引出電極34に正電圧を印加する正電圧期間を設定し、イオン源33の内部で電子を生成し、イオン源33から電子を引き出し、引出電極34に照射させ、引出電極34を加熱する。真空雰囲気中で反応副生成物層27は蒸発し、反応副生成物層27が除去される。イオン源33にはクリーニングガスを導入してクリーニングガスの正イオンを生成し、引出電極34に負電圧が印加される負電圧期間を設定し、クリーニングガスの正イオンを引出電極34に照射して、スパッタリングやエッチング反応によって、反応副生成物層27を除去するようにしてもよい。
前記イオン源には、前記注入材料ガスの反応副生成物をエッチングするエッチングガスを導入できるように構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のイオンビーム装置。
前記イオン源には、前記注入材料ガスの反応副生成物である固体化合物をエッチングするエッチングガスを導入する請求項7又は請求項8のいずれか1項記載のイオンビーム放出方法。
前記引出電極の温度を測定し、前記引出電極の温度が所定温度になるように、前記引出電極への前記電子の入射量を制御する請求項7乃至請求項11のいずれか1項記載のイオンビーム放出方法。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置には、ドーパントを含有した物質である注入材料をイオン源でイオン化し、生成された正イオンを引出電極でイオンビームとして取り出すイオンビーム装置が用いられている。
【0003】
図7の符号101は、イオン注入装置に用いられるイオンビーム装置であり、イオン源133と引出電極134と接地電極135とを有している。
気体はイオン化が容易なため、イオン源133には、ガス供給装置132が接続され、ガス供給装置132から注入材料ガスがイオン源133に供給されるようになっている。
【0004】
イオン源133には、電子放出装置140が設けられており、注入材料ガスは、電子放出装置140によってイオン化される。
引出電極134には、負電圧が印加されており、イオン源133内で生成された注入材料ガスの正イオンは引出電極134によって引きつけられ、イオン源133の放出口136から放出される。
【0005】
符号130は正イオンを生成する容器であり、放出口136は容器130に設けられている。
放出口136から放出された正イオンは、引出電極134に設けられた加速孔137と、引出電極134の背後に位置する接地電極135に設けられた通過孔138とを通過し、イオンビームとなって、イオンビーム装置101から放出される。
【0006】
このように、イオン源133には、注入材料ガスが供給されているが、気体であっても注入材料の化学反応がイオン源133内で発生し、化学反応の反応副生成物が生成される。反応副生成物は、固体物質である場合が多い。
【0007】
生成された固体物質の一部はイオン源133の放出口136から放出され、放出口136と対向する引出電極134の表面に堆積する。
図7の符号127は、引出電極134に堆積した反応副生成物から成る反応副生成物層を示している。
【0008】
堆積が進むと引出電極134の表面は平坦ではなくなり、不平等電界が形成されるようになる。特に、反応副生成物層127が絶縁物であり、引出電極134に絶縁物が堆積した場合には、イオンビームのビーム中心から離れた発散成分、いわゆるハローによるチャージアップが生じ、電極間で小さな雷放電のような異常放電が頻発するようになり、その結果、歩留まりの低下が生じて生産性が悪化する。
【0009】
引出電極134をイオン源室131から取り出し、堆積した膜の除去を物理的・化学的に行うと、異常放電は発生しないが、従来は、経験に基づいて定期的に除去を行うか、又は、単位時間当たりの異常放電発生の回数が規定値以上になると、除去を行うようにしていた。
【0010】
除去に際し、あらかじめ交換用の引出電極を用意しておけば、交換作業自体はおおよそ10分以内で完了させることもできるが、イオン源室131の内部を大気に開放しなければならないため、イオン源133の降温と、引出電極134の交換後の真空排気と、イオン源133の暖機運転とを必要とするため、数時間以上のダウンタイムが生じる。
【0011】
以上の問題を解決するために、大気開放せずに引出電極をクリーニングする種々の方法が提案されている。
【0012】
例えば、下記特許文献1は、引出電極に通電加熱する機構を設け、引出電極を通電により加熱し、引出電極に堆積した膜を蒸発させて除去する技術であるが、引出電極自体の抵抗値は低いため、加熱するためには大電流が必要になり、電源および配線が大掛かりになる欠点がある。
