【解決手段】接合体10は、熱膨張率が小さい脆性材料層20と熱膨張率が大きい鋼系材料層30とを含み、両者が拡散接合された接合体としている。脆性材料層20と鋼系材料層30との間に炭素鋼よりなる変態超塑性材料層40が挿入されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態の接合体10を説明する。
図1に示すように、接合体10は、脆性材料層20と鋼系材料層30と、両者間に挿入された中間材としての炭素鋼よりなる変態超塑性材料層40とからなる。
【0021】
接合体10は、脆性材料層20と鋼系材料層30とが変態超塑性材料層40の相変態温度域を超えた以上の拡散接合温度に昇温(加熱)されることによって、原子相互拡散が促進されて拡散接合され、この後、冷却に伴って、発生する熱応力が後熱処理によって変態超塑性材料層40により緩和されている。この後熱処理の具体的方法は、後述する製造方法で説明する。
【0022】
(脆性材料)
脆性材料層20を形成する脆性材料は、タングステンW、モリブデンMo等の脆性金属、及び炭化ケイ素を中心としたセラミックス等を挙げることができる。
【0023】
ここで、これらの脆性材料の熱膨張率の代表例を挙げると、タングステンWの熱膨張率は、25℃で4.5×10
-6/Kである。
モリブデンMoの熱膨張率は、25℃で 4.8×10
-6/Kである。
【0024】
炭化ケイ素SiCの熱膨張率は、室温で6.6×10
-6/Kである。
接合体10を構成する場合、脆性材料からなる層を受熱部とするとよい。
この場合、脆性材料としてのタングステンWは、金属の中で最も融点(3422℃)が高く、超高温の用途に広く使用することができる。また、タングステンWは、後述する鋼系材料よりも熱膨張率が低く、超高温での形状安定性がきわめて高くて好適である。また、モリブデンMoは、融点が2623℃であって、常温常圧で、安定な結晶構造を有する。
【0025】
また、炭化ケイ素SiCは、融点が2730℃であって、硬度、耐熱性、化学的安定性に優れる。
これらの脆性材料は、核融合炉のブランケットの表面材料としては耐高温性を有しており、好適である。
【0026】
(鋼系材料)
鋼系材料層30を形成する鋼系材料は、代表的には、酸化物分散強化型鋼(ODS鋼)、または低放射化鉄鋼材料であるF82H鋼等を挙げることができる。
【0027】
接合体10を構成する場合、鋼系材料層30からなる層を、受熱部からの熱を徐熱する徐熱部とすると、脆性材料層20からの熱を徐熱することができる。
ODS鋼は、例えば、基本組成がFe-15Cr-2W-0.2Ti-0.35Y
2O
3を有するODS鋼、9Cr−ODS、12Cr−ODS等がある。
【0028】
前記9Cr−ODSの組成は、C−0.14Si-0.06Mn−0.09P−<0.005、S−0.004Ni−0.03Cr−9.08W−1.97Ti−0.23Y−0.29O−0.16N−0.013Ar−0.0052Y
2O
3−0.37Ex.O−0.082である。
【0029】
また、前記12Cr−ODSの組成は、C−0.035Si-0.03Mn−0.02P−<0.005、S−0.003Ni−0.04Cr−11.65W−1.90Ti−0.29Y−0.18O−0.083N−0.005Ar−0.0052Y
2O
3−0.23Ex.O−0.03である。
【0030】
また、F82H鋼は、その基本組成が、Fe-8Cr-2W-0.2V-0.04Ta-0.1Cであって、低放射化フェライト鋼である。なお、鋼系材料としての低放射化フェライト鋼は、この他に、EUROFER−EU(基本組成は、Fe-9Cr-1.1W-0.11C-0.2V-(0.06〜0.09)Taである。)、CLAM(基本組成は、Fe-9Cr-1.55W-0.2V-0.15Ta-0.11C)等があり、これらを採用してもよい。なお、組成の数値は重量%である(以下、同じ)。
