特開2016-139627(P2016-139627A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田中貴金属工業株式会社の特許一覧
<>
  • 特開2016139627-色素増感型太陽電池 図000015
  • 特開2016139627-色素増感型太陽電池 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-139627(P2016-139627A)
(43)【公開日】2016年8月4日
(54)【発明の名称】色素増感型太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20160708BHJP
   C07D 213/74 20060101ALN20160708BHJP
【FI】
   H01G9/20 113C
   H01G9/20 113B
   H01G9/20 113D
   C07D213/74
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-11901(P2015-11901)
(22)【出願日】2015年1月26日
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘規
【テーマコード(参考)】
4C055
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA30
4C055BB19
4C055CA01
4C055DA57
4C055EA01
4C055GA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、非対称かつ嵩高い色素を適用した色素増感型太陽電池について、室内の一般的な居室のような低照度環境下であっても、高い発電効率を維持しやすいものを提供する。
【解決手段】本発明は、光増感色素として、Ru金属に2つのチオシアネート基と、相互に異なる2つのビピリジン配位子が配位してなる非対称のルテニウム錯体を適用し、共吸着剤として、炭素数1以上3以下の直鎖状飽和炭化水素を主鎖とする炭化水素基に、2つのカルボキシル基が配位してなる有機化合物を適用する色素増感型太陽電池に関する。本発明は、デザイン性に優れた色素増感型太陽電池について、屋内居室等の低照度環境での発電効率を向上し、用途拡大に寄与する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光増感色素及び共吸着剤が担持された酸化物層を基板上に備えてなる電極、電極に対向する対極、及び、電極と対極との間に配された電解質を有する色素増感型太陽電池において、
光増感色素は、下記一般式(1)で示される、Ru金属に、2つのチオシアネート基と、相互に異なる2つのビピリジン配位子が配位してなる非対称のルテニウム錯体であり、
共吸着剤は、下記一般式(2)で示される、炭素数1以上3以下の直鎖状飽和炭化水素を主鎖とする炭化水素基(Y)に、2つのカルボキシル基が配位してなる有機化合物であることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【化1】
【化2】
【請求項2】
Yは、主鎖である飽和炭化水素の炭素数が1以上2以下である請求項1に記載された色素増感型太陽電池。
【請求項3】
Yは、飽和炭化水素からなる主鎖に、水素原子、鎖状又は環状の炭化水素基、又はヒドロキシル基より選ばれた置換基を側鎖として有する炭化水素基である請求項1又は請求項2に記載された色素増感型太陽電池。
【請求項4】
共吸着剤は、リンゴ酸、2−メチルマロン酸、ベンジルマロン酸、コハク酸、2−メチルコハク酸、グルタル酸、酒石酸のいずれか1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載された色素増感型太陽電池。
【請求項5】
A及びBは、同一の置換基である請求項1〜4のいずれかに記載された色素増感型太陽電池。
【請求項6】
A及び/又はBは、五員環又は六員環の複素環を有する請求項1〜5のいずれかに記載された色素増感型太陽電池。
【請求項7】
A及び/又はBは、ビチオフェン基を有する請求項1〜6のいずれかに記載された色素増感型太陽電池。
【請求項8】