【0013】
また、下記特許文献2は、引出電極にイオンビームが衝突するように調節して、スパッタにより堆積膜を除去する技術であるが、原理的に引出電極のクリーニングに用いることができるイオン電流密度は低いために、堆積膜の除去速度が低い欠点がある。
【0014】
また、下記特許文献3、4は、引出電極間にグロー放電させる電源・機構を追加し、スパッタにより堆積膜を除去する技術であり、高速クリーニングを期待することができるが、イオンビームを引き出すときの圧力よりも、クリーニング圧力を100倍以上に調整する機構が必要になり、また、クリーニング中はイオン源の作動を停止するため、クリーニングを終了してからイオン源を暖機する時間が必要になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、イオン源から正イオンを引き出すことができる状態に短時間で回復できるようにして、引出電極をクリーニングできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明は、イオン源と、前記イオン源内で電子を生成する主電源と、前記イオン源の外部に設けられた引出電極と、前記引出電極に電圧を印加する補助電源と、を有し、前記引出電極は、前記引出電極に設けられた加速孔が前記イオン源の放出口と対面するように配置され、前記主電源で生成された電子によって、前記イオン源に導入された注入材料ガスがイオン化され、イオン化によって生成された正イオンが、前記補助電源によって負電圧が印加された前記引出電極によって引き出され、イオンビームとなって放出されるイオンビーム装置であって、前記補助電源は、前記引出電極に正電圧を印加できるように構成されたイオンビーム装置である。
本発明は、前記イオン源には、不活性ガスを導入できるようにされたイオンビーム装置である。
本発明は、前記イオン源には、前記注入材料ガスの反応副生成物をエッチングするエッチングガスを導入できるように構成されたイオンビーム装置である。
本発明は、前記補助電源は、前記引出電極に、正負の交流電圧を印加できるように構成されたイオンビーム装置である。
本発明は、前記引出電極には、温度センサが設けられたイオンビーム装置である。
本発明は、上記いずれか記載のイオンビーム装置と、前記イオンビーム装置が放出するイオンビーム中から所望の電荷質量比の正イオンを通過させる質量分析装置と、通過した正イオンを照射する基板が配置される基板ホルダ、とを有するイオン注入装置である。
本発明は、イオン源と、前記イオン源の容器内で電子を生成する主電源と、前記容器の外部に設けられた引出電極と、前記引出電極に電圧を印加する補助電源と、を有し、前記引出電極は、前記引出電極に設けられた加速孔が前記イオン源の放出口と対面するように配置されたイオンビーム装置を用い、前記主電源で前記容器内で電子を生成し、前記容器内に注入材料ガスを導入し、前記補助電源によって前記引出電極に負電圧を印加し、前記容器内で前記注入材料ガスの正イオンを生成、前記引出電極の負電圧によって、前記正イオンを前記容器から引き出して、イオンビームとして放出するイオン放出工程を有し、前記イオン放出工程で生成された前記注入材料ガスの固体の反応副生成物が前記引出電極に堆積されるイオンビーム放出方法であって、前記引出電極に正電圧を印加する正電圧期間を設け、前記正電圧期間には、前記容器内で電子を生成させながら、前記引出電極の正電圧で前記電子を吸引して前記引出電極に照射させ、前記引出電極を加熱して、前記引出電極に堆積した前記反応副生成物を蒸発させるクリーニング工程を有するイオンビーム放出方法である。
本発明は、前記クリーニング工程では、前記容器に不活性ガスを導入するイオンビーム放出方法である。
本発明は、前記イオン源には、前記注入材料ガスの反応副生成物である固体化合物をエッチングするエッチングガスを導入するイオンビーム放出方法である。
本発明は、前記引出電極に、負電圧を印加する負電圧期間を設けるイオンビーム放出方法である。
本発明は、前記正電圧期間と前記負電圧期間は交互に繰り返し設けられるイオンビーム放出方法である。
本発明は、前記引出電極の温度を測定し、前記引出電極の温度が所定温度になるように、前記引出電極への前記電子の入射量を制御するイオンビーム放出方法である。
【発明の効果】
【0018】
イオン源をイオンビーム引出しの条件範囲で作動状態を維持し、容器の熱輻射によって引出電極を加熱する。さらに、イオン源内の電子を加速して引出電極に衝突させて加熱する。これにより、引出電極に堆積した膜を蒸発させて除去することができる。
