【解決手段】この気密封止用蓋材1は、電子部品20を収納するための電子部品収納部材30を含む電子部品収容パッケージ100に用いられる気密封止用蓋材1であって、4質量%以上のCrを含有するFe合金により形成された基材層11と、基材層11の電子部品収納部材30側の下面11a上に対して、Cuにより形成された中間層12を介して接合された銀ろう層13とを備えるクラッド材10により形成される。
前記基材層は、4質量%以上のCrに加え、36質量%以上48質量%以下のNiをさらに含有するFe合金により形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の気密封止用蓋材。
前記基材層は、4質量%以上のCrおよび36質量%以上48質量%以下のNiに加え、6質量%以上18質量%以下のCoをさらに含有するFe合金により形成されている、請求項4に記載の気密封止用蓋材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された蓋材では、Cuによる中間金属層や銀ろう合金によるろう材層では特に問題になっていないものの、基材層が耐食性の低いコバールにより形成されているとともに、蓋材の側面が外部に露出しているため、たとえば塩水(海水)がかかる場所など過酷な環境下においては、基材層が腐食してしまう場合があるという問題点がある。この場合、ケースと蓋材とが用いられた電子部品収容パッケージの気密封止性が低下する虞がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、シールリングを用いることなく直接的に電子部品収納部材にろう付け接合することが可能な気密封止用蓋材であって、基材層の腐食を抑制することが可能な気密封止用蓋材、および、その気密封止用蓋材を用いた電子部品収容パッケージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の局面による気密封止用蓋材は、電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収容パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、4質量%以上のCrを含有するFe合金により形成された基材層と、基材層の電子部品収納部材側の一方表面上に対して、Cuにより形成された中間層を介して接合されるか、または、直接的に接触した状態で接合された銀ろう層とを備えるクラッド材により形成される。
【0008】
この発明の第1の局面による気密封止用蓋材では、上記のように、基材層を4質量%以上のCrを含有するFe合金により形成することによって、基材層の耐食性を確実に向上させることができるので、過酷な環境下であっても、基材層が腐食するのを抑制することができる。このことは、実験によって確認済みである。これにより、腐食に起因する気密封止用蓋材の劣化を抑制することができるので、気密封止用蓋材が用いられる電子部品収容パッケージの気密封止性が低下するのを抑制することができる。また、基材層の電子部品収納部材側の一方表面上に対して、Cuにより形成された中間層を介して接合されるか、または、直接的に接触した状態で接合された銀ろう層によって、シールリングを用いることなく直接的に気密封止用蓋材を電子部品収納部材にろう付け接合することができる。
【0009】
上記第1の局面による気密封止用蓋材において、好ましくは、基材層は、4質量%以上20質量%以下のCrを含有するFe合金により形成されている。このように構成すれば、Crの含有率が20質量%を超えて大きくなることに起因して基材層の熱膨張係数が大きくなるのを抑制することができる。これにより、たとえばセラミックスなどの低熱膨張材料により形成された電子部品収納部材と、気密封止用蓋材との熱膨張差が大きくなるのを抑制することができる。この結果、気密封止用蓋材と電子部品収納部材との間に発生する熱応力を小さくすることができるので、熱応力に起因して電子部品収容パッケージの気密封止性が低下するのを抑制することができる。
【0010】
この場合、好ましくは、基材層は、6質量%以上10質量%以下のCrを含有するFe合金により形成されている。このように構成すれば、基材層のCrの含有率を6質量%以上にすることにより、基材層の耐食性を確実に向上させることができる。また、基材層のCrの含有率を10質量%以下にすることにより、基材層の熱膨張係数が大きくなるのを効果的に抑制することができる。
【0011】
