【課題】 患者体内のマーカの三次元運動から直接的に呼吸位相を評価することにより、患者の位置合わせの再現性や放射線による治療精度を向上できるとともに、ベースラインシフトの発生を自動的に検知することができる放射線治療制御装置および放射線治療プログラムを提供する。
【解決手段】 マーカを撮影した透視画像に基づいてマーカの三次元位置を算出するマーカ位置算出部34と、患者の呼吸周期におけるマーカの平均位置から最も離れたときのマーカの三次元位置を吸気相に対応付け、前回の吸気相から所定の距離だけ移動したときのマーカの三次元位置を前回の吸気相から今回の吸気相までにマーカが移動した移動距離に対する所定の距離の割合に応じた呼吸位相に対応付けて患者の呼吸位相を評価する呼吸位相評価部35と、マーカの三次元位置と患者の呼吸位相に基づいて治療用放射線の照射可否を判別する治療用放射線照射判別部38とを有する。
前記治療用放射線照射判別部は、前記マーカ位置算出部によって算出されたマーカの三次元位置が、前記マーカの計画位置から所定の許容範囲内に設定される待ち伏せ領域に入っており、かつ、前記呼吸位相評価部によって評価された呼吸位相が、治療計画時における呼吸位相から所定の許容範囲内に設定される待ち伏せ呼吸位相に入っているとき、治療用放射線を照射してもよいと判別する、請求項1に記載の放射線治療システム。
前記呼吸位相評価部によって評価された呼吸位相のうち、前記患者の治療計画と同じ呼吸位相における透視画像を前記患者を位置合わせするための位置合わせ用画像として取得する位置合わせ用画像取得部と、
前記位置合わせ用画像内のマーカが、前記治療計画で定められた計画位置と合致するように患者を載せたベッドの位置を補正する患者位置合わせ部と
を有する、請求項1または請求項2に記載の放射線治療システム。
前記呼吸位相評価部によって評価された所定の呼吸位相が、所定回数連続して前記待ち伏せ呼吸位相に合致しない場合、前記呼吸位相に変化が発生したものと検出するベースラインシフト検出部を有している、請求項2に記載の放射線治療システム。
前記ベースラインシフト検出部は、前記マーカの三次元位置の時間的変化を監視するための基準となる座標軸を変更可能に構成されている、請求項4に記載の放射線治療システム。
前記呼吸位相評価部によって評価された呼吸位相に基づいて、前記患者の治療計画を作成する治療計画作成装置を有している、請求項1から請求項5のいずれかに記載の放射線治療システム。
前記呼吸位相評価部は、前回の吸気相から今回の吸気相までに前記マーカが移動した移動距離の半分まで移動したときの前記マーカの三次元位置を呼気相に対応付ける、請求項1から請求項6のいずれかに記載の放射線治療システム。
各呼吸位相における照射時間が所定時間以下またはゼロになったとき、前記照射制御・モニタ装置が、前記照射指示信号の出力時間が最大となるように前記照射野の動きを調整する、または、前記呼吸位相評価部が前記患者の呼吸位相を再評価する、請求項8に記載の放射線治療システム。
前記治療用放射線照射判別部は、前記マーカ位置算出部によって算出されたマーカの三次元位置が、前記マーカの計画位置から所定の許容範囲内に設定される待ち伏せ領域に入っており、かつ、前記呼吸位相評価部によって評価された呼吸位相が、治療計画時における呼吸位相から所定の許容範囲内に設定される待ち伏せ呼吸位相に入っているとき、治療用放射線を照射してもよいと判別する、請求項10に記載の放射線治療制御プログラム。
前記呼吸位相評価部によって評価された呼吸位相のうち、前記患者の治療計画と同じ呼吸位相における透視画像を前記患者を位置合わせするための位置合わせ用画像として取得する位置合わせ用画像取得部と、
前記位置合わせ用画像内のマーカが、前記治療計画で定められた計画位置と合致するように患者を載せたベッドの位置を補正する患者位置合わせ部と
してコンピュータを機能させる、請求項10または請求項11に記載の放射線治療制御プログラム。
前記呼吸位相評価部によって評価された所定の呼吸位相が、所定回数連続して前記待ち伏せ呼吸位相に合致しない場合、前記呼吸位相に変化が発生したものと検出するベースラインシフト検出部としてコンピュータを機能させる、請求項11に記載の放射線治療制御プログラム。
前記ベースラインシフト検出部は、前記マーカの三次元位置の時間的変化を監視するための基準となる座標軸を変更可能に構成されている、請求項13に記載の放射線治療制御プログラム。
前記呼吸位相評価部によって評価された呼吸位相に基づいて、前記患者の治療計画を作成する治療計画作成装置としてコンピュータを機能させる、請求項10から請求項14のいずれかに記載の放射線治療制御プログラム。
前記呼吸位相評価部は、前回の吸気相から今回の吸気相までに前記マーカが移動した移動距離の半分まで移動したときの前記マーカの三次元位置を呼気相に対応付ける、請求項10から請求項15のいずれかに記載の放射線治療制御プログラム。
各呼吸位相における照射時間が所定時間以下またはゼロになったとき、前記照射制御・モニタ装置が、前記照射指示信号の出力時間が最大となるように前記照射野の動きを調整する、または、前記呼吸位相評価部が前記患者の呼吸位相を再評価する、請求項17に記載の放射線治療制御プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る放射線治療システム1Aおよび放射線治療プログラム1aの第1実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明において、放射線とは、X線やγ線等の電磁波、および陽子線や重粒子線等の粒子線を全て含む概念である。
【0021】
本第1実施形態の放射線治療システム1Aは、動体追跡放射線治療を行うのに好適なシステムであって、
