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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-186095(P2016-186095A)
(43)【公開日】2016年10月27日
(54)【発明の名称】金属加工方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 7/04 20060101AFI20160930BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20160930BHJP
   C22C 38/42 20060101ALN20160930BHJP
【FI】
   C21D7/04 A
   C22C38/00 301A
   C22C38/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-65978(P2015-65978)
(22)【出願日】2015年3月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 平成26年10月1日 刊行物 天田財団 助成研究成果報告書 Vol.27 2014 〔刊行物等〕ウェブサイトの掲載日 平成26年10月1日 ウェブサイトのアドレス(URL) http://www.amada−f.or.jp/r_report/report27.html 〔刊行物等〕開催日 平成27年3月7日 集会名、開催場所 日本機械学会北海道学生会 第44回学生員卒業研究発表講演会 会場:北海道科学大学 〔刊行物等〕発行日 平成27年3月7日 刊行物 日本機械学会北海道学生会 第44回学生員卒業研究発表講演会 講演論文集 No.152−1 〔刊行物等〕開催日 平成27年3月7日 集会名、開催場所 日本機械学会北海道学生会 第44回学生員卒業研究発表講演会 会場:北海道科学大学 〔刊行物等〕発行日 平成27年3月7日 刊行物 日本機械学会北海道学生会 第44回学生員卒業研究発表講演会 講演論文集 No.152−1
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】515084225
【氏名又は名称】株式会社ハイブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝
(72)【発明者】
【氏名】中谷 建太朗
(72)【発明者】
【氏名】和島 達希
(57)【要約】
【課題】塑性変形を抑制しつつ、金属材料に微細組織を導入することにより金属材料の機械特性を向上することが可能な加工方法を提供すること。
【解決手段】窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気にて、金属材料に対し50N未満の圧縮荷重を少なくとも1×10回繰り返し付加する工程を備える、金属加工方法。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気にて、金属材料に対し50N未満の圧縮荷重を少なくとも1×10回繰り返し付加する工程を備える、金属加工方法。
【請求項2】
前記圧縮荷重を少なくとも30Hzの負荷周波数にて付加する、請求項1記載の金属加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属材料の疲労強度、耐摩耗性等の向上を目的として、ECAP法やショットピーニングに代表される強ひずみ加工を用いた金属組織の微細化技術が注目されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。微細化された金属組織を有する金属材料は高強度であるだけでなく、超塑性変形や耐食性などにおいても粒径が数μm程度の通常の結晶粒径の材料とは異なる特性が見出されている。また、組織の微細化により合金元素を添加せずに金属材料の強度向上を達成することができ、リサイクル性にも優れる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】藤原弘、小田英治、飴山惠、強ひずみ加工法としてのメカニカルミリング法の特徴、鉄と鋼、Vol.94、No.12 (2008)、pp.608-615
【非特許文献2】Minoru Umemoto、 Yoshikazu Todaka and Koichi Tsuchiya、 Formation of Nanocrystalline Structure in Steels by Air Blast Shot Peening、 Materials Transactions、Vol.44、No.7 (2003)、pp.1488-1493
【非特許文献3】堀田善治、超強加工によるバルク材の超微細組織化と力学特性向上、鉄と鋼、Vol.94、No.12 (2008)、pp.599-607
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら非特許文献にて開示された加工方法では、材料に真ひずみ4程度以上の大規模な塑性ひずみを導入することが加工原理となっている。そのため、加工される金属材料への負荷が大きく、これを大幅に低減することができる新たな加工技術が求められている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、塑性変形を抑制しつつ、金属材料に微細組織を導入することにより金属材料の機械特性を向上することが可能な金属加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気にて、金属材料に対し50N未満の圧縮荷重を少なくとも1×10回繰り返し付加する工程を備える、金属加工方法を提供する。
【0007】
このような金属加工方法であれば、塑性変形を抑制しつつ、金属材料に微細組織を導入することが可能である。より具体的には、同方法により、金属材料表面近傍の金属組織を微細化することができる。
