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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-124850(P2016-124850A)
(43)【公開日】2016年7月11日
(54)【発明の名称】抗肥満剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/351 20060101AFI20160613BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20160613BHJP
【FI】
   A61K31/351
   A61P3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-2278(P2015-2278)
(22)【出願日】2015年1月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ELSEVIER B.V.発行のTetrahedron Letters,第55巻,第49号,第6711〜6714頁(平成26年10月12日発行)に掲載。
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】上村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川添 嘉徳
(72)【発明者】
【氏名】小山 智之
(72)【発明者】
【氏名】末永 聖武
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有紘
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086GA16
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA70
(57)【要約】
【課題】前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化阻害効果を有する天然有機化合物を有効成分として含有する医薬を提供すること。
【解決手段】藍藻由来の下記化学式で示されるカリキピロン(Kalkipyrone)が前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化阻害活性および体重増加の抑制活性を有することから、かかる化合物を有効成分として含有する抗肥満薬および体重増加を抑制することを特徴とする抗肥満薬。

【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学式(1)で示されるカリキピロン(Kalkipyrone)を有効成分として含有することを特徴とする抗肥満薬。
【化1】
(化学式(1))
【請求項2】
体重増加を抑制することを特徴とする請求項1記載の抗肥満薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然有機化合物を有効成分として含有する抗肥満薬に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋は地球上の表面積の約71%を占め、地球全体の生物の約90%が海洋に棲息するといわれている。海洋生物は、陸上生物と比較すると異なった環境で生存しており、海水という塩濃度の高い系に存在し、温度変化が比較的小さく、高い圧力を受けることがある。こうした特異な環境に生育する生物が生産する化学物質は多彩な構造を持ち、それらの中には、様々な生物活性を持つものが明らかになってきている。
現在、生物活性物質の探索源として有望視されている海洋生物として藍藻が挙げられる。藍藻は光合成を行う原核生物であり、淡水湖沼、汽水域、海洋、土壌など様々な環境下で生育している。生育環境によって特異な化学構造や生理活性を示す物質を生産することが知られており、例えば、発癌プロモーター活性を有するLyngbyatoxin A(非特許文献1)、骨吸収活性を阻害するBiselyngbyaside(非特許文献2)、また強力なプロテインキナーゼの阻害活性を示すBisebromoamide(非特許文献3)などが挙げられ、生物活性物質やそのリード化合物の探索源として藍藻が期待されている。
【0003】
ヒトのからだの脂肪組織および種々の臓器における過度の脂肪の蓄積により引き起こされる肥満は、体質的因子、食餌性因子、精神的因子、代謝的因子、運動不足などが要因となり、結果的に摂取カロリーが消費カロリーを上回り、脂肪が蓄積して起こるものである。肥満は糖尿病、高血圧、脂質異常症など多くの生活習慣病の原因となっており、特に近年では高血圧や脂質異常症など複数の生活習慣病を合併していることをメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)と呼称している。厚生労働省の平成18年度国民健康調査において、40〜74歳のメタボリックシンドロームの該当者数が約960万人、予備群者数が約980万人とされている。そのため、効果的な治療法や予防法が求められている。
また、日本人の死因の第1位はがん、第2位は脳卒中(脳梗塞や脳出血)、第3位は心臓病(心筋梗塞や狭心症)であり、2位と3位はどちらも動脈硬化や高血圧、脂質異常症などが大きな危険因子であるが、これらには食事や肥満が大きく関わっている。さらに、日本人の間で急激に増えている糖尿病、高尿酸血症や痛風、脂肪肝、膵炎なども、肥満との関わりが深い病気といわれている。
