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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-144150(P2016-144150A)
(43)【公開日】2016年8月8日
(54)【発明の名称】無線通信デバイスおよび通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/59 20060101AFI20160711BHJP
   H04B 5/02 20060101ALI20160711BHJP
【FI】
   H04B1/59
   H04B5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-20584(P2015-20584)
(22)【出願日】2015年2月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩志
(72)【発明者】
【氏名】貴志 俊英
(72)【発明者】
【氏名】菅間 陽二
(72)【発明者】
【氏名】池辺 将之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 一
【テーマコード(参考)】
5K012
【Fターム(参考)】
5K012AB18
5K012AB19
5K012AC09
5K012AC11
5K012BA07
(57)【要約】
【課題】回路の消費電力を低減して通信可能な距離を長くするとともに、チップサイズを小さくしてコストを低減することができる無線通信デバイスを実現する。
【解決手段】無線通信デバイス(ICタグ)に、受信信号を検波して情報信号成分を復元する検波回路(13)と、自己の識別コードを生成もしくは記憶する識別コード生成回路(15)と、計測対象の物理量を検出するための検出素子を有する計測回路(16)と、検波回路が受信信号に含まれる情報信号成分としてのパルスを検出する毎に該検波回路からの信号によって出力状態が切り替わる状態切替回路(18)と、内部の所定のデータを外部へ送信可能な送信回路(20)とを設け、前記状態切替回路の出力状態が切り替わるごとに、識別コードまたは計測回路により取得した計測データを送信回路により順次送信させるように構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号を検波して情報信号成分を復元する検波回路と、
自己の識別コードを記憶もしくは生成する識別コード生成回路と、
計測対象の物理量を検出するための検出素子を有する計測回路と、
前記検波回路が受信信号に含まれる情報信号成分としてのパルスを検出する毎に該検波回路からのパルス検出信号によって出力状態が切り替わる状態切替回路と、
外部へデータを送信可能な送信回路と、を備え、
前記状態切替回路の出力状態が切り替わる毎に、前記識別コードまたは前記計測回路により取得した計測データが前記送信回路によって、所定の順序に従って順番に送信されるように構成されていることを特徴とする無線通信デバイス。
【請求項2】
前記送信回路によるデータの送信動作に供与される所定周波数の発振信号を生成する発振回路を備え、
前記発振回路は、前記検波回路から前記パルス検出信号が入力されることに応じて発振動作を開始するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の無線通信デバイス。
【請求項3】
前記発振回路により生成される発振信号は、前記受信信号の周波数よりも低い周波数の信号であることを特徴とする請求項2に記載の無線通信デバイス。
【請求項4】
少なくとも自己の識別コードをデータとして送信可能な無線通信デバイスと、前記無線通信デバイスから送信されたデータを受信するデータ読取装置との間における通信方法であって、
前記データ読取装置は、所定周波数の基準パルスを含む信号を送信し、前記無線通信デバイスは前記データ読取装置から送信された信号に含まれる基準パルスをトリガ信号として次の基準パルスの検出までの間に送信動作を実行することを特徴とする通信方法。
【請求項5】
前記無線通信デバイスは自己の識別コードと所定のデータを選択的に送信可能であって、
前記データ読取装置は、所定周波数の基準パルスを含む信号を送信し、前記無線通信デバイスは前記データ読取装置から送信された信号に含まれる基準パルスを検出する度に、前記識別コードと前記所定のデータとを、所定の順序に従って順番に送信することを特徴とする請求項4に記載の通信方法。
【請求項6】