上記第1の局面による気密封止用蓋材において、好ましくは、基材層は、4質量%以上のCrに加え、36質量%以上48質量%以下のNiをさらに含有するFe合金により形成されている。このように構成すれば、基材層のCrの含有率を4質量%以上にすることにより基材層の十分な耐食性を確保しつつ、基材層のNiの含有率を36質量%以上48質量%以下にすることにより基材層の熱膨張係数が大きくなるのをより抑制することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、基材層は、4質量%以上のCrおよび36質量%以上48質量%以下のNiに加え、6質量%以上18質量%以下のCoをさらに含有するFe合金により形成されている。このように構成すれば、基材層の熱膨張係数が大きくなるのをより効果的に抑制することができる。
【0013】
この発明の第2の局面による電子部品収容パッケージは、電子部品を収納するための電子部品収納部材と、4質量%以上のCrを含有するFe合金により形成された基材層と、基材層の電子部品収納部材側の一方表面上に対して、Cuにより形成された中間層を介して接合されるか、または、直接的に接触した状態で接合された銀ろう層とを備えるクラッド材により形成され、電子部品収納部材に対して銀ろう層を介して接合される、気密封止用蓋材とを備える。
【0014】
この発明の第2の局面による電子部品収容パッケージは、上記第1の局面による基材層が腐食するのが抑制された気密封止用蓋材を用いることによって、腐食に起因する気密封止用蓋材の劣化を抑制することができるので、気密封止用蓋材が用いられる電子部品収容パッケージの気密封止性が低下するのを抑制することができる。また、気密封止用蓋材に基材層の電子部品収納部材側の一方表面上に対して、Cuにより形成された中間層を介して接合されるか、または、直接的に接触した状態で接合された銀ろう層を設けることによって、シールリングを用いることなく直接的に気密封止用蓋材が電子部品収納部材にろう付け接合された電子部品収容パッケージを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記のように、シールリングを用いることなく、直接的に電子部品収納部材にろう付け接合することが可能で、かつ、基材層の腐食を抑制することが可能な気密封止用蓋材、および、その気密封止用蓋材を用いた電子部品収容パッケージを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
[第1実施形態]
(気密封止用蓋材の構造)
まず、
図1および
図2を参照して、本発明の第1実施形態による気密封止用蓋材1の構造を説明する。
【0019】
本発明の第1実施形態による気密封止用蓋材1は、後述する電子部品20を収納するための電子部品収納部材30を含む電子部品収容パッケージ100(
図3参照)に用いられる。
【0020】
気密封止用蓋材1は、
図1および
図2に示すように、平板状のクラッド材10から構成されている。具体的には、気密封止用蓋材1は、基材層11と、基材層11の下面11a(Z2側の面、電子部品収納部材30側の面)に直接的に接触するように接合された中間層12と、中間層12の下面12aに直接的に接触するように接合された銀ろう層13と、基材層11の上面11b(Z1側の面、電子部品収納部材30とは反対側の面)に直接的に接触するように接合された表面層14とから構成された、4層構造のクラッド材により形成されている。ここで、クラッド材10の側面にはNiめっき層などは設けられておらず、その結果、クラッド材10において、基材層11の側面11c、中間層12の側面12b、銀ろう層13および表面層14は外部に露出している。なお、下面11aは、本発明の「表面」の一例である。
【0021】
基材層11は、クラッド材10の機械的強度や熱膨張率などのパラメータを主に決定する層である。
【0022】
ここで、第1実施形態では、基材層11は、耐食性を十分に確保するために4質量%以上のCrを少なくとも含有するFe合金により形成されている。ここで、基材層11が4質量%以上のCrを含有することにより、露出する側面11cに主にCr
2O
3からなる不動態膜が形成されることによって、基材層11の側面11cの耐食性が向上される。なお、基材層11を構成するFe合金のCrの含有率は、耐食性をより向上させるために、4質量%以上約20質量%以下であるのが好ましく、約6質量%以上約10質量%以下であるのがより好ましい。
【0023】
また、基材層11は、4質量%以上のCrに加え、耐食性を向上させ、かつ、熱膨張係数を小さくするために、約36質量%以上約48質量%以下のNiをさらに含有するFe合金により形成されるのが好ましい。さらに、基材層11は、4質量%以上のCrおよび約36質量%以上約48質量%以下のNiに加え、熱膨張係数をより小さくするために、約6質量%以上約18質量%以下のCoをさらに含有するFe合金により形成されるのがより好ましい。なお、基材層11のNiの含有率は、約40質量%以上約48質量%以下であるのが、耐食性をさらに向上させることができるとともに、熱膨張係数を効果的に小さくすることができるのでより好ましい。
