【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
以下の実施例及び比較例において、金属触媒粒子における第1の金属層の厚み(d
1)、中心金属酸化物粒子の粒径(d
2)、及び第2の金属層の厚み(d
3)の測定と、X線回折による中心金属酸化物粒子の最大となる回折線の積分強度[MO]と第2の金属層の(111)面の回折線の積分強度[M]との[MO]/[M]比については、以下の方法で求めた。
【0046】
(1) 金属触媒粒子における第1の金属層の厚み(d
1)
金属触媒粒子における第1の金属層の厚み(d
1)については、透過型電子顕微鏡(FEI社製Tecnai)を使用し、観察されたSTEM像を用いて算出した。
すなわち、第3の工程で得られた金属触媒粒子のコロイド溶液1mLをスポイトで測り採り、10mLのエタノールで希釈し、超音波で1分間分散させて銅メッシュグリッド上に滴下した。これを1晩真空乾燥させた後、サンプルホルダーにセットし、加速電圧200kVで大きさ20nm×20nmの任意の視野を測定し、第2の金属層とは異なるコントラストが得られる最外層部分を第1の金属層として測定した。大きさ20nm×20nmの視野から10点の異なるコントラストを測定し、更に別の大きさ20nm×20nmの任意の視野について同様の測定を繰り返して合計5回の測定を実施し、これら5回の測定で得られた合計50個(10点×5回)の測定点の輝点の平均値を求め、この平均値を第1の金属層の厚み(d
1)とした。
【0047】
(2) 金属触媒粒子における中心金属酸化物粒子の粒径(d
2)
金属触媒粒子における中心金属酸化物粒子の粒径(d
2)については、透過型電子顕微鏡(FEI社製Tecnai)を使用し、観察されたTEM像(明視野像)を用いて算出した。
すなわち、金属触媒粒子調製時の第1の工程で得られた中心金属酸化物粒子のコロイド溶液の1mLをスポイトで測り採り、10mLのエタノールで希釈し、超音波で1分間分散させて銅メッシュグリッドに滴下した。これを1晩真空乾燥させた後、サンプルホルダーにセットし、加速電圧200kVで大きさ20nm×20nmの任意の視野を測定した。中心金属酸化物粒子は、数nmの黒点として観察され、大きさ20nm×20nmの視野から10個の黒点を測定し、更に別の大きさ20nm×20nmの任意の視野について同様の測定を繰り返して合計10回の測定を実施し、これら10回の測定で得られた測定点の合計粒子数である100個(10回の測定×各回の測定点の数10個)の直径の平均値を求め、この平均値を中心金属酸化物粒子の粒径(d
2)とした。
【0048】
(3) 金属触媒粒子における第2の金属層の厚さ(d
3)
金属触媒粒子における第2の金属層の厚さ(d
3)については、透過型電子顕微鏡(FEI社製Tecnai)を使用し、観察されたSTEM像を用いて算出した。
すなわち、金属触媒粒子調製時の第2の工程で得られた触媒粒子中間体のコロイド溶液の1mLをスポイトで測り採り、10mLのエタノールで希釈し、超音波で1分間分散させて銅メッシュグリッド上に滴下した。これを1晩真空乾燥させた後、サンプルホルダーにセットし、加速電圧200kVで大きさ20nm×20nmの任意の視野を測定し、STEM像の明暗のコントラストから、中心金属酸化物粒子の表面を被覆する薄いコントラストの間隔を測定した。大きさ20nm×20nmの視野から10点の間隔を測定し、更に別の大きさ20nm×20nmの任意の視野について同様の測定を繰り返して合計5回の測定を実施し、これら5回の測定で得られた合計50個(10点×5回)の測定点の間隔の平均値を求め、この平均値を第2の金属被覆層の厚さ(d
3)とした。
【0049】
なお、金属触媒粒子の第2の金属の厚さ(d
3)については、以下の方法で求めてもよい。
