(54)【発明の名称】アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、非水系電解質二次電池
【解決手段】不活性雰囲気中、温度を45℃〜55℃、液温25℃基準におけるpH値を10.8〜11.8及びアンモニウムイオン濃度を8g/L〜12g/Lに制御した反応水溶液に、Ni、Co及びMgを含有する原料水溶液を供給して、バッチ式晶析法により、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得、前記ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を含むスラリーとAlを含む被覆溶液を混合し、混合水溶液を形成することにより、Al又はAl化合物からなる被膜によって被覆されたAl被覆複合水酸化物粒子。前記Al被覆複合水酸化物粒子を前駆体とするリチウムニッケル複合酸化物粒子含有正極活物質。
前記一次粒子は、直方体状であり、平均粒径が0.01μm〜0.1μmの範囲にある、請求項1または2に記載のアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子。
前記混合水溶液の、液温25℃基準におけるpH値を9.6〜10.4の範囲に制御する、請求項4に記載のアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
前記アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を110℃〜130℃に加熱して乾燥する、乾燥工程をさらに備える、請求項4または5に記載のアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
前記混合工程の前に、前記アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を酸化焙焼する、酸化焙焼工程をさらに備える、請求項9または10に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記酸化焙焼工程における酸化焙焼温度を、前記焼成温度以下で、かつ、600℃〜800℃とする、請求項9〜11のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項7または8に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質が用いられている、非水系電解質二次電池。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、モータ駆動用電源、特に輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。これらの要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池がある。非水系電解質二次電池は、負極、正極、電解液などにより構成され、負極および正極の材料として、リチウムを脱離および挿入することが可能な活物質が用いられる。
【0003】
非水系電解質二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われており、特に、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いた非水系電解質二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギ密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
このような非水系電解質二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)粒子、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)粒子、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)粒子、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)粒子、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi
0.5Mn
0.5O
2)粒子などのリチウム遷移金属複合酸化物粒子が提案されている。
【0005】
これらの中でも、リチウムニッケル複合酸化物粒子は、リチウムコバルト複合酸化物粒子よりも大きな充放電容量を示し、比較的安価で高エネルギ密度の二次電池を製造可能な正極活物質として注目を集めている。一方、リチウムニッケル複合酸化物粒子は、リチウムコバルト複合酸化物粒子と比べて、結晶構造の安定性が低く、サイクル特性や高温安定性に劣るといった問題がある。
【0006】
この問題に対して、リチウムニッケル複合酸化物粒子を構成するニッケルの一部を、コバルト、マンガンおよび鉄などの遷移金属元素や、アルミニウム、マグネシウム、バナジウムおよびスズなどの異種金属元素で置換し、これによって、結晶構造の安定性を改善することが一般的に行われている。これらの金属元素の中で、コバルトは相転移の防止に、アルミニウムは結晶構造の安定化に有効であることが知られている。しかしながら、Redox反応に寄与しない金属元素の添加によって、リチウムニッケル複合酸化物粒子の本来的な特徴である充放電容量が大幅に低下するおそれがある。特に、アルミニウムを含むリチウムニッケル複合酸化物粒子を共沈法で得ようとする場合には、アルミニウムがニッケル複合酸化物粒子の高密度化を阻害するため、充放電容量の低下を免れない。このため、充放電容量を損なうことなく、結晶構造の安定性を改善可能なリチウムニッケル複合酸化物粒子の開発が望まれている。
【0007】
たとえば、特開2010−24083号公報には、反応槽を2段カスケードに接続し、まず、1段目の反応槽に、ニッケル化合物とコバルト化合物を含む水溶液、水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニウムイオン供給体を含む水溶液からなる原料溶液を、それぞれ個別にかつ同時に供給して反応させ、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を生成し、次いで、2段目の反応槽に、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を供給しながら、アルミン酸ナトリウム水溶液と硫酸水溶液とを供給して反応させることにより、連続的に、一般式:Ni
1-xCo
x(OH)
2(式中、xは、0.01〜0.3である)で表され、アルミニウムからなる被覆層を有し、かつ、全量に対してアルミニウムを0.1質量%〜5質量%含有する、水酸化アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を製造する方法が記載されている。
【0008】
このような製造方法によれば、共沈反応中にアルミニウムの影響を受けることがないため、高密度なニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得ることができる。しかも、この水酸化アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を焼成した場合には、アルミニウムを粒子中に均一に拡散させることができるため、その添加量をごく少量とした場合であっても、結晶構造の安定性を改善することが可能となる。すなわち、この製造方法によれば、充放電容量を損なうことなく、サイクル特性や高温安定性を改善することができると考えられる。しかしながら、この製造方法では、粗大粒子の割合が多くなるため、リチウムニッケル複合酸化物粒子の比表面積を十分に確保することが難しく、二次電池を構成した場合に、出力特性が著しく低下するおそれがある。
【0009】
これに対して、WO2011/122448号公報には、出力特性を改善可能な正極活物質として、一般式:Li
w(Ni
1-x-yCo
xAl
y)
1-zM
zO
