真空槽11の内部に、円筒形のスパッタリングターゲット21を配置し、移動する成膜対象物2にスパッタリング粒子を到達させ、薄膜を形成する際に、スパッタリングターゲット21の外周表面のうち、放射方向の磁力成分がゼロになる第一、第二の場所から放出される放出方向粒子を、上流場所から移動し、スパッタリングターゲット21と対面した後、下流場所を移動する成膜対象物2の部分に向けて放出させる。放出方向粒子を含まないスパッタリング粒子によって初期薄膜が形成される。
前記磁石装置は、リング形形状にされた外周磁石と、前記外周磁石の内側に配置され、直線形状にされた中心磁石とを有し、前記外周磁石と前記中心磁石とは、互いに反対の極性の磁極が前記スパッタリングターゲットの裏面付近に配置され、
前記外周磁石は、湾曲した第一、第二の湾曲部分と、前記第一の湾曲部分の端部と前記第二の湾曲部分の端部同士を接続する直線形状の第一、第二の直線部分とを有し、
前記第一の直線部分と前記中心磁石との間の距離の中央の位置と、前記中心軸線とを含む第一の飛行平面内に前記第一の放射方向粒子が放出され、
前記第二の直線部分と前記中心磁石との間の距離の中央の位置と、前記中心軸線とを含む第二の飛行平面内に前記第二の放射方向粒子が放出されるように前記磁界が形成された請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
前記成膜対象物の前記薄膜が形成される成膜面には、p型GaN層が露出され、前記スパッタリングターゲットは、スパッタリングにより、導電性を有し、透明な金属酸化物薄膜が形成される材料で構成された請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
前記磁石装置には、リング形形状の外周磁石と、前記外周磁石の内側に配置した直線形状の中心磁石とを設け、前記外周磁石と前記中心磁石とは、互いに反対の極性の磁極が前記スパッタリングターゲットの裏面に向くように配置し、
前記外周磁石には、湾曲した第一、第二の湾曲部分と、前記第一の湾曲部分の端部と前記第二の湾曲部分の端部同士を接続する直線形状の第一、第二の直線部分とを設けておき、
前記第一の直線部分と前記中心磁石との間の距離の第一の中央の位置と、前記中心軸線とを含む第一の飛行平面内に前記第一の放射方向粒子が放出され、前記第二の直線部分と前記中心磁石との間の距離の第二の中央の位置と、前記中心軸線とを含む第二の飛行平面内に前記第二の放射方向粒子が放出されるように前記磁界を形成させる請求項6乃至請求項8のいずれか1項記載の薄膜製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、円筒形のスパッタリングターゲットを用い、抵抗値を増大させずに成膜速度を早くする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者等は、円筒形のスパッタリングターゲットが、酸化物で構成されているときに、投入電力を増加させると、抵抗値が上昇することを発見し、本発明を創作するに至った。
【0008】
即ち、スパッタリングターゲットから放出される粒子が、高エネルギーで成膜対象物に入射するときに、抵抗値が上昇することが、抵抗値上昇の原因であることが分かった。
【0009】
円筒形のスパッタリングターゲットから放出されるスパッタリング粒子のうち、放射方向の磁力成分が小さい場所から放出されるスパッタリング粒子のエネルギーが大きくなるから、放射方向の磁力成分がゼロとなる場所から放出されるスパッタリング粒子が成膜対象物に到達しないように、遮蔽装置を設ければ、投入電力を増加させても、抵抗値上昇は発生しないようにできる。
【0010】
金属酸化物については、金属と酸素が結合しているため、金属酸化物で構成されたスパッタリングターゲットからは、活性化された酸素イオンもスパッタリング粒子として放出される。酸素イオンは−に帯電しており、−電圧を印可されたスパッタリングターゲット上で加速され高エネルギー粒子として基板へ入射し抵抗値上昇が起こりやすいため、特に、金属酸化物のスパッタリングターゲットから、透明な金属酸化物の導電膜を形成する場合に有効である。
【0011】
