(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-174554(P2016-174554A)
(43)【公開日】2016年10月6日
(54)【発明の名称】昆布からのヨウ素除去方法とその装置
(51)【国際特許分類】
A23L 17/60 20160101AFI20160909BHJP
A23L 5/20 20160101ALI20160909BHJP
【FI】
A23L1/337 A
A23L1/337 102
A23L1/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-55971(P2015-55971)
(22)【出願日】2015年3月19日
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】314017369
【氏名又は名称】北海ネオフーズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関 秀司
(72)【発明者】
【氏名】川辺 雅生
【テーマコード(参考)】
4B019
4B035
【Fターム(参考)】
4B019LC05
4B019LP02
4B019LP07
4B019LP13
4B019LP19
4B035LC09
4B035LG38
4B035LP22
4B035LP59
4B035LT08
4B035LT20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヨウ素を多く含有する昆布から品質を保ったまま短時間で経済的にヨウ素を分離する装置及び前記装置によりヨウ素が除去された昆布の提供。
【解決手段】乾燥又は生の昆布6を、浸漬液2に漬けた後、浸漬液2を樹脂カラム5に入れた陰イオン交換樹脂にポンプ3により通水し、浸漬液に溶出したヨウ素を樹脂カラム5内の陰イオン交換樹脂にて吸着させながら循環させる装置、前記装置を用いヨウ素が90.0%以上除去された昆布。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥昆布からヨウ素を分離する装置において、乾燥昆布の重量に対して15倍量の浸漬液に乾燥昆布を漬けた後、浸漬液を容器に入れた陰イオン交換樹脂にポンプにより通水し、浸漬液に溶出したヨウ素を容器内の陰イオン交換樹脂にて吸着させながら循環させる装置。
【請求項2】
生昆布からヨウ素を分離する装置において、生昆布の重量に対して5倍量の浸漬液に生昆布を漬けた後、浸漬液を容器に入れた陰イオン交換樹脂にポンプにより通水し、浸漬液に溶出したヨウ素を容器内の陰イオン交換樹脂にて吸着させながら循環させる装置。
【請求項3】
ヨウ素を分離する工程が15分経過した後に、新しい陰イオン交換樹脂と交換しさらに15分循環させることにより30分で昆布からヨウ素を90%分離する請求項1及び請求項2に記載のヨウ素分離装置。
【請求項4】
乾燥昆布の15倍量の海水に乾燥昆布を2時間浸漬した後取り出し、減少した水分を補給後、再度乾燥昆布を浸漬する工程を4回繰り返し、昆布から溶出するエキスで浸漬液に飽和させた後、その液中のヨウ素を陰イオン交換樹脂により低減させた、請求項1及び請求項2に記載の浸漬液。
【請求項5】
請求項1及び請求項2の方法により得られる、ヨウ素が90.0 %以上除去された昆布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素を含む昆布から品質を保持したままヨウ素を除去する方法とその装置に関するものである。
【0002】
また、ヨウ素だけでなく、昆布に含まれるヒ素も分離可能である。
【背景技術】
【0003】
昆布からヨウ素を分離する方法には、昆布を灰化してから分離する方法が一般的に知られている。また、海産物エキスに含まれるヨウ素を陰イオン交換膜で分離する方法(特許文献1)や塩水中からイオン交換樹脂による分離方法(特許文献2)、根昆布水から陰イオン交換樹脂により分離する方法(特許文献3)がある。
【0004】
昆布を灰化してヨウ素を取り出す場合、ヨウ素を取り出すことが目的であり、昆布が灰になってしまう事から昆布の利用が出来ない。
【0005】
海産物エキス、塩水中、根昆布水からのヨウ素分離方法は、海藻や昆布から抽出した液体を利用するのが目的であり、昆布自体からのヨウ素分離方法ではなく、昆布を利用するためのヨウ素分離方法は無かった。
