【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日 平成26年10月2日,3日 集会名、開催場所 第15回千歳光科学国際フォーラム 千歳科学技術大学(千歳市美々758番地65) 〔刊行物等〕 発行日 平成26年10月2日 刊行物 第15回千歳光科学国際フォーラムの要旨集,第55頁
【解決手段】三価の希土類イオンと、該希土類イオンに配位している配位子と、を有する希土類錯体。式(1)で表されるアニオン基、及び/又は2つ以上のカルボキシラート基を有する酸アニオン配位子と、エノラート基を有するエノラート配位子と、を含む配位子。
前記配位子が、前記酸アニオン配位子及び前記エノラート配位子とは異なる単座配位子及び/又はキレート配位子を更に含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の希土類錯体。
三価の希土類イオンと該希土類イオンに配位しエノラート基を有する2つ以上のエノラート配位子とを有する前駆体錯体を、リン原子を含有する酸基、及び/又は2つ以上のカルボキシ基を有する有機酸化合物と反応させて、前記前駆体錯体が有する前記エノラート配位子の一部を前記有機酸化合物からプロトンが脱離して形成される酸アニオン基を有する酸アニオン配位子に交換する工程を備える、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の希土類錯体を製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る希土類錯体は、三価の希土類イオンと、該希土類イオンに配位している配位子とを有する。
【0015】
三価の希土類イオンは、例えば、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン、Sm(III)イオン、Yb(III)イオン、Nd(III)イオン及びEr(III)イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり得る。なかでも、高い発光強度及び耐熱性を得る観点からは、希土類イオンは、Eu(III)イオン又はTb(III)イオンのうち少なくとも一方であってもよく、Eu(III)イオンであってもよい。
【0016】
希土類錯体は、希土類イオンに配位している2種以上の配位子を有する。この配位子は、酸基からプロトンが脱離して形成されるアニオン基を有する酸アニオン配位子と、エノラート基を有するエノラート配位子とを含む。希土類イオンは、6配位以上の配位構造を形成していてもよい。
【0017】
酸アニオン配位子は、リン原子を含有する酸基を有するリン酸系化合物からプロトンが脱離して形成されるアニオン性の配位子(以下「リン酸系配位子」ということがある)であってもよい。リン原子を含有する酸基は、ホスフィン酸基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、リン酸基又はリン酸エステル基であってもよい。リン酸系化合物から形成されるリン酸系配位子は、下記式(1)で表される2価のアニオン基を共通の構造として有する。
【0019】
式(1)のアニオン基は、希土類イオンに対して2座配位子として機能し、下記(100)で模式的に表される構成単位のように、1対の希土類イオンMが、それらに配位する1つのリン酸系配位子によって橋かけされ得る。このような橋かけによって希土類イオンが連結されることで、高温でも分解し難い剛直な構造が形成され、それにより希土類錯体の耐熱性が飛躍的に向上すると考えられる。
【0021】
本実施形態に係る希土類錯体は、式(100)で表される構成単位を2つ以上含み得る。式(100)中のそれぞれのMは、図示していないが、リン酸系配位子以外の配位子(後述のエノラート配位子を含む)と配位結合を形成していることが多い。希土類錯体は、リン酸系配位子によって橋かけされた希土類イオンを2組以上含んでいてもよい。ただし、希土類錯体は、橋かけされていない希土類イオンを含んでいてもよいし、橋かけ構造を形成していないリン酸系配位子も含んでいてもよい。
【0022】
リン酸系配位子を形成するリン酸系化合物は、例えば、下記式(10)若しくは(11)で表されるような、ホスフィン酸基を有するホスフィン酸化合物、下記式(12)で表されるような、ホスホン酸基若しくはホスホン酸エステル基を有するホスホン酸化合物、又は、下記式(13)で表されるような、リン酸基若しくはリン酸エステル基を有するリン酸化合物であってもよい。
