(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-165065(P2016-165065A)
(43)【公開日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】画像用ノイズ低減装置、画像用符号化装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 19/117 20140101AFI20160815BHJP
H04N 19/136 20140101ALI20160815BHJP
H04N 19/172 20140101ALI20160815BHJP
【FI】
H04N19/117
H04N19/136
H04N19/172
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-44938(P2015-44938)
(22)【出願日】2015年3月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰子
(72)【発明者】
【氏名】境田 慎一
【テーマコード(参考)】
5C159
【Fターム(参考)】
5C159KK01
5C159LA00
5C159PP15
5C159PP16
5C159TA01
5C159TB04
5C159TC02
5C159TD08
5C159TD17
5C159UA02
5C159UA11
(57)【要約】
【課題】高周波ノイズを含む複数種類のノイズ低減処理を、高速に行うことができる画像用ノイズ低減装置、画像用符号化装置、及びプログラムを提供する。
【解決手段】原画像を初期値としてN-1回(N≧1)反復計算を適用した結果である画像に、当該画像の上下左右方向の画素値変動と重みづけ情報から得られるオフセット値を足してN回反復計算を適用した結果の画像を作成することにより、ノイズが低減された画像を得る画像用ノイズ低減装置において、前記重みづけ情報を、原画像を平滑化処理した後の上下左右方向の画素値変動からエッジ部分か否かを示す情報とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の画像を平滑化処理した後の上下左右方向の画素値変動からエッジ部分か否かを示す重みづけ情報を求め、
原画像を初期値としてN-1回(N≧1)反復計算を適用した結果である第2の画像に、前記第2の画像の上下左右方向の画素値変動と前記重みづけ情報から得られるオフセット値を足してN回反復計算を適用した結果の画像を作成することにより、ノイズが低減された画像を得る画像用ノイズ低減装置であって、
前記第1の画像は原画像であることを特徴とする画像用ノイズ低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像用ノイズ低減装置において、前記平滑化処理は畳み込み演算である画像用ノイズ低減装置。
【請求項3】
請求項1に記載の画像用ノイズ低減装置において、前記画像は動画像であって、前記平滑化処理は前記原画像と連続するフレームの平均化処理である画像用ノイズ低減装置。
【請求項4】
請求項1に記載の画像用ノイズ低減装置において、前記画像は動画像であって、前記平滑化処理は所定のブロックごとに、畳み込み演算と、前記原画像と連続するフレームの平均化処理とを選択可能である画像用ノイズ低減装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の画像用ノイズ低減装置を、プレフィルタに備えた画像用符号化装置。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から4のいずれか一項に記載の画像用ノイズ低減装置、又は請求項5に記載の画像用符号化装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理に関し、特に、画像用ノイズ低減装置、画像用符号化装置、及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、4K(空間解像度/フレーム周波数:3840x2160/60pなど)、8K(空間解像度/フレーム周波数:7680x4320/60p, 7680x4320/120pなど)といった超高解像度映像の普及が進んでいる。
【0003】
しかし、超高解像度映像をカメラで撮影すると、センサーの密度が高いために1画素あたりの光量を十分にとることができず、暗部のノイズが目立つという問題点がある。さらに、ノイズを含む映像はHEVC(High Efficiency Video Coding)/H.265などの既存の映像符号化方式では圧縮効率が悪く、ビットレートを低く設定した際に画質劣化が目立つという問題点がある。