引出電極クリーニング時においても、イオン源を常時イオンビーム引出し時と同等の条件で運転しているため、クリーニング終了後に暖機運転することなく復旧することができる。
【0019】
また、イオン源の輻射熱を併用するため、その分電子ビーム加熱のパワーを省力化できる。
さらに、直流加熱モードの場合は、熱輻射と電子ビームとで加熱するため、スパッタリングによる電極の損傷を抑えることができる。
交流加熱モードの場合は、引出電極の堆積物が絶縁物であっても交流電流を流すことができるため、加熱して蒸発・除去することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1の符号1は、本発明のイオン注入装置である。イオン注入装置1の概要を説明すると、イオンビーム装置3と、質量分析装置11と、加速装置12と、走査装置13と、注入室23とを有している。図中符号55
1〜55
4は真空排気装置であり、イオン注入装置1は、真空排気装置55
1〜55
4によって真空排気されている。
【0022】
イオンビーム装置3はガス供給装置32を有しており、イオンビーム装置3は、ガス供給装置32が供給する注入材料ガスをイオン化し、生成された正イオンをイオンビームとして走行室21の内部を走行させ、質量分析装置11の内部に入射させる。
【0023】
質量分析装置11の内部では、イオンビーム中のイオンを質量分析し、所望の電荷質量比を有するイオンを通過させ、イオンビームとして、加速装置12に入射させる。
加速装置12では、イオンビーム中の正イオンを加速させ、走査装置13に入射させる。
走査装置13は、イオンビームの進行方向を制御しながら、注入室23の内部に入射させる。
【0024】
注入室23の内部には、一台又は複数台(ここでは二台)の基板ホルダ13a、13bが配置されており、基板ホルダ13a、13bには、基板14a、14bがそれぞれ配置されている。
【0025】
走査装置13によって、イオンビームは複数の基板ホルダ13a、13bのいずれか一台の方向に向けられ、基板14a、14bの表面を一枚ずつ走査しながらイオンを照射すると、基板14a、14bの内部にイオンが注入される。
【0026】
<イオンビーム装置>
図2に、本発明の一例のイオンビーム装置3を示す。
イオンビーム装置3は、真空槽であるイオン源室31を有している。イオン源室31の内部には、イオン源33と、引出電極34と、接地電極35とを有している。
【0027】
イオン源33は、傍熱陰極型(IHC)のイオン源、パナスイオン源、RFイオン源、ECRイオン源等の、電子を生成して、又は、他の方式のイオン源を使用することができる。
ここでは、イオン源33は傍熱陰極型であり、注入材料ガスが導入される容器30を有している。
【0028】
容器30には、放出口36が設けられており、容器30はイオン源室31の内部に配置されているから、容器30の内部雰囲気とイオン源室31の内部雰囲気とは、放出口36によって接続されている。
【0029】
イオン源室31には真空排気装置55
1が接続されており、真空排気装置55
1を動作させるとイオン源室31の内部が真空排気され、イオン源室31の内部に真空雰囲気が形成される際に、放出口36を介して、容器30の内部も真空排気され、真空雰囲気が形成される。
【0030】
イオン源33は、容器30に接続されたバイアス電源24と、容器30内部の片側に設けられた電子放出装置40と、電子放出装置40に接続された主電源25と、容器30内部の反対側の位置に設けられたリペラ電極43とを有している。
【0031】
電子放出装置40は、フィラメント41とカソード電極42とを有している。
主電源25は、発熱用電源47と、アーク電源46と、補助バイアス電源48とを有しており、フィラメント41は、真空雰囲気に置かれた状態で発熱用電源47によって、通電されると温度が上昇するように構成されている。
【0032】
カソード電極42は、フィラメント41の近傍に配置されており、フィラメント41が昇温すると、フィラメント41の熱輻射によって加熱される。
また、フィラメント41には、補助バイアス電源48によってカソード電極42に対する負電圧が印加され、昇温したフィラメント41から熱電子が放出されるようにされており、放出された熱電子はカソード電極42に照射され、カソード電極42は、電子の照射でも加熱される。
【0033】
