【解決手段】抗菌性コンタクトレンズは、光触媒作用を有する酸化チタンと、紫外線吸収剤とを含み、また、当該抗菌性コンタクトレンズの構成成分にカルボキシル基を有する化合物を含み、カルボキシル基を有する化合物と光触媒作用を有する酸化チタンとを予め混合した後に、当該抗菌性コンタクトレンズ用成分原料と紫外線吸収剤とを添加して重合させていることを特徴とする。
カルボキシル基を有する化合物と光触媒作用を有する酸化チタンとを予め混合した後に、当該抗菌性コンタクトレンズ用成分原料と紫外線吸収剤を添加して重合させたこと、
を特徴とする抗菌性コンタクトレンズ。
【背景技術】
【0002】
眼球表面に装用するコンタクトレンズは、硬質コンタクトレンズと含水性コンタクトレンズに大別することができるが、含水性コンタクトレンズには殺菌消毒が必要である。
消毒方法の一つとして煮沸消毒があるが、この方法では、コンタクトレンズに熱をかけるため、含水性コンタクトレンズ自体が変形したり、タンパク質の変性による白濁を引き起こしたりすることから、昨今ではほとんど用いられておらず、現在では、過酸化水素や塩化ポリドロニウム等を用いた化学消毒が主流となっている。
しかし、このような化学消毒剤による消毒は、消毒力が弱いために十分な殺菌がなされない場合があり、感染症を発生させてしまう恐れがある。また、中和やこすり洗いが必要となるため、洗浄作業が煩雑である。
そのため、コンタクトレンズの消毒処理を不要とするために、コンタクトレンズ自体に抗菌効果を付与した、いわゆる抗菌性コンタクトレンズの研究開発が進められている。例えば、抗菌成分として銀ナノ粒子や酸化亜鉛粒子をレンズに含有させることで、コンタクトレンズ自体に抗菌性を持たせる技術が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかし、特許文献1において抗菌剤として使用される銀ナノ粒子は、耐性を持つ細菌が発見されたことが報告されており、これにより、かえって細菌の繁殖力が高まる可能性があることが指摘されている(Gunawan, C., Teoh, W. Y., Marquis, C. P. and Amal, R. (2013), Induced Adaptation of Bacillus sp.to Antimicrobial Nanosilver. volume 9, issue 21, pages 3554−3560, November 11, 2013 参照)。また、銀は高価であるため、費用面においてもコンタクトレンズのコスト高の要因となる可能性がある。
また、特許文献2においては、抗菌剤として酸化亜鉛を用いているが、この酸化亜鉛は、水中で紫外線を照射すると、発生した正孔が自身を酸化し溶解し、光触媒反応が失われてしまうことが知られている。したがって、安定した抗菌殺菌効果が得られず、また、眼の中で亜鉛が溶出してしまう可能性があり、安全性を低下させてしまう恐れがある。
【0004】
ここで、上述の銀ナノ粒子や酸化亜鉛の他に、抗菌殺菌効果を発揮するものとして、酸化チタンが知られている。酸化チタンは、紫外線を照射すると光触媒反応により抗菌殺菌効果を発揮する。具体的には、酸化チタンは、380nm付近から紫外線を吸収し始め、300nmで吸収が最大となり、紫外線吸収量に比例して光触媒反応が強まる。この光触媒反応は、強力な酸化還元反応であり、酸化チタンに接触した菌や有機物を分解することができる。この酸化チタンの光触媒反応をコンタクトレンズに応用した技術も提案、開示されている(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
【0005】
例えば、特許文献3においては、コンタクトレンズの表面に酸化チタンをコーティングする技術が開示されている。しかし、レンズ表面への酸化チタンのコーティング作業は、非常に煩雑であるためコンタクトレンズの生産効率が低下してしまい、また、生産コストも高くなってしまうので、大量生産される2週間や、1ヶ月の短期間で交換される、いわゆる使い捨てタイプのコンタクトレンズには適していない。また、レンズのこすり洗いや装用時の瞬目による摩擦によって、レンズ表面のコーティングが剥がれてしまい、抗菌殺菌効果が失われてしまうという問題が生じる可能性もある。