【0031】
鋼系材料は、前記脆性材料に対して熱膨張率が大きい。すなわち、ODS鋼の熱膨張率は、代表的には、室温で約11×10
-6/Kである。
また、F82H鋼の熱膨張率は、20℃(室温)で10〜11×10
-6/Kである。なお、ODS鋼及びF82H鋼は、含まれる成分、及びその割合によって、熱膨張率が異なる。このため、前記熱膨張率は幅があり、この数値は代表例として理解されたい。
【0032】
このように鋼系材料と脆性材料との熱膨張率の大小関係は、室温(または25℃)において、大小関係が定まれば、相変態温度域においても、その大小関係は変化しない。このため、本明細書では、鋼系材料と脆性材料における熱膨張率の大小関係を、室温(または25℃)において、定義している。
【0033】
(変態超塑性材料)
炭素鋼よりなる変態超塑性材料は、相変態温度域で相変態誘起クリープ変形を起こすもの、すなわち、熱応力緩和機構を有するものが好ましい。また、炭素鋼よりなる変態超塑性材料は、鋼系材料及び脆性材料に対する接合面に密着性を高めるために、鋼系材料及び脆性材料の降伏強度よりも低い降伏強度を有するものが好ましい。
【0034】
なお、超塑性は、固体を高温域で一定のひずみ速度で変形させた時、数百%以上に伸びる現象のことである。超塑性には、材料の相変態に起因する変態超塑性と結晶粒径が数μm以下の多結晶材料で発生する微細結晶粒超塑性の2種類がある。本発明では、材料の相変態に起因する変態超塑性を有する変態超塑性材料を対象としている。
【0035】
ここでの相変態温度域は、冷却時に、オーステナイト(γ相)が、フェライト(α相)への変態、または、フェライト(α相)及びセメンタイトへの変態を完了する温度である。以下、この温度域での変態を、単に相変態という。
【0036】
接合体10では、変態超塑性材料は、脆性材料と鋼系材料との間に挿入される中間材として用いられ、変態超塑性材料層40となる。
この種の変態超塑性材料としては、例えば、炭素濃度0.5%のS50C鋼がある。S50C鋼は、拡散接合処理(接合温度1240℃)後の後熱処理において、冷却中では、相変態温度域(740〜680℃)で、上記した相変態を示す(
図13参照)。
図13は、Fe−Cの2元系平衡状態図であり、同図において、S50C鋼の後熱処理における相変態は矢印部分となる。
【0037】
S50C鋼の他に変態超塑性材料としては下記の炭素鋼を挙げることができる。
S10C(相変態温度域:850〜780℃)、S12C(相変態温度域:845〜770℃)、S15C(相変態温度域:845〜770℃)、S17C(相変態温度域:815〜730℃)、S20C(相変態温度域:815〜730℃)、S22C(相変態温度域:815〜730℃)、S25C(相変態温度域:815〜730℃)、S28C(相変態温度域:780〜720℃)、S30C(相変態温度域:780〜720℃)、S33C(相変態温度域:770〜710℃)、S35C(相変態温度域:770〜710℃)、S38C(相変態温度域:760〜700℃)、S40C(相変態温度域:760〜700℃)、S43C(相変態温度域:750〜680℃)、S45C(相変態温度域:750〜680℃)、S48C(相変態温度域:740〜680℃)、S53C(相変態温度域:740〜680℃)、S55C(相変態温度域:740〜680℃)、S58C(相変態温度域:730〜680℃)、S09CK(相変態温度域:850〜780℃)、S15CK(相変態温度域:845〜770℃)、S20CK(相変態温度域:815〜730℃)
上記の炭素鋼は、いずれも、相変態温度域で、相変態を示す。
【0038】
