【0021】
化学式(1)で示されるカリキピロンを有効成分として含む医薬組成物は抗肥満薬として使用され得るものであるが、ここで「肥満」とは一般的には体内に脂肪組織が一定以上多量に蓄積した状態をいう。本明細書においては「肥満」は広義に解釈されるものとし、その概念に肥満症を含む。「肥満症」とは肥満に起因ないし関連する健康障害(合併症)を有するか又は将来的に有することが予測される場合であって、医学的に減量が必要とされる病態をいう。
肥満の判定法としては、通常、国際的に広く使用されているBMI(Body Mass Index)を尺度としたものが用いられている。BMIは、体重(kg)を身長(m)の二乗で除した数値(BMI=体重(kg)/身長(m)
2)である。BMI<18.5は低体重、18.5≦BMI<25は普通体重、25≦BMI<30は肥満(1度)、30≦BMI<35は肥満(2度)、35≦BMI<40は肥満(3度)、40≦BMIは肥満(4度)と判定される。もっとも、標準体重(理想体重)は性別、年齢、職業または生活習慣の差異などによって個人ごとに相違するものであることから、肥満の判定をこの方法で一律に行い、本発明の抗肥満薬を厳格に適用することを意図するものではない。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて、本発明の具体的態様を示すものであるが、本発明の技術的範囲は実施例の記載により何ら限定されるものではない。
【0027】
実施例1 化学式(1)で示されるカリキピロンの細胞を用いた生物活性試験
化学式(1)で示されるカリキピロンの生物活性として、脂肪細胞への分化阻害を調べた。
実施例には、脂肪細胞への効率的な分化が実証されているマウス繊維芽細胞3T3−L1細胞を下記(A)〜(D)のとおり調製して用いた。
(A)3T3−L1細胞の増殖、保存
3T3−L1細胞は100mmディッシュ上で、5%ウシ血清を添加したDMEM増殖用培地で5%炭酸ガス−空気、飽和水蒸気下、37℃で培養した。なお、3T3−L1細胞は、最初に大量培養しておき、常法に従って、分注して凍結保存した。
(B)継代
PBS(−)5mlで細胞を洗浄し、0.25%トリプシン1mM EDTA含有生理食塩水1mlを加えて37℃で3分間静置した。増殖用培地5mlで細胞を懸濁して15mlの遠沈管に移して、1500rpm、3分間の遠心によって細胞を沈殿させた。1/4から1/5に希釈して、ディッシュにまいた。
(C)実施例用細胞の準備
上述と同様の方法でディッシュから剥離、遠心沈殿させた細胞は、適当な量の増殖用培地に懸濁し、細胞数を計測した。それをもとに、5×10
4個/wellとなるように96穴プレートに播種して48時間培養した。
(D)分化誘導培地の調製
上記増殖用培地100mlに1mMデキサメタゾン溶液1ml、3−イソブチル−1−メチルキサンテン11.1mg、および5mg/mlインスリン溶液0.1mlを添加し、溶解することで調製した。
【0028】
脂肪細胞への分化誘導率による分化阻害
3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化誘導には、培地を増殖用培地から分化誘導培地に置き換えることで行った。この時、特定の濃度に調整した化学式(1)で示されるカリキピロンを分化誘導培地に添加し、ブランクとコントロールには分化誘導培地のみを添加した。プレートは5%炭酸ガス−空気、飽和水蒸気下、37℃で培養した。48時間後にインスリンを加えた新鮮な増殖培地に置き換えた。その後、2日おきに培地を新鮮な増殖培地に置き換えた。
上記の方法で分化誘導開始より7〜10日間の培養後、細胞を顕微鏡で観察し、コントロールの細胞が十分に分化した時点で評価した。
脂肪細胞への分化誘導率は、細胞内に蓄積されたトリグリセリドの量を定量する事によって算出した。細胞をPBS(−)で洗浄して風乾させ、そこにラボアッセイトリグリセライドキットワコーを100μL/wellずつ添加した。室温で30〜60分間静置し、630nmの吸光度を測定してトリグリセリドを定量した。
結果を
図1に示す。化学式(1)で示されるカリキピロンは濃度67.5nMで3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化を50%阻害した。
【0029】
実施例2 カリキピロンの高脂肪食摂食マウスの体重に及ぼす影響
カリキピロンの高脂肪食摂食マウスの体重に及ぼす影響を調べた。
(1)実験材料および方法
1.高脂肪食飼料の組成と調製
オリエンタル酵母工業株式会社の市販特注固形飼料HFD−60を用いた。また、対照群用の標準食固形飼料には、同社のAIN93Mを用いた。各飼料の組成は下記表1に示した。
【表1】
オリエンタル酵母工業社資料より
【0030】
2.実験動物
日本エスエルシーより購入した雄性ddY系マウス(SPF)を用いた。マウスは4週齢で搬入後、5日間予備飼育して実験に供した。マウスは予備飼育期間および実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%の飼育室(照明時間8時〜20時)で飼育した。
マウスは1匹/ケージとし、予備飼育期間中は標準食固形飼料を、また実験期間中は標準食固形飼料または高脂肪食固形飼料を自由摂取させた。飼料の補充は週2回(毎週月曜日、木曜日)行った。飲料水は滅菌蒸留水を給水瓶で自由に与えた。飼育室内におけるケージの位置は、1週間ごとにランダムに入れ替えた。
【0031】
3.被験物質の調製、投与
ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したカリキピロン(KAL)をプラスチックチューブに分注して−20℃に凍結保存した。投与直前に解凍し、蒸留水で希釈して0.5mg/mlの溶液を作製した。この溶液を5週齢時から10週齢時まで毎日、マウス用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。投与容量はマウスの体重10g当り0.1mlとした。全ての実験群において投与溶液中のDMSOの終濃度は0.5%になるように調整し、投与は室温に戻した溶液を投与した。
なお、希釈した被験物質溶液が残った場合は−20℃に凍結保存し、翌日に解凍して投与に用い、翌々日には使用しなかった。
【0032】
4.群構成
高脂肪食摂取期間:5週間
動物数:3または6匹/群
群構成:以下の表2に示す
【表2】
【0033】
5.観察および測定項目
1)一般状態
毎日1回症状を観察した。
2)体重
毎週2回、体重計にて体重を測定した。
3)飼料摂取量
毎週2回、飼料摂取量を測定し、新しい飼料を補充した。飼料摂取量は、群毎にg/day/mouseで表した。
【0034】
(2)結果
上記試験に供したマウスの摂食量の経時変化および水分摂取量の経時変化を測定した。平均摂食量の経時変化を
図2に、平均水分摂取量の経時変化を
図3に示す。
図2および3において、HFは高脂肪食固形飼料摂取群、KAは高脂肪食固形飼料とカリキピロン摂取群、およびNCは標準食固形飼料摂取群を示す。標準食固形飼料のみの摂取による予備飼育期間が終了し、高脂肪食固形飼料のみの摂取および高脂肪食固形飼料とカリキピロンの摂取を開始した日を0日目(day0)とした。
図2および
図3から、カリキピロンは、マウスの摂食量および水分摂取量に影響を及ぼさない、すなわち、マウスの食欲に影響を及ぼさないことが判明した。
カリキピロン投与によるマウスの体重の経時変化を
図4に示す。
図4において、HFは高脂肪食固形飼料摂取群、KAは高脂肪食固形飼料とカリキピロン摂取群、およびNCは標準食固形飼料摂取群を示す。KAは、HFに比べて、高脂肪食固形飼料摂取による体重増加が抑制されることが判明した。