また、特許文献4においては、水系媒体中に酸化チタンの微粒子を分散させた消毒液にコンタクトレンズを浸漬させ、紫外線を照射することによってレンズを消毒し、長期にわたり、優れた消毒効果を発揮することができる。しかし、消毒後にレンズの表面に付着した酸化チタンの微粒子を十分に洗い流す必要があり、洗浄が不十分な場合、酸化チタンが眼に入ってしまい、角膜に悪影響を与えたり、異物感や装用感低下を引き起こしたりする恐れがある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について説明する。
コンタクトレンズは、使用者の眼球の表面に装用されるレンズであり、使用者の眼の角膜上に涙の表面張力により密着させることによって装用される。
コンタクトレンズは、眼球の表面に沿うようにして曲面状に形成された透明な基材から構成されている。本発明の抗菌性コンタクトレンズに用いることができる主原材料は、一般的にコンタクトレンズに使用されるヒドロキシエチルメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸等の親水性モノマーを主成分とし、エチレングリコールジメタクリレート等の二官能性モノマーを架橋成分として用いるが、本発明では親水性モノマーの中、カルボキシ基を有する化合物(例えば、アクリル酸、メタクリル酸)を適量配合して用いることが好ましい。
また、本発明の抗菌性コンタクトレンズには、上記主原材料の他、酸化チタン及び紫外線吸収剤が添加されている。
ここで、本発明で添加する酸化チタンは、紫外線が照射されることによって、光触媒反応を起こすことが知られている。具体的には、酸化チタンは、380nm以下の波長の紫外線により光触媒反応を起こし始め、吸収が最大となる300nm以下の波長で光触媒反応効果を最も強く発揮する。本発明の抗菌性コンタクトレンズは、含有される酸化チタンに紫外線が照射され、光触媒反応を起こすことによって抗菌殺菌効果を発生する。ここで、光触媒反応は、有機物を分解する強力な酸化還元反応と、超親水化現象とを有しているが、本発明においては、この光触媒反応の酸化還元反応によって菌等の有害物質を分解して抗菌殺菌作用を得ている。
【0011】
酸化チタンの粒径は、コンタクトレンズからの溶出を防ぎ、十分な透明性を確保し、十分な抗菌殺菌効果を発揮させる観点から、10nm以上50nm以下であることが好ましい。
仮に、酸化チタンの粒径が10nm未満の場合、菌との接触面積を大きくして抗菌殺菌効果を高めることができ、また、コンタクトレンズの透明性も高めることができるが、粒子が小さすぎてしまい、酸化チタンの溶出の可能性が高まってしまうので好ましくない。また、粒径が50nmよりも大きい場合、光触媒活性が低下してしまい、十分な抗菌殺菌効果が得られなくなったり、透明性が低下したりするので好ましくない。なお、コンタクトレンズの透明性と、抗菌殺菌効果をより効果的に得る観点から、酸化チタンの粒径は、10nm以上30nm以下であることが更に好ましい。
【0012】
また、酸化チタンは、コンタクトレンズの主原材料に対して重量比で0.05%以上0.5%以下の量で添加されることが好ましい。
酸化チタンの添加量が、コンタクトレンズの主原材料に対して重量比で0.05%未満である場合、酸化チタンの量が少なくなりすぎてしまい、十分な光触媒反応を得ることができないため望ましくない。また、酸化チタンの添加量が、重量比で0.5%より多い場合、酸化チタンの量が多くなりすぎてしまい、コンタクトレンズの透明性を確保するのが困難となるため望ましくない。
なお、酸化チタンの結晶は、ルチル型、アナタース型のいずれでもよく、また、ルチル型とアナタース型との混合でもよい。
ここで、カラーコンタクトレンズ等に従来から使用される酸化チタンは、光触媒反応が生じてしまうのを防ぐために、その表面がコーティングされていたり、その粒径が50nmより大きく形成されていたりするが、本発明のコンタクトレンズに添加される酸化チタンは、コンタクトレンズからの溶出を防ぐとともに十分な光触媒反応を発揮させる観点から、その表面がコーティングされておらず、また、その粒径も上述の数値範囲(10nm以上50nm以下が好ましい)に限定されている。
【0013】