【0024】
中間層12は、約99.90%以上のCuから構成されるタフピッチ銅やりん脱酸銅、約99.95%以上のCuから構成される無酸素銅などの純Cuにより形成されている。なお、中間層12は、より高純度の無酸素銅により形成されるのが好ましい。これにより、NiやNi合金から中間層が構成されている場合と比べて、中間層12を十分に柔軟(低耐力)にすることが可能である。また、中間層12が純Cuから構成されていることによって、中間層12の露出する側面12bは、十分な耐食性を有している。なお、中間層12のZ方向の厚みは、後述する熱応力の緩和のため、おおよそ5μm以上50μm以下の厚みであることが好ましく、おおよそ10μm以上30μm以下の厚みであることがより好ましい。また、中間層12の厚みは、クラッド材10のZ方向の厚みの30%程度であるのが好ましい。
【0025】
銀ろう層13は、Ag、不可避不純物および残部CuからなるAg−Cu合金、または、Ag、Sn、不可避不純物および残部CuからなるAg−Sn−Cu合金からなる銀ろう材により形成されている。たとえば、銀ろう材は、約72質量%のAg、不可避不純物および残部Cuからなる72Ag−Cu合金や、約85質量%のAg、不可避不純物および残部Cuからなる85Ag−Cu合金等により形成されている。また、たとえば、銀ろう材は、約67質量%のAg、約4質量%のSn、不可避不純物および残部Cuからなり、加工性が良好な67Ag−4Sn−Cu合金により形成されている。また、銀ろう層13がAg−Cu合金またはAg−Sn−Cu合金から構成されていることによって、露出する銀ろう層13は、十分な耐食性を有している。なお、銀ろう材の融点は、約780℃以下である。ここで、Ag−Sn−Cu合金により形成される銀ろう材の融点は、Ag−Cu合金により形成される銀ろう材の融点よりも低い。
【0026】
表面層14は、純NiまたはNi合金により形成されている。なお、表面層14が純NiまたはNi合金から構成されていることによって、露出する表面層14は、十分な耐食性を有している。この表面層14は、後述するダイレクトシーム溶接時に、気密封止用蓋材1とローラ電極(図示せず)との接触抵抗を小さくすることによって、気密封止用蓋材1とローラ電極との間にスパークなどが発生するのを抑制する機能を有している。
【0027】
この結果、クラッド材10において外部に露出する基材層11の側面11c、中間層12の側面12b、銀ろう層13および表面層14のいずれも十分な耐食性を有していることによって、気密封止用蓋材1の腐食が抑制されている。
【0028】
(電子部品収容パッケージの構造)
次に、
図3を参照して、本発明の第1実施形態による気密封止用蓋材1が用いられる電子部品収容パッケージ100の構造を説明する。
【0029】
第1実施形態による電子部品収容パッケージ100は、気密封止用蓋材1と、水晶振動子やSAWフィルタ(表面弾性波フィルタ)などの電子部品20を収納するための電子部品収納部材30とを備えている。電子部品収容パッケージ100では、気密封止用蓋材1は、気密封止用蓋材1の銀ろう層13が電子部品収納部材30側(下側、Z2側)になるように、電子部品収納部材30上に配置されている。
【0030】
電子部品収納部材30は、セラミックス(Al
2O
3)により形成されている。また、電子部品収納部材30は、上側(Z1側)に開口を有する凹部30aが形成された箱形状を有している。凹部30a内では、電子部品20がバンプ40により固定されている。
【0031】
また、気密封止用蓋材1は、電子部品収納部材30の枠状の上面30b上に配置された状態で、抵抗溶接の一種であるシーム溶接により溶接(ダイレクトシーム溶接)されることにより電子部品収納部材30に対して接合されている。つまり、シーム溶接により、気密封止用蓋材1の銀ろう層13の銀ろう材が溶融されて、電子部品収納部材30の上面30b上に接合されている。なお、気密封止用蓋材1と電子部品収納部材30とは、シールリングを介さずに直接的に接合されている。
【0032】
また、電子部品収納部材30の上面30b上に、気密封止用蓋材1と電子部品収納部材30とのろう付け接合を良好にするために、メタライズ層を形成してもよい。なお、メタライズ層は、電子部品収納部材30の上面30b側からW層、Ni層およびAu層(図示せず)がこの順に積層された構造を有する。
【0033】
