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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-193800(P2016-193800A)
(43)【公開日】2016年11月17日
(54)【発明の名称】水分解型水素生成セル
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20161021BHJP
   B01J 23/888 20060101ALI20161021BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20161021BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20161021BHJP
   C25B 1/04 20060101ALI20161021BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20161021BHJP
   C25B 11/06 20060101ALI20161021BHJP
   C25B 11/08 20060101ALI20161021BHJP
【FI】
   C01B3/04 A
   B01J23/888 M
   B01J35/02 J
   B01J23/42 M
   C25B1/04
   C25B9/00 A
   C25B11/06 B
   C25B11/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-74095(P2015-74095)
(22)【出願日】2015年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100107559
【弁理士】
【氏名又は名称】星宮 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】河野 充
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA17
4G169BA48A
4G169BB02B
4G169BB04B
4G169BC60B
4G169BC66B
4G169BC75B
4G169CB81
4G169EA08
4K011AA21
4K011AA22
4K011AA24
4K011AA31
4K011AA66
4K011BA07
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水素生成反応の効率が良好な、水分解型水素生成セルを提供する。
【解決手段】電極2、電極2上の一方の面に接して設けられる光触媒膜3、光触媒膜3の該電極2側とは反対側に、光触媒膜3と離間して設けられる水素生成用触媒電極5、及び、電極2と水素生成用触媒電極5とを電気的に接続した外部電源7を備えている。光触媒膜3の水素生成用触媒電極側の面の面積に対する、水素生成用触媒電極5による被覆率が10〜90%である水分解型水素生成セル100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極、前記電極上の一方の面に接して設けられる光触媒膜、前記光触媒膜の該電極側とは反対側に、前記光触媒膜と離間して設けられる水素生成用触媒電極、及び前記電極と前記水素生成用触媒電極とを電気的に接続した外部電源を備えている水分解型水素生成セルであって、前記光触媒膜の前記水素生成用触媒電極側の面の面積に対する、前記水素生成用触媒電極による被覆率が10%以上90%以下の範囲内であることを特徴とする水分解型水素生成セル。
【請求項2】
前記光触媒膜の該電極側とは反対側に接して設けられる絶縁体、前記絶縁体の前記光触媒膜側とは反対側に接して設けられる水素生成用触媒電極を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の水分解型水素生成セル。
【請求項3】
前記電極上の一方の面に接して設けられる光触媒膜、前記電極の前記光触媒膜側における、前記光触媒膜が接していない部分に接して設けられる絶縁体、前記絶縁体の前記電極側とは反対側に接して設けられる透明導電性基板、前記透明導電性基板の前記絶縁体側とは反対側に接して設けられる水素生成用触媒電極を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の水分解型水素生成セル。