ここで、酸化チタンの表面には、水酸基があり、カルボキシル基を有する化合物と水素結合すると考えられている。本発明者等は、この点に注目して鋭意検討した結果、コンタクトレンズの主原材料の中で一般に用いられているカルボキシル基を有する化合物を、予め酸化チタンと混合した後に重合反応をさせれば、コンタクトレンズから酸化チタンが溶出してしまうのを防ぐことを見出した。コンタクトレンズの主原材料にはカルボキシル基を有する化合物が様々あるが、特に、カルボキシル基を有するメタクリル酸はコンタクトレンズの諸物性を制御する上で特に好ましい。本発明の抗菌性コンタクトレンズでは、二官能性モノマーによる架橋効果と共に、このメタクリル酸と酸化チタンの水酸基との相互作用によって、酸化チタンの微粒子がコンタクトレンズから溶出してしまうのを防ぎ、安全性を高めている。
【0014】
酸化チタンは、カルボキシル基を有する化合物(メタクリル酸)に対して1:1で配合すれば、溶出の可能性は低くなるが、酸化チタンを上記化合物に十分に分散させる観点から、カルボキシル基を有する化合物(メタクリル酸)と酸化チタンとを重量比で4:1以上の割合で配合することが好ましい。また、コンタクトレンズに酸化チタンを十分に分散させるとともに、酸化チタンの水酸基とカルボキシル基を有する化合物とを好適に相互作用させる観点から、酸化チタンは、カルボキシル基を有する化合物に対して予め配合した上で、コンタクトレンズを構成する他の主原材料等と混合することが好ましい。
【0015】
本発明の抗菌性コンタクトレンズに添加される紫外線吸収剤は、特定の波長域の紫外線を吸収する特性を有するものを用いる。この特定の波長域は、紫外線によって酸化チタンの光触媒反応が最大となる波長を含む波長域に基づいて設定されており、本発明の紫外線吸収剤では、上述したように酸化チタンの光触媒反応が強く生じる300nm以下の波長域を含むように、350nm未満の波長域の紫外線を主に吸収するように設定されている。なお、紫外線吸収剤は、例えば、350nm未満の波長域を主に吸収する特性を有している場合でも、その特性上、350nm以上の波長の紫外線を全く吸収しない訳ではなく、波長が350nmより長くなるにつれて紫外線を吸収する量が徐々に減少する特性を有している。そのため、350nm未満の波長域の紫外線を主に吸収する紫外線吸収剤であっても、350nm以上の波長の紫外線は若干量が吸収されることとなる。
【0016】
本発明の抗菌性コンタクトレンズは、この紫外線吸収剤を含有することによって、抗菌性コンタクトレンズに照射される紫外線のうち、上述の特定の波長域(350nm未満)の紫外線を吸収することによって、酸化チタンのエネルギー量を低減させ、光触媒反応を抑制している。そのため、この抗菌性コンタクトレンズに含有される酸化チタンの発揮する光触媒反応は、350nm以上380nm以下の波長域の紫外線によって生じることとなり、波長域が限定されていない紫外線が酸化チタンに照射されることによって生じる光触媒反応に比して弱い反応となる。
こうすることにより、本発明の抗菌性コンタクトレンズが使用者の眼に装用されている間に太陽光等の紫外線が入射したとしても、光触媒反応を強く生じさせてしまう350nm未満の紫外線が、紫外線吸収剤によって吸収されるため使用者の眼に届くことはない。また、紫外線のうち350nm以上380nm以下の紫外線も、その大部分が酸化チタンや紫外線吸収剤によって吸収されることとなり、抗菌性コンタクトレンズと使用者の角膜との界面にまで届く紫外線の量を大幅に減少することができ、使用者の眼に対して影響を与えるものでなく、装用時における抗菌性コンタクトレンズの安全性を高めることができる。
【0017】
抗菌性コンタクトレンズに対する紫外線吸収剤の添加量は、抗菌性コンタクトレンズの主原材料に対して、重量比で0.1〜1.2%が好ましく、0.6〜1.0%がより好ましい。仮に、紫外線吸収剤の添加量が0.1%未満である場合、紫外線の吸収作用が弱すぎてしまい、抗菌性コンタクトレンズの装用時における酸化チタンによる光触媒反応を十分に抑えることができないので望ましくない。また、添加量が1.2%を超える場合、紫外線の吸収作用が強すぎてしまい、紫外線を照射しても光触媒反応が十分に起こらなくなり、抗菌殺菌効果が発揮できなくなるため望ましくない。
【0018】
