【解決手段】ロッド型ナノ粒子及び核酸からなる組成物。好適なロッド型ナノ粒子として、短軸の長さが4〜20nmであり、長軸の長さが短軸の長さの2〜20倍であり、金、白金、銀、酸化チタン、シリカ、シリコン、生分解性高分子等を素材とする粒子が挙げられ、好適な核酸として、重量平均鎖長が0.1 kbpから2.0 kbpの範囲内である二重鎖リボ核酸が挙げられる。好適な実施形態において、該組成物はロッド型ナノ粒子及び核酸の複合体を含む。
二重鎖リボ核酸の第1の鎖が2以上の一本鎖リボ核酸からなり、該第1の鎖を構成する2以上の一本鎖リボ核酸の全ては、同種のリボヌクレオチドからなるホモポリマーであり、
二重鎖リボ核酸の第2の鎖が1つの一本鎖リボ核酸からなり、該第1の鎖を構成する2以上の一本鎖リボ核酸の各々は、該第2の鎖を構成する1つの一本鎖リボ核酸の部分領域に対して二重鎖を形成できる程度の相補性を有する塩基配列を有し、かつ、
該第1の鎖を構成する2以上の一本鎖の重量平均鎖長が該第2の鎖を構成する1つの一本鎖リボ核酸の重量平均鎖長の1/2以下である、
請求項5または6に記載の組成物。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2014/088087
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rothenfusser S., Tuma E., Endres S., Hartmann G., Hum Immunol. 2002, Dec;63(12):1111-1119
【非特許文献2】Dykman L.,; Khlebtsov, N. Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 2256-2282
【非特許文献3】Yen, H.-J.; Hsu, S.-H.; Tsai, C.-L. Small 2009, 5, 1553-1561
【非特許文献4】Maysinger, D. et al. ACS Nano 2010, 4, 2595-2606
【非特許文献5】Niikura, K.; Sawa, H. et al. ACS Nano 2013, 7, 3926-3938.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来よりもアジュバント効果が増強されたナノ粒子及び核酸からなる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[11]に関する。
[1]ロッド型ナノ粒子及び核酸からなる組成物。
[2]ロッド型ナノ粒子の短軸の長さが、4〜20nmであり、かつ、長軸の長さが、短軸の長さの2〜20倍である、上記[1]に記載の組成物。
[3]ロッド型ナノ粒子の素材が、金、白金、銀、酸化チタン、シリカ、シリコン、及び生分解性高分子からなる群より選ばれる、上記[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]ロッド型ナノ粒子の素材が、金である、上記[3]に記載の組成物。
[5]核酸が、二重鎖リボ核酸である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]二重鎖リボ核酸の重量平均鎖長が0.1キロ塩基対(kbp)から2.0kbpの範囲内である、上記[5]に記載の組成物。
[7]二重鎖リボ核酸の第1の鎖が2以上の一本鎖リボ核酸からなり、該第1の鎖を構成する2以上の一本鎖リボ核酸の全ては、同種のリボヌクレオチドからなるホモポリマーであり、
二重鎖リボ核酸の第2の鎖が1つの一本鎖リボ核酸からなり、該第1の鎖を構成する2以上の一本鎖リボ核酸の各々は、該第2の鎖を構成する1つの一本鎖リボ核酸の部分領域に対して二重鎖を形成できる程度の相補性を有する塩基配列を有し、かつ、
該第1の鎖を構成する2以上の一本鎖の重量平均鎖長が該第2の鎖を構成する1つの一本鎖リボ核酸の重量平均鎖長の1/2以下である、
上記[5]または[6]に記載の組成物。
[8]ロッド型ナノ粒子が、核酸と結合している、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]1pmolのロッド型ナノ粒子あたり0.03〜30mgの核酸が結合している、上記[8]に記載の組成物。
[10]上記[1]〜[9]のいずれかに記載の組成物を含有してなる免疫刺激物質、アジュバント、または医薬品。