容器30は、金属等の導電性材料で形成されており、カソード電極42には、アーク電源46によって、容器30に対する負電圧が印加されており、昇温したカソード電極42から電子が放出される。
【0034】
カソード電極42から放出された電子の一部はリペラ電極43方向に進行し、リペラ電極43で反射され、カソード電極42とリペラ電極43との間で往復運動をし、電子の他の一部は容器30に入射し、カソード電極42と容器30との間にアーク放電を発生させる。このとき、容器30の内部では、多数の電子が走行している状態になっている。
【0035】
ガス供給装置32には、主ガス源(複数の場合あり)32aと、補助ガス源32bを含み、図示しないガス流量調整機構を介してガス集合点32cが設けられており、ガス集合点32cを通過して主ガス源32aがイオン源33に接続され、主ガス源32aから容器30に注入材料のガスが供給されると、注入材料のガスは、容器30の内部で電離され、正電荷を有するイオン(正イオン)が生成される。
容器30には導入口49が設けられており、ガス供給装置32は、導入口49から容器30内にガスを導入する。
【0036】
イオン源室31は、金属等の導電性材料で形成されており、接地電位あるいは高電圧電位に接続されている。ここでは、便宜上接地電位として説明する。
容器30は、バイアス電源24によって、イオン源室31に対して正電圧が印加されており、上記のアーク放電によって容器30内には正イオンを含んだプラズマが充満する。
【0037】
容器30の外部であって、放出口36と向かい合う位置には、引出電極34が配置されている。
引出電極34には、補助電源26が接続されている。補助電源26の内部には、加減速電源45と、加熱電源44aと、電圧切替スイッチ50とが設けられている。
【0038】
加減速電源45と加熱電源44aとは、ここでは直流電源であり、電圧切替スイッチ50によって、加熱電源44aの正電圧端子と、加減速電源45の負電圧端子のいずれか一方の端子を引出電極34に接続することができる。
【0039】
イオンビームを照射する際には、電圧切替スイッチ50によって加減速電源45が引出電極34に接続され、補助電源26から引出電極34に、イオン源室31に対する負電圧が印加されている。
負電圧が印加された引出電極34が形成する電界は、放出口36から容器30の内部に進入し、正電荷のイオンを吸引する。
【0040】
引出電極34には、加速孔37が形成されており、加速孔37は、放出口36と対面する位置に配置されている。
引出電極34によって吸引され、放出口36から容器30の外部に移動した正電荷のイオンは、引出電極34が形成する電界で加速され、加速孔37を通過する。
【0041】
引出電極34の前方を容器30側とすると、引出電極34の後方には接地電極35が配置されており、加速孔37を通過した正イオンの進行方向には、接地電極35に形成された通過孔38が配置されている。
加速孔37を通過した正電荷のイオンは、通過孔38を通過して、イオンビームとして質量分析装置11に入射する。
【0042】
上述したように、入射したイオンビームに含まれる正イオンは質量分析され、所望の電荷質量比の正イオンが基板14a、14bに注入される。
注入材料ガスが容器30内で電離するときには、化学反応が発生し、反応副生成物が形成される。
【0043】
この反応副生成物は、放出口36から容器30の外部に漏出し、容器30と対面する引出電極34の表面に堆積する。
このようなイオン注入が、複数枚数の基板に対して行われると堆積が進行し、引出電極34の表面に堆積した反応副生成物層27が形成される。
【0044】
<クリーニング工程>
反応副生成物層27を除去するためには、先ず、イオンビーム装置3からイオンビームを放出するイオン放出工程を行った後、ガス供給装置32からイオン源室31に供給される注入材料ガスの供給を停止する。
【0045】
基板ホルダ13a、13bに保持された基板14a、14bの表面にイオンビームが照射されない状態にし、補助電源26から、引出電極34にイオン源室31に対する正電圧を印加する。
【0046】
なお、この補助電源26では、
図3に示すように、電圧切替スイッチ50によって、引出電極34の接続を、加減速電源45から加熱電源44aに切り替え、加熱電源44aが出力する容器30に対する正電圧を、引出電極34に印加すると、容器30の内部で走行している電子は引出電極34に吸引され、引出電極34に入射し、引出電極34は、入射する電子によって加熱され、昇温する。
【0047】
