【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人情報通信研究機構、高度通信・放送研究開発委託研究/高い臨時設営性を持つ有無線両用通信技術の研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】光変調器100は、リッジ型光導波路5と変調電極15とを備える。変調電極15は、変調信号が供給される信号電極7と、第1接地電極11と、第2接地電極12とからなり、信号電極7は、リッジ型光導波路5の最上部の幅W5よりも広い幅を有する幅広部7Wを有し、第1接地電極11は、第1方向に沿って延びるように第1面3A上に設けられた中央部接地電極要素11Cを有し、第2接地電極12は、第1方向に沿って延びるように第2面3B上に設けられた中央部接地電極要素12Cを有する。中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12Cは、第1貫通孔11B及び第2貫通孔12Bを有し、これらは平面視で信号電極7の幅広部7Wと重複する。
主面を有する基体部と、前記基体部の前記主面上に設けられ、当該主面に沿った第1方向に沿って延びるリッジ型光導波路と、当該リッジ型光導波路内を導波する光を変調するための変調電極と、前記基体部の前記主面上に設けられた第1テラス部及び第2テラス部と、を備え、
前記基体部の前記主面は、前記リッジ型光導波路が設けられた設置面と、前記第1方向と直交し、かつ、前記主面に沿った第2方向に沿って前記設置面を挟むように位置する第1面及び第2面と、を有し、
前記第1テラス部は、前記リッジ型光導波路と前記第2方向に離間するように前記第1面上に設けられており、前記第1テラス部と前記リッジ型光導波路とによって、前記第1面及び前記設置面上に、前記第1方向に沿って延びる第1凹部が規定され、
前記第2テラス部は、前記リッジ型光導波路と前記第2方向に離間するように前記第2面上に設けられており、前記第2テラス部と前記リッジ型光導波路とによって、前記第2面及び前記設置面上に、前記第1方向に沿って延びる第2凹部が規定され、
前記変調電極は、変調信号が供給される信号電極と、第1接地電極と、第2接地電極とからなり、
前記信号電極は、前記リッジ型光導波路上に前記第1方向に沿って延びるように設けられた部分であって、当該リッジ型光導波路の最上部の前記第2方向の幅よりも広い幅を有する幅広部を有し、
前記第1接地電極は、前記第1方向に沿って延びるように前記第1面上に設けられた第1接地電極要素と、前記第1接地電極要素と電気的に接続され、前記第1方向に沿って延びるように前記第1テラス部の側面から上面に亘って設けられた第1テラス上接地電極要素と、を有し、
前記第2接地電極は、前記第1方向に沿って延びるように前記第2面上に設けられた第2接地電極要素と、前記第2接地電極要素と電気的に接続され、前記第1方向に沿って延びるように前記第2テラス部の側面から上面に亘って設けられた第2テラス上接地電極要素と、を有し、
前記第1接地電極要素は、当該第1接地電極要素の前記第1方向の一部のみに設けられた少なくとも1つの第1貫通孔を有すると共に、平面視で前記幅広部と前記第2方向に離間し、
前記第2接地電極要素は、当該第2接地電極要素の前記第1方向の一部のみに設けられた少なくとも1つの第2貫通孔を有すると共に、平面視で前記幅広部と前記第2方向に離間し、
前記少なくとも1つの第1貫通孔は、平面視で前記信号電極の前記幅広部と前記第2方向に向かって対向し、
前記少なくとも1つの第2貫通孔は、平面視で前記信号電極の前記幅広部と前記第2方向に向かって対向する光変調器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のリッジ型の光導波路を有する光変調器においては、当該文献の
図7、
図11に記載されているように、光導波路上に、ひさし形状(即ち、当該光導波路の幅よりも広い幅を有する形状)の信号電極が設けられている。また、光導波路のリッジ形状部の側面には、信号電極に接しないように薄く形成された接地電極が、当該光導波路のリッジ形状部に接するように設けられている。このような構造を有する光変調器によれば、低駆動電圧、光導波路内を導波する光と信号電極に印加される変調信号との速度整合、及び、低電極損失が実現可能であることが当該文献に記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来の光変調器においては、以下のような理由により、高速変調動作が難しいという問題があった。
【0007】
即ち、高速変調動作を達成するためには、インピーダンス整合を図ること、具体的には、変調電極(信号電極及び接地電極)に印加される変調信号を供給する外部の素子の出力インピーダンスと、光変調器の入力インピーダンスとを、同じ値(例えば50Ω)に近づけることが必要である。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されているような光変調器においては、ひさし形状の信号電極と、光導波路のリッジ形状部の側面に設けられた接地電極との距離が近くなるため、信号電極と接地電極との間の静電容量が大きくなる。これにより、信号電極と接地電極との間のインピーダンスが小さくなってしまう。特許文献1には、当該文献に記載されているような光変調器において最適化された設計では、特性インピーダンスが18.4Ωであることが示されており、その結果、光変調器と、上記外部の素子との間のインピーダンス整合を図ることが難しくなってしまうため、実質的に高速変調動作を達成することが困難となってしまう。
【0009】
同様のことは、特許文献2に記載されているキノコ状にせり出した信号電極を有する光変調器おいても問題となる。特許文献2に記載されているキノコ状にせり出した信号電極を用いた構成は、速度整合や低電極損失の実現に非常に有効な構成の一つである。しかしながら、特性インピーダンスが低下する問題がある。非特許文献2には、キノコ状にせり出した信号電極を有する構成における問題が、特性インピーダンスの50Ωからの乖離であること、及び、電極の反射特性S11が−10dBと劣ることであることが記載されている。
【0010】
特性インピーダンスの50Ωからの乖離に起因する反射特性の劣化の悪影響は、インピーダンス変換器やインピーダンス変換回路の変調器への組み込みにより、回避は可能である。しかしながら、駆動信号の電力が同じであっても特性インピーダンスの低い光変調器では、信号電極の作用部電極部における信号電極−接地電極間電圧が低くなってしまうという問題がある。この信号電極−接地電極間の電圧の低下は、特に、ニオブ酸リチウムによって光導波路を構成した光変調器のように電気光学効果(印加電界に応じて屈折率が変化する現象、つまりポッケルス効果および光カー効果)に基づく光変調器の場合、高効率(低消費電力)での駆動の観点からは、極めて不利である。そのため、高効率(低消費電力)での駆動のためには、特性インピーダンスの低下を避けて設計することが望ましい。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、リッジ型光導波路と、ひさし形状又はキノコ形状の信号電極を有する光変調器であって、高速動作可能な光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、信号電極と対向して作用する接地電極要素の一部を切り欠くことにより、電極間容量を下げ、特性インピーダンスを上昇させるという原理に基づくものである。
【0013】
即ち、上述の課題を解決するため、本発明に係る光変調器は、主面を有する基体部と、基体部の主面上に設けられ、当該主面に沿った第1方向に沿って延びるリッジ型光導波路と、当該リッジ型光導波路内を導波する光を変調するための変調電極と、を備え、基体部の主面は、リッジ型光導波路が設けられた設置面と、第1方向と直交し、かつ、主面に沿った第2方向に沿って上記設置面を挟むように位置する第1面及び第2面と、を有し、変調電極は、変調信号が供給される信号電極と、第1接地電極と、第2接地電極とからなり、信号電極は、リッジ型光導波路上に第1方向に沿って延びるように設けられた部分であって、リッジ型光導波路の最上部の第2方向の幅よりも広い幅を有する幅広部を有し、第1接地電極は、第1方向に沿って延びるように第1面上に設けられた第1接地電極要素を有し、第2接地電極は、第1方向に沿って延びるように第2面上に設けられた第2接地電極要素を有し、第1接地電極要素は、第1接地電極要素の第1方向の一部のみに設けられた少なくとも1つの第1貫通孔を有し、第2接地電極要素は、第2接地電極要素の第1方向の一部のみに設けられた少なくとも1つの第2貫通孔を有し、上記少なくとも1つの第1貫通孔は、平面視で信号電極の上記幅広部と重複する、又は、当該幅広部と第2方向に向かって対向し、上記少なくとも1つの第2貫通孔は、平面視で信号電極の上記幅広部と重複する、又は、当該幅広部と第2方向に向かって対向する。貫通孔が幅広部と対向するとは、幅広部から発する電気力線が、貫通孔の開口の周りに達して終端されている状態であって、貫通孔の有無が変調電極の回路の静電容量あるいは特性インピーダンスの値に有意な影響がある様態(貫通孔の有無により静電容量あるいは特性インピーダンスの値の相対的差が、高周波ネットワークアナライザのインピーダンス校正回路基板の一般的な精度である0.3%より大きい様態)であることを意味する。なお、幅広部から、貫通孔の開口部や貫通孔の底が直接見通せる様態で無くとも良い。
【0014】
