共役ジエン系ゴム及びフィラーを含有するゴム組成物について、バウンドラバーの状態に関わる微細な相構造を詳細に分析することができる、ゴム組成物の相構造を示す像を取得する方法を提供する。
  共役ジエン系ゴム(A)及びフィラーを含有するゴム組成物の相構造を示す像を取得する方法であって、前記ゴム組成物に、該組成物に含まれる共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して0.1〜0.5重量部の架橋剤を添加し、架橋反応を行って得られるゴム組成物の微架橋物を、前記共役ジエン系ゴム(A)のハンセン溶解度パラメータと、溶媒(B)のハンセン溶解度パラメータとの距離(Ra)が、7以上15以下である溶媒(B)で膨潤させて、膨潤物を得る工程(I)、及び、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、前記膨潤物のフォースカーブマッピング測定を行う工程(II)を含むゴム組成物の相構造を示す像を取得する方法。
【背景技術】
【0002】
  従来、自動車等のタイヤ材料には、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等の共役ジエン系ゴムが使用されている。さらに、近年においては、材料全体の構造維持と高弾性化、耐摩耗性等の向上のために、共役ジエン系ゴムにシリカ等のフィラーが添加されるようになった。
【0003】
  ところで、共役ジエン系ゴムにフィラーが添加されることにより、共役ジエン系ゴムとフィラーの境界に、バウンドラバーと呼ばれる現象が生じることが知られている。
  バウンドラバーとは、フィラーの影響を強く受けることによって、例えば有機溶媒に溶解し難くなるなど、元の共役ジエン系ゴムと異なる性状を示す共役ジエン系ゴムが生じる現象である。また、このバウンドラバーは、フィラーと共役ジエン系ゴムとの親和性の大小などに応じて、その量や状態が異なって生じることも知られている。
  バウンドラバーの発生状態は、ゴム組成物そのものの性質に強い影響を与えることから、種々の方法によって、ゴム組成物におけるバウンドラバーの発生状態を調べることが検討されている。
【0004】
  共役ジエン系ゴム及びフィラーを含有するゴム組成物のバウンドラバーの発生量を測定する方法としては、ゴム組成物をトルエンなどの有機溶媒に浸漬させて、有機溶媒に溶解しなかった共役ジエン系ゴムをバウンドラバーであるとみなして、その重量を測定する方法が広く知られている(例えば、特許文献1の段落(0059)参照)。
  しかしながら、この方法では、バウンドラバーの量が測定できるのみであり、ゴム組成物の相構造に関する情報は得られず、詳細な分析は不可能である。
【0005】
  また、非特許文献1には、ゴム組成物に硫黄を加硫剤として加えて加硫したうえで、得られた加硫物の相構造を示す像を原子間力顕微鏡(以下、「AFM」ということがある。)によって得て、その像に基づいて、バウンドラバーの発生状態などを分析する方法が記載されている。
  しかしながら、非特許文献1に記載された方法では、AFMによって得られる像において、元の共役ジエン系ゴムとバウンドラバーとを明確に区別することが容易ではなく、また、バウンドラバー同士の微妙な差異を検知することが極めて困難であった。
 
【発明を実施するための形態】
【0014】
  以下、本発明を詳細に説明する。
  本発明は、共役ジエン系ゴム(A)及びフィラーを含有するゴム組成物の相構造を示す像を取得する方法であって、前記ゴム組成物に、該組成物に含まれる共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して0.1〜0.5重量部の架橋剤を添加し、架橋反応を行って得られるゴム組成物の微架橋物を、前記共役ジエン系ゴム(A)のハンセン溶解度パラメータと、溶媒(B)のハンセン溶解度パラメータとの距離(Ra)が、7以上15以下である溶媒(B)で膨潤させて、膨潤物を得る工程(I)、及び、原子間力顕微鏡を用いて、前記膨潤物のフォースカーブマッピング測定を行う工程(II)を含むことを特徴とするゴム組成物の相構造を示す像を取得する方法である。
 
【0015】
〔工程(I)〕
  本発明の方法において、工程(I)は、共役ジエン系ゴム(A)及びフィラーを含有するゴム組成物に、該組成物に含まれる共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して0.1〜0.5重量部の架橋剤を添加し、架橋反応を行って得られるゴム組成物の微架橋物を、前記共役ジエン系ゴム(A)と溶媒(B)とのハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が、7以上15以下である溶媒(B)で膨潤させて、膨潤物を得る工程である。
 