【請求項4】
前記水素生成用触媒電極が連続構造であることを特徴とする、請求項1から3に記載の水分解型水素生成セル。
【請求項5】
前記絶縁体の厚みDが0.1μm以上1000μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の水分解型水素生成セル。
【請求項6】
前記絶縁体の厚みDが、下記式(1)の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の水分解型水素生成セル。
光触媒膜の厚みD+0.1μm ≦ D ≦ 光触媒膜の厚みD+1000μm … …(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を酸素と水素に分解することによって水素を得るための、光触媒及び外部電源を用いた水分解型水素生成セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水分解型水素生成セルは、光エネルギー及び光触媒を利用し、水を分解して水素及び酸素を生成する技術である。具体的には、光触媒のバンドギャップ以上のエネルギーを照射することで、光触媒の価電子帯の電子が伝導帯に励起され、伝導帯に電子が、価電子帯に正孔が生成する。前記正孔により水が酸化されて酸素とプロトンが生成し[「酸素生成系」という。反応式(A)]、一方で、前記電子によりプロトンが還元されて水素が生成する[「水素生成系」という。反応式(B)]。
2HO → O + 4H + 4e (A)
4H + 4e → 2H (B)
この技術を実用化するためには、光エネルギーを水分解のためのエネルギーに変換する変換効率の向上が不可欠であり、さまざまな検討が行われている。
【0003】
変換効率に関する主要な問題の一つとして、光触媒上の電荷再結合がある。光触媒は光照射により、正電荷を有する正孔と、負電荷を有する励起電子とに電荷分離するが、一部分の励起電子と負電荷が再結合することで失活する。そのため、光エネルギーに対する、前記酸素生成系及び水素生成系に消費される正孔および励起電子の割合、すなわち量子効率が低下する。
【0004】
また、別の主要な問題の一つとして、可視領域の光エネルギーの変換効率が小さい点がある。主たる光エネルギーである太陽光は、紫外領域の光エネルギーは約3%程度であり、可視光の利用が非常に重要である。そのため、可視光応答性の光触媒の開発が行われている(例えば、特許文献1等)。
【0005】
ところで、光触媒を用いた水分解技術の多くは1種類の光触媒上で酸素生成と水素生成を同時に進行させる機構(以下、「一段階機構」という。)によるものである。この一段階機構の場合、光触媒の条件として、光触媒の価電子帯が水の酸化電位(+1.23V)よりも正にあり、正孔が水を酸化して酸素を生成できるポテンシャルを有すること、及び光触媒の伝導帯が水の還元電位(0V)よりも負にあり、励起電子が水を還元して水素を生成できるポテンシャルを有することが必須である。しかし、前記可視光応答性の光触媒の伝導体は水の還元電位よりも正にあるため、水を還元できない。一段階機構において、上記の必須条件を満たす光触媒は通常存在せず、水分解を困難なものとしている。
【0006】
前記一段階機構の可視光応答性の問題を改善するための方法の一つに、酸素生成と水素生成を2種類の光触媒に分割し、両者を酸化還元体で結んだ「Zスキーム」と呼ばれる二段階機構がある。Zスキームは、酸素生成系では正孔が水を酸化して酸素を生成すると同時に、酸化還元体の酸化体を還元して還元体を生成する。一方、水素生成系では励起電子が水を還元して水素を生成すると同時に、酸化還元体の還元体を酸化して酸化体を生成する。酸化還元体の酸化還元電位は、酸素生成系の伝導帯より正であること、及び水素生成系の価電子帯より負であることが必須である。伝導体が水の還元電位よりも正にある可視光応答性の光触媒は、価電子帯が水の酸化電位よりも正にあれば、酸素生成系に利用することが可能である(例えば、特許文献2)。
【0007】
二段階機構の別の形態に、光触媒/電解ハイブリッド型がある。水から水素を生成するには電気分解が容易であるが、大きな電圧を必要とする。光触媒/電解ハイブリッド型は、水素発生系を電気エネルギーで補うことで、必要最小電圧で水から水素を生成することが可能である。光触媒/電解ハイブリッド型は、光触媒電極と水素生成電極とが外部電源を介して電気的に直列接続している。酸素生成系である光触媒では、正孔が水を酸化して酸素と電子を生成し、外部電源により水の還元電位よりも負に達するように電圧を印加し、水素生成系である水素生成電極では、水を還元して水素を生成する(例えば、特許文献3)。しかし、光触媒上の電荷再結合の問題に対する改善策は未だ見られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−19437号公報