なお、これらの炭素鋼は、代表的に挙げたものであって、これらに限定するものではなく、他の炭素鋼であって、相変態温度域を有するものであればよい。
(第1実施形態の作用)
上記のように構成された接合体10は、互いに熱膨張率が異なる脆性材料層20と鋼系材料層30とを含み、脆性材料層20と鋼系材料層30との間に変態超塑性材料層40が挿入されている。
【0039】
そして、脆性材料層20と鋼系材料層30とが変態超塑性材料層40の相変態温度域を超えた以上の拡散接合温度に昇温(加熱)されて、所定時間保持されることによって、原子相互拡散が促進されて拡散接合されている。また、後の冷却時に伴い発生する熱応力は、後熱処理によって、変態超塑性材料層40により緩和される。
【0040】
本実施形態では、下記の特徴を有する。
(1)本実施形態の接合体10は、熱膨張率が小さい脆性材料層20と熱膨張率が大きい鋼系材料層30とを含み、両者が拡散接合された接合体としている。また、脆性材料層20と鋼系材料層30との間に炭素鋼よりなる変態超塑性材料層40が挿入されている。この結果、本実施形態の接合体10は、母材の脆化の虞がなく、接合後の冷却過程で発生する熱応力が変態超塑性材料層により除去されていることにより、接合強度の向上を図ることができる。
【0041】
(2)本実施形態の接合体10では、脆性材料層20が入熱を受け入れる受熱部とし、鋼系材料層30が受熱部からの熱を徐熱する徐熱部としている。この結果、脆性材料層20からの熱を、鋼系材料層30を介して徐熱することができる。
【0042】
(3)本実施形態によれば、炭素鋼よりなる変態超塑性材料(中間材)は、鋼系材料(接合母材)とは化学組成が大きく異ならないため、接合界面での機械的特性が母材とは大きく異なることがない。このため、ろう材を使用する場合と異なり、母材の接合界面に高濃度の中間材の成分が分布することがないことから、母材と中間材から拡散した成分との化合物の形成がされることがなく、母材の脆化を懸念することがない。
【0043】
(第2実施形態)
次に、接合体の製造装置及び製造方法を説明する。
(製造装置)
図2に示すように、製造装置50は、真空チャンバー52内に設けられた加圧ホットプレス60を備えている。加圧ホットプレス60は、円筒状のダイス62に対して、両端から一対のパンチ64、66が配置され、両パンチ64、66は、一対のシリンダ機構68、70により、それぞれ押圧駆動可能となっている。なお、ダイス62、及びパンチ64、66は、例えば、グラファイト等の耐高熱材質からなるが、耐高熱材質であれば、グラファイトに限定するものではない。
【0044】
本実施形態では、一対のパンチ64、66、及び一対のシリンダ機構68、70にて圧縮応力付与部を構成している。
シリンダ機構68、70は、制御部80が油圧回路72を制御することにより、前記シリンダ機構68、70を駆動する。また、ダイス62の周囲には、誘導加熱コイル84が巻装されている。誘導加熱コイル84は、制御部80が電流供給部82を駆動制御することにより、誘導加熱コイル84による加熱制御が可能となっている。この場合の加熱は、脆性材料及び鋼系材料の拡散接合温度に達するまで加熱する。この拡散接合温度は、変態超塑性材料の相変態温度域を超える温度である。誘導加熱コイル84は、加熱部の一例である。また、本実施形態では、ダイス62、パンチ64、66及び誘導加熱コイル84により加熱炉が構成されている。
【0045】
また、制御部80は、誘導加熱コイル84を加熱制御して、脆性材料と鋼系材料の拡散接合温度まで加熱させ、その加熱中に圧縮応力付与部を変位制御して、変態超塑性材料にのみ変形を与えるように制御する。また、制御部80は、脆性材料と鋼系材料とを接合させ、その後、後熱処理で冷却を行う。すなわち、変態超塑性材料の相変態温度域におけるサイクル処理、徐冷処理等で、冷却を行った後、室温まで温度を低下させて、接合体を得る。