A及び/又はBは、炭素数1以上12以下の飽和炭化水素基、又は、炭素数1以上9以下の飽和炭化水素基を有するチオエーテル基を側鎖とするビチオフェン基である請求項1〜7のいずれかに記載された色素増感型太陽電池。
【請求項9】
Xは、水素イオン、アルカリ金属イオン、又はアルキルアンモニウムイオン((C2n−1、nは1以上6以下)である請求項1〜8のいずれかに記載された色素増感型太陽電池。
【請求項10】
光増感色素と共吸着剤とのモル比(光増感色素/共吸着剤)が0.1以上5以下である請求項1〜9のいずれかに記載された色素増感型太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池に関し、屋内の低照度環境での利用にも好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池(Dye Sensitized Solar Cell:以下、DSCと称する。)は、有機系材料からなる太陽電池であり、有機系の色素による光吸収を利用して発電するものである。このDSCは、既に広く実用化されているシリコン太陽電池(単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池等)と比較して、シースルー化が可能で、カラフルな色彩を持たせられ、用途に沿ったデザインを実現可能な点で優れている。また、製造が容易で、安価に量産可能といった利点も有している。
【0003】
DSCの一般的な構成としては、色素材料が担持された酸化物層(一般的には酸化チタン等が用いられる)を基板上に備えてなる透明電極等の電極を中心として、電極に対向する対極と、電極と対極との間に配される電解質(一般的にはヨウ化物溶液が用いられる)とからなる。酸化物に担持された色素は、光を吸収して発生した電子を酸化物へと供与して、光エネルギーを電気エネルギーに変換する。また、電解質は、電子供与により酸化状態となった色素に電子を渡す還元剤として機能する。
【0004】
このようなDSCの基本的な発電原理について、図1を用いつつ説明する。図1は、DSCによる発電原理を概略説明するものである。図1のように、電極において、色素による光の吸収で発生した電子は、酸化物に注入された後、基板及び外部回路を通じて対極へと流れる。対極の表面では、電子が電解質のヨウ素分子等に渡されて陰イオンとなり、ヨウ素イオンが光吸収で酸化された色素に電子を渡すことで、色素が再生するとともにヨウ素イオンも元の分子状態へと戻る。上記サイクルを繰り返すことで、酸化による色素の分解を抑制しつつ色素を再生し、繰り返し光吸収の可能な状態としている。
【0005】
DSCの性能(発電効率)は、担持された色素の特性に左右されるため、この色素として様々な化合物が開発されている。DSC開発時に使用された先駆的な色素材料としては、例えば、下記のルテニウム錯体(N3色素)が見出されている(特許文献1)。そして、N3色素の特性改善のために開発された、その類似化合物であるZ907色素も従来から知られている。更に、最近ではこれらの色素に対して、吸光係数(モル吸光係数ε)が高く、従来品より発電性能の高い色素材料としてCYC系のルテニウム錯体等が報告されている。CYC系のルテニウム錯体としては、下記のような、CYC−B11、CYC−B1等が挙げられる。
【化1】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/118044号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、DSCの用途としては、屋外のみならず、屋内での利用も期待されている。DSCは、主に太陽光を光源とする従来のシリコン太陽電池と比較して、室内の蛍光灯やLEDを光源とした場合にも、比較的高い変換効率を有するためである。室内環境では、太陽光のように強力な光エネルギーと比較して、照射強度が弱く、光源となる波長も可視光領域に限られるため、DSCの性能(発電効率)向上が非常に重要となる。また、上記したDSCのデザイン性に優れた利点を生かすためにも、パチンコ店やコンビニ店等といった高照度条件のみならず、一般的な居室のような低照度条件でも発電効率の高いことが望まれ、すなわち、10〜2500ルクスといった広い照度範囲において発電効率の高さを維持できることが好ましい。
【0008】