【特許文献2】特開2005−199187号公報
【特許文献3】特開昭51−123779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、水素生成反応の効率が向上する、水分解型水素生成セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水分解型水素生成セルは、電極、前記電極上の一方の面に接して設けられる光触媒膜、前記光触媒膜の該電極側とは反対側に、前記光触媒膜と離間して設けられる水素生成用触媒電極、及び前記電極と前記水素生成用触媒電極とを電気的に接続した外部電源を備えている水分解型水素生成セルであって、前記光触媒膜の水素生成用触媒電極側の面の面積に対する、前記水素生成用触媒電極による被覆率が10%以上90%以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の水分解型水素生成セルは、好ましくは、前記光触媒膜の該電極側とは反対側に接して設けられる絶縁体、前記絶縁体の前記光触媒膜側とは反対側に接して設けられる水素生成用触媒電極を備えていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の水分解型水素生成セルは、好ましくは、前記電極の一方の面に接して設けられる光触媒膜、前記電極の一方の面における、前記光触媒膜が接していない部分に接して設けられる絶縁体、前記絶縁体の前記電極側とは反対側に接して設けられる透明導電性基板、前記透明導電性基板の前記絶縁体側とは反対側に接して設けられる水素生成用触媒電極を備えていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の水分解型水素生成セルは、好ましくは、前記水素生成用触媒電極が連続構造であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の水分解型水素生成セルは、好ましくは、前記絶縁体の厚みDが0.1μm以上1000μm以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の水分解型水素生成セルは、好ましくは、前記絶縁体の厚みDが、下記式(1)の範囲であることを特徴とする。
光触媒膜の厚みD+0.1μm ≦ D ≦ 光触媒膜の厚みD+1000μm … …(1)
【発明の効果】
【0016】
本発明の水分解型水素生成セルは、光触媒膜を電極と対極である水素生成用触媒電極の間に配置しているため、外部電源の電圧を印加することで、電極から水素生成用触媒電極の向きに電場が発生し、光触媒膜の光励起時の電荷分離を促進させることができる。そのため、水素生成反応の効率が高い。さらに、製造が簡便、強度が高い、小型化や軽量化が可能、といった特長がある。従って、本発明の水分解型水素生成セルは、水素製造及び酸素製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第一の形態に係る水分解型水素生成セルの断面の概略図である。
図2】第一の形態に係る水分解型水素生成セルを水素生成用触媒電極側の面から見た概略図である。
図3】第二の形態に係る水分解型水素生成セルの断面の概略図である。
図4】第二の形態に係る水分解型水素生成セルを水素生成用触媒電極側の面から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る水分解型水素生成セル及びその製造方法の好適な実施の形態について、図面を参照して以下に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
(本発明の第一の形態例)
本発明の第一の形態に係る水分解型水素生成セル100は、図1及び図2に示す通り、電極2、前記電極2上の一方の面に接して設けられる光触媒膜3、前記光触媒膜3の該電極2側とは反対側に、前記光触媒膜3と離間して設けられる水素生成用触媒電極5、及び前記電極2と前記水素生成用触媒電極5とを電気的に接続した外部電源7を備えている。そして、水分解型水素生成セル100は、前記光触媒膜3の光水素生成用触媒電極側の面の面積に対する、前記水素生成用触媒電極5による被覆率が10%以上90%以下である。ここで、電極2及び光触媒膜3の積層体を光触媒電極1という。