【0016】
(1)ゴム組成物
  本発明において相構造の分析対象は、共役ジエン系ゴム(A)及びフィラーを含有するゴム組成物である。
 
【0017】
  共役ジエン系ゴム(A)は、共役ジエン単量体由来の繰り返し単位を含有する高分子である。より具体的には、共役ジエン単量体の単独重合体;共役ジエン単量体の2種以上から得られる共重合体;共役ジエン単量体とこれと共重合可能な単量体との共重合体;エポキシ基及びアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を1分子中に3以上有している変性剤にて、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の少なくとも一部を変性させて得られる高分子;等が挙げられる。
 
【0018】
  共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等が好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
 
【0019】
  共役ジエン単量体と共重合可能な単量体としては、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体等が挙げられる。
  芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレン等が挙げられる。
  α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。
  これらの単量体は1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
 
【0020】
  共役ジエン系ゴム(A)の具体例としては、天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム等の共役ジエン単独重合体;ブタジエン・イソプレン共重合体ゴム等の共役ジエン共重合体;スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、スチレン・ブタジエン・イソプレン共重合体ゴム(SBI)、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(NSB)等の共役ジエン単量体とこれと共重合可能な単量体との共重合体;及び、これらの変性物が挙げられる。
  変性物の具体例としては、国際公開第2003/102053号パンフレットに開示されるようなポリオルガノシロキサンを用いて変性した共役ジエン系ゴムを挙げることができるが、これに限定されない。共役ジエン系ゴム(A)としては、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(その変性物を含む)が、好ましく用いられる。
 
【0021】
  本発明に用いるフィラーは、ゴム組成物に要求される性能等に応じて決定すればよく、特に限定されないが、シリカであるのが好ましい。シリカとしては、例えば、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。これらの中でも、含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。また、カーボンブラック表面にシリカを担持させたカーボン−シリカ  デュアル・フェイズ・フィラーを用いてもよい。これらのシリカは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
 
【0022】
  フィラーとして、カーボンブラックを用いることもできる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト、グラファイト繊維、フラーレン等が挙げられる。これらのカーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
 
【0023】
  フィラーの配合量は、ゴム組成物に要求される性能等に応じて決定すればよく、特に限定されないが、共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは10〜150重量部、より好ましくは20〜120重量部、特に好ましくは40〜100重量部である。
 
【0024】
  また、ゴム組成物には、上記成分以外に、常法に従って、老化防止剤、シランカップリング剤、活性剤、プロセス油、可塑剤、滑剤などの配合剤をそれぞれ必要量配合してもよい。
 
【0025】
  共役ジエン系ゴム(A)及びフィラーを含有するゴム組成物を調製する方法としては、特に制約はなく、例えば、共役ジエン系ゴム(A)を素練りし、そこに、フィラー成分を添加して混練する方法等が挙げられる。前記配合剤は、共役ジエン系ゴム(A)を製造する際に添加しても、混練する際に添加してもよい。
 
【0026】
  混練する方法は、特に限定されず、公知の混練機を用いる方法を採用することができる。用いる混練機としては、従来一般的に用いられている、ニーダー、ブランベンダー、バンバリーミキサー等の密閉式混練機、オープンロール、二軸押し出し機等が挙げられる。混練温度や混練時間にも特に限定はなく、適宜設定すればよい。
 
【0027】
(2)微架橋物
  本発明の測定方法においては、先ず、測定対象の前記ゴム組成物に、該組成物に含まれる共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して0.1〜0.5重量部の架橋剤を添加し、架橋反応を行って、ゴム組成物の微架橋物を得る。
 
【0028】
  用いる架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄などのハロゲン化硫黄;ジクミルパーオキシド、ジターシャリブチルパーオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;メチロール基をもったアルキルフェノール樹脂;などが挙げられ、これらの中でも、硫黄が好ましい。
  これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0029】
  架橋剤の添加量は、ゴムの架橋物を得るために一般的に配合される量よりも少ない量である、前記共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して0.1〜0.5重量部とする。架橋剤の添加量を、ゴムの架橋物を得るために一般的に配合される量よりも少ない量とすることにより、ゴム組成物が僅かに架橋(微架橋)し、後述する溶媒により膨潤し、AFMを用いてフォースカーブマッピング測定を行うことにより、バウンドラバーの状態に関わる微細な相構造を詳細に分析することが可能になる。また、架橋剤の使用量が上記範囲より少ないと、架橋が不十分となり後述する微架橋物が溶媒に溶解してしまい、フォースカーブマッピング測定が困難となり、本発明の目的を達成できない。上記範囲より多いと、元の共役ジエン系ゴムとバウンドラバーとを明確に区別することや、バウンドラバー同士の微妙な差異を検知することが困難となる。
 