このような要請のもと、発電効率の向上を図る方策としては、特許文献1のように、色素分子の会合を抑制する有機化合物(共吸着剤)を、色素と共に酸化物層に担持したDSCが知られている。これは、本来目的とする、色素の光吸収で発生した電子が対極へと流れる電子の流れとは逆に、酸化物層から電解質へと電子が漏れる現象(逆電子移動反応)を、発電効率低下の要因と考えたことによる。ここで、逆電子移動反応について、図2を用いて説明する。図2は、酸化物上における、色素及び共吸着剤の担持状況と、電解質に対する電子の流れを模式的に示したものである。図2中、(a)は共吸着剤を用いない場合、(b)は共吸着剤を用いた場合に関する。(a)のように、共吸着剤を用いない場合、色素が担持されず表面が露出している酸化物表面では、電解質への電子供与が生じやすい。他方、吸着剤を用いた場合、(b)のように、共吸着剤が酸化物に担持されることで、表面の露出した酸化物が低減され、電解質への電子供与が少なくなると考えられる。
【0009】
以上の通り、色素の配列に偏りがあり、色素の担持されていない酸化物表面が増えると電解質への逆電子移動反応が生じやすいことから、DSCに共吸着剤が用いられている。特に、色素として非対称で嵩高い色素を利用する場合には、色素同士の会合・偏析を生じやすいため、共吸着剤添加の必要性が高いと考えられる。しかしながら、非対称で嵩高い色素を用いたDSCについて、本発明者等が、共吸着剤の添加による逆電子移動反応の抑制効果を確認したところによると、約1000ルクス以上の比較的高照度の環境下では、上記仮説の通り、発電効率の低下を抑制しやすいものの、約200〜500ルクス程度の比較的低照度の環境下では、共吸着剤を添加しても、発電効率の低下を抑制できない場合があった。
【0010】
そこで、本発明は、非対称かつ嵩高い色素を適用したDSCについて、室内の一般的な居室のような低照度環境下であっても、高い発電効率を維持しやすいDSCの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題解決のため、共吸着剤を用いたDSCとしつつ、非対称で嵩高い色素を適用した場合にも好適となる共吸着剤について検討を行った。まず、共吸着剤の大きさとして、従来は、色素と同等程度のサイズの比較的大きい共吸着剤が一般的に利用されている。例えば、公知の共吸着剤として、下記式に示すようなDINHOP(ビス−(3,3−ジメチル−ブチル)−ホスフィン酸)、DPA(デシルホスホン酸)等が挙げられるが、これらの共吸着剤は、分子サイズ、分子量、又は炭素数等が比較的大きいものである。これに対し、本発明者等の検討したところ、非対称で嵩高い色素にあっては、逆に分子サイズ等の小さい共吸着剤の方が、好適な傾向となることを見出した。これは、嵩高い色素では、配列状態が特に不規則になりやすく、色素の担持されていない酸化物表面として、極端に狭い空隙や、幅広い空間が生じ得るためと考えられる。比較的分子サイズ等の小さい共吸着剤であると、酸化物上のかかる不規則な空間に対しても、緻密に配置しやすいものと考えられる。
【化3】
【0012】
以上の検討から、非対称で嵩高い色素を適用するDSCでは、共吸着剤として一定の分子サイズ、分子量、又は炭素数以下のものを適用した検討を行ったが、分子サイズ等が小さいということのみでは、発電効率の低下を抑制できない場合があった。このため共吸着剤について、大きさに基づく条件以外の面も考慮が必要と考えた。その結果、酸化物に対する共吸着剤の結合度合いに着目し、共吸着剤の置換基(特に末端基)についても検討を行った。以上より、本発明者等は、非対称で嵩高い色素を利用するDSCにおいて、共吸着剤として、分子の大きさ等と置換基を、共に最適化した有機化合物を適用することで、低照度環境においても発電効率の高いものを得られるとして、本発明に想到した。
【0013】
すなわち本発明は、光増感色素及び共吸着剤が担持された酸化物層を基板上に備えてなる電極、電極に対向する対極、及び、電極と対極との間に配された電解質を有する色素増感型太陽電池において、光増感色素は、下記一般式(1)で示される、Ru金属に、2つのチオシアネート基と、相互に異なる2つのビピリジン配位子が配位してなる非対称のルテニウム錯体であり、共吸着剤は、下記一般式(2)で示される、炭素数1以上3以下の直鎖状飽和炭化水素を主鎖とする炭化水素基(Y)に、2つのカルボキシル基が配位してなる有機化合物であることを特徴とする色素増感型太陽電池(DSC)に関する。
【0014】