【0020】
ここで、電極2の材料は、導電性を有するものであれば特に限定するものではないが、導電性及び電解液に対する耐腐食性に優れることから、例えば、ガラス上にITO、FTO等の透明導電膜を積層した透明基板、又は、チタン、鉄、ステンレス等の金属電極が好ましい。より好ましくは、チタンおよびステンレスである。前記透明基板の場合、光触媒膜3の両方の面から光入射が可能となり、電荷分離が促進するので好ましい。また、前記金属電極の場合、電極2の形状は限定しないが、好ましくは、箔、粒子の焼結体、スパッタ膜である。基材としての強度、加工性、柔軟性の点から、箔がより好ましい。また、電極2上に光触媒膜3を、スラリーの噴霧やコールドスプレー法等のスプレー法により形成する際、ガス流による圧力を適当に分散させる点や、電極2−光触媒膜3間の密着力が高い点から、粒子の焼結体が好ましい。
【0021】
また、電極2の厚みは、特に限定するものではないが、例えば10μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましい。電極2の厚みが10μm未満であると、光触媒電極としての加工性や耐久性が損なわれる傾向にある。一方、電極2の厚みが1000μmを超えると、厚みや重量が大きくなるため、水分解型水素生成セルとしての取扱い性が損なわれる傾向にある。
【0022】
また、光触媒膜3を構成する光触媒は、水の酸化電位(+1.23V)よりも正にある価電子帯を有する。そのため、光触媒中で発生する正孔が、水を酸化して酸素が生成される。
従って、光触媒の材料としては、上記価電子帯を有するものであれば限定しない。例えば、光触媒活性の高い、酸化タングステン(WO)、酸化鉄(Fe)、酸化スズ(SnO)等が好ましい。より好ましくは、酸化タングステンである。
また、光触媒膜3は、表面積が大きい方が、触媒活性点が多くなるため、多孔質であることが好ましい。
【0023】
また、光触媒膜3の厚みDは、特に限定するものではないが、例えば1μm以上50μm以下の範囲内が好ましく、1μm以上10μm以下の範囲内であることがより好ましい。光触媒膜3の厚みDが、1μm未満では、光触媒の量が少なくなるため、触媒反応の効率が低くなる傾向にあり、50μmを超えると、強度が低くなる傾向にあり、加えて光触媒膜3−電極2間の電子移動が困難になる傾向にある。ここで、厚みDは、触針法で5点を計測してその平均値を出すという条件で測定した膜厚をいう。
【0024】
また、前記光触媒膜3の空隙率は特に限定しないが、例えば15%以上70%以下の範囲内であることが好ましい。光触媒膜3の空隙率が15%未満では反応基質との接触面積が小さいため、触媒反応の効率が低くなる傾向にあり、70%を超えると強度が低くなる傾向になる。ここで、空隙率は、窒素ガス吸着法で測定した空隙率をいう。
【0025】
また、前記光触媒膜3の空孔径は特に限定しないが、光触媒用途においては、平均空孔径は、例えば0.01μm以上0.5μm以下の範囲内であることが好ましく、0.05μm以上0.25μm以下の範囲内であることがより好ましい。平均空孔径が0.01μm未満では空孔内における反応基質の移動及び拡散が困難となるため、触媒反応の効率が低くなる傾向にあり、0.5μmを超えると光触媒膜3の表面積が小さくなり、触媒反応の効率が低くなる傾向になる。また、光触媒膜3の強度が低下する傾向にある。ここで、平均空孔径は、窒素ガス吸着法で測定した平均空孔径である。
【0026】
また、絶縁体4は、光触媒電極1と水素生成用触媒電極5の接触による短絡を防ぐことができればよい。つまり、光触媒膜3と水素生成用触媒電極5が離間していればよい。
絶縁体4の材料、厚みD及び製造方法は特に限定するものでなはい。絶縁体4の材料としては、公知のものを使用できるが、絶縁性及び加工性の観点から、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムが好ましい。
絶縁体4の厚みDとしては、特に限定するものではないが、例えば0.1μm以上1000μm以下の範囲内が好ましい。絶縁体4の厚みDが0.1μm未満では、光触媒電極1と水素生成用触媒電極5との接触を十分防ぐことができなくなる傾向にある。一方、絶縁体4の厚みDが1000μmを超えると、外部電源7の電場の効果が弱くなる。電極間の距離が短い方が電場の効果は強い。しかし、絶縁体4の厚みDが1000μmを超えて厚くなると、電極間の距離が遠くなるため、電場の効果が弱くなる。その結果、光触媒の電荷分離促進が弱くなり、光触媒上での電荷再結合が支配的に進む。また、水分解反応において、光触媒膜3の表層で水が酸化されて酸素とプロトンが生成し、水素生成用触媒電極5の表層でプロトンが還元されて水素が生成するが、このプロトンの拡散が律速になる。以上の理由から、量子効率が低下する。
