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特開2016-160237抗リーシュマニア化合物の製造方法及び抗リーシュマニア薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-160237(P2016-160237A)
(43)【公開日】2016年9月5日
(54)【発明の名称】抗リーシュマニア化合物の製造方法及び抗リーシュマニア薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/335 20060101AFI20160808BHJP
   A61P 33/02 20060101ALI20160808BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20160808BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20160808BHJP
【FI】
   A61K31/335
   A61P33/02 171
   A61P33/00
   A61K36/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-41838(P2015-41838)
(22)【出願日】2015年3月3日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】松浪 勝義
(72)【発明者】
【氏名】落葉 尚子
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086BA16
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB38
4C086ZC61
4C088AB12
4C088AC05
4C088BA10
4C088BA32
4C088CA06
4C088CA07
4C088CA14
4C088MA02
4C088NA14
4C088ZB38
4C088ZC61
(57)【要約】
【課題】抗リーシュマニア活性を有する抗リーシュマニア化合物の製造方法及び抗リーシュマニア薬を提供する。
【解決手段】抗リーシュマニア化合物の製造方法は、ハドノキの葉を脂肪族アルコールで抽出し、脂肪族アルコール相を得る工程と、前記脂肪族アルコール相をアルカンで抽出し、アルカン相を得る工程と、前記アルカン相から式1で表される抗リーシュマニア化合物を単離する工程と、を備える。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハドノキの葉を脂肪族アルコールで抽出し、脂肪族アルコール相を得る工程と、
前記脂肪族アルコール相をアルカンで抽出し、アルカン相を得る工程と、
前記アルカン相から式1で表される抗リーシュマニア化合物を単離する工程と、を備える、
【化1】

ことを特徴とする抗リーシュマニア化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アルカン相を、溶出溶媒としてクロロホルム及びメタノールの混合溶媒を用いる第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画し、
前記第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーの分画物を、溶出溶媒としてメタノールを用いる第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画し、
前記第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーの分画物を、高速液体クロマトグラフィーにより精製して前記抗リーシュマニア化合物を単離する、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗リーシュマニア化合物の製造方法。
【請求項3】
ハドノキの葉を脂肪族アルコールで抽出し、第1の脂肪族アルコール相を得る工程と、
前記第1の脂肪族アルコール相をアルカンで抽出し、アルカン相及び第2の脂肪族アルコール相を得る工程と、
前記第2の脂肪族アルコール相に水を加えて酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル相を得る工程と、
前記アルカン相と前記酢酸エチル相とを混合して疎水性画分とし、前記疎水性画分から式1で表される抗リーシュマニア化合物を単離する工程と、を備える、
【化2】

ことを特徴とする抗リーシュマニア化合物の製造方法。
【請求項4】
前記疎水性画分を、溶出溶媒としてクロロホルム及びメタノールの混合溶媒を用いる第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画し、
前記第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーの分画物を、溶出溶媒としてメタノールを用いる第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画し、
前記第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーの分画物を、高速液体クロマトグラフィーにより精製して前記抗リーシュマニア化合物を単離する、
ことを特徴とする請求項3に記載の抗リーシュマニア化合物の製造方法。
【請求項5】
式2で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有する、
【化3】

(式2中、nは4〜12の整数を表す。)
ことを特徴とする抗リーシュマニア薬。
【請求項6】
式1で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有する、
【化4】

ことを特徴とする抗リーシュマニア薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗リーシュマニア化合物の製造方法及び抗リーシュマニア薬に関する。
【背景技術】
【0002】
リーシュマニア症(leishmaniasis)は、トリパノソーマ科の原虫リーシュマニアの感染を原因とする人獣共通感染症であり、サシチョウバエ類によって媒介される。リーシュマニア症は、主にカラアザール、黒熱病、ダムダム熱等の内臓リーシュマニア症と、東洋瘤腫、エスプンディア、チクレロ潰瘍等の皮膚リーシュマニア症とに分類される。
【0003】
リーシュマニア症に対する治療薬として、5価アンチモン製剤や、スチボグルコン酸ナトリウムやアンチモン酸メグルミンなどのほか、これまでに種々のものが研究、開発されてきた(特許文献1〜6など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−131807号公報
【特許文献2】特開2012−131806号公報
【特許文献3】特開2012−131805号公報
【特許文献4】特開2012−131804号公報
【特許文献5】特開2010−254668号公報
【特許文献6】特開2006−321728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リーシュマニア症は緊急に対策を要する6つの感染症の1つであり、更なる治療薬の開発が望まれている。
【0006】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、抗リーシュマニア活性を有する抗リーシュマニア化合物の製造方法及び抗リーシュマニア薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係る抗リーシュマニア化合物の製造方法は、
ハドノキの葉を脂肪族アルコールで抽出し、脂肪族アルコール相を得る工程と、
前記脂肪族アルコール相をアルカンで抽出し、アルカン相を得る工程と、
前記アルカン相から式1で表される抗リーシュマニア化合物を単離する工程と、を備える、
【化1】

