(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-172648(P2016-172648A)
(43)【公開日】2016年9月29日
(54)【発明の名称】LTGA、LTGAの製造方法、LTGAを用いた圧電素子もしくはセンサ
(51)【国際特許分類】
C01G 35/00 20060101AFI20160902BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20160902BHJP
H01L 41/39 20130101ALI20160902BHJP
H01L 41/41 20130101ALI20160902BHJP
【FI】
C01G35/00 C
H01L41/187
H01L41/39
H01L41/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-52047(P2015-52047)
(22)【出願日】2015年3月16日
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】秋山 友宏
(72)【発明者】
【氏名】朱 春宇
(72)【発明者】
【氏名】小池 龍太
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC01
4G048AC02
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE07
4G048AE08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ランガテイトのGaを一部Alに置換したLTGA(La
3Ta
0.5Ga
5.5−xAl
xO
14)の製造方法であって、従来品に比較して純度の高いLTGA焼成体を製造する技術の提供。
【解決手段】硝酸ランタン水和物であるLa(NO
3)
3・6H
2O、硝酸アルミニウム水和物であるAl(NO
3)
3・9H
2O、タンタル酸化物であるTa
2O
5、還元剤としての親水性有機化合物であるGlycine、及び、ガリウム酸化物Ga
2O
3を秤量(S101〜102)、各原料を蒸留水中に溶解させて撹拌混合し混合物調整を行い(S105)、所定の温度で加熱して溶液燃焼合成し(S107)、前記焼成物を、例えば、空気中で、1400℃程度の温度で10時間程度の熱処理を施す(S109)、熱処理により、従来品に比較して純度の高いLTGA焼成体を得られる(S110)LTGA焼結体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランガテイト(LTG:La3Ta0.5Ga5.5O14)のGaを一部Alに置換したLTGA(La3Ta0.5Ga5.5-xAlxO14)の製造方法であって、下記のプロセスを備えていることを特徴とするLTGAの製造方法。
La、Ta、Ga、Alを含有し、合成するLTGAが所望の化学量論的組成となるように秤量された混合物を調整する工程A:
前記混合物を含む原料を第1温度で加熱して溶液燃焼合成して焼成物を得る工程B:
前記焼成物を前記第1温度よりも高い第2温度で熱処理する工程C。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、前記混合物に還元剤として親水性有機化合物を含有させる、請求項1に記載のLTGAの製造方法。
【請求項3】
前記親水性有機化合物はグリシンである、請求項2に記載のLTGAの製造方法。
【請求項4】
前記混合物中のLa、Ga、Alは、それぞれ、硝酸ランタン若しくはその水和物、硝酸ガリウム若しくはその水和物、硝酸アルミニウム若しくはその水和物、である、請求項1〜3の何れか1項に記載のLTGAの製造方法。
【請求項5】
前記混合物中のグリシンと硝酸イオンの比(G/N)が、モル比で、G/N=0.3〜0.5である、請求項3または4に記載のLTGAの製造方法。
【請求項6】
前記第1温度を150〜400℃の範囲に設定する、請求項1〜5の何れか1項に記載のLTGAの製造方法。
【請求項7】
前記第2温度を1250℃よりも高い温度範囲に設定する、請求項1〜6の何れか1項に記載のLTGAの製造方法。
【請求項8】
前記第2温度を1400℃以上に設定する、請求項7に記載のLTGAの製造方法。
【請求項9】