一般式(1)のルテニウム錯体
【化4】
【0015】
一般式(2)の有機化合物
【化5】
【0016】
以下、本発明に係るDSCの各構成について、詳細に説明する。
【0017】
本発明のDSCが有する、電極、対極、及び電解質のうち、まず、電極について説明する。電極は、基板上に酸化物層を備えてなり、当該酸化物は、光増感色素及び共吸着剤が担持されたものである。本発明は、この共吸着剤として、置換基(末端基)として2つのカルボキシル基を有するとともに、これらカルボキシル基に挟持される炭化水素基が、炭素数1以上3以下の直鎖状飽和炭化水素を主鎖とする有機化合物を適用するものである。
【0018】
炭化水素基(Y)の主鎖の炭素数は1以上3以下であると、発電効率の高いDSCとなりやすい。これは、光増感色素の担持状態に偏りが生じた場合にも、共吸着剤のサイズが適度に小さいことで、酸化物の表面の微小領域等に規則的に配置されることによると考えられる。主鎖の炭素数は1以上2以下が好ましい。炭素数4以上では、逆電子移動反応の抑制効果が得られにくく、高い発電効率を維持しにくい。
【0019】
前述のとおり、共吸着剤の構成は、一般式(2)のように、炭化水素基(Y)の両端にカルボキシル基(−COOH)が配位してなる。このように、2つのカルボキシル基を有する共吸着剤を適用した場合、発電効率の高いDSCとなりやすい。これは、酸化物と結合するカルボキシル基を複数有することにより、共吸着剤による酸化物表面の被覆が、より確実に実行されるためと考えられる。
【0020】
本発明の共吸着剤は、上記のとおり、2つのカルボキシル基に、一定長の炭素数である直鎖状の主鎖の炭化水素が挟持された構成であることを前提とする限りにおいて、側鎖として、以下に示す置換基をとりうる。すなわち、炭化水素基(Y)の側鎖としては、水素原子、鎖状又は環状の炭化水素基、又はヒドロキシル基(−OH)より選ばれた置換基を有することが好ましく、水素原子、メチル基、ベンジル基、ヒドロキシル基より選ばれた置換基を有することが特に好ましい。
【0021】
共吸着剤の好適例としては、リンゴ酸、2−メチルマロン酸、ベンジルマロン酸、コハク酸、2−メチルコハク酸、グルタル酸、酒石酸(L体、D体、又はメソ体)等が挙げられる。以下、好適例の共吸着剤について、その構造式を例示する。
【化6】
【0022】
上記共吸着剤と共に酸化物に担持する光増感色素としては、一般式(1)で示したルテニウム錯体を適用する。上述の通り、本発明は、光増感色素と共吸着剤との組み合わせを特定することで、非対称かつ嵩高い光増感色素を用いる場合にも、発電効率の高いDSCを提供するものである。本発明に適用する光増感色素の構成は、中心となるRu金属に、2つのチオシアネート基(−NCS)と、2つのビピリジン配位子が配位してなる。2つのビピリジン配位子は、相互に異なり、2つのカルボン酸基を有するビピリジン配位子と、直鎖の炭化水素基、又は、硫黄若しくは酸素をヘテロ原子とする複素環を1以上有する置換基を有するビピリジン配位子である。このように本発明の共吸着剤は、2つの異なるビピリジン配位子が配位しており、非対称の構造を有するものである。
【化7】
【0023】
光増感色素のビピリジン基に配位する置換基A及びBは、直鎖の炭化水素基(炭素数1以上12以下)、又は、硫黄若しくは酸素をヘテロ原子とする複素環を1以上有する置換基である。置換基A及びBとして、異なる置換基も取り得るが、同一の置換基であることが好ましい。A及び/又はBの好適例は、五員環又は六員環の複素環を有するものである。具体的には、チオフェン基、フラン基、ビチオフェン基、エチレンジオキシチオフェン基等が挙げられ、特にチオフェン基又はビチオフェン基を有することが好ましい。また、A及び/又はBは、炭素数1以上12以下(好ましくは6以上9以下)の飽和炭化水素基、又は、炭素数1以上9以下(好ましくは6以上8以下)の飽和炭化水素基を有するチオエーテル基を側鎖とするビチオフェン基であることが好ましい。
【0024】
光増感色素中のXは、溶媒中で遊離可能な1価の陽イオンである。Xは、カルボキシルアニオン(−COO)と対となって塩又は酸を形成可能であり、いわゆるカウンターイオンに相当する。Xの例としては、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルキルアンモニウムイオン((C2n−1、nは1以上6以下)等が挙げられる。アルカリ金属イオンの好適例は、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)であり、アルキルアンモニウムイオンの好適例は、テトラ−n−ブチルアンモニウムイオン((CHCHCHCH)である。このうち、特に好ましくは、水素イオン、カリウムイオン、テトラ−n−ブチルアンモニウムイオンである。
