【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。以下の実施例は本発明をさらに詳細に説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
[実施例1]
(1)セメントクリンカーの製造
石灰石、石炭灰、珪石および高炉二次灰を含むセメントクリンカー原料に、フッ素および三酸化硫黄を配合したセメントクリンカー原料組成物を焼成して、表1に示す組成のセメントクリンカーを製造した。焼成はロータリーキルンを用いて、f.CaO=0.8質量%となる温度で行った。焼成後のサンプル中のフッ素および三酸化硫黄の含有量は、フッ素源として蛍石を、三酸化硫黄源として二水石膏を用いて、所望の値に調整した。また、他の調製物として、マグネシウム源であるMgCO
3、ナトリウム源であるNa
2CO
3、リン酸源であるCa
3(PO
4)
2をセメントクリンカー原料に加えた。なお、表1中のC3Sはエーライト(珪酸三カルシウム)であり、C2Sはビーライト(珪酸二カルシウム)であり、C3Aはアルミネート(アルミン酸三カルシウム)であり、C4AFはフェライト(鉄アルミン酸四カルシウム)であり、それぞれセメントクリンカー中のCaO、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3からBogue式によって求めた。また、表1のF/SO
3は、フッ素の含有量を三酸化硫黄の含有量で除して求めたものである。
【0030】
【表1】
【0031】
なお、本実施例に係るセメントクリンカー原料組成物を調製するのに用いた各原料の組成は、以下の表2の通りであった。
石灰石に関してはJIS M 8850に準拠して分析した。
そして、JIS M 8850において分析法が複数記載された成分については、以下の分析法で分析した。すなわち、SiO
2は7.1(1)モリブデン青吸光光度法により、Fe
2O
3は8.1(2)原子吸光法により、Al
2O
3は9.1(1)水酸化物分離EDTA−亜鉛逆滴定法により、MgOは11.1(2)原子吸光法により、P
2O
5は12.1(1)モリブデン青吸光光度法により、それぞれ分析した。
また、JIS M 8850において分析法の記載がない成分については、JIS R 5202に準拠して分析した。
二水石膏に関してはJIS R 9101に準拠して分析した。
そして、JIS R 9101において分析法が複数記載された成分については、以下の分析法で分析した。すなわち、Fe
2O
3は10.1(3)原子吸光分析法により、CaOは11.1(1)EDTA滴定法により、MgOは12.1(1)原子吸光分析法により、P
2O
5は18.1.(1)モリブデン青吸光光度法により、それぞれ分析した。
また、JIS R 9101において分析法の記載がない成分については、JIS R 5202に準拠して分析した。
それ以外の原料に関してはJIS M 8853に準拠して分析した。
そして、JIS M 8853において分析法が複数記載された成分については、以下の分析法で分析した。すなわち、SiO
2は8.1b)脱水重量分析・吸光光度分析併用法により、Fe
2O
3は10.1b)ICP発光分光分析法により、TiO
2は11.1b)ICP発光分光分析法により、CaOは14.1a)原子吸光分析法により、MgOは15.1a)原子吸光分析法により、Na
2Oは16.1a)原子吸光分析法により、K
2Oは17.1a)原子吸光分析法により、それぞれ分析した。
また、JIS M 8853において分析法の記載がない成分については、JIS R 5202に準拠して分析した。
また、各原料のFについてはJCAS I−52に準拠して分析を行った。
【0032】
【表2】
【0033】
(2)セメントクリンカーの粉砕
上記で得られたセメントクリンカーを所定量の二水石膏と混合し、粉砕助剤としてジエチレングリコールを所定量添加し、ボールミルを用いてブレーン比表面積が3300cm2/gとなるように粉砕して、セメントクリンカー粉砕物を得た。
【0034】
(3)セメントクリンカー以外の材料
セメントクリンカー以外の材料として、以下のものを使用した。
・セメント強さ試験用標準砂
【0035】
(4)モルタルの形成
JIS R 5201に従って各セメントクリンカー粉砕物450gとセメント強さ試験用標準砂1350gと水225gとを混練し、40×40×160の型枠に打設し、打設後1日経過後に脱型して20℃の恒温水槽によって、所定の材齢になるまで水中養生して、モルタルを形成した。
【0036】
(5)モルタルの評価
得られた各モルタルについて、圧縮強さ、凝結およびモルタルフローを測定した。各項目の測定方法は以下の通りである。
<測定方法>
(i)圧縮強さ
JIS R 5201(1997)に従って、打設後3日、7日および28日経過後のモルタルの圧縮強さを測定した。
(ii)凝結
JIS R 5201(1997)に従って、始発・終発を測定した。
(iii)モルタルフロー
JIS R 5201(1997)に従って測定した。
上記各項目の測定結果を表3に示した。