絶縁体4の製造方法としては、公知の方法を使用できるが、厚みが小さく平滑な膜を形成できることから、スパッタ法で作製することが好ましい。つまり、絶縁体4は、スパッタ膜であることが好ましい。例えば、光触媒電極1の該電極2側とは反対側に、水素生成用触媒電極5の形状、大きさにほぼ等しい形状(例えば、櫛歯型)の開口を有するマスクを置き、二酸化ケイ素又は酸化アルミニウムをスパッタ法により製膜する。絶縁体4の別な製造方法としては、光触媒電極1の該電極2側とは反対側に、水素生成用触媒電極5の形状、大きさにほぼ等しい形状(例えば、櫛歯型)に加工した絶縁体4を接着する方法でもよい。
【0027】
また、光触媒膜3の水素生成用触媒電極側の面の面積に対する、絶縁体4による被覆率は、例えば10%以上90%以下の範囲内であることが好ましい。絶縁体4による被覆率が10%未満であると、絶縁体4上に積層される水素生成用触媒電極5の面積が小さいため、水素生成用触媒電極5での還元反応が律速となり、光触媒反応効率が低下する傾向にある。絶縁体4による被覆率が90%を超えると、光触媒膜3に対し十分に光が入射せず、光触媒反応が十分に起こらない傾向にある。
【0028】
また、水素生成用触媒電極5は、上記のとおり、光触媒膜3と水素生成用触媒電極5が離間していればよく、その材料、厚み及び製造方法は特に限定するものでなはい。水素生成用触媒電極5の材料としては、導電性及び触媒活性を有している公知の物を使用できるが、好ましくは、白金又はパラジウムである。
水素生成用触媒電極5の厚みとしては、特に限定するものではないが、例えば1nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。水素生成用触媒電極5の厚みが1nm未満では、導電性及び耐久性が低下する傾向にある。一方、水素生成用触媒電極5の厚みが100nmを超えると、製造コストが高くなる傾向にある。
水素生成用触媒電極5の製造方法としては、公知の方法を使用できるが、厚みが小さく平滑な膜を形成できることから、スパッタ法で作製することが好ましい。つまり、水素生成用触媒電極5は、スパッタ膜であることが好ましい。例えば、絶縁体4上に、絶縁体4の形成時に使用したものと同じ形のマスクを置き、白金やパラジウム等をスパッタ法により製膜する。また、別の製造方法として、スパッタ法の代わりに、加熱還元によって水素生成用触媒電極5を製造することもできる。例えば、水素生成用触媒電極5の材質が白金である場合、絶縁体4上に塩化白金酸水溶液を塗布し、その後、焼成することで白金薄膜を作製してもよい。
【0029】
また、水分解型水素生成セル100おける、光触媒膜3の水素生成用触媒電極側の面の面積に対する水素生成用触媒電極5による被覆率は、10%以上90%以下の範囲内である。水素生成用触媒電極5による被覆率が10%未満であると、水素生成用触媒電極5の面積が小さいため、水素生成用触媒電極5での還元反応が律速となり、光触媒反応効率が低下する傾向にある。水素生成用触媒電極5による被覆率が90%を超えると、光触媒膜3に対し十分に光が入射せず、光触媒反応が十分に起こらない傾向にある。ここで、前記「被覆率」とは、光触媒膜3の水素生成用触媒電極側の面積における、水素生成用触媒電極5により入射光が遮断される面積の割合を意味する。具体例としては、光触媒膜3の水素生成用触媒電極5側の面において、水素生成用触媒電極5が絶縁体4を介して接触して被覆している割合が挙げられる。別の具体例としては、後述する第二の形態のように、光触媒膜3と水素生成用触媒電極5が離間している場合に、光触媒膜3の水素生成用触媒電極側の面積における、水素生成用触媒電極5により入射光が遮断される面積の割合が挙げられる。
水素生成用触媒電極5は、光入射面とは反対側の面の全ての面積が、絶縁体4に接していることが、耐久性の点で好ましいが、一部が接していなくても良い。また、水素生成用触媒電極5は、その形状は限定しないが、絶縁体4上でその全てが電気的に接続されていること、つまり連続構造であることが好ましい。連続構造であれば、後述する導線6と水素生成用触媒電極5との接合箇所が1カ所で済むため、簡便に製造できるからである。