前記無線通信デバイスは、計測対象の物理量を検出するための検出素子を有する計測回路を備え、前記所定のデータとして前記計測回路により計測された値を2値データに変換したものを送信することを特徴とする請求項5に記載の通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグのような無線通信デバイスおよびタグリーダとICタグとの間の通信方法に関し、特に被計測対象の環境情報を収集する環境情報収集システムに適したパッシブ型の無線通信デバイスおよびその通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パッシブ型のICタグや非接触型ICカードには、内部に記憶されているIDコード(自己識別情報)等をタグリーダに送信する機能が設けられている。従来、このようなIDコードの送信は、タグリーダからICタグやICカードに送信されたコマンドコードを受信したことをきっかけとして行われる。また、ICタグやICカードは、タグリーダもしくはリーダライタからの無線信号(電波)を受信し検波して基準クロック信号を生成し、該クロック信号に同期してコマンドコードに対応した処理を実行するように構成されていた(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−42214号公報
【特許文献2】特開2007−272805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、従来のICタグやICカードは、受信した信号を検波して基準クロック信号を生成し、該クロック信号に同期してコマンドコードに対応した処理を実行するように構成されていたため、基準パルス(クロック)と受信データ(コマンドコード)とを分離する回路が必要である。そのため、内部回路が複雑となり、半導体集積回路化する場合に半導体チップのサイズが増大するとともに、消費電力が多くなりそれによってICタグとタグリーダの通信距離が短くなるという課題がある。
【0005】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、回路の消費電力を低減して通信可能な距離を長くするとともに、チップサイズを小さくしてコストを低減することができる無線通信デバイスを提供することにある。
本発明の他の目的は、被計測対象の環境情報を収集する環境情報収集システムに適した場合に、効率良く計測データを収集できる無線通信デバイスを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、無線通信デバイスからデータを読み取るタグリーダの負担を軽減することができる通信方法を提供するにある。
本発明の他の目的は、タグリーダからの送信と無線通信デバイスからの送信との干渉を回避して精度の高い通信を行える通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本出願の発明は、
受信信号を検波して情報信号成分を復元する検波回路と、自己の識別コードを記憶もしくは生成する識別コード生成回路と、計測対象の物理量を検出するための検出素子を有する計測回路と、を備えた無線通信デバイスにおいて、
前記検波回路が受信信号に含まれる情報信号成分としてのパルスを検出する毎に該検波回路からのパルス検出信号によって出力状態が切り替わる状態切替回路と、
外部へデータを送信可能な送信回路と、を設け、
前記状態切替回路の出力状態が切り替わる毎に、前記識別コードまたは前記計測回路により取得した計測データが前記送信回路によって、所定の順序に従って順番に送信されるように構成したものである。
【0007】
上記した構成を有する発明によれば、タグリーダから送信されて来る信号から基準クロックとコマンドコードを分離する回路を無線通信デバイス(ICタグ)に設ける必要がなくなるため、チップサイズを低減できる。また、回路規模の縮小に伴い回路の消費電力を低減することができ、それによって通信可能な距離を長くすることができる。
【0008】
また、望ましくは、前記送信回路によるデータの送信動作に供与される所定周波数の発振信号を生成する発振回路を備え、
前記発振回路は、前記検波回路から前記パルス検出信号が入力されることに応じて発振動作を開始するように構成する。
かかる構成によれば、データの送信中のみ発振回路を動作させればよいため、発振回路の消費電力も低減することができ、それによって通信可能な距離をさらに長くすることができる。
【0009】
さらに、望ましくは、前記発振回路により生成される発振信号は、前記受信信号の周波数よりも低い周波数の信号とする。
発振回路における発振周期が搬送波の周期よりも長くなるため、発振回路の消費電力をさらに低減することができ、それによって通信可能な距離をさらに長くすることができる。
【0010】
本出願の他の発明は、少なくとも自己の識別コードをデータとして送信可能な無線通信デバイスと、前記無線通信デバイスから送信されたデータを受信するデータ読取装置との間における通信方法において、
前記データ読取装置は、所定周波数の基準パルスを含む信号を送信し、前記無線通信デバイスは前記データ読取装置から送信された信号に含まれる基準パルスをトリガ信号として次の基準パルスの検出までの間に送信動作を実行するようにしたものである。
【0011】