本発明に係る光変調器においては、第1接地電極要素及び第2接地電極要素は、それぞれ、平面視で信号電極の幅広部と重複する、又は、当該幅広部と第2方向に向かって対向する第1貫通孔及び第2貫通孔を有する。そのため、第1接地電極要素及び第2接地電極要素が、それぞれ第1貫通孔及び第2貫通孔を有していない場合と比較して、信号電極と第1接地電極、第2接地電極間の容量を低下させることができるため、変調電極の特性インピーダンスを高くすることができる。その結果、本発明に係る光変調器によれば、信号電極が集中定数形電極として機能する場合には高周波駆動の妨げとなる信号電極と第1接地電極、第2接地電極間の容量を小さくすることができ、また、信号電極が進行波形電極として機能する場合は変調電極の特性インピーダンスの低下を避けることができ変調信号を供給する外部の素子と変調器とのインピーダンス整合を図り易くなるため、高速変調動作及び高効率駆動が可能となる。
【0015】
さらに、本発明に係る光変調器においては、上記少なくとも1つの第1貫通孔、及び、上記少なくとも1つの第2貫通孔は、平面視で、円形形状、楕円形状、レーストラック形状、又は、角丸矩形形状を有することが好ましい。これにより、平面視で第1接地電極要素の第1貫通孔と隣接する界面(第1接地電極要素の側面)、及び、平面視で第2凹部接地電極要素の第2貫通孔と隣接する界面(第2接地電極要素の側面)は、角部や突起部を有さない曲線形状となる。その結果、変調信号が変調電極に印加された際に当該隣接する界面において角部や突起部への過度の電界の集中が起きにくくなるため、第1及び第2貫通孔の形成に起因する変調信号の伝搬損失を抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明に係る光変調器においては、第1接地電極要素は、複数の第1貫通孔を有し、当該複数の第1貫通孔は、第1方向に沿って順に設けられており、第2接地電極要素は、複数の第2貫通孔を有し、当該複数の第2貫通孔は、第1方向に沿って順に設けられていることが好ましい。
【0017】
これにより、信号電極が集中定数形電極として機能する場合には高周波駆動の妨げとなる電極間の容量を小さくすることができ、また、信号電極が進行波形電極として機能する場合は変調電極の特性インピーダンスをさらに高くすることができるため、変調信号を供給する外部の素子と変調器とのインピーダンス整合を、より高精度に図り易くなる。その結果、本発明に係る光変調器によれば、より高速での変調動作と効率の良い駆動が可能となる。
【0018】
さらに、本発明に係る光変調器においては、上記少なくとも1つの第1貫通孔は、平面視で、第1接地電極要素のリッジ型光導波路側の側面と離間しており、上記少なくとも1つの第2貫通孔は、平面視で、第2接地電極要素のリッジ型光導波路側の側面と離間していることが好ましい。
【0019】
これにより、平面視で第1接地電極要素の上記側面と第2接地電極要素の上記側面において、貫通孔がリッジ型光導波路側に開口するように配置されて第1接地電極要素や第2接地電極要素のリッジ型光導波路側の側面側に角部が形成されることを防止することができる。その結果、変調信号が変調電極に印加された際に当該側面において電界の集中が起きにくくなるため、貫通孔の形成に起因する変調信号の伝搬損失を抑制することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る光変調器においては、少なくとも1つの第1貫通孔は、平面視で、第1接地電極要素のリッジ型光導波路側の側面と20μm以上離間しており、少なくとも1つの第2貫通孔は、平面視で、第2接地電極要素のリッジ型光導波路側の側面と20μm離間していることが好ましい。これにより、変調電極と第1、第2貫通孔との離間距離も大きくなるため、変調電極に変調信号が印加された際に、当該側面において電界の集中がさらに起きにくくなるため、変調信号の伝搬損失を一層抑制することができる。
【0021】
第1接地電極要素及び第2接地電極要素に貫通孔を設けない態様における変調信号の伝搬損失は、非特許文献1の構成の場合は、0.2dB/[cm(GHz)
1/2]程度、特許文献2の類似構成の場合0.18dB/[cm(GHz)
1/2]程度、特許文献2の構成をリッジ型光導波路と併用した場合は、0.15dB/[cm(GHz)
1/2]程度である。平面視での第1貫通孔とリッジ型光導波路側の側面との離間距離、及び、平面視での第2貫通孔とリッジ型光導波路側の側面との離間距離が20μm程度の場合、第1貫通孔及び第2貫通孔として幅10μm、長さ50μmの角丸長方形の貫通孔列を間隔10μmで第1方向に沿って第1接地電極要素及び第2接地電極要素に配置したときの変調信号の伝搬損失の悪化幅は、非特許文献1の構成の場合は、0.1dB/[cm(GHz)
1/2]程度、特許文献2の類似構成の場合0.02dB/[cm(GHz)
1/2]程度である。上記離間距離を30μm程度にすると、第1貫通孔及び第2貫通孔の形成による変調信号の伝搬損失はほとんど無視できるようになる。
【0022】
平面視での第1貫通孔とリッジ型光導波路の側面との離間距離、及び、平面視での第2貫通孔とリッジ型光導波路側の側面との離間距離が大きい場合は、第1接地電極要素及び第2接地電極要素への第1及び第2貫通孔の形成による信号電極と第1接地電極、第2接地電極間の容量を小さくする効果や変調電極の特性インピーダンスを上昇させる効果は相対的には低くなる。しかしながら、そのような態様においてさえも本発明は、非特許文献1や非特許文献2などの構成の光変調器をニオブ酸リチウムのような高い誘電率材料からなる光導波路を用いて作製する場合において、信号電極と第1接地電極、第2接地電極間容量や変調電極の特性インピーダンス調整するための実用上利用価値の高い手段を提供する。
【0023】
第1接地電極要素及び第2接地電極要素に、第1貫通孔及び第2貫通孔として幅10μm、長さ50μmの角丸長方形の貫通孔列を間隔10μmで第1方向に沿って配置した場合における変調信号の特性インピーダンスの上昇幅は、非特許文献1の構成の場合は、リッジ導波路部の幅に依存性大きく依存し、光導波路幅を、この構成での現実的な値である6〜8μmとした場合、変調信号の特性インピーダンスを約5〜10Ω程度上昇させることが可能である。非特許文献2に類似する構成の場合には、信号電極の形状、張出した信号側面の形状大きく依存するが、変調信号の特性インピーダンスを2〜5Ω程度上昇させることが可能である。
【0024】
平面視での第1貫通孔とリッジ型光導波路の側面との離間距離、及び、平面視での第2貫通孔とリッジ型光導波路側の側面との離間距離を30μm程度にすると、信号電極と第1接地電極、第2接地間の容量を小さくする効果や変調電極の特性インピーダンスを上昇させる効果は相対的にさらに低くなるが、当該特性インピーダンスの数Ωの調整は可能である一方、第1、第2貫通孔の形成による変調信号の伝搬損失がほとんど無視できるようになることから、実用上の利用価値は高い。
【0025】
さらに、本発明に係る光変調器においては、第1接地電極要素及び第2接地電極要素は、平面視で、リッジ型光導波路の光軸に対して略線対称に設けられていることが好ましい。これにより、光変調器の特性の解析計算の規模が小さくて済む、さらには、光変調器の温度変化の際の基板の応力・歪みの偏りを回避され光変調器の動作の安定性獲得が期待できる。
【0026】
第1、第2貫通孔の配置位置は非対称としても信号電極と第1接地電極、第2接地電極間の容量を小さくする効果や変調電極の特性インピーダンスを上昇させる効果は得られるが、設計の都合上、特性の解析計算の規模が小さくて済むよう対称的な配置とするほうが望ましい。第1、第2貫通孔を信号電極の中心部を対称線として配置すれば、有限要素解析や伝搬解析の計算規模は半分で済ませることができる。さらに、そのような対称的な配置により、基板の応力・歪みの非対称な偏りを分散され、光変調器の動作の安定性獲得が期待できる。また、第1、第2貫通孔の対称的な配置には、応力・歪みの設計・解析においても、解析計算の規模が小さくて済むという利点もある。
【0027】
複数列の第1、第2貫通孔を形成しても良く、その方が信号電極と第1接地電極、第2接地電極間の容量低減や変調電極の特性インピーダンスの上昇効果がより高いことは言うまでもない。ただし、第1、第2貫通孔の形成により、制御信号の伝搬損失が上昇するため、制御信号の伝搬損失特性が許容される範囲で、必要最小限の第1、第2貫通孔を形成することが望ましい。
【0028】
第1、第2貫通孔を形成するにあたっては、フォトリソ工程における線幅解像度やメッキ工程における再現製の確保の観点からも配慮をすることが望ましい。第1接地電極のリッジ導波路側の縁や第2接地電極のリッジ導波路側の縁から、リッジ導波路の幅程度と同程度かそれ以上離間した位置に第1、第2貫通孔を形成するのが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、リッジ型光導波路と、ひさし状あるいはキノコ状の信号電極を備える変調器であって、高速動作可能な光変調器が提供される。特に、非特許文献1や非特許文献2に記載されているニオブ酸リチウムからなる光導波路を用いた光変調器で顕在していた特性インピーダンス低下の問題の解決に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施の形態に係る光変調器について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0032】
以下に説明する本実施形態の光変調器の特徴は、信号電極と対向して作用する接地電極要素の一部を切り欠くことにより、これらの電極間の容量を下げ、特性インピーダンスを上昇させるという原理に基づくものであり、実用価値が高い光変調器の特性改善のために特に有効な実施形態が以下で説明されている。さらに、本実施形態の光変調器には、当該原理の導入の弊害である信号電極の伝搬損失を抑えるための技術も合わせて取り入れられており、産業的に価値の高い技術によって特徴付けられた光変調器となっている。