図1に示すように、主として、治療計画作成装置11と、透視画像撮影装置12と、患者ベッド駆動装置13と、治療用放射線ゲート制御装置14と、照射制御・モニタ装置15と、治療用放射線照射装置16と、放射線治療制御装置17とから構成されている。以下、各装置について詳細に説明する。
【0022】
治療計画作成装置11は、放射線治療を受ける患者について事前に治療計画を作成する装置である。治療計画作成装置11は、パーソナルコンピュータ等から構成されており、治療計画に関する治療計画データを記憶する治療計画データ記憶部11aを有している。本第1実施形態では、治療計画データとして、治療計画時におけるマーカの三次元位置である計画位置、治療計画時の呼吸位相である計画呼吸位相、計画位置における照射シークエンス(照射線量、照射姿勢)、計画位置において患者に投与されるべき治療用放射線の処方線量、および治療用放射線の照射により患者の体内に形成される線量分布等を算出して記憶している。
【0023】
上記計画位置は、治療を開始する前の治療計画時に撮影された患者のCT(Computer Tomography; 計算機断層撮像法)画像に基づいて計算され、上記計画呼吸位相とともに放射線治療制御装置17へ送信される。一方、照射シークエンス(照射線量、照射姿勢)、処方線量および線量分布は、照射制御・モニタ装置15へ送信される。
【0024】
また、本第1実施形態では、いわゆる呼気相(息を吐ききった状態)に同期させて治療用放射線を照射する動体追跡放射線治療を行うため、治療計画時に撮影されるCT画像は呼気相で得られたものである。すなわち、計画呼吸位相として呼気相を用いている。ただし、本発明において、計画呼吸位相は呼気相に限定されるものではなく、任意の呼吸位相を用いることができる。例えば、吸気相(息を吸いきった状態)に同期させて治療用放射線を照射する場合には、計画呼吸位相として吸気相が用いられる。
【0025】
なお、患者の体内に埋め込まれるマーカは、金、白金、イリジウム等の人体に害が少なく、放射線の吸収が大きい材料で形成することが好ましいが、特に限定されるものではない。また、マーカの形状は円柱状または球状が好ましいが、他の形状であってもよい。
【0026】
透視画像撮影装置12は、撮影用放射線により透視画像を撮影するものであり、
図1に示すように、異なる二方向にセッティングされた二組のX線発生器12a,12aとX線検出器12b,12bとを有している。X線発生器12aは、放射線治療制御装置17から送信された撮影トリガーに応じてX線を発生させる。一方、X線検出器12bは、前記撮影トリガーと同期して送信された同期信号に応じて、X線透視された患者の透視画像を放射線治療制御装置17へ出力する。ここで、X線発生器12a、12aおよびX線検出器12b、12bによる第1の透視方向と第2の透視方向とのなす角度は90°に近い方が好ましい。
【0027】
なお、本第1実施形態では、上述したとおり、二組の透視画像撮影装置12を用いて二方向からの透視画像を取得しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、本願発明者らが特開2013−192702号公報にて提案しているように、撮影用放射線による被曝量を低減するため、一組の透視画像撮影装置によって撮影された一方向からの透視画像のみからでも、マーカの三次元位置を算出することが可能である。また、逆に二方向以上からの透視画像を取得することでマーカの三次元座標を精度よく取得することも可能であるが、被爆量との兼ね合いを考慮する必要がある。なお、本第1実施形態では、撮影用放射線としてX線を使用しているが、その他の放射線を用いてもよい。
【0028】
患者ベッド駆動装置13は、患者を載置するベッド13aを駆動し、治療用放射線を照射する際の位置合わせを行うものである。具体的には、
図1に示すように、患者ベッド駆動装置13はベッド13aに設けられており、放射線治療制御装置17からの位置補正信号に応じてベッド13aを駆動し位置を補正するようになっている。
【0029】
治療用放射線ゲート制御装置14は、治療用放射線を照射するか否かを示すゲート信号を制御するものである。本第1実施形態において、治療用放射線ゲート制御装置14は、放射線治療制御装置17によって治療用放射線の照射設定が可能に構成されている。具体的には、放射線治療制御装置17が照射してもよいと判別した場合、ゲート信号がオンとなる一方、照射すべきではないと判別した場合、ゲート信号がオフとなる。そして、治療用放射線ゲート制御装置14は、
図1に示すように、当該ゲート信号を照射制御・モニタ装置15へ出力するようになっている。
【0030】
照射制御・モニタ装置15は、治療用放射線照射装置16による治療用放射線の照射を制御するとともに、患者への累積投与線量を監視するものである。本第1実施形態において、照射制御・モニタ装置15は、治療計画作成装置11から照射シークエンス(照射線量、照射姿勢)、処方線量および線量分布等を取得して記憶する。そして、治療用放射線ゲート制御装置14から受け取ったゲート信号がオンであれば、照射シークエンスで指定された放射線を照射するための照射指示信号を治療用放射線照射装置16へ出力するようになっている。
【0031】
また、照射制御・モニタ装置15は、放射線治療を行っている間、治療用放射線の累積投与線量をモニタする機能を有している。具体的には、照射制御・モニタ装置15は、患者に投与された線量を累積しており、随時、当該累積投与線量と治療計画作成装置11から取得した処方線量とを比較する。そして、累積投与線量が処方線量に到達しない限り放射線治療を継続する一方、累積投与線量が処方線量に到達した場合、放射線治療あるいは治療手順の一つが終了したことを操作者に通知する。
【0032】
なお、本第1実施形態では、放射線治療制御装置17と照射制御・モニタ装置15との間に、治療用放射線ゲート制御装置14を介在させているが、この構成に限定されるものではない。例えば、照射制御・モニタ装置15が治療用放射線ゲート制御装置14の機能を有している場合、治療用放射線ゲート制御装置14を別途、設ける必要はない。