2(0.98≦w≦1.10、0.05≦x≦0.3、0.01≦y≦0.1、0≦z≦0.05、ただし、Mは、Mg、Fe、Cu、Zn、Gaから選ばれた少なくとも1種の金属元素)で表される一次粒子が凝集した二次粒子により構成され、X線回折およびScherrer式により求められる(003)面結晶子径が、1200Å〜1600Åであるリチウムニッケル複合酸化物が提案されている。なお、この文献では、この正極活物質の前駆体として、共沈法で得られ、一般式:(Ni
1-x-yCo
xAl
y)
1-zM
z(OH)
2(0.05≦x≦0.3、0.01≦y≦0.1、0≦z≦0.05、ただし、Mは、Mg、Fe、Cu、Zn、Gaから選ばれた少なくとも1種の金属元素)で表され、X線回折による(101)面半価幅が0.45°〜0.8°であるニッケル複合水酸化物、好ましくはNi、Co、Mからなる水酸化物の表面が水酸化アルミニウムで被覆されたニッケル複合水酸化物が提案されている。
【0010】
しかしながら、この文献に記載の正極活物質は、主として低温環境下における出力特性の改善を図ったものであり、サイクル特性や高温保存性の改善を図ったものではない。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、上述の問題に鑑みて、二次電池を構成した場合に、充放電容量や出力特性を損なうことなく、サイクル特性および高温保存性を改善可能な正極活物質について鋭意研究を重ねた。
【0029】
WO2011/122448号公報をはじめとする従来技術では、正極活物質の前駆体として用いられるアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を共沈法によって得ようとする場合、反応雰囲気を酸化性雰囲気とすることが一般的である。これにより、一次粒子を適度に微細化し、一次粒子間に電解液が侵入可能な空隙を多数存在させ、電解液との接触面積を増加させることで、これを用いた二次電池の出力特性を改善することが可能となる。一方、このような技術では、アルミニウムが高濃度で偏析する場合があるため、正極活物質を合成する過程で、このアルミニウムが酸化されることにより、不動態である酸化アルミニウムが高濃度で存在する領域が形成されてしまう。この結果、酸化アルミニウムが抵抗層となり、二次電池を構成した場合に、充放電容量や出力特性の低下を招く。
【0030】
本発明者らは、これらの点を踏まえて、さらに研究を重ねた結果、アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子に微量のマグネシウムを添加するとともに、晶析反応を不活性雰囲気で行うことで、一次粒子の酸化による微細化を防止しつつ、二次粒子の成長を促進することができるとの知見を得た。また、このアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質を用いた二次電池では、充放電容量や出力特性を損なうことなく、サイクル特性および高温保存性を同時に改善することができるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0031】
1.アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子
1−1.アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子
(1)組成比
本発明のアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子(以下、「Al被覆複合水酸化物粒子」という)は、一般式:Ni
1-x-y-zCo
xAl
yMg
z(OH)
2(ただし、0.05≦x≦0.20、0.01≦y≦0.06、0.01≦z≦0.03)で表される。なお、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)の含有量およびその臨界的意義については、後述する正極活物質の場合と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0032】
(2)粒子構造
本発明のAl被覆複合水酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。この二次粒子は、略球状であることが好ましい。ここで、略球状には、二次粒子が球状であるばかりでなく、表面に微細な凹凸を有する球状や楕円球状なども含まれる。
【0033】
また、本発明のAl被覆複合水酸化物粒子は、ニッケル、コバルトおよびマグネシウムが均一に分散した中実構造の中心部が、アルミニウムまたはアルミニウム化合物からなる被膜によって被覆された構造を有する。これにより、アルミニウムの添加量を抑制しつつ、このAl被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の粒子構造や結晶構造を安定化させることができるため、充放電容量や出力特性を損ねることなく、得られる二次電池のサイクル特性を改善することが可能となる。
【0034】
このようなAl被覆複合水酸化物粒子において、被膜の厚さは、好ましくは0.001μm〜0.01μm、より好ましくは0.004μm〜0.007μmの範囲に制御される。被膜の厚さが0.001μm未満では、アルミニウムまたはアルミニウム化合物の被覆量が少なすぎるため、焼成工程において、アルミニウムが均一に拡散しないおそれがある。一方、被覆膜の厚さが0.01μmを超えると、このAl被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の表面およびその近傍に、アルミニウムが高濃度で存在する領域が形成されるおそれがある。この場合、リチウムの挿入反応および脱離反応が阻害されるため、電池性能が低下することとなる。
【0035】
なお、Al被覆複合水酸化物粒子の粒子形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により確認することができる。また、粒子構造は、Al被覆複合水酸化物粒子を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などによって断面観察が可能な状態とした上で、SEM観察することにより確認することができる。さらに、被腹膜の厚さは、特性エックス線分光分析(エネルギー分散型X線分析:EDX)により測定することができる。
【0036】
(3)二次粒子の平均粒径
二次粒子の平均粒径は、4μm以上7μm以下、好ましくは4.2μm以上6.5μm以下、より好ましくは5.0μm以上6.0μm以下の範囲にあることが必要となる。平均粒径をこのような範囲に制御することにより、このAl被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の平均粒径を適切な範囲に制御することが可能となる。これに対して、平均粒径が4μm未満では、後述する晶析工程において、晶析したAl被覆複合水酸化物粒子を固液分離するのに長時間を要するばかりでなく、乾燥後のAl被覆複合水酸化物粒子が飛散しやすくなる。一方、平均粒径が7μmを超えると、このAl被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の粗大化を招く。なお、本発明において、平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0037】
(4)一次粒子の形状および平均粒径
二次粒子を構成する一次粒子は、その形状が直方体状であることが好ましい。また、平均粒径が0.01μm〜0.1μmの範囲にあることが好ましく、0.04μm〜0.07μmの範囲にあることがより好ましい。一次粒子の形状および平均粒径がこのような条件を満たすことにより、二次粒子をより高密度にすることができる。なお、本発明において、直方体状には、断面形状が長方形に形成されたものだけではなく、断面形状が長方形以外の四角形に形成されたものや、直方体の一面が曲面で構成されたものなども含まれるものとする。
【0038】
一次粒子の形状は、上述した粒子構造の場合と同様に、二次粒子を断面観察が可能な状態とした上で、SEM観察することにより確認することができる。また、本発明では、一次粒子の平均粒径とは結晶子径を意味し、粉末X線回折測定の結果を用いて、次のシェラーの式によって求めることができる。
