(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-125911(P2016-125911A)
(43)【公開日】2016年7月11日
(54)【発明の名称】元素分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20160613BHJP
G01N 31/12 20060101ALI20160613BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20160613BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20160613BHJP
【FI】
G01N31/00 Y
G01N31/12 B
G01N27/62 F
G01N1/28 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-283(P2015-283)
(22)【出願日】2015年1月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505322131
【氏名又は名称】株式会社 イアス
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】荻原 勤
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 元亮
(72)【発明者】
【氏名】種田 義則
(72)【発明者】
【氏名】森澤 拓
(72)【発明者】
【氏名】星 征朗
(72)【発明者】
【氏名】川端 克彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 理朗
(72)【発明者】
【氏名】狩野 光正
【テーマコード(参考)】
2G041
2G042
2G052
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G041EA01
2G041FA30
2G042AA01
2G042CA10
2G042CB06
2G042EA01
2G042EA02
2G042EA05
2G042FA01
2G042FB02
2G052AA13
2G052AA18
2G052AB26
2G052AD32
2G052AD46
2G052EB11
2G052FD09
2G052GA15
2G052GA24
2G052JA09
(57)【要約】
【課題】ケイ素マトリックスの析出による元素分析装置の閉塞を防止しながら、ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を従来の1,000倍の精度で分析することができる元素分析方法を提供する。
【解決手段】ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を分析する方法であって、少なくとも加熱機構、送液機構、及び搬送機構が具備された自動気相分解装置を用いて、前記試料中に含まれるケイ素含有化合物を分解し、該分解後の試料中のケイ素分を除去して元素分析用試料を調製し、該調製した元素分析用試料を自動で元素分析装置に注入して、前記元素分析用試料中の不純物元素を分析する元素分析方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を分析する方法であって、
少なくとも加熱機構、送液機構、及び搬送機構が具備された自動気相分解装置を用いて、前記試料中に含まれるケイ素含有化合物を分解し、該分解後の試料中のケイ素分を除去して元素分析用試料を調製し、該調製した元素分析用試料を自動で元素分析装置に注入して、前記元素分析用試料中の不純物元素を分析することを特徴とする元素分析方法。
【請求項2】
前記自動気相分解装置内において、
(1)前記試料に、硝酸及びフッ酸のいずれか、又はこれらの混合物を添加する工程、
(2)オゾンガス処理及び加熱処理のいずれか、又はその両方で前記試料中のケイ素含有化合物を分解する工程、
(3)該分解後の試料を加熱処理し、該分解後の試料中のケイ素分を蒸発させて除去する工程、及び
(4)該ケイ素分を除去した試料を酸に溶解させる工程、
を自動で行うことで元素分析用試料を調製することを特徴とする請求項1に記載の元素分析方法。
【請求項3】
前記(1)工程の前に、30℃以上300℃以下で加熱処理することで前記試料を濃縮又は蒸発乾固することを特徴とする請求項2に記載の元素分析方法。
【請求項4】
前記(1)〜(4)のいずれかの工程の前後において、硝酸、フッ酸、又はこれらの混合物を添加することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の元素分析方法。
【請求項5】