肥満の状態では、生体内の脂肪細胞に存在する脂肪滴、すなわちトリグリセリド量が増加し、細胞が肥大している。さらに、最近になって、成人となってからでも脂肪細胞の数が増加することが報告されている。したがって、脂肪細胞への分化を阻害すること、および脂肪細胞内の脂肪滴に作用することの両面から肥満の進行を阻害する試みが期待されている。
【0004】
本発明者らは、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化阻害または脂肪細胞の脂肪蓄積の阻害を通して抗肥満効果を示す医薬等について研究を続けており、特定のキノコ又は植物から抽出した成分を有効成分とする前駆脂肪細胞分化阻害剤(特許文献1)、環状ヘプタペプチドであるテルナチン:cyclo[−D−Ile1−(N−Me)−L−Ala2−(N−Me)−L−Leu3−L−Leu4−(N−Me)−L−Ala5−(N−Me)−D−Ala6−β―OH−D−Leu7−]を有効成分とする前駆脂肪細胞分化阻害剤(特許文献2)、および植物成分のビサボロールオキシド−A−β−グルコシドを有効成分とする前駆脂肪細胞分化阻害剤(特許文献3)を見出すことに成功した。
また、公知の抗菌作用を有する天然有機化合物であるオーレオシンにはトリグリセリドの生合成阻害活性があり、血液中のトリグリセリド濃度を低下させることが報告されている(特許文献4)。
しかしながら、これまで得られた天然物からの抽出成分や天然有機化合物は、必ずしも抗肥満薬として満足のいくものではなく、とりわけ、脂肪細胞内の脂肪滴に作用することによる抗肥満薬といった観点からは満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−075640号公報
【特許文献2】特開2005−220074号公報
【特許文献3】特開2006−213648号公報
【特許文献4】特開平9−194366号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.H.Cardellina II,F.J.Marner,R.E.Moore,Science,204,193(1979)
【非特許文献2】T.Yonezawa,N.Mase,H.Sasaki,T.Teruya,S.Hasegawa,B.Cha,K.Yagasaki,K.Suenaga,K.Nagai,J.Woo,J.Cell Biochem.,2012,2,440
【非特許文献3】T.Teruya,H.Sasaki,H.Fukazawa,and K.Suenaga, Org.Lett.,2009,11,5062
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、本発明者らは、藍藻類から単離した新規有機化合物であるヨシノンAが脂肪細胞内の脂肪滴の縮小活性を有することを見出した(特願2014−137892号)が、抗肥満薬といった観点から、より優れた効果を発揮する天然有機化合物についての検討が必要であった。
【0008】
本発明の課題は、上記に記載した背景の下、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化阻害活性および体重増加の抑制活性を有する天然有機化合物を有効成分として含有する医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、藍藻由来の下記化学式(1)で示されるカリキピロン(Kalkipyrone)が前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化阻害活性および体重増加の抑制活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【化1】
(化学式(1))
【0010】
本発明は、上記化学式(1)で示されるカリキピロンを有効成分として含有することを特徴とする抗肥満薬に関する。
【0011】
また、本発明は、体重増加を抑制することを特徴とする上記化学式(1)で示されるカリキピロンを有効成分として含有することを特徴とする抗肥満薬に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、化学式(1)で示されるカリキピロンは、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化阻害活性および体重増加の抑制活性を有することから、脂肪の蓄積や肥満の予防、改善に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】カリキピロンの3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化阻害活性を示すグラフである。
図2】カリキピロン投与によるマウスの摂食量に対する影響を示すグラフである。
図3】カリキピロン投与によるマウスの水分摂取量に対する影響を示すグラフである。
図4】カリキピロン投与によるマウスの体重に対する影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
化学式(1)で示されるカリキピロンは、藍藻類から単離・構造決定された化合物であり、γ−ピロン環という特徴的な構造を有し、アルテミア(LD50 1μg/mL)および金魚(LD50 2μg/mL)に対して毒性を示すことが知られている。
【0016】
化学式(1)で示されるカリキピロンは、天然物からの抽出・単離や合成によって得ることができ、例えば、Melodie A.Graber and William H.Gerwick,J.Nat.Prod.1998,61,677に記載される方法に従って、藍藻から抽出し、精製することにより得ることができる。