【0006】
また、乾燥した昆布を水に浸すと昆布の成分と一緒に液中にヨウ素が溶出するため、そのまま乾燥するとヨウ素を低減した昆布が得られるが、有用な成分も失われることから、ヨウ素だけを分離する方法が必要となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公2012−105213号
【特許文献2】特開2005−305265号公報
【特許文献3】特開2002−017316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヨウ素を多く含有する昆布から品質を保ったまま短時間で経済的にヨウ素を分離し食品として利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のヨウ素除去装置は、ヨウ素を含む昆布を陰イオン交換樹脂を入れた容器に通水し循環させることにより、昆布からヨウ素を除去できることを特徴としている。
【0010】
また、本発明のヨウ素除去装置は、昆布を浸漬し昆布エキスの濃度を高めた浸漬液に昆布を漬けヨウ素を分離するため、昆布から浸漬液に溶出する有用物を減少させずにヨウ素を分離することが可能である。
【0011】
本発明のヨウ素除去装置は、ヨウ素吸着だけでなく、ヒ素も吸着可能であるが、本発明ではヨウ素だけを対象とする。
【0012】
さらに、本発明のヨウ素除去装置により得られる有機物は、ヨウ素が90.0 %以上除去され、食品はもとより飼料としても利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ヨウ素を含む昆布などの海藻から短時間でヨウ素を除去できることから、ヨウ素を含む海藻から品質を損なわず経済的にヨウ素を分離することができ、食品や飼料としての高度利用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるヨウ素とは、イオン状に存在するものを意味する。
【0015】
本発明においては、ヨウ素を含む昆布などの海藻を対象とするが、海藻以外の動植物にも利用可能である。
【0016】
また、本発明における陰イオン交換樹脂は、イオン交換性能を持つ通常のイオン交換樹脂の使用が望ましいが、無機あるいは有機の固形物(繊維状のものを含む)も利用可能である。
【0017】
本発明における陰イオン交換樹脂は、浸漬液に対して5%〜40%程度の量を使用するが、それは重量比であっても容積比であっても良い。
【0018】
本発明における「吸着」とは、ヨウ素が陰イオン交換樹脂に吸い付くこと、若しくはヨウ素が陰イオン交換樹脂に捕捉されることをいう。また、「吸着除去」とは、ヨウ素が吸着した陰イオン交換樹脂を除去すること、及びヨウ素が吸着した陰イオン交換樹脂からヨウ素のみを除去することをいう。
【0019】
従来までは、ヨウ素を含む昆布からヨウ素を分離することは行われておらず、昆布から抽出したエキスもしくは抽出水からヨウ素を分離している製品があった。本発明の装置によれば、昆布自体からヨウ素を分離することができる。
【0020】
昆布や海藻のヨウ素は水に溶出しやすいが、同時にアルギン酸なども溶出してしまう。(前記特許文献1)。本発明のヨウ素除去装置によれば、アルギン酸やグルタミン酸を余り溶出させずに昆布からヨウ素を分離することができる。
【0021】
本発明のヨウ素除去装置における、陰イオン交換樹脂量は浸漬液の約5%〜40%の使用で行い、処理温度は常温で行う。また、5%以下の樹脂量では、ヨウ素の吸着時間が長くなり過ぎ、40%以上の樹脂量ではヨウ素を吸着する時間がそれほど変わらないことから40%とした。
【0022】
本発明のヨウ素除去装置に於いてヨウ素吸着を行う温度を常温で行う理由として、温度が低いとヨウ素の吸着が遅い、温度が高いとヨウ素の溶出に対して陰イオン交換樹脂の吸着が追い付かない事から、20℃から30℃の常温で行うのが望ましい。
【0023】
本発明のヨウ素除去装置において、昆布を抑えるための網はステンレス製が望ましく、繊維やプラスチックの網では昆布が浮き上がってしまい、他の金属の網では金属イオンが溶出する事からステンレス製が望ましい。
【0024】
本発明の装置によれば、昆布に含まれるヨウ素が乾燥状態で90%以上除去できる。
【0025】
本発明の装置は短時間で処理が終了することから、ヨウ素以外のアルギン酸やグルタミン酸、昆布の風味物質はほとんど失われない。