【0024】
これら式中、R
1は1価の有機基を示し、R
2はリン酸基(−P(=O)(OH
2)
2)又は1価の有機基を示す。xは1又は2を示し、yは1、2又は3を示す。同一分子中の2つのR
1及びR
2は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに結合して2価の有機基を形成していてもよい。
【0025】
R
1は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、又は置換基を有していてもよいアルキル基であってもよい。R
1としてのアリール基は、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、2,2’−ビフェニル基、1,1’−ビナフチル基であってもよい。R
1としてのヘテロアリール基は、例えば、ピリジル基であってもよい。R
1としてのアルキル基は、例えば、炭素数1〜10のアルキル基であってもよく、ドデシル基等の炭素数11以上のアルキル基であってもよい。これらの有機基は、リン酸基(−OP(=O)(OH
2)
2)、水酸基等の置換基によって置換されていてもよい。R
2としての1価の有機基も、R
1と同様の有機基から選択され得る。
【0026】
式(10)又は(11)で表されるホスフィン酸化合物は、下記式(10a)又は(11a)で表される化合物であってもよい。式(10a)及び(11a)中、R
11、R
12、R
13、R
14及びR
15は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基(メチル基等)、又はフッ素原子であってもよい。式(10a)で表される化合物の具体例は、ジフェニルホスフィン酸を含む。式(11a)で表される化合物の具体例は、フェニルホスフィン酸、4−メチルフェニルホスフィン酸を含む。
【0028】
式(12)で表されるホスホン酸化合物は、例えば、下記式(12a)で表される化合物であってもよい。式(12a)中、R
20は2価の有機基であり、置換基(水酸基等)を有していてもよいアルキレン基であってもよい。式(12a)の化合物の具体例は、下記(式12a−1)で表される化合物を含む。式(12a−1)中、R
21は置換されていてもよいアルキル基(メチル基等)を示す。
【0031】
式(13)で表されるリン酸化合物は、下記式(13a)又は(13b)で表される化合物であってもよい。式(13a)中のR
11〜R
15は、式(10a)のR
11〜R
15と同様の基である。(13b)中のR
30、R
31、R
32、R
33、R
34、R
35、R
36、R
37、R
38、R
39、R
40、及びR
41は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基(メチル基等)、ハロゲン基、芳香族基等であってもよい。式(13a)で表される化合物の具体例は、リン酸ジフェニルを含む。式(13b)で表される化合物の具体例は、リン酸水素1,1’−ビナフチル−2,2’−ジイルを含む。
【0033】
式(13)で表されるリン酸化合物は、下記式(13c)、(13d)又は(13e)で表される化合物であってもよい。式(13c)中、R
42は炭素数1〜20のアルキル基(例えば、ドデシル基)を示す。式(13d)の化合物はリン酸である。式(13e)の化合物は二リン酸である。
【0035】
酸アニオン配位子は、2つ以上のカルボキシラート基(−COO
−)を有する配位子(ポリカルボキシラート配位子)であってもよい。このポリカルボキシラート配位子も、リン酸系配位子と同様に、希土類イオンの橋かけ構造を形成し、耐熱性向上に寄与することができる。
【0036】
ポリカルボキシラート配位子を形成するポリカルボン酸化合物の具体例は、クエン酸、サリチル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−ヒドロキシテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、トリメシン酸、1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼン、及びビフェニル−3,3’,5,5’−テトラカルボン酸を含む。
【0037】
希土類錯体を構成するエノラート配位子は、例えば、下記式(20)で表される。エノラート配位子は、長波長(例えば300〜450nm)の励起光での増感作用を有するアンテナ配位子として機能し得る。このエノラート配位子は、長波長の光による希土類イオンの発光に寄与する。
