(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-155116(P2016-155116A)
(43)【公開日】2016年9月1日
(54)【発明の名称】放射性物質を除去するための捕集剤及びこれを担持させた多孔質体並びにこれらを用いた装置
(51)【国際特許分類】
B01J 20/28 20060101AFI20160805BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20160805BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20160805BHJP
【FI】
B01J20/28 A
G21F9/12 501K
G21F9/12 501A
B01D15/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-219560(P2015-219560)
(22)【出願日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-33431(P2015-33431)
(32)【優先日】2015年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日:平成27年8月28日、刊行物名:2015年ナノマテリアル及びナノテクノロジーに関する国際シンポジウム(International Symposium on Nanomaterials and Nanotechnology 2015)講演予稿集第47頁、公開者:坂田一郎、古月文志、アダヴァン キリヤンキル ビピン、シェジ ツァン 開催日:平成27年9月1日、集会名:2015年ナノマテリアル及びナノテクノロジーに関する国際シンポジウム(International Symposium on Nanomaterials and Nanotechnology 2015)、公開者:古月文志
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、革新的技術創造促進事業、「農林水産物由来のナノ材料の創成と応用の開拓」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】511163735
【氏名又は名称】ナノサミット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】240000316
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】古月 文志
(72)【発明者】
【氏名】アダヴァン キリヤンキル ビピン
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 翔一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 順
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4D017AA01
4D017BA11
4D017BA12
4D017BA15
4D017CA04
4D017CA06
4D017CB10
4D017DB03
4G066AA11B
4G066AA41B
4G066AA51B
4G066AC02C
4G066BA22
4G066CA12
4G066CA31
4G066CA45
4G066DA08
(57)【要約】
【課題】
汚染水等に含まれる放射性物質等の標的とする化学物質を低減ないし除去するための捕集剤並びにこれを用いた方法及び装置を提供することを課題とする。また、プルシアンブルー等の吸着剤を使用した場合の溶出問題を解決することを課題とする。さらに、以上の課題を低コストで実現することを課題とする。
【解決手段】
標的とする化学物質に対して高い結合力ないし選択性を有する吸着剤(例えば、プルシアンブルー等)とナノセルロースとを含む捕集剤を担持させた親水性基材、並びにこれらの捕集剤又は親水性基材を利用した装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的とする化学物質を含む水溶液又は標的とする化学物質が付着した固体から当該標的とする化学物質を除去ないし低減する捕集剤であって、当該標的とする化学物質を吸着・保持することのできる吸着剤とナノセルロースからなる疑似錯体を含む、捕集剤。
【請求項2】
請求項1記載の捕集剤を担持させた親水性基材。
【請求項3】
請求項2記載の親水性基材を親水性多孔質体とする多孔質体。
【請求項4】
標的とする化学物質を含む水溶液又は標的とする化学物質が付着した固体から当該標的とする化学物質を除去ないし低減するための装置であって、請求項1記載の捕集剤又は請求項2記載の親水性基材又は請求項3記載の多孔質体を備えた装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム、ヨウ素、トリウム、又はストロンチウム等の化学物質を低減ないし除去するために用いる捕集剤並びにこれを用いた方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セシウム、ヨウ素、トリウム、又はストロンチウム等の化学物質、特にセシウム137、ヨウ素131、ストロンチウム90等の放射性物質によって汚染された水から、これらの放射性物質を除去ないし低減する手段として、これらの放射性物質を取り込むように設計されたゼオライトを用いる技術がある(例えば、特許文献1参照)。