【0033】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る光変調器の構成を示す平面図であり、
図2は、
図1のII−II線に沿った光変調器の断面図であり、
図3は、
図2の断面図近傍における光変調器の斜視図である。
【0034】
図1〜
図3に示すように、本実施形態の光変調器100は、光ファイバ等によって導入される連続光である入力光CLを変調して、外部に変調光MLを出力する装置である。光変調器100は、基体部3と、リッジ型光導波路5と、変調電極15と、を備え得る。
【0035】
基体部3は、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO
3)などの電気光学効果を奏する誘電体材料から構成される板状の部材である。基体部3は、略平坦な主面3Sを有する。
図1には、直交座標系RCを示しており、主面3Sと平行な方向にX軸及びY軸を設定し、主面3Sと直交する方向にZ軸を設定している。
図2以降の各図面においても、必要に応じて
図1と対応するように直交座標系RCを示している。
【0036】
基体部3は、Y軸方向(第1方向)に延びる長手形状を有している。基体部3の主面3Sは、リッジ型光導波路5が設けられた設置面3Eと、第1面3Aと、第2面3Bと、からなる。設置面3E、第1面3A、及び、第2面3Bは、それぞれY軸方向に延びる面であり、基体部3のY軸負方向の一端からY軸正方向の他端まで延びている。第1面3A及び第2面3Bは、X軸方向(第2方向)に沿って設置面3Eを挟むように位置している。
【0037】
リッジ型光導波路5は、本実施形態では、主面3Sの設置面3Eの全体上に設けられている。リッジ型光導波路5は、Z軸方向に突出し、Y軸方向に沿って延びる形状の光導波路である。入力光CLは、リッジ型光導波路5のコア部5AのY軸負方向の端面から光変調器100内に導入され、コア部5A内を当該コア部5Aの光軸5AXに沿って導波し、コア部5AのY軸正方向の端面から変調光MLとして光変調器100の外部に出力される。
【0038】
リッジ型光導波路5は、それぞれY軸方向に沿って延びるコア部5Aと、クラッド部5Bと、バッファ層5Cとからなる。コア部5Aは、クラッド部5Bよりも屈折率の高い材料からなる。コア部5A及びクラッド部5Bは、それぞれ電気光学効果を奏する誘電体材料から構成される。コア部5Aは、例えばチタン(Ti)等の金属を含有するニオブ酸リチウム(LiNbO
3)から構成され、クラッド部5Bは、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO
3)から構成される。バッファ層5Cは、コア部5Aよりも屈折率の低い材料からなり、例えば酸化シリコン(SiO
2)等の誘電体材料からなる。バッファ層5Cは、コア部5Aと信号電極7との間に介在することにより、信号電極7に起因したコア部5A内を導波する光の伝搬損失を低減させる。リッジ型光導波路5は、バッファ層5Cを有していなくてもよい。
【0039】
上述のような基体部3と基体部3上に設けられたリッジ型光導波路5とからなる構造体は、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO
3)等の誘電体材料から構成される板状の初期基板を準備し、当該初期基板の主面近傍のコア部5Aとなるべき領域にチタン(Ti)等の金属を拡散させ、当該主面の全体上にバッファ層5Cを構成する誘電体材料からなる誘電体膜を形成した後に、リッジ型光導波路5及び基体部3となるべき領域を残すように当該初期基板及び当該誘電体膜をエッチングすることにより、得ることできる。或いは、当該構造体は、基体部3を準備し、基体部3の主面3Sの設置面3E上にリッジ型光導波路5を形成することによっても、得ることができる。
【0040】
基体部3をSiO
2、Al
2O
3や光学ガラス、光学樹脂などの光学材料で構成し、リッジ型光導波路5をニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を奏する誘電体材料で構成するなど、光導波路構造3と第1制御用信号電極5を、互いに異なった材料で構成することも可能である。この構成は、基体部材料とリッジ型光導波路部の材料の貼り合わせや基体部材料上へのリッジ部導波路材料の膜形成を行った後に、リッジ型光導波路5及び基体部3となるべき領域を残すように当該初期基板及び当該誘電体膜をエッチングすることにより、得ることが出来る。この場合、光変調器に使用する入射光の波長や偏波条件において、基体部材料の屈折率は、リッジ型光導波路部材料の屈折率より小さい材料の組合せと選ぶ必要がある。また、この構成の場合、リッジ形状部5全体が光導波路のコア部として機能するため、リッジ形状部5に屈折率が高い部分5Aを形成しなくてもよい。
【0041】
変調電極15は、信号電極7と、第1接地電極11と、第2接地電極12と、を有する。変調電極15は、XY平面に沿って延びる形状を有する電極であり、高周波において良導体である材料、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属や超伝導材料から構成される。変調電極15は、リッジ型光導波路5内を導波する入力光CLを変調するために設けられている。
【0042】
信号電極7は、本実施形態では、入力側伝達部7T1と、幅広部7Wと、出力側伝達部7T2と、を有する。入力側伝達部7T1は、入力パッド7P1と、信号伝達部7E1と、からなる。入力パッド7P1は、例えば、基体部3の主面3Sのうち、X軸正側の端部近傍に設けられており、外部の素子から供給される変調信号が入力される入力部として機能する。当該変調信号には、例えば10GHz以上の高周波電気信号が含まれている。信号伝達部7E1の一端は、入力パッド7P1と電気的に接続されており、信号伝達部7E1は、入力パッド7P1に入力された変調信号を幅広部7Wまで伝達する。信号伝達部7E1の幅広部7W近傍の部分は、幅広部7Wに近づくにつれて、平面視(Z軸方向から見た場合)の幅が幅広部7Wの幅に近づくように漸次増加する形状を有しており、インピーダンスの不整合による反射損失の発生を防ぐ構造となっている。
【0043】
幅広部7Wの一端は、信号伝達部7E1の他端に電気的に接続されている。幅広部7Wは、リッジ型光導波路5上にY軸方向に沿って延びるように設けられている。幅広部7WのX軸方向の幅W7Wは、リッジ型光導波路5の最上部のX軸方向の幅W5よりも大きい。そのため、Y軸方向と直交する断面において、幅広部7Wは、リッジ型光導波路5に対して、
図1〜
図3に示すような、ひさし形状、又は、キノコ形状を有する。ここで、幅広部7Wが、ひさし形状を有するとは、信号電極7の幅広部7Wが、リッジ型光導波路5の上面から当該リッジ型光導波路5に対して第2方向に当該リッジ型光導波路5の幅W5よりも広くなるように張り出しており、リッジ型光導波路5の上面にひさしを取り付けたような断面構造であることを意味する。また、幅広部7Wが、キノコ形状を有するとは、信号電極7の幅広部7Wが、リッジ型光導波路5の上面に接する基部と、当該基部より上方の部分であって上記基部よりも幅の広い上方部分と、を有する状態、即ち、信号電極7の幅広部7Wが、リッジ型光導波路5に対して第2方向にせり出したオーバーハング部(上記の上方部分)を有しており、かつ、幅広部7Wがリッジ型光導波路5のリッジ型光導波路5wよりも広くなっている状態を意味し、幅広部7Wの断面形状がリッジ型光導波路5の上面に設けられたキノコ形状であることを意味する。
【0044】
幅広部7Wは、コア部5A内を導波する光に変調作用を与える変調作用部として機能する。具体的には、幅広部7Wによってリッジ型光導波路5のコア部5Aに電界を印加可能であり、印加される電界の強さ、コア部5Aを構成する材料の種類、及び、コア部5Aの誘電分極の方向等に応じてコア部5Aの屈折率は変化する。信号電極7に変調信号が供給されると、幅広部7Wは当該変調信号に応じた電界をリッジ型光導波路5のコア部5Aに印加し、コア部5A内の屈折率を当該変調信号に応じて変化させる。これにより、入力光CLは変調信号に応じて変調される。
【0045】
幅広部7WのY軸と直交する断面における形状は、
図2に示すような、ひさし形状の一態様としての平板状に限られず、例えば、矩形状、楕円形状、又は、徐々にせり出す逆台形状に張り出す形状であっても良いし、キノコ状に張り出す形状であってもよいし、これらの中間的な形状やこれらの複合した形状等であってもよい。
【0046】
出力側伝達部7T2は、出力パッド7P2と、信号伝達部7E2と、からなる。信号伝達部7E2の一端は、幅広部7Wの他端に電気的に接続されており、信号伝達部7E2は、幅広部7W内を伝達した変調信号を、出力パッド7P2まで伝達する。信号伝達部7E2の幅広部7W近傍の部分は、出力パッド7P2に近づくにつれて、平面視での幅が漸次減少する形状を有しており、インピーダンスの不整合による反射損失の発生を防ぐ構造となっている。信号伝達部7E2の他端は、出力パッド7P2に電気的に接続されている。出力パッド7P2は、例えば、基体部3の主面3Sのうち、X軸正側の端部近傍に設けられており、変調信号が出力される出力部として機能する。出力パッド7P2は、変調信号の電気的終端である終端部(図示せず)が有する抵抗器に電気的に接続されていてもよい。
【0047】