【0008】
本発明において、圧縮荷重を少なくとも30Hzの負荷周波数にて付加することが好ましい。これにより金属組織の微細化をより促進することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塑性変形を抑制しつつ、金属材料に微細組織を導入することにより金属材料の機械特性を向上することが可能な金属加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】Cyclic Press法概要を示す模式図である。
図2】試験片の断面組織を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】試験片の形状を示す外観模式図である。
図4】インデンター形状を示す外観模式図である。
図5】Cyclic Press試験装置の動作機構を示す模式図である。
図6】試験番号1の試験片におけるインデンターとの接触面を示すSEM写真である。
図7】組織観察試料の準備工程の概略を示す模式図である。
図8】試験番号1の試験片の縦断面組織を示すSIM写真である。
図9】試験番号2の試験片の圧痕中央近傍の縦断面組織を示すSIM写真である。
図10】試験番号3の試験片の圧痕中央近傍の縦断面組織を示すSIM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態の金属加工方法は、金属材料に対し50N未満の圧縮荷重を少なくとも1×10回繰り返し付加する工程を備えるものであり、これにより金属材料表面近傍の金属組織を微細化することができる。
【0013】
本実施形態の金属加工方法を適用し得る金属材料としては特に限定されるものではない。後述するインデンターとして被加工金属より硬いものが準備できれば、例えば炭素鋼、非鉄金属であるアルミ合金やチタン合金等をはじめ、原理的にあらゆる金属材料が加工対象となり得る。
【0014】
本実施形態においては、金属材料の塑性変形を抑制しつつ金属材料表面近傍の金属組織を微細化する必要があるため、圧縮荷重は50N未満であるが、40N未満であることが好ましく、30N未満であることがより好ましい。なお、圧縮荷重の下限は特に限定されるものではないが、微細化を好適に実施するという観点から、少なくとも20N程度とすることができる。なお、金属材料に圧縮荷重を付加する場合、簡易的には、例えば対象となる金属材料よりも硬く、球面である先端部を備えるインデンターを用いることができる。
【0015】
圧縮荷重を付加する際の負荷周波数は少なくとも30Hzであることが好ましく、100Hz以上であることがより好ましい。これにより金属組織中により好適に微細化領域を形成することができる。負荷周波数の上限は特に限定されるものではないが、加工時間の短縮という観点から、400Hz程度とすることができる。なお、所定の負荷周波数の実現には電気油圧サーボアクチュエータ、圧電アクチュエーター等を用いることができる。
【0016】
本実施形態においては、金属材料に対し所定の圧縮荷重を(好ましくは所定の負荷周波数にて)少なくとも1×10回繰り返し付加する。なお、金属組織の微細化をより促進することができるという観点で、繰り返し数は1×10回以上であることが好ましく、1×10回以上であることがより好ましい。繰り返し数の上限は特に限定されるものではないが、加工時間の短縮という観点から、5×10回程度とすることができる。
【0017】
金属組織を微細化する上記の工程を実施する雰囲気は、目的とする結晶粒のサイズや金属組織中に取り込みたい元素種に応じて適宜選択することができる。本実施形態においては、当該工程は窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気中で実施される。特に窒素雰囲気で加工を行うことにより、加工対象となる金属材料に由来する金属原子及び窒素原子を含む特異な層(遷移層)を、金属材料表面に導入することができる。当該層は、より具体的には金属材料の微細化領域上(より表面に近い領域)に導入される。当該層の厚みは圧縮荷重の負荷条件等に応じて調整することができるが、概ね0.5〜2μmである。
【0018】
本実施形態において金属組織の微細化は金属材料表面近傍で認められる。ここで、表面近傍とは、金属材料表面を基準として深さ10μm程度までの領域を想定しているが、圧縮荷重の付加条件に応じ微細化領域が形成される深さも変わるため、必ずしも当該深さまでに限定されるものではない。
【0019】
本実施形態において微細化とは、圧縮応力を付加する前の(例えば粒子径が10〜数10μm程度の)粗大な結晶粒が、粒子径が微細な結晶粒に変化することを言う。なお、微細化された結晶粒の粒子径は金属材料表面でより小さく、金属材料内部に行くに従い徐々に大きくなるため一概には言えないが、本実施形態の金属加工方法の場合、概ね1μm以下のサイズの微細な結晶粒を有する金属組織を、金属材料表面近傍に形成することができる。
【0020】
金属組織の微細化状態は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や走査型イオン顕微鏡(SIM)により金属材料の断面を観察することで確認することができる。
【0021】
本実施形態の加工方法により加工された、微細化組織を備える金属材料は、加工前のものに比べて、少なくとも極めて優れた疲労強度や耐摩耗性を発現する。そのため、航空機、自動車等の分野において有用な金属材料を提供することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0023】
1.Cyclic Press法概要
図1は、Cyclic Press法概要を示す模式図である。図1に示すように、Cyclic Press法では固定した試験片に対し、インデンターを軸方向に振動させることにより試験片表面に繰返し圧縮負荷を付与される。本実施例においてこのような試験手法をCyclic Press法と言う。このように金属表面に比較的小さな圧縮負荷を長期間繰返し付与することにより、表層組織の微細化を行った。