すなわち、金属触媒粒子を炭素担体に担持させて得られた触媒1mgを1cm×2cm程度のプラスチック製の容器に測り採り、ここにエポキシ樹脂を流し込んで1晩硬化させて硬化物を調製する。次いでこの硬化物について、ミクロトームを使用し、ダイヤモンドカッターで厚さ20〜60nmの範囲内で所定の厚さにスライスし、切り出された測定試料を銅メッシュグリッド上に担持させ、上記と同様に、透過型電子顕微鏡(FEI社製Tecnai)により観察されるSTEM像を用いて算出してもよい。
【0050】
(4) X線回折による中心金属酸化物粒子の最大となる回折線の積分強度[MO]と第2の金属層の(111)面の回折線の積分強度[M]との[MO]/[M]比
X線回折測定装置としてSmartLab(リガク社製)を用い、X線源にCuを利用し、管電圧40kV及び管電流30mAの条件で、スキャン速度を10deg./min.として測定した。解析にはPDXLソフトウェアを利用し、その中で算出される回折線の積分強度の比を算出した。例えば、Pdの場合であれば、PdOの34°付近の回折線を[MO]とし、40°付近の回折線を[M]とし、その積分強度比[MO]/[M]を算出した。その一例として、実施例12及び比較例2の金属触媒粒子において得られたX線回折の結果を
図2に示す。
この
図2において、実施例12の金属触媒粒子については、確かにPdOに帰属する34°付近に特徴的な回折線が見られるのに対し、比較例2の金属触媒粒子については確認されない。
【0051】
〔実施例1〜13及び比較例1〜4〕
1.多層構造を有する金属触媒粒子の調製
(1) 中心金属酸化物粒子のコロイド溶液の調製(第1の工程)
0.95mol/Lの金属塩化物(PdCl
2、CuCl
2、NiCl
2、又はIrCl
3)水溶液7.0gを三口フラスコに測り取り、これに蒸留水30gを加えて希釈し、金属塩化物水溶液を調製した。次に、ポリビニルピロリドン(分子量10000)0.0879gを測り取り、蒸留水30gで希釈し、得られたポリビニルピロリドン水溶液を前述の金属塩化物水溶液の入った三口フラスコ中に投入し、混合した。得られた金属塩化物とポリビニルピロリドンの混合水溶液を5分間撹拌し、その後、エチレングリコール140mLを添加した。このようにして得られた混合物を、100mL/min.の酸素ガス(酸化性ガス)フロー下に、160℃及び180分の条件で加熱し反応させ、反応終了後、室温(約30℃)まで放冷して中心金属酸化物粒子のコロイド溶液を得た。
【0052】
(2) 触媒粒子中間体のコロイド溶液の調製(第2の工程)
第1の工程で得られた中心金属酸化物粒子のコロイド溶液を不活性ガス(アルゴンガス)雰囲気下で脱気した後、得られた脱気処理後のコロイド溶液を、このコロイド溶液中に水素1体積%とアルゴン99体積%とを含む混合ガスを1mL/min.フロー下に導入しながら、室温下に600分間保持し、中心金属酸化物粒子の表面を還元し、表面が第2の金属層で被覆された触媒粒子中間体のコロイド溶液を調製した。
【0053】
(3) 金属触媒粒子のコロイド溶液の調製(第3の工程)
第2の工程で調製された触媒粒子中間体のコロイド溶液を撹拌下に10℃に冷却しながら、このコロイド溶液中に、0.05mol/LのH
2PtCl
6水溶液を0.08mL/min.の滴下速度で3時間滴下し、同時に、1.0mol/Lのクエン酸水溶液を0.152mL/min.の滴下速度で3時間滴下し、触媒粒子中間体の表面の第2の金属層の上にPtからなる第1の金属層を形成させ、金属触媒粒子のコロイド溶液を調製した。
【0054】
〔比較例5、6〕
比較例5、6の合成は以下の通りに実施した。
実施例1の場合と同様にして中心金属酸化物粒子(PdO)のコロイド溶液の調製を行い、次いで実施例1の場合と同様にして第2の金属層(Pd)を有する触媒粒子中間体のコロイド溶液を調製し、得られた触媒粒子中間体のコロイド溶液中に、比較例5 の場合には硫酸銅(II)(CuSO
4)水溶液をPdとCuとの原子比率が1:1となるように滴下し、また、比較例6 の場合には硫酸ニッケル(II)(NiSO
4)水溶液をPdとNiとの原子比率が1:1となるように滴下し、第2の金属層としてPdとCu又はPdとNiを有する触媒粒子中間体のコロイド溶液を合成した。