【0046】
この後熱処理については、後述する。
(製造方法)
次に、接合体10の製造方法を、前記製造装置50の作用とともに説明する。
【0047】
接合体10を製造する際には、上記製造装置50のダイス62内に、脆性材料、鋼系材料、変態超塑性材料を層状に配置する。なお、この段階では、真空チャンバー52内は非真空状態で、ダイス62内において、変態超塑性材料を脆性材料と鋼系材料の間に挿入する。この後、真空チャンバー52内を真空状態にする。
【0048】
次に、脆性材料と前記鋼系材料とを拡散結合する段階として、下記のことを行う。
すなわち、制御部80により、油圧回路72及び電流供給部82をそれぞれ制御して、シリンダ機構68、70を介してパンチ64、66にて、層状に配置した材料を加圧するとともに、拡散接合温度まで達するように誘導加熱コイル84を加熱する。
【0049】
パンチ64、66による加圧力は、制御部80により、変態超塑性材料のみが変形するようにコントロールされる。
制御部80は、拡散接合温度まで誘導加熱コイル84にて昇温した後、所定時間の間、この温度を保持する。この所定時間の間、拡散接合温度に保持されることにより、脆性材料と鋼系材料は原子相互拡散が促進されて拡散接合される。なお、拡散接合温度に昇温した場合、炭素鋼よりなる変態超塑性材料は、オーステナイト(γ相)に変わる。また、前記所定時間は、前記拡散接合が十分に行われる時間であって、脆性材料の種類とその量、及び鋼系材料の種類とその量に応じて設定すればよい。
【0050】
前記所定時間を経過した後、制御部80は、冷却時の後熱処理を行う。
この後熱処理では、制御部80により、誘導加熱コイル84を制御して、相変態温度域をサイクルする方法(以下、サイクル処理という)と、徐冷処理と、急速に冷却して相変態温度域を通過させて、相変態温度域の下限近傍の温度で温度を保持する方法(以下、急速冷却処理)がある。
【0051】
サイクル相変態温度域をサイクルする方法では、例えば、40〜650℃/minによる温度変動で、9〜12サイクル程度が好ましいが、限定するものではない。
サイクル処理は、相変態温度域を出ることなくおこなってもよく、或いは、相変態温度域を含むように、すなわち、相変態温度域の上限値と下限値を超えて行ってもよい。
【0052】
また、徐冷処理は、例えば、1.6℃/minによる一回の冷却である。この数値は、例示であって、限定するものではない。
この後熱処理により、各層間の接合強度は、相変態温度域に晒された累計時間に依存する。
【0053】
この後熱処理が相変態温度域で行われるため、冷却時に変態超塑性材料は、オーステナイト(γ相)からフェライト(α相)等への変態が行われ、この変態がされる際に、相変態誘起クリープ変形が行われて冷却時に伴い発生する熱応力が緩和される。
【0054】
すなわち、脆性材料と鋼系材料との熱膨張率の差により、接合体に熱応力が発生するが、その熱応力は冷却とともに、増大する。このとき、変態超塑性材料は、相変態温度域で、γ相→α相の相変態を起こす。γ相中のα相生成は、体積膨張を伴うため、体積膨張により生ずる弾性応力を緩和するためにα相のまわりに転位が生成する。これらの転位は、変態超塑性材料に生じた熱応力の勾配をなくす方向に移動する。そして、この熱応力緩和機構では、熱応力が大きいほど誘起される塑性変形も増大し、しかも、この塑性変形は、熱応力の下で作用する高温クリープである。このため、相変態温度域に晒される時間が長いほどクリープ変形が進み(相変態誘起クリープ変形)、その結果、熱応力が十分に緩和される。
【0055】
なお、この後熱処理中は、パンチ64、66による外力を付与しないで行い、熱応力のみを駆動力として自発的に緩和を継続させる。後熱処理が終了した後、室温まで温度を低下させる。