前記工程Cにおける熱処理を5時間よりも長く実行する、請求項1〜8の何れか1項に記載のLTGAの製造方法。
【請求項10】
前記工程Cにおける熱処理を10時間以上に設定する、請求項9に記載のLTGAの製造方法。
【請求項11】
前記工程Cにおける熱処理を空気中で実行する、請求項1〜10の何れか1項に記載のLTGAの製造方法。
【請求項12】
前記工程Aは、前記混合物を溶媒中に溶解して加熱し攪拌しながら乾燥させて前記原料を得るサブステップを含む、請求項1〜11に記載のLTGAの製造方法。
【請求項13】
前記溶媒は、水、硝酸イオンを含む水溶液、あるいはエタノール等の親水性有機溶媒である、請求項12に記載のLTGAの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか1項に記載の方法により製造されたLTGA。
【請求項15】
請求項14に記載のLTGAであって、θ−2θ法によるX線回折チャート中に、LTGA以外の回折ピークが検出されないLTGA。
【請求項16】
請求項14または15に記載のLTGAを用いた圧電素子もしくはセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はランガテイト(LTG:La
3Ta
0.5Ga
5.5O
14)のGaを一部Alに置換したLTGA(La
3Ta
0.5Ga
5.5-xAl
xO
14)の製造技術に関し、より詳細には、従来の焼成品に比較して純度の高いLTGAを製造する技術、および、これを用いた圧電素子もしくはセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境をより良いものとするために、エネルギ効率化や二酸化炭素削減などに有用な車載用燃焼圧センサの開発が進められてきている。例えば、エンジンの燃焼圧を適切に制御する燃焼圧センサは、燃料の燃焼効率を高めることで排気ガス中の有害物質を減らすことを可能とする。このようなセンサに用いられる圧電材料には、圧電特性に優れ、高い抵抗率・誘電率を有することが求められるため、酸化物の単結晶が使用される。
【0003】
上記酸化物単結晶には、当初は水晶が使用されていた。しかし、1990年代以降は、より大きな圧電定数を有し且つ高温環境下での使用が可能な材料であるランガサイト(LGS:La
3Ga
5SiO
14)とランガナイト(LGN:La
3Ga
5.5Nb
0.5O
14)が注目されはじめ、その後、ランガサイト系単結晶の置換型結晶であり、圧電定数の温度変化がより小さく且つ高絶縁性を備えるランガテイト(LTG:La
3Ta
0.5Ga
5.5O
14)が注目されるようになり、現在ではLTGの使用が主流となっている。さらに、近年では、LTGよりも絶縁抵抗が高い、LTGのGaの一部をAlで置換したLTGA(La
3Ta
0.5Ga
5.5-xAl
xO
14が注目されている(例えば、特許文献1:国際公開第2006/106875号公報を参照)。
【0004】
LTGAの単結晶を得るためには、一般に、製造(合成)するLTGAが所望の化学量論的組成となるように秤量された混合物(La
2O
3、Ta
2O
5、Ga
2O
3、Al
2O
3の酸化物混合物)を仮焼してLTGA焼成体を用い、これを原料として溶融させ、溶融液に種結晶を浸漬して徐々に引き上げ単結晶化する方法(チョコラルスキ法)が採用されている(例えば、特許文献2:国際公開第2011/111859号公報を参照)。
【0005】
従来は、上記LTGA焼成体を得るに際し、出発原料となる各酸化物を混合し、これを高温で仮焼させる固相反応法(SSR法:Solid State Reaction法)によっていたため、得られるLTGA焼成体は不純物を含み、組成のバラつきも大きいという問題がある。これは、SSR法では、原料中の各元素の拡散がゆっくりと進行することによる。このようなLTGA焼成体を原料として単結晶化を行うと、LTGA単結晶中の組成のバラつきも大きくなり、かかる単結晶からカットして得られた単結晶片を用いて製造される素子の強度や特性にバラつきが生じ、歩留まりを低下させてしまう。従って、より高い純度を有するLTGA焼成体の製造技術の開発が強く求められている。
【0006】