イオンビームを放出しているときには、容器30は、カソード電極42から熱輻射を受け、また、電子が照射されることで加熱されており、イオンビーム放出の際には、引出電極34は容器30の熱輻射によって加熱されている。
クリーニングを行う時には、引出電極34は冷却せず、イオンビーム放出のときの温度を維持しながら電子を照射して引出電極34を昇温させるとよい。
【0048】
カソード電極42から放出された電子が引出電極34に入射するときに形成される電流経路は、加熱電源44aの正電圧端子から、引出電極34とカソード電極42の間の電子の流れと、バイアス電源24とを通って、加熱電源44aの負電圧端子に戻る電流経路であり、バイアス電源24の電流容量が小さい場合は、バイアス電源24と並列に短絡スイッチ57を設け、イオン照射のときには短絡スイッチ57を開状態にし、電子照射によって引出電極34を加熱するときには閉状態にし、引出電極34を加熱する電流がバイアス電源24を流れずに短絡スイッチ57を流れるようにすることができる。バイアス電源24の内部インピーダンスが1kΩ以上の場合は短絡スイッチ57を設けると良い。
【0049】
反応副生成物層27が堆積した引出電極34は、反応副生成物層27が真空雰囲気中で高い蒸気圧で蒸発する温度以上の温度に昇温されており、反応副生成物層27は蒸発して除去される。反応副生成物層27が真空中で蒸発する温度は、大気中での反応副生成物の融点や沸点よりも低温である。
【0050】
引出電極34は、引出電極34が溶融する温度よりも低温の温度に昇温させるとよい。
また、引出電極34に正電圧を印加する際に、容器30に、クリーニングガスを導入することができる。
【0051】
イオン照射の際には、補助ガス源32bの系統を閉じて主ガス源32aをイオン源33に接続し、主ガス源32aから容器30の内部へ注入材料ガスを供給していたのに対し、クリーニング工程を開始する際には、主ガス源32aの系統を閉じて注入材料ガスの供給を停止すると共に、補助ガス源32bをイオン源33に接続し、補助ガス源32bからクリーニングガスをイオン源33内の容器30の内部に供給する。
【0052】
クリーニングガスは、反応副生成物層27をスパッタリングして除去する希ガス、N
2ガス等の不活性ガスを含有しており、更に、不活性ガスに加え、反応副生成物と化学反応して固体の反応副生成物を気体の化合物に化学変化させるエッチングガスを含有させることができる。
【0053】
本発明のイオン注入装置1では、除去すべき反応副生成物層27を構成する反応副生成物は、フッ化アルミニウム(AlF
x)である場合が多く、AlF
xのエッチングガスには、NF
3ガス、CF
4、SF
6等のフッ素系ガス(化学構造中にフッ素を含むガス)をエッチングガスとしてクリーニングガスに含有させることができ、NH
3等の水素を含む化合物ガスや、Cl
2、BCl
3、CHF
3等の塩素やフッ素を含む化合物ガスもエッチングガスとしてクリーニングガスに含有させることができる。引出電極34に他の反応副生成物が堆積した場合にも同様に対処できる。
【0054】
反応副生成物のフッ化アルミニウムでは、AlF
xの「x」は、3よりも小さい場合が多いが、化学量論比のAlF
3では、
図6(a)のグラフに示す温度−蒸気圧曲線を有しており、蒸気圧が1Paに近い部分を拡大して
図6(b)のグラフに示す。700℃程度に昇温させると、加熱によって短時間でAlF
xを除去することができる。反応副生成物層27は、クリーニングガスを容器30に導入すれば、一層早く除去することができる。
【0055】
容器30の内部では、カソード電極42から電子が放出されており、容器30の内部の電子は、正電圧が印加された引出電極34が形成する電界によって、引出電極34に吸引され、放出口36から放出されて、引出電極34に入射する。
【0056】
クリーニングガスに反応副生成物と化学反応して気体の化合物を生成するエッチングガスが含まれる場合は、反応副生成物層27は、蒸発と共に、エッチングガスと化学反応して除去される。
【0057】
反応副生成物層27が除去されると、容器30へのクリーニングガスの導入を終了させ、注入材料ガスを導入すると共に、引出電極34に印加する電圧を、イオン源室31に対して正の電圧から負の電圧に切り替え、放出口36から、注入材料の正イオンを引き出し、イオンビームにして質量分析装置11に進行させる。
【0058】
基板ホルダ13a、13bには、イオン注入対象の基板14a、14bを配置しておき、基板14a、14bにイオンビームが到達できる状態にされると、イオン注入が再開される。
【0059】
上記第一例のイオンビーム装置3では、加熱電源44aの負電圧端子はイオン源室31に接続されていたが、