かかる発明によれば、データ読取装置(タグリーダ)から無線通信デバイス(ICタグ)へ送信する信号(搬送波)には基準パルスのみ含まれていればよく従来のようにコマンドコードを送信する必要がないので、データ読取装置の負担を大幅に軽減することができる。また、無線通信デバイス(ICタグ)にとっては、データ読取装置から送信されて来る信号から基準クロックとコマンドコードを分離する回路が不要となるため、チップサイズを低減できる。
さらに、基準パルスと基準パルスとの間の送信フレーム中に無線通信デバイス(ICタグ)からデータ読取装置へのデータ送信が行なわれるため、データ読取装置からの送信と無線通信デバイスからの送信との干渉を回避して精度の高い通信を行うことができる。
【0012】
また、望ましくは、前記無線通信デバイスは自己の識別コードと所定のデータを選択的に送信可能であって、
前記データ読取装置は、所定周波数の基準パルスを含む信号を送信し、前記無線通信デバイスは前記データ読取装置から送信された信号に含まれる基準パルスを検出する度に、前記識別コードと前記所定のデータとを、所定の順序に従って順番に送信するようにする。
かかる方法によれば、無線通信デバイス(ICタグ)からデータ読取装置(タグリーダ)へ送信したいデータが複数種類ある場合にも、データ読取装置から無線通信デバイスへ送信する信号(搬送波)には基準パルスのみ含ませればよいので、データ読取装置の負担を増加させることがない。
【0013】
さらに、望ましくは、前記無線通信デバイスは、計測対象の物理量を検出するための検出素子を有する計測回路を備え、前記所定のデータとして前記計測回路により計測された値を2値データに変換したものを送信するようにする。
これにより、鉄道路線沿線における電線の温度等の環境情報を効率よく収集できるシステムを構築することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回路の消費電力を低減して通信可能な距離を長くするとともに、チップサイズを小さくしてコストを低減することができる無線通信デバイス(ICタグ)を提供することができる。また、被計測対象の環境情報を収集する環境情報収集システムに適した場合に、効率良く計測データを収集できる無線通信デバイスを提供することができる。
さらに、本発明によれば、無線通信デバイスからデータを読み取るタグリーダの負担を軽減することができるとともに、タグリーダからの送信と無線通信デバイスとからの送信との干渉を回避して精度の高い通信を行えるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るパッシブ型の無線通信デバイス(ICタグ)の一実施形態の機能ブロック図である。
図2】実施形態のICタグにおける発振回路の具体例を示す回路構成図である。
図3】本実施形態のICタグと該ICタグからデータを読み取るタグリーダとの間で通信を行う際のタグリーダとICタグの動作を時系列的に示すフローチャートである。
図4】実施形態のICタグとタグリーダとの間の送受信波形およびタイミングを示すタイムチャートである。
図5】ICタグを鉄道路線の環境情報補収集システムに適用した場合の構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る無線通信デバイスの実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る無線通信デバイスをパッシブ型のICタグに適用した場合の一実施形態を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態のパッシブ型のICタグ10は、アンテナ(コイル)11から受信した電波(交流波形)を整流して直流に変換する整流回路や整流回路により変換された電圧(直流電圧)に基づいてタグチップ内部の回路の電源電圧を生成するシャントレギュレータなどからなる内部電源回路12と、振幅変調されている受信信号を検波して情報信号成分を復元する受信回路としての検波回路13を備える。
【0017】
また、本実施形態のICタグ10は、タグリーダから送信される搬送波よりも周波数の低い発振信号もしくはクロック信号を生成する発振回路14と、ID情報(自己識別コード)を記憶もしくは生成するID生成回路15と、サーミスタ等のセンサ(検出素子)を備え温度等の環境情報としての物理量を計測する計測回路16と、該計測手回路16により計測された値を2値データに変換するAD変換回路17を備える。ID生成回路15は、識別コードを記憶する場合にはメモリ(マスクROM等)を使用し、識別コードを生成する場合には例えば入力が固定されたデコーダで構成することができる。この場合、発振回路14で生成されたクロック信号φcを、ID生成回路15に供給して、メモリから識別コードを読み出したりデコーダを動作させる信号として利用することができる。
【0018】