<シェラーの式>
結晶子径(オングストローム)=0.9λ/(βcosθ)
ただし、λ:使用X線管球の波長(CuKα=1.542Å)
β:各面からの回折ピークにおける半価幅
θ:回折角
【0039】
(5)タップ密度
二次粒子のタップ密度は、1.5g/mL以上、好ましくは1.6g/mL以上、より好ましくは1.7g/mLであることが必要とされる。タップ密度が1.5g/mL未満では、このAl被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の充填性が低くなってしまう。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されるものではないが、通常の製造条件では、2.4g/mL程度となる。なお、本発明において、タップ密度とは、JIS Z−2504に基づき、容器に採取した試料粉末を、100回タッピングした後のかさ密度を意味し、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
【0040】
(6)比表面積
二次粒子の比表面積は、5.5m
2/g〜7.5m
2/gであることが好ましく、5.5m
2/g〜7.0m
2/gであることがより好ましい。比表面積をこのような範囲に制御することにより、このAl被覆複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の比表面積を適切な範囲(0.7m
2/g〜1.0m
2/g)に制御することができる。なお、本発明において、比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0041】
1−2.アルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の製造方法
本発明のAl被覆複合水酸化物粒子の製造方法は、上述したAl被覆複合水酸化物粒子の製造方法は、不活性雰囲気中、温度を45℃〜55℃、液温25℃基準におけるpH値を10.8〜11.8およびアンモニウムイオン濃度を8g/L〜12g/Lに制御した反応水溶液に、ニッケル、コバルおよびマグネシウムを含有する原料水溶液を供給して、晶析反応により、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)を得る、晶析工程と、この複合水酸化物粒子を含む水溶液とアルミニウムを含む被覆溶液を混合し、アルミニウムまたはアルミニウム化合物からなる被膜によって被覆されたAl被覆複合水酸化物粒子を得る、被覆工程と、を備えることを特徴とする。
【0042】
(1)晶析工程
晶析工程は、不活性雰囲気中、温度を45℃〜55℃、液温25℃基準におけるpH値を10.8〜11.8およびアンモニウムイオン濃度を8g/L〜12g/Lに制御した反応水溶液に、ニッケル、コバルおよびマグネシウムを含有する原料水溶液を供給して、バッチ式晶析法により、複合水酸化物粒子を得る工程である。
【0043】
なお、晶析法として、連続晶析法を採用した場合には、得られる複合水酸化物粒子の粒径が不均一となるため、アルミニウムの被覆量にばらつきが生じるという問題がある。このような問題を回避するため、本発明のAl被覆複合水酸化物粒子の製造方法では、晶析法として、バッチ式晶析法を採用することが必要となる。
【0044】
また、複合水酸化物粒子はスラリー状で得られるため、晶析工程後に、ろ過などの公知の手段によって、スラリーから複合水酸化物粒子を固液分離することが必要となる。
【0045】
a)供給水溶液
[原料水溶液]
原料水溶液として、ニッケル、コバルトおよびマグネシウムを含むものを使用することが必要となる。なお、これらの金属元素の比率は、通常、目的とする複合水酸化物粒子の組成比となるように調整される。すなわち、原料水溶液中の金属元素(ニッケル、コバルト、マグネシウム)の比率(原子比)は、Ni:Co:Mg=(1−x−y−z):x:z(ただし、0.05≦x≦0.20、0.01≦y≦0.06、0.01≦z≦0.03)となるように調整される。
【0046】
金属元素の供給原としては、水溶性の金属化合物、具体的には、硝酸塩、硫酸塩および塩化物などを用いることができる。これらの中でも、コストやハロゲンの混入を考慮すると、硫酸塩を好適に用いることが好ましい。
【0047】
また、原料水溶液の濃度は、金属化合物の合計で、好ましくは1.0mol/L〜2.6mol/L、より好ましくは1.5mol/L〜2.2mol/Lに調整する。原料水溶液の濃度が1.0mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、原料水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、各金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。
【0048】
なお、金属化合物は、必ずしも原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。たとえば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合には、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液とした上で、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
【0049】
[アルカリ水溶液]
反応水溶液中のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を、好ましくは20質量%〜50質量%、より好ましくは20質量%〜30質量%の範囲とする。アルカリ金属水溶液の濃度をこのような範囲に規制することにより、反応系に供給する溶媒量(水量)を抑制しつつ、添加位置で局所的にpH値が高くなることを防止することができるため、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を効率的に得ることができる。
【0050】
なお、アルカリ水溶液の供給方法は、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず、かつ、所定の範囲に維持される限り、特に制限されることはなく、たとえば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプにより供給すればよい。
【0051】
[アンモニウムイオン供給体を含む水溶液]
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、反応水溶液中の金属イオンの溶解度を調整するために、任意的に添加されるものである。このようなアンモニウムイオン供給体を含む水溶液についても、特に制限されることはなく、たとえば、アンモニア水、または、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウムもしくはフッ化アンモニウムなどの水溶液を使用することができる。
【0052】
アンモニウムイオン供給体として、アンモニア水を使用する場合、その濃度は、好ましくは20質量%〜30質量%、より好ましくは22質量%〜28質量%の範囲とする。アンモニア水の濃度をこのような範囲に規制することにより、揮発などによるアンモニアの損失を最小限に抑制することができるため、生産効率の向上を図ることができる。
【0053】
なお、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給方法も、アルカリ水溶液と同様に、流量制御が可能なポンプにより供給することができる。
【0054】
b)反応条件
[反応雰囲気]
本発明のAl被覆複合水酸化物粒子の製造方法では、晶析工程中の雰囲気(反応雰囲気)を酸素濃度が2容量%以下、好ましくは0.5容量%以下の不活性雰囲気とすることが必要となる。すなわち、酸素をほとんど含まない、窒素やアルゴンなどの不活性ガスからなる不活性雰囲気とすることが好ましく、反応水溶液の表面に、これらの不活性ガスを吹き付けて、反応水溶液と酸素との接触を完全に遮断することがより好ましい。晶析工程中の反応雰囲気を、このような不活性雰囲気に制御することにより、高密度で、適度な平均粒径を有する二次粒子を得ることができる。これに対して、反応雰囲気中の酸素濃度が2容量%を超えると、複合水酸化物粒子が酸化によって微細化し、得られる二次電池の充放電容量を改善することができなくなる。