【0033】
治療用放射線照射装置16は、患者の患部へ向けて治療用放射線を照射するものである。具体的には、治療用放射線照射装置16は、照射制御・モニタ装置15から照射指示信号を受信すると、当該照射指示信号で指定された照射シークエンスに従って、治療用放射線を患者の患部へ向けて照射するようになっている。なお、本第1実施形態では、治療用放射線として、X線を使用しているが、その他の放射線を用いてもよい。また、患者の患部としては、癌や悪性腫瘍等のように放射線治療を必要とする患部はもとよりその他の必要な部位であってもよい。
【0034】
放射線治療制御装置17は、本第1実施形態の放射線治療システム1Aを用いた動体追跡放射線治療を制御するものである。本第1実施形態において、放射線治療制御装置17は、体内に埋め込まれたマーカの三次元位置の時間的変化、すなわちマーカの三次元運動から患者の呼吸位相を評価することを特徴としている。以下、本第1実施形態の放射線治療制御装置17について具体的に説明する。
【0035】
本第1実施形態において、放射線治療制御装置17は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータによって構成されており、
図2に示すように、主として、本第1実施形態の放射線治療プログラム1aや各種のデータ等を記憶する記憶手段2と、各種のデータ等を取得して演算処理する演算処理手段3とから構成されている。
【0036】
記憶手段2は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)およびフラッシュメモリ等から構成されており、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段3が演算処理を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。本第1実施形態において、記憶手段2は、
図2に示すように、プログラム記憶部21と、計画データ記憶部22と、待ち伏せデータ記憶部23と、テンプレート画像記憶部24と、変換行列記憶部25と、マーカ位置記憶部26と、呼吸位相記憶部27とを有している。以下、各構成部についてより詳細に説明する。
【0037】
プログラム記憶部21には、本第1実施形態の放射線治療プログラム1aがインストールされている。放射線治療プログラム1aが演算処理手段3によって実行されることにより、後述する各構成部としてコンピュータを機能させるようになっている。なお、本発明では、放射線治療制御装置17にインストールされるプログラムのみならず、治療計画作成装置11、照射制御・モニタ装置15および治療用放射線照射装置16等にインストールされるプログラムを総称して、放射線治療プログラム1aというものとする。
【0038】
また、放射線治療プログラム1aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、CD−ROMやDVD−ROM等のように、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に放射線治療プログラム1aを記憶させておき、当該記録媒体から直接読み出して実行してもよい。また、外部サーバ等からASP(Application Service Provider)方式やクラウドコンピューティング方式で利用してもよい。
【0039】
計画データ記憶部22は、治療計画時におけるマーカの三次元位置である計画位置、および治療計画時における呼吸位相である計画呼吸位相を記憶するものである。本第1実施形態において、計画データ記憶部22は、放射線治療を行う患者に対応付けて、後述する計画データ取得部31が治療計画作成装置11から取得した計画位置および計画呼吸位相を記憶するようになっている。
【0040】
待ち伏せデータ記憶部23は、マーカの計画位置から所定の許容範囲内に設定される待ち伏せ領域、および治療計画時における呼吸位相から所定の許容範囲内に設定される待ち伏せ呼吸位相を記憶するものである。本第1実施形態において、待ち伏せ領域は、計画位置を中心として一辺が数mmの立方体や、径が数mmの球体によって設定される。また、待ち伏せ呼吸位相は、計画呼吸位相に対して前後数%の位相差によって設定される。すなわち、放射線治療中に得られる待ち伏せ照射時の呼吸位相と計画呼吸位相とのずれが数%以内の範囲が、待ち伏せ呼吸位相として設定される。
【0041】
なお、待ち伏せ呼吸位相については、放射線治療中に得られる計画呼吸位相に対応するマーカの位置と計画位置とのずれによって設定してもよい。すなわち、計画呼吸位相に対応するマーカが、計画位置を中心として一辺が数mmの立方体や、径が数mmの球体によって設定された範囲内にあれば、待ち伏せ呼吸位相内であると判定してもよい。
【0042】
テンプレート画像記憶部24は、透視画像内におけるマーカの射影位置を特定するためのテンプレート画像を記憶するものである。このテンプレート画像は、後述するテンプレートパターンマッチング処理に際し、透視画像内の所定領域と類似度を算出する際のテンプレートとなる画像である。具体的には、テンプレート画像記憶部24には、患者の体内に埋め込まれるマーカの画像を予めテンプレート画像として記憶しておく。なお、使用するマーカが球状以外の形状の場合には、当該マーカを様々な角度から射影した画像をテンプレート画像として複数記憶させてもよい。
【0043】
変換行列記憶部25は、透視画像におけるマーカの射影位置と透視画像撮影装置12の焦点位置とを結ぶ射影線の方程式を算出するための変換行列を記憶するものである。本第1実施形態では、予め二つの透視方向のそれぞれにおいて、透視画像撮影装置12のキャリブレーション作業を実施する。そして、当該キャリブレーション作業により求められた各透視方向における二つの変換行列を変換行列記憶部25に記憶させておく。