以上のことから、本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置され、成膜材料から成る円筒形のスパッタリングターゲットと、前記スパッタリングターゲットの内部の中空部分に配置され、前記スパッタリングターゲットの外周表面に磁界を形成する磁石装置と、前記スパッタリングターゲットの中心軸線が延伸された方向である中心軸線方向に対して垂直な方向に延伸され、前記スパッタリングターゲットとは離間した位置に設けられた搬送経路に沿って、成膜対象物を、前記成膜対象物が前記スパッタリングターゲットと対面する前に位置する上流場所から、前記成膜対象物が移動して、前記スパッタリングターゲットと対面する対面場所を通過し、前記対面場所を通過した前記成膜対象物の部分が下流場所を移動し、前記スパッタリングターゲットから放出されたスパッタリング粒子が移動中の前記成膜対象物に到達し、前記成膜対象物に薄膜が形成されるスパッタリング装置であって、前記磁石装置は、前記スパッタリングターゲットの外周表面のうち、接平面に対して垂直な放射方向の磁力成分がゼロの第一、第二の場所の中間の位置を通り、前記中心軸線を含む中央飛行平面が、前記搬送経路の前記下流場所と交叉するように傾けられたスパッタリング装置である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置され、成膜材料から成る円筒形のスパッタリングターゲットと、前記スパッタリングターゲットの内部の中空部分に配置され、前記スパッタリングターゲットの外周表面に磁界を形成する磁石装置と、前記スパッタリングターゲットの中心軸線が延伸された方向である中心軸線方向に対して垂直な方向に延伸され、前記スパッタリングターゲットとは離間した位置に設けられた搬送経路に沿って、成膜対象物を、前記成膜対象物が前記スパッタリングターゲットと対面する前に位置する上流場所から、前記成膜対象物が移動して、前記スパッタリングターゲットと対面する対面場所を通過し、前記対面場所を通過した前記成膜対象物の部分が下流場所を移動し、前記スパッタリングターゲットから放出されたスパッタリング粒子が移動中の前記成膜対象物に到達し、前記成膜対象物に薄膜が形成されるスパッタリング装置であって、前記磁石装置は、前記スパッタリングターゲットの表面のうち、接平面に対して垂直な放射方向の磁力成分がゼロの第一、第二の場所から、前記放射方向に向けて放出されたスパッタリング粒子である第一、第二の放射方向粒子が、前記下流場所内を移動する前記成膜対象物に向かうように配置されたスパッタリング装置である。
本発明は、前記スパッタリングターゲットを、前記中心軸線を中心にして回転させるターゲット回転装置を有するスパッタリング装置である。
本発明は、前記磁石装置は、リング形形状にされた外周磁石と、前記外周磁石の内側に配置され、直線形状にされた中心磁石とを有し、前記外周磁石と前記中心磁石とは、互いに反対の極性の磁極が前記スパッタリングターゲットの裏面付近に配置され、前記外周磁石は、湾曲した第一、第二の湾曲部分と、前記第一の湾曲部分の端部と前記第二の湾曲部分の端部同士を接続する直線形状の第一、第二の直線部分とを有し、前記第一の直線部分と前記中心磁石との間の距離の中央の位置と、前記中心軸線とを含む第一の飛行平面内に前記第一の放射方向粒子が放出され、前記第二の直線部分と前記中心磁石との間の距離の中央の位置と、前記中心軸線とを含む第二の飛行平面内に前記第二の放射方向粒子が放出されるように前記磁界が形成されたスパッタリング装置である。
本発明は、前記成膜対象物の前記薄膜が形成される成膜面には、p型GaN層が露出され、前記スパッタリングターゲットは、スパッタリングにより、導電性を有し、透明な金属酸化物薄膜が形成される材料で構成されたスパッタリング装置である。