前記(2)工程の加熱処理を、30℃以上300℃以下で行うことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項6】
前記(3)工程の加熱処理を、35℃以上350℃以下で行うことを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項7】
前記(4)工程に用いる酸を、硝酸及びフッ酸のいずれか、又はこれらの混合物とすることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項8】
前記試料を、半導体装置製造工程で使用されるケイ素含有膜形成用塗布材料とすることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項9】
前記試料を、シランモノマーを含むものとすることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項10】
前記試料を、繰り返し単位中にケイ素原子を含有する高分子化合物を含むものとすることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項11】
前記繰り返し単位中にケイ素原子を含有する高分子化合物を、ポリシロキサン化合物とすることを特徴とする請求項10に記載の元素分析方法。
【請求項12】
前記試料を、前記ケイ素含有化合物の水溶液又は有機溶剤溶液とすることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項13】
前記元素分析装置を、誘導結合プラズマ質量分析装置、誘導結合プラズマ発光分析装置、及び原子吸光分析装置のいずれかとすることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項14】
前記自動気相分解装置として、オゾンガス処理ユニットが具備されたものを用いることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の元素分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を分析する方法に関し、特にはケイ素含有レジスト下層膜形成用材料や層間絶縁膜形成用材料等の半導体装置製造工程で使用されるケイ素含有膜形成用塗布材料中の不純物元素を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化と高速度化に伴い、回路パターン寸法の微細化が急速に進んでいる。リソグラフィー技術は、この微細化に併せ、光源の短波長化とそれに対するレジスト組成物の適切な選択により、微細パターンの形成を達成してきた。
【0003】
しかし、同じ光源で微細化する場合において、使用するフォトレジスト膜の膜厚を変えずにパターン幅のみを小さくすると、現像後のフォトレジストパターンのアスペクト比が大きくなり、結果としてパターン崩壊が発生するという問題があった。このため、フォトレジストパターンのアスペクト比が適切な範囲に収まるように、フォトレジスト膜厚は微細化に伴い薄膜化されてきた。しかし、フォトレジスト膜の薄膜化に伴い、ドライエッチング耐性不足による基板加工不良という問題点がさらに発生した。
【0004】
このような問題点を解決する方法の一つとして、多層レジスト法がある。この方法は、フォトレジスト膜(即ち、レジスト上層膜)とエッチング選択性が異なる下層膜をレジスト上層膜と被加工基板の間に介在させ、レジスト上層膜にパターンを得た後、上層レジストパターンをドライエッチングマスクとして、ドライエッチングにより下層膜にパターンを転写し、さらに下層膜をドライエッチングマスクとして、ドライエッチングにより被加工基板にパターンを転写する方法である。
【0005】
このような多層レジスト法でのレジスト下層膜として、近年、ケイ素含有レジスト下層膜が使用されている(特許文献1)。ケイ素含有レジスト下層膜は成膜が容易で、レジスト上層膜とは異なるエッチング選択性を持つため、加工性能に優れている。しかしながら、近年、特に32nm/28nmノード以降の微細な半導体プロセスでは、レジスト下層膜に不純物として含まれる金属元素がドライエッチングマスクとなって半導体装置回路の短絡や切断を引き起こす原因の一つとなることが見出されてきた。このため、ケイ素含有レジスト下層膜形成用材料中に含まれる不純物元素の除去が必要とされている。
【0006】