なお、気密封止用蓋材1の銀ろう層13が溶融する際の熱が気密封止用蓋材1および電子部品収納部材30に加えられ、気密封止用蓋材1および電子部品収納部材30が共に熱膨張する。この際、気密封止用蓋材1(基材層11)と電子部品収納部材30との熱膨張差に起因する熱応力が発生する。ここで、第1実施形態では、上記のように、十分に柔軟な純Cuからなる中間層12を設けることによって、中間層12が基材層11の変形に追随して容易に塑性変形し、その結果、気密封止用蓋材1に生じる熱応力が緩和される。したがって、上記第1実施形態では、気密封止用蓋材1(基材層11)と電子部品収納部材30との間の熱膨張差が多少存在していたとしても、電子部品収容パッケージ100の気密封止性が低下するのを十分に抑制することが可能である。
【0034】
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0035】
第1実施形態では、上記のように、基材層11を4質量%以上のCrを少なくとも含有するFe合金により形成する。これにより、基材層11の耐食性を確実に向上させることができるので、過酷な環境下であっても、基材層11が腐食するのを抑制することができる。これにより、腐食に起因する気密封止用蓋材1の劣化を抑制することができるので、気密封止用蓋材1が用いられる電子部品収容パッケージ100の気密封止性が低下するのを抑制することができる。また、基材層11の電子部品収納部材30側の下面11a上に対してCuにより形成された中間層12を介して接合される銀ろう層13によって、シールリングを用いることなく直接的に気密封止用蓋材1を電子部品収納部材30にろう付け接合することができる。
【0036】
また、第1実施形態では、基材層11を、4質量%以上約20質量%以下のCrを含有するFe合金により形成すれば、Crの含有率が約20質量%を超えて大きくなることに起因して基材層11の熱膨張係数が大きくなるのを抑制することができる。これにより、セラミックスにより形成された電子部品収納部材30と、気密封止用蓋材1との熱膨張差が大きくなるのを抑制することができる。この結果、気密封止用蓋材1と電子部品収納部材30との間に発生する熱応力を小さくすることができるので、熱応力に起因して電子部品収容パッケージ100の気密封止性が低下するのを抑制することができる。
【0037】
また、第1実施形態では、基材層11を、約6質量%以上約10質量%以下のCrを含有するFe合金により形成すれば、基材層11の耐食性を確実に向上させることができるとともに、基材層11の熱膨張係数が大きくなるのを効果的に抑制することができる。
【0038】
また、第1実施形態では、基材層11を、4質量%以上のCrに加え、約36質量%以上約48質量%以下のNiをさらに含有するFe合金により形成すれば、基材層11のCrの含有率を4質量%以上にすることにより基材層11の十分な耐食性を確保しつつ、基材層11のNiの含有率を約36質量%以上約48質量%以下にすることにより基材層11の熱膨張係数が大きくなるのをより抑制することができる。
【0039】
また、第1実施形態では、基材層11を、4質量%以上のCrおよび約36質量%以上約48質量%以下のNiに加え、約6質量%以上約18質量%以下のCoをさらに含有するFe合金により形成すれば、基材層11の熱膨張係数が大きくなるのをより効果的に抑制することができる。
【0040】
[第1実施形態の変形例]
次に、
図4を参照して、本発明の第1実施形態の変形例による気密封止用蓋材101について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成については、同じ符号を付すとともに、その説明を省略している。
【0041】
この第1実施形態の変形例による気密封止用蓋材101は、4質量%以上のCrを少なくとも含有するFe合金により形成される基材層11と、基材層11の下面11aに直接的に接触するように接合された中間層12と、中間層12の下面12aに直接的に接触するように接合された銀ろう層13とから構成された、3層構造のクラッド材110により形成されている。つまり、上記第1実施形態の気密封止用蓋材1とは異なり、第1実施形態の変形例による気密封止用蓋材101には、表面層が形成されていない。
【0042】
なお、銀ろう層13を構成する銀ろう材の融点は約780℃以下であり、その結果、銀ろう層13を溶融させるのに、たとえば約1000℃以上のような過度の高温は必要ない。このため、シーム溶接時にローラ電極に流す電流値が比較的小さくても銀ろう層13を溶融させることができる。つまり、NiまたはNi合金により形成された表面層を介さずに気密封止用蓋材101の基材層11とローラ電極(図示せず)とを直接的に接触させたとしても、気密封止用蓋材101を流れる電流値を小さくすることによって、接触抵抗が大きいことに起因するスパークを発生しにくくすることが可能である。ここで、銀ろう材として、融点がより低いAg−Sn−Cu合金を用いることによって、スパークの発生をさらに抑制することが可能である。