さらに、本実施形態のICタグ10は、上記ID生成回路15により生成された識別コードを送信するモードと計測データを送信するモードとを切り替えるモード切替回路18と、該モード切替回路18が切り替えたモードに応じて識別コードまたは計測データのいずれを出力するか選択する出力選択回路(データセレクタ)19と、該出力選択回路19により選択されたデータと発振回路14からの発振信号もしくはクロック信号φcとに基づいて送信信号を生成しアンテナ11を介して外部へ送信する送信回路20を備える。従って、本実施形態のICタグ10では、識別コードも送信データである。
【0019】
上記発振回路14は、CR発振回路でもよいし、図2(A)に示すように、発振動作を許容したり停止したりするためのNANDゲートG1をループに含むリングオシレータ14aと、検波回路13から供給されるパルスPが入力される度に出力状態(論理「0」と論理「1」)が反転するトグル型フリップフロップ(T−FF)もしくはラッチ回路のような状態保持回路14cとを備え、該状態保持回路14cの出力に応じてNANDゲートG1の出力が切り替わる回路が考えられる。この実施形態では、パルスPが状態保持回路14cに入力されると出力が交互にローレベルとハイレベルに変化して、ハイレベルの時にリングオシレータ14aが発振動作するように構成されている。
あるいは、上記発振回路14は、図2(B)に示すように、発振動作を許容したり停止したりするためのNANDゲートG1をループに含むリングオシレータ14aにより構成し、パルスPに応じてNANDゲートG1の出力が切り替わる回路と構成しても良い。この回路では、パルスPが入力される瞬間にのみリングオシレータ14aが停止・リセットされ、パルスPが入力されない状態では発振動作することとなる。
【0020】
AD変換回路17は、特開2012−64035号公報に記載されているような、計測値をパルス幅で表したパルス信号に変換するもので構成することができる。
モード切替回路18は、検波回路13から供給されるパルスPが入力される度に出力状態(論理「0」と論理「1」)が反転するトグル型フリップフロップ(T−FF)によって構成することができる。モード切替回路18が「識別コードの送信モード」を設定している場合、発振回路14により生成されたクロック信号φcは、ID生成回路15により識別コードを生成もしくは読み出すための信号として利用することができる。
【0021】
送信回路20としては、例えば選択された送信データによりアンテナの反射係数(インピーダンス)を変化させることでタグリーダからの搬送波の特性に変化を与えてタグリーダがデータを判別できるようにする負荷変調方式の送信回路を使用することができる。
負荷変調方式の送信回路は、従来の非接触ICカードでも使用されている回路技術(例えば特開2009−302615号公報等)によって実現することができるので、詳細な説明は割愛するが、例えばアンテナに接続された可変インピーダンス回路と、送信したいデータ(計測データまたは識別コード)と発振回路14からのクロックとの論理積をとって可変インピーダンス回路を制御する信号を生成するANDゲートなどにより構成することができる。AD変換回路17が、計測回路16からの計測値をパルス幅で表したパルス信号に変換するものである場合、クロックを一方の入力とする上記ANDゲートによってパルス列に変換され、ANDゲートの出力信号が変調動作信号とされる。
【0022】
次に、本実施形態のパッシブ型のICタグ10と該ICタグ10からデータを読み取るタグリーダとの間の通信方法(通信プロトコル)について、図3および図4を用いて説明する。図3はタグリーダとICタグ10の動作を時系列的に示すフローチャートである。
図3に示すように、先ずタグリーダが所定周波数の搬送波を送信する(ステップS1)。すると、ICタグ10がそれを受信して内部電源回路(レギュレータ)を起動し、内部電源を生成して内部の回路に供給する(ステップS2)。これによって、計測回路16は温度等の計測動作が可能となる。
【0023】
続いて、タグリーダが基準パルスで変調した搬送波を送信する(ステップS3)。すると、ICタグ10がそれを受信してパルスを復元し、発振回路14の動作を停止・リセットする(ステップS4)。図2(A)の発振回路14を使用した場合には、パルスの供給により、状態保持回路14cの出力がローレベルに変化すると、リングオシレータ14aの発振動作を開始する。一方、図2(B)の発振回路14を使用した場合には、パルスが立ち下がると、リングオシレータ14aの発振動作を開始する。そして、開始された発振動作は、ICタグ10がタグリーダからの送信電波を受信しなくなるか電波強度が低くなって、内部電源回路12が内部電源を生成しなくなることで自動的に停止するようになっている。なお、ステップS1を省略して、基準パルスで変調した搬送波を送信するステップS3を繰り返し実行するようにしても良い。
【0024】
ステップS4で発振を開始した後、ICタグ10は計測回路16の動作によって得られた計測データでアンテナの反射係数を変化させる負荷変調動作を行う(ステップS5)。これによって、タグリーダからの搬送波の振幅が変化することとなるため、タグリーダは搬送波の振幅変化を検出することでICタグ10から送信された計測データを認識する(ステップS6)。次に、ICタグ10がID生成回路15で生成された識別コードによってアンテナの反射係数を変化させる負荷変調動作を行う(ステップS7)。すると、タグリーダが搬送波の振幅変化を検出することでICタグ10から送信された識別コードを認識することができる(ステップS8)。ステップS5とステップS7の動作は逆、すなわち先ず識別コードを送信し、続いて計測データを送信するようにしても良い。