[11]ロッド型ナノ粒子を含む懸濁液と核酸の水溶液とを混合し、ナノ粒子表面に核酸をコーティングすることを含む、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来よりもアジュバント効果が増強されたロッド型ナノ粒子及び核酸からなる組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.本発明のロッド型ナノ粒子及び核酸からなる組成物
本発明は、ロッド型ナノ粒子及び核酸からなる組成物(以下、本発明の組成物ともいう。)に関する。
【0012】
本明細書において、「ロッド型ナノ粒子」とは、ナノサイズ(即ち、最大径が1〜1000nm)の粒子であって、その短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比(アスペクト比)が1よりも大きい(通常、1.2よりも大きい)棒状の粒子をいう。本発明の複合体におけるロッド型ナノ粒子のサイズは特に制限されないが、免疫原性がきわめて低いものであることが好ましく、具体的には、短軸の長さが、好ましくは4〜20nm、より好ましくは5〜15nm、最も好ましくは6〜9nmの範囲であり、かつ、長軸の長さが短軸の長さの、好ましくは2〜20倍、より好ましくは3〜10倍、最も好ましくは3〜5倍である。
【0013】
ロッド型ナノ粒子のサイズは、好ましくは、透過型電子顕微鏡観察により決定されるサイズである。具体的には、例えば、透過型電子顕微鏡(例:日立ハイテク社HD-2000system)を用いて、200kVの印加電圧により撮像したものを観察し、そのサイズを決定することができる。ロッド型ナノ粒子のサイズは、組成物中のナノ粒子の平均サイズであってもよい。その場合、1つ以上の電子顕微鏡像から無作為に多数(例:100個以上)のナノ粒子を選択し、各粒子のサイズを決定した後にそれらを算術平均することで平均サイズを求めることができる。
【0014】
ロッド型ナノ粒子の素材も特に限定されないが、免疫原性がきわめて低い物質であることが好ましく、具体的には、金、白金、銀、酸化チタン、及びシリカに代表される無機材料、並びに、シリコン、及び、生分解性高分子などの有機材料からなる群より選ばれる素材が好ましく、特に好ましくは金である。生分解性高分子としては、CHPナノゲル(即ち、水溶性多糖であるプルランにコレステリル基を部分的に導入した疎水化プルランのゲル; Sasaki Y. et al., Chemical Record, 10: 366-376 (2010)を参照)などが挙げられる。
【0015】
核酸も特に限定されないが、上記のロッド型ナノ粒子と併用することにより、アジュバント活性を発揮する核酸であることが好ましい。核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、またDNA、RNA、DNA/RNAキメラのいずれであってもよい。核酸の鎖長も特に制限されないが、アジュバント活性及び低毒性の観点から、好ましくは0.1 kb(p)から2.0 kb(p)である。好ましい核酸として、上記特許文献1に記載の二重鎖リボ核酸(dsRNA)(本明細書において、核酸またはdsRNAにはその塩も包含される。)を挙げることができる。以下、該dsRNAについて説明する。
【0016】
該dsRNAは、アジュバント活性及び低毒性の観点から、0.1 kbpから2.0 kbpの範囲内の重量平均鎖長を有し、より好ましくは0.1 kbpから1.0 kbpの範囲内の重量平均鎖長、更により好ましくは0.2 kbpから0.6 kbpの範囲内の重量平均鎖長を有する。
該dsRNAは更に以下の特徴を有する。なお、本明細書において、「第1の鎖」及び「第2の鎖」なる用語は、上記特許文献1と同義に使用されている。また、第1の鎖にギャップ(即ち、第2の鎖が第1の鎖と二重結合を形成していない部分)があってもよいことはいうまでもない。
(i) dsRNAの第1の鎖が2以上の一本鎖リボ核酸(ssRNA)からなり、該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの全ては、同種のリボヌクレオチドからなるホモポリマーであり、
(ii) dsRNAの第2の鎖が1つのssRNAからなり、該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの各々は、該第2の鎖を構成する1つのssRNAの部分領域に対して二重鎖を形成できる程度の相補性を有する塩基配列を有し、かつ、
(iii) 該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの重量平均鎖長が該第2の鎖を構成する1つのssRNAの重量平均鎖長の1/2以下である。