第1接地電極11及び第2接地電極12は、接地電位に接続される電極である。第1接地電極11及び第2接地電極12は、それぞれXY平面に沿って延びる形状を有する電極であり、基体部3の主面3S上に設けられている。第1接地電極11及び第2接地電極12は、それぞれ例えば金(Au)等の金属から構成される。
【0048】
第1接地電極11は、一端部接地電極要素11E1と、第1接地電極要素としての中央部接地電極要素11Cと、他端部接地電極要素11E2と、からなる。一端部接地電極要素11E1は、第1接地電極11のうち、Y軸負側方向側の電極要素であり、中央部接地電極要素11Cは、第1接地電極11のうち、Y軸方向中央部の電極要素であり、他端部接地電極要素11E2は、第1接地電極11のうち、Y軸正側方向側の電極要素である。
【0049】
同様に、第2接地電極12は、一端部接地電極要素12E1と、第2接地電極要素としての中央部接地電極要素12Cと、及び、他端部接地電極要素12E2と、からなる。一端部接地電極要素12E1は、第2接地電極12のうち、Y軸負側方向の電極要素であり、中央部接地電極要素12Cは、第2接地電極12のうち、Y軸方向中央部の電極要素であり、他端部接地電極要素12E2は、第2接地電極12のうち、Y軸正側方向の電極要素である。
【0050】
一端部接地電極要素11E1及び一端部接地電極要素12E1は、それぞれ入力パッド7P1の近傍から中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12CのY軸負側方向の一端まで延びて当該一端と電気的に接続されている。他端部接地電極要素11E2及び他端部接地電極要素12E2は、それぞれ出力パッド7P2の近傍から中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12CのY軸正側方向の他端まで延びて当該他端と電気的に接続されている。第1接地電極11及び第2接地電極12は、一端部接地電極要素11E1及び一端部接地電極要素12E1の入力パッド7P1近傍の領域において、外部の接地電位を有する要素に電気的に接続されることができ、また、他端部接地電極要素11E2及び他端部接地電極要素12E2の出力パッド7P2近傍の領域において、外部の接地電位を有する要素に電気的に接続されることができる。
【0051】
中央部接地電極要素11Cは、Y軸方向に沿って延びるように、即ち、幅広部7Wの延び方向に沿って延びるように基体部3の主面3Sの第1面3A上に設けられている。本実施形態では、中央部接地電極要素11Cは、基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5とX軸方向に接している。そのため、平面視で中央部接地電極要素11Cの一部は幅広部7Wと重複する。中央部接地電極要素11CのZ軸方向の厚さT11Cは、リッジ型光導波路5のZ軸方向の高さT5よりも低い。そのため、中央部接地電極要素11Cは、幅広部7WとZ軸方向に離間している。中央部接地電極要素11Cの厚さT11Cは、例えば1μm以上3μm以下であり、リッジ型光導波路5の高さT5は、例えば3μm以上10μm以下とすることができる。
【0052】
中央部接地電極要素11Cは、複数の第1貫通孔11Bを有している。第1貫通孔11Bは、中央部接地電極要素11CをZ軸方向に沿って貫通する孔である。各第1貫通孔11Bは、中央部接地電極要素11Cのうち、平面視で幅広部7Wと重複する領域に設けられている。そのため、各第1貫通孔11Bは、平面視で、幅広部7Wと重複する。また、各第1貫通孔11Bは、平面視で、中央部接地電極要素11Cのリッジ型光導波路5側の側面11SとX軸方向に離間している。また、各第1貫通孔11Bは、平面視で、角部を有しない形状、例えば、円形形状、楕円形状、レーストラック形状、又は、角丸矩形形状を有する。なお、レーストラック形状とは、その外縁が、第1及び第2の円弧部と、第1及び第2の直線部とを有し、第1の円弧部の開口と第2の円弧部の開口とが向かい合うように第1及び第2の円弧部が配されており、第1の円弧部の一端と当該一端側にある第2の円弧部の一端とが第1の直線部によって接続され、第1の円弧部の他端と第2の円弧部の他端とが第2の直線部によって接続された形状をいう。複数の第1貫通孔11Bは、同一の平面視形状を有していてもよいし、一部又は全部が互いに異なる平面視形状を有していてもよい。
【0053】
複数の第1貫通孔11Bは、Y軸方向に沿って順に周期P11Bで周期的に設けられている。信号電極7と第1接地電極11、第2接地電極12間の容量を小さくする効果や変調電極15の特性インピーダンスを上昇させる効果を発現させる視点からは、同じ形状の第1貫通孔11Bを第一方向に沿って周期的に配置しなくともよく、例えば形状が異なる複数種類の第1貫通孔11Bを配置してもよいし、複数種類の第1貫通孔11Bを、離散的に、又は、信号電極7の延び方向に沿って所定の周期で配置してもよい。第1貫通孔11Bを離散的に配置したり、形状の異なる複数種類の第1貫通孔11Bを配置したりするよりも、同じ形状の複数の第1貫通孔11Bを周期的に配置した方が、特性の解析計算の規模が小さくて済むため設計上有利であり、設計解析が容易になることから、意図しないインピーダンスの不整合による伝搬信号の損失の特性劣化を防ぎやすい。
【0054】
なお、第1貫通孔11Bが周期的に設けられた構造の場合には、その構造が特定の周波数に対応したバンドパスフィルター回路として作用するため、特定の周波数信号がそのバンドパスフィルター回路に結合し、信号電極を伝搬する信号が劣化するおそれがある。その変調信号の劣化は、第1貫通孔11Bが設けられた周期を変調信号の主要周波数成分の波長(バンドバスフィルター回路における、その周波数成分の波長)の1/4以下にすることで、回避することができる。
【0055】
同様に、中央部接地電極要素12Cは、Y軸方向に沿って延びるように、即ち、幅広部7Wの延び方向に沿って延びるように基体部3の主面3Sの第2面3B上に設けられている。本実施形態では、中央部接地電極要素12Cは、基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5とX軸方向に接している。そのため、平面視で中央部接地電極要素12Cの一部は幅広部7Wと重複する。中央部接地電極要素12CのZ軸方向の厚さT12Cは、リッジ型光導波路5のZ軸方向の高さT5よりも低い。そのため、中央部接地電極要素12Cは、幅広部7WとZ軸方向に離間している。中央部接地電極要素12Cの厚さT12Cは、例えば1μm以上3μm以下である。
【0056】
中央部接地電極要素12Cは、複数の第2貫通孔12Bを有している。第2貫通孔12Bは、中央部接地電極要素12CをZ軸方向に沿って貫通する孔である。各第2貫通孔12Bは、中央部接地電極要素12Cのうち、平面視で幅広部7Wと重複する領域に設けられている。そのため、各第2貫通孔12Bは、平面視で、幅広部7Wと重複する。また、各第2貫通孔12Bは、平面視で、中央部接地電極要素12Cのリッジ型光導波路5側の側面12SとX軸方向に離間している。各第2貫通孔12Bは、平面視で、角部を有しない形状、例えば、円形形状、楕円形状、レーストラック形状、又は、角丸矩形形状を有する。
【0057】
複数の第2貫通孔12Bは、Y軸方向に沿って順に周期P12Bで周期的に設けられている。第2貫通孔の配置の周期性、形状についての留意点は上記で説明した第1貫通孔11Bの場合と同様である。さらに、第1貫通孔11Bと第2貫通孔12Bは、平面視で、コア部5Aの光軸5AXに対して線対称となる態様である場合、設計解析における計算規模が小さくて済むため好ましい。
【0058】
上述のような本実施形態に係る光変調器100においては、中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12Cは、それぞれ、平面視で信号電極7の幅広部7Wと重複する第1貫通孔11B及び第2貫通孔12Bを有する(
図1及び
図2参照)。そのため、中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12Cが、それぞれ第1貫通孔11B及び第2貫通孔12Bを有していない場合と比較して、信号電極7と第1接地電極11及び第2接地電極12間の静電容量を低下させることができるため、変調電極15の特性インピーダンスを高くすることができる。
【0059】
その結果、本実施形態に係る光変調器100によれば、信号電極7が集中定数形電極として機能する場合には高周波駆動の妨げとなる信号電極7と第1接地電極11、第2接地電極12間の容量を小さくすることができ、また、信号電極7が進行波形電極として機能する場合は変調電極15の特性インピーダンスの低下を避けることができ変調信号を供給する外部の素子と変調器とのインピーダンス整合を図り易くなるため、高速変調動作及び高効率駆動が可能となる。
【0060】
このように本実施形態において採用している技術は、変調電極15の特性インピーダンスを高く設計する際や、信号電極7と第1接地電極11、第2接地電極12間の容量を下げる設計を行う際に有効な技術である。したがって、ニオブ酸リチウムのように比誘電率が高い材料(ニオブ酸リチウムの比誘電率には、異方性があり、当該比誘電率は28と45)からなる基体部3を用いて光変調器100を作製する際に特に有効である。またGHz帯の成分をふくむような高周波制御信号、広帯域制御信号で駆動させる光変調器100を作製する際に特に有効である。
【0061】
また、特に本実施形態に係る光変調器100においては、各第1貫通孔11B及び第2貫通孔12Bは、平面視で、幅広部7Wと重複するように設けられているため(