本発明は、成膜材料から成る円筒形のスパッタリングターゲットの内部の中空部分に、前記スパッタリングターゲットの外周表面に磁界を形成する磁石装置を配置しておき、前記スパッタリングターゲットの中心軸線が延伸された方向である中心軸線方向に対して垂直な方向に延伸され、前記スパッタリングターゲットとは離間した位置に設けられた搬送経路に沿って、前記成膜対象物が前記スパッタリングターゲットと対面する前に位置する上流場所から移動して、前記スパッタリングターゲットと対面する対面場所を通過させ、対面場所を通過した前記成膜対象物の部分を下流場所に到着させる間に、前記スパッタリングターゲットから放出されたスパッタリング粒子を前記成膜対象物に到達させ、前記成膜対象物に薄膜を形成する薄膜製造方法であって、前記磁石装置は、前記スパッタリングターゲットの表面のうち、接平面に対して垂直な放射方向の磁力成分がゼロの第一、第二の場所の中間の位置を通り、前記中心軸線を含む中央飛行平面が、前記搬送経路の前記下流場所と交叉するように傾くように配置し、前記スパッタリングターゲットの表面のうち、接平面に対して垂直な放射方向の磁力成分がゼロの第一、第二の場所から、前記放射方向に向けて放出されたスパッタリング粒子である第一又は第二の放射方向粒子が前記成膜対象物に到着する前に到達したスパッタリング粒子によって初期薄膜を形成する薄膜製造方法である。
本発明は、成膜材料から成る円筒形のスパッタリングターゲットの内部の中空部分に、前記スパッタリングターゲットの外周表面に磁界を形成する磁石装置を配置しておき、前記スパッタリングターゲットの中心軸線が延伸された方向である中心軸線方向に対して垂直な方向に延伸され、前記スパッタリングターゲットとは離間した位置に設けられた搬送経路に沿って、前記成膜対象物が前記スパッタリングターゲットと対面する前に位置する上流場所から移動して、前記スパッタリングターゲットと対面する対面場所を通過させ、対面場所を通過した前記成膜対象物の部分を下流場所に到着させる間に、前記スパッタリングターゲットから放出されたスパッタリング粒子を前記成膜対象物に到達させ、前記成膜対象物に薄膜を形成する薄膜製造方法であって、前記磁石装置は、前記スパッタリングターゲットの表面のうち、接平面に対して垂直な放射方向の磁力成分がゼロの第一、第二の場所から、前記放射方向に向けて放出されたスパッタリング粒子である第一、第二の放射方向粒子が、前記成膜対象物のうちの前記下流場所を移動する部分に到着するように傾け、前記第一又は前記第二の放射方向粒子が前記成膜対象物に到着する前に到達したスパッタリング粒子によって初期薄膜を形成する薄膜製造方法である。
本発明は、前記スパッタリングターゲットを、前記中心軸線を中心にして回転させながらスパッタリングをする薄膜製造方法である。
本発明は、前記磁石装置には、リング形形状の外周磁石と、前記外周磁石の内側に配置した直線形状の中心磁石とを設け、前記外周磁石と前記中心磁石とは、互いに反対の極性の磁極が前記スパッタリングターゲットの裏面に向くように配置し、前記外周磁石には、湾曲した第一、第二の湾曲部分と、前記第一の湾曲部分の端部と前記第二の湾曲部分の端部同士を接続する直線形状の第一、第二の直線部分とを設けておき、前記第一の直線部分と前記中心磁石との間の距離の第一の中央の位置と、前記中心軸線とを含む第一の飛行平面内に前記第一の放射方向粒子が放出され、前記第二の直線部分と前記中心磁石との間の距離の第二の中央の位置と、前記中心軸線とを含む第二の飛行平面内に前記第二の放射方向粒子が放出されるように前記磁界を形成させる薄膜製造方法である。
本発明は、前記成膜対象物の前記初期薄膜が形成される成膜面にはp型GaN層が露出され、前記スパッタリングターゲットは、スパッタリングにより、導電性を有し、透明な金属酸化物薄膜を形成する材料で構成しておく薄膜製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
成膜対象物の表面がダメージを受けず、形成される薄膜と成膜対象物との間の接触抵抗を小さくすることができる。
また、投入電力を増加させてもダメージを受けないので、成膜速度を増加させることができる。
特に、ダメージを受けやすいp型GaN層の表面に、金属酸化物から成る透明な導電膜を形成するときに、効果が高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1の符号10は、本発明の一例のスパッタリング装置を示している。
図5は、その第一例のスパッタリング装置10の内部に、成膜対象物2が搬入された状態を示している。
このスパッタリング装置10は真空槽11を有しており、真空槽11の内部には、ターゲット装置12が配置されている。