【0017】
上記の特徴(i)に関して、第1の鎖を構成する全てのssRNAは、同種のリボヌクレオチドからなるホモポリマーである。該ssRNAは、以下に限定されないが例えば、アデニル酸ホモポリマー、ウリジル酸ホモポリマー、グアニル酸ホモポリマー、シチジル酸ホモポリマー、イノシン酸ホモポリマー等であり得る。
【0018】
上記の特徴(ii)に関して、第2の鎖を構成するssRNAは、該dsRNAの使用環境において、第1の鎖を構成する2以上のssRNAの各々と二重鎖を形成できる程度に、該第1の鎖のssRNAと相補する塩基配列を有する。従って、第2の鎖のssRNAは、全ての塩基が第1の鎖のssRNAの塩基に相補的となる配列に限定されるものではない。なお、本発明のdsRNAの使用環境とは、生体に投与することを前提とした用途では、例えば、温度が約37℃の生理食塩水(pHが約7.4、塩化ナトリウム濃度が約150 mM)中に溶解した条件下と考えることができる。
そのため、例えば、第2の鎖のssRNAは、第1の鎖の各ssRNAを構成するリボヌクレオチドに対して相補的なリボヌクレオチドが1種または複数種組み合わされた配列のssRNAは無論のこと、第1の鎖のssRNAとの相補的な結合を著しく阻害しない範囲で、更にそこに、第1の鎖の各ssRNAを構成するリボヌクレオチドに対して相補的ではないリボヌクレオチドが、当該ssRNAを構成する全リボヌクレオチドに対して20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満、特に好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の頻度で組み込まれたssRNAであってもよい。リボヌクレオチドの塩基間の相補性については当該技術分野において良く知られている。
具体的には、例えば、第1の鎖がアデニル酸ホモポリマーである場合、該相補的なリボヌクレオチドとしてウリジル酸とイノシン酸、該相補的でないリボヌクレオチドとしてアデニル酸、グアニル酸、シチジル酸、キサンチル酸を挙げることができ;第1の鎖がウリジル酸ホモポリマーである場合、該相補的なリボヌクレオチドとしてアデニル酸、該相補的でないリボヌクレオチドとしてウリジル酸、グアニル酸、イノシン酸、シチジル酸、キサンチル酸を挙げることができ;第1の鎖がグアニル酸ホモポリマーである場合、該相補的なリボヌクレオチドとしてシチジル酸、該相補的でないリボヌクレオチドとしてウリジル酸、アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸、キサンチル酸を挙げることができ;第1の鎖がシチジル酸ホモポリマーである場合、該相補的なリボヌクレオチドとしてグアニル酸とイノシン酸、該相補的でないリボヌクレオチドとしてアデニル酸、ウリジル酸、シチジル酸、キサンチル酸を挙げることができ;第1の鎖がイノシン酸ホモポリマーである場合、該相補的なリボヌクレオチドとしてアデニル酸とシチジル酸、該相補的でないリボヌクレオチドとしてウリジル酸、グアニル酸、イノシン酸、キサンチル酸を挙げることができる。
一つの実施形態では、第1の鎖のssRNAはイノシン酸ホモポリマーであり、かつ第2の鎖のssRNAはシチジル酸を80%以上の割合で含むssRNAであり、例えば、第1の鎖のssRNAがイノシン酸ホモポリマーであり、かつ第2の鎖のssRNAがシチジル酸ホモポリマーである場合等が挙げられる。
【0019】
上記の特徴(iii)に関して、具体的には、第1の鎖を構成するssRNAの重量平均鎖長は例えば0.02〜1.0 kbであり、好ましくは0.02〜0.4 kb、より好ましくは0.02〜0.2 kbである。一方、第2の鎖のssRNAの重量平均鎖長は例えば0.04〜2.0 kbであり、好ましくは0.04〜0.8 kb、より好ましくは0.04〜0.4 kbである。
【0020】
本発明の複合体に含まれる核酸の重量平均鎖長は、好ましくは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析法により決定される鎖長である。具体的には、分子量が既知であるdsRNA等の核酸を標準品としてGPC分析を行い、得られたデータから平均鎖長や鎖長の中央値を算出する。GPC分析を用いた重量平均鎖長の決定は、上記特許文献1の教示に従って行うことができる。
【0021】
該核酸の5’末端および3’末端の構造は問わない。具体的には、5’末端は、ヒドロキシルか一リン酸か二リン酸か三リン酸のいずれであってもよく、3’末端もヒドロキシルか一リン酸か二リン酸か三リン酸のいずれであってもよい。