ことを特徴とする。
【0008】
また、前記アルカン相を、溶出溶媒としてクロロホルム及びメタノールの混合溶媒を用いる第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画し、
前記第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーの分画物を、溶出溶媒としてメタノールを用いる第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画し、
前記第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーの分画物を、高速液体クロマトグラフィーにより精製して前記抗リーシュマニア化合物を単離してもよい。
【0009】
本発明の第2の観点に係る抗リーシュマニア化合物の製造方法は、
ハドノキの葉を脂肪族アルコールで抽出し、第1の脂肪族アルコール相を得る工程と、
前記第1の脂肪族アルコール相をアルカンで抽出し、アルカン相及び第2の脂肪族アルコール相を得る工程と、
前記第2の脂肪族アルコール相に水を加えて酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル相を得る工程と、
前記アルカン相と前記酢酸エチル相とを混合して疎水性画分とし、前記疎水性画分から式1で表される抗リーシュマニア化合物を単離する工程と、を備える、
【化2】

ことを特徴とする。
【0010】
また、前記疎水性画分を、溶出溶媒としてクロロホルム及びメタノールの混合溶媒を用いる第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画し、
前記第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーの分画物を、溶出溶媒としてメタノールを用いる第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画し、
前記第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーの分画物を、高速液体クロマトグラフィーにより精製して前記抗リーシュマニア化合物を単離してもよい。
【0011】
本発明の第3の観点に係る抗リーシュマニア薬は、
式2で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有する、
【化3】

(式2中、nは4〜12の整数を表す。)
ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の観点に係る抗リーシュマニア薬は、
式1で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有する、
【化4】

ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る抗リーシュマニア化合物の製造方法では、ハドノキから抗リーシュマニア化合物を得ることができる。抗リーシュマニア化合物は、ヒトの細胞への攻撃性が低く、リーシュマニア原虫への選択性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例におけるハドノキの葉の抽出過程を示す図である。
図2】抗Leishmania活性試験1の結果を示す図である。
図3】抗Leishmania活性試験2の結果を示す図である。
図4】抗Leishmania活性試験3の結果を示す図である。
図5】Compound Aの2次元NMRの結果を示す図である。
図6】癌細胞増殖抑制試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(化合物の製造方法)
本実施の形態に係る抗リーシュマニア化合物の製造方法は、ハドノキ(Villebrunea pedunculata)から式1で表される抗リーシュマニア化合物(7,8,9,10,11,12,19,20,21,22,23,24-dodecahydro-dibenzo[1,6,13,18]-tetra-oxacyclooctadecine-2,5,14,17-tetrone)を単離して得る方法である。
【0016】
【化5】
【0017】
まず、ハドノキの葉を脂肪族アルコールで抽出し、第1の脂肪族アルコール相を得る。ハドノキの乾燥葉を破砕し、これらと脂肪族アルコールをビーカー等の容器に入れ、攪拌することで行える。抽出後、ろ過等の分離手法で葉を分離することで第1の脂肪族アルコール相が得られる。ここで、脂肪族アルコールとしてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等を例示できるが、メタノールが好ましい。
【0018】
続いて、第1の脂肪族アルコール相をアルカンで分配し、アルカン相及び第2の脂肪族アルコール相を得る。アルカンとしてはプロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン等の炭素数3ないし10の鎖式飽和炭化水素を例示できるがn−ヘキサンが好ましい。
【0019】
このアルカン相から上記式1で表される抗リーシュマニア化合物を単離する。まず、アルカン相を、第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画する。溶出溶媒として、クロロホルム及びメタノールの混合溶媒が用いられる。
【0020】
更に、第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおける分画物を、第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分画する。溶出溶媒として、メタノールが用いられる。
【0021】
更に、第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおける分画物を、高速液体クロマトグラフィーにより精製することで、式1で表される抗リーシュマニア化合物を単離することができる。
【0022】
また、上記第2の脂肪族アルコール相を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル相と上記のn−ヘキサン相に加えた疎水性画分について、上記と同様に第1次シリカゲルカラムクロマトグラフィー、第2次シリカゲルカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーを行ってもよい。
【0023】
(抗リーシュマニア薬)
抗リーシュマニア薬は、式2で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有する。式2中、nは4〜12の整数を表す。なお、式2中、nが6である化合物は、上記式1で表される化合物である。
【0024】
【化6】
【0025】
式2で表される化合物は、上述したハドノキの葉から製造されるほか、「Synthesis of New Macrocycles. Part 1V.I Two-step Synthesis of Dimeric Phthalic Acid EstersJournal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1, 1974, 2578-2580」など、公知の合成方法により製造され得る。
【0026】
式2で表される化合物は、単独で用いてもよいし、又は一般に製剤上許容される添加剤と共に混和し、製剤化してもよい。また、投与形態としては、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、エキス剤等の経口剤を用いた投与形態または、注射剤、液剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤、パップ剤、ローション剤等の非経口剤を用いた投与形態等が挙げられるが、特に制限はなく、治療目的等に応じて適宜選択することができる。
【0027】
また、錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤、散剤の場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の添加剤を含有させることができる。賦形剤としては、デンプン、カルボキシメチルセルロース、白糖、デキストリン、コーンスターチ等を挙げることができる。
【0028】
結合剤としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロW ピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE 、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL 、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールが挙げられる。
【0029】
崩壊剤としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントが挙げられる。
【0030】
滑沢剤としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0031】
また、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤の場合には、水や植物油等の一般的に用いられる不活性な希釈剤の他、着色剤、矯味剤、着香剤等を添加剤として含有させてもよい。
【0032】
また、注射剤の場合には、懸濁液、乳濁液、用時溶解剤等の添加剤を含有させることができる。また、軟膏剤、坐剤の場合には、脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、ろう、樹脂、プラスチック、基剤、グリコール類、高級アルコール、水、乳化剤、懸濁化剤等を添加剤として含有させることができる。また、パップ剤の場合にはグリセリン、水、水溶性高分子、吸水性高分子等を添加物として含有させることができる。また、ローション剤の場合には、溶剤、乳化剤、懸濁化剤等を添加剤として含有させることができる。
【0033】
本発明の抗リューシュマニア化合物は、食品、チューインガム、飲料等に添加して、いわゆる特定保健用食品(例えば、抗リーシュマニア食品)やサプリメント等に含有させることもできる。
【0034】