【0039】
式中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいジアリールホスフィノ基、置換されていてもよいジヘテロアリールホスフィノ基、炭素数1〜10のジアルキルホスフィノ基、炭素数1〜10のアルキルアリールホスフィノ基又は炭素数1〜10のアルキルヘテロアリールホスフィノ基を示し、Zは水素原子又は重水素原子を示す。
【0040】
R
3又はR
4としてのアルキル基は、例えばメチル基又はtert−ブチル基であってもよい。R
3又はR
4としてのアルキル基は、例えばトリフルオロメチル基又はパーフルオロブチル基であってもよい。
【0041】
R
3又はR
4としてのアリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基又はアントリル基であってもよい。ジアリールホスフィノ基及びアルキルアリールホスフィノ基中のアリール基も同様である。
【0042】
R
3又はR
4としてのヘテロアリール基はピリジル基、チエニル基、フリル基、ピラゾリル基又はイミダゾリル基であってもよい。ジヘテロアリールホスフィノ基及びアルキルヘテロアリールホスフィノ基中のヘテロアリール基も同様である。
【0043】
R
3又はR
4としてのアリール基等を置換し得る置換基は、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、フェニル基又はナフチル基である。
【0044】
エノラート配位子は、β―ジケトン化合物から誘導される配位子であってもよい。β−ジケトンは、例えば、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ジベンゾイルメタン、4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ブタンジオン、4,4,4−トリフルオロ−1−{5−(2−メチルチエニル)}−1,3−ブタンジオン、4,4,4−トリフルオロ−1−(2−ナフチル)−1,3−ブタンジオン、及び2,2−ジメチル−6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−3,5−オクタンジオンから選ばれる。β−ジケトン化合物の具体例は、以下の化合物を含む。tBuはtert−ブチル基を示す。
【0046】
希土類錯体は、配位子として、上記リン酸系配位子及び上記エノラート配位子とは異なる、単座配位子及び/又はキレート配位子を更に有していてもよい。この配位子も、希土類錯体の長波長での発光特性等の更なる向上に寄与し得る。
【0047】
単座配位子及び/又はキレート配位子は、ホスフィンオキシド基を有する化合物、及び窒素原子又は硫黄原子、酸素原子を配位子として有する化合物から選ばれる配位子であってもよい。窒素原子を配位子として有する化合物としては、例えば、ピリジン環含有化合物等の環上に窒素を含有する複素芳香族化合物、第三級アミンが挙げられる。硫黄原子を配位子として有する化合物としては、例えば、スルフィド基を含有する化合物、硫黄原子を環上に有する複素不飽和環式化合物が挙げられる。酸素原子を配位子として有する化合物としては、例えばケトンが挙げられる。
【0048】
単座配位子及び/又はキレート配位子の具体例は、トリフェニルホスフィンオキシド(TPPO)、1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)(Biphepo)、ビス[2−(ジフェニルホスホリル)フェニル]エーテル(dpepo)、4,5−ビス(ジフェニルホスホリル)−9,9−ジメチルキサンテン(xantpo)、4,5−ビス(ジ−t−ブチルホスホリル)−9,9−ジメチルキサンテン(tBu−xantpo)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、1,10−フェナントロリン、ピリジン、ビピリジン、タービピリジン、チオフェン、トリアリルアミン、ジピリジルケトン、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(N,N−ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)チオベンゾフェノン及びミヒラーズケトンを含む。
【0049】
