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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-213725(P2016-213725A)
(43)【公開日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】信号再生装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/26 20060101AFI20161118BHJP
【FI】
   H03F1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-97061(P2015-97061)
(22)【出願日】2015年5月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】田所 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】葛西 誠也
(72)【発明者】
【氏名】一木 輝久
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA21
5J500AC41
5J500AF00
5J500AH00
5J500AK00
5J500AK26
5J500AT01
5J500AT02
5J500AT06
(57)【要約】
【課題】微弱信号の再生及びダイナミックレンジの拡大。
【解決手段】 伝達情報である情報信号d(t)から、確率共鳴現象により、情報信号を再生する信号再生装置である。情報信号から再生されるべき信号成分の最大周波数よりも高い周波数を基本周波数とする決定論的周期信号F(t)を発生する信号発生装置12と、信号発生装置から出力される決定論的周期信号と、入力された情報信号とを合波する合波装置14と、合波装置の出力する信号を入力する非線形素子10とを有する。決定論的周期信号F(t)の基本周波数は、再生すべき信号の最大周波数の5倍以上に設定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝達情報である情報信号を入力し、確率共鳴現象により、該情報信号を再生する信号再生装置において、
前記情報信号から再生されるべき信号成分の最大周波数よりも高い周波数を基本周波数とする決定論的周期信号を発生する信号発生装置と、
前記信号発生装置から出力される前記決定論的周期信号と、前記情報信号とを合波する合波装置と、
前記合波装置の出力する合波信号を入力する非線形素子と、
を有することを特徴とする信号再生装置。
【請求項2】
前記基本周波数は、前記最大周波数の5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の信号再生装置。
【請求項3】
前記非線形素子は、入力のレベルが第1閾値以上の時に出力が得られる非線形特性を有し、前記情報信号の最大レベルは、前記第1閾値より低いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号再生装置。
【請求項4】
前記決定論的周期信号の振幅は、前記第1閾値と前記情報信号の最大レベルとの差以上の任意の値に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の信号再生装置。
【請求項5】
前記非線形素子は、入力のレベルが第1閾値以上の時に出力が得られる非線形特性を有し、前記情報信号の最小レベルは、前記第1閾値より低いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号再生装置。
【請求項6】
前記決定論的周期信号の振幅は、前記第1閾値と前記情報信号の最小レベルとの差以上の任意の値に設定されていることを特徴とする請求項5に記載の信号再生装置。
【請求項7】
前記非線形素子は、入力のレベルが第2閾値より高い時は出力が飽和する非線形特性を有し、前記情報信号の最小レベルは、前記第2閾値より高いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号再生装置。
【請求項8】
前記決定論的周期信号の振幅は、前記情報信号の最小レベルと前記第2閾値との差以上の任意の値に設定されていることを特徴とする請求項7に記載の信号再生装置。
【請求項9】