【0044】
マーカ位置記憶部26は、マーカの三次元位置を時系列的に記憶するものである。マーカ位置記憶部26は、後述するマーカ位置算出部34によってリアルタイムに算出されたマーカの三次元位置を時系列で記憶する。この三次元位置の時系列データによって、マーカの三次元運動が再構成されるとともに、患者の呼吸運動が把握されることとなる。
【0045】
呼吸位相記憶部27は、後述する呼吸位相評価部35によって評価された呼吸位相とマーカの三次元位置との関係を記憶するものである。本第1実施形態において、呼吸位相記憶部27は、呼気相および吸気相のそれぞれについて、マーカの三次元位置および基準となる呼吸位相からの移動時間を記憶している。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、任意の呼吸位相に対するマーカの三次元位置の関係を記憶することが可能である。
【0046】
つぎに、演算処理手段3は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されており、記憶手段2にインストールされた放射線治療プログラム1aを実行することにより、コンピュータを本第1実施形態の放射線治療制御装置17として実装するようになっている。
【0047】
具体的には、演算処理手段3によって実行された放射線治療プログラム1aは、
図2に示すように、計画データ取得部31と、待ち伏せデータ設定部32と、透視画像取得部33と、マーカ位置算出部34と、呼吸位相評価部35と、位置合わせ用画像取得部36と、患者位置合わせ部37と、治療用放射線照射判別部38と、ベースラインシフト検出部39としてコンピュータを機能させる。以下、各構成部についてより詳細に説明する。
【0048】
計画データ取得部31は、治療計画時におけるマーカの三次元位置である計画位置、および治療計画時における呼吸位相である計画呼吸位相を取得するものである。本第1実施形態において、計画データ取得部31は、治療計画作成装置11の治療計画データ記憶部11aから、放射線治療を行おうとする患者に埋め込まれたマーカの計画位置および計画呼吸位相を取得する。そして、これら計画位置および計画呼吸位相を計画データ記憶部22に記憶させる。
【0049】
待ち伏せデータ設定部32は、計画位置から所定の許容範囲内に設定される待ち伏せ領域、および計画呼吸位相から所定の許容範囲内に設定される待ち伏せ呼吸位相を設定するものである。本第1実施形態において、待ち伏せデータ設定部32は、操作者からの指示入力に応じて、計画位置を中心とする一辺が数mmの立方体や、径が数mmの球体等によって待ち伏せ領域を設定する。また、待ち伏せデータ設定部32は、操作者からの指示入力に応じて、計画呼吸位相に対して前後数%の位相差によって待ち伏せ呼吸位相を設定する。
【0050】
透視画像取得部33は、放射線治療の開始前に患者を位置合わせする際、および実際に放射線治療を行っている間、透視画像撮影装置12から透視画像を取得するものである。本第1実施形態において、透視画像取得部33は、所定の時間間隔ごと(例えば1秒間に30回程度)に各X線発生器12aに対して撮影トリガーを出力するのと同時に、各X線検出器12bに対して同期信号を出力する。これにより、患者の体内に埋め込まれたマーカを異なる二方向から撮影した透視画像が透視画像撮影装置12から取得される。
【0051】
なお、本第1実施形態では、透視画像取得部33が、透視画像撮影装置12から直接透視画像を取得しているが、この構成に限定されるものではなく、他の機器を介在させて透視画像撮影装置12により撮影された透視画像を取得してもよい。また、本第1実施形態では、透視画像取得部33が、透視画像を複数の静止画像によって取得しているが、動画像によって取得してもよい。
【0052】
マーカ位置算出部34は、患者の体内に埋め込まれたマーカを撮影した透視画像に基づいて、マーカの三次元位置を算出するものである。本第1実施形態において、マーカ位置算出部34は、まず、テンプレート画像記憶部24からテンプレート画像を読み出し、透視画像取得部33によって取得された各透視画像について規格化相互相関に基づくテンプレートパターンマッチング処理を施す。これにより、所定の時間間隔ごとに各透視画像上でのマーカの射影位置(二次元座標)を特定する。
【0053】
なお、本第1実施形態では、マーカ位置算出部34が、規格化相互相関に基づくテンプレートパターンマッチング処理によりマーカの射影位置を特定しているが、この処理方法に限定されるものではない。マーカの射影位置を特定できるものであれば、相互情報量によって特定してもよく、他の画像認識技術を採用してもよい。
【0054】
つづいて、マーカ位置算出部34は、各透視画像におけるマーカの射影位置と透視画像撮影装置12の焦点位置とを結ぶ射影線の方程式をそれぞれ算出する。具体的には、マーカ位置算出部34は、変換行列記憶部25から各透視方向における変換行列を取得し、各変換行列を用いて各射影位置の三次元空間内での対応点が存在できる座標群(直線の方程式)を算出する。そして、マーカ位置算出部34は、算出された各方程式の交点をマーカの三次元位置として算出する。
【0055】
呼吸位相評価部35は、マーカの三次元位置の時間変化(三次元運動)に基づいて、患者の呼吸位相を評価するものである。具体的には、呼吸位相評価部35は、
図3に示すように、下記工程(1)〜(5)に従い、予め設定した患者の呼吸周期ごとに、直前の呼吸周期における呼吸位相と対応する三次元位置を評価する。なお、本第1実施形態において、呼吸周期は、患者の一呼吸に対応する4秒に設定されているが、患者の呼吸周期に応じて適宜設定することが可能である。
【0056】
(1)所定の呼吸周期におけるマーカの平均位置(三次元位置の平均)を算出する。