【0055】
[反応温度]
反応水溶液の温度(反応温度)は、45℃〜55℃、好ましくは48℃〜52℃の範囲に制御することが必要となる。反応温度をこのような範囲に制御することにより、高密度で、適度な平均粒径を有する二次粒子を得ることができる。これに対して、反応温度が45℃未満または55℃を超える場合には、複合水酸化物粒子が不定形となったり、微細化したりするため、得られる二次電池の充放電容量を改善することができなくなる。また、晶析工程後に、ろ過などによって固液分離することが困難となり、生産性の悪化を招く。
【0056】
[pH値]
反応水溶液のpH値は、液温25℃基準で、10.8〜11.8、好ましくは11.1〜11.4の範囲に制御することが必要となる。pH値をこのような範囲に制御することにより、高密度で、適度な平均粒径を有する二次粒子を得ることができる。これに対して、pH値が10.8未満または11.8を超える場合には、複合水酸化物粒子が不定形となったり、微細化したりするため、得られる二次電池の充放電容量を改善することができなくなる。
【0057】
[アンモニウムイオン濃度]
反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、8g/L〜12g/L、好ましくは9.5g/L〜10.5g/Lの範囲内に制御することが必要となる。反応水溶液中においてアンモニウムイオンは錯化剤として機能するため、アンモニウムイオン濃度が8g/L未満では、晶析反応中に、金属イオンの溶解度を一定に保持することが困難となったり、反応水溶液がゲル化しやすくなったりする。この結果、形状や粒径の整った複合水酸化物粒子を得ることができなくなる。一方、アンモニウムイオン濃度が12g/Lを超えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成ずれなどの原因となる。
【0058】
(2)水洗工程
水洗工程は、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過した後、水洗し、残留する不純物を除去する工程である。
【0059】
水洗方法は、特に制限されることはなく、公知の方法を利用することができる。ただし、水洗条件(洗浄水の量や洗浄時間など)は、水洗方法や水洗する複合水酸化物粒子の組成や量などに応じて異なるため、予備的に複合水酸化物粒子や正極活物質を作製し、これらに含まれる塩素や不純物の量を確認した上で、適宜選択することが好ましい。これにより、正極活物質の組成および不純物量を、より適切な範囲に制御することが可能となる。なお、水洗は、一回の操作で行うよりも、複数回に分けて行うことが好ましく、2回〜5回の操作に分けて行うことがより好ましい。
【0060】
(3)被覆工程
被覆工程は、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーとアルミニウムを含む被覆溶液を混合し、アルミニウムまたはアルミニウム化合物からなる被膜によって被覆されたAl被覆複合水酸化物粒子を得る工程である。
【0061】
はじめに、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子に適量の水を加えてスラリー化し、このスラリーを撹拌することにより、複合水酸化物粒子が分散した分散液を形成する。この際の撹拌時間は、複合水酸化物粒子を均一に分散させることができる限り、特に制限されることはないが、概ね、15分〜45分とすれば十分である。
【0062】
次に、分散液を撹拌したまま、この分散液と被覆材料となるアルミニウムを含む溶液(被覆溶液)を混合する。被覆溶液としては、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウムまたは硝酸アルミニウムなどの水溶性のアルミニウム塩を水に溶解した水溶液を用いることができる。これらの中でも、廃水処理が容易なアルミン酸ナトリウムを含む水溶液を用いることが好ましい。いずれの被覆溶液を用いる場合であっても、その濃度は、アルミニウム換算で、好ましくは0.1mоl/L〜2.0mоl/L、より好ましくは0.1mоl/L〜1.0mоl/Lの範囲に調整する。被覆溶液の濃度が0.1mоl/L未満では、その供給量が増大し、生産性が悪化してしまう。一方、被覆溶液の濃度が2.0mоl/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、アルミン酸ナトリウムの結晶が析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。なお、被覆溶液としては、上述した水溶液に替えて、アルミニウムを含むアルコキシド溶液を用いることもできる。
【0063】
続いて、分散液と被覆溶液を混合した水溶液(混合水溶液)を撹拌しつつ、そのpH値が、液温25℃基準で9.6〜10.4、好ましくは9.7〜10.2となるように硫酸を滴下する。これによって、複合水酸化物粒子の表面にアルミニウムまたはアルミニウム化合物を析出させ、Al被覆複合水酸化物粒子を得ることができる。混合水溶液のpH値が9.6未満では、Al被覆複合水酸化物粒子が部分的に溶解してしまうおそれがある。一方、混合水溶液のpH値が10.4を超えると、アルミニウムまたはアルミニウム化合物を十分に析出させることができず、目的とする組成を有するAl被覆複合水酸化物粒子を得ることが困難となる。なお、被覆工程では、混合水溶液の温度などの条件が制限されることはないが、作業性などの観点から、常温常圧とすることが好ましい。
【0064】
複合水酸化物粒子をアルミニウムまたはアルミニウム化合物で被覆する方法としては、このほか、複合水酸化物粒子の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム化合物を含むスラリーを吹き付けて乾燥させる方法などが挙げられる。しかしながら、このような方法では、被膜の厚さにばらつきが生じるため、得られる正極活物質において、粒子中に、アルミニウムを均一に分散させることができない。これに対して、上述した本発明の被覆工程によれば、均質な被膜を形成することができるため、得られる正極活物質において、粒子中に、アルミニウムを均一に分散させることができる。
【0065】
(4)乾燥工程
乾燥工程は、被覆工程後に、Al被覆複合水酸化物粒子を加熱し、残留水分を除去する工程である。
【0066】
乾燥工程における加熱温度(乾燥温度)は、後の工程における操作が容易となる程度に水分を除去できればよいので、必ずしも高温とする必要はなく、概ね、110℃〜130℃とすることが好ましく、115℃〜125℃とすることがより好ましい。乾燥温度が110℃未満では、残留水分を除去するのに長時間を要し、生産性が悪化する。一方、乾燥温度が130℃を超えても、それ以上の効果を得ることができないばかりか、エネルギコストの増大を招く。
【0067】
2.正極活物質とその製造方法
2−1.正極活物質
(1)組成比
本発明の正極活物質は、一般式:Li
uNi
1-x-y-zCo
xAl
yMg
zO
2(ただし、1.00≦u≦1.04、0.05≦x≦0.20、0.01≦y≦0.06、0.01≦z≦0.03)で表される。なお、正極活物質の組成は、Al被覆複合水酸化物粒子の場合と同様に、ICP発光分光分析法などによって求めることができる。
【0068】
リチウム(Li)の含有量を示すuの値は、1.00〜1.04、好ましくは1.02〜1.03の範囲とする。uの値が1.00未満では、リチウム量が不足し、所望の組成を有する正極活物質以外の正極活物質が生成するため、得られる二次電池の充放電容量が低下する。一方、uの値が1.04を超えると、正極活物質を構成する二次粒子同士の焼結が過剰に進行し、比表面積が低下するため、同様に充放電容量が低下する。