【0022】
該核酸が塩を形成している場合、塩としては金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。有機アミン付加塩としては、トリスヒドロキシアミノメタン等の塩が挙げられる。アミノ酸付加塩としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチン等の塩が挙げられる。
【0023】
本発明のロッド型ナノ粒子と核酸からなる組成物には、ロッド型ナノ粒子が、共有結合、または非共有結合的な相互作用によって核酸と結合している複合体を含むことが好ましく、一部の核酸が、当該複合体を形成していなくてもよい。
共有結合による複合体形成は、例えば、酵素的または化学的手法により核酸に官能基(例:チオール基、アミノ基、カルボニル基等)を導入し、それらをナノ粒子との共有結合によりナノ粒子表面に固定化することにより行うことができる。
一方、上記の非共有結合的な相互作用は、静電相互作用、疎水的相互作用、水素結合などによるものであってよく、好ましくは静電相互作用によるものである。
静電相互作用を利用する場合、ロッド型ナノ粒子と核酸とをカチオン修飾剤を介して結合させてもよい。カチオン修飾剤としては、ロッド型ナノ粒子及び核酸を結合させるものであればいずれでもよいが、好ましくは、16-メルカプトヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、MTABという。)を挙げることができる。カチオン修飾剤の配合量は当業者により適宜決定され得るが、例えば、1pmolのロッド型ナノ粒子に対して、通常0.02〜2mgのカチオン修飾剤を使用し得る。
【0024】
本発明の組成物は、1pmolのロッド型ナノ粒子あたり、好ましくは0.03〜30mgの、より好ましくは0.1〜10mgの、最も好ましくは0.3〜3mgの核酸を結合させて得られる組成物である。
【0025】
2.本発明のロッド型ナノ粒子及び核酸からなる組成物の製造法
本発明の組成物に用いられるロッド型ナノ粒子の製造方法は公知であり、例えば、C. J. Orendorff and C. J. Murphy, J. Phys. Chem. B 2006, 110, 3990-3994、及びTapan K. Sau and Catherine J. Murphy, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 8648-8649等の記載を元に合成することができる。
また、本発明の複合体に用いられる核酸の製造方法も公知であり、例えば特許文献1の記載を元に合成することができる。
【0026】
ロッド型ナノ粒子は、分散性を確保するために保護剤が添加されている場合があるが、本発明で使用可能な保護剤としては、遠心分離などで除去し得る化合物であればどのようなものでも用いることができる。そのような保護剤としては、ヘキサデシルアンモニウムブロミド(以下、CTABという。)を挙げることができる。
ロッド型ナノ粒子は、遠心分離などで保護剤を除去した後に、必要に応じてMTABなどのカチオン修飾剤を加えることでカチオン化することができる。カチオン化したロッド型ナノ粒子懸濁液と核酸水溶液を混合することで、ナノ粒子表面に核酸がコーティングされた、ロッド型ナノ粒子及び核酸の複合体を形成させることができる。あるいは、上述した通り、ロッド型ナノ粒子懸濁液と、官能基を導入した核酸の水溶液を混合することで、ナノ粒子表面に核酸が共有結合した複合体を形成させることができる。
【0027】
このようにして作製したロッド型ナノ粒子及び核酸からなる組成物をワクチンに配合することによってアジュバントワクチンを提供することができる。あるいは、本発明の組成物を免疫刺激物質として使用することもできる。
【0028】
本発明の組成物を免疫刺激物質またはアジュバントとして使用する場合、それを投与された個体において誘導される免疫反応は、液性免疫、粘膜免疫、細胞性免疫など、どのようなものであってもよい。また、本発明の組成物をアジュバントとして使用する場合の抗原は、抗原に由来する免疫反応を個体において誘導し得るものであれば特に制限されないが、一般にこの抗原に由来する免疫反応がヒトやヒト以外の哺乳動物、鳥類や魚類の疾病を予防および/または治療する効果を有するものが適宜選択される。そのような抗原は当該技術分野において公知である。
【0029】