焼成体を得る他の方法として、装置系およびプロセスが単純で、しかも数秒〜数分といった極めて短時間に焼成が可能な技術として、燃焼合成法の一つである、溶液燃焼合成法(SCS:Solution combustion synthesis)が知られており、特に、粉体粒子の製造法として注目されてきている。
【0007】
溶液燃焼合成法は、金属硝酸塩を酸化剤とし、クエン酸やグリシン等のような水溶性有機化合物を還元剤とする、液相酸化還元反応の一種であり、例えば、これらの原料を水溶液中で混合し、100℃付近で脱水・ゲル化した後、300℃程度に加熱すると、酸化剤と還元剤の間で急激な発熱反応が生ずる。この反応で得られた焼成物を熱処理することで、酸化物の粉体を得ることができる。例えば、非特許文献1〜3に、SCS法による、SOFC燃料電池用正極材料の合成例や、CeO
2:Eu蛍光体の合成例が報告されている。
【0008】
SCS法においては、酸化剤と還元剤(燃料)の割合が重要であり、一般に、酸化剤である金属硝酸塩が還元されて金属または金属酸化物とN
2ガスになり、燃料が酸化されてCO
2やH
2Oまで還元されると仮定した化学量論での酸化剤と還元剤(燃料)のモル比([酸化剤]/[還元剤])Xsが1つの指標となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2006/106875号公報
【特許文献2】国際公開第2011/111859号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Zhu C, Nobuta A, Nakatsugawa I, Akiyama T. "Solution combustion synthesis of LaMO3 (M=Fe, Co, Mn) perovskite nanoparticles and the measurement of their electrocatalytic properties for air cathode" International Journal of Hydrogen Energy (2013) Vol.38, pp.13238-48.
【非特許文献2】Shi S, Hoss M, Chen W, Xu G-L, Xu Y-F, Sun H, Fu F, Zheng X-M, Huang L, et al. "Solution combustion synthesis of photoluminessence and X-Ray luminescence of Eu-doped nanoceria CeO2" J. Materials and Chemistry (2012) 22, 23461-23467.
【非特許文献3】Barrere A, Jaumotte A, DeVeubeke B.F., and Vandenkerekhove, 'Rocket Propulsion', Elsevier, Amsterdam (1960) 132-134.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これまで、より高い純度を有するLTGA焼成体の製造技術として、SCS法を適用する試みはなされることがなく、如何なる条件によりこれが可能となるのかも、不明であった。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、LTGA焼成体の製造技術としてのSCS法の可能性を検討し、適切な条件を明らかにすることにより、従来品に比較して純度の高いLTGA焼成体を製造するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するために、本発明に係るLTGAの製造方法は、ランガテイト(LTG:La
3Ta
0.5Ga
5.5O
14)のGaを一部Alに置換したLTGA(La
3Ta
0.5Ga
5.5-xAl
xO
14)の製造方法であって、下記のプロセスを備えていることを特徴とする。
La、Ta、Ga、Alを含有し、合成するLTGAが所望の化学量論的組成となるように秤量された混合物を調整する工程A:
前記混合物を含む原料を第1温度で加熱して溶液燃焼合成して焼成物を得る工程B:
前記焼成物を前記第1温度よりも高い第2温度で熱処理する工程C。
【0014】
一態様においては、前記工程Aにおいて、前記混合物に還元剤として親水性有機化合物を含有させる。
【0015】
例えば、前記親水性有機化合物はグリシンである。
【0016】