このようにして得られた第2の金属層(Pd/Cu又はPd/Ni)を有する触媒粒子中間体のコロイド溶液を用い、実施例1と同様にして第2の金属層(Pd/Cu又はPd/Ni)の上にPtからなる第1の金属層を形成させ、比較例6及び7の金属触媒粒子のコロイド溶液を調製した。
【0055】
〔比較例7〕
(1) パラジウム担持カーボンの作製
比較例7 において、パラジウム担持カーボンの作製は、特許文献1を参考にして、以下の通りに実施した。
0.95mol/LのPdCl
2水溶液7.0gを三口フラスコに測り取り、これに蒸留水30gを加えて希釈し、金属塩化物水溶液を調製した。次に、ポリビニルピロリドン(分子量10000)0.0879gを測り取り、蒸留水30gで希釈し、得られたポリビニルピロリドン水溶液を前述の金属塩化物水溶液の入った三口フラスコ中に投入し、混合した。得られた金属塩化物とポリビニルピロリドンの混合水溶液を5分間撹拌し、その後、エチレングリコール140mLを添加した。このようにして得られた混合物を、アルゴンガスフロー下に、160℃及び180分の条件で加熱し反応させ、反応終了後、室温(約30℃)まで放冷してPdのコロイド溶液を得た。このPdコロイド溶液に炭素担体として炭素材料(ライオン社製:EC600JD)0.179gを添加し、アルゴンフロー下に90℃で1時間保持し、金属触媒粒子を炭素担体に担持させ、次いで室温まで放冷した後、メンブレンフィルターで吸引濾過し、得られた粉末をエタノール500mL中に再分散させ、1時間撹拌した後に再度メンブレンフィルターで吸引濾過し、パラジウム担持カーボンを得た。
【0056】
(2) 銅単原子層の形成
続いて、銅単原子層の形成は以下の通りに実施した。
上で得られたパラジウム担持カーボンを0.05mol/Lの硫酸(H
2SO
4)水溶液に分散させ、更にこの分散液中に、硫酸銅(II)(CuSO
4)水溶液を、パラジウム担持カーボンのパラジウム粒子が銅(Cu)の単原子層で被覆されるだけの量を滴下した。この際、特許文献1においては、Ti/RuO
2電極を使用していたが、本比較例においては、Cu線を使用し、電極として使用することで、パラジウム担持カーボンと硫酸銅(II)(CuSO
4)水溶液を含む溶液に浸漬させ、パラジウム粒子上にCuを析出させた。
【0057】
(3) 白金 単原子層の形成
更に、白金単原子層の形成は以下の通りに実施した。
K
2PtCl
4を0.05M硫酸に溶かし、白金イオン溶液を調製した。白金イオン溶液は、予めアルゴンガスを30分間以上バブリングさせた。パラジウム担持カーボンと硫酸銅(II)(CuSO
4)水溶液を含む混合溶液を攪拌しながら、調製した白金イオン溶液を徐々に投入した。この操作により、パラジウム粒子表面の銅単原子層を白金単原子層に置換し、白金(Pt)単原子層(シェル)で被覆されたパラジウム粒子(Pd;コア)が炭素担体(C)の表面に担持された比較例7の金属触媒粒子〔白金コアシェル触媒(C/Pd/Pt)〕のコロイド溶液を得た。
なお、パラジウム担持カーボンの作製から白金単原子層の形成までの工程は、上記の反応溶液を窒素でバブリングさせながら行った。
【0058】
2.固体高分子形燃料電池用の触媒の調製
以上のようにして得られた各実施例1〜13及び比較例1〜6の金属触媒粒子のコロイド溶液中に、炭素担体として炭素材料(ライオン社製:EC600JD)0.179gを添加し、アルゴンフロー下に90℃で1時間保持し、金属触媒粒子を炭素担体に担持させ、次いで室温まで放冷した後、メンブレンフィルターで吸引濾過し、得られた粉末をエタノール500mL中に再分散させ、1時間撹拌した後に再度メンブレンフィルターで吸引濾過し、各実施例及び比較例の固体高分子形燃料電池用の触媒を得た。
なお、これら実施例1〜13及び比較例1〜7 においては、触媒中における金属触媒粒子の割合が40質量%となるように、炭素担体に金属触媒粒子を担持させた。
【0059】