【0026】
浸漬液中には昆布エキスが多く存在し、昆布中から昆布エキスの溶出は少ないことから、ヨウ素を分離する工程による重量の変化は5%程度の減少にとどまる。
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
浸漬液の製造
【0029】
この実施例では、乾燥昆布(北海道日高町産)を使用した。
【0030】
120Lの容器を浸漬槽とし75Lの海水を入れた後、乾燥昆布5kgを2時間浸漬後昆布を取り出し、昆布が吸収し減少した分の水を加え、再度、昆布を浸漬し2時間溶出させる事を4回繰り返した。
【0031】
イオン交換樹脂用カラムに10Lの陰イオン交換樹脂(ピュロライト製 NRW600)を充填したもの2本を用意し、その1本にマグネチックポンプ(イワキ製MD-100R-5M)を繋ぎ一方を浸漬槽に入れ、マグネチックポンプから浸漬槽に戻るようにする。
【0032】
マグネチックポンプにて浸漬槽からヨウ素を含んだ浸漬液を吸い取り、陰イオン交換樹脂10Lが入ったカラムを通過し浸漬槽に戻しながら15分間通水した後、陰イオン交換樹脂を入れた別のカラムに取り換え、さらに15分間通水させた。
【0033】
浸漬槽の浸漬液のヨウ素の濃度が10mg/l以下になった事を確認し75Lを浸漬液とした。
【実施例2】
【0034】
この実施例では処理対象昆布として乾燥昆布(北海道日高町産)5kgを使用した。
【0035】
昆布の重量に対して15倍の浸漬液75Lを浸漬槽に投入する。
【0036】
イオン交換樹脂用カラムに5Lの陰イオン交換樹脂(ピュロライト製 NRW600)を充填したもの2本を用意し、その1本にマグネチックポンプ(イワキ製MD-100R-5M)を繋ぎ一方を浸漬槽に入れ、マグネチックポンプから浸漬槽に戻るようにする。
【0037】
浸漬液が入っている浸漬槽に乾燥昆布5kgを投入後、上部にステンレスの網を載せ昆布の浮き上がりを防ぎながら、マグネチックポンプにて浸漬槽からヨウ素を含んだ浸漬液を吸い取り、陰イオン交換樹脂5Lが入ったカラムを通過し浸漬槽に戻しながら15分間通水した。
【0038】
陰イオン交換樹脂5Lを入れた別のカラムに取り換え、さらに15分間通水させた。
【0039】
合計30分通水させた昆布を取り出し、天日乾燥を4時間行った後、屋内に広げ送風機により送風し乾燥させた。
【0040】
ヨウ素分離前の昆布のヨウ素濃度は3250mg/kgであったが、ヨウ素分離装置によりヨウ素を分離させた昆布は乾燥状態で224mg/kgとなった。
【0041】
ヨウ素を分離した昆布の外観は通常の昆布とほとんど変わらない。一部を切り取り試食を行ったところ、味は遜色なく、昆布特有の風味も失われていなかった。また、重量の損失も5%程度であった。
【実施例3】
【0042】
この実施例では処理対象昆布として生昆布(北海道函館産)10kgを使用した。
【0043】
120Lの浸漬槽に、生昆布の重量に対して5倍の浸漬液50Lを入れた。
【0044】
イオン交換樹脂用カラムに5Lの陰イオン交換樹脂(ピュロライト製 NRW600)を充填したもの2本を用意し、その1本にマグネットポンプ(イワキ製MD-100R-5M)を繋ぎ一方を浸漬槽に入れ、マグネチックポンプから浸漬槽に戻るようにする。
【0045】
浸漬液が入っている浸漬槽に生昆布10kgを投入後、上部にステンレスの網を載せ昆布の浮き上がりを防ぎながら、マグネットポンプにて浸漬槽からヨウ素を含んだ浸漬液を吸い取り、陰イオン交換樹脂5Lが入ったカラムを通過し浸漬槽に戻しながら15分間通水した。
【0046】
陰イオン交換樹脂5Lを入れた別のカラムに取り換え、さらに15分間通水させた。
【0047】
合計30分通水させた昆布を取り出し、天日乾燥を4時間行った後、屋内に広げ送風機により送風し乾燥させた。
【0048】
ヨウ素分離前の昆布のヨウ素濃度は3840mg/kg(乾燥物)であったが、ヨウ素分離装置によりヨウ素を分離させた昆布は302mg/kg(乾燥物)となった。
【0049】
ヨウ素を分離した昆布の外観は通常の昆布とほとんど変わらない。一部を切り取り試食を行ったところ、味は遜色なく、昆布特有の風味も失われていなかった。また、重量の損失も5%程度であった。
【符号の説明】
【0051】
1 浸漬槽
2 浸漬液
3 マグネットボンプ
4 ステンレス網
5 樹脂カラム
6 昆布