一般的に、ケイ素含有化合物を含む試料を元素分析装置に注入する際、通常の有機化合物と同様に溶剤で適切な濃度に希釈してICP−MS等の高感度元素分析装置に注入すると、試料中のケイ素分が酸化されてケイ素マトリックス(主に二酸化ケイ素からなる複合体)を形成し、これが真空系インターフェイスに析出、さらに進行すると当該部分を閉塞してしまい、測定の再現性を損なうだけでなく、元素分析装置の故障を誘発するという問題があった。このように、特に試料がケイ素含有化合物を含む場合は、試料中に含まれる不純物元素を定量化することが困難であるため、不純物元素を除去する技術の差別化ができず、結果として上記のような材料中の不純物を低減する技術の進歩を妨げていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−302873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような問題点への対策として、従来は、上記のケイ素マトリックスの析出による元素分析装置の閉塞を防止するため、試料を清浄な溶剤で例えば100倍から1,000倍程度に大規模に希釈し、元素分析装置内で析出するケイ素マトリックスの量を最小限にすることが行われてきた。しかしながら、このような方法では、試料を大規模に希釈することで不純物として混入している微量な金属元素も希釈されてしまうため、元素分析で定量的に検出できる感度を示すほど十分な質量で不純物元素を導入できなくなってしまい、500ppt(0.5ppb)程度の検出感度しか得られないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ケイ素マトリックスの析出による元素分析装置の閉塞を防止しながら、ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を従来の1,000倍の精度で分析することができる元素分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では、ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を分析する方法であって、少なくとも加熱機構、送液機構、及び搬送機構が具備された自動気相分解装置を用いて、前記試料中に含まれるケイ素含有化合物を分解し、該分解後の試料中のケイ素分を除去して元素分析用試料を調製し、該調製した元素分析用試料を自動で元素分析装置に注入して、前記元素分析用試料中の不純物元素を分析する元素分析方法を提供する。
【0011】
このような元素分析方法であれば、試料中のケイ素含有化合物を分解し、ケイ素分を除去する前処理を行うことで、従来元素分析装置にケイ素含有化合物を含む試料を注入した際に発生していた、試料中のケイ素分に由来するケイ素マトリックスの析出を防止することができる。このため、従来ケイ素マトリックスの析出による影響を抑制するために行われていた試料の大規模な希釈を行わなくとも、一般的な分析サンプルと同様に直接ICP−MS等の元素分析装置に導入することが可能となり、結果として従来の1,000倍の精度である0.5pptの精度で不純物元素の分析をすること可能となる。
【0012】
またこのとき、前記自動気相分解装置内において、
(1)前記試料に、硝酸及びフッ酸のいずれか、又はこれらの混合物を添加する工程、
(2)オゾンガス処理及び加熱処理のいずれか、又はその両方で前記試料中のケイ素含有化合物を分解する工程、
(3)該分解後の試料を加熱処理し、該分解後の試料中のケイ素分を蒸発させて除去する工程、及び
(4)該ケイ素分を除去した試料を酸に溶解させる工程、
を自動で行うことで元素分析用試料を調製することが好ましい。
【0013】
このような工程を行えば、試料中に含まれるケイ素分を除去した元素分析用試料をより効率的に調製することができる。
【0014】
またこのとき、前記(1)工程の前に、30℃以上300℃以下で加熱処理することで前記試料を濃縮又は蒸発乾固してもよい。このように濃縮又は蒸発乾固することで、試料に元から含まれている溶媒等を除去し、より確実に気相分解を行うことができる。
【0015】
またこのとき、前記(1)〜(4)のいずれかの工程の前後において、硝酸、フッ酸、又はこれらの混合物を添加してもよい。
【0016】
またこのとき、前記(2)工程の加熱処理を、30℃以上300℃以下で行うことが好ましい。このような温度で加熱処理することで、より効果的に試料中のケイ素含有化合物を分解することができる。
【0017】
またこのとき、前記(3)工程の加熱処理を、35℃以上350℃以下で行うことが好ましい。このような温度で加熱処理することで、より効果的に分解後の試料中のケイ素分を蒸発させて除去することができる。
【0018】
またこのとき、前記(4)工程に用いる酸を、硝酸及びフッ酸のいずれか、又はこれらの混合物とすることが好ましい。このような酸であれば、ケイ素分を除去した試料をより確実に溶解させることができる。
【0019】
またこのとき、前記試料を半導体装置製造工程で使用されるケイ素含有膜形成用塗布材料としてもよい。また、前記試料をシランモノマーや、繰り返し単位中にケイ素原子を含有する高分子化合物、特にはポリシロキサン化合物を含むものとしてもよい。また、前記試料を、前記ケイ素含有化合物の水溶液又は有機溶剤溶液としてもよい。本発明の元素分析方法は、特にこのような試料中の不純物元素の分析に好適である。