【0069】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素である。ニッケルの含有量を示す(1−x−y−z)の値は、0.71〜0.93、好ましくは0.80〜0.88の範囲とする。(1−x−y−z)の値が0.71未満では、この正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を向上させることができない。一方、(1−x−y−z)の値が0.93を超えると、コバルト、アルミニウムおよびマグネシウムの含有量が減少し、その添加効果を十分に得ることができなくなる。
【0070】
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素である。コバルトの含有量を示すxの値は、0.05〜0.20の範囲とする。xの値が0.05未満では、この正極活物質の結晶構造が不安定になる。一方、xの値が0.20を超えると、二次電池の充放電容量が低下してしまう。
【0071】
アルミニウム(Al)は、結晶構造の安定化に寄与する元素である。アルミニウムの含有量を示すyの値は、0.01〜0.06、好ましくは0.02〜0.04の範囲とする。yの値が0.01未満では、その添加効果を十分に得ることができない。一方、yの値が0.06を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、充放電容量が低下してしまう。
【0072】
マグネシウム(Mg)は、この正極活物質を用いた二次電池の安定性に寄与する元素である。マグネシウムの含有量を示すzの値は、0.01〜0.03、好ましくは0.01〜0.02の範囲とする。zの値が0.01未満では、その添加効果を十分に得ることができない。一方、zの値が0.03を超えると、二次電池の充放電容量が低下してしまう。
【0073】
(2)粒子構造
本発明の正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。この二次粒子は、略球状であることが好ましい。
【0074】
また、本発明の正極活物質は、層状構造のリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子から構成され、粉末X線回折測定では、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)と同様の回折パターンを示す。すなわち、本発明の正極活物質は、LiNiO
2によって構成されたマトリックス中に、コバルト、マグネシウムおよびアルミニウムが一様に固溶した結晶構造を備える。このため、本発明の正極活物質では、マグネシウムおよびアルミニウムの添加量をごく微量とした場合であっても結晶構造の安定性を改善することができるため、二次電池を構成した場合に、充放電容量を損なうことなく、サイクル特性や高温保存性を向上させることが可能となる。
【0075】
(3)二次粒子の平均粒径
二次粒子の平均粒径は、4μm〜7μm、好ましくは4.2μm〜6.8μm、より好ましくは4.5μm〜6.5μmであることが必要とされる。平均粒径が4.0μm未満では、正極活物質の充填性が低下するため、二次電池を構成した場合に、充放電容量を増加させることができない。一方、平均粒径が7.0μmを超えると、正極活物質の比表面積が大幅に小さくなり、出力特性の低下を招く。
【0076】
(4)一次粒子の形状および平均粒径
上述した二次粒子を構成する一次粒子は、直方体状であることが好ましい。また、その平均粒径は、0.05μm〜0.5μmの範囲にあることが好ましく、0.1μm〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。一次粒子の形状および平均粒径がこのような条件を満たすことにより、正極活物質(二次粒子)が高密度となるため、この正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を改善することができる。
【0077】
(5)タップ密度
二次粒子のタップ密度は、2.0g/mL以上、好ましくは2.2g/mL以上であることが必要とされる。タップ密度が2.0g/mL未満では、充填性が低く、この正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を改善することができない。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されることはないが、通常の製造条件での上限は、2.4g/mL程度となる。
【0078】
(6)比表面積
二次粒子の比表面積は、0.7m
2/g〜1.0m
2/gであることが好ましく、0.8m
2/g〜0.9m
2/gであることがより好ましい。比表面積をこのような範囲に制御することにより、この正極活物質を用いた二次電池の出力特性を確保しつつ、サイクル特性を改善することが可能となる。これに対して、正極活物質の比表面積が0.7m
2/g未満では、二次電池を構成した場合に、電解液との反応面積を確保することができず、出力特性が大幅に低下する。一方、正極活物質の比表面積が1.0m
2/gを超えると、電解液との反応性が高くなりすぎるため、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0079】
2−2.正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上述した複合水酸化物粒子とリチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る工程(混合工程)と、このリチウム混合物を特定条件で焼成する工程(焼成工程)とを備えることを特徴とする。なお、必要に応じて、以下で説明する酸化焙焼工程、仮焼工程および解砕工程などを追加してもよい。
【0080】
(1)酸化焙焼工程
酸化焙焼工程は、被覆工程または乾燥工程後のAl被覆複合水酸化物粒子を、酸化性雰囲気中、600℃〜800℃で酸化焙焼することにより酸化し、焙焼粒子を得る工程である。なお、焙焼粒子には、酸化焙焼工程において余剰水分を除去されたAl被覆複合水酸化物粒子のみならず、酸化焙焼工程により、酸化物に転換されたAl被覆複合水酸化物粒子、または、これらの混合物も含まれる。
【0081】
被覆工程または乾燥工程後のAl被覆複合水酸化物粒子を、そのままリチウム化合物と混合し、焼成することで正極活物質を合成することも可能であるが、予め酸化焙焼することにより、正極活物質の合成反応を円滑に進行させることができるため、結晶性がより優れた正極活物質を合成することが可能となる。
【0082】
酸化焙焼工程における雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、酸化焙焼工程は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、Al被覆複合水酸化物粒子を十分に酸化することができない場合がある。
【0083】
酸化焙焼工程における加熱温度(焙焼温度)は、前記焼成温度以下で、かつ、600℃〜800℃とすることが好ましく、650℃〜750℃とすることがより好ましい。焙焼温度が600℃未満では、Al被覆複合水酸化物粒子を十分に酸化することができない場合がある。一方、焙焼温度が800℃を超えても、それ以上の効果を得ることができないばかりか、エネルギコストの増大を招く。
【0084】
焙焼温度における保持時間(焙焼時間)は、特に制限されることはないが3時間〜15時間とすることが好ましく、5時間〜10時間とすることがより好ましい。焙焼時間が3時間未満では、Al被覆複合水酸化物粒子を十分に酸化することができない場合がある。一方、焙焼時間が15時間を超えると、生産性が著しく悪化する。
【0085】
なお、酸化焙焼工程で用いる炉は、酸化性雰囲気中でAl被覆複合水酸化物粒子を加熱できるものであれば制限されることはないが、ガス発生のない電気炉などを好適に用いることができる。
【0086】
(2)混合工程
混合工程は、Al被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0087】