前記非線形素子は、入力のレベルが第2閾値より高い時は出力が飽和する非線形特性を有し、前記情報信号の最大レベルは、前記第2閾値より高いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号再生装置。
【請求項10】
前記決定論的周期信号の振幅は、前記情報信号の最大レベルと前記第2閾値との差以上の任意の値に設定されていることを特徴とする請求項9に記載の信号再生装置。
【請求項11】
前記非線形素子は、入力のレベルが第1閾値以上の時に出力が得られ、入力のレベルが第1閾値より大きい第2閾値より高い時は出力が飽和する非線形特性を有し、前記情報信号は、そのレベルの時間変動において、前記第1閾値より低い場合と、前記第2閾値より高い場合とが存在する信号であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号再生装置。
【請求項12】
前記決定論的周期信号の振幅は、前記情報信号の最大レベルと前記第2閾値との差と、前記第1閾値と前記情報信号の最小レベルとの差のうち、高い方の差以上の任意の値に設定されていることを特徴とする請求項11に記載の信号再生装置。
【請求項13】
前記信号発生装置、前記合波装置、及び、前記非線形素子は、複数系統存在し、各合波装置には、前記情報信号を分岐した情報信号が入力し、各信号発生装置は、少なくとも前記基本周波数又は位相が、それぞれ、異なる決定論的周期信号を発生し、この各決定論的周期信号を、各系統の合波装置に入力し、この合波装置の出力をその系統の非線形素子に入力し、全ての系統の非線形素子の全出力を合成する合成装置とを
さらに、有することを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の信号再生装置。
【請求項14】
前記決定論的周期信号は、正弦波、三角波、鋸歯状波、矩形波、インパルス列のうちの少なくとも1つの周期関数であることを特徴とする請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載の信号再生装置。
【請求項15】
前記非線形素子は、増幅器、ダイオード、シュミットトリガー、トランジスタ、又はコンパレータであることを特徴とする請求項1乃至請求項14の何れか1項に記載の信号再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号レベルが低く信号処理回路の出力が得られない様な場合に、確率共鳴現象を用いて、微弱信号を再生したり、信号レベルが高く、増幅器などの信号処理回路の出力が飽和するような場合に飽和を抑制した信号再生装置に関する。また、微弱信号に雑音が重畳した情報信号から、確率共鳴現象を用いて信号を抽出することができる信号再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の非特許文献1において、微弱信号をN個の複数の信号に分配し、それぞれの信号に独立した雑音を加えて、非線形素子に入力して、N個の非線形素子の出力を合成することで微弱信号を再生することが知られている。この方法は、雑音に埋没した微弱信号は、閾値特性を持つ閾値応答素子に入力すると、微弱信号が存在する期間には閾値を越える確率が高くなるということを利用して、微弱信号を再生する方法である。閾値応答素子の出力は、微弱信号が存在する期間には閾値を越える確率が高くなるという現象は、確率共鳴、又は、確率共振と言われている。
【0003】
非線形素子を1個だけ用いた場合には、微弱信号の存在する期間において、入力信号のレベルが閾値を越える確率が高くなり、微弱信号が存在しない期間には閾値を越える確率が低くなることが、微弱信号の再生にとって重要となる。したがって、閾値、微弱信号レベル、雑音レベルが適切な関係にある場合に、信号の検出精度が高くなる。また、最大の検出精度を得るためには最適な雑音レベルが存在する。
【0004】
非特許文献1の方法は、多数の非線形素子の出力を合成することで、雑音レベルに依存することなく、微弱信号の検出精度を高くしている。すなわち、雑音レベルが高くなると、各閾値応答素子の出力は、微弱信号が存在する期間も微弱信号が存在しない期間も、閾値を越える確率が高くなる。ところが、入力信号が雑音レベルにより閾値を越える場合には、重畳するN個の雑音が独立したものであることから、N個の閾値応答素子において、入力信号が閾値を越える位相はランダムとなる。一方、入力信号が微弱信号の存在により閾値を越える場合には、N個の入力信号に含まれる微弱信号は同相となるので、閾値応答素子の出力も同相となる。この結果、N個の閾値応答素子の出力を1つの信号に合成すると、微弱信号の存在期間に出力レベルが高くなり、微弱信号が存在しない期間には出力レベルは低くなる。非特許文献1は、このような原理により、雑音レベルに係わらず、微弱信号の再生精度を向上させるものである。