【0030】
  本発明においては、架橋剤と共に、架橋促進剤、架橋活性化剤、老化防止剤等の配合剤を用いてもよい。
  架橋促進剤としては、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系架橋促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジンなどのグアニジン系架橋促進剤;ジエチルチオウレアなどのチオウレア系架橋促進剤;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩などのチアゾール系架橋促進剤;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどのチウラム系架橋促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛などのジチオカルバミン酸系架橋促進剤;イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛などのキサントゲン酸系架橋促進剤;等が挙げられる。なかでも、スルフェンアミド系架橋促進剤を含むものが好ましい。これらの架橋促進剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
 
【0031】
  架橋促進剤の配合量は、架橋剤1重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜2重量部である。
 
【0032】
  ゴム組成物に架橋剤を添加して、ゴム組成物の微架橋物を得る方法としては、特に制約はないが、例えば、ゴム組成物と、架橋剤、所望により配合剤とを、混練し、次いで加熱する方法が挙げられる。
 
【0033】
  ゴム組成物と架橋剤との混練温度は、通常0〜120℃、より好ましくは20〜80℃である。混練時間は、規模にもよるが、好ましくは30秒から30分である。
  得られた混練物の加熱方法としては、特に制約されないが、得られた混練物をシート状とし、このものを加熱プレスする方法が好ましい。
  加熱する際の温度は、通常120〜200℃であり、加熱プレスする時間は、通常1〜100分である。
  加熱プレスにより架橋が進行し、目的とするゴム組成物の微架橋物(以下、単に「微架橋物」ということがある。)が得られる。
 
【0034】
(3)膨潤物
  次いで、得られた微架橋物を、溶媒(B)で膨潤させ、膨潤物を得る。
  膨潤させるために用いる溶媒(B)は、共役ジエン系ゴム(A)のハンセン溶解度パラメータ(δ
d1、δ
p1、δ
h1)と、溶媒のハンセン溶解度パラメータ(δ
d2、δ
p2、δ
h2)との距離(Ra)が、下記式で示される範囲となる溶媒である。
 
【0036】
  上記式中、δ
d1、δ
d2は、分子間の分散力に由来するエネルギーに係るハンセンの溶解度パラメータ(以下、「HSP」ということがある。)、δ
p1、δ
p2は、分子間の極性力に由来するエネルギーに係るHSP、δ
h1、δ
h2は、分子間の水素結合力に由来するエネルギーに係るHSPである。
 
【0037】
  ここで、ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)は、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかという溶解性を表す指標である。
  溶解性は、多次元(3次元)のベクトルで表される。このベクトルは、典型的には、分散項、極性項、水素結合項で表すことができる。分散項は分散力(ファンデルワールス力)、極性項は極性力(ダイポール・モーメント)、水素結合項は水素結合力(水、アルコールなどによる作用)に由来するエネルギーを反映している。そしてベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断でき、ベクトルの類似度をハンセン溶解度パラメータの距離(HSP距離)で判断し得る。
 
【0038】
  このようなHSPは、例えば、Wesley  L.Archer著、Industrial  Solvents  Handbook等に開示された値を参照することができる。HSP距離(Ra)は、前記式により算出することができる。
 
【0039】
  本発明においては、溶媒(B)を用いることで、後述するAFMを用いたフォースカーブマッピング測定により、本発明の目的を達成することができる。
  Raが7未満である、共役ジエン系ゴム(A)の「良溶媒」と言い得る溶媒を用いると、共役ジエン系ゴム(A)の相が著しく軟弱となり、後述するAFMの測定の際にフィラーをAFMの探針で押し込んでも、その下の共役ジエン系ゴム(A)相が変形してしまい、フィラーを観測することができないおそれがある。また、Raが15より大きい、共役ジエン系ゴム(A)の「貧溶媒」と言い得る溶媒を用いると、微架橋物が十分に膨潤されず、共役ジエン系ゴム(A)相とバウンドラバー相とを区別して認識することができなくなるおそれがある。
 
【0040】
  溶媒(B)の使用量は、前記微架橋物を膨潤させることができる量である。具体的には、後述するように、微架橋物を浸漬させて膨潤物が得られる量であればよい。
 
【0041】
  前記微架橋物を膨潤させる方法としては、特に制約されないが、微架橋物を溶媒(B)に浸漬する方法が挙げられる。
  この方法においては、微架橋物を、予め、クライオミクロトーム(凍結切片)法などによって、AFMの測定に供することができる表面を有する、厚さ0.1〜100μm程度、好ましくは、厚さ0.5〜10μmの切片としておくのが好ましい。
  微架橋物を膨潤させる溶媒(B)の温度は、溶媒(B)の融点以上であれば特に限定されないが、通常0℃〜80℃、好ましくは0℃〜50℃の範囲で選択すればよい。
  また、微架橋物を溶媒(B)に浸漬させる時間も特に限定されず、例えば、10分間から24時間の間で選択すればよい。
 