【0020】
また、前記元素分析装置を、誘導結合プラズマ質量分析装置、誘導結合プラズマ発光分析装置、及び原子吸光分析装置のいずれかとすることが好ましい。このような元素分析装置を用いることで、より精度良く不純物元素の分析を行うことができる。
【0021】
また、前記自動気相分解装置として、オゾンガス処理ユニットが具備されたものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の元素分析方法であれば、ケイ素マトリックスの析出による元素分析装置の閉塞を防止しながら、ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を従来の1,000倍の精度である0.5pptの精度で定量分析することができる。従って、微量な不純物元素を高精度で検出することが求められる、ケイ素含有レジスト下層膜形成用材料や層間絶縁膜形成用材料等の20nmノード以降の超微細な半導体プロセスで使用されるケイ素含有膜形成用塗布材料中の不純物元素の分析に特に好適である。
このような本発明の元素分析方法を、ケイ素含有レジスト下層膜形成用材料中の金属不純物の管理に適用すると、ドライエッチング中に発生する欠陥を抑制することが可能になり、ドライエッチングプロセスを用いて転写する際に欠陥のないパターン転写が可能である。これにより、最終的には、半導体装置製造の歩留まりを改善することができる。また、このような本発明の元素分析方法を、層間絶縁膜形成用材料中の金属不純物の管理に適用すると、絶縁膜の耐電圧特性を向上させることができる。これにより、最終的には、半導体装置の性能向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の元素分析方法に用いられる自動気相分解装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述のように、ケイ素マトリックスの析出による元素分析装置の閉塞を防止しながら、ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を従来の1,000倍の精度で分析することができる元素分析方法の開発が求められていた。
【0025】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、清浄な状態を保ったまま試料中のケイ素含有化合物を分解し、ケイ素分を除去する前処理を行えば、従来元素分析装置にケイ素含有化合物を含む試料を注入した際に発生していた、試料中のケイ素分に由来するケイ素マトリックスの析出を防止することができることを見出した。またこれにより、従来ケイ素マトリックスの析出による影響を抑制するために行われていた試料の大規模な希釈を行う必要がなくなり、結果として従来の1,000倍の精度である0.5pptの精度で不純物元素の分析をすることが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0026】
即ち、本発明は、ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を分析する方法であって、少なくとも加熱機構、送液機構、及び搬送機構が具備された自動気相分解装置を用いて、前記試料中に含まれるケイ素含有化合物を分解し、該分解後の試料中のケイ素分を除去して元素分析用試料を調製し、該調製した元素分析用試料を自動で元素分析装置に注入して、前記元素分析用試料中の不純物元素を分析する元素分析方法である。
【0027】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
まず、本発明で使用される自動気相分解装置について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の元素分析方法に用いられる自動気相分解装置の一例を示す概略図である。
図1の自動気相分解装置1は、クリーンな環境下、ロボットアーム2でカーボンプレート3上にセットしたサンプル容器4中の試料を、物理化学処理するための各ユニットに搬送する機構を具備する。また、物理化学処理するためのユニットとしては、分解処理用の酸を送液する酸送液ユニット5、分解チャンバー内で送ガス機構から供給されるオゾンガスによってオゾンガス処理(オゾン分解処理)を行うオゾンガス処理ユニット6、及び加熱チャンバー内で加熱処理を行う加熱処理ユニット7を具備する。また、サンプル容器4内に試料を注入する試料注入ポート8、及び各処理を行って調製した元素分析用試料を元素分析装置に注入する元素分析用試料送液ユニット9を具備する。
【0029】
なお、カーボンプレート3はフルオロカーボン樹脂コーティングされたものとすることが好ましく、サンプル容器4はフルオロカーボン樹脂製のものを用いることが好ましい。また、ロボットアーム2、及び各処理ユニットは、クリーン度が例えばISOクラス3で管理されているクリーンチャンバー内に設置することが好ましい。