例えば、前記混合物中のLa、Ga、Alは、それぞれ、硝酸ランタン若しくはその水和物、硝酸ガリウム若しくはその水和物、硝酸アルミニウム若しくはその水和物、である。
【0017】
好ましくは、前記混合物中のグリシンと硝酸イオンの比(G/N)が、モル比で、G/N=0.3〜0.5である。
【0018】
例えば、前記第1温度を150〜400℃の範囲に設定する。
【0019】
また、例えば、前記第2温度を1250℃よりも高い温度範囲に設定する。
【0020】
好ましくは、前記第2温度を1400℃以上に設定する。
【0021】
例えば、前記工程Cにおける熱処理を5時間よりも長く実行する。
【0022】
好ましくは、前記工程Cにおける熱処理を10時間以上に設定する。
【0023】
例えば、前記工程Cにおける熱処理を空気中で実行する。
【0024】
一態様として、前記工程Aは、前記混合物を溶媒中に溶解して加熱し攪拌しながら乾燥させて前記原料を得るサブステップを含む。
【0025】
例えば、前記溶媒は、水、硝酸イオンを含む水溶液、あるいはエタノール等の親水性有機溶媒である。
【0026】
本発明に係るLTGAは、上述の方法により製造される。
【0027】
好ましくは、上記LTGAは、θ−2θ法によるX線回折チャート中に、LTGA以外の回折ピークが検出されない。
【0028】
このようなLTGAを用いて、圧電素子やセンサが得られる。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、LTGA焼成体を製造する工程において、SCS法の適用を試みた。
【0030】
本発明によれば、装置系およびプロセスが単純で、しかも数秒〜数分といった極めて短時間に焼成が可能となる上、従来品に比較して純度の高いLTGA焼成体が得られる。
【0031】
本発明で採用するプロセスは極めて単純であり、しかも数秒〜数分といった極めて短時間で、従来品に比較して純度の高いLTGA焼成体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係るLTGAの製造方法のプロセスを例示により説明するためのフローチャートである。
【
図2】G/N=0.3の条件(図(a))および0.5の条件(図(b))で得られた、SCS後の焼成物の光学顕微鏡写真である。
【
図3】G/N=0.3のSCS後の焼成物、G/N=0.5のSCS後の焼成物、G/N=0.5のSCS後の焼成物を1250℃で熱処理後の焼成体、および、G/N=0.5のSCS後の焼成物を1400℃で熱処理後の焼成体それぞれの、θ−2θ法によるX線回折チャートである。
【
図4】G/N=0.5の場合のSCS焼成物を1400℃で熱処理後の焼成体、および、G/N=0.3の場合のSCS焼成物を1400℃で熱処理後の焼成体それぞれの、θ−2θ法によるX線回折チャートである。
【
図5】G/N=0.5の場合のSCS焼成物を1400℃(5時間)で熱処理後の焼成体、G/N=0.5の場合のSCS焼成物を1400℃(10時間)で熱処理後の焼成体、G/N=0.5の場合のSSR焼成物を1400℃(5時間)で熱処理後の焼成体、および、G/N=0.5の場合のSSR焼成物を1400℃(10時間)で熱処理後の焼成体それぞれの、θ−2θ法によるX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して、本発明に係るLTGAおよびその製造方法について説明する。
【0034】
図1は、本発明に係るLTGAの製造方法のプロセスを例示により説明するためのフローチャートである。
【0035】
先ず、硝酸ランタン水和物であるLa(NO
3)
3・6H
2O、硝酸アルミニウム水和物であるAl(NO
3)
3・9H
2O、タンタル酸化物であるTa
2O
5、および、還元剤としての親水性有機化合物であるGlycineを秤量する(S101)。この秤量は、最終的に製造(合成)されるLTGAが所望の化学量論的組成となるようになされる。
【0036】
ガリウム酸化物Ga
2O
3もまた、最終的に製造(合成)されるLTGAが所望の化学量論的組成となるように秤量し(S102)、これを硝酸HNO
3に溶解してGa(NO
3)
3溶液とする(S103)。そして、このGa(NO
3)
3溶液を加熱してH
2OとHNO
3を蒸発させて、硝酸ガリウム水和物であるGa(NO
3)
3・nH
2Oを得る(S104)。
【0037】