混合工程では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マグネシウムとの原子数の総和(Me)に対する、リチウムの原子数(Li)の比率(Li/Me)が、1.00〜1.04、好ましくは1.02〜1.03の範囲となるように、Al被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meはほとんど変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、概ね、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、Al被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。
【0088】
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0089】
また、Al被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0090】
(3)仮焼工程
リチウム化合物として、水酸化リチウムを使用する場合には、混合工程後、焼成工程の前に、リチウム混合物を、後述する焼成温度よりも低温、かつ、350℃〜650℃、好ましくは450℃〜550℃で、すなわち、水酸化リチウムとAl被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子との反応温度(仮焼温度)で仮焼する、仮焼工程を行ってもよい。これにより、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一な正極活物質を得ることができる。
【0091】
仮焼温度での保持時間は、1時間〜10時間とすることが好ましく、3時間〜6時間とすることが好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する焼成工程と同様に、酸素の濃度が98容量%以上、好ましくは99容量%以上の酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0092】
(4)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を所定の条件で焼成し、Al被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子中にリチウムを拡散させて、正極活物質を合成する工程である。なお、焼成工程で用いる炉は、酸素気流中でリチウム混合物を焼成することができる限り、特に制限されることはなく、バッチ式または連続式の炉のいずれも用いることができる。
【0093】
a)焼成雰囲気
焼成雰囲気は、酸素濃度が98容量%以上、好ましくは99容量%以上の酸化性雰囲気とすることが必要である。特に、酸素気流中で焼成することが好ましい。酸素濃度が98容量%未満では、正極活物質の合成反応を十分に進行させることができず、正極活物質の結晶性が低下してしまう。
【0094】
b)焼成温度
焼成温度は、700℃〜800℃とすることが好ましく、720℃〜760℃とすることがより好ましい。焼成温度が700℃未満では、リチウムおよびアルミニウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応のAl被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子が残存したり、得られる正極活物質の結晶性が不十分なものとなったりするおそれがある。一方、焼成温度が800℃を超えると、正極活物質同士が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされるおそれがある。この場合、不定形な粗大粒子の割合が増大し、比表面積が減少することによって、正極抵抗の上昇や充放電容量の低下といった問題が生じる。
【0095】
なお、Al被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子とリチウム化合物との反応を均一に進行させる観点から、少なくとも500℃から焼成温度までの昇温速度を3℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜8℃/分とすることがより好ましい。また、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間〜5時間、より好ましくは3時間〜5時間保持することで、Al被覆複合水酸化物粒子または焙焼粒子とリチウム化合物との反応を、一層均一に進行させることができる。
【0096】
c)焼成時間
焼成時間での保持時間(焼成時間)は、3時間以上とすることが好ましく、6時間〜24時間とすることがより好ましい。焼成時間が3時間未満では、正極活物質の合成が十分に進行しないおそれがある。
【0097】
なお、焼成後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度を2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。これにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することができる。
【0098】
(5)解砕工程
焼成工程後の正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合、正極活物質の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
【0099】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0100】
3.非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水系電解液などの、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0101】
(1)構成部材
a)正極
本発明により得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水系電解質二次電池の正極を作製する。
【0102】
まず、本発明により得られた粉末状の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部とし、導電材の含有量を1質量部〜20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
【0103】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧してもよい。このようにして、シート状の正極を作製することができる。この正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断して、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることはなく、他の方法を利用してもよい。
【0104】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0105】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0106】
また、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0107】
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0108】
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0109】
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に制限されることはない。
【0110】
d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0111】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0112】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、およびこれらの複合塩などを用いることができる。