【0004】
図7に8Kカメラで撮影した画像の切り出し部分(640x480画素)を示す。
図7にはランダムな縦線状のノイズと粒状のノイズが見られる。
【0005】
画像のノイズを低減する方法として、非特許文献1には偏微分方程式(PDE: Partial Differential Equation)に基づく様々な手法が記載されている。PDEに基づく最も基本的なノイズ低減手法として、数式(1)に示す熱拡散方程式を用いた手法が知られている。
【0006】
【数1】
【0007】
【0008】
【数2】
【0009】
【0010】
図9は、
図7の画像に対して数式(2)の処理を適用した結果の画像である。dt=0.01とし、反復計算は100回行った。
【0011】
図9に見られるように、熱拡散方程式を用いた手法では画像が平滑化されてノイズが低減されるものの、エッジ部分もぼけてしまうという問題点がある。これは画像のエッジ部分と平坦な部分が考慮されずに常に等方向に画素値が拡散され、平滑化されるためである。
【0012】
画像のエッジ部分では画素値の拡散が生じないように改善したPDEによる手法として、数式(3)で示されるPerona, Malikによる非等方拡散法(PMD法: Perona-Malik Anisotropic Diffusion)が知られている。
【0013】
【数3】
【0014】
【0015】
Perona, Malikは、次式(4)のようにPMDを離散化して、反復法で表すことを提案した。
【0016】
【数4】
【0017】
数式(4)において▽はgradと異なる演算であり、N, S, E, W (North, South, East, West)はそれぞれ上、下、右、左の画素との差を示す。関数g
1,g
2は関数gの具体例で画素値を拡散する際の重み付けを決定する関数であり、Kは定数である。λの範囲は、第1式が収束する範囲を意味する。
【0018】
図10は、
図7の画像に対して数式(4)の処理を適用した結果の画像である。変化量λ=0.05とし、関数gはg
2,K=30として、反復演算を100回行った。なお、このλは、上記のλの範囲内で適宜選択することができる。
【0019】
図10に見られるようにPMDではエッジが保存されるため、
図9に比べてぼけ感が少ない。しかし、粒状のノイズが残るという問題点がある。これはPMDでは原画像に高周波ノイズがある場合にエッジとの区別がつかないためである。
【0020】
この問題点を解決するために、Catteらは次式(5)で示される正則化PMD法を提案した。
【0021】
【数5】
【0022】
数式(5)において、Gσは例えばガウシアンフィルタのような平滑化処理を示す。平滑化処理を行った後にエッジ部分の判定を行うため、エッジと高周波ノイズとの区別がつきやすくなる。数式(3)と数式(4)の関係より、数式(5)を離散化すると、次式(6)のようになる。
【0023】
【数6】
【0024】
図11は、
図7の画像に対して数式(6)の処理を適用した結果の画像である。λ=0.01、関数gはg
2,K=30、平滑化処理Gはσ=1.0の5x5ガウシアンフィルタとして、反復演算を80回(N=80)行った。正則化PMD法を用いるとエッジを保ちながら高周波ノイズを低減することができる。
【0025】
図12は、数式(6)の処理、すなわち、正則化PMD法による画像用ノイズ低減装置の動作を示すフローチャートである。
【0026】
まず、ステップ1(以下、S1のように表記する。)において、ループ計算を行なうための繰り返し回数Mを1と初期設定し、S2へ進む。
【0027】
S2において、画像u
M-1の取り込みを行う。画像u
M-1の取り込みは、処理装置の記憶部に、画像u
M-1のデータを読み込んで保存する等の通常の処理を行うことで実現できる。なお、M=1のときの画像u
0は、原画像を用いる。
【0028】
S3では、画像u
M-1の各画素について、上下左右の画素との差▽
Nu,▽
Su,▽
Eu,▽
Wu(数式(4)を参照)をそれぞれ計算する。なお、S3以降の処理ステップは、例えば演算処理装置を利用して実現できる。
【0029】
S4では、画像u
M-1に対して、ガウシアンフィルタGを適用し、S5へ進む。
【0030】
S5において、S4の処理結果の画像に対して、各画素の上下左右の画素との差▽をそれぞれ計算し、S6へ進む。
【0031】
次にS6において、S5の結果に基づいて関数gを計算し、係数c
N,c
S,c
E,c
Wをそれぞれ求め、S7へ進む。これら係数cが、エッジ部分か否かを示す重み付け情報となる。
【0032】
S7では、S2で得た画像u
M-1と、S3で計算した差▽と、S6で求めた係数cを利用し、さらに変化量λを用いて、数式(6)の第1式に基づいて各画素値を計算し、画像u
Mを作成する。
【0033】