酸アニオン配位子及びその他の配位子と配位結合を形成しながら連結された複数の希土類イオンを含む希土類錯体を、本明細書では式:
[M(EL)
x(L)
y(AL)
z]
n
のように表記することがある。式中、Mは希土類イオンを示し、ALは酸アニオン配位子を示し、ELはエノラート配位子を示し、Lはその他の単座配位子又はキレート配位子を示す。nは、希土類錯体がM、EL、L及びPLを含む複数の構成単位を含むことを意味する記号として便宜的に用いられている。x、y及びzは、それぞれ、希土類錯体全体における、Mに対するEL、L及びPLの配位数に相当する。x、y、及びzの具体的な数値は特に限定されないが、例えば、xは1又は2であってもよく、yは0〜3であってもよく、zは3−xであってもよい。
【0050】
本実施形態に係る希土類錯体は、例えば、三価の希土類イオンと該希土類イオンに配位しエノラート基を有する2つ以上のエノラート配位子とを有する前駆体錯体を、リン原子を含有する酸基及び/又は2つ以上のカルボキシ基を有する有機酸化合物と反応させて、前駆体錯体が有するエノラート配位子の一部を、有機酸化合物からプロトンが脱離して形成される酸アニオン基を有する酸アニオン配位子に交換する工程を備える方法により、製造することができる。前駆体錯体は、単座配位子及び/又はキレート配位子を更に有していてもよい。
【0051】
この方法によれば、エノラート配位子を有する希土類錯体を前駆体として用いることで、長波長による高い発光特性とともに、高い耐熱性を有する希土類錯体を効率的に製造することができる。
【0052】
前駆体錯体の具体例は、Eu(III)イオンと、エノラート配位子としてのヘキサフルオロアセトナート(hfa)と、単座配位子としてのH
2Oとを有するEu(hfa)
3(H
2O)
2、Eu(III)イオンと、hfaと、単座配位子としてのトリフェニルホスフィンオキシド(TPPO)とを有するEu(hfa)
3(TPPO)
2、Eu(III)イオンと、ジベンゾイルメタン(DBM)から誘導されるエノラート配位子と、単座配位子としてのTPPOとを有するEu(DBM)
3(TPPO)
2を含む。前駆体錯体のその他の具体例は、Eu(TTA)
3Phen、Eu(2MTTA)
3Phen、Eu(2NFA)
3Phen、Eu(DBM)
3Phen、Eu(2NFA)
3DPPhen、Eu(DBM)
3(MK)
2、及びEu(FOD)
3(MK)
2を含む。TTAは4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ブタンジオン(TTA)から誘導されるエノラート配位子を示し、2MTTAは4,4,4−トリフルオロ−1−{5−(2−メチルチエニル)}−1,3−ブタンジオンから誘導されるエノラート配位子を示し、2NFAは4,4,4−トリフルオロ−1−(2−ナフチル)−1,3−ブタンジオンから誘導されるエノラート配位子を示す。Phenは1,10フェナントロリンを示し、DPPhenは4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンを示し、MKはミヒラーズケトンを示し、FODは2,2−ジメチル−6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−3,5−オクタンジオンから誘導されるエノラート配位子を示す。
【0053】
三価の希土類イオンと該希土類イオンに配位しエノラート基を有する2つ以上のエノラート配位子とを有する前駆体錯体は、例えば、希土類イオンを、エノラート配位子を誘導するジケト化合物(例えばβ−ジケトン化合物)と反応させる工程を含む方法により、得ることができる。エノラート配位子の導入と同時に、又は、エノラート配位子を導入する工程の前若しくは後で、希土類イオンを単座配位子及び/又はキレート配位子と反応させて、単座配位子及び/又はキレート配位子を更に有する前駆体配位子を合成してもよい。この前駆体配位子を有機酸化合物と反応させることで、エノラート配位子と、単座配位子及び/又はキレート配位子と、酸アニオン配位子と有する希土類錯体を得ることができる。
【0054】
本実施形態に係る希土類錯体は、希土類イオンを、リン原子を含有する酸基及び/又は2つ以上のカルボキシ基を有する有機酸化合物、及びエノラート配位子を誘導するジケト化合物(例えばβ−ジケトン化合物)と反応させて、有機酸化合物からプロトンが脱離して形成される酸アニオン基を有する酸アニオン配位子及びエノラート配位子を希土類イオンに配位させる工程を備える方法によって、製造することもできる。この場合、エノラート配位子及び酸アニオン配位子の導入と同時に、又はエノラート配位子及び酸アニオン配位子を導入する工程の前若しくは後で、希土類イオンを単座配位子及び/又はキレート配位子と反応させて、単座配位子及び/又はキレート配位子を導入してもよい。