【0113】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0114】
(2)非水系電解質二次電池
以上の正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0115】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層することにより電極体とし、これを非水系電解液に含浸し、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続した後、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0116】
(3)非水系電解質二次電池の特性
本発明の非水系電解質二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、充放電容量、出力特性、サイクル特性および高温保存性に優れていると評価することができる。
【0117】
たとえば、本発明の正極活物質を用いて、
図3に示すような2032型コイン電池を構成した場合には、199mAh/g以上、好ましくは200mAh/g以上の初期放電容量と、70%以上、好ましくは75%以上の200サイクル容量維持率を同時に達成することができる。また、ラミネート型電池を作製した場合において、初期状態における正極抵抗R
0を1.01Ω以下、好ましくは0.99Ω以下とすることができる。さらに、このラミネート型電池を60℃に維持された保温器内に4週間保管した場合において、R
0に対する4週間経過後における正極抵抗R
4の比R
4/R
0を2.0以下、好ましくは1.8以下とすることができる。
【0118】
(4)用途
本発明の非水系電解質二次電池は、上述のように、充放電容量、サイクル特性およびに高温保存性に優れるため、小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。また、このような本発明の非水系電解質二次電池は、小型化が可能であり、かつ、高価な保護回路を簡略化することもできるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0120】
(実施例1)
a)Al被覆複合水酸化物粒子の作製
複合水酸化物粒子をバッチ式晶析法により晶析させた後、この複合水酸化物粒子をアルミニウムで被覆することにより、Al被覆複合水酸化物粒子を製造した。
【0121】
はじめに、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マグネシウムを純水に溶解し、ニッケル濃度が1.65mоl/L、コバルト濃度が0.31mоl/L、マグネシウム濃度が0.02mоl/Lである原料水溶液を247L調製した。同時に、反応槽に、純水を140L、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を6Lおよび25質量%のアンモニア水を6L供給することにより、反応水溶液を調製した。
【0122】
この反応水溶液の温度を50℃に設定するとともに、上方より窒素ガスを吹きかけることにより、反応水溶液と酸素との接触を遮断した。この状態で、反応水溶液を撹拌しつつ、そのpH値が、液温25℃基準で11.3に維持されるように、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を供給するとともに、1L/分で原料水溶液を供給することにより、複合水酸化物粒子を晶析させた。この際、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度が10g/Lに維持されるように、0.1L/分でアンモニア水を供給した(晶析工程)。
【0123】
晶析工程後、反応水溶液をろ過し、複合水酸化物粒子を含むスラリーを取り出した。このスラリーを、純水150Lが入った容器内に投入し、撹拌機で撹拌しつつ、アルミニウム濃度が0.1mol/Lのアルミン酸ナトリウム水溶液を供給した。30分経過後、10質量%の硫酸を滴下し、容器内のpH値が、液温25℃基準で9、7となるように調整することにより、複合水酸化物粒子をアルミニウムによって被覆した。このようにして得られたAl被覆複合水酸化物粒子をろ過した後、純水で洗浄した。さらに、120℃で24時間加熱することにより乾燥し、粉末状のAl被覆複合水酸化物粒子を得た(被覆工程、乾燥工程)。
【0124】
b)Al被覆複合水酸化物粒子の評価
[組成]
ICP発光分光分析装置(島津製作所製、ICP−9000)による分析の結果、このAl被覆複合水酸化物粒子は、一般式:Ni
0.82Co
0.16Al
0.03Mg
0.01(OH)
2で表されるものであることが確認された。
【0125】
[粒子構造]
SEM(日立製作所製、S−4700)観察の結果、このAl被覆複合水酸化物粒子は、直方体状一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなることが確認された。続いて、このAl被覆複合水酸化物粒子を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工により断面観察可能な状態とした上で、同様にSEM観察した。この結果、このAl被覆複合水酸化物粒子は、中実構造を備えていることが確認された。
【0126】
また、粉末X線回折測定の結果、この正極活物質を構成する一次粒子の平均粒径(結晶子径)は0.06μmであることが確認された
さらに、粒子断面を特性X線分光分析した結果、このAl被覆複合水酸化物粒子は、ニッケル、コバルトおよびマグネシウムからなる中心部が、厚さ0.005μmの水酸化アルミニウムからなる被膜によって被覆されたものであることが確認された。
【0127】
[平均粒径、タップ密度および比表面積]
レーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製、マイクロトラック)、振および窒素吸着式BET法測定機(マウンテック製、マックソーブ)を用いた測定の結果、このAl被覆複合水酸化物粒子は、平均粒径が5.3μm、タップ密度が1.8g/mL、比表面積が6.2m
2/gであることが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0128】
c)正極活物質の作製
このAl被覆複合水酸化物粒子を、コージェライト製の匣鉢に入れて、焙焼炉(アドバンテック株式会社製、FUM373)を用いて、大気雰囲気下、700℃で10時間酸化焙焼した後、室温まで冷却し、焙焼粒子を得た(酸化焙焼工程)。
【0129】
続いて、Li/Me=1.02となるように、この焙焼粒子と水酸化リチウムを混合し、リチウム混合物を得た(混合工程)。
【0130】
このリチウム混合物をコージェライト製の匣鉢に入れて、焼成炉(株式会社広築製、PVF3060)を用いて、酸素気流中、500℃で3時間加熱した後、730℃まで昇温し、この温度で10時間保持した。その後、酸素気流中で室温まで冷却した後、解砕することにより、正極活物質を得た(仮焼工程、焼成工程および解砕工程)。
【0131】
d)正極活物質の評価
[組成]
ICP発光分光分析装置による分析の結果、この正極活物質は、一般式:Li
1.02Ni
0.81Co
0.15Al
0.03Mg
0.01O
2で表されるものであることが確認された。
【0132】
[粒子構造]
SEM観察の結果、この正極活物質は、直方体状一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなることが確認された。続いて、この正極活物質を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工により断面観察可能な状態とした上で、同様にSEM観察をした。この結果、この正極活物質は、中実構造を備えていることが確認された。
【0133】
また、粉末X線回折測定の結果、この正極活物質を構成する一次粒子の平均粒径(結晶子径)は0.2μmであり、かつ、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)と同様の結晶構造のみからなることが確認された。この結果から、この正極活物質は、LiNiO