なお、この図に示した例では、La、Ga、Alは、それぞれ、硝酸ランタン水和物、硝酸ガリウム水和物、硝酸アルミニウム水和物の態様で準備したが、これらの態様に限らず、例えば、硝酸ランタン、硝酸ガリウム、硝酸アルミニウムの態様で秤量してもよい。
【0038】
ステップS101とS104で得られた各原料を、蒸留水中に溶解させて撹拌混合し、LTGA製造(合成)用の出発原料となる混合物調整を行う(S105)。そして、この溶液を加熱し撹拌しながらH
2Oを蒸発(乾燥)させて混合物をゲル状態化する(S106)。なお、この図に示した例では、各原料を蒸留水中に溶解させたが、用いる溶媒は、水に限らず、例えば、硝酸イオンを含む水溶液やエタノール等の親水性有機溶媒であってもよい。
【0039】
次に、ステップS106で得られたゲル状の混合物を、所定の温度で加熱して溶液燃焼合成する(S107)。この際の温度は、例えば、150〜400℃の範囲に設定する。
【0040】
そして、得られた焼成物を乳鉢等を用いて粗粉砕して粗粉を得た後(S108)、この粗粉に、例えば、空気中(大気中)で、1400℃程度の温度で10時間程度の熱処理を施す(S109)。この熱処理により、従来品に比較して純度の高いLTGA焼成体が得られる(S110)。なお、この熱処理温度は、1250℃よりも高い温度範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、1400℃以上に設定する。また、熱処理時間は、熱処理温度にも依存するが、5時間よりも長く実行することが好ましく、より好ましくは10時間以上に設定する。
【0041】
つまり、本発明では、ランガテイト(LTG:La
3Ta
0.5Ga
5.5O
14)のGaを一部Alに置換したLTGA(La
3Ta
0.5Ga
5.5-xAl
xO
14)を製造するに際し、La、Ta、Ga、Alを含有し、製造(合成)するLTGAが所望の化学量論的組成となるように秤量された混合物を調整し(工程A)、この混合物を含む原料を第1温度で加熱して溶液燃焼合成して焼成物を得(工程B)、さらに、この焼成物を第1温度よりも高い第2温度で熱処理する(工程C)。
【実施例】
【0042】
原料として、硝酸ランタン水和物、酸化タンタル、硝酸ガリウム、硝酸アルミニウム水和物、グリシンを準備し、坩堝内で原料を蒸留水中に溶解し、80℃で加熱した状態で均一に攪拌しながら乾燥させ、ゲル状物質を得た。
【0043】
なお、各原料の秤量に際しては、下記の反応式において、グリシンと硝酸イオンの比が、モル比で、0.3および0.5となるように、還元剤としてのグリシンを秤量した。
【0044】
3・La(NO
3)
3 + 0.25・Ta
2O
5 + 5.3・Ga(NO
3)
3 + 0.2・Al(NO
3)
3 + n・glycine + O
2
→ La
3Ta
0.5Ga
5.3Al
0.2O
14 + Gas
【0045】
次いで、大気中に配置した金属管に坩堝を配置し、ゲル状物質をその内部に入れマントルヒータにより150〜400℃の範囲で加熱し、自己伝播型の燃焼合成(SCS)を実施した。なお、この反応に要する時間は数分である。
【0046】
図2(a)および(b)はそれぞれ、G/N=0.3および0.5の条件で得られた、SCS後の焼成物の光学顕微鏡写真である。
【0047】
なお、比較のため、出発原料は上記と全く同じであるが、焼成をSSR法で行った試料も準備した。
【0048】
これらの焼成物を乳鉢で粉砕し、新たな坩堝内に充填し、この坩堝をセラミック製の反応管の中に収容して、空気中で、1250℃または1400℃の温度で、5時間または10時間熱処理した。
【0049】
図3は、G/N=0.3のSCS後の焼成物(GN0.3-afterSCS)、G/N=0.5のSCS後の焼成物(GN0.5-afterSCS)、G/N=0.5のSCS後の焼成物を1250℃(10時間)で熱処理後の焼成体(GN0.5-afterSCS-1250℃10h)、および、G/N=0.5のSCS後の焼成物を1400℃(10時間)で熱処理後の焼成体(GN0.5-afterSCS-1400℃10h)それぞれの、θ−2θ法によるX線回折チャートである。このチャート中に■で示したピークはLaGaO
3に由来するものであり、□で示したピークはLaTaO
4に由来するものである。
【0050】