【0025】
特に好ましい光増感色素の例としては、CYC−B11及びCYC−B1が挙げられる。以下に、構造式を示す。CYC−B11及びCYC−B1は、共に、置換基A及びBとしてビチオフェン基を有する。CYC−B1は、ビチオフェン基の側鎖として炭素数8の飽和炭化水素基を有し、Xが水素原子であるルテニウム錯体である。また、CYC−B11は、ビチオフェン基の側鎖として、炭素数6の飽和炭化水素を有するチオエーテル基が配位したルテニウム錯体である。CYC−B11中のXは、カリウムイオン又はテトラ−n−ブチルアンモニウムイオンである。下記構造式では、XがカリウムのものをKタイプ、テトラ−n−ブチルアンモニウムのものをUタイプとした。CYC−B11では、Kタイプの色素が特に好適である。本発明者等によれば、Kタイプの色素は、低照度環境下において、特に発電効率が低下する場合が多いところ、本発明における共吸着剤との組み合わせを採用することで、発電効率の低下を抑制しやすい傾向がある。
【化8】
【0026】
以上の通り、本発明は、光増感色素と共吸着剤との組み合わせに特徴を有するものであるが、これら各材料の存在割合についても、所定の範囲内であると、発電効率の高いDSCとなりやすい。このような観点から、酸化物層に担持する光増感色素と共吸着剤とは、モル比(光増感色素/共吸着剤)が0.1以上5以下であることが好ましい。このモル比が0.1未満であると、発電に寄与する色素化合物の吸着を阻害する傾向となり、モル比が5を超えると、逆電子移動を抑制しにくい。
【0027】
尚、酸化物層上には、上記した光増感色素及び共吸着剤の他、DSCの対応波長領域を拡張するためのカクテル色素を有することも許容される。カクテル色素としては、D35色素、D131色素、D149色素、D209色素等の有機物が使用される。
【0028】
上記した光増感色素及び共吸着剤を担持する酸化物層は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化タンタル、酸化タングステン等の酸化物で構成される。特に、好ましいのは酸化チタンである。酸化物層は、単層で構成しても、機能に応じて複数層で形成してもよい。酸化物層を複数層形成する場合の例として、色素材料を担持し光を電子へ変換する透過層を中心的な機能層としつつ、透過層で補足し切れなかった光を乱反射、反射させる散乱層、反射層等を付加的に設定してもよい。多層構造とする場合、材料は共通するものとしつつ、酸化物の粒径、粒度分布を調整して機能を特徴付けできる。
【0029】
上記酸化物層を形成する基板は、ガラスの他、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエチレンサルファイド)、PO(ポリオレフィン)、PI(ポリイミド)等の有機プラスチックを適用することが多い。DSCにおいて、基板は酸化物層の支持体であると共に、受光面として機能することが多いため、光透過性を有するものが好ましいからである。また、有機プラスチックは可撓性を有することから、形状的にフレキシブルなDSCを製造することができる。これらの材料で構成される基板には、表面にITO、FTO等の透明電極膜を形成しても良い。尚、透明導電膜の厚さとしては、0.1〜2.0μmのものを適用することが多い。
【0030】
以上の基板上に酸化物層を備えてなる電極に対し、対向するように配置される対極としては、白金、カーボン、導電性高分子膜等が用いられる。また、電極と対極との間に配される電解質には、ヨウ素、臭素、コバルト錯体、銅錯体等を用いた電解液が用いられ、ヨウ素を用いた電解質が好適である。
【0031】
以上説明した、本発明のDSCの製造方法としては、例えば、基板上に酸化物層を形成した後、酸化物層に色素材料及び共吸着剤を含む溶液を接触させて、酸化物層の空孔に色素及び共吸着剤を担持させる方法等を適用できる。酸化物層の形成方法としては、例えば、酸化物の粉末を適宜の溶媒に分散又は溶解させた処理液を基板に塗布、乾燥、焼成して堆積させる方法が好ましい。尚、酸化物層を複数形成する場合には、処理液の塗布・焼成を複数回行えばよい。