図1参照)、信号電極7と第1接地電極11及び第2接地電極12間の全体の静電容量は、第1貫通孔11B及び第2貫通孔12Bと貫通孔の合計面積に対応する平行平板状コンデンサの容量に相当する分低下するため、変調電極15の特性インピーダンスをより高くすることができる。
【0062】
さらに、本実施形態に係る光変調器100においては、各第1貫通孔11B、及び、第2貫通孔12Bは、平面視で、円形形状又は楕円形状等の角部を有しない形状を有している(
図1及び
図3参照)。これにより、平面視で中央部接地電極要素11Cの第1貫通孔11Bと隣接する界面、及び、平面視で中央部接地電極要素12Cの第2貫通孔12Bと隣接する界面は、角部を有さない曲線形状となる。その結果、変調信号が変調電極15に印加された際に当該隣接する界面において電界の集中が起きにくくなるため、変調信号の伝搬損失を抑制することができる。
【0063】
さらに、本実施形態に係る光変調器100においては、中央部接地電極要素11Cは、複数の第1貫通孔11Bを有し、当該複数の第1貫通孔11Bは、Y軸方向に沿って順に設けられており、中央部接地電極要素12Cは、複数の第2貫通孔12Bを有し、当該複数の第2貫通孔12Bは、Y軸方向に沿って順に設けられている(
図1及び
図3参照)。
【0064】
これにより、変調電極15のインピーダンスをさらに高くすることができるため、変調信号を供給する外部の素子と光変調器100とのインピーダンス整合を、より高精度に図り易くなる。その結果、本実施形態に係る光変調器100によれば、より高速での変調動作が可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態に係る光変調器100においては、第1貫通孔11Bは、平面視で、中央部接地電極要素11Cのリッジ型光導波路5側の側面11Sと離間しており、第2貫通孔12Bは、平面視で、中央部接地電極要素12Cのリッジ型光導波路5側の側面12Sと離間している(
図1参照)。
【0066】
これにより、平面視で中央部接地電極要素11Cの上記側面11Sと中央部接地電極要素12Cの上記側面12Sに角部が形成されることを防止することができる。その結果、変調信号が変調電極15に印加された際に当該側面11S、12Sにおいて電界の集中が起きにくくなるため、変調信号の伝搬損失を抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る光変調器100においては、中央部接地電極要素11Cは、基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5とX軸方向に接しており、中央部接地電極要素12Cは、基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5とX軸方向に接している(
図1〜
図3参照)。これにより、平面視での幅広部7Wと重複する中央部接地電極要素11Cの領域及び中央部接地電極要素12Cの領域が大きくなるため、幅広部7Wと中央部接地電極要素11Cの領域及び中央部接地電極要素12Cの領域との間の空隙を伝わる制御信号のパワーの割合が大きくなり変調信号の速度が上昇し、リッジ型光導波路5内を導波する光と信号電極7に印加される変調信号との速度整合が可能になると共に、中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12Cの表面積が広くなり電界の集中が避けられることから低電極損失がより容易に実現可能となる。
【0068】
これにより、従来の構成の光変調器において、ひさし状に張り出した信号電極を用いた構成の欠点であった、電極間容量の増大と特性インピーダンスの低下は、本実施形態の光変調器100においては、中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12Cに各第1貫通孔11B及び第2貫通孔12Bを設けることで改善できる。
【0069】
また、本実施形態に係る光変調器100においては、各第1貫通孔11Bは、平面視で、中央部接地電極要素11Cのリッジ型光導波路5側の側面11SとX軸方向に2μm以上離間しており、各第2貫通孔12Bは、平面視で、中央部接地電極要素12Cのリッジ型光導波路5側の側面12SとX軸方向に2μm以上離間していることが好ましい。高周波に対応する光変調器の電極材料として一般的に用いられる良導体である、金、銀や銅の、周波数10GHzにおける表皮効果による表皮深さは、おおよそ1μm弱である。上述の好ましい態様においては、各第1貫通孔11Bおよび各第2貫通孔12Bは、平面視で、中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12Cのリッジ型光導波路5側の側面11S及び12Sから、上記表層深さ以上離間することになる。これにより、中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12Cのうち、各第1貫通孔11Bおよび各第2貫通孔12Bの近傍にエッジ効果によって電界が集中しても、高周波電流にとって十分な表皮深さが確保されているため、変調信号の伝搬損失の発生を抑制することができる。
【0070】
また、平面視での各第1貫通孔11Bと、中央部接地電極要素11Cのリッジ型光導波路5側の側面11SとのX軸方向の離間距離は、伝搬損失の発生を抑制する観点からは特に制限されず、信号電極7と第1接地電極11、第2接地電極12間の容量又は変調電極15の特性インピーダンスの設計に応じて適宜決定すればよい。当該離間距離が大きいと信号電極7と第1接地電極11、第2接地電極12間の容量の低下と変調電極15の特性インピーダンスの増大の効果は小さくなる傾向にあるが、各第1貫通孔11B及び第2貫通孔12Bは、平面視で、幅広部7Wと重複するように設けられているため、当該効果の当該離間距離への依存性は比較的小さい。中央部接地電極要素12Cのリッジ型光導波路5側の側面12SとのX軸方向の離間距離についても同様である。したがって、信号電極7と第1接地電極11、第2接地電極12間の容量の低下と変調電極15の特性インピーダンスの増大は、上記離間距離でなく主に第1貫通孔11Bと第2貫通孔12Bの平面視での総面積で調整することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る光変調器100においては、中央部接地電極要素11C及び中央部接地電極要素12Cは、平面視で、リッジ型光導波路5のコア部5Aの光軸に対して略線対称に設けられていることが好ましい(
図1参照)。これにより、特性の設計に必要な解析計算の規模が小さくて済む。さらには、第1貫通孔11Bと第2貫通孔12Bの不均等な配置に起因する、温度変化の際の基板の応力・歪みの偏りが回避され、光変調器の動作の安定性獲得が期待できる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態以降の各実施形態については、他の実施形態との相違点について主として説明し、他の実施形態の要素と同一の要素については、同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する場合がある。
【0073】
図4は、第2実施形態に係る光変調器の構成を示す平面図であり、
図5は、
図4のV−V線に沿った光変調器の断面図である。本実施形態の光変調器200は、第1貫通孔が設けられた位置、及び、第2貫通孔が設けられた位置において、第1実施形態の光変調器100と相違する。
【0074】
即ち、
図4及び
図5に示すように、本実施形態の変調電極215は、第1接地電極211、信号電極7、及び、第2接地電極212を有する。そして、第1接地電極211が有する中央部接地電極要素211Cは、複数の第1貫通孔が形成された位置において、第1実施形態の中央部接地電極要素11Cと相違する。具体的には、本実施形態の複数の第1貫通孔211Bは、中央部接地電極要素211Cのうち、平面視で幅広部7Wと重複しない領域に設けられている。そのため、各第1貫通孔211Bは、平面視で幅広部7WとX軸方向に対向する。
【0075】
同様に、第2接地電極212が有する中央部接地電極要素212Cは、複数の第2貫通孔が形成された位置において、第1実施形態の中央部接地電極要素12Cと相違する。具体的には、本実施形態の複数の第2貫通孔212Bは、中央部接地電極要素212Cのうち、平面視で幅広部7Wと重複しない領域に設けられている。そのため、各第2貫通孔212Bは、平面視で幅広部7WとX軸方向に対向する。
【0076】
複数の第1貫通孔211Bは、第1実施形態の第1貫通孔11Bと同様に、Y軸方向に沿って順に周期P211Bで周期的に設けられている。信号電極7と第1接地電極11、第2接地電極12間の容量を小さくする効果や変調電極215の特性インピーダンスを上昇させる効果を発現させる視点からは、同じ形状の第1貫通孔11Bを方向1に沿って周期的に配置しなくともよく、例えば形状が異なる複数種類の第1貫通孔11Bを配置してもよいし、複数種類の第1貫通孔11Bを、離散的に、又は、信号電極7の延び方向に沿って所定の周期で配置してもよい。第1貫通孔11Bを離散的に配置したり、形状の異なる複数種類の第1貫通孔を配置したりするよりも、同じ形状の複数の第1貫通孔11Bを周期的に配置した方が、特性の解析計算の規模が小さくて済むため設計上有利であり、設計解析が容易になることから、意図しないインピーダンスの不整合による伝搬信号の損失の特性劣化を防ぎやすい。
【0077】