【0030】
また、このような自動気相分解装置1では、ソフトウエアで各処理ユニット(酸送液ユニット5、オゾンガス処理ユニット6、及び加熱処理ユニット7)における処理の順番や、処理温度等の処理条件、使用する酸の種類等を制御することが可能である。これにより試料中のケイ素含有化合物を適切に分解し、元素分析装置の故障を誘発する原因となる試料中のケイ素分を除去する前処理を、自動で行うことが可能となる。
【0031】
本発明で使用される自動気相分解装置1の動作例を以下に示す。まず、試料注入ポート8上にセットされたカーボンプレート3上にサンプル容器4をセットし、サンプル容器4に試料を注入する。次に、予めプログラミングされた順番、条件に沿ってロボットアーム2でカーボンプレート3を各処理ユニット(酸送液ユニット5、オゾンガス処理ユニット6、及び加熱処理ユニット7)に移動し、これらのユニット内で試料中のケイ素含有化合物を分解し、試料中のケイ素分を除去し、元素分析用試料を調製する。調製が済んだら、ロボットアーム2でカーボンプレート3を、元素分析用試料送液ユニット9に移動させ、調製した元素分析用試料をそこから自動で元素分析装置に注入する。
【0032】
本発明で使用される元素分析装置としては、誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma−Mass Spectrometer:ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分析装置(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometer:ICP−AES)、原子吸光分析装置(Atomic Absorption Spectrometer:AAS)のいずれかを検出装置として備えているものが好ましい。このような元素分析装置を用いることで、より精度良く不純物元素の分析を行うことができる。
【0033】
次に、本発明の元素分析方法について詳しく説明する。
本発明の元素分析方法では、まず、上記のような、少なくとも加熱機構、送液機構、及び搬送機構が具備された自動気相分解装置を用いて、試料中に含まれるケイ素含有化合物を分解し、分解後の試料中のケイ素分を除去して元素分析用試料を調製する。その後、調製した元素分析用試料を、自動で上記のような元素分析装置に注入して、元素分析用試料中の不純物元素を分析する。
【0034】
このとき、具体的には、上記自動気相分解装置内において、以下の工程を自動で行うことで元素分析用試料を調製することが好ましい。
(1)試料に、硝酸及びフッ酸のいずれか、又はこれらの混合物を添加する工程
(2)オゾンガス処理及び加熱処理のいずれか、又はその両方で試料中のケイ素含有化合物を分解する工程
(3)分解後の試料を加熱処理し、分解後の試料中のケイ素分を蒸発させて除去する工程
(4)ケイ素分を除去した試料を酸に溶解させる工程
【0035】
以下、各工程についてさらに詳しく説明する。
[(1)工程]
(1)工程では、試料に、硝酸及びフッ酸のいずれか、又はこれらの混合物を添加する。このとき、硝酸及びフッ酸のいずれか、又はこれらの混合物の添加を2回以上に分割してもよい。また、このときに用いる硝酸及びフッ酸としては、特に限定されないが、例えばそれぞれ0.1〜50質量%のものが好ましい。
【0036】
なお、(1)工程の前に、30℃以上300℃以下で加熱処理することで試料を濃縮又は蒸発乾固してもよい。このように濃縮又は蒸発乾固することで、試料に元から含まれている溶媒等を除去し、より確実に気相分解を行うことができる。
【0037】
[(2)工程]
(2)工程では、オゾンガス処理及び加熱処理のいずれか、又はその両方で試料中のケイ素含有化合物を分解する。
オゾンガス処理を行う場合は、特に限定されないが、例えばオゾンガスを毎分0.1〜100mL流しながら、1〜100分間処理することが好ましい。
また、加熱処理を行う場合は、30℃以上300℃以下で行うことが好ましい。このような温度で加熱処理することで、より効果的に試料中のケイ素含有化合物を分解することができる。また、加熱処理の時間としては、特に限定されないが、例えば1〜600分間とすることが好ましい。
【0038】
[(3)工程]
(3)工程では、分解後の試料を加熱処理し、分解後の試料中のケイ素分を蒸発させて除去する。なお、このときの加熱処理は、35℃以上350℃以下で行うことが好ましい。このような温度で加熱処理することで、より効果的に分解後の試料中のケイ素分を蒸発させて除去することができる。また、加熱処理の時間としては、特に限定されないが、例えば1〜600分間とすることが好ましい。
【0039】
[(4)工程]
