping global precipitation with satellite borne microwave radiometer and infrared radiometer using Kalman filter”, Journal of the Remote Sensing Society of Japan, Vol. 27, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下に、エコー情報の提供に関する従来技術を紹介し、その問題点について指摘する。
【0007】
従来のPPI(Plan Positioning Indicator)方式、すなわち、体積スキャンの中から高度一定面もしくは仰角一定面のデータのみを選別する方式では、設定高度によって異なる高度に存在する重要な降水エコーが棄却されてしまうという問題があり、一方で、多数の高度を表示すると棄却がなくなる一方で表示の視認性が悪化し見落としが発生する可能性があるという問題がある。
【0008】
また、従来のVIL(Vertical Integrated Liquid)方式、すなわち、鉛直方向の積算雨量を算出し、水平面の分布を出力する方式では、全高度を考慮したプロダクトを一画面で表示することが可能であるが、高度方向に局所的な降水エコーが存在する場合、それは明確に表示されないという問題がある。また、こういった高度方向に局所的な降水エコーを捉えることが、災害に直結する局所現象を予測する上で重要であるとする研究報告(非特許文献5を参照。)が発表されている。
【0009】
また、従来レーダの空間分解能が100m程度であり、時間分解能が5分以上である一方、空港における災害に直結するそれ以下のスケールの局所現象(突風、マイクロバースト、竜巻等)は、PPI、VIL及びその他いずれの方式でも、十分な現象の同定ができないという問題がある。これらの情報を通知するプロダクトや警報機能として、気象庁が提供するマイクロバーストアラート等が存在するが、局所的な風速差に基づくものであり、現象を同定した上でのプロダクトや警報機能は存在しない。
【0010】
また、航空機が空港直上から着陸までに要する時間を勘案すると、航空機の離発着において10〜20分程度の短期予測プロダクトを準リアルタイム(1〜2分程度)以内に提供することが有用である。しかし、これを達成するために必要な1〜2分の頻度での体積スキャンが従来レーダでは不可能であるため、こういった短期予測プロダクトは存在しない。また、数m〜数十mオーダの空間分解能の観測が従来レーダでは不可能であるため、こういった高空間分解能での予測は行われていない。
【0011】
また、数百mオーダの空間分解能における30分後以降の長期予測では、過去の降水エコー強度の移動量に対応する移動ベクトルを用いたもの(非特許文献6を参照。)や、数値気象モデル(気象庁)等を用いたものが既に存在するが、殊短期予測に関しては、分解能及び計算コストの観点から提案及び実現がなされていない。
【0012】
そこで、本発明の主要な目的は、局所現象を検出し損なうことを防止しつつ、表示における良好な視認性を確保する観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラムを提供することである。
また、本発明の副次的な目的は、多大な計算コストを必要とすることなく、短期予測情報を生成することが可能な観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本請求項1に係る発明は、気象センサによって取得した観測対象のエコー強度データを含む観測情報を処理する観測情報処理装置であって、前記気象センサの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域を複数設定し、前記エコー強度データの中から前記各3次元領域内に含まれる複数の値を抽出する抽出部と、前記抽出部によって抽出された複数の値を母集団として、前記各3次元領域におけるエコー強度データの要約統計量を算出するエコー要約統計量算出部と、を有することにより、前記課題を解決するものである。
【0014】