(2)算出された平均位置からマーカまでの距離を算出する。
(3)算出された距離が最も大きいときのマーカの三次元位置を吸気相に対応付ける。
(4)前回の吸気相から今回の吸気相までの移動距離を算出する。
(5)前回の吸気相から所定距離だけ移動したときのマーカの三次元位置を前記移動距離に対する前記所定距離の割合に応じた呼吸位相に対応付ける。
【0057】
すなわち、呼吸位相評価部35は、患者の呼吸周期におけるマーカの平均位置から最も離れたときのマーカの三次元位置を吸気相に対応付ける。また、呼吸位相評価部35は、前回の吸気相から所定の距離だけ移動したときのマーカの三次元位置を前回の吸気相から今回の吸気相までに前記マーカが移動した移動距離に対する前記所定の距離の割合に応じた呼吸位相に対応付ける。
図3では、前記移動距離の半分(50%)まで移動したときのマーカの三次元位置を呼気相に対応付けている。
【0058】
本第1実施形態において、呼吸位相評価部35は、
図4(a)に示すように、各呼吸位相ごとにマーカの三次元位置およびマーカの移動時間を対応づけてなるマーカテーブルを作成し、呼吸位相記憶部27に記憶させる。
【0059】
例えば、呼吸位相評価部35によって評価された前回の吸気相(P
0)から今回の吸気相(P
100)までの移動距離をLとした場合、
図4(b)に示すように、前回の吸気相P
0の三次元位置M
0からL/10だけマーカが移動したときの三次元位置M
10は、呼吸位相P
10に対応付けられる。移動距離(L)に対する所定距離(L/10)の割合が10%であるため、当該割合に応じて1サイクルの呼吸における10%の位相に当たる呼吸位相P
10に対応付けられるためである。
【0060】
呼吸位相評価部35は、呼吸位相P
10における三次元位置M
10の対応付けと合わせて、当該三次元位置M
10までの移動時間t
10を算出する。同様に、その点からさらにL/10だけマーカが移動する度に、その三次元位置M
20、M
30、M
40、…M
100を呼吸位相P
20、P
30、P
40、…P
100に設定し、移動時間t
20、t
30、t
40、…t
100を登録する。
【0061】
位置合わせ用画像取得部36は、放射線治療を開始する際、患者を所望の位置に位置合わせするための位置合わせ用画像を取得するものである。具体的には、位置合わせ用画像取得部36は、呼吸位相評価部35によって評価された呼吸位相のうち、患者の治療計画と同じ呼吸位相における透視画像を位置合わせ用画像として取得するようになっている。なお、本第1実施形態では、治療計画時の呼吸位相として呼気相を採用しているが、任意の呼吸位相を用いてもよい、
【0062】
患者位置合わせ部37は、治療用放射線を照射するにあたり、患者を適切な位置へ位置合わせするものである。本第1実施形態では、放射線治療を行うに際し、治療計画時に呼気相で撮影したCT画像を利用する。このため、患者位置合わせ部37は、位置合わせ用画像取得部36によって取得された位置合わせ用画像内のマーカの三次元位置が、治療計画で定められた計画位置と合致するようにベッド13aの位置補正量を算出する。そして、当該位置補正量を位置補正信号として患者ベッド駆動装置13へ出力し、患者を載せたベッド13aの位置を補正する。
【0063】
治療用放射線照射判別部38は、マーカの三次元位置および患者の呼吸位相に基づいて、治療用放射線を照射してもよいか否かを判別するものである。具体的には、治療用放射線照射判別部38は、待ち伏せデータ記憶部23に登録されている待ち伏せ領域および待ち伏せ呼吸位相を読み出す。そして、治療用放射線照射判別部38は、マーカ位置算出部34によって算出されたマーカの三次元位置が待ち伏せ領域に入っており、かつ、呼吸位相評価部35によって評価された呼吸位相が待ち伏せ呼吸位相に入っているとき、治療用放射線を照射してもよいと判別する。
【0064】
一方、マーカが待ち伏せ領域内に入っていない場合、または呼吸位相が待ち伏せ呼吸位相に入っていない場合には、治療用放射線を照射すべきではないと判別する。この判別結果に基づいて、治療用放射線ゲート制御装置14におけるゲート信号のオン/オフが設定される。
【0065】
ベースラインシフト検出部39は、呼吸位相の変化を示すベースラインシフトを検出するものである。具体的には、ベースラインシフト検出部39は、呼吸位相評価部35によって評価された呼気相が、所定回数連続して待ち伏せ呼吸位相に合致しない場合、呼吸位相に変化(ベースラインシフト)が発生したものと検出する。なお、検出に用いる呼吸位相は、呼気相に限定されるものではなく、待ち伏せ呼吸位相に対応する呼吸位相、すなわち治療計画時の呼吸位相であれば、所定の呼吸位相を用いてもよい。
【0066】
また、本第1実施形態において、ベースラインシフト検出部39は、上記検出処理に際して、マーカの三次元位置の時間的変化を監視するための基準となる座標軸を変更可能に構成されている。例えば、
図5に示すように、x軸およびz軸については、呼吸に伴うマーカの振幅が小さくて観察しにくい場合でも、y軸については振幅が大きく見やすい振動が観察される場合がある。そこで、ベースラインシフト検出部39は、上記基準となる座標軸を変更することで、患者の呼吸運動を正しく把握するようになっている。
【0067】
つぎに、本第1実施形態の放射線治療プログラム1aによって実行される放射線治療システム1A、ならびに放射線治療方法の作用について説明する。
【0068】
本第1実施形態の放射線治療方法は、
図6に示すように、大きく分けて、放射線治療に必要な治療計画や待ち伏せデータを事前に準備する事前準備段階(ステップS1)と、患者を所望の位置に位置合わせする患者位置合わせ段階(ステップS2)と、実際に治療用放射線を患者の患部に照射して放射線治療を行う放射線治療段階(ステップS3)とからなる。
【0069】