【0055】
希土類錯体の製造における、溶媒、温度等の反応条件は、当業者には理解されるように、通常の方法に従って適宜調整される。
【0056】
希土類錯体は、小粒径の粒子(ナノ粒子又はナノ結晶)として生成することが多い。これは、酸アニオン配位子によって複数の希土類イオンが橋かけされた構造が形成されるためであると考えられる。希土類錯体の粒子の形状は、特に制限されず、例えば、不定型、又はロッド状であってもよい。不定形の粒子の粒径(最大幅)は、例えば約200nm以下程度であってもよく、1nm以上であってもよい。ロッド状の粒子の、長手方向に垂直な断面の最大径は、例えば約200nm以下であってもよく、1nm以上であってもよい。希土類錯体の形状及び粒径は、希土類錯体の合成における、前駆体錯体の種類、反応温度、反応溶液の濃度、pH等により調整することができる。
【0057】
ナノ粒子又はナノ結晶を含有するプラスチック成形体の光の透過性を確保するためには、一般的に、ナノ粒子又はナノ結晶の粒径が波長の1/5以下であることが必要であり、1/10以下であることが望ましい。例えば、太陽光発電においては、可視領域の光が電気エネルギーに効率よく変換される一方で、紫外領域の光の電気エネルギーへの変換効率は低い。この紫外領域の光を可視領域の光に変換する用途に、本実施形態に係る希土類錯体を用いることができる。この場合、紫外領域から可視領域までの光の十分な透過性を確保するために、粒径の小ささとより均一な分散性が求められる。
【0058】
インクジェット用の顔料インクに配合される発光体として希土類錯体を用いる場合、ノズル部での目詰まりを抑制する等のために、希土類錯体を含む粒子の粒径(最大幅)が100nm以下であることが望ましい。
【0059】
LED又はディスプレイ用の発光体として希土類錯体を用いる際にも、希土類体を含む塗布用組成物の塗布性、又は樹脂マトリックスへの分散性を向上させるため、希土類錯体を含む粒子の粒径(最大幅)が100nm以下であることが望ましい。
【0060】
セキュリティインク用の発光体としても。希土類錯体を含む粒子(ナノ粒子又はナノ結晶)を利用することができる。
【0061】
本実施形態に係るプラスチック成形体は、プラスチック材料と、プラスチック材料中に分散された希土類錯体とを含有する。希土類錯体の粒子は、プラスチック材料及び溶媒への分散性が良好である。また、本実施形態の希土類錯体は優れた耐熱性を有するともに、蛍光体としての優れた特性を有している。そのため、希土類錯体とプラスチック材料とを含む樹脂組成物を容易に成形加工して、良好な発光性を有するプラスチック成形体得ることができる。
【0062】
本実施形態に係るプラスチック成形体は、例えば、希土類錯体を含む粒子をプラスチック材料に分散させて成型用の樹脂組成物を得る工程と、樹脂組成物を成型加工してプラスチック成形体を得る工程とを備える方法により、製造することができる。
【0063】
プラスチック材料に粒子を分散させる工程では、例えば、粒子を予め溶媒に分散させて得られる懸濁液をプラスチック材料等と混合するという方法が用いられる。本実施形態に係る希土類錯体は、溶媒への分散性に優れており、液中で沈降しにくいという性質を有している。本実施形態に係る希土類錯体の粒子を溶媒中に分散させた懸濁液を、プラスチック材料等に適用することによって、均一に分散した希土類錯体を含有する樹脂組成物及びプラスチック成形体を容易に得ることができる。その結果、得られるプラスチック成形体は、高い透明性を有することができる。
【0064】
本明細書におけるプラスチック材料は、熱可塑性樹脂だけでなく、未硬化の熱硬化性樹脂も含む用語として使用される。プラスチック材料は、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0065】
プラスチック材料及び希土類錯体を含有する樹脂組成物における、希土類錯体の含有量は、例えば、樹脂組成物の質量を基準として、0.1〜50質量%であってもよい。プラスチック材料の含有量は、例えば、樹脂組成物の質量を基準として、0.1〜50質量%であってもよい。
【0066】