本請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加え、過去の複数のタイミングにおける、前記エコー要約統計量算出部によって取得した前記各3次元領域における要約統計量の情報を基に、前記観測対象の移動ベクトルを算出するベクトル算出部と、前記ベクトル算出部によって取得した複数の移動ベクトルを母集団として、前記移動ベクトルの要約統計量を算出するベクトル要約統計量算出部と、前記ベクトル要約統計量算出部によって取得した移動ベクトルの要約統計量と、前記エコー要約統計量算出部によって取得したエコー強度データの要約統計量とを基に、前記エコー強度データの要約統計量の予測値を算出する予測情報算出部と、を更に有することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の構成に加え、前記ベクトル要約統計量算出部は、前記要約統計量として、平均値または中央値を算出することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項4に係る発明は、請求項2または請求項3に係る発明の構成に加え、前記予測情報算出部によって算出する前記予測値は、10分〜20分後の予測値であることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに係る発明の構成に加え、
前記エコー要約統計量算出部は、前記要約統計量として、最大値を算出することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに係る発明の構成に加え、前記水平面内の所定の2次元領域は、各辺の長さが100m以下で設定された矩形領域であることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに係る発明の構成に加え、
前記鉛直方向の所定範囲は、高度2km以下の範囲であることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項7のいずれかに係る発明の構成に加え、前記気象センサの観測領域は、水平方向において、空港を中心とした半径10海里の範囲で設定されていることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項9に係る発明は、気象センサによって取得した観測対象のエコー強度データを含む観測情報を処理する観測情報処理方法であって、気象センサの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域を複数設定し、前記エコー強度データの中から前記各3次元領域内に含まれる複数の値を抽出し、抽出された複数の値を母集団として、前記各3次元領域におけるエコー強度データの要約統計量を算出することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項10に係る発明は、気象センサによって取得した観測対象のエコー強度データを含む観測情報を処理する観測情報処理プログラムであって、気象センサの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域を複数設定し、前記エコー強度データの中から前記各3次元領域内に含まれる複数の値を抽出する手順と、抽出された複数の値を母集団として、前記各3次元領域におけるエコー強度データの要約統計量を算出する手順と、をコンピュータに実行させることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
本請求項1、9、10に係る発明によれば、気象センサの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域を複数設定し、エコー強度データの中から各3次元領域内に含まれる複数の値を抽出し、抽出された複数の値を母集団として、各3次元領域におけるエコー強度データの要約統計量を算出することにより、局所現象を検出し損なうことを防止しつつ、表示における良好な視認性を確保し、気象学等の専門性を要求することなしにユーザが直感的にエコーの強度を把握可能な2次元表示を実現できる。
【0016】
本請求項2に係る発明によれば、過去の複数のタイミングにおける、各3次元領域における要約統計量の情報を基に観測対象の移動ベクトルを算出し、取得した複数の移動ベクトルを母集団として移動ベクトルの要約統計量を算出し、移動ベクトルの要約統計量とエコー強度データの要約統計量とを基にエコー強度データの要約統計量の予測値を算出することにより、多大な計算コストを必要とすることなく、精度の高い短期予測情報を生成することができる。
本請求項3に係る発明によれば、ベクトル要約統計量算出部は、要約統計量として移動ベクトルの平均値または中央値を算出することにより、エコー強度データの要約統計量の予測値を精度良く算出することができる。
本請求項4に係る発明によれば、10分〜20分後のエコー強度データの予測値を予測情報算出部によって算出することにより、着陸タイミングの判断を良好に図ることができる。
本請求項5に係る発明によれば、各3次元領域に含まれるエコー強度データの複数の値を最大値で代表することにより、航空機の運航に強く影響を与え得るエコー強度の最大値をユーザに提供できる。