まず、待ち伏せデータ準備段階は、放射線治療に必要な治療計画や待ち伏せデータを事前に準備する段階である(ステップS1)。具体的には、
図7に示すように、まず、ステップS11において、治療計画作成装置11が、所定のCTシステムを用いて取得した患者のCT画像に基づいて、計画位置、照射シークエンス(照射線量、照射姿勢)、処方線量および線量分布等の治療計画データを作成し、予め治療計画データ記憶部11aに記憶する。
【0070】
なお、放射線治療においては、治療計画時と同じ状態で放射線を照射することが最も望ましいとされる。このため、本第1実施形態では、治療計画作成装置11が、呼吸位相評価部35によって評価された呼吸位相に基づいて、患者の治療計画を作成する。これにより、治療計画時と放射線治療時との整合性が高まり、より高精度な治療が可能となる。なお、評価呼吸位相に基づく治療計画の作成には、空間(三次元)に時間(一次元)を加えた四次元により、立体画像を連続的に取得することが可能な4D−CT(4-Dimensional Computed Tomography)等を用いることが好ましい。
【0071】
つぎに、ステップS12において、計画データ取得部31が、治療計画作成装置11の治療計画データ記憶部11aからマーカの計画位置および治療計画時の呼吸位相(計画呼吸位相)を取得し、これら計画位置および計画呼吸位相を計画データ記憶部22に記憶する。なお、本ステップS12では、別途、治療計画作成装置11が、治療計画データ記憶部11aに記憶されている照射シークエンス(照射線量、照射姿勢)、処方線量および線量分布等のデータを照射制御・モニタ装置15へ送信するようになっている。
【0072】
つづいて、ステップS13において、待ち伏せデータ設定部32が、計画データ記憶部22に記憶されている計画位置および計画呼吸位相と、操作者によって指示入力された許容範囲値とに基づいて、待ち伏せ領域および待ち伏せ呼吸位相を設定する。これにより、本第1実施形態の放射線治療に必要なデータの準備が完了する。
【0073】
つぎに、患者位置合わせ段階は、放射線治療を開始する前に患者を所望の位置に位置合わせする段階である(ステップS2)。具体的には、
図8に示すように、まず、ステップS21において、透視画像取得部33が、所定の時間間隔ごとに、患者の体内に埋め込まれたマーカを異なる二方向から撮影した透視画像を透視画像撮影装置12から取得する。
【0074】
つぎに、ステップS22において、マーカ位置算出部34が、透視画像取得部33によって所定の時間間隔ごとに取得された二方向からの透視画像に基づいて、当該時間間隔ごとにマーカの三次元位置を算出する。これにより、マーカの三次元位置が時系列で得られるため、マーカの三次元運動が再構成され、患者の呼吸運動が把握される。
【0075】
つづいて、ステップS23において、呼吸位相評価部35が、マーカ位置算出部34によって算出されたマーカの三次元運動に基づいて、患者の呼吸位相を評価する。具体的には、
図3および
図9に示すように、呼吸位相評価部35は、所定の呼吸周期が経過するまで待機した後(ステップS231)、当該呼吸周期におけるマーカの平均位置を算出する(ステップS232)。そして、呼吸位相評価部35は、当該平均位置からマーカまでの距離を算出し(ステップS233)、当該距離が最も大きいときのマーカの三次元位置を吸気相に対応付ける(ステップS234)。また、呼吸位相評価部35は、前回の吸気相から今回の吸気相までの移動距離を算出し(ステップS235)、前回の吸気相から所定距離だけ移動したときのマーカの三次元位置を前記移動距離に対する所定距離の割合に応じた呼吸位相に対応付ける(ステップS236)。本第1実施形態では、移動距離の半分まで移動したときのマーカの三次元位置を呼気相に対応付ける。
【0076】
以上の処理により、患者の体内に埋め込まれたマーカの三次元運動に基づいて、患者の呼吸位相(呼気相や吸気相)が定量的に評価される。
【0077】
つづいて、ステップS24において、位置合わせ用画像取得部36が、呼吸位相評価部35によって評価された呼吸位相のうち、患者の治療計画と同じ呼吸位相、すなわち本第1実施形態では呼気相における透視画像を位置合わせ用画像として取得する。これにより、従来、オペレータのマニュアル操作によって行われていた位置合わせ用画像が、自動的に取得される。このため、オペレータの判断等が介在することがなく、患者の位置合わせ作業の再現性が向上する。
【0078】
そして、ステップS25において、患者位置合わせ部37が、位置合わせ用画像取得部36によって取得された位置合わせ用画像内のマーカの三次元位置が、治療計画で定められた計画位置と合致するように患者ベッド駆動装置13を駆動し、ベッド13aの位置を補正する。これにより、患者に埋め込まれたマーカの治療室座標空間における三次元位置が、治療計画作成時の計画位置に一致され、放射線治療を実行するための準備が整う。
【0079】
なお、以下に詳述する放射線治療段階(ステップS3)の開始直前に、別途患者のCT画像を撮影し、当該CT画像から得られるマーカの位置が、計画位置から所定の許容範囲内にある場合は、上述したステップS21〜ステップS25を省略してもよい。
【0080】
放射線治療段階は、実際に治療用放射線を患者の患部に照射して放射線治療を行う段階である(ステップS3)。具体的には、
図10に示すように、ステップS31〜ステップS33においては、
図8の患者位置合わせ段階におけるステップS21〜ステップS23と同様の処理を行う。すなわち、ステップS31において、透視画像取得部33が、所定の時間間隔ごとに、患者の体内に埋め込まれたマーカを異なる二方向から撮影した透視画像を透視画像撮影装置12から取得する。
【0081】
つぎに、ステップS32において、マーカ位置算出部34が、透視画像取得部33によって所定の時間間隔ごとに取得された二方向からの透視画像に基づいて、当該時間間隔ごとにマーカの三次元位置を算出する。そして、ステップS33において、呼吸位相評価部35が、マーカ位置算出部34によって算出されたマーカの三次元運動に基づいて、患者の呼吸位相を評価する。