なお、第1貫通孔11Bが周期的に設けられた構造の場合には、その構造が特定の周波数に対応したバンドパスフィルター回路として作用するため、特定の周波数信号がそのバンドパスフィルター回路に結合し、信号電極を伝搬する信号が劣化するおそれがある。その変調信号の劣化は、第1貫通孔11Bが設けられた周期を変調信号の主要周波数成分の波長(バンドバスフィルター回路における、その周波数成分の波長)の1/4以下にすることで、回避することができる。複数の第2貫通孔12Bについても、同様である。
【0078】
本実施形態に係る光変調器200によれば、第1実施形態の光変調器100と同様の理由に基づき、変調信号を供給する外部の素子と光変調器200とのインピーダンス整合を図り易くなるため、高速変調動作が可能となる。
【0079】
さらに、本実施形態の光変調器200においては、複数の第1貫通孔211Bは、中央部接地電極要素211Cのうち、平面視で幅広部7Wと重複しない領域に設けられており、複数の第2貫通孔212Bは、中央部接地電極要素212Cのうち、平面視で幅広部7Wと重複しない領域に設けられているため(
図4及び
図5参照)、変調電極215と第1貫通孔211Bが大きく離間しているため、第1貫通孔211Bの縁においてエッジ効果が起こりにくくなっており、第1貫通孔211Bの存在に伴う変調信号の伝搬損失を低減することができる。
【0080】
ただし、変調電極215の断面形状が平板の、ひさし状の構造の場合、上記離間距離が大きいと信号電極7と第1接地電極211、第2接地電極212間容量の低下と変調電極215の特性インピーダンスの増大の効果は小さくなる。ニオブ酸リチウムで基体部及びリッジ導波路部を構成した態様において、本実施形態において速度整合と変調信号の低損失な伝搬が実現できるのは、例えば信号電極7の幅広部7Wの幅W7Wをリッジ型光導波路5の幅W5の3〜5倍程度とした際であるが、上記離間距離をリッジ導波路部の幅W5の8倍程度離すと、電極間容量の低下と特性インピーダンスの上昇の効果は、相対的に低くなる場合がある。
【0081】
一方、変調電極215の断面形状が、矩形状、楕円形状、逆台形状やキノコ状など、側面に相当する部分の面積が大きい構造の場合には、状況が異なる。中央部接地電極要素211Cのうち平面視で幅広部7Wと重複しない領域は、変調電極15の側面部分と実質的に対向して作用する領域にあたるため、この部分に第1貫通孔211Bを形成することは、信号電極7と第1接地電極211、第2接地電極212間の容量の低減や変調電極215の特性インピーダンスの上昇に有効な手段である。特に、信号電極7の幅広部7Wの幅W7Wより信号電極の高さT607W(
図12参照)の方が大きい場合に効果が大きい。第1貫通孔211Bを、中央部接地電極要素211Cのうち平面視で幅広部7Wと重複する領域に形成しても、重複しない領域に形成しても、信号電極7と第1接地電極211、第2接地電極212間の容量の低下と変調電極215の特性インピーダンスの上昇の効果は得られるが、重複しない領域に形成するほうが、変調信号損失が小さい点で有利である。
【0082】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図6は、第3実施形態に係る光変調器の構成を示す平面図であり、
図7は、
図6のVII−VII線に沿った光変調器の断面図である。第3実施形態の光変調器300は、第1貫通孔及び第2貫通孔の平面視形状において、第2実施形態の光変調器200と相違する。
【0083】
即ち、
図6及び
図7に示すように、本実施形態の変調電極315は、第1接地電極311、信号電極7、及び、第2接地電極312を有する。そして、第1接地電極311が有する中央部接地電極要素311Cに設けられた複数の第1貫通孔311Bの平面視形状は、それぞれ、第2実施形態の第1貫通孔211B(
図4参照)とは異なり、矩形形状等の角部を有する形状である。同様に、第2接地電極312が有する中央部接地電極要素312Cに設けられた複数の第2貫通孔312Bの平面視形状は、それぞれ第2実施形態の第2貫通孔212B(
図4参照)とは異なり、矩形形状等の角部を有する形状である。
【0084】
本実施形態に係る光変調器200によれば、第1実施形態の光変調器100と同様の理由に基づき、変調信号を供給する外部の素子と光変調器200とのインピーダンス整合を図り易くなるため、高速変調動作が可能となる。
【0085】
さらに、本実施形態の光変調器300においては、複数の第1貫通孔311Bの平面視形状は、それぞれ矩形形状等の角部を有する形状であり、複数の第2貫通孔312Bの平面視形状は、それぞれ矩形形状等の角部を有する形状であるため(
図6参照)、設計に必要な特性解析の計算規模の大幅な縮小が可能である。各第1貫通孔311B及び各第2貫通孔312Bが曲線部を含まない単純な構造であるため、これらが曲線部を含む場合に比べて、有限要素解析においては要素のサイズを細分化する必要がなく計算規模が大幅に軽減される。また、計算のモデル入力の大幅に省力化されるという効果を発揮する。
【0086】
角部を有する第1貫通孔311B及び第2貫通孔312Bを、中央部接地電極要素311C及び中央部接地電極要素312Cのうち平面視で信号電極幅広部7Wと重複する領域に形成する場合、第1貫通孔311B及び第2貫通孔312Bと信号電極7Wとの距離が近いため、エッジ効果の影響が相対的に増加する場合があり、信号電極7の損失が相対的に増大する可能性があるが、本実施形態のように、中央部接地電極要素311C及び各第2貫通孔312Bのうち平面視で信号電極幅広部7Wと重複しない領域に第1貫通孔311B及び各第2貫通孔312Bがを形成する場合は、第1貫通孔311B及び第2貫通孔312Bと信号電極7Wとの距離が大きいため、エッジ効果の影響は軽微であり、信号電極の損失は低減される。
【0087】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図8は、第4実施形態に係る光変調器の構成を示す平面図であり、
図9は、
図8のIX−IX線に沿った光変調器の断面図である。第4実施形態の光変調器400は、第1テラス部3T1と、第2テラス部3T2とをさらに備える点、及び、第1接地電極11がテラス上接地電極要素11Dをさらに有する点、及び、第2接地電極12がテラス上接地電極要素12Dをさらに有する点、において、第1実施形態の光変調器100(
図1〜
図3参照)と異なる。
【0088】
第1テラス部3T1は、主面3Sの第1面3A上に設けられたテラス状の部材であり、第2テラス部3T2は、主面3Sの第2面3B上に設けられたテラス状の部材である。第1テラス部3T1及び第2テラス部3T2は、リッジ型光導波路5と略同じ高さを有する。第1テラス部3T1とリッジ型光導波路5とによって、第1面3A及び設置面3E上に第1凹部3C1が規定され、第2テラス部3T2とリッジ型光導波路5とによって、第2面3B及び設置面3E上に第2凹部3C2が規定される。第1凹部3C1及び第2凹部3C2は、それぞれ平面視でY軸方向に沿って延びる形状を有しており、本実施形態のリッジ型光導波路5の形状は、第1凹部3C1及び第2凹部3C2によって規定される。
【0089】
第1テラス部3T1及び第2テラス部3T2は、それぞれニオブ酸リチウム(LiNbO
3)などの電気光学効果を奏する誘電体材料から構成され、基体部3と同一の材料から構成されてもよい。このような基体部3とリッジ型光導波路5と第1テラス部3T1と第2テラス部3T2とからなる構造体は、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO
3)等の誘電体材料から構成される板状の初期基板を準備し、当該初期基板の主面近傍のコア部5Aとなるべき領域にチタン(Ti)等の金属を拡散させ、当該主面の全体上にバッファ層5Cを構成する誘電体材料からなる誘電体膜を形成した後に、リッジ型光導波路5、基体部3、第1テラス部3T1及び第2テラス部3T2なるべき領域を残すように当該初期基板及び当該誘電体膜をエッチングすることにより、得ることできる。或いは、当該構造体は、基体部3を準備し、基体部3の主面3Sの設置面3E上にリッジ型光導波路5、第1面3A及び第2面3B上に第1テラス部3T1及び第2テラス部3T2を形成することによっても、得ることができる。
【0090】
第1接地電極11のテラス上接地電極要素11Dは、例えば中央部接地電極要素11Cと同様の金属材料からなり、当該中央部接地電極要素11Cと電気的に接続されるように、第1テラス部3T1の側面及び上面に設けられている。同様に、第2接地電極12のテラス上接地電極要素12Dは、例えば中央部接地電極要素12Cと同様の金属材料からなり、当該中央部接地電極要素12Cと電気的に接続されるように、第2テラス部3T2の側面及び上面に設けられている。第1テラス部3T1の上面上のテラス上接地電極要素11Dの厚さは、中央部接地電極要素11Cの厚さよりも厚いことが好ましく、例えば10μm以上、80μm以下とすることができる。同様に、第2テラス部3T2の上面上のテラス上接地電極要素12Dの厚さは、中央部接地電極要素12Cの厚さよりも厚いことが好ましく、例えば10μm以上、80μm以下とすることができる。
【0091】
本実施形態に係る光変調器400によれば、第1実施形態の光変調器100と同様の理由に基づき、変調信号を供給する外部の素子と光変調器400とのインピーダンス整合を図り易くなるため、高速変調動作が可能となる。
【0092】