【0056】
このようにして熱応力が緩和された接合体を得る。
(実施例)
次に、実施例を
図3、
図4、
図5を参照して説明する。
【0057】
実施例1〜4は、下記の材料を使用した。
・脆性材料:タングステンW(エスタン(登録商標)日本タングステン株式会社製)
・変態超塑性材料(中間材):S50C鋼(Fe−0.5C−0.75Mn−0.2Si)、
・鋼系材料:ODS鋼((Fe−15%Cr−2%W−0.2%Ti−0.35%Y
2O
3)(KOBELCO Co.製))
また、比較例では、変態超塑性材料の代わりに、中間材として純鉄を使用した。
【0058】
脆性材料は厚さ2mm、中間材は厚さ1mm、鋼系材料は厚さ2mmとした。
そして、前記製造装置を使用して、昇温期間中に圧縮応力10〜50MPaで材料に圧縮圧力を掛けて拡散接合温度(1240℃)まで加熱した。
【0059】
なお、実施例における変態超塑性材料の相変態温度域は、740〜680℃である。
図3に示すように、実施例1〜4、及び比較例の拡散接合温度までは、室温RT(25℃)から40分かけて同じ昇温速度で誘導加熱コイル84を制御して加熱し、拡散接合温度に達した後は、所定時間(実施例では、60分)保持した後、冷却を開始した。
【0060】
(後熱処理について)
実施例1では、64℃/minで冷却を開始して接合体の温度が800℃に達した時から、温度域800〜600℃の範囲で、温度変化率650℃/minとなるように誘導加熱コイル84を制御して、サイクルを、10.5回行った。なお、この温度域800〜600℃は、相変態温度域が740〜680℃が含まれる範囲である。サイクル処理後は、炉の中で室温まで自然冷却した。
【0061】
実施例2では、冷却を開始して接合体の温度が800℃に達した時から温度域800〜600℃の範囲で、温度変化率40℃/minとなるように誘導加熱コイル84を制御して、サイクルを10.5回行った。サイクル処理後は、室温まで自然冷却した(
図3参照)。
【0062】
実施例3は、急速冷却処理の例であり、冷却開始後は、40℃/minとなるように誘導加熱コイル84を制御して、600℃まで急速冷却し、600℃まで達した後は、この温度を保持させて、冷却を開始して130分を経過した後は、室温まで自然冷却した。
【0063】
実施例4は、徐冷処理の例であり、冷却開始後は、1.6℃/minとなるように誘導加熱コイル84を制御して、600℃まで徐冷し、冷却を開始して130分を経過した後は、室温まで自然冷却した(
図3参照)。
【0064】
比較例は、実施例3と同様に冷却開始後は、40℃/minとなるように誘導加熱コイル84を制御して、600℃まで急速冷却し、600℃まで達した後は、室温まで自然冷却した。
【0065】
(評価)
次に、実施例1〜4及び比較例の微小4点曲げ強度試験と、中間材の引張り試験を説明する。
【0066】
(微小4点曲げ強度試験)
微小4点曲げ強度試験に使用する接合体の試験片Sは、
図4に示すように、幅2.4mm、厚さ0.5mm、全長5.0mmを有し、また、長さ方向において、中間材は1.0mm、他の部材はそれぞれ2.0mm有する。
【0067】
一方、
図5に示すように、微小4点曲げ強度試験装置100は、試験片受台101の頂面に3.0mmの間隔で2個の押しピン102、103が載せられている。ピン102、103は、直径0.5mmの円柱に形成されている。
【0068】
上部荷重治具105は、底面に0.8mmの間隔をおいて2個の荷重作用ピン107、108を有する。荷重作用ピン107、108は、直径0.5mmの円柱状に形成されている。
【0069】