【0082】
つぎに、ステップS34において、治療用放射線照射判別部38が、ステップS13で設定された待ち伏せ領域と、ステップS22で算出されたマーカの三次元位置とを比較する。また、治療用放射線照射判別部38は、ステップS13で設定された待ち伏せ呼吸位相と、ステップS33で評価された呼吸位相(本第1実施形態では、呼気相)とを比較する。
【0083】
その比較の結果、マーカが待ち伏せ領域に入っており、かつ、呼吸位相が待ち伏せ呼吸位相に入っている場合のみ(ステップS34:YES)、治療用放射線照射判別部38は、治療用放射線を照射してもよいと判別し、治療用放射線ゲート制御装置14におけるゲート信号をオンに設定する(ステップS35)。そして、治療用放射線ゲート制御装置14においてゲート信号がオンに設定されている間、照射制御・モニタ装置15が、ステップS12で取得した照射シークエンスに従って照射指示信号を治療用放射線照射装置16へ出力し、治療用放射線を照射させる(ステップS36)。
【0084】
一方、マーカが待ち伏せ領域内に入っていない場合、または呼吸位相が待ち伏せ呼吸位相に入っていない場合(ステップS34:NO)、治療用放射線照射判別部38は、治療用放射線を照射すべきではないと判別し、治療用放射線ゲート制御装置14におけるゲート信号をオフに設定する(ステップS37)。
【0085】
以上のように、マーカが待ち伏せ領域内に入っていることのみならず、その際の呼吸位相が待ち伏せ呼吸位相に入っていることも確認した上で、放射線の照射を許可するため、照射野に対する患部の位置がずれている可能性が低い。よって、従来のように、患者の呼吸位相に関わらず、マーカの位置のみに基づいて放射線を照射した場合と比較して、照射精度および治療精度が向上し、正常な部位への誤照射が低減する。
【0086】
ゲート信号がオフのままであれば、ステップS38において、ベースラインシフト検出部39が、ベースラインシフトの発生の有無を検出する。その検出の結果、ベースラインシフトの発生が検出された場合(ステップS38:YES)、ステップS2の患者位置合わせ段階へと戻り、再度、位置合わせ作業を行う。これにより、ベースラインシフトの発生が自動的に検出され、患者の再位置合わせ作業が適切に行われるため、正常な部位へ放射線が照射されることが防止される。
【0087】
最後に、治療用放射線の照射後(ステップS36)、またはベースラインシフトの発生が検知されなければ(ステップS38:NO)、ステップS39において、照射制御・モニタ装置15が、ステップS12で取得された処方線量と、患者に投与された累積投与線量とを比較する。そして、累積投与線量が処方線量に到達しない限り(ステップS39:NO)、ステップS31へと戻り、放射線治療を継続する。一方、累積投与線量が処方線量に到達した場合(ステップS39:YES)、放射線治療を終了させる。
【0088】
以上のような本第1実施形態の放射線治療システム1Aおよび放射線治療プログラム1aによれば、以下のような作用効果を奏する。
1.患者の体内に埋め込まれたマーカの三次元運動から直接的に呼吸位相を評価することができる。
2.評価された呼吸位相に基づいて位置合わせ用画像を自動取得でき、患者の位置合わせの再現性を向上することができる。
3.マーカの三次元位置のみならず、患者の呼吸位相をモニターすることにより、放射線による治療精度を向上することができる。
4.ベースラインシフトの発生を自動的に検知し、正常な部位への誤照射を低減することができる。
5.マーカの三次元運動を監視するための基準となる座標軸を変更でき、患者の呼吸運動を正しく把握することができる。
6.評価された呼吸位相に基づいて患者の治療計画を作成することで、治療計画時と放射線治療時との整合性を高め、治療精度を向上することができる。
【0089】
つぎに、本発明に係る放射線治療システム1Bおよび放射線治療プログラム1bの第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態のうち、上述した第1実施形態の構成やステップと同一若しくは相当する構成やステップについては、同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0090】
本第2実施形態の特徴は、1サイクルの呼吸周期の中で複数回の照射を可能とすることにより、照射効率および治療効率を向上するとともに、治療時間を短縮し、患者への負担を軽減する点にある。
【0091】
本第2実施形態では、
図11に示すように、第1実施形態における治療用放射線照射装置16に代えて、治療用放射線の照射野をリアルタイムで制御可能なリアルタイム照射装置18を使用する。そして、1サイクルの呼吸周期における複数の呼吸位相のそれぞれにおいて放射線を照射するため、治療計画作成装置11は、各呼吸位相のそれぞれにおいて治療計画を作成する。当該治療計画には、各呼吸位相ごとの照射野である計画照射野も追加される。
【0092】
また、放射線治療制御装置17は、
図12に示すように、第1実施形態と比較して、制御信号送信部40を別途有している。制御信号送信部40は、複数の呼吸位相ごとの治療計画に基づき、各呼吸位相における患部に向けて照射野の方向を制御するための照射野制御信号をリアルタイム照射装置18へ送信するものである。また、本第2実施形態において、待ち伏せデータ設定部32は、治療計画作成装置11から計画照射野を取得し、各呼吸位相ごとに、治療計画時における照射野から所定の許容範囲に設定される待ち伏せ照射野を設定する。
【0093】
リアルタイム照射装置18は、照射野制御信号によって指定された方向に照射野を設定し、当該照射野が待ち伏せ照射領域に入っている場合、適切に位置設定が完了したか否か示すポジション信号を照射制御・モニタ装置15へ送信する機能を有している。