【0043】
なお、クラッド材110において外部に露出する基材層11の側面11c、中間層12の側面12bおよび銀ろう層13のいずれも十分な耐食性を有していることによって、気密封止用蓋材101の腐食が抑制されている。
【0044】
また、上記第1実施形態の変形例の気密封止用蓋材101のその他の構成および気密封止用蓋材101を用いた電子部品収容パッケージの構造は、上記第1実施形態と略同様である。
【0045】
第1実施形態の変形例では、以下のような効果を得ることができる。
【0046】
第1実施形態の変形例では、上記のように、基材層11を4質量%以上のCrを少なくとも含有するFe合金により形成することによって、上記第1実施形態と同様に、基材層11が腐食するのを抑制することができる。
【0047】
また、第1実施形態の変形例では、気密封止用蓋材101に表面層を形成しないことによって、クラッド材110の構成を簡素化することができるとともに、表面層を設けない分、クラッド材110作成のためのコストを削減することができる。なお、第1実施形態の変形例の効果は、上記第1実施形態と略同様である。
【0048】
[第2実施形態]
次に、
図5を参照して、本発明の第2実施形態による気密封止用蓋材201について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成については、同じ符号を付すとともに、その説明を省略している。
【0049】
この第2実施形態による気密封止用蓋材201は、4質量%以上のCrを少なくとも含有するFe合金により形成される基材層11と、基材層11の電子部品収納部材30側の下面11aに直接的に接触するように接合された銀ろう層13とから構成された、2層構造のクラッド材210により形成されている。つまり、上記第1実施形態の気密封止用蓋材1とは異なり、第2実施形態による気密封止用蓋材201には、中間層および表面層が形成されていない。ここで、第2実施形態の気密封止用蓋材201では、熱応力を緩和するための中間層が設けられていないので、気密封止用蓋材201(基材層11)と電子部品収納部材(
図3参照)との間の熱膨張差が小さくなるように、熱膨張係数の小さな基材層11を用いるのが好ましい。
【0050】
なお、クラッド材210において外部に露出する基材層11の側面11cおよび銀ろう層13のいずれも十分な耐食性を有していることによって、気密封止用蓋材201の腐食が抑制されている。
【0051】
なお、上記第2実施形態の気密封止用蓋材201のその他の構成および気密封止用蓋材201を用いた電子部品収容パッケージの構造は、上記第1実施形態と略同様である。
【0052】
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0053】
第2実施形態では、上記のように、基材層11を4質量%以上のCrを少なくとも含有するFe合金により形成することによって、上記第1実施形態と同様に、基材層11が腐食するのを抑制することができる。また、基材層11の電子部品収納部材側の下面11a上に対して直接的に接合される銀ろう層13によって、シールリングを介さずとも直接的に、気密封止用蓋材201を電子部品収納部材にろう付け接合することができる。
【0054】
また、第2実施形態では、気密封止用蓋材201に中間層および表面層を形成しないことによって、さらにクラッド材210の構成を簡素化することができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と略同様である。
【0055】
[実施例]
次に、
図2および
図4〜
図7を参照して、上記実施形態の効果を確認するために行った気密封止用蓋材に用いる基材層の検討について説明する。
【0056】
(実施例および比較例の組成)
ここで、気密封止用蓋材1(101、201)の基材層11(
図2、
図4および
図5参照)を構成する耐食性を有する試験材(金属板)として、6種のNi−Cr−Fe合金と、1種のNi−Co−Cr−Fe合金と、1種のNi−Cr合金とを用いた。
【0057】
ここで、Ni−Cr−Fe合金として、Ni、6質量%のCr、不可避不純物および残部Feを含有するとともに、Niの含有率を異ならせた5種のNi−Cr−Fe合金を用いた。具体的には、36質量%のNiを含有する36Ni−6Cr−Fe合金と、38質量%のNiを含有する38Ni−6Cr−Fe合金と、40質量%のNiを含有する40Ni−6Cr−Fe合金と、42質量%のNiを含有する42Ni−6Cr−Fe合金と、47質量%のNiを含有する47Ni−6Cr−Fe合金とを用いた。また、Ni−Cr−Fe合金として、42質量%のNi、4質量%のCr、不可避不純物および残部Feから構成された42Ni−4Cr−Fe合金をさらに用いた。