本請求項6に係る発明によれば、水平面内の所定の2次元領域が各辺の長さが100m以下で設定された矩形領域であることにより、局所現象を検出し損なうことを防止しつつ、表示における良好な視認性を確保することができる。
本請求項7に係る発明によれば、高度2km以下の範囲で、3次元領域の鉛直方向の所定範囲を設定することにより、当該高度範囲に多く発生する局所現象を検出しそこなうことを防止できる。
本請求項8に係る発明によれば、航空機の着陸の判断に必要とされる空港を中心とした半径10海里の範囲で、気象センサの観測領域の水平方向の範囲を設定することにより、1〜2分の頻度での体積スキャンが可能となり、短時間で生成・消滅する局所現象を検出しそこなうことを防止できる。また、10〜20分程度の短期予測プロダクトの算出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来技術のレーダと高分解能レーダとの性能を比較する説明図。
【
図2】本発明の一実施形態である観測情報処理装置の構成を概略的に示す説明図。
【
図4】本発明による処理を施したレエコー画像の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、気象センサによって取得した観測対象のエコー強度データを含む観測情報を処理する観測情報処理装置であって、気象センサの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域を複数設定し、エコー強度データの中から各3次元領域内に含まれる複数の値を抽出する抽出部と、抽出部によって抽出された複数の値を母集団として、各3次元領域におけるエコー強度データの要約統計量を算出するエコー要約統計量算出部とを有し、局所現象を検出し損なうことを防止しつつ、表示における良好な視認性を確保するものであれば、その具体的な構成は如何なるものでもよい。
【0019】
例えば、気象センサとしては、要約統計量の母集団となり得る十分なサンプル数の値を、設定された3次元領域から抽出可能なものであれば、如何なるものでもよい。
また、後述する実施形態では、観測情報処理装置によって生成される情報が、航空機運航における各種判断に関する支援情報であるものとして説明するが、生成した情報の用途はこれに限定されない。
【0020】
以下に、本発明の一実施形態である観測情報処理装置10について
図1〜4基づいて説明する。
【0021】
観測情報処理装置10は、気象センサSによって取得した、エコー強度を含む観測情報をデータ処理し、各種情報を生成するものであり、特に、航空機運航における各種判断に関する支援情報を生成するものである。観測情報処理装置10は、制御部20、気象センサSとの間で情報を送受信する送受信部50、記憶部、入力部、出力部、補助記憶装置等を備え、制御部20を記憶部に展開されたソフトウェアに従って動作させることにより、後述する各部を実現する。制御部20は、CPU等で構成され、記憶部は、ROM、RAM等で構成されている。
【0022】
制御部20は、
図2に示すように、気象センサSによる観測情報に含まれたエコー強度データの要約統計量を算出する鉛直要約統計処理部30と、10分〜20分後のエコー強度データの要約統計量の予測値を算出する短期予測処理部40とを有している。
【0023】
鉛直要約統計処理部30は、
図2や
図3に示すように、気象センサSの観測領域内に複数設定された3次元領域R内にそれぞれ含まれた複数の値を抽出する抽出部31と、抽出部31によって抽出された複数の値を母集団として各3次元領域Rにおけるエコー強度データの要約統計量を算出するエコー要約統計量算出部32とを有している。鉛直要約統計処理部30による処理の具体的内容については、以下の通りである。
【0024】
まず、抽出部31は、
図3に示すように、気象センサSの観測領域内に複数設定された各3次元領域R内に含まれる複数の値を抽出する。前記3次元領域Rは、任意に設定された水平面内の2次元領域、および、任意に設定された鉛直方向における範囲で規定される。
【0025】
ここで、本実施形態における、前記観測領域および前記3次元領域Rの具体的な設定については、以下の通りである。まず、気象センサSの観測領域は、航空機の着陸タイミングの判断にとって有効な情報を提供する観点から、水平方向において空港を中心とした半径10海里の範囲で設定されている。また、前記3次元領域Rを規定する前記2次元領域は、局所的な降水エコーを検出し損なうことを防止しつつ、鉛直要約統計処理部30で取得した情報を基にした表示の良好な視認性を確保する観点から、各辺の長さが数m〜数十m等の100m以下で設定された矩形領域で設定されている。また、前記鉛直方向における範囲は、着陸タイミングの判断によって有効な情報を提供する観点から、高度2km以下の範囲で設定されている。なお、前記観測領域および前記3次元領域Rの具体的な設定については、上記に限定されず、実施態様に応じて任意に設定すればよい。