【0032】
色素及び共吸着剤は同じ溶液に添加して、一度に酸化物上に担持しても良く、別々の溶液を作成し、段階的に担持しても良い。また、カクテル色素も、同様の溶液に添加して担持できる。
【0033】
色素溶液の調整には、色素をDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、GBL(γ‐ブチロラクトン)、DMSO(ジメチルホルムアミド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、DEF(N,N−ジエチルホルムアミド)、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジオキサン、THF(テトラヒドロフラン)、ジオキソラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の溶媒に溶解する。
【発明の効果】
【0034】
以上で説明したように、本発明の色素増感型太陽電池(DSC)は、一般的な居室のような低照度環境下でも高い発電効率を有する。特に、非対称で嵩高い光増感色素を適用する場合にも、発電効率の低下を抑制できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】DSCの基本的な発電原理を説明する概略図。
図2】逆電子移動反応の原理を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0037】
基板に酸化物層を形成した後、光増感色素とともに各種共吸着剤を含む色素溶液を吸着担持させてDSCを製造した。詳細な条件は以下の通りである。
・基板
ガラス基板(寸法15×25mm、厚さ1.8mm)
FTO膜(シート抵抗15Ω/□)
・酸化物層(単層)
TiO(粒径15〜30nm):10μm
・色素溶液
色素:CYC−B11 Kタイプ
溶媒:DMAc
共吸着剤:表1の通り
色素濃度:0.30mM%
モル比:(色素/共吸着剤)1/1
温度:25℃
【表1】
【0038】
DSCの製造は、まず、基板に上記TiO粉末を分散させた処理液を塗布し、120℃で乾燥させた後、450℃で焼成して酸化物層を形成した。この基板を、色素溶液に60分浸漬して取り出した後、対極として白金板を貼り合わせ、両電極間にヨウ素を含む電解質を充填してDSCとした。
【0039】
製造したDSCについて、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、形状因子(FF)、出力密度(Pdens)の各特性の評価を行った。これらの測定は、山下電装製ソーラーシュミレータ(YSS−80A)を用いて、疑似太陽光(100mW/cm)又はLED光(1000ルクス、200ルクス)の照射条件で、J−V特性を測定することにより行った。表2に、その結果を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
上記結果より、太陽光や1000ルクスの高照度環境下で、発電効率の高い共吸着剤を用いた場合も、200ルクスの低照度環境下では、必ずしも、高い変換効率等を示すDSCになると限らなかった。特に、200ルクスの低照度環境下では、炭素数1以上3以下の炭化水素基の両端に2つのカルボキシル基を有する、No.1〜6のリンゴ酸、ベンジルマロン酸、コハク酸、2−メチルコハク酸、グルタル酸、酒石酸を共吸着剤として用いた場合、Jsc、Voc、FF、Pdensの各特性が高いものとなった。これに対し、カルボキシル基を1つしか用いないNo.7のレブリン酸や、No.8の4−グアニジノ酪酸を用いた場合、又はNo.9の共吸着剤を用いない場合、200ルクスの低照度環境下では、Jsc、Voc、FF、Pdensの値が全体的に低く、特にPdensは、いずれも10μW/cm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、デザイン性に優れた色素増感型太陽電池(DSC)について、屋内居室等の低照度環境での発電効率を向上するものであり、DSCの用途拡大に寄与する。
【符号の説明】
【0043】
C 色素
A 共吸着剤
Ox 酸化物、酸化物層
L 電解質
電極
Pt 対極
S 基板
R 光線
- 電子
図1
図2