(4)工程では、ケイ素分を除去した試料を酸に溶解させる。このときに用いる酸としては、硝酸及びフッ酸のいずれか、又はこれらの混合物とすることが好ましい。このような酸であれば、ケイ素分を除去した試料をより確実に溶解させることができる。また、このときに用いる硝酸及びフッ酸としては、特に限定されないが、例えばそれぞれ0.1〜50質量%のものが好ましい。
【0040】
また、(1)〜(4)のいずれかの工程の前後において、硝酸、フッ酸、又はこれらの混合物を添加してもよい。なお、このときに用いる硝酸及びフッ酸としては、特に限定されないが、例えばそれぞれ0.1〜50質量%のものが好ましい。
【0041】
以上のような工程を行えば、試料中に含まれるケイ素分を除去した元素分析用試料をより効率的に調製することができる。
【0042】
本発明の元素分析方法の対象となる試料としては、ケイ素含有化合物を含むものであれば特に限定されず、例えばケイ素含有レジスト下層膜形成用材料や層間絶縁膜形成用材料等の半導体装置製造工程で使用されるケイ素含有膜形成用塗布材料を挙げることができる。層間絶縁膜形成用材料としては、例えば特開2009−286935号公報に記載されているものなどを例示できる。
【0043】
また、本発明においてケイ素含有化合物は、ケイ素原子を含有する化合物であれば特に限定されない。このようなケイ素含有化合物としては、例えばシランモノマー等のケイ素含有モノマーや、ポリシロキサン化合物等の繰り返し単位中にケイ素原子を含有する高分子化合物などを例示できる。ポリシロキサン化合物としては、例えば特開2007−302873号公報に記載されているものなどを例示できる。また、繰り返し単位中にケイ素原子を含有する高分子化合物は、シロキサン構造を有さないものであってもよく、このような高分子化合物としては、例えば特開2004−027210号公報に記載されているものなどを例示できる。また、試料中に含まれるケイ素含有化合物は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。より具体的には、試料は、モノマー、高分子化合物のいずれかのみを含むものであってもよいし、モノマーと高分子化合物の両方を含むものであってもよい。また、試料はケイ素含有化合物の水溶液又は有機溶剤溶液であってもよい。
【0044】
なお、本発明において「不純物元素」とは、具体的には、半導体装置を製造するときに、工程の歩留まりに影響を与えるといわれている元素を指す。この元素としては、Li、Be、B、Na、Mg、Al、P、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Hf、Ta、W、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Biなどを例示できる。このうち、特に半導体装置製造プロセスで問題となる元素としては、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Pd、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Au、Pbなどを例示できる。さらにドライエッチング加工後にドライエッチングマスクとなる可能性があるため問題となる可能性のある元素としては、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Au、Pbなどを例示できる。
【0045】
本発明の元素分析方法であれば、このような元素を0.5pptの精度で測定できるようになるため、例えばケイ素含有レジスト下層膜形成用材料や層間絶縁膜形成用材料等のケイ素含有化合物を含む材料中の不純物元素の量(含有率)を管理することが可能になる。
【0046】
以上のように、本発明の元素分析方法であれば、ケイ素マトリックスの析出による元素分析装置の閉塞を防止しながら、ケイ素含有化合物を含む試料中の不純物元素を従来の1,000倍の精度である0.5pptの精度で定量分析することができる。従って、微量な不純物元素を高精度で検出することが求められる、ケイ素含有レジスト下層膜形成用材料や層間絶縁膜形成用材料等の20nmノード以降の超微細な半導体プロセスで使用されるケイ素含有膜形成用塗布材料中の不純物元素の分析に特に好適である。
このような本発明の元素分析方法を、ケイ素含有レジスト下層膜形成用材料中の金属不純物の管理に適用すると、ドライエッチング中に発生する欠陥を抑制することが可能になり、ドライエッチングプロセスを用いて転写する際に欠陥のないパターン転写が可能である。これにより、最終的には、半導体装置製造の歩留まりを改善することができる。また、このような本発明の元素分析方法を、層間絶縁膜形成用材料中の金属不純物の管理に適用すると、絶縁膜の耐電圧特性を向上させることができる。これにより、最終的には、半導体装置の性能向上に貢献できる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
以下の操作は、