なお、式2で表される化合物は、これらの化合物の薬理上許容される塩を含む概念である。すなわち、本発明は、ヒト又は動物の体内で代謝されることによって上記化合物及びアミドに変化して薬理活性を示す生化学的前駆物質を含む。本発明において、薬理上許容される塩とは、上記の化合物を酸または塩基で処理することにより得られる塩であって、著しい毒性を有さず、医薬として使用され得る塩をいう。このような酸付加塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸等による付加塩があげられ、塩基による塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、グアニジン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の有機塩基による塩があげられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。
【0036】
沖縄県で採集されたハドノキの乾燥葉(2.69kg)をメタノールで3回(4.5L×3)抽出し、MeOH抽出物を得た。
【0037】
MeOH抽出物を3.0Lに濃縮した後、n−ヘキサン(3L)でn−Hexane相(n−ヘキサン可溶画分)、MeOH相に分配した。
【0038】
分配されたMeOH相を減圧濃縮し、その残渣をHO(3L)に懸濁させた後、酢酸エチル(3L)で抽出し、EtOAc相(EtOAc可溶画分)、HO相を得た。
【0039】
O相をさらに1−ブタノール(3L)で抽出し、1−BuOH相(1−BuOH可溶画分)、水可溶画分を得た。
【0040】
以上のようにして、図1に示すように、n−Hexane可溶画分(62.1g)、EtOAc可溶画分(44.7g),1−BuOH可溶画分(67.6g)、水可溶画分(185g)を得た。
【0041】
そして、TLC(Thin-layer Chromatography)分析を行い、よく似た成分を含むn−ヘキサン可溶画分とEtOH可溶画分とを合わせて疎水性画分(106.8g)とした。なお、TLC分析は、TLCプレートに厚さ0.25mmのシリカゲル 60F254(Merck)プレートを用い、クロロホルム:メタノール:水=15:6:1の混合溶媒を展開溶媒とした。展開後のスポットはUV照射(254nm)および、10%硫酸を噴霧後加熱し呈色させて検出した。
【0042】
疎水性画分106.8gをクロロホルムとメタノールの混合溶媒[ヘキサン−クロロホルム(1:1)、クロロホルム4L、クロロホルム−メタノール(50:1,4L)、(40:1,4L)、(30:1,4L)、(20:1,4L)、(15:1,4L)、(10:1,4L)、(7:1,4L)、(5:1,4L)、(3:1,4L)、(2:1,4L)、メタノール4L]を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(内径10cm×高さ15cm)に付して分画し、フラクション1〜12(fr.1〜12)を得た。なお、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーには70−230meshのsilica gel 60(Merck株式会社)を使用した。
【0043】
(抗Leishmania活性試験1)
上記で得られたfr.1〜12に対して、抗Leishmania活性試験を行った。抗Leishmania活性試験は、疎水性画分より得られた各画分について、Leishmania major(以下、L.major)(ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)から入手)に対し、以下に示す活性試験法を用いて増殖抑制試験を行った。
【0044】
V底96−well plateに終濃度が100μM−25μMとなるように調製したサンプル溶液(DMSO(Dimethyl sulfoxide)終濃度1%)、および、L.majorを2×10cell/wellになるように加え、37℃で72時間培養した。
【0045】
増殖阻害率はMTT法を用い、540nmの吸光度から、以下の計算式で算出した。
Inhibition(%)=[1−(Asample−Ablank)/(Acontrol―Ablank)]×100
・Asample:サンプル(+)の吸光度
・Ablank:培地のみの吸光度
・Acontrol:サンプル(−)の吸光度
【0046】
その結果を図2に示す。fr.10では、L.major増殖阻害率は50%を超えていた。
【0047】
(抗Leishmania活性試験2)
上記の抗Leishmania活性試験1の結果より、最も増殖阻害率の高かったfr.10(3.49g)について、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(内径2.5cm×高さ25cm、10%メタノール500ml→100%メタノール500ml:stepwise)に付して分画し、fr.1〜17を得た。なお、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにはCosmosil 75 C18OPN(Nacalai Tesque)を使用した。
【0048】
次に、得られたfr.1−17に対して、上記抗Leishmania活性試験1と同様の手法にて、抗Leishmania活性試験を行った。その結果を図3に示す。
【0049】
(抗リーシュマニア化合物の単離)
抗Leishmania活性試験2の結果より、50μg/mlで高い増殖阻害率を示したfr.15(92.6mg)を高速液体カラムクロマトグラフィーにより精製し、保持時間10分のピークからCompound A(1.7mg)を得た。なお、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、分取用カラムにInertsil ODS(6.0×250nm)を使用し、検出にRI 2031(日本分光)、溶媒にメタノール−水系を用いて、流速1.6mL/minで行った。
【0050】
(抗Leishmania活性試験3)
単離したCompound Aについて抗Leishmania活性試験を行った。その結果を図4に示す。25μg/mlにおいて増殖阻害率83%という高い抗Leishmania活性を示した。
【0051】
Compoud Aについて、一次元NMR(HNMR,13C NMR)、および二次元NMR(H−H COSY,HMBC,HSQC)スペクトルの解析を行った。表1に一次元NMRの結果及び図5に二次元NMRの結果を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
これらの解析結果より、Compound Aは式1で表される構造であると決定した。
【0054】
(細胞増殖抑制試験)
単離したCompound Aについて、ヒト肺扁平上皮癌細胞(A549細胞)(RIKEN cell bankより入手)に対して下に示す活性試験法を用いて細胞増殖抑制試験を行った。
【0055】
96−well plateにCompound A終濃度が50μg/ml、25μg/mlとなるように調製したサンプル溶液(DMSO終濃度1%)及びA549細胞を5000cell/wellとなるように加え、37℃で72時間培養した。増殖阻害率はMTT法を用い、540nmの吸光度から、以下の計算式で算出した。
Inhibition(%)=[1−(Asample−Ablank)/(Acontrol―Ablank)]×100
・Asample:サンプル(+)の吸光度
・Ablank:培地のみの吸光度
・Acontrol:サンプル(−)の吸光度
【0056】
その結果を図6に示す。Compound Aの濃度50μg/mlにおいても、ヒト肺扁平上皮癌細胞の増殖阻害率は20%程度であり、Compound Aはヒトの細胞に対しては効かない、即ち、副作用の恐れが低い一方で、L.Majorに対する選択性が優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本願発明ではハドノキの葉から抗リーシュマニア活性に優れる抗リーシュマニア化合物を得ることができ、リーシュマニア症の治療等への利用が期待される。
図4
図5
図6
図1
図2
図3