【0030】
また、電極2と水素生成用触媒電極5とを導線6で電気的に接続し、接続経路上に外部電源7を設ける。電極2側の導線6を外部電源7の正極に接続し、水素生成用触媒電極5側の導線6を外部電源7の負極に接続する。外部電源7及び導線6は、公知の材料を使用できる。例えば、鉄、銅、チタンが挙げられる。また、その形状は、箔状、ワイヤー状が挙げられる。
【0031】
以下に、本発明の第一の形態に係る水分解型水素生成セルの製造方法を例示する。
電極2(鉄箔、面積30mm×50mm)上に、光触媒膜3として、酸化タングステン粉末をコールドスプレー法で製膜(製膜面積20mm×40mm、厚み10μm)する。これを450℃で30分焼成して光触媒電極1を作製する。
次に、前記光触媒電極1の前記電極2側とは反対側の面に、櫛歯型の開口を有するマスクを置き、絶縁体4として、二酸化ケイ素をスパッタ法により製膜する(厚み1μm)。引き続き、前記櫛歯型のマスクを置いた状態で、絶縁体4上に、水素生成用触媒電極5として白金膜をスパッタ法で製膜する(厚み10nm)。なお、前記水素生成用触媒電極5は、前記絶縁体4上で連続構造を有している。
次に、導線6として鉄箔(幅1mm、厚み100μm)を用い、前記電極2にスポット溶接により接合した。さらに、別の鉄箔(幅1mm、厚み100μm)を、前記水素生成用触媒電極5に導電性銀ペーストで接合した。さらに、これら2つの鉄箔を、前記外部電源7を介して接合し、水分解型水素生成セル100を作製する。
【0032】
(本発明の第二の形態例)
本発明の第二の形態に係る水分解型水素生成セル200は、図3及び図4に示す通り、電極2、電極2上の一方の面に接して設けられる光触媒膜3、前記光触媒膜3の該電極2側とは反対側に、前記光触媒膜3と離間して設けられる水素生成用触媒電極5、及び前記電極2と前記水素生成用触媒電極5とを電気的に接続した外部電源7を備えている。水分解型水素生成セル200は、光触媒膜3の水素生成用触媒電極5側の面の面積に対する、前記水素生成用触媒電極5による被覆率が10%以上90%以下であって、かつ、絶縁体4が、前記電極2の光触媒膜3側における、前記光触媒膜3が接していない部分に接して設けられ、透明導電性基板8が絶縁体4の電極2側とは反対側に接して設けられ、水素生成用触媒電極5が透明導電性基板8の絶縁体4側とは反対側に接して設けられている。
以下に詳細に説明するが、本発明の第一の形態例と同じものについては、説明を省略する。
【0033】
絶縁体4は、電極2の光触媒膜3側の面において、光触媒膜3が接していない部分に設ける。絶縁体4の厚みD及び製造方法は、光触媒電極1と水素生成用触媒電極5の接触による短絡を防げれば、特に限定するものではない。厚みDについては、下記式(1)の範囲であることが好ましい。
光触媒膜の厚みD+0.1μm ≦ D ≦ 光触媒膜の厚みD+1000μm … …(1)
また、絶縁体4の製造方法については、本発明の第一の形態例において示した絶縁体4の作製方法の他に、電極2上に所定の厚みのシート状の絶縁体4を接着する方法が挙げられる。この方法の場合、絶縁体4の材質としては、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いることができる。例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、アイオノマー樹脂、硬化アクリル樹脂、硬化エポキシ樹脂、硬化シリコーン樹脂等が好適に挙げられる。
【0034】
また、透明導電性基板8は、透明基板9と、透明基板9上に形成される透明導電膜10から構成される。透明基板9及び透明導電膜10は、透明導電性基板8としての全光線透過率(380nm以上780nm以下の波長領域における透過率)が85%以上のものであれば良く、ともに公知の物を使用でき、例えば、透明基板9においては、ガラス、樹脂が挙げられる。また、透明導電膜10は、例えば、ITO(スズをドープしたインジウム膜)であってもよく、またFTO(フッ素をドープした酸化スズ膜)、酸化スズ膜が挙げられる。
【0035】
また、透明導電性基板8の厚みは、特に限定するものではないが、例えば10μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましい。透明導電性基板8の厚みが10μm未満であると、加工性や耐久性が損なわれる傾向にあり、1000μmを超えると、厚みや重量が大きくなるため、水分解型水素生成セル200としての取扱い性が損なわれる傾向にある。
【0036】