図4の第二例のイオンビーム装置4のように、容器30に接続されていてもよい。
【0060】
また、上記第一、第二例のイオンビーム装置3,4では、加熱電源44aに直流電源を用いていたが、直流電源に替え、交流電源を加熱電源として用いることができる。
【0061】
図5の第三例のイオンビーム装置5の加熱電源44bには交流電源が用いられており、イオン注入を一端終了させる際には、容器30の内部への注入材料ガスの導入を停止し、容器30の内部へのクリーニングガスの導入を開始すると共に、加熱電源44bにより、引出電極34に交流電圧を印加させ、引出電極34には容器30に対して、正電圧と負電圧とが交互に印加されるようにする。正電圧が印加される正電圧期間では、上記第一、第二例のイオンビーム装置3,4と同様に、放出口36から放出された電子が引出電極34に照射され、引出電極34が加熱される。
【0062】
負電圧が印加される負電圧期間では、電子に代わり、クリーニングガスの正イオンが引出電極34に吸引され、放出口36から放出され、引出電極34に入射する。
【0063】
引出電極34に堆積した反応副生成物層27は容器30と対面しており、放出口36から放出された正イオンは、反応副生成物層27に照射されるため、クリーニングガスの正イオンのうち、不活性ガスの正イオンは反応副生成物層27をスパッタリングして除去し、エッチングガスの正イオンは、反応副生成物層27と接触して化学反応し、固体の反応副生成物層27をガスに化学変化させて除去する。
【0064】
電子線照射によって反応副生成物層27は昇温しているので、反応副生成物層27は、加熱による蒸発に加え、スパッタリングによる物理的除去と化学反応による化学的除去とでクリーニングが行われる。
【0065】
スパッタリングによる物理的除去と化学反応による化学的除去とは、電子線照射による反応副生成物層27の昇温によって進行しやすくなっており、従って、交流電源を用いると、反応副生成物層27の除去は早くなる。
【0066】
このように、引出電極34に堆積した反応副生成物層27を除去するためには、引出電極34を加熱することが必要であるから、引出電極34に正電圧を印加する正電圧期間は必要である。
【0067】
また、スパッタリング反応やエッチング反応を併用するためには、引出電極34に負電圧を印加する負電圧期間を設けると良い。
正電圧期間の長さと負電圧期間の長さは等しくなくても良い。
また、正電圧期間と負電圧期間を交互に繰り返し設け、交流電圧が引出電極34に印加されるようにしても良い。
また、負電圧期間を設ける場合はクリーニングガスをイオン源33内に導入すると良い。
【0068】
第一〜第三例のイオンビーム装置3〜5では、引出電極34に温度センサ29を設けておき、引出電極34を加熱する際には、引出電極34の温度を測定しながら、加熱電源44a、44bが出力する電力を制御し、引出温度が所定温度を維持するようにしても良い。また、温度センサ29を設けず、放射温度計等で引出電極34の温度を測定しながら電力制御を行っても良い。
【0069】
図2〜5の符号51は制御装置であり、この制御装置51に温度センサ29の出力信号が入力され、制御装置51は、入力された信号と基準値とを比較し、補助電源26を制御することで、引出電極34が所定温度を維持するように加熱電源44a、44bの出力電力を変化させている。
【0070】
また、予め加熱電源44a、44bが出力する電力と、引出電極34の温度との関係である電力−温度関係を測定しておき、加熱電源44a、44bが出力する電力を測定しながら、引出電極34が所定温度を維持するように、出力する電力を変化させるようにしてもよい。
【0071】
イオン源室31には、測定装置28が設けられており、測定装置28の測定結果に基づいて、クリーニングを終了させる。例えば、測定装置28が圧力計(イオンゲージ等)である場合は、クリーニング中のイオン源室31内部の圧力を測定し、圧力が所定値よりも低下したときに、クリーニングは終了したと判断することができる。
【0072】
また、測定装置28が残留ガス分析計(四重極質量分析計等)の場合は、クリーニング中のイオン源室31内部の物質の電荷質量比と検出量の関係を測定し、特定の電荷質量比の物質の検出量が所定値以下になったときに、クリーニングは終了したと判断することができる。
【0073】
なお、上記例では、補助電源26の内部に二台の電源を設けて切り替えて、正電圧と負電圧を出力していたが、一台の電源で、正電圧と負電圧を出力するようにしてもよい。