また、ゼオライトよりもセシウムに対して高い結合力及び選択性を有するプルシアンブルー並びにその類似化合物を用いる技術や、ストロンチウムに対して高い結合力を示すアルギン酸のような高分子多糖類を用いる技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、ゼオライトは選択性が低いため、これを用いる方法による場合には目詰まりしたゼオライトを頻繁に交換しなければならず高コストになってしまい、さらには、低減ないし除去の対象となる化学物質が放射性物質である場合には、交換作業は容易ではないという問題がある。他方で、プルシアンブルー及びその類似化合物を使用する場合や、微小サイズのゼオライト(以下、単に「ゼオライト」という。)を使用する場合には、これらの物質が水に溶出しやすいという問題(以下「溶出問題」という。)があり、例えば、ウレタンやポリビニルアルコールの多孔質体へ安定的に担持させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−526110号公報
【特許文献2】特開2013−57575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、汚染水等に含まれる放射性物質等の標的とする化学物質(例えば、セシウム、トリウム、ストロンチウム、ヨウ素等)を低減ないし除去するための、捕集剤並びにこれを用いた方法及び装置を提供することを課題とする。また、プルシアンブルーやゼオライト等の吸着剤を使用した場合の溶出問題を解決することを課題とする。さらに、以上の課題を低コストで実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、溶出問題の原因は、プルシアンブルー及びその類似化合物がナノサイズであることや親水性が高いことにあるであろうとの考察の下、まず、ナノセルロースに対して鉄(III)イオンを結合させ、ナノセルロースと鉄(III)イオンの疑似錯体を形成させた後、かかる疑似錯体に対しヘキサシアノ鉄(II)酸等を結合させることで、ナノセルロース/プルシアンブルー疑似錯体を形成させた(
図1及び
図2参照)。そして、本発明者は、プルシアンブルーがナノセルロース/プルシアンブルー疑似錯体においてナノセルロースと疑似錯体を形成しているため、プルシアンブルー単独では水等の溶媒へ溶出せず、プルシアンブルー等の吸着剤を使用した場合の溶出問題を解決できることを見いだし、本発明を完成させた。本発明において吸着剤としてプルシアンブルーを使用した場合の、当該プルシアンブルーは、ナノセルロースをいわば鋳型として用いて合成した、不溶性プルシアンブルーといえる。
また、本発明者は、ナノセルロースには水酸基が含まれることから親水性基材に安定的に担持させられるだろうとの考察の下、ナノセルロース/プルシアンブルー疑似錯体を親水性基材に安定的に担持させることができることをも見いだした(
図3参照)。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、汚染水等に含まれる標的とする化学物質を吸着・保持することで、汚染水等に含まれる標的とする化学物質を低減ないし除去することができる。例えば、セシウム、トリウム、ストロンチウム又はヨウ素、特に、放射性物質セシウム、放射性トリウム、放射性ストロンチウムによって汚染された汚染水中の放射性物質を、吸着・保持することで取り除くことができる。また、本発明によれば、吸着剤としてプルシアンブルーやゼオライト等を使用した場合の溶出問題を低減ないし防ぐことができる。さらに、本発明によれば、加工が容易な親水性基材に対して吸着剤(例えば、プルシアンブルー)とナノセルロース分散物とを含む捕集剤を安定的に担持させることで、捕集剤を担持させた親水性基材を最適な態様へ容易に加工することができる。
また、本発明によれば、以上の効果を低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ナノセルロース/プルシアンブルー疑似錯体が形成される過程を示す図である。
【
図2】
図2は、ナノセルロース/プルシアンブルー疑似錯体を示す電子顕微鏡写真である。
図2Aは、プルシアンブルー由来の鉄(Fe)を、
図2Bは、プルシアンブルー由来の窒素(N)を、
図2Cは、ナノセルロース由来の酸素(O)をそれぞれ示している。
【
図3】
図3は、ナノセルロース/プルシアンブルー/ポリビニルアルコール多孔質体の三次元構造を示す電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図4】