このチャートに示した結果から、SCS後の焼成物を焼成温度よりも温度で熱処理することにより、回折ピークの幅が狭くなり且つ強度が高まること、つまり、上記熱処理により結晶性が高まることが分かる。また、熱処理温度が1250℃の場合には■で示したLaGaO
3由来のピークと□で示したLaTaO
4由来のピークが確認できるのに対し、熱処理温度が1400℃の場合にはこれらのピークは確認されず、すべてのピークがLTGA由来のものとなっている。
【0051】
図4は、G/N=0.5の場合のSCS焼成物を1400℃(10時間)で熱処理後の焼成体(GN0.5-1400℃10h)、および、G/N=0.3の場合のSCS焼成物を1400℃(10時間)で熱処理後の焼成体(GN0.3-1400℃10h)それぞれの、θ−2θ法によるX線回折チャートである。このチャート中には、LTGの標準試料のX線回折ピーク(card No.47-0532)を同時に示している。
【0052】
この図に示した結果によれば、G/N=0.5の場合の焼成体(GN0.5-1400℃10h)とG/N=0.3の場合の焼成体(GN0.3-1400℃10h)の何れからも、不純物由来のピークは検出されず、すべてのピークがLTGA由来のものとなっている。ここには、2つのG/N比の場合を示したが、原料となる混合物中のグリシンと硝酸イオンの比(G/N)が、モル比で、G/N=0.3〜0.5である場合にも、上記条件下において、不純物を含まないLTGAを得ることができると結論付けてよい。
【0053】
図5は、G/N=0.5の場合のSCS焼成物を1400℃(5時間)で熱処理後の焼成体(GN0.5-afterSCS-1400℃5h)、および、G/N=0.5の場合のSCS焼成物を1400℃(10時間)で熱処理後の焼成体(GN0.5-afterSCS-1400℃10h)それぞれの、θ−2θ法によるX線回折チャートである。このチャート中には、G/N=0.5の場合のSSR焼成物を1400℃(5時間)で熱処理後の焼成体(SSR-1400℃5h)、および、G/N=0.5の場合のSSR焼成物を1400℃(10時間)で熱処理後の焼成体(SSR-1400℃10h)それぞれの、θ−2θ法によるX線回折チャートも同時に示している。
【0054】
先ず、
図5(a)において、焼成体(GN0.5-afterSCS-1400℃5h)と焼成体(SSR-1400℃5h)を比較すると、焼成体(SSR-1400℃5h)では、LaGaO
3に由来する■で示したピークとLaTaO
4に由来する□で示したピークが認められるのに対し、焼成体(GN0.5-afterSCS-1400℃5h)では、LaGaO
3に由来する■で示したピークが僅かに認められるもののLaTaO
4に由来する□で示したピークは認められていない。
【0055】
また、
図5(a)において、焼成体(GN0.5-afterSCS-1400℃10h)と焼成体(SSR-1400℃10h)を比較すると、焼成体(SSR-1400℃5h)では、LaGaO
3に由来する■で示したピークとLaTaO
4に由来する□で示したピークが認められるのに対し、焼成体(GN0.5-afterSCS-1400℃10h)では、LaGaO
3に由来する■で示したピークとLaTaO
4に由来する□で示したピークの何れも認められていない。
【0056】
上記結果の理解を容易にするために、
図5(b)および
図5(c)に、2θ=28〜29°近傍および2θ=32〜33°近傍のチャートを示した。
【0057】
これらの結果によれば、SCS法の採用により、最終的に得られるLTGAに残存する不純物としてのLaTaO
4の含有量が顕著に低下すること、また、SCS法により得られた焼成物を熱処理する時間を長く設定すると、最終的に得られるLTGAに残存する不純物としてのLaGaO
3の含有量が顕著に低下することが分かる。
【0058】
上述した通り、本発明に係るLTGAは、従来品に比較して高い純度を有している。従って、このようなLTGAを原料として単結晶化を試みれば、組成のバラつきのないLTGA単結晶が得られる。そして、このような単結晶からカットして得られた単結晶片を用いて製造される圧電素子の強度や特性もバラつきが生じ難く、センサ等に応用する場合にも高い歩留りが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、従来品に比較して純度の高いLTGA焼成体を製造するための技術を提供する。