【0037】
【表3】
【0038】
表3より、各サンプルとも品質に問題のないモルタルが形成されていることが確認された。
【0039】
(6)F/SO
3とモルタルの圧縮強さとの相関関係
表1に示す各サンプルについて、F/SO
3に対して28日経過後のモルタルの圧縮強さをプロットして、F/SO
3とモルタルの圧縮強さとの相関関係を求めた。求めた相関関係を
図1〜6に示した。
図1〜5は、フッ素の含有量に応じて、F/SO
3とモルタルの圧縮強さとの相関関係を示したものであり、
図6は、各フッ素の含有量に応じたF/SO
3とモルタルの圧縮強さとの相関関係を比較したものである。
【0040】
図1は、フッ素の含有量が極めて少ない範囲での結果を示したものである。そのため、SO
3の含有量を変動させても、F/SO
3を大きく変動させることが困難であった。したがって、この範囲においては、F/SO
3とモルタルの圧縮強さとの間に良好な線形関係は認められなかった。しかしながら、フッ素の含有量が0.1質量%以上、つまり、
図2〜
図5に示したような場合、F/SO
3とモルタルの圧縮強さとの間には良好な線形関係が認められ、F/SO
3が高いほど、モルタルの圧縮強さが低下することが分かった。この線形関係を利用すると、モルタルを所望の強さにするのに必要なF/SO
3を容易に決定でき、セメントクリンカー原料にフッ素および三酸化硫黄を適切な量だけ配合できる。また、上記とは逆に、セメントクリンカーのF/SO
3から、どの程度の圧縮強さを有するモルタルを形成できるかを容易に推定することもできる。
次に、フッ素の含有量に応じて、セメントクリンカーのF/SO
3とモルタルの圧縮強さとの相関関係を比較した例を説明する。
図6は、フッ素の含有量が0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、および0.4質量%の各場合について、F/SO
3とモルタルの圧縮強さとの関係を示したものである。図の横軸はF/SO
3を示し、縦軸はモルタルの圧縮強さを示している。図中の□はフッ素の含有量が0.1質量%の場合を、◇はフッ素の含有量が0.2質量%の場合を、△はフッ素の含有量が0.3質量%の場合を、×はフッ素の含有量が0.4質量%の場合をそれぞれ示している。
図6より、いずれの場合においても、F/SO
3が増加する、つまり、三酸化硫黄の含有量が少なくなると、モルタルの圧縮強さが低下することが分かった。また、フッ素の含有量に応じて、F/SO
3とモルタルの圧縮強さとの線形関係が異なる、つまり、F/SO
3に対するモルタルの圧縮強さの変動の程度が異なることが分かった。この結果から、予めフッ素の含有量を決めておけば、所定値以上の強さを有するモルタルを得るのに必要なF/SO
3、つまり、三酸化硫黄の含有量を容易に求めることができる。
また、F/SO
3を0.4未満とすることにより、圧縮強さの高いモルタルが得られることが分かった。
【0041】
[実施例2]
本実施例では、フッ素の含有量に応じて、セメントクリンカーのF/SO
3と、f.CaO=0.8質量%となるまでセメントクリンカー原料組成物を焼成したときの焼成温度との相関関係を求めた例を説明する。
図7は、フッ素の含有量が0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、および0.4質量%の各場合について、F/SO
3と、f.CaO=0.8質量%となるまでセメントクリンカー原料組成物を焼成したときの焼成温度との関係を示したものである。図の横軸はF/SO
3を示し、縦軸は焼成温度を示している。図中の符号は、
図6と同じものを示している。
図7より、いずれの場合においても、F/SO
3と焼成温度との間に線形関係があることが分かった。また、フッ素含有量が0.1質量%の場合を除いて、F/SO
3が増加する、つまり、三酸化硫黄の含有量が少なくなると、セメントクリンカー原料組成物を焼成する温度は上昇することが分かった。また、フッ素の含有量に応じて、F/SO
3と焼成温度との線形関係が異なる、つまり、F/SO
3に対する焼成温度の変動の程度が異なることが分かった。このような相関関係を求めておけば、予めセメントクリンカー中のフッ素の含有量が決まっている場合に、
図6に示した相関関係に基づいて、所望の強さを有するモルタルを得るのに必要なF/SO
3を求めた上で、求めたF/SO
3の値から、その強さを得るのに最適なセメントクリンカーの焼成温度を容易に求めることができる。
【0042】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態および変形が可能とされたものである。また、上述の実施形態および実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態および実施例ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内およびそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。