図4は、各溶液ごとの紫外可視透過スペクトル測定結果を示すグラフであり、縦軸は、透過率(%T)、横軸は、波長(nm)を示す。1は、プルシアンブルー(PB)標準コロイド水溶液(PB濃度は50ppm)の紫外可視透過スペクトルを、2は、実施例1の8)プルシアンブルーの溶出確認実験における紫外可視透過スペクトルを、3は、脱イオン水のみの紫外可視透過スペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、発明内容の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0010】
<捕集剤>
本発明における捕集剤は、ナノセルロースと吸着剤(例えば、プルシアンブルー、ゼオライト、アルギン酸等のキレート形成物質等)との疑似錯体であり、標的とする化学物質(例えば、セシウム、トリウム、ストロンチウム、ヨウ素等)に対して高い結合力ないし選択性を有する一種類又は複数種類の吸着剤(例えば、プルシアンブルー等)を含む捕集剤である。ここでいうナノセルロース/吸着剤の疑似錯体は、ナノセルロースに対して鉄(III)イオン等の陽イオンを結合させ、ナノセルロースと陽イオンの疑似錯体を形成させた後、かかる疑似錯体に対してヘキサシアノ鉄(II)酸などの錯イオンを結合させることで形成され、例えば、ナノセルロースとプルシアンブルーの疑似錯体がある。また、本発明における捕集剤では、複数種類の吸着剤を組み合わせても良いため、例えば、ナノセルロース、プルシアンブルー、及びゼオライトからなる疑似錯体や、ナノセルロース、プルシアンブルー、及びアルギン酸からなる疑似錯体がある。
【0011】
本発明におけるナノセルロースとは、市販のセルロース(α-セルロース、酢酸セルロース等)を、アトライター、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等の微細化処理装置を用いて平均の長さが10μmから1000μm程度であり平均の直径が1nmから800nm程度になるまで微細化したものを意味する。また、本発明におけるナノセルロース分散物は、市販のセルロース(α-セルロース、酢酸セルロース等)を、脱イオン水又はその他の分散媒体と共に、アトライター、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等の微細化処理装置を用いて、溶媒内にセルロースを分散させる処理(以下「分散処理」という。)をすることで得ることができる。
【0012】
ナノセルロース分散物の分散媒体としては、親水性溶媒を使用することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンを使用することができる。また、分散処理は、例えば、ナノセルロースと脱イオン水を、セルロースが脱イオン水に対して0.01〜10wt%の量比になるように調整し、アトライター、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等を用いて混合することによって調製することができる。なお、ここでいう「分散」とは、溶解や懸濁を含む広義の分散を意味し、例えば、ナノセルロースが全て溶解している態様、全て懸濁している態様、一部が溶解し一部が懸濁している態様等を意味する。
【0013】
本発明でナノセルロースと疑似錯体を形成するプルシアンブルーとしては、ヘキサシアノ鉄(II)塩化鉄(III)、フェロシアン化鉄(III)又はフェロシアン化鉄(II)と呼ばれるシアノ錯体やこれらの類似体を利用することができる。セシウムイオン等の標的とする化学物質に対して高い結合定数を有し標的とする化学物質と錯体ないし疑似錯体を形成することができる性質を有すればよく、特定の配位状態や配位数を持つ錯体ないし疑似錯体には限定されない。また、本発明で利用するプルシアンブルーとしては、その平均の粒径が1nm〜200nmであれば良いが、10nm〜20nmであることが好ましい。
【0014】
本発明における標的とする化学物質とは、水中や土中に含まれる化学物質を意味し、例えば、セシウム、トリウム、ストロンチウム、ヨウ素が挙げられ、特に、放射性物質セシウム、放射性トリウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素が挙げられる。
【0015】
本発明における捕集剤は、前記ナノセルロース分散物の濃度が0.01〜10wt%及びプルシアンブルー(MW = 859.23g/mol)の濃度が1.0mM〜0.5Mとなるようにし、分散処理前のナノセルロース1質量部に対してプルシアンブルーを0.1〜100質量部の比率にすることで、適当な媒体中で調製することができる。さらに、好ましくは水中で混合することで調製することができる。混合工程には特別な条件を必要とはせず、例えば、混合物全量が10リットルの場合は、4℃〜45℃で、30〜120分間の範囲で適宜調整することができる。このようにして調製される捕集剤は、ナノセルロース・プルシアンブルー疑似錯体のコロイド溶液として表すこともできる。
【0016】
本発明では、捕集剤を担持させた親水性基材を用いて、汚染水等の水溶液中に含まれる又は固体に付着した(以下、単に「汚染水等に含まれる」という。)標的とする化学物質を吸着・保持して、汚染水等に含まれる標的とする化学物質を低減ないし除去することができる。
【0017】
<親水性基材>