プラスチック組成物を成形加工する方法としては、特に限定されないが、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、押出成形、反応成形、中空成形、熱成形、FRP成形等が挙げられる。これらの成形方法では、一般に、高温(例えば、ポリカーボネート樹脂を用いる場合には約300℃)での加熱が必要である。本実施形態の希土類錯体は、配位子の構造等を適宜選択することによって、300℃を超えるような高温であっても安定に存在でき、高い発光強度を維持することができるため、これが配合されたプラスチック組成物を容易に成形加工を行うことが可能である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
前駆体錯体として使用したEu(hfa)
3(H
2O)
2、Eu(hfa)
3(TPPO)
2、Eu(hfa)
3(MK)
2、Eu(TTA)
3(TPPO)
2、及びEu(hfa)
3BIPHENOの各錯体は、以下のように常法に従って合成した。各錯体の構造は元素分析によって同定した。
【0069】
前駆体錯体の合成例
Eu(hfa)
3(H
2O)
2
Eu(III)イオンの原料である酢酸ユーロピウム(和光純薬工業社製)と、配位子の原料である1,1,1,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン(東京化成工業社製)とを混合して、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユーロピウム(Eu(hfa)
2(H
2O)
3)を合成した。
【0070】
Eu(hfa)
3(TPPO)
2
トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユーロピウム(III)、及び、トリフェニルホスフィンオキシド(TPPO、東京化成工業社製)を含むメタノールを準備し、この溶液を65℃で加熱しながら撹拌を行い、12時間還流した。その後、エバポレータで溶媒を留去した。得られた組成生物を、メタノールで再結晶して、Eu(hfa)
3(TPPO)
2の結晶を得た。
【0071】
Eu(hfa)
3BIPHEPO
トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユーロピウム(III)、及び、1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド(BIPHEPO)を含むメタノールを準備し、この溶液を65℃で加熱しながら撹拌を行い、12時間還流した。その後、エバポレータで溶媒を留去した。得られた組成生物を、メタノールで再結晶して、Eu(hfa)
3BIPHEPOの結晶を得た。
【0072】
Eu(hfa)
3(MK)
2
トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユーロピウム(III)、及び、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、東京化成工業社製)を含むメタノールを準備し、この溶液を65℃で加熱しながら撹拌を行い、12時間還流した。その後、エバポレータで溶媒を留去した。得られた組成生物を、メタノールで再結晶して、Eu(hfa)
3(MK)
2の結晶を得た。
【0073】
Eu(TTA)
3(TPPO)
2
4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ブタンジオン(H−TTA)、及び9トリフェニルホスフィンオキシド(TPPO)を含むメタノール溶液を準備した。この溶液のトリエチルアミンにてpHを調整した後、塩化ユーロピウム(III)6水和物を水及びメタノールの混合溶媒に溶解させて調製した溶液を滴下し、12時間撹拌を行った。生成した沈殿を吸引ろ過により取り出した。この沈殿を水及びイソプロパノールで洗浄し、メタノールで再結晶して、Eu(TTA)
3(TPPO)
2の結晶を得た。
【0074】
比較例1
30mLフラスコ中で、ジフェニルホスフィン酸20mg(90μmol)をメタノール5mLに溶解させた。そこに、塩化ユーロピゥム6水和物(Eu(Cl)
3・6H
2O))10mg(27μmol)をメタノール0.2mLに溶解させて調製した溶液を滴下し、室温にて6時間撹拌した。反応物を含む溶液に対して4000rpmで20分間の遠心分離を行い、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に、メタノールを加えて撹拌し、遠心分離を行って沈殿物を洗浄する工程を、2回繰り返した。その後、沈殿物を乾燥させて、下記式で表される、希土類イオンが橋かけされて高分子量化した希土類錯体[Eu(DPP)