【0094】
本第2実施形態において、照射制御・モニタ装置15は、呼吸位相評価部35によって評価された複数の呼吸位相のそれぞれにおいて、治療用放射線照射判別部38が治療用放射線を照射してもよいと判別しており、かつ、リアルタイム照射装置18の照射野が待ち伏せ照射領域に入っている間のみ、リアルタイム照射装置18に対して治療用放射線の照射を指示する照射指示信号を出力するようになっている。
【0095】
ここで、
図13は、呼吸位相P
0(呼気相)およびP
50(吸気相)の二領域で照射する場合のシグナルチャートの一例である。
図13に示すように、各呼吸位相P
0およびP
50において、マーカが待ち伏せ領域に入っている間、各呼吸位相P
0およびP
50に対応するゲート信号がオンに設定される。また、各呼吸位相P
0およびP
50において、照射野が待ち伏せ照射領域に入っている間、各呼吸位相P
0およびP
50に対応するポジション信号がオンに設定される。そして、各呼吸位相P
0およびP
50において、ゲート信号およびポジション信号がいずれもオンの間のみ、照射指示信号がオンに設定されることとなる。
【0096】
言い換えると、ゲート信号およびポジション信号がいずれもオンとなる時間が無ければ、照射指示信号がオンに設定されることがない。そこで、本第2実施形態において、照射制御・モニタ装置15は、各呼吸位相における照射時間が所定時間以下またはゼロになったとき、照射指示信号が最大となるように照射野の動きを調整する。
【0097】
具体的には、照射制御・モニタ装置15は、ゲート信号がオンとなっている時間に対する照射指示信号がオンとなっている時間の割合が所定の設定値を下まわった場合に、ゲート信号のオンとポジション信号のオンとの重なりが最大となるようなズレ量を算出し、当該ズレ量に従って照射野の動きを調整するようになっている。すなわち、照射制御・モニタ装置15は、
図13における照射野の動きを時間軸方向にずらして、照射指示信号がオンとなる時間を最大化させる。
【0098】
なお、本第2実施形態では、照射野の動きを調整することで上述したズレ量を調整しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、呼吸位相評価部35によって患者の呼吸位相を再評価し、
図4(a)に示すマーカテーブルを更新してもよい。これにより、呼吸位相が最新の呼吸運動に基づいて再評価されるため、
図13におけるマーカの動きが時間軸方向に補正され、照射指示信号がオンとなる時間が増大することとなる。
【0099】
つぎに、本第2実施形態の放射線治療プログラム1bによって実行される放射線治療システム1B、ならびに放射線治療方法の作用について説明する。
【0100】
第1実施形態と同様、事前準備段階(ステップS1)および患者位置合わせ段階(ステップS2)の後、放射線治療段階(ステップS3)が行われる。具体的には、
図14に示すように、ステップS31からステップS33の処理によって呼吸位相が評価される。このとき、本第2実施形態では、呼吸位相評価部35が、1つの呼吸周期において複数の呼吸位相ごとにマーカの三次元位置および移動時間を算出する。
【0101】
つぎに、ステップS41において、制御信号送信部40が、照射しようとする複数の呼吸位相ごとに、照射野制御信号をリアルタイム照射装置18へ送信する。これにより、リアルタイム照射装置18は、照射野制御信号によって指定された方向に照射野を設定し、当該照射野が待ち伏せ照射領域に入っている場合、適切に位置設定が完了したか否か示すポジション信号を照射制御・モニタ装置15へ送信する。
【0102】
つづいて、ステップS34において、治療用放射線照射判別部38は、マーカが待ち伏せ領域に入っており、かつ、呼吸位相が待ち伏せ呼吸位相に入っている場合のみ(ステップS34:YES)、ゲート信号をオンに設定する(ステップS35)。つぎに、ステップS42において、照射制御・モニタ装置15が、ポジション信号をがオンになっているか否かを判別する。そして、ポジション信号がオンであれば(ステップS42:YES)、照射指示信号をオンに設定する(ステップS36)。これにより、1つの呼吸周期においても複数の呼吸位相で放射線が照射されるため、治療時間の増大が防止されるとともに、患者への負担が軽減される。
【0103】
ただし、ポジション信号がオンにならず、照射時間がゼロの場合(ステップS42:NO)、または各呼吸位相における照射時間が所定時間以下の場合(ステップS43:YES)、ステップS44において、照射制御・モニタ装置15が、照射指示信号の出力時間が最大となるように照射野の動きを時間軸方向に調整し、照射指示信号がオンとなる時間を最大化させる。これにより、自動的に適切な照射時間が担保される。
【0104】
以上のような本第2実施形態の放射線治療システム1Bおよび放射線治療プログラム1bによれば、上述した第1実施形態の作用効果に加えて、以下のような作用効果を奏する。
1.1つの呼吸周期において複数の呼吸位相で放射線を照射し、照射効率を向上することができる。
2.治療時間の増大を防止できるとともに、患者への負担を軽減することができる。
3.各呼吸位相における照射時間が短くなることを防止し、適切な照射時間を自動的に保持することができる。
【0105】
なお、本発明に係る放射線治療システムおよび放射線治療プログラムは、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0106】
例えば、上述した各実施形態の放射線治療システムにおいては、X線を用いて透視画像を取得しているが、超音波などX線以外の他の透視画像取得方法により透視画像を取得してもよい。また、各実施形態では、治療用放射線としてX線を使用しているが、X線以外の陽子線、重粒子線等を使用してもよい。