また、透明導電性基板8は、光触媒膜3における水素生成用触媒電極5側の面の一部を覆っていても良いし、全面を覆っても良い。また、一枚の透明導電性基板8で構成されていても良いし、複数の透明導電性基板8で構成されていても良い。水分解型水素生成セル200の製造の簡便さの点、及び強度の点から、一枚の透明導電性基板8で光触媒膜3における水素生成用触媒電極5側の面の全面を覆うことが好ましい。
【0037】
また、水素生成用触媒電極5は、その形状は限定しないが、透明導電性基板8上でその全てが電気的に接続されていること、つまり連続構造であることが好ましい。連続構造であれば、導線6と水素生成用触媒電極5との接合箇所が1カ所で済むため、簡便に製造できるからである。第二の形態に係る水分解型水素生成セル200では、透明導電膜10を介して連続構造を形成するので、必ずしも水素生成用触媒電極5が単独で連続構造を形成する必要はない。そのため、水素生成用触媒電極5の設計の自由度が高いという利点がある。
【0038】
以上のとおり説明した、第二の形態に係る水分解型水素生成セル200は、透明導電性基板8上に水素生成用触媒電極5を備えるという特徴を有し、簡便に製造できるという利点がある。本実施の形態における他の構成及び効果は、第一の実施の形態と同様である。
【0039】
以下に、本発明の第二の形態に係る水分解型水素生成セル200の製造方法を例示する。
電極2(鉄箔、面積30mm×50mm)上に、光触媒膜3として、酸化タングステン粉末をコールドスプレー法で製膜(製膜面積20mm×40mm、厚み10μm)する。これを450℃で30分焼成して光触媒電極1を作製する。
次に、前記電極2の光触媒膜3側の面における、前記光触媒膜3が接していない部分に、前記絶縁体4として、アイオノマー樹脂フィルム[ハイミラン(登録商標)、三井・デュポンポリケミカル製、厚み50μm]を接着する。さらに、前記アイオノマー樹脂フィルム上に透明導電性基板8としてITOが蒸着されたガラス基板(面積30mm×50mm、ITO−ガラス基板積層体の厚み500μm)を接着した。なお、前記透明導電性基板8は、前記光触媒膜3における水素生成用触媒電極5側の面の全面を覆っている。
次に、前記透明導電性基板8の透明導電膜10側の面上に、櫛歯型の開口を有するマスクを置き、水素生成用触媒電極5として白金をスパッタ法により製膜する(厚み10nm)。なお、前記水素生成用触媒電極5は、前記透明導電性基板8上で連続構造を有している。
次に、導線6として鉄箔(幅1mm、厚み100μm)を用い、前記電極2にスポット溶接により接合した。さらに、別の鉄箔(幅1mm、厚み100μm)を、前記水素生成用触媒電極5に導電性銀ペーストで接合した。さらに、これら2つの鉄箔を、前記外部電源7を介して接合し、水分解型水素生成セル200を作製する。
【0040】
以上のとおり説明した、第一及び第二の形態に係る水分解型水素生成セル100,200は、外部電源7の電圧を印加すると、電極2から水素生成用触媒電極5の向きに電場が発生する。一方、光触媒膜3は、光照射により、正電荷を有する正孔と、負電荷を有する励起電子とに電荷分離する。
光触媒膜3は、電極2と水素生成用触媒電極5との間に配置しているため、光照射及び外部電源7の電圧印加を同時に行うことで、励起電子は電極2へ移動しやすくなり、正孔は水素生成用触媒電極5側に引き寄せられるため、正孔は光照射面である光触媒膜3の表層に移動しやすくなる。即ち、光触媒膜3の光励起時の電荷分離を促進させ、電荷再結合を抑制することができる。特に、光触媒電極1と水素生成用触媒電極5との距離が1000μm以下であることで、より電荷分離が促進し、電荷再結合が抑制される。
また、水分解型水素生成セル100,200における、光触媒膜3の水素生成用触媒電極5側の面の面積に対する、水素生成用触媒電極5による被覆率が10%以上90%以下の範囲内であることにより、水素生成用触媒電極5に起因する光触媒膜3の遮光を抑え、より多くの光を光触媒膜3に入射することができる。
以上の特徴により、光触媒膜3の表層での酸素生成反応の効率、及び水素生成用触媒電極5での水素生成反応の効率が向上する。
【0041】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。
【符号の説明】
【0042】
1…光触媒電極
2…電極
3…光触媒膜
4…絶縁体
5…水素生成用触媒電極
6…導線
7…外部電源
8…透明導電性基板
9…透明基板
10…透明導電膜
100,200…水分解型水素生成セル
図1
図2
図3
図4