具体的には、抗原またはワクチンとして、(1)ウイルス、マイコプラズマ、細菌、寄生体、毒素、腫瘍細胞などを例えば遺伝子組み換え、各種試薬(ホルマリン、β−プロピオラクトン、酵素等)処理、放射線、超音波、加熱等の処理により弱毒化、無毒化または非病原性化したもの、(2)ウイルス、マイコプラズマ、細菌、寄生体、毒素、腫瘍細胞などから抽出・精製されたそれらの構成成分(例:膜表面タンパク質、核内タンパク質などのタンパク質、プロテオグリカン、ポリペプチド、膜構成成分等)、(3)ウイルス、マイコプラズマ、細菌、寄生体、毒素、腫瘍細胞などから抗原の遺伝子を取り出して同定し、該遺伝子をプラスミド等のベクターに組み込んで宿主細胞内で発現させることによって得られるペプチドやタンパク質またはそれらの改変体から構成されるサブユニットワクチン等が挙げられる。より具体的な抗原またはワクチンとして、BCG、経口生ポリオ(OPV)ワクチン、痘苗(天然痘)ワクチン、麻疹ワクチン、風疹ワクチン、麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)、流行性耳下腺炎(おたふく)ワクチン、水痘ワクチン、黄熱ワクチン、ロタウイルスワクチン、インフルエンザワクチン等の生ワクチン;インフルエンザウイルスワクチン、肺炎球菌ワクチン、インフルエンザ桿菌b型ワクチン、狂犬病ワクチン、コレラワクチン、三種混合(DPT)ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチン、二種混合(DT)ワクチン(ジフテリア・破傷風混合ワクチン)、不活化ポリオワクチン(IPV)、四種混合(DPT−IPV)ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ混合ワクチン)、日本脳炎ワクチン、百日咳ワクチン、肝炎ウイルス(A型、B型等)ワクチン、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン等の不活化ワクチン、等が挙げられる。
【0030】
本発明の組成物は、当該技術分野で公知の医薬上許容される担体と組み合わせることにより製剤化することができる。剤形は、注射剤、経口投与剤、経肺投与剤、口腔内投与剤、眼内投与剤、鼻腔内投与剤など、どのような形態であってもよい。
注射剤としては、慣用される注射用溶媒に懸濁した懸濁液などを用いることができ、通常、皮下や筋肉内に注射投与される。
経口投与剤としては、通常の経口投与製剤、例えば錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤などであるが、小腸内で薬物が放出されるように工夫された剤型、例えば腸溶性錠剤、腸溶性顆粒剤、腸溶性カプセル剤、腸溶性細粒剤が好ましい。
経肺投与剤としては、肺用吸入器により肺胞に送達される吸入剤が好ましい。
口腔内投与剤、眼内投与剤及び鼻腔内投与剤としては、口腔錠剤、口腔スプレー、点眼剤、点鼻剤、エアゾール、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、液剤、懸濁液剤、ローション剤、ドライパウダー剤、シート剤、貼付剤などが挙げられる。
【0031】
本発明の組成物をアジュバントとして使用する場合の抗原物質は、修飾・改変などを行うことなくそのまま製剤中に含有させてもよいし、あるいは抗原物質の抗原性や安定性を高めるために、例えば、抗原よりも分子量の大きなタンパク質(例:β−ガラクトシダーゼやコアタンパク質等)と共有結合または非共有結合させる、適当な糖鎖を付加する、リポソームに封入する等の修飾・改変を行ってもよい。免疫増強製剤中に含有される本発明の組成物および抗原物質の量は、他の構成成分との混合比や製剤の大きさ等に応じて当業者は適宜調節することができる。
あるいは、本発明の組成物を含む組成物を、ワクチンとは別個のアジュバント製剤として製することもできる。
また、本発明の組成物以外のアジュバントを製剤中に適宜含有させてもよい。
【0032】
上記の剤形に製する方法としては、当該分野で一般的に用いられている公知の製造方法を適用することができる。上記の剤形は、特定の剤形に製する際に通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などの担体、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤、着色剤、保存剤、安定剤などの各種製剤添加物などを適宜、適量含有させることができる。
【0033】
以下に実施例、試験例等を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されない。なお、以下の実施例等において、ナノ粒子のサイズは上述の方法により測定した。