【0015】
<ターゲット装置>
ターゲット装置12は、カソード電極22と、スパッタリングターゲット21と、磁石装置20とを有している。
【0016】
スパッタリングターゲット21は、成膜材料が円筒形形状に成形されており、カソード電極22は、金属材料が円筒形形状に成形されている。スパッタリングターゲット21とカソード電極22とは、それぞれ内部が中空にされている。カソード電極22は外周の径が、スパッタリングターゲット21の内周と同程度の径に成形されており、スパッタリングターゲット21の内部に挿入され、カソード電極22の外周表面がスパッタリングターゲット21の内周表面に密着され、磁石装置20はカソード電極22の中空部分に配置されている。スパッタリングターゲット21とカソード電極22の中心軸線29は共通である。
【0017】
図2は、
図1のA−A線截断断面図であり、ターゲット装置12は、ターゲット回転装置39によって真空槽11に保持されている。符号48は蓋である。
図3は、ターゲット装置12の拡大図であり、
図4は、磁石装置20を上方から見た平面図である。
【0018】
磁石装置20は、板状のヨーク25と、外周磁石26と、中心磁石27とを有している。
ヨーク25は細長で板状の高透磁率の磁性材料であり、その長さは、ヨーク25の両端が、カソード電極22の両端付近にそれぞれ位置するようにされている。ヨーク25は、カソード電極22の内周面に沿うように湾曲されており、ここでは、円筒形形状を、中心軸線を通る二平面で切断したときの形状にされている。
【0019】
カソード電極22の内周面に沿ったヨーク25の表面をヨーク25の外周面とし、ヨーク25の反対側の表面を内周面とすると、ヨーク25は、外周面がカソード電極22と離間して対面し、内周面が中心軸線29と対面する位置に配置されている。ヨーク25の外周面と、外周面と対面するカソード電極22の内周面との間の距離は、ヨーク25の内周面と、その内周面と向き合うカソード電極22の内周面との間の距離よりも短いようにされている。
【0020】
外周磁石26と中心磁石27は、ヨーク25の外周面に固定されている。
外周磁石26は、第一、第二の湾曲部分31
1,31
2と、第一、第二の直線部分33
1,33
2とを有している。第一、第二の湾曲部分31
1,31
2は湾曲した曲線状であり、第一の湾曲部分31
1の一端部と第二の湾曲部分31
2の一端部には、第一の直線部分33
1の一端部と他端部がそれぞれ接続され、第一の湾曲部分31
1の他端部と第二の湾曲部分31
2の他端部には、第二の直線部分33
2の一端部と他端部がそれぞれ接続され、一個の外周磁石26はリング状になっている。
【0021】
ここでは、第一、第二の湾曲部分31
1,31
2は半円周形の形状にされ、第一、第二の直線部分33
1,33
2は直線形の形状にされており、外周磁石26は、
図4(a)に示すように、トラック形の形状になっている。
この外周磁石26の場合は、環状の形状であればよく、
図4(b)のように、第一、第二の湾曲部分31
1,31
2が直線形形状であっても本発明に含まれる。
【0022】
第一、第二の湾曲部分31
1,31
2は、ヨーク25の両端にそれぞれ配置され、第一、第二の直線部分33
1,33
2は、ヨーク25の長手方向に沿って互いに平行に配置されている。
第一、第二の直線部分33
1,33
2の間の距離よりも、第一、第二の直線部分33
1,33
2の長さの方が長くなるようにされており、従って、外周磁石26は、細長のトラック形の形状にされている。
【0023】
中心磁石27は、外周磁石26の内周の両端間の長さよりも短い直線形の形状にされており、外周磁石26の内側に、第一、第二の直線部分33
1,33
2と平行に配置されている。従って、中心磁石27は、外周磁石26によって取り囲まれている。
【0024】
ここでは、多数の角柱状の小磁石がトラック形の形状に配置されて外周磁石26が構成され、同様に、直線状に配置されて中心磁石27が構成されている。
第一、第二の直線部分33
1,33
2と中心磁石27とは、スパッタリングターゲット21の中心軸線29と平行な方向に延伸するように配置されている。
【0025】