本発明では、捕集剤を担持させる基材として、親水性基材を使用できる。本発明における親水性基材としては、親水性多孔質体や親水性繊維がある。親水性多孔質体や親水性繊維は、天然の材料、人工の材料及び/又は合成の材料を含むことができ、また、天然のセルロースから製造された合成繊維などの天然材料から製造された合成材料を含むことができる。また、親水性多孔質体や親水性繊維は、ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、アクリル、モドアクリル、ゴム、プラスチック、熱可塑性プラスチック、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリ塩化ビニル、ビニルニトリル、シリコン、ラテックス、それらの誘導体及びそれらの組み合わせ、並びにその他の吸収性の材料から形成することができる。吸着剤としてプルシアンブルーを用いた捕集剤を用いる場合には、親水性基材としてはポリビニルアルコールが好ましい。
【0018】
本発明の作用メカニズムの詳細は明らかではないが、以下のようなものが考えられる。すなわち、本発明者は、プルシアンブルー等の吸着剤がナノセルロースに対して高い親和性を有すること、並びに、ナノセルロース/プルシアンブルー疑似錯体(
図2)やナノセルロース/その他の吸着剤の疑似錯体が、広範囲のpH及び温度において安定的であることを見いだした。また、本発明者は、平均の長さが約5μmであり平均の直径が約4〜800nmであるナノセルロース1質量部に対して平均の直径が10〜200nm未満のプルシアンブルーが5質量部以上結合できることを見いだした。このため、ナノセルロースとプルシアンブルー等の吸着剤との間の疑似錯体の形成が、ナノセルロース/吸着剤の疑似錯体にとって、重要な相互作用となっていると考えられる。
また、本発明者は、プルシアンブルー等の吸着剤をポリビニルアルコール等の親水性基材の材料に加えた場合、プルシアンブルーやゼオライト等の吸着剤を単独でポリビニルアルコール等の親水性基材の材料に加え多孔質体や繊維を形成した場合と比べ、ポリビニルアルコール等の親水性基材に担持されるプルシアンブルーやゼオライト等の吸着剤の質量比が増加することを見いだした。そのメカニズムとしては、プルシアンブルー等の吸着剤と疑似錯体を形成しているナノセルロースが有する水酸基がポリビニルアルコール等の親水性基材が有する水酸基等の官能基と反応することで、ナノセルロース/吸着剤の疑似錯体が、ポリビニルアルコール多孔質体等の親水性基材に安定的に担持されるものと考えられる。
【0019】
本発明では、標的とする化学物質を含む水溶液に、ナノセルロース/吸着剤の疑似錯体と親水性基材から構成されている多孔質体(以下、単に「スポンジ状捕集剤」と略称する)を加え、標的とする化学物質がスポンジ状捕集体中の吸着剤と優先的に複合体を形成することで、標的とする化学物質を低減ないし除去することができる。
【0020】
本発明において標的とする化学物質を含む水溶液の電解質濃度は、天然の海水における塩濃度よりも高い範囲でも良く、例えば、溶液の質量%が3%以上となっても良い。また、本発明は、電解質を加えたり、電解質を含まない水を加えたりして、溶液中の塩濃度を調節する工程を含んでいてもよい。
【0021】
本発明で用いられるスポンジ状捕集剤は、標的とする化学物質(例えば、セシウム、トリウム、ストロンチウム、ヨウ素等)を含む溶液と、容積比1:10〜1:10000で適当な容器(例えば、タンク、槽等)内で混合することで、溶液中のセシウム等の標的とする化学物質を捕捉して、捕集剤と複合体を形成することができる。混合には特別の条件や手段を必要とはしないが、約4℃〜50℃、5分間〜1時間の範囲で適宜調整して混合すればよく、必要に応じて攪拌を行なってもよい。
【0022】
ナノセルロース/吸着剤の疑似錯体と親水性基材から構成されている多孔質体はスポンジ状ないしはスポンジ様の構造を取ることもできるため、セシウムやトリウム等の標的とする化学物質の吸着処理をした後、スポンジ状捕集剤を機械的に取り出すことで回収することができる。
【0023】
本発明におけるスポンジ状捕集剤は、圧縮又は熱処理することで体積を減量することができる。
【0024】
本発明では、スポンジ状捕集剤に含まれるプルシアンブルーによって、汚染水等の水溶液中に含まれる標的とする化学物質を吸着・保持して、汚染水等の水溶液中に含まれる標的とする化学物質の濃度を低減ないし除去することができる。
【0025】
親水性基材を親水性多孔質体とする場合には、プルシアンブルー等の吸着剤とナノセルロースからなる捕集剤と親水性多孔質体の材料とを混合した後、親水性多孔質体の材料を公知の方法で発泡させることで作製することができる。吸着剤をプルシアンブルーとし、親水性多孔質体をポリビニルアルコールとする場合、ポリビニルアルコールに対する捕集剤の質量比は、2.5〜50%とすることが好ましい。また、親水性基材を親水性繊維とする場合には、捕集剤と親水性繊維の材料とを混合した後、捕集剤を親水性繊維に公知の方法で浸漬し含浸させることで作製することができる。
【0026】
<ヨウ素除去用基材>