【0026】
また、本実施形態における気象センサSとしては、
図1に示すように、空港気象観測に有効な半径数十kmの範囲を、短時間(1〜2分)かつ高解像(数〜数十mオーダ)で体積スキャンすることが可能な高分解能レーダが用いられる。このような高分解能レーダSによれば、要約統計量の母集団となり得る十分なサンプル数の値を、上述したように設定された3次元領域Rから抽出することができる。
【0027】
次に、エコー要約統計量算出部32は、抽出部31によって抽出された各3次元領域Rごとの複数の値を母集団として、各3次元領域Rにおけるエコー強度データの要約統計量を算出する。ここで、本実施形態では、航空機の運航に強く影響を与え得るエコー情報を提供する観点から、エコー要約統計量算出部32によってエコー強度データの最大値を算出するが、エコー要約統計量算出部32によって算出する要約統計量は最大値に限定されず、実施態様に応じて任意に決定すればよい。
【0028】
次に、短期予測処理部40について説明する。短期予測処理部40は、10分〜20分後のエコー強度データの要約統計量の予測値を算出するものである。短期予測処理部40は、
図2に示すように、ベクトル算出部41とベクトル要約統計量算出部42と予測情報算出部43とを有している。短期予測処理部40による処理の具体的内容については、以下の通りである。
【0029】
まず、ベクトル算出部41は、過去の複数のタイミングにおける、エコー要約統計量算出部32によって取得した各3次元領域Rにおける要約統計量の情報を基に、観測対象の移動ベクトルを算出する。
【0030】
次に、ベクトル要約統計量算出部42は、ベクトル算出部41によって取得した複数の移動ベクトルを母集団として、移動ベクトルの要約統計量を算出する。ここで、本実施形態では、ベクトル要約統計量算出部42によって算出する要約統計量として中央値または平均値を採用するが、ベクトル要約統計量算出部42によって算出する要約統計量は平均値または中央値に限定されず、実施態様に応じて決定すればよい。
【0031】
次に、予測情報算出部43は、ベクトル要約統計量算出部42によって取得した移動ベクトルの要約統計量と、エコー要約統計量算出部32によって取得したエコー強度データの要約統計量とを基に、エコー強度データの要約統計量の10分〜20分後の予測値を算出する。ここで、本実施形態では、上記のように、10分〜20分後の予測値を算出するが、予測値の具体的な内容はこれに限定されない。
【0032】
このようにして得られた本実施形態の観測情報処理装置10では、気象センサSの観測領域内に、水平面内の所定の2次元領域および鉛直方向の所定範囲で規定される3次元領域Rを複数設定し、エコー強度データの中から各3次元領域R内に含まれる複数の値を抽出し、抽出された複数の値を母集団として、各3次元領域Rにおけるエコー強度データの要約統計量を算出する。これにより、
図4に示すように、局所現象を検出し損なうことを防止しつつ、表示における良好な視認性を確保し、気象学等の専門性を要求することなしにユーザが直感的にエコーの強度を把握可能な2次元表示を実現できる。
【0033】
また、過去の複数のタイミングにおける、各3次元領域Rにおける要約統計量の情報を基に観測対象の移動ベクトルを算出し、取得した複数の移動ベクトルを母集団として移動ベクトルの要約統計量を算出し、移動ベクトルの要約統計量とエコー強度データの要約統計量とを基にエコー強度データの要約統計量の予測値を算出する。これにより、多大な計算コストを必要とすることなく、精度の高い短期予測情報を生成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、気象庁、航空会社、気象業務業者等が、既に設置もしくは今後設置する気象センサの観測情報のデータ処理に利用することができ、産業上の利用可能性を有する。また、本発明は、気象データ処理のソフトウェアメーカ、気象センサメーカ等が制作する気象センサの観測情報のデータ処理ソフトウェアにも適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 ・・・ 観測情報処理装置
20 ・・・ 制御部
30 ・・・ 鉛直要約統計処理部
31 ・・・ 抽出部
32 ・・・ エコー要約統計量算出部
40 ・・・ 短期予測処理部
41 ・・・ ベクトル算出部
42 ・・・ ベクトル要約統計量算出部
43 ・・・ 予測情報算出部
50 ・・・ 送受信部
S ・・・ 高分解能気象センサ
R ・・・ 3次元領域