中心磁石27と外周磁石26の上端は、カソード電極22の内周面と非接触で対面しており、下端はヨーク25に接触されている。
中心磁石27と外周磁石26とは上端と下端に磁極が形成されている。
【0026】
中心磁石27と外周磁石26の磁極は、N極とS極のうちの一方の極性の磁極が中心磁石27の上端に設けられ、他方の極性の磁極が外周磁石26の上端に配置され、中心磁石27と外周磁石26とヨーク25とによって磁気回路が形成されている。下端の磁極は、上端と反対の極性の磁極である。
【0027】
このような極性の配置の場合は、中心磁石27と外周磁石26のうち、いずれか一方の上端のN極から出た磁力線は、スパッタリングターゲット21を貫通してスパッタリングターゲット21の外周表面から離間した後、湾曲されてスパッタリングターゲット21の外周表面方向に戻り、スパッタリングターゲット21を再度貫通して他方の上端のS極に戻る。
【0028】
図3では、第一の直線部分33
1が第二の直線部分33
2の左方に配置されており、符号M
1は、左方に位置する第一の直線部分33
1の上端と中心磁石27の上端との間に形成される第一の磁力線を示し、同
図3の符号M
2は、右方に位置する第二の直線部分33
2の上端と中心磁石27の上端との間に形成される第二の磁力線を示している。このように、スパッタリングターゲット21の外周表面のうち、裏面に磁石装置20が位置する場所には磁力線M
1,M
2が位置し、磁界が形成されている。
【0029】
<スパッタリングターゲットと磁界との関係>
スパッタリングターゲット21の表面の任意の場所の磁界の向きと強さを空間中の三方向の磁力成分に分解する場合、円筒の側面上では、三方向のうちの一方向として、スパッタリングターゲット21の表面の一点を通り、スパッタリングターゲット21の中心軸線29と垂直に交叉する直線である放射直線が延伸する方向を放射方向とする。
【0030】
一般的にスパッタリングターゲットの表面では、スパッタリングターゲットの表面に垂直な方向の磁力成分の小さい場所が、大きい場所よりも多量にスパッタリングされることが知られており、スパッタリングターゲット21では、放射方向の磁力成分の小さい方が、多量にスパッタリングされることになる。
【0031】
二方向目として、放射方向と直交する方向であって、スパッタリングターゲット21の中心軸線29と平行な方向である軸線延伸方向をとる。
【0032】
本発明の磁石装置20では、外周磁石26の第一、第二の直線部分33
1,33
2と中心磁石27とが形成する磁力線M
1,M
2の密度は均一にされており、そのため、外周磁石26の第一、第二の直線部分33
1,33
2の上端と中心磁石27の上端とが形成する磁力線M
1,M
2は、軸線延伸方向と直交しており、従って、その部分の軸線延伸方向の磁力成分はゼロとなる。
【0033】
つまり、スパッタリングターゲット21の外周表面のうち、軸線延伸方向と直交する磁力線M
1,M
2が形成されている部分では、軸線延伸方向の磁力成分はゼロである。
【0034】
三方向目として、放射方向と中心軸線が延伸する方向との両方に直交する直線の延伸方向をとる。
【0035】
スパッタリングターゲット21の外周表面は円筒形の側面である場合、スパッタリングターゲット21の外周表面と接する接平面は、放射方向と垂直であり、スパッタリングターゲット21と接平面とは、点接触ではなく、線接触で接している。接した部分の直線、即ち、スパッタリングターゲット21と接平面の両方に含まれる直線は、軸線延伸方向に延伸された直線であり、接平面に含まれ、軸線延伸方向に垂直な直線が延伸された方向が三方向目の方向である。
【0036】
この方向は、接平面と平行になることから、平行方向とすると、軸線延伸方向と直交する磁力線M
1,M
2が形成されている部分では軸線延伸方向の磁力成分がゼロであるから、スパッタリングターゲット21の外周表面中で放射方向の磁力成分が最小値ゼロの場所では、磁力成分は平行方向だけになり、多量にスパッタリングされる場所である。
【0037】
外周磁石26の第一、第二の直線部分33
1,33
2と中心磁石27とは平行にされており、
図4(a)では、第一の直線部分33
1の上端の幅方向中央位置を通る直線を第一の直線部分中央線L