本発明は、セシウム、トリウム、ストロンチウム等の標的とする化学物質の濃度を低減ないし除去する工程と前後若しくは並行して、汚染水等に含まれるヨウ素濃度を低減ないし除去する工程を含んでいてもよい。この工程は、捕集剤を担持させた親水性基材にヨウ素を含む溶液を流通させることで行なうことができ、セシウムやトリウム等の標的とする化学物質の濃度を低減ないし除去する前後いずれの溶液に対しても行うことができる。
【0027】
捕集剤及び親水性基材は、いずれも適当な径の管、筒、棟等の液体が流通可能な適当な容器に充填して使用することができる。また、放射性物質等を除染するための装置の一部として使用することもできる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。ただし、以下の実施例は、発明の内容の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0029】
<プルシアンブルーの溶出確認実験>
(実施例1)
1)ナノセルロース分散液の調製
1リットルの脱イオン水に、セルロース粉末50gを加え、セルロースの粒が目視できない程度になるまで十分に分散処理を行い、ナノセルロース分散液を得た。
【0030】
2)ポリビニルアルコール水溶液の調製
200mLの脱イオン水に20gのポリビニルアルコールを加えた後、150rpmで常に撹拌しながら90℃の水で3時間温浴加熱し、ポリビニルアルコール水溶液を調製した。
【0031】
3)デンプン/ポリビニルアルコール混合液の調製
市販のジャガイモ由来のデンプン10gとトウモロコシ由来のデンプン10gを、100mLの脱イオン水に加え撹拌した後、これに2)で調製したポリビニルアルコール水溶液を加えてデンプン/ポリビニルアルコール混合液を調製した。次に、このデンプン/ポリビニルアルコール混合液を200rpmで常に撹拌しながら90℃の水で45分間温浴加熱し、透明なデンプン/ポリビニルアルコール混合液を調製した。
【0032】
4)ナノセルロース/塩化鉄(III)混合液の調製
0.96M塩化鉄(III)10mLに対して、上記1)のナノセルロース分散液100mLを添加・攪拌し、塩化鉄(III)/ナノセルロース混合液を調製した。
【0033】
5)ナノセルロース/プルシアンブルー/デンプン/ポリビニルアルコール混合液の調製
4)で調製したナノセルロースナノセルロース/塩化鉄(III)混合液に0.72Mフェロシアン化ナトリウムを10mL加え撹拌し、均一に懸濁させた後、このナノセルロース/プルシアンブルー混合液の懸濁混合液30mLを、3)で調製したデンプン/ポリビニルアルコール混合液に加え、ナノセルロース/プルシアンブルー/デンプン/ポリビニルアルコール混合液を調製した。この混合液を、容積が250mLになるまで、300rpmで常に撹拌しながら90℃の水で温浴加熱した。
【0034】
6)ホルムアルデヒド及び硫酸の添加
5)で調製したナノセルロース/プルシアンブルー/デンプン/ポリビニルアルコール混合液を、冷水で20℃まで冷ました後、400rpmで常に撹拌しながら質量%が36%のホルムアルデヒド25mL及び質量%が95%の硫酸25mLを滴下して加えた。
【0035】
7)ナノセルロース/プルシアンブルー/ポリビニルアルコール多孔質体の作製
6)で調製したホルムアルデヒド及び硫酸添加後のナノセルロース/プルシアンブルー/デンプン/ポリビニルアルコール混合液を、一晩の間55℃の水で温め続けた。このようにして調製されたプルシアンブルー/ナノセルロース/デンプン/ポリビニルアルコールの固体を、脱イオン水で洗浄し、ナノセルロース/プルシアンブルー/ポリビニルアルコール多孔質体を作製した。
【0036】
8)プルシアンブルーの溶出確認実験
7)で作製したナノセルロース/プルシアンブルー/ポリビニルアルコール多孔質体を乾燥処理した後、乾燥したナノセルロース/プルシアンブルー/ポリビニルアルコール多孔質体0.80gを、脱イオン水40mLに添加し、20℃で、300rpmで24時間連続攪拌を実施した。そして、ナノセルロース/プルシアンブルー/ポリビニルアルコール多孔質体を取り出した後、残った溶液を紫外可視分光計(UV-Vis)で測定した。
【0037】
図4のとおり、プルシアン ブルー(PB)標準コロイド水溶液(PB、50ppm)の透過スペクトルでは、680nm付近にブロードなピークが現れている。このブロードなピークは、Fe−Fe間電荷移動吸収として知られており、プルシアンブルーを示すピークである。これに対し、実施例1では、680nm付近にブロードなピークが現れず、また、その透過スペクトルは脱イオン水のみの場合の透過スペクトルと同じであるため、プルシアンブルーが多孔質体から溶出していないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の捕集剤を用いることで、安全、安価、又は/及び容易に、汚染水等に含まれる標的とする化学物質(例えば、セシウム、ストロンチウム、ヨウ素等)を低減ないし除去できる。
また、本発明の捕集剤を担持させる親水性基材を加工が容易なものにすることで、除染の対象に応じて、最適な態様へ容易に加工することができ、最適な装置へ適用することができる。さらに、標的とする化学物質を吸着させた吸着剤(プルシアンブルー等)を環境に取り残すことなく、容易に回収することができるため、安全、安価、又は/及び容易に、標的とする化学物質を低減ないし除去することができる。