【0005】
また、特許文献1において、非特許文献1による微弱信号にそれぞれ独立した雑音を重畳させたN個の入力信号を非線形素子に入力して、それぞれの非線形素子の出力を1つの信号に合成する方法を実現する装置において、非線形素子を電界効果トランジスタとして、サブスレショルド領域で動作させるようにした装置が知られている。
【0006】
また、特許文献2においては、一つの非線形素子を用いた確率共鳴現象を利用してS/N比を改善する回路において、非線形特性とS/N比との関係が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−212551
【特許文献2】特開2011−52991
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.J.Collins, Carson C.Chow and Thomas T.Imhoff, LETTERS TO NATURE. Stochastic resonance without tuning. vol.376, pp.236-238, 20 July, 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、非特許文献1、特許文献1の方法は、微弱信号を分配した各信号に、それぞれ、周期性のない独立した雑音を加えて、非線形素子に入力してその出力を合成する方法である。しかしながら、この方法は、N個の非線形素子に入力させる信号に印加する雑音が独立していることが必要である。仮に、同一雑音源からの同一雑音を印加した場合には、非線形素子の出力信号の合成からは、雑音成分をキャンセルすることが困難となり、微弱信号の再現性が低下し、出力信号のS/N比が向上しない。
したがって、非特許文献1、特許文献1の方法では、独立したN個の雑音源を準備する必要があり、装置が複雑になるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、雑音源を用いることなく、決定論的周期関数を用いてその基本周波数を適正に設定することで、入力信号に含まれる微弱又は過大な情報信号を精度良く再現するようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、伝達情報である情報信号を入力し、確率共鳴現象により、該情報信号を再生する信号再生装置において、情報信号から再生されるべき信号成分の最大周波数よりも高い周波数を基本周波数とする決定論的周期信号を発生する信号発生装置と、信号発生装置から出力される決定論的周期信号と、情報信号とを合波する合波装置と、合波装置の出力する合波信号を入力する非線形素子と、を有することを特徴とする信号再生装置である。
【0012】
ここにおいて、情報信号から再生されるべき信号成分は、情報信号をどの程度、再生すべきかの再生目的により異なる。情報信号の波形を正確に再生するのであれば、再生されるべき信号成分とは、情報信号そのものとなり、再生されるべき信号成分の最大周波数とは、情報信号の最大周波数となる。また、情報信号の波形のある程度の歪みが許容できる場合にはその歪んだ再生信号の最大周波数が、本発明における再生されるべき信号成分の最大周波数となる。また、情報信号を構成する基本波を再生、又は、その基本波の周波数の検出を目的するのであれば、再生されるべき信号成分の最大周波数とは、その基本波の周波数となる。
【0013】
また、決定論的周期信号とは、時間軸上において予測性のある周期信号であり、一般的には、関数で表記され得る信号である。しかしながら、必ずしも、決定論的周期信号は、解析関数で表記される必要はない。また、決定論的周期信号の基本周波数とは、決定論的周期信号の線スペクトルのうち、直流を除く最低次数の周波数である。通常は、電力が最大のスペクトルである。本発明では、再生されるべき信号成分の最大周波数よりも、決定論的周期信号の基本周波数を大きくしたことが特徴である。また、決定論的周期信号の基本周波数は、再生されるべき信号成分の最大周波数の5倍以上、さらに望ましくは10倍以上とすることが望ましい。この条件の時に、再生されるべき信号成分の再現性が良くなる。また、基本周波数を大きくし過ぎても再生の精度は飽和するので、決定論的周期信号の基本周波数は、再生されるべき信号成分の最大周波数の5倍以上、20倍以下とすることが望ましい。また、5倍以上、10倍以下も、望ましい範囲である。