紫外線吸収剤は、350nm未満の紫外線を主に吸収する化合物であれば適宜選択することができるが、例えば、ベンゾトリアゾール系の化合物が好ましい。具体的には、2−(3−sec−ブチル−5−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(5−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−5−[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等の350nm未満の紫外線を主に吸収するベンゾトリアゾール系化合物が特に好ましい。
【0019】
次に、本発明の抗菌性コンタクトレンズの使用方法について説明する。
本発明の抗菌性コンタクトレンズは、使用者の眼から外された後、350nm以上380nm以下の紫外線(例えば、365nmの紫外線)を所定の時間(例えば、8時間)照射することによって、抗菌殺菌効果が発揮される(紫外線照射手段)。ここで、抗菌性コンタクトレンズに含有される酸化チタンは、350nm以上380nm以下の紫外線が照射されることにより、比較的弱い光触媒反応を発揮するが、所定の時間、紫外線を照射することによって十分な抗菌殺菌効果が発揮される。
紫外線を照射する光源としては、350nm以上380nm以下の波長域を含む紫外線を照射できるものであれば特に限定されるものでないが、例えば、ブラックライトや、水銀灯、LEDライト等を使用することができる。ここで、ブラックライトや、水銀灯は照射する波長域が広く、350nm〜380nmの紫外線の照射効率が低いため、照射する紫外線の波長域を限定でき、かつ、小型化や軽量化、低コスト化が容易に図れるLEDライトが特に好ましく用いられる。
【0020】
次に、本実施形態の抗菌性コンタクトレンズの製造方法について説明する。
まず、酸化チタンをメタクリル酸(カルボキシル基を有する化合物)に添加し、マグネチックスターラーを用いて10分以上撹拌する。これにより、酸化チタンの表面の水酸基と、メタクリル酸の有するカルボキシル基とが結合することとなる(混合工程)。
そして、酸化チタンが混合されたメタクリル酸に、抗菌性コンタクトレンズを構成する主原材料のうちカルボキシル基を有する化合物(メタクリル酸)以外の他の化合物となるヒドロキシエチルメタクリレート及びエチレングリコールジメタクリレートや、紫外線吸収剤、重合開始剤を順次添加し、超音波を10分以上照射した後、30分間撹拌してモノマーを調整する(モノマー調整工程)。
【0021】
次に、調整したモノマーをレンズ成形型へ流し込み、加熱により各化合物を重合する(成形工程)。最後に、レンズ成形型で成形されたレンズをレンズ成形型から離型した後、精製水にて膨潤してオートクレーブにて滅菌する。以上により、本実施形態の抗菌性コンタクトレンズが完成する。
このように、本実施形態の抗菌性コンタクトレンズの製造方法は、予めカルボキシル基を有するメタクリル酸と酸化チタンとを混合して結合させた後に、他の化合物等を更に混合しているので、酸化チタンとメタクリル酸とを確実に結合させることができ、これにより、製造した抗菌性コンタクトレンズから酸化チタンが溶出してしまうのを効果的に抑制することができる。
【0022】
次に上述の方法によって製造された抗菌性コンタクトレンズの評価結果について説明する。評価に用いた各実施例の抗菌性コンタクトレンズの組成値及び物性値を、以下の表1にまとめる。
各実施例の抗菌性コンタクトレンズは、上述したように、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メタクリル酸(MAA)、エチレングリコールジメタクリレート(ED)を主原材料としており、これに、酸化チタン(日本アエロジル株式会社製P−25/平均粒子径21nm、ルチル型とアナタース型の比が80対20)、紫外線吸収剤(2−[3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート)、重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル)を添加剤として添加したものである。
【0024】
各実施例の抗菌性コンタクトレンズは、主原材料となるヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メタクリル酸(MAA)、エチレングリコールジメタクリレート(ED)が、それぞれ、96.9%、2.4%、0.7%の割合で混合されている。