さらに、本実施形態の光変調器400においては、中央部接地電極要素11Cと電気的に接続され、第1テラス部3T1上に設けられたテラス上接地電極要素11Dと、中央部接地電極要素12Cと電気的に接続され、第2テラス部3T2上に設けられたテラス上接地電極要素12Dとを有するため、テラス上接地電極要素12Dと信号電極7とを同じ高さ又は近接した高さに形成することが容易になるため、変調器チップをケースに実装する際のワイヤーボンディング、フリップチップボンディングや、GSG(Ground-Signal-Ground)タイプの高周波プローブを用いた特性検査が行いやすいといったという利点がある。また、ニオブ酸リチウムを用いてリッジ型光導波路を作製する場合には、反応性イオンエッチングや機械的加工が主に使われているが、いずれの手法においても、加工部分の面積が小さい方が工程上の都合が良く、第1面3Aおよび第2面3Bの形成は必要最小限にとどめるほうが望ましい。本実施形態のようにテラス部3T1や3T2に相当する部分を加工せずに残す構成は、現実的な構成である。
【0093】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
図10は、第5実施形態に係る光変調器の断面図であり、第4実施形態の
図9に対応する図である。第5実施形態の光変調器500は、第1接地電極の中央部接地電極要素及び第2接地電極の中央部接地電極要素の態様の点において、第4実施形態の光変調器400(
図8及び
図9参照)と異なる。
【0094】
即ち、
図10に示すように、本実施形態の光変調器500においては、第1接地電極11が有する中央部接地電極要素511Cは、基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5とX軸方向に離間している。同様に、本実施形態の第2接地電極12が有する中央部接地電極要素512Cは、基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5とX軸方向に離間している。中央部接地電極要素511Cとリッジ型光導波路5のX軸方向の離間距離及び中央部接地電極要素512Cとリッジ型光導波路5のX軸方向の離間距離は、例えば1μm以上、160μm以下とすることができる。中央部接地電極要素511C及び中央部接地電極要素512Cの一部は、平面視で幅広部7Wと重複している。
【0095】
本実施形態に係る光変調器500によれば、第1実施形態の光変調器100と同様の理由に基づき、変調信号を供給する外部の素子と光変調器500とのインピーダンス整合を図り易くなるため、高速変調動作が可能となる。
【0096】
また、本実施形態に係る光変調器500によれば、中央部接地電極要素511C及び中央部接地電極要素512Cが基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5とX軸方向に離間しているため、信号電極7と第1接地電極511、第2接地電極512間の容量の低減させること、及び変調電極の特性インピーダンスの上昇させることが容易となるという利点がある。本実施構成は、リッジ型光導波路5及び基体部3を信号電極7と中央部接地電極要素511Cで挟んだコンデンサ、リッジ型光導波路部5及び基体部3を信号電極7と中央部接地電極要素512Cで挟んだコンデンサ、空気層を信号電極7と中央部接地電極要素511Cで挟んだコンデンサ、及び、空気層を信号電極7と中央部接地電極要素512Cで挟んだコンデンサの並列回路と等価であると簡略化して考えることができる。
【0097】
このように考えると、中央部接地電極要素511C及び中央部接地電極要素512Cと基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5との離間距離の増加は、コンデンサ間の離間距離の増加に相当するため、信号電極7と第1接地電極511、第2接地電極512間の容量の低減及び変調電極の特性インピーダンスの上昇に直接寄与する。ただし、中央部接地電極要素511C及び中央部接地電極要素512Cと基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5との離間距離は、光導波路部5における実効電界に直接影響し、信号電極7と接地電極要素の間に同じ電圧をかけた場合、離間距離が大きくなるほど光導波路部5における実効電界は小さくなるため、光変調器としての駆動効率が低下する。そのため、必要な駆動効率と特性インピーダンスの大きさを勘案しつつ、当該離間距離を設計する必要がある。
【0098】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について説明する。
図11は、第6実施形態に係る光変調器の構成を示す平面図であり、
図12は、
図11のXII−XII線に沿った光変調器の断面図である。第6実施形態の光変調器600は、変調電極の態様の点において、第4実施形態の光変調器400と相違する。
【0099】
具体的には、
図11及び
図12に示すように、本実施形態の変調電極615は、第1接地電極611、第2接地電極612、及び、信号電極607を有する。第1接地電極611が有する中央部接地電極要素611C及び第2接地電極612が有する中央部接地電極要素612Cは、第4実施形態の中央部接地電極要素11C、12C(
図8及び
図9参照)と異なり、平面視で変調電極615の信号電極607と重複していない。そのため、中央部接地電極要素611C及び中央部接地電極要素612Cに設けられた第1貫通孔611B及び第2貫通孔612Bも、平面視で信号電極607の幅広部607Wと重複していない。
【0100】
変調電極615は、本実施形態の幅広部として幅広部607Wを有し、第1接地電極611は、本実施形態のテラス上接地電極要素としてのテラス上接地電極要素611Dと、中央部接地電極要素611Cと、を有し、第2接地電極612は、本実施形態のテラス上接地電極要素としてのテラス上接地電極要素612Dと、中央部接地電極要素612Cと、を有する。そして、幅広部607W、テラス上接地電極要素611D、及び、テラス上接地電極要素612DのZ軸方向の沿った厚さは、第4実施形態の幅広部7W、テラス上接地電極要素11D、及び、テラス上接地電極要素12DのZ軸方向の沿った厚さよりも厚い。また、本実施形態においては、中央部接地電極要素611CのZ軸方向の厚さ、及び、中央部接地電極要素612CのZ軸方向の厚さは、それぞれ、リッジ型光導波路5の高さT5よりも大きい。
【0101】
信号電極607の幅広部607Wは、
図12に示されるような、ひさし形状を構成する矩形状でなくても良く、楕円形状や非特許文献2に示されるような、徐々にせり出し逆台形状に張り出す形状、キノコ状に張り出す形状、あるいは、これらの中間的な形状又はこれらの複合した形状であっても同様の効果が得られる。また、接地電極要素611Dの主面3Aに設置された部分および接地電極要素612Dの主面3Bに設置された部分は、テラス上に設置された部分より薄くなっているが、厚い構成になっていても良い。テラス上接地電極要素611Dの第1テラス部3T1の上面におけるZ軸方向に沿った厚さT611D、及び、テラス上接地電極要素612Dの第2テラス部3T2の上面におけるZ軸方向に沿った厚さT612Dとほぼ同じ厚さとすることもできる。
【0102】
第6実施形態のように信号電極607の幅広部607W及びテラス上接地電極要素611D、612Dの厚さが厚い場合、変調電極の特性インピーダンスの値は、第1貫通孔611B及び第2貫通孔612Bの形状、サイズ、位置や数量よりも、むしろ中央部接地電極要素611C、612Cとリッジ型光導波路5との離間距離や、幅広部607Wの形状、特に幅広部607WのX軸方向に張出した側面の形状に大きく依存する。第1貫通孔611B及び第2貫通孔612Bの形状、サイズ、位置や数量による特性インピーダンスの調整は有効であるが、補助的なものになる。
【0103】
したがって変調電極の特性インピーダンスを大きく上昇させるには、まず、中央部接地電極要素611C、612Cとリッジ型光導波路5との離間距離を大きくすれば良い。しかしながら、中央部接地電極要素611C、612Cとリッジ型光導波路5との離間距離は、リッジ型光導波路5における電界の強度とトレードオフの関係にあり、その離間距離を大きくするとリッジ型光導波路5における電界の強度が低下してしまい、効率的な変調が実現できなくなる。そこで、中央部接地電極要素611C、612Cのリッジ型光導波路5との離間距離は、インピーダンスよりも変調効率を優先して設計することにより、低すぎるインピーダンス特性を、第1貫通孔611B及び第2貫通孔612Bの形状、サイズ、位置や数量などによって、調整補正し、所望の特性値となるように設計することにより、特性が良好な光変調器を実現できる。
【0104】
また、第6実施形態の場合、中央部接地電極要素611C、612Cとリッジ型光導波路5との離間距離は大きく、中央部接地電極要素611C、612Cに第1貫通孔611B及び第2貫通孔612Bを設けても、高周波制御信号の損失は小さいため、第1貫通孔611B及び第2貫通孔612Bに起因する他の特性への悪影響はほとんど無い。このように、高周波光変調器、広帯域光変調器の設計、作製における利点は大きい。
【0105】
幅広部607WのZ軸方向に沿った厚さT607Wは、例えば25μm以上、80μm以下とすることができ、テラス上接地電極要素611Dの第1テラス部3T1の上面におけるZ軸方向に沿った厚さT611D、及び、テラス上接地電極要素612Dの第2テラス部3T2の上面におけるZ軸方向に沿った厚さT612Dは、例えばそれぞれ25μm以上、80μm以下とすることができる。これにより、幅広部607Wと中央部接地電極要素611C、612Cが互い対向して作用する実効的な表面積が大幅に増大されて、特定箇所への電界の集中が回避され、制御信号の伝搬損失は大幅に低減する。
【0106】
厚さT607Wは、例えばリッジ型光導波路5の幅W5の4倍以上、10倍以下、又は、幅広部607WのX軸方向の幅Wの2倍以上、5倍以下とすることができ、厚さT611D及び厚さT612Dは、例えばそれぞれ厚さT607Wと同程度とすることができる。