1とし、中心磁石27の上端の幅方向中央位置を通る直線を中央磁石中央線L
0とし、第一の直線部分中央線L
1と中央磁石中央線L
0との間の距離W
1の中央を通る直線を第一の磁石間中央線T
1とし、その第一の磁石間中央線T
1と中心軸線29とを含む平面を第一の飛行平面S
1(
図3)とすると、第一の飛行平面S
1とスパッタリングターゲット21の外周表面とが交叉する直線状の部分が、放射方向の磁力成分がゼロ、平行方向の磁力成分が大きい場所である。この場所を第一の場所P
1とする。
【0038】
同様に、第二の直線部分33
2の上端の幅方向中央位置を通る直線を第二の直線部分中央線L
2とし、第二の直線部分中央線L
2と中央磁石中央線L
0との間の距離W
2の中央を通る直線を第二の磁石間中央線T
2とし、その第二の磁石間中央線T
2と中心軸線29とを含む平面を第二の飛行平面S
2(
図3)とすると、第二の飛行平面S
2とスパッタリングターゲット21の外周表面とが交叉する直線状の部分が、放射方向の磁力成分がゼロ、平行方向の磁力成分が大きい場所である。この場所を第二の場所P
2とする。
【0039】
第一の場所P
1でスパッタリングターゲット21の外周表面に接する接平面を第一の接平面Q
1とし、第二の場所P
2でスパッタリングターゲット21の外周表面に接する接平面を第二の接平面Q
2とすると、第一の飛行平面S
1と第一の接平面Q
1とは直交し、第二の飛行平面S
2と第二の接平面Q
2とは直交する。
【0040】
第一の場所P
1は、第一の直線部分33
1と中央磁石27との間の位置の上方に位置し、第二の場所P
2は、第二の直線部分33
2と中央磁石27との間の位置の上方に位置している。
【0041】
<スパッタリング粒子のエネルギー>
ところで、コサイン則によると、スパッタリングターゲットの表面の同一の場所から放出されるスパッタリング粒子は、放出角度に応じた量が放出されるとされており、
図3の符号C
1,C
2の曲線は、本発明のスパッタリングターゲットの外周表面の第一、第二の場所P
1,P
2にコサイン則を適用した場合のスパッタリング粒子の放出方向と、その放出方向のスパッタリング粒子の放出量との関係を示すグラフである。スパッタリング粒子の放出量は、その放出角度で放出されたスパッタリング粒子の単位時間当たりの個数である。
【0042】
放出量は、第一、第二の場所P
1,P
2を通り、スパッタリング粒子の放出角度で傾く直線がコサイン則の曲線C
1,C
2と交叉する交叉点と、第一、第二の場所P
1,P
2との間の距離によって示されており、交叉点と第一、第二の場所P
1,P
2との間の距離は、その放出角度で放出されたスパッタリング粒子のエネルギーも示している。
【0043】
コサイン則の曲線C
1,C
2によると、第一、第二の場所P
1,P
2から放出されるスパッタリング粒子のうち、放射方向の直線の交叉点と第一、第二の場所P
1,P
2との間の距離が最大であり、放射方向に放出されたスパッタリング粒子のエネルギーが最大であることになる。
【0044】
従って、スパッタリングターゲット21の外周表面上の各場所で放出されるスパッタリング粒子のうち、第一、第二の場所P
1,P
2から放射方向に放出されるスパッタリング粒子のエネルギーが、他の場所で放出されるスパッタリング粒子のエネルギーよりも大きい。
【0045】
エネルギーが大きいスパッタリング粒子が成膜面に入射すると、入射した成膜面の結晶性が破壊されるから、本発明のスパッタリング装置10では、第一、第二の場所P
1,P
2から放射方向に放出されたスパッタリング粒子が成膜対象物2の成膜面に入射しないように磁石装置20が後流方向に傾けられ、成膜対象物2に到達できないようにされている。従って、成膜対象物2の成膜面に形成される薄膜と成膜面との間の界面の結晶性が向上する。
【0046】
<遮蔽装置>
図5を参照し、本発明のスパッタリング装置10の真空槽11の内部には、搬送ローラー等で構成された搬送経路15が設けられており、基板ホルダ14に配置された成膜対象物2が搬送経路15に配置され、真空槽11の外部に配置されたモーターによって、ローラー等が動作すると、成膜対象物2は基板ホルダ14に配置された状態で、搬送経路15に沿って移動する。搬送経路15は、成膜対象物2が直線上を移動するようにされている。