実施例1の抗菌性コンタクトレンズは、添加剤となる酸化チタン、紫外線吸収剤が、上述の抗菌性コンタクトレンズの主原材料に対して、それぞれ重量比で0.05%、0.8%で混合されている。ここで、表1に示す組成値は、抗菌性コンタクトレンズの主原材料(HEMA、MAA、ED)の合計が100%となるように記載されており、各添加物(酸化チタン、紫外線吸収剤等)は、その主原材料に対して更に添加される添加量の割合が記載されている。
実施例2の抗菌性コンタクトレンズは、添加剤となる酸化チタン、紫外線吸収剤が、抗菌性コンタクトレンズの主原材料に対して、それぞれ重量比で0.1%、0.8%で混合されており、実施例1の抗菌性コンタクトレンズに比して酸化チタンの含有量が増加している。
【0025】
実施例3の抗菌性コンタクトレンズは、添加剤となる酸化チタン、紫外線吸収剤が、抗菌性コンタクトレンズの主原材料に対して、それぞれ重量比で0.3%、0.8%で混合されており、実施例2の抗菌性コンタクトレンズに比して酸化チタンの含有量が増加している。
実施例4の抗菌性コンタクトレンズは、添加剤となる酸化チタン、紫外線吸収剤が、抗菌性コンタクトレンズの主原材料に対して、それぞれ重量比で0.5%、0.8%で混合されており、実施例3の抗菌性コンタクトレンズに比して酸化チタンの含有量が増加している。
実施例5の抗菌性コンタクトレンズは、添加剤となる酸化チタン、紫外線吸収剤が、抗菌性コンタクトレンズの主原材料に対して、それぞれ重量比で0.3%、0.6%で混合されており、実施例3の抗菌性コンタクトレンズに比して紫外線吸収剤の含有量が減少している。
実施例6の抗菌性コンタクトレンズは、添加剤となる酸化チタン、紫外線吸収剤が、抗菌性コンタクトレンズの主原材料に対して、それぞれ重量比で0.3%、1.0%で混合されており、実施例3の抗菌性コンタクトレンズに比して紫外線吸収剤の含有量が増加している。
【0026】
(含水率測定)
表1に示す含水率[%]とは、抗菌性コンタクトレンズに含まれる水分量の割合を示す値であり、以下の式(1)によって求められる。
【0027】
式(1) 含水率=100×(含水レンズ重量−乾燥レンズ重量)/乾燥レンズ重量
【0028】
ここで、含水レンズ重量とは、水分を十分に含んだ抗菌性コンタクトレンズの総重量[g]をいい、25℃の純水に6時間以上浸漬した抗菌性コンタクトレンズの表面の水分を取り除いた状態で測定された値である。また、乾燥レンズ重量とは、水分を十分に除去して乾燥させた状態の抗菌性コンタクトレンズの総重量[g]をいい、120℃に設定した乾燥機により2時間乾燥させた後に測定された値である。
各実施例の抗菌性コンタクトレンズは、表1に示すように、含水率が56〜58%となった。
【0029】
(屈折率測定)
屈折率は、抗菌性コンタクトレンズを透過する光の屈折率を示すものである。屈折率は、抗菌性コンタクトレンズの表面の水分を取り除き、アッベ屈折率計(MAR−1T ATAGO社製)を用いて測定される。
各実施例の抗菌性コンタクトレンズは、表1に示すように、屈折率が1.426〜1.433となった。
【0030】
(視感透過率測定)
視感透過率は、抗菌性コンタクトレンズが目に見える光(可視光線)をどの程度透過させるかを示す値である。視感透過率は、紫外可視分光光度計(UV−650 日本分光株式会社製)を用いて380〜780nmにおける入射光量に対する透過光量の割合[%]を測定し、「JIS Z 8722:2009 色の測定方法−反射及び透過物体色」に基づいて算出する。
各実施例の抗菌性コンタクトレンズは、表1に示すように、視感透過率が85%以上であり、透明性が十分に維持されているのが確認できた。
【0031】
(紫外線吸収能の評価)
紫外線吸収能の評価は、各実施例の抗菌性コンタクトレンズに紫外線を照射して紫外線吸収率を測定することによって行う。
紫外線吸収率は、入射光量に対する透過光量の割合[%]を示すものであり、本評価では、280nm以上350nm未満の波長域の紫外線による紫外線吸収率と、350nm以上380nm以下の波長域の紫外線による紫外線吸収率とを測定する。各波長域の紫外線吸収率は、波長域端から波長を5nmずつ変動させ、変動させた各波長の紫外線吸収率を平均した値である。