【0025】
上記動作を信号の変化を示す図4のタイムチャートで説明すると、本実施形態におけるICタグとタグリーダとの間の通信は、タグリーダから、図4(A)に示す所定の周波数の基準パルスによって該基準パルスの周波数よりも充分に周波数の高い搬送波を振幅変調した図4(B)に示すような信号(電波)を送信し、ICタグ側では受信電波を検波して、図4(C)に示すように、図4(A)の基準パルスと同一の周波数のパルスPを復元し、該パルスPを発振回路14とモード切替回路18に供給する。以下、図4(C)に示すパルスとパルスとの期間を送信フレームと称する。
【0026】
モード切替回路18は、検波回路13から最初のパルスが入力されると、内部の動作モードを、サーミスタ等の検出素子(センサ)を備えた計測回路16を動作させて計測したデータを出力する第1動作モードに設定し、次のパルスが入力されると、ID生成回路15により生成もしくは記憶されているIDコードを出力する第2動作モードに切り替える。そして、その後、パルスが入力される度に第1動作モードと第2動作モードとに切り替わるようになっている。前述したように、出力するデータの順番は、IDコード−計測データの順であっても良い。
【0027】
図4(D)には、一例として最初の送信フレームで計測回路16により計測されたデータを送信し、次の送信フレームで計測回路16により生成もしくは読み出された識別コードを送信するように設定した場合のタイミングが示されている。また、図4(E)には、送信するデータにより搬送波が変調されている様子が示されている。このうち、(E-1)は図2(A)の発振回路を使用した場合の波形、(E-1)は図2(B)の発振回路を使用した場合の波形である。
タグリーダは自ら送信する基準パルスの周期から送信フレームのタイミングを把握しているので、変調された搬送波から搬送波に含まれているパルスのパルス幅あるいはパルス数を計数することで、ICタグ10が送信したデータを判別することができる。
【0028】
上記説明より、タグリーダから送信される搬送波に含まれる基準パルスは、ICタグ10の内部を初期状態にするリセット信号であるとみなすことができる。あるいは、ICタグ10がデータの送信を開始するきっかけを与えるトリガ信号またはタイミングを与える同期信号とみることもできる。
上述したように、本実施形態の通信方法(通信プロトコル)によれば、タグリーダからICタグ10へ送信する信号(搬送波)には基準パルスのみ含まれていればよく、従来のようにコマンドコードを送信する必要がないので、タグリーダの負担が大幅に軽減される。一方、ICタグ10にとっては、タグリーダから送信されて来る信号から基準クロックとコマンドコードを分離する回路が不要となるため、チップサイズを低減できる。
【0029】
また、回路規模の縮小に伴う回路の消費電力の低減に加え、本実施形態のICタグ10にあってはデータの送信中のみ発振回路を動作させればよいとともに、発振周期は搬送波の周期よりも長くすることができるため、発振回路の消費電力も低減することができ、それによって通信可能な距離を長くすることができる。
また、基準パルスと基準パルスとの間の送信フレーム中にICタグからタグリーダへのデータ送信が行なわれるため、タグリーダからの送信とICタグとからの送信との干渉を回避して精度の高い通信を行うことができる。
【0030】
次に、上記実施形態のICタグの応用例について説明する。図5は、ICタグを、環境情報を収集する環境情報収集システムに適したICタグとして利用する場合のシステム構成を示したものである。
図5に示す環境情報収集システムは、電力系統における送電線や配電線の温度管理(例えば、配電線や配電線等の接続点の温度管理)、電車線へ電力を供給するためのき電線の温度管理(例えば、き電線の圧着スリーブ等による接続点の温度管理)を行うために使用されるものである。
【0031】
図5の環境情報収集システムにおいて、電車線40は、き電線41、トロリー線42、補助吊架線43、吊架線44、トロリー線42と補助吊架線43を連結するハンガー45、き電線41と補助吊架線43を接続するき電分岐部47aを有し、吊架線44は支持点44aにおいて、図示しない電柱に固定されている。き電分岐部47aの一端はき電線41に取付器具48aにより固定されており、き電分岐部47aの他端は補助吊架線43に取付器具48bにより固定されている。
【0032】
そして、収集したい環境情報として例えば温度を計測する温度センサを有する環境情報計測装置としてのICタグ10が、き電線41のき電分岐部47aの取付器具48aに装着されている。さらに、ICタグ10は、き電線41の接続点、例えば、圧着スリーブを用いた接続箇所(圧着スリーブ41a)に装着されている。このように装着することにより、ICタグ10は、温度計測対象である電線と熱的に結合するように設けることができる。