更に、上記の実施例2、3 、4、7、8、11、12、13及び比較例1、3、4、5、6 においては、調製された固体高分子形燃料電池用の触媒について、空気雰囲気下に室温付近〜450℃ の熱処理を実施し、中心金属酸化物粒子の最大となる回折線の積分強度[MO]と第2の金属層の(111)面の回折線の積分強度[M]との[MO]/[M]比の調整を行った。
【0060】
3.触媒層、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)の調製
上記各実施例1〜13及び比較例1〜7で調製した固体高分子形燃料電池用の触媒を用い、また、アイオノマー溶液として5質量%-ナフィオン溶液(デュポン製DE521)を用い、アルゴン気流中で触媒の質量に対してナフィオン固形分の質量が1.2倍になるようにアイオノマー溶液を加え、軽く撹拌した後、超音波で触媒を粉砕し、次いで撹拌下に触媒とナフィオンとを合わせた固形分濃度が2質量%となるように酢酸ブチルを添加し、触媒層を調製するための触媒層スラリーを作製した。
【0061】
このようにして調製された触媒層スラリーをスプレー法でテフロン(登録商標)シートの片面に塗布し、80℃のアルゴン気流中10分間、続いて120℃のアルゴン気流中1時間乾燥し、固体高分子形燃料電池用の触媒層シートを得た。なお、それぞれの触媒層シートの調製時にはPtの使用量が0.10mg/cm
2となるようにスプレー等の条件を設定した。なお、このPtの使用量は、スプレー塗布前後のテフロン(登録商標)シートの乾燥質量を測定し、その差から計算して求めた。
【0062】
次に、各実施例及び比較例の触媒を用いて調製した触媒層シートから2.5cm角の大きさの触媒層を2枚づつ切り出し、各触媒層が電解質膜(ナフィオン112)と接触するように2枚の触媒層の間に電解質膜を挟み込み、130℃、90kg/cm
2の条件で10分間ホットプレスを行った。室温まで冷却した後、テフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥がし、アノード及びカソードの触媒層を電解質膜に定着させた。更に、市販のカーボンクロス(ElectroChem社製EC-CC1-060)から2.5cm角の大きさのカーボンクロス2枚を切り出し、電解質膜に定着させたアノード及びカソードの触媒層を挟み込むように配置し、130℃、50kg/cm
2の条件で10分間ホットプレスを行い、MEAを作製した。
【0063】
4.固体高分子形燃料電池用触媒の性能評価
以上のようにして作製した各実施例及び比較例のMEAについて、セルに組み込んで燃料電池測定装置にセットし、次の手順で燃料電池の電池性能を評価した。
カソード側に空気を、また、アノード側に純水素を、1000mA/cm
2の発電に必要なガス量を100%として利用率がそれぞれ40%と70%となるように供給した。ガス圧は0.1MPaとし、また、セル温度は80℃とした。
先ず、供給する空気と純水素を、各々80℃に保温された蒸留水中でバブリングし加湿した。次に、上記条件でセルにガスを供給した後、1000mA/cm
2まで負荷を徐々に増加し、1000mA/cm
2に達した時点で負荷を固定し、60分経過後のセル端子間の電圧を測定し、耐久試験前の燃料電池の電池性能とした。
【0064】
次に、耐久試験として、電圧を0.6Vにして4秒間保持した後に1.0Vにして4秒保持するサイクルを30000回繰り返す耐久試験を実施し、その後、耐久試験前と同様に電池性能を測定した。
固体高分子形燃料電池用の触媒の性能については、耐久試験後のセル電圧で評価した。従って、耐久試験後のセル電圧が高いほど、触媒、すなわち触媒粒子の耐久性が高く、電池性能に優れている。
結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜13の金属触媒粒子を用いて調製された燃料電池はそのいずれも耐久試験後のセル電圧が0.520Vを超えて優れており、特に実施例1〜4の燃料電池は耐久試験後のセル電圧が0.660Vを上回って顕著に優れていた。これに対して、比較例1〜7の金属触媒粒子を用いて調製された燃料電池はいずれも目標の耐久試験後のセル電圧0.520Vに届かなかった。