【0058】
また、Ni−Co−Cr−Fe合金として、29質量%のNi、17質量%のCo、6質量%のCr、不可避不純物および残部Feから構成された29Ni−17Co−6Cr−Fe合金を用いた。また、Cr−Fe合金として、18質量%のCr、不可避不純物および残部Feから構成された18Cr−Fe合金(いわゆるSUS430)を用いた。
【0059】
一方、比較例の試験材(金属板)として、Crを含有しないNi−Co−Fe合金を用いた。具体的には、29質量%のNi、17質量%のCo、不可避不純物および残部Feから構成された29Ni−17Co−Fe合金(いわゆるコバール)を用いた。
【0060】
(耐食性に基づく基材層の検討)
まず、耐食性試験として、試験材の各々に対して、JIS C60068−2−11に従い、35±2℃の温度、5±1質量%の塩濃度、および、6.5以上7.2以下のpHの条件下で、塩水噴霧試験を48時間以上行った。そして、各々の試験材における腐食の度合いを観察した。ここで、24時間経過後と、48時間経過後とにおいて、耐食性を評価した。また、42Ni−4Cr−Fe合金の試験材については、72時間経過後における耐食性も評価した。また、42Ni−6Cr−Fe合金の試験材については、72時間経過後と、144時間経過後とにおける耐食性も評価した。
【0061】
そして、耐食性の評価として、多くの腐食が確認された試験材には、×印(バツ印)を付した。一方、腐食が若干確認されたものの、実用上問題ない程度である場合には、△印(三角印)を付し、腐食が確認できなかった場合には、○印(丸印)を付した。その結果を参照して、実用上特に適していると評価した基材層の材質には、☆印(星印)、実用上好ましいと評価した基材層の材質には、◎印(二重丸印)、実用上用いることが可能であると評価した基材層の材質には、○印(丸印)、実用上不適であると評価した基材層の材質には、×印(バツ印)をそれぞれ付した。
【0062】
塩水噴霧試験の結果としては、
図6に示すように、Niの含有の有無にかかわらず、4質量%以上のCrを含有するFe合金のいずれにおいても、24時間経過後において腐食はほとんど確認されなかった。一方、Crを含有しない比較例のFe合金(29Ni−17Co−Fe合金)では、24時間経過後において多くの腐食が確認された。このことから、4質量%以上のCrを含有するFe合金は、十分な耐食性を有することが確認できた。この結果、4質量%以上のCrを含有するFe合金から構成された基材層と、十分な耐食性を有する中間層、表面層および銀ろう層とを用いてクラッド材を作製することによって、クラッド材により形成される気密封止用蓋材の腐食を抑制することが可能であることが確認できた。
【0063】
また、36Ni−6Cr−Fe合金および38Ni−6Cr−Fe合金では、48時間経過後において若干の腐食が確認された。これにより、基材層を構成するFe合金のFeとNiとの含有率のうち、Niの含有率を増加させることによって、より確実にFe合金の腐食を抑制することが可能であり、耐食性が向上することが判明した。
【0064】
また、42Ni−4Cr−Fe合金では、72時間経過後において若干の腐食が確認された。一方、42Ni−6Cr−Fe合金では、144時間経過後であっても腐食はほとんど観察されなかった。これにより、基材層を構成するFe合金のCrの含有量を6質量%以上にすることによって、さらに確実に腐食を抑制することが可能であり、耐食性が向上することが判明した。
【0065】
したがって、耐食性の観点から、Crの含有量が6質量%以上で、さらに、Niの含有量が40質量%以上であるFe合金が、基材層を構成するFe合金として、特に適していると考えられる。なお、40Ni−6Cr−Fe合金および47Ni−6Cr−Fe合金に関しては48時間以上の塩水噴霧試験を行っていないものの、48時間を超える長期間、腐食を十分に抑制することが可能な耐食性を有しているものと考えられる。
【0066】
また、Niを含有しない18Cr−Fe合金では、48時間経過後であっても腐食はほとんど観察されなかった。これにより、Niを含有しないCr−Fe合金を基材層として用いた場合であっても、基材層を構成するFe合金のCrの含有量を大きくすることにすることによって、より確実に腐食を抑制することが可能であり、耐食性が向上することが判明した。なお、約16質量%以上約20質量%以下のCrと微量のCuやNbなどとを含有するCr−Fe合金(SUS430J1L)においても、18Cr−Fe合金(SUS430)と同様の耐食性の結果が得られると考えられる。
【0067】
(熱膨張性に基づく基材層の検討)