次に、S8において、Mに1を加えて、S9に進む。
【0034】
S9では、繰り返し回数の判定を行う。Mと予定された繰り返し回数Nとを比較し、MがNを上回っていれば処理を終了する。MがNを上回っていなければ、新たなMに基づいて、S2からS9までのステップを繰り返す。このようにして、数式(6)の処理が実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0035】
【非特許文献1】Gilles Aubert and Pierre Kornprobst, "Mathematical problems in image processing: Partial Differential Equations and the Calculus of Variations," Springer, Applied Mathematical Sciences, Vol 147, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
熱拡散方程式を使用した方法では高周波ノイズを低減することができるが、エッジがぼやけるという問題点がある。一方、PMD法はエッジを保ったままノイズを低減することができるが、高周波ノイズを低減できないという問題点がある。
【0037】
正則化PMD法ではエッジを保ったまま高周波ノイズを低減することができるが、平滑化処理を反復ごとに行うために計算量が多く、特に動画像のリアルタイム処理には向いていないという問題がある。
【0038】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、より高速に高周波ノイズを含む複数種類のノイズ低減処理を行うことができる画像用ノイズ低減装置、画像用符号化装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0039】
上記課題を解決するために本発明に係る画像用ノイズ低減装置は、第1の画像を平滑化処理した後の上下左右方向の画素値変動からエッジ部分か否かを示す重みづけ情報を求め、原画像を初期値としてN-1回(N≧1)反復計算を適用した結果である第2の画像に、前記第2の画像の上下左右方向の画素値変動と前記重みづけ情報から得られるオフセット値を足してN回反復計算を適用した結果の画像を作成することにより、ノイズが低減された画像を得る画像用ノイズ低減装置であって、前記第1の画像は原画像であることを特徴とする。
【0040】
また、前記画像用ノイズ低減装置において、前記平滑化処理は畳み込み演算であることが望ましい。
【0041】
また、前記画像用ノイズ低減装置において、前記画像は動画像であって、前記平滑化処理は前記原画像と連続するフレームの平均化処理であることが望ましい。
【0042】
また、前記画像用ノイズ低減装置において、前記画像は動画像であって、前記平滑化処理は所定のブロックごとに、畳み込み演算と、前記原画像と連続するフレームの平均化処理とを選択可能であることが望ましい。
【0043】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る画像用符号化装置は、前記画像用ノイズ低減装置を、プレフィルタに備えたことを特徴とする。
【0044】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上記画像用ノイズ低減装置、又は上記画像用符号化装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0045】
本発明における画像用ノイズ低減装置、画像用符号化装置、及びプログラムによれば、ノイズ低減処理を高速に行うことができ、画質が向上するとともに、圧縮した際の符号化効率がよくなるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】実施例1の画像用ノイズ低減装置の動作を示すフローチャートである。
【
図2】実施例1のノイズ低減処理を行った結果の画像である。
【
図3】実施例2の画像用ノイズ低減装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】実施例2のノイズ低減処理を行った結果の画像である。
【
図5】本発明の画像用符号化装置のブロック図である。
【
図6】本発明による符号化実験の結果を示すグラフである。
【
図7】画像用ノイズ低減処理を行う対象としての原画像である。
【
図9】熱拡散方程式に基づくノイズ低減処理を行った結果の画像である。
【
図10】PMD法に基づくノイズ低減処理を行った結果の画像である。
【
図11】正則化PMD法に基づくノイズ低減処理を行った結果の画像である。
【