【0014】
本発明において、非線形素子は、入力のレベルが第1閾値以上の時に出力が得られる非線形特性を有し、情報信号の最大レベルは、第1閾値より小さくすることができる。この場合は、情報信号の全レベルは第1閾値より低いので、情報信号だけでは非線形素子の出力は得られない。このとき、決定論的周期信号の振幅は、第1閾値と情報信号の最大レベルとの差以上の任意の値に設定されていることが望ましい。このように、決定論的周期信号の振幅を設定することで、情報信号と決定論的周期信号とを合波して得られる合波信号のレベルは、決定論的周期信号の振幅の大きさに応じて、変動するレベルの一部又は全レベルを第1閾値以上にすることができるので、情報信号から再生されるべき信号成分を得ることができる。
【0015】
また、決定論的周期信号の振幅は、第1閾値と情報信号の最小レベルとの差に等しくしても良い。この場合には、このときの決定論的周期信号の振幅は、合波信号のレベルを常に第1閾値以上とするための最小振幅となる。よって、決定論的周期信号の振幅は、第1閾値と情報信号の最大レベルとの差以上で、第1閾値と情報信号の最小レベルとの差以下の範囲の任意の値とすることが良い。また、決定論的周期信号の振幅は、第1閾値と情報信号の平均レベルとの差に設定されていても良い。この場合には、合波信号の平均レベルを第1閾値に設定することができ、再生すべき信号成分を得ることができる。また、決定論的周期信号の振幅は、第1閾値と情報信号の最小レベルとの差以上の任意の値に設定しても良い。この場合には、合波信号のレベルは、常に、第1閾値以上となる。
【0016】
また、非線形素子は、入力のレベルが第1閾値以上の時に出力が得られる非線形特性を有し、情報信号の最小レベルは、第1閾値より小さくとも良い。この場合は、情報信号の少なくとも一部のレベルが第1閾値より小さくなる場合である。このとき、決定論的周期信号の振幅は、第1閾値と情報信号の最小レベルとの差以上の任意の値に設定されていることが望ましい。この場合には、合波信号のレベルは常に第1閾値以上とすることができるので、情報信号から再生されるべき信号成分を得ることができる。
以上の全ての場合において、情報信号に雑音が重畳されていても、情報信号から再生すべき信号成分を再生することができる。
【0017】
情報信号のレベルが第1閾値よりも低い区間については、非線形素子は情報信号を出力することができないが、上記の本発明によると、情報信号のレベルが第1閾値より低い区間であっても、非線形素子の出力から情報信号を再生することができる。すなわち、増幅器などの非線形素子のダイナミックレンジを低レベル側に拡大することができる。
【0018】
また、本発明において、非線形素子は、入力のレベルが第2閾値より高い時は出力が飽和する非線形特性を有し、情報信号の最小レベルは、第2閾値より大きくすることができる。この場合は、情報信号のレベルが大きく、情報信号の全てのレベルが飽和領域にあるので、情報信号だけでは非線形素子の出力は完全に飽和した状態となり、所望の出力は得られない。このとき、決定論的周期信号の振幅は、情報信号の最小レベルと第2閾値との差以上の任意の値に設定されていることが望ましい。このように、決定論的周期信号の振幅を設定することで、合波信号のレベルは、決定論的周期信号の振幅の大きさに応じて、信号レベルの一部又は全体を第2閾値以下にすることができるので、情報信号から再生されるべき信号成分を得ることができる。
【0019】
また、決定論的周期信号の振幅は、情報信号の最大レベルと第2閾値との差に等しくしても良い。この場合には、このときの決定論的周期信号の振幅は、合波信号のレベルを常に第2閾値以下にするための最小振幅となる。よって、決定論的周期信号の振幅は、情報信号の最小レベルと第2閾値との差以上で、情報信号の最大レベルと第2閾値との差以下の範囲の任意の値とすることが良い。また、決定論的周期信号の振幅は、情報信号の平均レベルと第2閾値との差に設定されていても良い。この場合には、合波信号の平均レベルを第2閾値に設定することがき、再生すべき信号成分を得ることができる。また、決定論的周期信号の振幅は、情報信号の最大レベルと第2閾値との差以上にしても良い。この場合には、合波信号のレベルは、常に、第2閾値以下となる。
【0020】