図1に示される自動気相分解装置及び、これに接続された元素分析装置(アジレント・テクノロジー社製 7700s(ICP−MS))を用いて行った。
試料注入ポート上にセットされたフルオロカーボン樹脂コーティングされたカーボンプレート上に、フルオロカーボン樹脂製の5mLのサンプル容器をセットした。このサンプル容器に、下記式で示されるポリシロキサンを10質量%の濃度で含むプロピレングリコールエチルエーテル(PGEE)溶液0.5mLを注入した。
以下の操作は予めプログラミングして、自動で動作させた。まず、ロボットアームで、サンプル容器をカーボンプレートに搭載したまま、加熱処理ユニットに移動させ、120℃で120分間加熱処理して試料を蒸発乾固した。加熱処理終了後、カーボンプレートを加熱処理ユニットから取り出して酸送液ユニットに移動させ、20質量%フッ酸と20質量%硝酸を各0.2mL加えた。続いて、カーボンプレートをオゾンガス処理ユニットに移動させ、オゾンガスを毎分10mL流しながら、50℃で30分間処理した。続いて、カーボンプレートを加熱処理ユニットに移動させ、120℃で90分間加熱処理して、ケイ素分を蒸発させて除去した。次に、再度カーボンプレートを酸送液ユニットに移動させ、2質量%硝酸を1mL加えて元素分析用試料を調製した。最後に、カーボンプレートを元素分析用試料送液ユニットに移動させて、調製した元素分析用試料を自動で元素分析装置に注入し、不純物元素の分析を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【化1】
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様にしてカーボンプレート上にセットされたフルオロカーボン樹脂製の5mLのサンプル容器に、テトラエトキシシラン0.5mLを注入した。
以下の操作は予めプログラミングして、自動で動作させた。まず、ロボットアームで、サンプル容器をカーボンプレートに搭載したまま、酸送液ユニットに移動させ、20質量%フッ酸と20質量%硝酸を各0.2mL加えた。続いて、カーボンプレートを加熱処理ユニットに移動させ、130℃で20分間加熱処理した。次に、再度カーボンプレートを酸送液ユニットに移動させ、20質量%フッ酸と20質量%硝酸を各0.2mL加えた。次に、再度カーボンプレートを加熱処理ユニットに移動させ、180℃で4時間加熱処理して、ケイ素分を蒸発させて除去した。次に、再度カーボンプレートを酸送液ユニットに移動させ、2質量%硝酸を1mL加えて元素分析用試料を調製した。最後に、カーボンプレートを元素分析用試料送液ユニットに移動させて、調製した元素分析用試料を自動で元素分析装置に注入し、不純物元素の分析を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1]
実施例1で使用した10質量%のポリシロキサンを含むPGEE溶液0.5mLを清浄なPGEEで500倍に希釈し、元素分析用試料を調製した。この元素分析用試料を、元素分析装置(アジレント・テクノロジー社製 7700s)に注入し、不純物元素の分析を行った。結果を表2に示す。
【0052】
[比較例2]
実施例2で使用したテトラエトキシシラン0.5mLを清浄なPGEEで500倍に希釈し、元素分析用試料を調製した。この元素分析用試料を、元素分析装置(アジレント・テクノロジー社製 7700s)に注入し、不純物元素の分析を行った。結果を表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び表2に示されるように、試料中のケイ素含有化合物を分解しケイ素分を除去する前処理を行わず、試料を500倍に希釈して元素分析を行った比較例1、2では、濃度が0.5ppb以下の不純物元素は検出できなかったのに対し、試料中のケイ素含有化合物を分解しケイ素分を除去する前処理を行い、希釈せずに元素分析を行った実施例1、2では、比較例の1,000倍の精度である0.5pptまでの濃度の不純物元素を検出することができた。
【0056】
以上のことから、本発明の元素分析方法であれば、試料中のケイ素分を除去することにより、従来0.5ppbの精度でしか測定できなかった不純物元素を、従来の1,000倍の精度である0.5pptの精度で測定できることが明らかとなった。また、これにより、ケイ素含有レジスト下層膜形成用材料や層間絶縁膜形成用材料中の不純物元素を除去して性能向上を目指す技術を開発する際に、当該技術の優劣を判断することが可能になり、結果として上記材料やこれを用いて製造する半導体装置の性能を向上させることが可能となる。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0058】
1…自動気相分解装置、 2…ロボットアーム、 3…カーボンプレート、
4…サンプル容器、 5…酸送液ユニット、 6…オゾンガス処理ユニット、
7…加熱処理ユニット、 8…試料注入ポート、
9…元素分析用試料送液ユニット。