【0042】
〔工程(II)〕
  工程(II)は、AFMを用いて、前記膨潤物のフォースカーブマッピング測定を行う工程である。
 
【0043】
  AFMは、走査型プローブ顕微鏡の一種であって、試料とプローブ(探針)の原子間力を利用して試料の表面についての情報を得る走査型プローブ顕微鏡である。AFMでは、試料とカンチレバーに備えられたプローブとの距離を変えながら、プローブに働く力(カンチレバーのたわみ量)を測定して、フォースカーブを取得する。このフォースカーブは試料表面の様々な情報を含んでおり、フォースカーブを解析することにより、試料表面の様々な物理化学的特性を評価することができる。本発明は、このフォースカーブの取得を、試料(膨潤物)表面に対して平行にスキャンして、試料表面の多点において行う、すなわち、フォースカーブマッピング測定を行い、その結果に基づいて、表面の層構造を示す像を取得するものである。
 
【0044】
  AFMの測定は、大気中、液中のいずれで行ってもよいが、液中で行うことが好ましい。AFMの測定を液中で行う場合は、測定対象とする膨潤物の膨潤に用いた溶媒(B)中で行うことが好ましい。また、AFMでフォースカーブマッピング測定を行うには、試料(膨潤物)をAFMの試料固定台に固定し、試料の形状像をフォースボリュームモード(フォースカーブを多点で連続自動測定するモード)で測定すればよい。
 
【0045】
  フォースカーブマッピング測定の結果に基づき、既存のソフト等を用いて解析を行わせて、試料の表面の各点における物理的または化学的特性を示す物性値の大小を、色味や濃淡の違いで表すことにより、ゴム組成物の相構造を示す像を取得することができる。このとき用いる物性値は、AFMによって求めることができる物性値であれば特に限定されないが、より相構造を詳細に分析する観点からは、弾性率に基づいて像を取得することが好ましい。
 
【0046】
  本発明では、共役ジエン系ゴム(A)及びフィラーを含有するゴム組成物を、微架橋物とし、さらに膨潤させてから、AFMを用いたフォースカーブマッピング測定に供することにより、例えば、元の共役ジエン系ゴム(A)と、フィラーの影響によりバウンドラバーとなった共役ジエン系ゴム(A)とを明確に区別することが容易となる。また、バウンドラバー同士の微妙な差異を検知することも可能となる。
 