図5に示すように、前記試験片Sは、試験片受台101に固定されたガイド110にて試験片受台101上の位置が規制されるとともに、押しピン102、103の上に載置される。すなわち、押しピン102は、脆性材料(タングステンW)の端面から0.25mm分離間した試験片Sの下面を支持する一方、押しピン103は、そこから3mm分離間した下面を支持する。
【0070】
また、上部荷重治具105の荷重作用ピン107は、タングステンWと中間材との境界面から、0.25mm分タングステンW側に寄った位置に荷重作用ピン107、108の間の中間部位を合致させる。
【0071】
上記のように試験片Sを、微小4点曲げ強度試験装置100にセットし、122.05gの荷重を1×10
−3mm/sで試験片Sに室温の下で引加した。その結果を
図6に示す。
【0072】
図6(a)〜
図6(d)は、実施例1〜実施例4の微小曲げ強度試験による破壊応力の大きさを示している。図中、CP−1、CP−2、CP−3、CP−4は、実施例1〜実施例4の試験片Sを意味している。点線は、複数の試験片Sの平均値であり、実線は、そのうちの最大値を示している。
【0073】
実施例1では、平均値260MPa、最大値290MPaであった。
実施例2では、平均値364MPa、最大値375MPaであった。
実施例3では、平均値287MPa、最大値373MPaであった。
【0074】
実施例4では、平均値377MPa、最大値478MPaであった。
また、
図6(a)〜
図6(d)において、中間材に純鉄を使用した比較例は、平均値324MPaであった。
【0075】
このように中間材として、炭素鋼よりなる変態超塑性材料を使用する実施例の場合と、純鉄を使用する比較例の場合、破壊応力は、ともに好適な値が得られた。
また、実施例1、実施例2の結果から、変態超塑性が誘起するサイクル熱処理(サイクル数、冷却速度)では、破壊応力は依存していないことが分かる。
【0076】
また、実施例2及び実施例4に示す徐冷処理では、平均値及び最大値とも、純鉄の場合よりも大きな破壊応力が得られた。
図7は、実施例2と同様に後熱処理において、サイクル処理(10回)を行うが、その処理時間の累計時間を異ならしめて試験片Sを製造した後、前記微小曲げ強度試験を行い、それぞれの破壊応力を測定した。
【0077】
図7中、異なる累計時間において、製造した試験片Sの平均値を●で示し、最大値を◇で示す。
図7に示すように、平均値及び最大値とも、変態がより長く継続する熱処理が最も効果的であることが分かる。
【0078】
(中間材の引張試験)
中間材の機械的特性を見るために、中間材としての、S50C鋼と、比較例で使用した純鉄の引張試験を行った。
図8は、中間材の引張試験で使用した試験片の形状及び大きさを示している。ここでの試験片の大きさは、
図8に示すように下記の通りとした。
【0079】
全長:16mm、厚さ:0.5mm、端部の幅:4.0mm、平行部の長さ:5.0mm、平行部の幅:1.2mm、肩部の半径:1.5mm、端部から平行部までの長さ:5.5mm
図9は引張試験の結果を示し、同図において、縦軸は降伏応力である。
図9に示すように、S50C鋼と、純鉄(pure iron)とでは、310MPaの差分、S50C鋼が大きな降伏応力を有する。この結果、S50C鋼の方が緩和材として寄与することが分かる。この場合、S50C鋼での変形は、一般的な降伏現象ではない。
【0080】
上記の試験の結果から、下記のことが分かる。
すなわち、純鉄を中間材とする比較例の接合体での熱応力緩和機構では、S50C鋼よりも低い降伏応力を有することによって変形能が向上しており、このことによって、接合体における熱応力の緩和に寄与している。
【0081】
これに対して、S50C鋼を中間材とする実施例の接合体での熱応力緩和機構では、降伏応力が高く、変形能は純鉄の場合よりも低いため、変態誘起による高温クリープ変形発現によって熱応力緩和が行われていることが示唆されている。