【0024】
2.試験片
試験片(金属材料)には、機械構造用炭素鋼S25Cを用いた。化学組成を表1に示す。熱処理として、焼なまし(1123K、3.6ks保持後炉冷)を施した。熱処理後の硬さはロックウェル硬さBスケール:62HRB(≒ビッカース硬さ:105Hv)であった。図2は試験片の断面組織を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図中の灰色の組織がフェライト相(α)、白色と灰色の層状組織がパーライト相(P)である。焼なましを施すことにより、金属組織が平衡状態に近い安定なものとなり、結晶粒が粗大になる。そのため、Cyclic Press法による結晶粒子径の変化をより明瞭に観察することが可能である。画像処理により測定したところ、結晶粒の平均粒子径は約15μmであった。
【0025】
【表1】
【0026】
図3は試験片の形状を示す外観模式図である。切削加工により試験片表面に形成された加工硬化層を除去するため、インデンターとの接触面(Contact Surface)を#120〜#2000のエメリー紙で研磨した。その後、表面状態を整えるためバフ研磨を施した。バフ研磨には、砥粒の平均粒子径が1μmのアルミナ懸濁液を用いた。
【0027】
3.Cyclic Press試験装置
3.1 インデンター
試験片に圧縮負荷を付与するため、インデンターを作製した。図4はインデンター形状を示す外観模式図である。インデンター先端部(試験片との接触面:Contact Surface)の形状は曲率半径4mmの球面とした。インデンター先端部には、試験片よりも硬いSKD11(697Hv〜772Hv)を用いた。
【0028】
3.2 Cyclic Press試験装置
図5はCyclic Press試験装置の動作機構を示す模式図である。今回は窒素、アルゴン又は真空環境にて試験を行ったため、同図に示される機構を備える超高真空疲労試験機を用いた。
【0029】
4.試験条件
試験条件を表2に示すとおり変えて試験を行った。なお、試験は室温(20〜25℃)にて行った。
【0030】
【表2】
【0031】
5.評価結果
5.1 接触面の観察結果
試験番号1の試験片について、試験後のインデンターとの接触面をSEMを用いて観察を行った。図6は、試験片におけるインデンターとの接触面を示すSEM写真である。インデンターとの接触面には直径約850μmの圧痕が形成されていた。
【0032】
圧痕領域の変形状態を詳しく調べるため、表面粗さ及び圧痕深さを測定した。これらの測定には、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700/9710 GenerationII、 KEYENCE)を用いた。まず、試験前後における表面状態の変化を調べるため、圧痕内部及びインデンターの接触を受けていない表面において表面粗さを測定した。その結果、圧痕中央部における算術平均粗さR(JIS B0601−2001)は1.890μm、非接触面では0.696μmであった。圧痕中央部の粗さは非接触面のそれに比べて大きいが、その差はわずかである。次に、圧痕深さを測定したところ約13μmであった。この値は、塑性加工の範疇では微小な変形と見なせる。以上より、低荷重の繰返し圧縮負荷を付与する本手法では表面状態の変化はほとんど無いと判断できる。
【0033】
なお、その他の試験番号の試験片についても同様に、試験後の表面状態の変化はほとんど生じていなかった。
【0034】
5.2 組織観察
表面観察後、各試験片から組織観察試料を作製した。図7は、組織観察試料の準備工程の概略を示す模式図である。図7(a)に示すように、試料はその縦断面が圧痕中央直下の断面となるように試験片から切り出した。また、加工の際に生じたバリを除去するため、端面をエメリー紙で研磨して仕上げた。そして、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて組織観察面を加工した。図7(b)にFIB加工面の概略図を示す。まず、表面を保護するためにFIB加工領域表面にカーボン保護膜を形成させた。そしてガリウムイオンによるスパッタリングを行い、試験片表面を掘り下げ、縦断面を観察した。本手法を用いることにより、試験片表層組織にほとんど影響を与えずに縦断面観察試料を作製することができた。縦断面の組織観察は走査型イオン顕微鏡(SIM)により行った。
【0035】
図8は試験番号1の試験片の縦断面組織を示すSIM写真である。図8(a)は無負荷部すなわちインデンター非接触部の組織である。同図より、カーボン保護膜直下に粒径数十μmのフェライト相が確認できる。この領域は負荷を付与していないため、試験前の状態に等しい。これに対し、図8(b)に示した圧痕中央部の縦断面組織は明らかに微細化している。金属材料表面近傍(深さ5μm程度まで)における結晶粒の粒子径は概ね1μm以下で、観察視野全体に渡って微細化が認められた。このように、金属材料表面に低荷重の圧縮負荷を長期間繰返し付与することによって、金属材料の表層に微細組織を形成できることが確認された。また、最表層部には遷移層が厚さ0.5〜2μm程度で形成されていることが確認された。なお、TEM−EDSによる分析の結果、当該遷移層はζ−FeNから形成されていることが確認された。
【0036】
図9は試験番号2の試験片の圧痕中央近傍の縦断面組織を示すSIM写真である。同図より、金属材料表面近傍(深さ2μm程度まで)における結晶粒の粒子径は1μm程度に、さらに内部の領域では粒子径が4μm程度であることが確認された。
【0037】
図10は試験番号3の試験片の圧痕中央近傍の縦断面組織を示すSIM写真である。同図より、真空雰囲気では窒素雰囲気に比べ微細組織が形成され難く、微細領域の深さも減少することが確認された。また、遷移層に該当するような層は形成されていないことが確認された。
図1
図5
図2
図3
図4
図6
図7
図8
図9
図10