図12】正則化PMD法の画像用ノイズ低減装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0048】
(実施の形態1)
実施の形態1として、画像用ノイズ低減装置について説明する。
【実施例1】
【0049】
本発明の実施例1は、平滑化処理としてフィルタの畳み込み演算を利用し、関数gを求めて画像のノイズ低減を行う装置である。
【0050】
動画像の各フレームに対して本発明の実施例1のノイズ低減処理を適用する場合を考える。一般に、静止画に対して数式(6)を適用する際には、より鮮明な画像を得るために、変化量λを微小(0.01〜0.05程度)にして反復計算を100回程度行っている。しかし、動画像では1フレームあたりの表示時間が短いことや動きぼけがあるため、静止画に適用する場合よりも鮮明で無くても良い。したがって、動画像に適用する際には変化量λを大きく(0.05〜0.2程度)とり、反復計算は10回程度とする。
【0051】
数式(7)に、本発明の実施例1による演算を示す。数式(7)は関数gの計算に常に原画像u
0を使用している点で、数式(6)と異なる。
【0052】
【数7】
【0053】
ここで、数式(7)の第1式のように反復演算を行う場合において、右辺第2項は、前の画素値(右辺第1項)に対して加算(又は差し引き演算)していく差分であり、「オフセット値」と呼ばれる。他の式においても同様である。
【0054】
図1は、数式(7)の処理、すなわち、実施例1の画像用ノイズ低減装置の動作を示すフローチャートである。
【0055】
まず、S1において、原画像u
0の取り込みを行う。原画像u
0の取り込みは、ノイズ低減装置の記憶部に、画像u
0のデータを読み込んで保存する等の通常の処理を行うことで実現できる。なお、以降の処理ステップは、例えば演算処理装置を利用して実現できる。
【0056】
次に、S2では、画像u
0に対して、ガウシアンフィルタGを用いた畳み込み演算を適用し、S3へ進む。
【0057】
S3において、S2の処理結果の画像に対して、各画素の上下左右の画素との差▽をそれぞれ計算し、S4へ進む。
【0058】
次にS4において、S3の結果に基づいて関数gを計算し、係数c
N,c
S,c
E,c
Wをそれぞれ求め、S5へ進む。これら係数cが、エッジ部分か否かを示す重み付け情報となる。
【0059】
S5において、ループ計算を行なうための繰り返し回数Mを1と初期設定し、S6へ進む。
【0060】
S6では、画像u
M-1の取り込みを行う。なお、M=1のときの画像u
0は、原画像を用いる。
【0061】
S7では、画像u
M-1の各画素について、上下左右の画素との差▽
Nu,▽
Su,▽
Eu,▽
Wu(数4を参照)をそれぞれ計算し、S8へ進む。
【0062】
S8では、S4で求めた係数cと、S6で得た画像u
M-1と、S7で計算した差▽とを利用し、さらに変化量λを用いて、数式(7)の第1式に基づいて各画素値にオフセット値を加える計算をし、画像u
Mを作成する。
【0063】
次に、S9において、Mに1を加えて、S10に進む。
【0064】
S10では、繰り返し回数の判定を行う。Mと予定された繰り返し回数Nとを比較し、MがNを上回っていれば処理を終了する。MがNを上回っていなければ、S6に戻り、新たなMに基づいて、S6からS10までのステップを繰り返す。
【0065】
図1のフローチャートから明らかなように、計算量を減らすために関数gの計算をループ内で更新せず、原画像に基づいて計算(S1〜S4)した後は常に同じ値をとるようにしている。
【0066】
図2は、
図7の画像に対して数式(7)の処理(
図1のフローチャートの処理)を適用した結果の画像である。
図1のS4において関数gはg
2,K=30とし、S8においてλ=0.05、平滑化処理Gはσ=1.0の5x5ガウシアンフィルタとして、反復演算を10回(N=10)行った。反復計算の回数が少ないため、関数g(係数c)が常に同じ値でも影響は少ない。
【0067】
従来例(
図12の処理)と本実施例(
図1の処理)を8Kカラー画像1枚のRGB各コンポーネントに適用して計算時間を比較した。反復計算の回数をN=10として3回実行した平均で、本実施例は従来例の2.90倍速く、高速化が図られていることが確かめられた。
【0068】
本実施例では、平滑化フィルタとしてσ=1.0の5x5のガウシアンフィルタを用いたが、σはこの他の値でも良いし、フィルタは3x3など他のサイズでも良い。また、例えば3x3や5x5など各係数が1/(N×N)となるようなN×N平滑化フィルタの畳み込み演算を行っても良い。本実施例では関数gはg
2,K=30としたが、他の関数やパラメータを使用しても良い。本実施例をカラー画像に適用する場合は、RGB, YUVの各コンポーネントに対して同様の処理を行っても良いし、RGB画像のGのみやYUV画像の輝度値Yのみに適用しても良い。