x]
nを得た。
【0075】
【化12】
【0076】
実施例1
30mLフラスコ中で、ジフェニルホスフィン酸50mg(225μmol)をメタノール5mLに溶解させた。そこに、前駆体錯体としてのEu(hfa)
3(H
2O)
2の50mg(61.5μmol)をメタノール2.5mLに溶解させて調製した溶液を滴下し、室温にて6時間撹拌した。反応物を含む溶液を4000rpmで20分間遠心分離を行い、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に、メタノールを加えて撹拌し、遠心分離を行って沈殿物を洗浄する工程を、2回繰り返した。その後、沈殿物を乾燥させて、下記式で表される、希土類イオンが橋かけされて高分子量化した希土類錯体[Eu(hfa)
x(DPP)
y]
nを得た。
【0077】
【化13】
【0078】
実施例2
30mLフラスコ中で、ジフェニルホスフィン酸50mg(225μmol)をメタノール5mLに溶解させた。そこに、前駆体錯体としてのEu(hfa)
3(TPPO)
2の50mg(37.5μmol)をメタノール2.5mLに溶解させて調製した溶液を滴下し、室温にて6時間撹拌した。反応物を含む溶液に対して4000rpmで20分間の遠心分離を行い、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に、メタノールを加えて撹拌し、遠心分離を行って沈殿物を洗浄する工程を、2回繰り返した。その後、沈殿物を乾燥させて、下記式で表される、希土類イオンが橋かけされて高分子量化した希土類錯体[Eu(hfa)
x(TPPO)
y(DPP)
z]
nを得た。
【0079】
【化14】
【0080】
実施例3
30mLフラスコ中で、ジフェニルホスフィン酸50mg(225μmol)をメタノール5mLに溶解させた。そこに、前駆体錯体としてのEu(TTA)
3(TPPO)
2の50mg(36.3μmol)をメタノール2.5mLに溶解させて調製した溶液を滴下し、室温にて6時間撹拌した。反応物を含む溶液に対して4000rpmで20分間の遠心分離を行い、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に、メタノールを加えて撹拌し、遠心分離を行って沈殿物を洗浄する工程を、2回繰り返した。その後、沈殿物を乾燥させて、下記式で表される、希土類イオンが橋かけされて高分子量化した希土類錯体[Eu(TTA)
x(TPPO)
y(DPP)
z]
nを得た。
【0081】
【化15】
【0082】
実施例4
30mLフラスコ中で、ジフェニルホスフィン酸50mg(225μmol)をメタノール5mLに溶解させた。そこに、前駆体錯体としてのEu(hfa)
3(MK)
2の50mg(38.1μmol)をメタノール2.5mLに溶解させて調製した溶液を滴下し、室温にて6時間撹拌した。反応物を含む溶液に対して4000rpmで20分間の遠心分離を行い、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に、メタノールを加えて撹拌し、遠心分離を行って沈殿物を洗浄する工程を、2回繰り返した。その後、沈殿物を乾燥させて、下記式で表される、希土類イオンが橋かけされて高分子量化した希土類錯体[Eu(hfa)
x(MK)
y(DPP)
z]
nを得た。
【0083】
【化16】
【0084】
実施例5
30mLフラスコ中で、リン酸水素(R)−(−)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジイルの26.5mg(76.1μmol)をメタノール5mLに溶解させた。そこに、前駆体錯体としてEu(hfa)
3(TPPO)
2の50mg(37.5μmol)をメタノール2.5mLに溶解させて調製した溶液を滴下し、室温にて6時間撹拌した。反応物を含む溶液に対して4000rpmで20分間の遠心分離を行い、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に、メタノールを加えて撹拌し、遠心分離を行って沈殿物を洗浄する工程を、2回繰り返した。その後、沈殿物を乾燥させて、下記式で表される希土類錯体[Eu(hfa)
x(TPPO)
y(Binap)