【0047】
搬送経路15は、スパッタリングターゲット21の中心軸線29が延伸する方向とは垂直な方向に延伸され、搬送経路15に沿って移動する成膜対象物2は、中心軸線29と平行な平面内で、ターゲット装置12とは離間した位置を通るようにされている。
【0048】
このスパッタリング装置10では中心軸線29は水平に配置され、搬送経路15は水平面内に配置されている。
【0049】
中心軸線29を含み、搬送経路15に対して垂直な平面と、搬送経路15とが交叉する搬送経路15上の場所を対面場所42とし、対面場所42に到達する前に成膜対象物2が移動する搬送経路15上の場所を上流場所41とし、対面場所42に到達した部分が、到達後に移動する場所を下流場所43とすると、真空槽11と前段槽61との間に設けられたゲートバルブ65が開けられ、ゲートバルブ65を通過して、真空槽11内に搬入された成膜対象物2は、先ず、上流場所41内の搬送経路15上に配置される。
【0050】
成膜対象物2が搬送経路15に沿って上流場所41を移動し、成膜対象物2の先頭部分が対面場所42に到達し、成膜対象物2の対面場所42に位置する部分が、スパッタリングターゲット21と対面する。
【0051】
スパッタリングターゲット21は、中心軸線29が水平に配置されており、中央磁石中央線L
0と中心軸線29とを含む平面を中央飛行平面S
0とし、第一の飛行平面S
1と中央飛行平面S
0との間の角度θ
1とし、第二の飛行平面S
2と中央飛行平面S
0との間の角度θ
2とすると、この実施例では、第一の直線部分中央線L
1と中央磁石中央線L
0との間の距離W
1と第二の直線部分中央線L
2と中央磁石中央線L
0との間の距離W
2とは等しく、第一の直線部分33
1の幅と第二の直線部分33
2の幅とは等しく、第一の直線部分33
1の磁力の大きさと第二の直線部分33
2の磁力の大きさとは等しくされており、従って、第一、第二の飛行平面S
1,S
2と中央飛行平面S
0との間の角度θ
1,θ
2はこの例では等しいが、異なる値であっても良い。また、磁石の磁力も均一ではなく、場所によって異なるようにされていてもよい。
【0052】
中心軸線29を含み搬送経路15と直交する平面を鉛直平面Scとすると、磁石装置20は、中央飛行平面S
0を中心軸線29で二分したとき、搬送経路15と交叉する側が、鉛直平面Scよりも下流場所43側に傾けられており、本例では、第一の飛行平面S
1と、中央飛行平面S
0と、第二の飛行平面S
2とを、それぞれ中心軸線29で二分したとき、各平面S
0、S
1、S
2の搬送経路15と交叉する側が鉛直平面よりも下流場所43側に傾けられるように配置されている。この場合は、各飛行平面S
0,S
1、S
2は搬送経路15の下流場所の部分と交叉する。対面場所42は、鉛直平面Scと搬送経路15とが交叉した場所である。
【0053】
第一の場所P
1から放射方向に放出されたスパッタリング粒子を、第一の放射方向粒子と呼ぶと、第一の放射方向粒子は、第一の飛行平面S
1内に位置し、第一の接平面Q
1と垂直な方向に直線飛行する。第二の場所P
2から放射方向に放出されたスパッタリング粒子を、第二の放射方向粒子と呼ぶと、第二の放射方向粒子は第二の飛行平面S
2内に位置し、第二の接平面Q
2と垂直な方向に直線飛行する。
【0054】
上流場所41から下流場所43方向に向けて移動を開始した成膜対象物2は、対面場所42を通過した部分が、下流場所43内に入り、更に同じ方向に移動が継続されると、第一の飛行平面S
1と、中央飛行平面S
0と、第二の飛行平面S
2とに、この順序で交叉する。符号E
0、E
1、E
2は各平面S
0、S
1、S
2が搬送経路15と交叉する場所である。
【0055】
従って、成膜対象物2は、鉛直平面Scよりも下流場所43側で、第一の放射方向粒子の飛行経路の延長線と交叉し、次いで、第二の放射方向粒子の飛行経路の延長線と交叉する。
【0056】
成膜対象物2の成膜面は、どの部分でも、先ず、第一、第二の放射方向粒子以外のスパッタリング粒子が到達し、初期薄膜3が形成され、次いで、第一の放射方向粒子が到達すると、本体薄膜4の形成が開始され、本体薄膜4の膜厚は、成膜対象物2の移動に伴って、成長する。