【0082】
本実施形態では、下記の特徴を有する。
(1)本実施形態の接合体の製造装置50は、一対のパンチ64、66、及び一対のシリンダ機構68、70にて、脆性材料と鋼系材料との間に炭素鋼よりなる変態超塑性材料が中間材として配置された状態で、前記脆性材料と前記鋼系材料に対して圧縮圧力を付与する圧縮応力付与部を構成している。また、製造装置50は、脆性材料と鋼系材料とを加熱する誘導加熱コイル84(加熱部)を有する。
【0083】
また、製造装置は、誘導加熱コイル84(加熱部)を加熱制御して、脆性材料と鋼系材料の拡散接合温度まで加熱させ、その加熱中に圧縮応力付与部を変位制御する制御部80を有する。また、制御部80は、中間材にのみ変形を与えて、タングステンとS50C鋼とを接合させ、その後、中間材の相変態温度域におけるサイクル処理または徐冷処理で、冷却を行う。
【0084】
この結果、本実施形態の接合体の製造装置によって、母材の脆化の虞がなく、接合後の冷却過程で発生する熱応力が除去されることにより、接合強度の向上を図ることができる接合体を好適に製造することができる。
【0085】
(2)本実施形態の接合体の製造方法は、熱膨張率が小さい脆性材料層20と熱膨張率が大きい鋼系材料層30とを含み、両者を拡散接合により接合する接合体の製造方法であって、脆性材料と鋼系材料との間に、炭素鋼よりなる変態超塑性材料を中間材として挿入する段階を有する。また、該製造方法は、脆性材料と鋼系材料とを拡散結合する段階と、拡散接合後、脆性材料の残留熱応力を緩和する段階とを含む。
【0086】
この結果、本実施形態の製造方法によって、母材の脆化の虞がなく、接合後の冷却過程で発生する熱応力が除去されることにより、接合強度の向上を図ることができる接合体を好適に製造することができる。
【0087】
(3)本実施形態の接合体の製造方法は、熱膨張率が小さい脆性材料と熱膨張率が大きい鋼系材料とを含み、両者を拡散接合により接合する接合体の製造方法であって、脆性材料(タングステン)と鋼系材料(ODS鋼)との間に、変態超塑性材料(S50C鋼)を中間材として挿入する段階を備える。また、本製造方法は、脆性材料(タングステン)と鋼系材料(ODS鋼)とを拡散結合する段階を有し、拡散接合後、脆性材料(タングステン)の残留熱応力を緩和する段階を有する。
【0088】
この結果、本実施形態によれば、拡散接合後において、脆性材料(タングステン)の残留熱応力を緩和することができる。
(4)本実施形態の接合体の製造方法では、拡散結合する段階は、中間材の相変態温度域を超える温度で行う。また、脆性材料の残留熱応力を緩和する段階は、拡散接合を相変態温度域を超える温度で行った後において、中間材の相変態温度域における後熱処理により、相変態誘起クリープ変形により脆性材料と鋼系材料との間の熱応力を緩和する。
【0089】
この結果、本実施形態によれば、中間材の相変態温度域を超える温度で、拡散結合を行わせた後における後熱処理において、脆性材料と鋼系材料との間の熱応力を好適に緩和することができる。
【0090】
(5)本実施形態の接合体の製造方法では、後熱処理は、中間材の相変態温度域におけるサイクル処理または徐冷処理とする。この結果、本実施形態によれば、中間材の相変態温度域におけるサイクル処理または徐冷処理によって、脆性材料と鋼系材料との間の熱応力を好適に緩和することができる。
【0091】
(第3実施形態)
次に、構造体を、
図10を参照して説明する。
図10の構造体は、脆性材料層90、変態超塑性材料層92、及び鋼系材料層93がそれぞれ平板をなして層状に積層された平板型となっており、鋼系材料層93に鉄鋼製の管94が積層方向とは直交する方向において延びて配置されている。