本発明において、非線形素子は、入力のレベルが第2閾値より高い時は出力が飽和する非線形特性を有し、情報信号の最大レベルは、第2閾値より大きくしても良い。この場合は、情報信号の少なくとも一部が第2閾値より大きくなり、信号レベルの一部が飽和領域にある場合である。このとき、決定論的周期信号の振幅は、情報信号の最大レベルと第2閾値との差以上の任意の値に設定されていることが望ましい。この場合には、合波信号のレベルは常に第2閾値以下にすることができるので、非線形素子の出力は情報信号に対して飽和することがなく、情報信号から再生されるべき信号成分を得ることができる。
以上の全ての場合において、情報信号の少なくとも一部のレベルが飽和レベルに以上にある場合においても、情報信号から再生すべき信号成分を再生することができる。
【0021】
情報信号のレベルが第2閾値よりも高い区間については、非線形素子は情報信号を出力することができないが、上記の本発明によると、情報信号のレベルが第2閾値より高い区間であっても、非線形素子の出力から情報信号を再生することができる。すなわち、レベルが過大な情報信号において、非線形素子の出力の飽和を抑制することができ、増幅器などの非線形素子のダイナミックレンジを高レベル側に拡大(飽和の程度を緩和)することができる。
【0022】
また、本発明において、非線形素子は、入力のレベルが第1閾値以上の時に出力が得られ、入力のレベルが第1閾値より大きい第2閾値より高い時は出力が飽和する非線形特性を有し、情報信号は、そのレベルの時間変動において、第1閾値より低い場合と、第2閾値より高い場合とが存在する信号とすることができる。この場合には、決定論的周期信号の振幅は、情報信号の最大レベルと第2閾値との差と、第1閾値と情報信号の最小レベルとの差のうち、高い方の差以上の任意の値に設定されていることが望ましい。また、決定論的周期信号の振幅は、情報信号の平均レベルが第1閾値より低い場合には、第1閾値とその平均レベルとの差に、情報信号の平均レベルが第2閾値より高い場合には、その平均レベルと第2閾値との差に、設定されていても良い。これにより、増幅器などの非線形素子のダイナミックレンジを低レベル側と、高レベル側の両方に拡大することができる。
【0023】
本発明において、信号再生装置は、信号発生装置、合波装置、及び、非線形素子は、複数系統存在し、各合波装置には、情報信号を分岐した情報信号が入力し、各信号発生装置は、少なくとも基本周波数又は位相が、それぞれ、異なる決定論的周期信号を発生し、この各決定論的周期信号を、各系統の合波装置に入力し、この合波装置の出力をその系統の非線形素子に入力し、全ての系統の非線形素子の全出力を合成する合成装置とを、さらに、有する装置とすることができる。
【0024】
ここで、少なくとも基本周波数又は位相が、それぞれ、異なる決定論的周期信号とは、各決定論的周期信号の(基本周波数、位相、波形)の3要素において、何れか一つの要素が同一で、他の2要素が異なる場合(3通り)、何れか一つの要素のみが異なり、他の2要素は同一の場合(3通り)、3つの要素が共に異なる場合(1通り)との合計7通りの場合を含む。各系統において、情報信号の瞬時レベルが第1閾値より低い場合には、情報信号と決定論的周期信号との合波した信号が確率共鳴を起こして第1閾値以上となる確率が高くなる。また、情報信号と決定論的周期信号との合波した信号の瞬時レベルが第2閾値より高い場合には、情報信号と決定論的周期信号との合波した信号が確率共鳴を起こして第2閾値以下となる確率が高くなる。各系統の非線形素子の出力を合成することにより、雑音成分については各系統の合成によりキャンセルされるので、情報信号のレベルが第1閾値より低い場合に情報信号の再生をより確実とすることができ、情報信号のレベルが第2閾値より高い場合に、飽和を抑制した情報信号の再生をより確実に行うことができる。
【0025】
本発明において、決定論的周期信号は、正弦波、三角波、鋸歯状波、矩形波、インパルス列のうちの少なくとも1つの周期関数とすることができる。また、非線形素子は、ダイオード、シュミットトリガー、トランジスタ(FETなど)、又はコンパレータとすることができる。
【0026】
非線形素子が、例えば、信号レベルをある第1閾値、第2閾値により2値化する2値化素子であるとすると、伝達情報である情報信号に決定論的周期信号が重畳した合波信号を非線形素子に入力すると、決定論的周期信号のレベル変動により、非線形素子の出力は決定論的周期信号の周期(周波数)に応じた幅のパルス列となる。このパルスの占有率(ある時間区間当たりのレベルの時間積分、すなわち面積密度)は、情報信号のレベルが第1閾値より低い場合には情報信号のレベルが高い程、大きくなり、情報信号のレベルが第2閾値より高い場合には、情報信号のレベルが低い程、大きくなる。