2によって構成されたマトリックス中に、コバルト、マグネシウムおよびアルミニウムが一様に固溶したものであることが理解される。
【0134】
[平均粒径、タップ密度および比表面積]
レーザ光回折散乱式粒度分析計および窒素吸着式BET法測定機を用いた測定の結果、この正極活物質は、平均粒径が5.5μm、タップ密度が2.3g/mL、比表面積が1.0m
2/gであることが確認された。これらの結果を表3に示す。これらの結果を表3に示す。
【0135】
e)二次電池の作製および評価
[充放電容量の評価]
この正極活物質を用いて、
図3に示すような2032型コイン電池1を作製した。はじめに、上述の正極活物質を85質量%、アセチレンブラックを10質量%、PVDFを5質量%ずつ秤量し、これらを混合した後、これにNMP(n−メチルピロリドン)を適量加えてペースト状にした。この正極合材ペーストを、アルミニウム箔上に、乾燥後の正極活物質の面密度が7mg/cm
2となるように塗布し、120℃で真空乾燥した後、直径が13mmの円板状に打ち抜くことで、正極3aを作製した。なお、負極3bにはリチウム金属を、電解液には、1MのLiClO
4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液を使用し、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で、2032型コイン電池1を組み立てた。
【0136】
その後、2032型コイン電池1を24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電した。1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電し、その放電容量を測定することにより、初期放電容量を求めた。この際、初期放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。この結果、初期放電容量は200.1mAh/gであることが確認された。
【0137】
[サイクル特性の評価]
上述した2032型コイン電池において、正極に対する電流密度を正極活物質1g当たり360mAとして4.1Vまで充電した後、3.0Vまで放電する操作を200サイクル行い、初期放電容量に対する200サイクル後の放電容量の比(200サイクル容量維持率)を求めることにより、サイクル特性を評価した。この結果、200サイクル容量維持率は、78%であることが確認された。
【0138】
[出力特性および高温保存性の評価]
2032型コイン電池1の場合と同様にして、ラミネート型電池を作製した。24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電した。この際、マルチチャンネル電圧/電流発生器を用いて、放電容量とインピーダンスを測定した。
【0139】
再度、カットオフ電圧が4.3Vとなるまでラミネート型電池を充電した後、60℃に維持した保温器内に保管した。1週間経過後、カットオフ電圧が3.0Vとなるまで放電し、同様に、放電容量とインピーダンスを測定した。このような測定を4週間にわたって繰り返し行い、ラミネート型電池の高温保存性を評価した。以上の結果を表4に示す。
【0140】
(実施例2)
晶析工程おいて、原料水溶液のマグネシウム濃度を0.06mоl/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0141】
(実施例3)
晶析工程において、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で10.8に調整したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0142】
(実施例4)
晶析工程において、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で11.8に調整したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0143】
(実施例5)
晶析工程において、反応水溶液の温度を45℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0144】
(実施例6)
晶析工程において、反応水溶液の温度を55℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0145】
(実施例7)
晶析工程において、反応水溶液のアンモニア濃度が8g/Lとなるように、0.08L/分でアンモニア水を供給したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0146】
(実施例8)
晶析工程において、反応水溶液のアンモニア濃度が12g/Lとなるように、0.12L/分でアンモニア水を供給したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0147】
(実施例9)
晶析工程において、反応雰囲気中における酸素濃度を2容量%に維持したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0148】
(比較例1)
晶析工程において、ニッケル濃度が1.65mоl/Lおよびコバルト濃度が0.31mоl/Lで、マグネシウムを含まない原料水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0149】
(比較例2)
晶析工程において、ニッケル濃度が1.65mоl/Lおよびコバルト濃度が0.31mоl/Lで、マグネシウムを含まない原料水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子を得た。このAl被覆複合水酸化物粒子を純水中に分散させ、撹拌しつつ、pH値が10.5となるように水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。この状態で、0.1mоl/Lの硫酸マグネシウム水溶液を供給することにより、Al被覆複合水酸化物粒子の表面にマグネシウムを析出させた。
【0150】
このAl被覆複合水酸化物粒子に対して、実施例1と同様の評価を行った。また、このAl被覆複合水酸化物粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0151】
(比較例3)
マグネシウム濃度が0.2mоl/Lの硫酸マグネシウム水溶液を用いたこと以外は、比較例2と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0152】
(比較例4)
晶析工程において、ニッケル濃度が1.65mоl/Lおよびコバルト濃度が0.31mоl/Lで、マグネシウムを含まない原料水溶液を使用したこと、反応槽からオーバーフローさせた反応水溶液をろ過することにより、複合水酸化物粒子を回収したこと、および、被覆工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0153】
(比較例5)
晶析工程において、ニッケル濃度が1.65mоl/L、コバルト濃度が0.31mоl/Lおよびマグネシウム濃度が0.02mоl/Lである原料水溶液を使用したこと以外は、比較例4と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0154】
(比較例6)
晶析工程において、ニッケル濃度が1.65mоl/L、コバルト濃度が0.31mоl/Lおよびマグネシウム濃度が0.06mоl/Lである原料水溶液を使用したこと以外は、比較例4と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0155】
(比較例7)
晶析工程において、反応雰囲気を酸素濃度が21容量%の酸化性雰囲気としたこと以外は、実施例1と同様にして、Al被覆複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。この結果を表2〜4に示す。
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
【表3】
【0159】
【表4】