ICタグ10が計測した温度の情報を受信するタグリーダは車両に搭載され、タグリーダから基準パルスを重畳した搬送波をICタグ10へ送信することで、電車線に沿って配設されているICタグ10から順次送られてくる信号を受信して計測データを収集する。
【0033】
上記き電分岐部47aの取付器具48aや、き電線41の接続箇所(圧着スリーブ41a)では、接触抵抗を有しており、常時又は不連続に電流が通過することにより、大なり小なりの熱が発生する。また、その発熱による温度上昇が激しくなくても、長時間にわたり高い温度が続くと、腐蝕、疲労により電気抵抗が増大し、そのまま放置すると発熱により接続箇所の切断が起き、給電に障害が生じることがある。
【0034】
しかるに、上記のように、き電分岐部47aや、き電線41の接続箇所41aにICタグ10を設けて、き電分岐部47aの取付器具48aや、き電線41の接続箇所41aにおける温度上昇を監視することで断線発生の予兆を検知するようなことができる。
また、前記実施形態のICタグを、上記のような環境情報を収集する環境情報収集システムに適した場合、離れた位置から短時間にICタグより計測データを受信することができるため、タグリーダを搭載した車両を高速で走行させることができ、それによって電車線に沿って配置された複数のICタグから効率良く計測データを収集することができる。
【0035】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、ICタグより計測データと識別コードを送信できるように構成した例を示したが、本発明は識別コードのみを送信するICタグにも適用することができる。そして、その場合、モード切替回路18や出力選択回路19は不要となる。
また、前記実施形態では、モード切替回路18が2つのモードに切替え可能に構成されているものを説明したが、ICタグに2以上のセンサを設けるとともに、モード切替回路18を3以上のモードに切替え可能に構成し、2以上の計測データと識別コードを送信できるように構成しても良い。さらに、計測データと共に、送信している計測データの種類を示すコードを送信するようにしても良い。
【0036】
さらに、前記実施形態では、AD変換回路17で計測値をパルス幅で表したパルス信号に変換すると説明したが、AD変換回路17は計測値をパルス密度で表したパルス列に変換するものであってもよいし、一般的な逐次変換型のADコンバータ等であっても良い。
また、前記実施形態では、本発明を鉄道路線沿線の環境情報収集システムに適用したものを説明したが、本発明は従来の一般的な鉄道路線に限定されず、高速道路や専用バス路線の沿線の環境情報収集システムはもちろんのこと、新幹線(リニアを含む)の沿線の環境情報収集のようにICタグが受信する電波強度が短い時間に変化するシステムや、ICタグごとに受信電波強度にムラが生じるシステムに適用すると有効である。このようなシステムとして、例えば集配センターや物流センターにおいて、配送する荷物に貼付され配送先の住所等の情報が記憶されているICタグからデータを読み取って荷物の仕分けを行うコンベアシステムが考えられる。
【0037】
コンベアシステムが扱う荷物は大小さまざまであり、タグリーダとコンベアで移送される荷物に貼付されているICタグまでの距離が荷物ごとに異なることで、ICタグに届く電波の強度差が大きくなることが予想されるため、小さな荷物のICタグのデータを読み取れるようにタグリーダの送信電波強度を高くした場合に、ICタグ側の受信電波の強度が高くなり過ぎることがある。そこで、受信電波強度が高くなり内部電圧が抑制されたとしても検波回路の特性が低下することのない前記実施形態のICタグを使用することが有効である。
【0038】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、アンテナ11にコイルを用いているが、コイルに限定されるものでなく、ダイポールやパッチアンテナなどを用いても良い。
また、本発明は、単純な振幅変調方式でデータの送受信を行うICタグに限定されず、振幅変化を伴う他の変調方式、例えば振幅シフトと位相シフトを組み合わせた変調方式(QAM)等でデータの送受信を行うICタグにも適用することができる。
さらに、本発明は、パッシブ型のICタグのみならず非接触型ICカードにも利用することができる。また、ID情報(自己識別コード)のみ送信するRFIDにも利用できる。従って、特許請求の範囲における「無線通信デバイス」は、ICタグのみでなく非接触型ICカードおよびRFIDを含む概念である。
【符号の説明】
【0039】
10 ICタグ
11 アンテナ
12 内部電源回路
13 検波回路
14 発振回路
15 ID生成回路
16 計測回路
17 AD変換回路
18 モード切替回路(状態切替回路)
19 出力選択回路
20 送信回路
図1
図2
図3
図4
図5