【0017】
藍藻は光合成を行う原核生物であり、淡水湖沼、汽水域、海洋、土壌など様々な環境下で広く生育しているものであるが、化学式(1)で示されるカリキピロンを含有する藍藻またはその部位は、それ自身を乾燥させた乾燥物、その粉砕物、それら自身を圧搾抽出することにより得られる搾汁、水あるいはアルコール、エーテル、アセトンなどの有機溶媒による粗抽出物、および粗抽出物を分配、カラムクロマトなどの各種クロマトグラフィーなどで段階的に精製して得られた抽出物画分など、すべてを利用することができる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上混合してもよい。
【0018】
例えば、藍藻を採取した後に冷凍保存し、含水メタノールにて粉砕・抽出し、粗抽出物を得、粗抽出物を酢酸エチル層と水層とに分配し、さらに、有機層としての酢酸エチル層をODSシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより画分することができる。
【0019】
化学式(1)で示されるカリキピロンは、優れた前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化阻害活性および体重増加の抑制活性を有することから、抗肥満剤として使用可能である。
【0020】
カリキピロンは、特に体重増加の抑制活性を有することから、体重増加を抑制させることによる抗肥満薬として使用可能である。
【0021】
化学式(1)で示されるカリキピロンを有効成分として含む医薬組成物は抗肥満薬として使用され得るものであるが、ここで「肥満」とは一般的には体内に脂肪組織が一定以上多量に蓄積した状態をいう。本明細書においては「肥満」は広義に解釈されるものとし、その概念に肥満症を含む。「肥満症」とは肥満に起因ないし関連する健康障害(合併症)を有するか又は将来的に有することが予測される場合であって、医学的に減量が必要とされる病態をいう。
肥満の判定法としては、通常、国際的に広く使用されているBMI(Body Mass Index)を尺度としたものが用いられている。BMIは、体重(kg)を身長(m)の二乗で除した数値(BMI=体重(kg)/身長(m))である。BMI<18.5は低体重、18.5≦BMI<25は普通体重、25≦BMI<30は肥満(1度)、30≦BMI<35は肥満(2度)、35≦BMI<40は肥満(3度)、40≦BMIは肥満(4度)と判定される。もっとも、標準体重(理想体重)は性別、年齢、職業または生活習慣の差異などによって個人ごとに相違するものであることから、肥満の判定をこの方法で一律に行い、本発明の抗肥満薬を厳格に適用することを意図するものではない。
【0022】
本発明の抗肥満薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D−マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0023】
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、および座剤などとして本発明の医薬を提供できる。
本発明の医薬組成物には、期待される治療効果(予防効果も含む)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬組成物中の有効成分量は一般に剤型によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。
【0024】
本発明の抗肥満薬はその剤型に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。)を含む。好ましい態様としては、本発明の抗肥満薬はヒトに対して適用される。
【0025】
本発明の抗肥満薬(有効成分)の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、および体重などが考慮される。なお、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能であり、例えば、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約1mg〜約6g、好ましくは約6mg〜約600mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の病状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて、本発明の具体的態様を示すものであるが、本発明の技術的範囲は実施例の記載により何ら限定されるものではない。
【0027】
実施例1 化学式(1)で示されるカリキピロンの細胞を用いた生物活性試験
化学式(1)で示されるカリキピロンの生物活性として、脂肪細胞への分化阻害を調べた。
実施例には、脂肪細胞への効率的な分化が実証されているマウス繊維芽細胞3T3−L1細胞を下記(A)〜(D)のとおり調製して用いた。
(A)3T3−L1細胞の増殖、保存
3T3−L1細胞は100mmディッシュ上で、5%ウシ血清を添加したDMEM増殖用培地で5%炭酸ガス−空気、飽和水蒸気下、37℃で培養した。なお、3T3−L1細胞は、最初に大量培養しておき、常法に従って、分注して凍結保存した。
(B)継代
PBS(−)5mlで細胞を洗浄し、0.25%トリプシン1mM EDTA含有生理食塩水1mlを加えて37℃で3分間静置した。増殖用培地5mlで細胞を懸濁して15mlの遠沈管に移して、1500rpm、3分間の遠心によって細胞を沈殿させた。1/4から1/5に希釈して、ディッシュにまいた。