次に、上記した試験材の平均熱膨張係数に基づいて、本発明の基材層に適した金属について検討した。なお、ろう付け接合対象(
図3の電子部品収納部材30)を構成するアルミナ(Al
2O
3)の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するFe合金が、基材層としてより適していると考えられる。
【0068】
具体的には、各々の試験材に対して、30℃〜300℃の温度範囲における平均熱膨張係数と、30℃〜400℃の温度範囲における平均熱膨張係数と、30℃〜500℃の温度範囲における平均熱膨張係数とを求めた。なお、参考例のアルミナに関しては、30℃〜400℃の温度範囲における平均熱膨張係数のみを求めた。
【0069】
図7に示す表から、30℃〜300℃、30℃〜400℃、および、30℃〜500℃のいずれの温度範囲においても、Crを4%質量以上含有するFe合金では、熱膨張係数が14×10
−6/K以下になり、十分に熱膨張係数を小さくすることができることが確認できた。
【0070】
また、Coを含有するNi−Co−Cr−Fe合金(29Ni−17Co−6Cr−Fe合金)の熱膨張係数は、Crを含まない29Ni−17Co−Fe合金の熱膨張係数よりも大きいものの、全ての温度範囲において熱膨張係数が8.5×10
−6/K以下になり、Ni−Cr−Fe合金やCr−Fe合金の熱膨張係数よりも小さくなることが判明した。また、Ni−Co−Cr−Fe合金が、最もアルミナの熱膨張係数に近い熱膨張係数になった。このことから、Ni−Co−Cr−Fe合金は、熱膨張性の観点から気密封止用蓋材の基材層を構成する低熱膨張金属として最も好ましいことが判明した。このようなNi−Co−Cr−Fe合金は、熱応力を緩和するための中間層が設けられていない上記第2実施形態のクラッド材210における基材層11に特に適していると考えられる。
【0071】
また、Ni−Cr−Fe合金においては、30℃〜500℃の温度範囲において熱膨張係数が比較的大きくなったものの、30℃〜300℃の温度範囲において熱膨張係数が11×10
−6/K以下に小さくなった。この結果、約300℃以下の低温環境下に主に配置される気密封止用蓋材の基材層としてはNi−Cr−Fe合金も好ましいことが判明した。なお、Ni−Cr−Fe合金のうち、Niの含有率が40質量%以上47質量%以下の場合には、全ての温度範囲においてより熱膨張係数を小さくすることができるため、より好ましく、Niの含有率が42質量%近傍の場合には、全ての温度範囲において熱膨張係数をさらに小さくすることができ、さらに好ましいことが判明した。また、Ni−Cr−Fe合金のうち、Crの含有率が6質量%よりも小さい場合には、より熱膨張係数を小さくすることができるため、より好ましいことが判明した。
【0072】
また、Cr−Fe合金(18Cr−Fe合金)では、全ての温度領域において熱膨張係数がある程度大きくなったものの、温度変化による熱膨張係数の変動は小さかった。特に、30℃〜500℃の温度範囲においては、熱膨張係数が11.3×10
−6/Kになり、(36〜40、47)Ni−6Cr−Fe合金の熱膨張係数よりも小さくなった。このことから、特に約400℃以上の高温環境下に配置される気密封止用蓋材の基材層としてはCr−Fe合金も好ましいことが判明した。なお、SUS430J1Lの熱膨張係数は18Cr−Fe合金(SUS430)と同様であるため、SUS430J1Lも、特に約400℃以上の高温環境下に配置される気密封止用蓋材の基材層として好ましいと考えられる。
【0073】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0074】
たとえば、上記第1実施形態、第1実施形態の変形例および第2実施形態では、気密封止用蓋材1、101および201を、それぞれ、4層構造のクラッド材10、3層構造のクラッド材110および2層構造のクラッド材210により形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、中間層を2層以上設けることなどにより、気密封止用蓋材を、5層構造以上のクラッド材により形成してもよい。
【0075】
また、上記第1実施形態では、抵抗溶接の一種であるシーム溶接により、気密封止用蓋材1と電子部品収納部材30とを接合する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、抵抗溶接の一種である抵抗スポット溶接により、気密封止用蓋材と電子部品収納部材とを接合してもよい。また、抵抗溶接以外の接合方法を用いて、気密封止用蓋材と電子部品収納部材とを接合してもよい。たとえば、電子ビームを用いた電子ビーム溶接によって、気密封止用蓋材と電子部品収納部材とを接合してもよい。