表1に示すように、各実施例の280nm以上350nm未満の波長域の紫外線吸収率は、いずれも95%以上であり、280nm以上350nm未満の波長域の紫外線の大部分が紫外線吸収剤によって吸収されることが確認された。
また、各実施例の350nm以上380nm以下の波長域の紫外線吸収率は、約65〜80%であり、350nm以上380nm以下の波長域の紫外線の約20〜35%が紫外線吸収剤により吸収されていないことが確認された。
【0032】
(酸化チタンの溶出評価)
酸化チタンの溶出評価は、抗菌性コンタクトレンズに含有される酸化チタンの溶出の有無を検出した結果である。
本評価では、実施例1〜6のうち最も酸化チタンの添加量が多い実施例4の抗菌性コンタクトレンズについて、溶出評価の試験を行う。溶出評価の試験は、以下のようにして行われる。
まず、乾燥させたレンズを円筒ろ紙に入れ、真空乾燥させた後に重量測定を行い、円筒ろ紙の重量との差を求め、これを試料重量とする。
続いて、レンズを入れた円筒ろ紙について、水100mLを溶媒として、4時間、ソックスレー抽出を行う。このとき得られた抽出液を水で100mLに定容させたものを抽出液とする。この得られた抽出液25mLに塩酸4.5mLを加えた後、水で定容したものを試験溶液とする。また、チタン標準液(関東化学株式会社製)を、1mol/Lの塩酸を用いて希釈し、標準溶液を調整する。
標準溶液をICP発光分光分析装置(Optima8300 PerkinElmer社製)に導入し、得られた発光強度とその濃度から検量線を作成する。次いで、試験溶液をICP発光分光分析装置に導入し、得られた発光強度を先の検量線からチタン濃度を求め、試料当たりのチタン濃度(μg/g)を算出する。
【0033】
上記試験の結果、試験溶液からは発光強度が検出されなかった。これにより、実施例4の抗菌性コンタクトレンズからは、酸化チタンが溶出していないことが確認された。また、各実施例の抗菌性コンタクトレンズの中で最も酸化チタンの添加量が多かった実施例4において、上述のように酸化チタンの溶出が確認されなかったことから、実施例4よりも酸化チタンの添加量が少ない他の実施例の抗菌性コンタクトレンズにおいても酸化チタンの溶出はないものと予測される。
【0034】
(殺菌試験)
殺菌試験は、実施例1〜3の抗菌性コンタクトレンズを付着させた試験菌液と、抗菌性コンタクトレンズを付着させていない試験菌液のみとに対して365nmの紫外線を照射し、両者に含まれる試験菌の減少量を比較することによって行う。試験菌の減少量は、対数平均減少値を用いて評価する。
本試験では、試験菌として、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:ATCC 9027)を使用する。この試験菌をソイビーン・カゼイン・ダイジェスト(SCD)カンテン培地に移植した後、30〜35℃で22時間又は24時間培養し、生理食塩液に懸濁して10
8CFU(Colony Forming Units)/mL相当の生菌を含む菌液を調整する。この菌液を生理食塩液で希釈し、10
6CFU/mL相当としたものを試験菌液とする。
【0035】
本試験に使用する試験対象は、2つの分離した空間を有するアクリルケースの各空間に、試験菌液を1.5mL分注し、一方の空間には、実施例の抗菌性コンタクトレンズを1枚配置して試験菌液に付着させ、他方の空間には、抗菌性コンタクトレンズを配置せず試験菌液のみとする。このアクリルケースの各空間に対して紫外線を8時間照射する。
ここで、紫外線を照射する光源は、365nmのLEDライト(日亜化学工業株式会社製、NSSU100C)を用い、照射対象(抗菌性コンタクトレンズ、試験菌液)から17mmの位置に配置される。
【0036】
菌数の測定は、カンテン平板混釈法により実施する。紫外線照射から8時間経過後の試験菌液を各試験対象からそれぞれ回収して、生理食塩液で10倍段階希釈する。回収した試験菌液及びそれぞれの希釈液1mLを2枚のシャーレに分注し、ここに滅菌後、予め50℃に設定した恒温器で保温したSCDカンテン培地15〜20mLを添加して混釈する。室温でカンテンを固化させた後、30〜35℃で5日間培養する。