【0092】
脆性材料層90は、受熱部であり、鋼系材料層93は、徐熱部を構成している。また、管94は熱媒体通過部としている。熱媒体は、例えば、加圧水、溶融塩Flibe(LiF−BeF
2混合フッ化物溶融塩)等を挙げることができる。なお、熱媒体としては、上記挙げたものに限定されるものではなく、他の熱媒体であってもよい。
【0093】
本実施形態の構造体は、鋼系材料層をヒートシンクとした冷却器であって、例えば、核融合発電炉のブランケットで使用することができ、高熱負荷に対応することができる。すなわち、受熱部である脆性材料層90が入熱した熱を、徐熱部である鋼系材料層93において、管94内を流れる熱媒体にて徐熱することが可能である。
【0094】
本実施形態では、下記の特徴を有する。
(1)本実施形態の構造体は、徐熱部(鋼系材料層93)の内には、熱媒体が通過する熱媒体通過部(管94)を有し、徐熱部からの熱を熱媒体通過部に流れる熱媒体がさらに徐熱するようにしている。この結果、本実施形態によれば、徐熱部である鋼系材料層において、熱媒体通過部内を流れる熱媒体にて徐熱することができる。
【0095】
なお、本発明の実施形態は前記実施形態に限定されるものではなく、下記のように変更しても良い。
・前記実施形態の製造装置50は、圧縮応力付与部を一対のパンチ64、66、及び一対のシリンダ機構68、70を含むようにしたが、前記実施形態の構成中、一方のパンチと該パンチを駆動するシリンダ機構を省略した構成を圧縮応力付与部としてもよい。
【0096】
・第3実施形態では、構造体を平板型にしたが、構造体を
図11に示すサドル型の構造体に変更してもよい。
すなわち、
図11に示すように、構造体は、脆性材料層90の接合面側に設けられた逆U字状の溝に円管状の変態超塑性材料層92の上半分が嵌合されている。
【0097】
また、変態超塑性材料層92の下半分は、鋼系材料層93bのU字状の溝に嵌合されている。変態超塑性材料層92内には鋼系材料層93aが管状に形成されていて、その中に前記熱媒体が通過する管94が配置されている。
【0098】
鋼系材料層93bは、脆性材料層90の下面に対しても接合されている。なお、
図11では図示はしていないが、脆性材料層90の下面と鋼系材料層93bとの接合部分には、中間材を介在させてもよく、タングステンWの厚みよって、熱応力の影響がない場合には、従来と同様にろう材を介して接合してもよい。
【0099】
図11の例では、上記のように脆性材料層90の変態超塑性材料層92側の接合面が逆U字状に形成されていることから、発生した熱応力を低減することができる。
第3実施形態と同様に本実施形態の構造体は、核融合発電炉のブランケットで使用することができ、高熱負荷に対応することができる。また、本実施形態は、受熱部である脆性材料層90が入熱した熱を、徐熱部である鋼系材料層93a、93bにおいて、管94内を流れる熱媒体にて徐熱することが可能である。
【0100】
・第3実施形態において、構造体を
図12に示すようにモノブロック型に変更してもよい。具体的には、脆性材料層90をモノブロック状に形成し、この内部に、管状の変態超塑性材料層92及び管状の鋼系材料層93を二層構造にして配置する。
【0101】
この例の構造体は、前記ブランケットで使用することができ、高熱負荷に対応することができる。また、本実施形態の熱媒体は、受熱部である脆性材料層90が入熱した熱を、徐熱部である鋼系材料層93内を流れる熱媒体にて徐熱することが可能である。なお、
図12において、鋼系材料層93内にさらに管を配置して三層構造としてもよい。
【0102】
・
図10〜
図12の実施形態において、構造体は断面四角形状としているが、これらは一例であって、断面四角形状に限定するものではなく、他の形状としてもよい。