【0069】
本実施例は、動画像を例として説明したが、静止画像に適用することもできる。
【実施例2】
【0070】
本発明の実施例2は、平滑化処理としてフレーム間の平均値を利用し、関数gを求めて画像のノイズ低減を行う装置である。
【0071】
動画像に対して本発明の実施例2のノイズ低減処理を適用する場合を示す。数式(8)は、本発明の実施例2による演算である。数式(8)において、ν
0はu
0に連続するフレーム(1フレーム前または1フレーム後)を示す。
【0072】
【数8】
【0073】
図3は、数式(8)の処理、すなわち、実施例2の画像用ノイズ低減装置の動作を示すフローチャートである。
【0074】
まず、S1において、原画像u
0と、原画像u
0に連続するフレームの画像ν
0の取り込みを行う。これらの画像u
0,ν
0のデータは、例えばノイズ低減装置の記憶部に保存される。
【0075】
次に、S2では、画像u
0と画像ν
0の平均値を画素毎に計算し、S3へ進む。なお、以降の処理ステップは、例えば演算処理装置を利用して実現できる。
【0076】
S3において、S2の処理結果の画像に対して、各画素の上下左右の画素との差▽をそれぞれ計算し、S4へ進む。
【0077】
次にS4において、S3の結果に基づいて関数gを計算し、係数c
N,c
S,c
E,c
Wをそれぞれ求め、S5へ進む。これら係数cが、エッジ部分か否かを示す重み付け情報となる。
【0078】
S5において、ループ計算を行なうための繰り返し回数Mを1と初期設定し、S6へ進む。
【0079】
S6では、画像u
M-1の取り込みを行う。なお、M=1のときの画像u
0は、原画像を用いる。
【0080】
S7では、画像u
M-1の各画素について、上下左右の画素との差▽
Nu,▽
Su,▽
Eu,▽
Wu(数4を参照)をそれぞれ計算し、S8へ進む。
【0081】
S8では、S4で求めた係数cと、S6で得た画像u
M-1と、S7で計算した差▽とを利用し、さらに変化量λを用いて、数式(8)の第1式に基づいて各画素値にオフセット値を加える計算をし、画像u
Mを作成する。
【0082】
次に、S9において、Mに1を加えて、S10に進む。
【0083】
S10では、繰り返し回数の判定を行う。Mと予定された繰り返し回数Nとを比較し、MがNを上回っていれば処理を終了する。MがNを上回っていなければ、S6に戻り、新たなMに基づいて、S6からS10までのステップを繰り返す。
【0084】
実施例1と同様に、計算量を減らすために関数gの計算をループ内で更新せず、常に同じ値をとるようにしている。実施例1と異なる点は、平滑化処理として連続する動画像のフレームの平均をとる処理を行っていることである。これにより、畳み込み演算よりも積和演算の回数が減少するため、ガウシアンフィルタを適用するよりも高速に処理を行うことができる。
【0085】
図4は、
図7の画像に対して数式(8)の処理(
図3のフローチャートの処理)を適用した結果である。
図3のS4において関数gはg
2,K=30とし、S8においてλ=0.05として、反復計算を10回(N=10)行った。本実施例は実施例1に比べてパラメータが少なく、調整が容易である。
【0086】
従来例(
図12の処理)と本実施例(
図3の処理)を8Kカラー画像1枚のRGB各コンポーネントに適用して計算時間を比較した。連続するフレームはノイズ低減処理を行うフレームの1フレーム後として、平均画素値を計算した。反復計算の回数をN=10として3回実行した平均で、本実施例は従来例の3.02倍速く、実施例1よりもさらに高速化がはかられていることが確かめられた。
【0087】
本実施例では連続する2フレームの平均をとって平滑化を行ったが、連続するNフレーム(N≧2)や近いフレーム(GOP (Group Of Picture)サイズに合わせて±8フレームなど)との平均をとって、画像の平滑化を行っても良い。これらの場合には連続するNフレーム内、近いフレーム内、GOP内で同じ平滑化値を使用しても良い。これによって演算量を減らすことができ、さらに高速化をはかることができる。
【実施例3】
【0088】
本発明の実施例3は、画像の平滑化処理の手段をブロック毎に選択可能にし、関数gを求めて画像のノイズ低減を行う装置である。
【0089】
実施例1では、各フレーム全体でフィルタによる畳み込み演算を行って画像を平滑化し、また、実施例2では連続するフレーム全体の平均をとって画像を平滑化したが、本実施例3では、例えば16x16など所定の画素ブロックごとに、フレーム間の平均値とフィルタによる畳み込み演算による平滑化を切り換えることができる。画素ブロックのサイズは、画像に応じて適宜選択することができる。
【0090】
図1又は