【0027】
非線形素子が2値化素子でなくとも、非線形素子の出力信号は決定論的周期信号のレベル変動により、情報信号のレベルが第1閾値より低い場合には情報信号のレベルが高い程、情報信号のレベルが第2閾値より高い場合には情報信号のレベルが低い程、非線形素子の出力信号の単位時間区間当たりのレベルの時間積分(レベル占有率)が大きくなる。したがって、非線形素子の入力のダイナミックレンジをレベルの低い側と高い側に拡大したのと等価な出力信号が得られる。
【0028】
また、情報信号には、アナログ信号や、アナログ信号をサンプリングしA/D変換した後のディジタル信号であっても良い。非線形素子としては、入力信号をディジタル信号とする場合に、関数演算器を用いることができる。関数演算器による非線形関数には、ロジスティック関数、シグモイド関数、ステップ関数などを用いることができる。また、アナログ信号を扱う非線形素子には、入力と出力との関係がこれらの非線形関係にある素子であれば、任意の素子が使用可能である。
【0029】
また、伝達情報である情報信号は、周期的信号であっても、非周期的信号であっても、一時間だけ存在する単一信号であっても良い。情報信号は正弦波、方形波など任意形状の波形であり、正弦波を任意の信号で変調した信号であっても良い。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、微弱信号を確率共鳴現象を用いて再生することができる。また、情報信号のレベルが低い場合に、情報信号を再生できることから、非線形素子のダイナミックレンジを低レベル側に拡大することができる。さらに、情報信号のレベルが高く、非線形素子の出力が飽和する場合に、その飽和を抑制することができる。すなわち、非線形素子のダイナミックレンジを高レベル側に拡大することができる。また、情報信号に加える信号を雑音ではなく、決定論的周期信号を用いているので、装置の設計が簡単となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例1の信号再生装置の構成を示したブロック図。
図2】同信号再生装置における非線形素子の入出力特性。
図3】本発明の実施例1に係る同信号再生装置の原理を示す波形図。
図4】本発明の実施例1に係る同信号再生装置の原理を示す波形図。
図5】同信号再生装置における決定論的周期信号の基本周波数の再生されるべき信号成分の最大周波数に対する比とS/Nとの関係を再生信号の観測時間をパラメータとする特性図。
図6】本発明の実施例2の装置の信号再生装置における動作原理を示した波形図。
図7】本発明の実施例2の装置の信号再生装置における動作原理を示した波形図。
図8】本発明の実施例3の装置の信号再生装置における動作原理を示した波形図。
図9】本発明に係る実施例4の装置の信号再生装置の構成を示した構成図。
図10】本発明に係る実施例5の装置の信号再生装置の構成を示した構成図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の具体的な一実施例に係る信号再生装置1の構成を示したブロック図である。信号再生装置1 は合波装置14、非線形素子である増幅器10、信号発生装置12を有している。信号発生装置12は、決定論的周期信号として、余弦関数による信号F(t)を発生する。合波装置14には、伝達情報である情報信号d(t)と、信号発生装置12の出力する決定論的周期信号F(t)が入力している。合波装置14の出力である情報信号d(t)と決定論的周期信号F(t)とが加算された合波信号S(t)が増幅器10に入力している。増幅器10からは情報信号d(t)の再生信号P(t)が出力される。情報信号d(t)には雑音が重畳されていても良い。
【0034】
図2は、増幅器10の入出力特性を示している。入出力特性は、入力のレベルが第1閾値ξL より低い場合には入力のレベルに比例したレベルの出力が得られない領域Aと、入力のレベルが第2閾値ξH より高い場合には出力が飽和して入力のレベルに比例したレベルの出力が得られない領域Bと、入力のレベルに比例したレベルの出力が得られる第1閾値ξL 以上、かつ、第2閾値ξH 以下の線形領域Cとを有している。
【0035】