培養後に出現する菌の集落数を計測し、その菌の集落数の平均値に希釈倍率を乗じて8時間経過後の試験菌液1mLあたりの生菌数を算出する。
実施例1〜3の各抗菌性コンタクトレンズについて、試験対象を準備して上記試験を行った結果、菌の減少量を示す平均対数減少値は、表1に示すように、実施例1の抗菌性コンタクトレンズが6.0であり、実施例2の抗菌性コンタクトレンズが3.8であり、実施例3の抗菌性コンタクトレンズが2.9となった。いずれも1よりも大きな値であったことから、殺菌効果が十分であることが確認された。また、抗菌性コンタクトレンズを付着させていない試験菌液に紫外線を照射しても平均対数減少値が小さな値であったことから、菌の減少が酸化チタンの光触媒作用によるものであることが確認された。
【0037】
以上より、本発明の抗菌性コンタクトレンズは、以下のような効果を奏する。
(1)本発明の抗菌性コンタクトレンズは、カルボキシル基を有する化合物と、その化合物に結合し、光触媒作用を有する酸化チタンと、紫外線吸収剤とが含まれている。そのため、使用者が目に装用している間に太陽光に含まれる紫外線が入射したとしても、紫外線吸収剤によって吸収されるため使用者の眼に届くことはなく、装用時における抗菌性コンタクトレンズの安全性を高めることができる。
また、酸化チタンは、コンタクトレンズを構成する二官能性モノマーによる架橋効果と共に、カルボキシル基を有する化合物と好適に相互作用を及ぼすので、酸化チタンがコンタクトレンズから溶出してしまうのを効率よく抑制することができ、これによっても装用時における本発明の抗菌性コンタクトレンズの安全性を向上させることができる。
【0038】
更に、抗菌性コンタクトレンズの装用後(取り外し後)において、特定の波長域外(350nm以上380nm以下)の紫外線を所定の時間照射することによって、酸化チタンの光触媒反応を生じさせて、抗菌性コンタクトレンズの抗菌殺菌効果を容易に発揮させることができる。
更にまた、本発明の抗菌性コンタクトレンズは、酸化チタン及び紫外線吸収剤を添加するのみで製造できるので、抗菌性コンタクトレンズを安価に、また、容易に製造することができ、大量に生産される使い捨てタイプのコンタクトレンズに特に有効に適用することができる。
【0039】
(2)本発明の抗菌性コンタクトレンズは、カルボキシル基を有する化合物と光触媒作用を有する酸化チタンとを予め混合した後に、当該抗菌性コンタクトレンズ用成分原料と紫外線吸収剤を添加して重合させている。これにより、酸化チタンとカルボキシル基を有する化合物とを好適に相互作用をさせることができ、酸化チタンが抗菌性コンタクトレンズから溶出してしまうのをより効果的に抑えることができる。
【0040】
(3)本発明の抗菌性コンタクトレンズは、350nm未満の紫外線を吸収する紫外線吸収剤を用いるので、使用者が目に装用している間に太陽光等に含まれる紫外線が入射したとしても、光触媒反応を強く生じさせてしまう350nm未満の紫外線が、紫外線吸収剤によって吸収されるため使用者の眼に届くことはない。また、紫外線のうち350nm以上380nm以下の紫外線も、その大部分が酸化チタンや紫外線吸収剤によって吸収されることとなり、抗菌性コンタクトレンズと使用者の角膜との界面にまで届く紫外線の量を大幅に減少することができ、使用者の眼に対して影響を与えるものでなく、装用時における抗菌性コンタクトレンズの安全性を高めることができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、後述する変形形態のように種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。また、実施形態に記載した効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態に記載したものに限定されない。なお、前述した実施形態及び後述する変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【0042】
(変形形態)
上述の実施形態において、紫外線吸収剤は、350nm以下の波長域の紫外線を主に吸収する例で説明したが、これに限定されるものでない。紫外線吸収剤は、上記波長とは相違する波長域、例えば、360nm以下の波長域や、340nm以下の波長域の紫外線を主に吸収するようにしてもよい。