z]
nを得た。
【0085】
【化17】
【0086】
実施例6
ジフェニルホスフィン酸50mg(225μmol)をメタノール5mLに溶解させた。そこに、前駆体錯体としてEu(hfa)
3BIPHEPOの50mg(37.7μmol)をメタノール2.5mLに溶解させて調製した溶液を滴下し、室温にて6時間撹拌した。反応物を含む溶液に対して4000rpmで20分間の遠心分離を行い、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に、メタノールを加えて撹拌し、遠心分離を行って沈殿物を洗浄する工程を、2回繰り返した。その後、沈殿物を乾燥させて、下記式で表される希土類錯体[Eu(hfa)
x(BIPHEPO)
y(DPP)
z]
nを得た。
【0087】
【化18】
【0088】
参考例
30mLフラスコ中で、リン酸水素(R)−(−)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジイルの26.5mg(76.1μmol)をメタノール5mLに溶解させた。そこに、塩化ユーロピウム6水和物(Eu(Cl)
3(H
2O)
6)10mg(27μmol)をメタノール0.2mLに溶解させて調製した溶液を滴下し、室温にて6時間撹拌した。沈殿は生成せず、目的とする高分子量化した希土類錯体を得ることはできなかった。
【0089】
【化19】
【0090】
(熱重量分析)
比較例1及び実施例1〜5で作製した希土類錯体の熱重量分析を行った。示唆熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6300、セイコーインスツルメンツ社製)を用いた。結果を
図1に示す。比較例1の希土類錯体の熱分解温度は560℃と極めて高いが、実施例1〜5の希土類錯体の熱分解温度も500℃以上であり、これらも充分に高い耐熱性を有している。
【0091】
(発光特性評価)
比較例1及び実施例1〜6で作製した希土類錯体の発光特性を測定した。分光光度計(FP−6300、日本分光社製)を用いた。得られた発光スペクトルに関して、各希土類錯体を比較するため(
5D
0−
7F
1)のピークで正規化を行った。励起波長として、各希土類錯体の配位子が励起される波長を選択した。
図2は、各希土類錯体の発光スペクトルである。
【0092】
比較例1の希土類錯体([Eu(DPP)
x]
n)については、340nmの光で励起したときに、Euに由来する発光スペクトルを観測することはできなかった。
【0093】
実施例1の希土類錯体([Eu(hfa)
x(DPP)
y]
n)及び実施例2の希土類錯体([Eu(hfa)
x(TPPO)
y(DPP)
z]
n)を340nmの光で励起した場合、591(nm)、613(nm)においてEuに由来する発光が観測された。実施例3の希土類錯体([Eu(TTA)
x(TPPO)
y(DPP)
z]
n)を380nmの光で励起した場合、及び実施例4の希土類錯体([Eu(hfa)
x(MK)
y(DPP)
z]
n)を430nmの光で励起した場合、実施例5の希土類錯体([Eu(hfa)
x(TPPO)
y(Binap)
z]
n)を335nmの光で励起した場合、及び、実施例6の希土類錯体([Eu(hfa)
x(BIPHEPO)
y(DPP)
z]
n)を340nmの光で励起した場合、それぞれ、591(nm)、613(nm)においてEuに由来する発光が観測された。
【0094】
比較例1の希土類錯体は、吸収波長が300nm以下であり、300nm以上の光で励起することはできない。一方、実施例1〜6の希土類錯体は、300nm以上の光で励起が可能である。これは、酸アニオン配位子の他にアニオン性のエノラート配位子が希土類イオンに配位子することで、エノラート配位子がアンテナ配位子として機能し、新たな吸収帯が形成されることを意味する。実施例2、3、5は単座配位子としてTPPOが希土類イオンに配位しているが、TPPOの吸収帯は、300nm以下であることから、300nm以上に形成された新たな吸収帯は、主にエノラート配位子の作用によるものである。
【0095】
実施例4の希土類錯体は、430nmの光で励起可能である。この希土類錯体は、酸アニオン配位子及びエノラート配位子が実施例2と同じであり、希土類イオンに配位する単座配位子がMK(ミヒラーズケトン)である点が実施例2と異なっている。この希土類錯体が430nmの光で励起可能であるのは、主として、単座配位子としてのMKの作用によると考えられる。