(C)実施例用細胞の準備
上述と同様の方法でディッシュから剥離、遠心沈殿させた細胞は、適当な量の増殖用培地に懸濁し、細胞数を計測した。それをもとに、5×10個/wellとなるように96穴プレートに播種して48時間培養した。
(D)分化誘導培地の調製
上記増殖用培地100mlに1mMデキサメタゾン溶液1ml、3−イソブチル−1−メチルキサンテン11.1mg、および5mg/mlインスリン溶液0.1mlを添加し、溶解することで調製した。
【0028】
脂肪細胞への分化誘導率による分化阻害
3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化誘導には、培地を増殖用培地から分化誘導培地に置き換えることで行った。この時、特定の濃度に調整した化学式(1)で示されるカリキピロンを分化誘導培地に添加し、ブランクとコントロールには分化誘導培地のみを添加した。プレートは5%炭酸ガス−空気、飽和水蒸気下、37℃で培養した。48時間後にインスリンを加えた新鮮な増殖培地に置き換えた。その後、2日おきに培地を新鮮な増殖培地に置き換えた。
上記の方法で分化誘導開始より7〜10日間の培養後、細胞を顕微鏡で観察し、コントロールの細胞が十分に分化した時点で評価した。
脂肪細胞への分化誘導率は、細胞内に蓄積されたトリグリセリドの量を定量する事によって算出した。細胞をPBS(−)で洗浄して風乾させ、そこにラボアッセイトリグリセライドキットワコーを100μL/wellずつ添加した。室温で30〜60分間静置し、630nmの吸光度を測定してトリグリセリドを定量した。
結果を図1に示す。化学式(1)で示されるカリキピロンは濃度67.5nMで3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化を50%阻害した。
【0029】
実施例2 カリキピロンの高脂肪食摂食マウスの体重に及ぼす影響
カリキピロンの高脂肪食摂食マウスの体重に及ぼす影響を調べた。
(1)実験材料および方法
1.高脂肪食飼料の組成と調製
オリエンタル酵母工業株式会社の市販特注固形飼料HFD−60を用いた。また、対照群用の標準食固形飼料には、同社のAIN93Mを用いた。各飼料の組成は下記表1に示した。
【表1】
オリエンタル酵母工業社資料より
【0030】
2.実験動物
日本エスエルシーより購入した雄性ddY系マウス(SPF)を用いた。マウスは4週齢で搬入後、5日間予備飼育して実験に供した。マウスは予備飼育期間および実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%の飼育室(照明時間8時〜20時)で飼育した。
マウスは1匹/ケージとし、予備飼育期間中は標準食固形飼料を、また実験期間中は標準食固形飼料または高脂肪食固形飼料を自由摂取させた。飼料の補充は週2回(毎週月曜日、木曜日)行った。飲料水は滅菌蒸留水を給水瓶で自由に与えた。飼育室内におけるケージの位置は、1週間ごとにランダムに入れ替えた。
【0031】
3.被験物質の調製、投与
ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したカリキピロン(KAL)をプラスチックチューブに分注して−20℃に凍結保存した。投与直前に解凍し、蒸留水で希釈して0.5mg/mlの溶液を作製した。この溶液を5週齢時から10週齢時まで毎日、マウス用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。投与容量はマウスの体重10g当り0.1mlとした。全ての実験群において投与溶液中のDMSOの終濃度は0.5%になるように調整し、投与は室温に戻した溶液を投与した。
なお、希釈した被験物質溶液が残った場合は−20℃に凍結保存し、翌日に解凍して投与に用い、翌々日には使用しなかった。
【0032】
4.群構成
高脂肪食摂取期間:5週間
動物数:3または6匹/群
群構成:以下の表2に示す
【表2】
【0033】
5.観察および測定項目
1)一般状態
毎日1回症状を観察した。
2)体重
毎週2回、体重計にて体重を測定した。
3)飼料摂取量
毎週2回、飼料摂取量を測定し、新しい飼料を補充した。飼料摂取量は、群毎にg/day/mouseで表した。
【0034】
(2)結果
上記試験に供したマウスの摂食量の経時変化および水分摂取量の経時変化を測定した。平均摂食量の経時変化を図2に、平均水分摂取量の経時変化を図3に示す。図2および3において、HFは高脂肪食固形飼料摂取群、KAは高脂肪食固形飼料とカリキピロン摂取群、およびNCは標準食固形飼料摂取群を示す。標準食固形飼料のみの摂取による予備飼育期間が終了し、高脂肪食固形飼料のみの摂取および高脂肪食固形飼料とカリキピロンの摂取を開始した日を0日目(day0)とした。図2および図3から、カリキピロンは、マウスの摂食量および水分摂取量に影響を及ぼさない、すなわち、マウスの食欲に影響を及ぼさないことが判明した。
カリキピロン投与によるマウスの体重の経時変化を図4に示す。図4において、HFは高脂肪食固形飼料摂取群、KAは高脂肪食固形飼料とカリキピロン摂取群、およびNCは標準食固形飼料摂取群を示す。KAは、HFに比べて、高脂肪食固形飼料摂取による体重増加が抑制されることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
化学式(1)で示されるカリキピロンは、脂肪細胞への分化阻害活性を有することから、抗肥満剤としての医薬組成物として有用である。また、カリキピロンは食欲減退を招くことなく、高脂肪食の摂取による体重増加を抑制する作用を示すことから、抗肥満剤としての医薬組成物として有用である。
図1
図2
図3
図4