【実施例】
【0047】
  以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各例中の「部」、および「%」は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0048】
(1)AFMの測定条件
  AFMによる測定は、走査型プローブ顕微鏡(NanoScopeV、BrukerAXS社製)により、密閉型AFMセルを用いて、Force  Volumeモードで測定した。
  AFMのカンチレバーは、OMCL−TR800PSA(ばね定数公称値0.57N/m、オリンパス社製)を用いた。
  また、測定サイズは1×1μm、測定点数は1辺当たり64点で、全サイズの合計点数を4096点とした。また、算出時のポアソン比は0.5と仮定した。
【0049】
(2)カンチレバーの感度校正
  カンチレバーの垂直方向の変位について、実際の測定量はフォトダイオードが出力する電圧であり、これを距離に換算するには、電圧と変位の比である、感度の校正が必要となる。感度の校正は、シリコンやサファイアなどの単結晶基板上で、フォースカーブを測定し、電圧と変位の傾きから求めた。本発明で使用したカンチレバーの感度は、20.6nm/Vであった。
【0050】
(3)カンチレバーのばね定数の測定
  カンチレバーのばね定数は、熱ゆらぎを測定することにより求めた。カンチレバーのばね定数は、0.53N/mであった。
【0051】
(4)カンチレバーの曲率半径の測定
  カンチレバーの先端の形状は、探針形状評価用試料(Aurora  Nano  Device社製)の凹凸像を測定し、解析ソフト「NanoScope  Analysis」(BrukerAXS社製)を用いて計算した。
【0052】
(5)ハンセン溶解度パラメータ
  共役ジエン系ゴム(A)のハンセン溶解度パラメータは、HSPiP(Hansen  Solubility  Parameter  in  Practice.,  version  3.0.38)を用いて算出した計算値に基づいた。また、溶媒のハンセン溶解度パラメータは、Hansen  Solubility  Parameters−A  User’s  Handbook(CRC,1999)記載の文献値に基づいた。
【0053】
(製造例1)  共役ジエン系ゴム(A)の調整
  攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン800g、テトラメチルエチレンジアミン0.85mmol、1,3−ブタジエン94.8g、およびスチレン25.2gを仕込んだ後、n−ブチルリチウム0.71mmolを加え、60℃で重合を開始した。続いて、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、四塩化スズを0.08mmol添加し、30分間反応させた。
  次いで、下記式(A)
【0054】
【化2】
【0055】
で表されるポリオルガノシロキサンを、使用したn−ブチルリチウムの0.33倍モルに相当するエポキシ基の含有量となる量を、20重量パーセント濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn−ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、共役ジエン系ゴム(A1)を含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤として、イルガノックス1520L(チバスペシャリティーケミカルズ社製)を、共役ジエン系ゴム(A1)100部に対して0.15部添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の共役ジエン系ゴム(A1)を得た。
【0056】
(実施例1)
  容量250mlのバンバリーミキサーを用いて、製造例1で得た共役ジエン系ゴム(A1)100部を素練りした。次いで、シリカ(商品名「Zeosil1165MP」、ローディア社製、窒素吸着比表面積(BET法):160m
2/g)10部、及び老化防止剤として、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(商品名「ノクラック6C」、大内新興化学工業社製)2部を添加して、110℃を開始温度として4.5分間混練して、バンバリーミキサーからゴム組成物を排出させた。混練終了時のゴム組成物の温度は145℃であった。次いで、50℃のオープンロールを用いて、得られたゴム組成物と、架橋剤として、硫黄0.32部、及び、架橋促進剤として、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(商品名「ノクセラーCZ−G」、大内新興化学工業社製)0.4部とを3分間混練し、シート状の混練物を得た。
【0057】
  得られた混練を、160℃で25分間プレス架橋して、ゴム組成物の微架橋物を作製した。そして、この微架橋物を、クライオミクロトームを用いて、サイズ10μm四方以上、厚さ1μmの試験片に加工した。この試験片について、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)(共役ジエン系ゴム(A)とのハンセン溶解度パラメータの距離(Ra):13.5)に、26℃で、2時間浸漬後、得られた膨潤物の弾性率を、DMF中で、カンチレバーの反り量を7nmでAFMにより測定した。その結果に基づき、測定各点に示す弾性率を異なる色で示したところ、
図1(b)に示す観察画像図が得られた。また、測定した各点における弾性率をヒストグラム化した(但し、シリカが存在する点で示される弾性率の領域は横軸の範囲から除外した)ところ、
図1(a)に示す弾性率ヒストグラム図が得られた。この弾性率ヒストグラム図は、肩を有するピークを示し、バウンドラバー化していない共役ジエン系ゴム(A1)相の弾性率の中心値が0.40MPaであり、バウンドラバー相の弾性率の中心値が0.55MPaであることがわかる。
【0058】
(実施例2、3、比較例1〜8)
  実施例1において、シリカの使用量、硫黄の使用量、架橋促進剤の使用量、膨潤するため及びAFMの測定を液中で行うための溶媒の種類を、下記表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の膨潤物を得て、AFMによる測定を行った。下記表1に、用いた溶媒の共役ジエン系ゴム(A)とのハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)も合わせて示す。但し、比較例7では、溶媒としてアセトンを使用した結果、微架橋物が溶解してしまったためにAFMの測定を行うことができなかった。また、比較例8では、微架橋物の膨潤は行わず、また、AFMの測定は、大気中で行った。
【0059】
  また、実施例2、3及び比較例1〜6、8で得られた弾性率ヒストグラムを
図1〜10の(a)に示し、観察画像図を
図1〜10の(b)に示した(カラー図面を、別途物件提出書にて提出する。)。さらに、弾性率ヒストグラム図から、共役ジエン系ゴム(A1)相の弾性率の中心値と、バウンドラバー相の弾性率の中心値とが、区別して読み取れる実施例2及び3については、それぞれの値を表1に示し、区別して読み取れない比較例1〜6、8については、弾性率ヒストグラム図のピーク値を共役ジエン系ゴム(A1)相の弾性率の中心値であるとして、表1に示した。
【0060】
【表1】
  表1及び
図1〜10に示す結果によれば、本発明によって得られる、ゴム組成物の相構造を示す像によれば、元の共役ジエン系ゴムとバウンドラバーとを明確に区別することができるといえる。また、バウンドラバー相を示す弾性率にも分布がみられることから、バウンドラバー同士の微妙な差異も検知可能であるといえる。したがって、本発明によれば、バウンドラバーの状態に関わる微細な相構造を詳細に分析することが可能な、ゴム組成物の相構造を示す像を取得することができるといえる。