【0107】
本実施形態に係る光変調器600によれば、第1実施形態の光変調器100と同様の理由に基づき、変調信号を供給する外部の素子と光変調器600とのインピーダンス整合を図り易くなるため、高速変調動作が可能となる。特性インピーダンスの調整方法としては、補助的なものになるが、他の特性の悪化を伴わないために、実用上有効である。
【0108】
さらに、本実施形態に係る光変調器600によれば、幅広部607W、テラス上接地電極要素611D、及び、テラス上接地電極要素612Dの厚さが他の実施形態における対応する要素の厚さよりも厚く、信号電極607の幅広部607Wと中央部接地電極要素611C、612Cが互い対向して作用する実効的な表面積が特に大きくなっているため、特定箇所への電界の集中が回避され、制御信号の伝搬損失を大幅に低減するという効果を発揮する。中央部接地電極要素611C、612Cの材料として信号伝搬損失の少ない金、銀、又は、銅を用いた場合、10GHz以上周波数においては、表皮効果により電流が集中する表皮深さが1μm以下となり、表皮損失が顕著となる。そのような高周波成分を含む制御信号で駆動する場合において、実効的な表面積を大きく増やすことのできる第6実施形態の光変調器600が発揮する効果は大きい。
【0109】
また、テラス上接地電極要素611D、612Dと幅広部607Wとを同じ高さ形成することも容易になり、変調器チップをケースに実装する際のワイヤーボンディング、フリップチップボンディングや、GSG(Ground-Signal-Ground)タイプの高周波プローブを用いた特性検査が行いやすい。
【0110】
本発明は上述の実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。例えば、上述の各実施形態においては、複数の第1貫通孔11B、211B、311B、611Bは、平面視で、中央部接地電極要素11C、211C、311C、611Cのリッジ型光導波路5側の側面11SとX軸方向に離間しているが(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)、平面視で、中央部接地電極要素11C、211C、311C、611Cのリッジ型光導波路5側の側面11Sと接していてもよい。
【0111】
同様に、上述の各実施形態においては、第2貫通孔12B、212B、312B、612Bは、平面視で、中央部接地電極要素12C、212C、312C、612Cのリッジ型光導波路5側の側面12SとX軸方向に離間しているが(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)、平面視で、中央部接地電極要素12C、212C、312C、6112Cのリッジ型光導波路5側の側面12Sと接していてもよい。
【0112】
また、上述の各実施形態においては、複数の第1貫通孔11B、211B、311B、611Bは、Y軸方向に沿って順に周期的に設けられているが(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)、非周期的に設けられていてもよい。同様に、また、上述の各実施形態においては、複数の第2貫通孔12B、212B、312B、612Bは、Y軸方向に沿って順に周期的に設けられているが(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)、非周期的に設けられていてもよい。
【0113】
また、上述の各実施形態においては、第1接地電極11、211、311、611の中央部接地電極要素11C、211C、311C、611Cは、複数の第1貫通孔11B、211B、311B、611Bを有しているが(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)、1つの第1貫通孔のみを有していてもよい。同様に、上述の各実施形態においては、第2接地電極12、212、312、612の中央部接地電極要素12C、212C、312C、612Cは、複数の第2貫通孔12B、212B、312B、612Bを有しているが(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)、1つの第1貫通孔のみを有していてもよい。
【0114】
また、上述の各実施形態のうちの2つ又は3つ以上の特徴を組み合わせた態様も可能である。例えば、第1実施形態の光変調器100における第1貫通孔11B及び第2貫通孔12Bの平面視形状は、第3実施形態の光変調器300における第1貫通孔311B及び第2貫通孔312Bのように矩形形状等の角部を有する形状であってもよい(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)。
【0115】
また、第1〜第4実施形態の光変調器100、200、300、400において、中央部接地電極要素11C、211C、311C及び中央部接地電極要素12C、212C、312Cは、第5実施形態の光変調器500における中央部接地電極要素511C及び中央部接地電極要素512Cのように、基体部3の主面3S上においてリッジ型光導波路5とX軸方向に離間していてもよい(
図2、
図5、
図7及び
図9参照)。
【0116】
また、第1〜第5実施形態の光変調器100、200、300、400、500において、中央部接地電極要素11C、211C、311C、511C及び中央部接地電極要素12C、212C、312C、512Cは、第6実施形態の中央部接地電極要素611C及び中央部接地電極要素612Cのように、必要とされる効果に応じて、平面視で幅広部7Wと重複することの有無を選択できる(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)。
【0117】
また、上述の各実施形態の光変調器100、200、300、400、500、600は、1つのリッジ型光導波路5及びリッジ型光導波路5上に設けられた1つのひさし状の幅広部7W、607Wからなる1つの組を備えているが(
図1、
図4、
図6、
図8及び
図11参照)、当該組を複数有していてもよい。その場合、当該複数の組のそれぞれについて、本発明を適用することができる。例えば、マッハツェンダー型光導波路、及び、その上に設けられた本願の幅広部に対応する、ひさし状の信号電極を備える光変調器において、当該マッハツェンダー型光導波路の2つのアーム光導波路のそれぞれについて、本発明を適用することができる。
【0118】
上述の各実施形態の光変調器においては、信号電極の幅広部は、リッジ型光導波路からX軸方向に張り出した平板状又は矩形状の、ひさし形状を有しているが、本発明の信号電極の幅広部7Wは、このような形状を有するものに限られない。例えば、信号電極の幅広部は、非特許文献2に示されるような、徐々にせり出し逆台形状に張り出す形状等のキノコ形状を有するものであっても良いし、これらの中間的な形状やこれらの複合した形状であっても良い。また、上述の各実施形態の光変調器では、Y軸方向と直交する断面において、信号電極の幅広部は、リッジ型光導波路に対して第2方向(X軸方向)に対称的な形状を有しているが、本発明の光変調器における信号電極の幅広部は、このような形状を有するものに限られない。例えば、当該断面において、信号電極の幅広部は、リッジ型光導波路に対して第2方向に沿ったいずれかの方向(+X軸方向又は−X軸方向)に偏って設けられていたり、リッジ型光導波路に対して当該いずれかの方向のみに張出していたりしてもよく、例えば、リッジ型光導波路に対して第2方向に沿ったいずれかの方向(+X軸方向又は−X軸方向)に偏ったひさし形状やリッジ型光導波路に対して第2方向に沿った張出し方が非対称なキノコ形状を有していてもよい。また、国際公開第2005/089332号パンフレットに示されているように、所定の方向に沿って延びる2つのリッジ型光導波路を有する光変調器において、当該所定の方向に直交する断面において、信号電極の幅広部は、一方のリッジ型光導波路上から、他方のリッジ型光導波路上に亘って延びる形状を有していてもよい。信号電極がリッジ型光導波路のX軸方向の幅より大きな幅の幅広部を有した光変調器であればよく、上述の各実施形態に関して説明した技術は、信号電極より低い位置に接地電極が配されている構成を有する光変調器において、特に有効である。
【0119】
また、上述の各実施形態の光変調器については、進行波型の電極構成であることを前提として説明をしてきた。一般に光変調器の進行波電極の作用部の長さは長く、その電極の長さと貫通孔の大きさ・密度に応じて多数の貫通孔を形成する必要がある。重要な設計指標は、信号電極と接地電極を線路と見たときの特性インピーダンスである。一方、集中定数型の電極として駆動する光変調器の場合、形成する電極の長さは一般に短い。そのため、貫通孔の形成は、駆動周波数に対応した電極間容量に応じて、大きさ、形状、数量を適宜設計し、設置する。電極長さおよび面積が小さい場合は、設置する貫通孔の数量は少なくて済む。
【0120】
上述の各実施形態の光変調器は、直線状のリッジ型光導波路5上に直線状の信号電極を配した位相変調器であるが、本発明の光変調器は、このような構成の光変調器に限らない。本発明の光変調器は、電気光学効果(印加電界に応じて屈折率が変化する現象、つまりポッケルス効果および光カー効果)によって、材料の屈折率が変化させ、伝搬する光の位相や伝搬モードを制御するデバイスのことを差しており、伝搬光の位相やモッドの制御を組み合わせて、光の強度、位相、進行方向、モード、光パルスの制御・整形などを行うデバイスを含む。