図3のフローチャートにおける、S1からS4までのステップを画素ブロック毎にそれぞれ選択した手段によって行い、得られたgの値(重み付け係数c)を画素ブロック毎に保存した後は、S5以降のステップは、画像全体で行うことが効率的である。
【0091】
平滑化手段の選択にあたっては、連続するフレームの差分を取って動画の静動判定をし、動きが少ない部分は連続フレームの平均をとり、動きが大きい部分は畳み込み演算をするとエッジ部分を検出する精度が良くなる。
【0092】
以上の実施例では、関数gはg
2,K=30としたが、他の関数やパラメータを使用しても良い。本実施例をカラー画像に適用する場合は、RGB, YUVの各コンポーネントに対して同様の処理を行っても良いし、RGB画像のGのみやYUV画像の輝度値Yのみに適用しても良い。
【0093】
(実施の形態2)
実施の形態2として、実施の形態1に示した画像用ノイズ低減装置を、プレフィルタとして用いた画像用符号化装置(映像符号化装置)について説明する。
【0094】
図5は、実施の形態2の画像用符号化装置100の一例を示すブロック図である。実施例1〜3の画像用ノイズ低減装置を、映像符号化処理の前段に適用し、プレフィルタとして用いている。
【0095】
画像用符号化装置100は、プレフィルタ110と映像符号化部120とを備える。プレフィルタ110は、実施例1〜3の画像用ノイズ低減装置と同等のものであり、
図1や
図3等に示されたフローチャートの各ステップを行う。プレフィルタ110は、原画像u
0を入力とし、ノイズ低減画像u
Nを出力とする。また、プレフィルタ(画像用ノイズ低減装置)110は、変化量λ、反復回数N、関数g等を、外部より設定することができるように構成することが望ましい。
【0096】
映像符号化部120は、ノイズ低減画像u
Nに対して符号化処理を行い、符号化データを出力する。符号化処理としては、公知のHEVC/H.265方式やAVC/H.264方式等を選択することができる。
【0097】
プレフィルタ無しの原画像とプレフィルタ有りの従来例(
図12)、実施例1(
図1)、実施例2(
図3)をそれぞれ適用した8K画像1枚を用いてHEVC/H.265方式による符号化実験を行った。
【0098】
プレフィルタ有りの条件では反復演算の回数は10回とし、関数gはg
2,K=30とした。実験には
図7の切り出し元となった8Kカラー画像を使用し、RGB各コンポーネントにプレフィルタを適用した後、YUV420画像に変換した。符号化にはHEVC標準化に使用されている参照ソフトウェアHM(HEVC test Model)バージョン12.1を使用し、共通実験条件のうち画面内予測のみを用いるIntra条件に設定した。共通実験条件に合わせて22, 27, 32, 37の4種類のQP(符号化品質のパラメータ)を設定して実験を行った。
【0099】
図6に実験結果のグラフを示す。グラフの縦軸はPSNR (Peak signal-to-noise ratio)を示し、数字が大きくなるほど画質が高品質であることを意味する。グラフの横軸はビットレートを示す。
【0100】
図6に見られるように、プレフィルタ有りの条件では無しの条件に比べて極めて高品質になっており、従来例、実施例1、実施例2の結果はほぼ同等である。符号化効率を計算したところ、いずれも4.4倍(同じPSNRになるときのビットレートが平均でプレフィルタ無しの4.4分の1)であり、実施例1および2とも高速化がはかられているが、従来法と変わらない品質となることが確かめられた。
【0101】
本実施例では関数gはg
2,K=30としたが、他の関数やパラメータを使用しても良い。本実施例ではRGBカラー画像の各コンポーネントにプレフィルタを適用したが、Gのみに適用しても良いし、YUV変換した後に各コンポーネントや輝度値Yのみに適用しても良い。
【0102】
なお、上述した画像用ノイズ低減装置、又は画像用符号化装置として機能させるためにコンピュータを好適に用いることができ、そのようなコンピュータは、画像用ノイズ低減装置、又は画像用符号化装置の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータの中央演算処理装置(CPU)によってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。なお、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に記録可能である。
【0103】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロックやステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0104】
100 画像用符号化装置
110 プレフィルタ(画像用ノイズ低減装置)
120 映像符号化部