【実施例1】
【0034】
ロッド型金ナノ粒子及びpolyIC(40:400)複合体の形成
特許文献1に記載の方法に準じて、重量平均鎖長が0.04 kbであるイノシン酸ポリマー、及び、重量平均鎖長が0.4 kb であるシチジル酸ポリマーを混合し、二重鎖リボ核酸溶液を得た。当該溶液をpolyIC(40:400)という。
また、C. J. Orendorff and C. J. Murphy, J. Phys. Chem. B 2006, 110, 3990-3994、及びTapan K. Sau and Catherine J. Murphy, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 8648-8649に記載の方法に準じて、表面がヘキサデシルアンモニウムブロミド (CTAB)で保護された長軸27±3.1nm、短軸7.3±0.97nmのロッド型金ナノ粒子を調製した。
当該ロッド型金ナノ粒子の懸濁液を遠心分離して上澄みを捨てた後、純水を加えて懸濁し遠心分離して上澄みを捨てる操作を3回繰り返した。その後、16-mercaptohexadecyl trimethylammonium bromide (MTAB) を加え、金ナノ粒子表面をMTABで修飾した。金ナノ粒子MTAB溶液を遠心分離して上澄みを捨てた後、純水を加えて懸濁し遠心分離して上澄みを捨てる操作を3回繰り返し、遊離のMTABを取り除いた。純水を加えて金ナノ粒子濃度 1 nMの懸濁液を得た。
この溶液と高不均等型polyIC(40:400) 2 mg/ml溶液を体積比1:1で室温混合し、polyIC(40:400)がコーティングされたロッド型金ナノ粒子を含む組成物を得た。
【0035】
[対照例1]
40 nm球型金ナノ粒子−poly(I:C)複合体の形成
表面がヘキサデシルアンモニウムブロミド (CTAB)で保護された直径38±4.3nmの球状金ナノ粒子懸濁液を遠心分離して上澄みを捨てた後、実施例1とまったく同様な操作を行い、polyIC(40:400)がコーティングされた40 nm金ナノ粒子複合体を得た。
【0036】
[対照例2]
20 nm球型金ナノ粒子−poly(I:C)複合体の形成
表面がヘキサデシルアンモニウムブロミド (CTAB)で保護された直径20±1.4 nmの球状金ナノ粒子懸濁液を遠心分離して上澄みを捨てた後、実施例1と同様な操作を行い、金ナノ粒子濃度 5 nMの懸濁液を得た。この溶液と高不均等型polyIC(40:400) 2 mg/ml溶液を体積比1:1で室温混合し、polyIC(40:400)がコーティングされた20 nm金ナノ粒子を含む組成物を得た。
【0037】
[試験例1]
金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像
実施例1、対照例1および2に供した金ナノ粒子を透過型電子顕微鏡にて観察した。
図1から明らかなように、実施例1に供したナノ粒子の形状はロッド状であり、対照例1、2のナノ粒子は球状である。図の1のバーの長さは100nmである。
【0038】
[試験例2]
アジュバント活性の確認(経鼻インフルエンザワクチン)
1群6匹の6〜8週齢のBALB/cマウスに対して、不活化スプリットワクチンの経鼻接種を3週間隔で2回行った。アジュバントとして実施例1、対照例1および2で作製した金ナノ粒子−polyIC(40:400)を含む組成物、金ナノ粒子単体、polyIC(40:400)単体を用いて比較した。2回目のワクチン接種から2週間後にインフルエンザウイルスを鼻腔領域に攻撃感染を行った。感染から3日後の鼻腔洗浄液と血清を回収し、鼻腔洗浄液中ウイルス量と鼻腔洗浄液中および血清中の抗体価を測定した。
図2および
図3から明らかなように、ロッド型金ナノ粒子−polyIC(40:400)を含む組成物10 mcg添加群でのみ鼻腔洗浄液中ウイルス量が有意に減少と血清中のIgA抗体価の上昇が認められた(両図中の実験区11)。これらの有意な変化はロッド型金ナノ粒子単体添加群およびpolyIC(40:400)単体添加群では認められなかったことから、polyIC(40:400)のアジュバント活性がロッド型金ナノ粒子−polyIC(40:400)複合体化によって増幅されたことは明らかである。また、球型金ナノ粒子−polyIC(40:400)を含む組成物添加群でもウイルス量の有意な減少や血清中のHA抗体特異的IgA抗体価の上昇が認められなかったことから、ロッド型の粒子形状がpolyIC(40:400)のアジュバント活性上昇に寄与していることは明らかである。