初期薄膜3は、第一、第二の放射方向粒子以外のスパッタリング粒子によって形成され、本体薄膜4は、第一、第二の放射方向粒子を含むスパッタリング粒子によって形成される。
【0057】
<成膜手順>
真空槽11の内部は真空排気装置51によって継続して真空排気されている。
真空槽11にはガス導入装置52が接続され、ガス導入装置52からスパッタリングガスが導入され、真空槽11の内部には、スパッタリング雰囲気が形成されている。
【0058】
カソード電極22には、スパッタ電源53が接続されており、カソード電極22にスパッタ電源53からスパッタ電圧が印加されると、磁石装置20が形成する磁界によって、スパッタリングターゲット21の外周表面のスパッタリングが開始される。
【0059】
スパッタリングが開始される前には、磁石装置20が搬送経路15に対して静止した状態で、スパッタリングターゲット21は、ターゲット回転装置39によって、中心軸線29を中心にした回転が一定の回転速度で開始されており、回転は継続され、スパッタリングターゲット21の外周表面が均一にスパッタリングされている。
【0060】
真空槽11内に搬入された成膜対象物2は、
図5に示すように、搬送経路15の上流場所41で搬送経路15に配置され、スパッタリングターゲット21をスパッタリングしながら、成膜対象物2の対面場所42方向への移動が開始される。
【0061】
図6は、成膜対象物2の一部が対面場所42を通過し、先頭が第一の飛行平面S
1と交叉する場所E
1の直前に位置する状態が示されている。
成膜対象物2が第一の飛行平面S
1と交叉する場所E
1に到達する前には、スパッタリングターゲット21から放出されたスパッタリング粒子のうち、第一、第二の放射方向粒子を含まないスパッタリング粒子が成膜対象物2の成膜面に到達し、成膜面の表面にスパッタリングターゲット21の物質を含む初期薄膜3が形成される。
【0062】
図7に示すように、成膜対象物2の先頭が第一の飛行平面S
1と交叉する場所E
1に到達したときには、第一の放射方向粒子が到達し、到達した部分の初期薄膜3の表面上に本体薄膜4の形成が開始され、第二の飛行平面S
2と交叉する場所E
2に到達したときには、第二の放射方向粒子が到達し、その結果、第一、第二の放射方向粒子を含むスパッタリング粒子によって、本体薄膜4が形成される。
【0063】
第一、第二の場所P
1,P
2から放出された第一,第二の放射方向粒子を含まないスパッタリング粒子によって、初期薄膜3が形成され、初期薄膜3上に第一、第二の放射方向粒子等のエネルギーが高いスパッタリング粒子が到達し、初期薄膜3の表面に、本体薄膜4が形成されるので、エネルギーが高いスパッタリング粒子は初期薄膜3に衝突し、成膜面には直接衝突しないので、成膜面はダメージを受けない。
【0064】
図8は、先頭が、第二の放射方向粒子が到達する位置まで移動した状態であり、第二の放射方向粒子が到達する位置を通過し、本体薄膜4が形成された後、真空槽11と後段槽62の間に設けられたゲートバルブ65が開けられ、後段槽62に搬出される。
【0065】
ここでは、成膜対象物2は、n型のGaN基板上に、p型のGaN層が形成されたLED半導体素子用の基板であり、スパッタリングターゲット21はITO等の導電性透明金属酸化物で構成されており、薄膜が形成される成膜面にはp型のGaN層が形成され、初期薄膜3はp型のGaN層と接触して掲載されている。
【0066】
なお、上記例では、第一の飛行平面S
1が、搬送経路15の下流場所43の部分と交叉していたが、中央飛行平面S
0が、下流場所43と交叉するように磁石装置20が傾けられている場合も本発明に含まれる。
【0067】
<測定例>
図9はスパッタリングターゲットをスパッタリングして、p型GaN層上にITO薄膜を形成したときの接触抵抗の抵抗率を示すグラフであり、プレーナーのスパッタリングターゲットをスパッタリングした場合と、スパッタリング装置10の磁石装置20の中央飛行平面S
0を鉛直平面Scに一致させてスパッタリングした場合(ロータリーA)と、本発明のスパッタリング装置10でスパッタリングした場合(ロータリーB)である。本発明のスパッタリング装置10が最も抵抗率が低い。