情報信号d(t)の最大レベルdmax が第1閾値ξL より低い場合には、図2に示す入出力特性を有した増幅器10では、情報信号d(t)を入力しても出力に情報信号d(t)は全く現れない。ところが、図3(a)に示されているように、この情報信号d(t)に決定論的周期信号F(t)を加算した合波信号S(t)のレベルは、決定論的周期信号F(t)及び情報信号d(t)のレベルが高くなる程、第1閾値ξL 以上となる確率が高くなる。よって、増幅器10の出力には、図3(b)のように、再生信号P(t)が得られる。この再生信号P(t)を、決定論的周期信号F(t)の基本周波数fF を遮断周波数とするローパスフィルタに入力して増幅すれば、図3(c)に示すように、決定論的周期信号F(t)を除去でき、第1閾値ξL より低い区間を含む情報信号d(t)の一部を再生することができる。
【0036】
また、図4(a)に示すように、情報信号d(t)の最大レベルdmax が第1閾値ξL 以上である場合であっても、決定論的周期信号F(t)を情報信号d(t)に加えることにより、情報信号d(t)が第1閾値ξL より低くなる区間においても、合波信号S(t)のレベルが、第1閾値ξL 以上となる確率が高くなる。よって、増幅器10の出力には、図4(b)のように、再生信号P(t)が得られる。この再生信号P(t)を、決定論的周期信号F(t)の基本周波数fF を遮断周波数とするローパスフィルタに入力させて増幅すれば、図4(c)に示すように、決定論的周期信号F(t)を除去でき、第1閾値ξL より低い区間を含む情報信号d(t)を再生することができる。
【0037】
決定論的周期信号F(t)の振幅AF は、情報信号d(t)の最大レベルdmax が第1閾値ξL より低い場合(dmax <ξL )には、振幅AF を第1閾値ξL と情報信号d(t)の最大レベルdmax との差Δ1 (Δ1 =ξL −dmax )以上、すなわち、(ξL −dmax )≦AF とすると、合波信号S(t)はレベルが第1閾値ξL 以上となる区間を有する。よって、再生信号P(t)には情報信号d(t)の信号情報が含まれることになる。また、振幅AF を、第1閾値ξL と最大レベルdmax との差Δ1 以上、第1閾値ξL と最小レベルdmin との差Δ2 以下、すなわち、(ξL −dmax )≦AF ≦(ξL −dmin )とすると、再生信号P(t)には、情報信号d(t)の変動が含まれる区間を必ず有することになり、情報信号d(t)に含まれる情報の復調が可能となる。
【0038】
また、情報信号d(t)の最小レベルdmin が第1閾値ξL より低い場合(dmin <ξL )において、最大レベルdmax と第1閾値ξL との高低関係にかかわらず、決定論的周期信号F(t)の振幅AF を、第1閾値ξL と情報信号d(t)の最小レベルdmin (dmin <ξL )との差Δ2 (Δ2 =ξL −dmin )とすると、すなわち、AF =(ξL −dmin )とすると、合波信号S(t)の上方包絡線(情報信号d(t)で変化する)は全区間において第1閾値ξL 以上とすることができる。この結果、再生信号P(t)は情報信号d(t)の全波形を含むことになり、情報信号d(t)の正確な検出が可能となる。一般には、決定論的周期信号F(t)の振幅AF を、レベル差Δ2 以上、すなわち、(ξL −dmin )≦AF とすると、再生信号P(t)の上方包絡線は情報信号d(t)の全波形を含むことになり、情報信号d(t)の正確な検出が可能となる。
【0039】
また、情報信号d(t)の平均レベルLM が第1閾値ξL より低い場合において、決定論的周期信号F(t)の振幅AF は、(第1閾値ξL −情報信号d(t)の平均レベルLM )で与えることができる。これによると、合波信号S(t)の上方包絡線の平均レベルは第1閾値ξL と同一レベルとなる。この結果、合波信号S(t)が第1閾値ξL 以上となる確率が高くなり、再生信号P(t)には、情報信号d(t)の平均レベル以上の波形が含まれ、情報信号d(t)の検出が可能となる。
以上の何れの場合も、増幅器10の出力である再生信号P(t)を、決定論的周期信号F(t)の基本周波数fF を遮断周波数とするローパスフィルタに入力させれば、決定論的周期信号F(t)を除去でき、第1閾値ξL より低い区間を含む情報信号d(t)を再生することができる。よって、非線形素子のダイナミックレンジが低レベル側に拡大されたのと等価となる。
【0040】
本実施例において、図1の増幅器10は、入力のレベルが第1閾値ξL 以上に変化すると、出力がLレベルからHレベルとなるコンパレータであっても良い。この場合には、合波信号S(t)のレベルが第1閾値ξL 以上となる期間だけ、コンパレータの出力はHレベルとなり、その他の期間はLレベルとなるパルス列となる。このパルスの幅は、情報信号d(t)のレベルに比例しているので、コンパレータの出力をローパスフィルタに通過させれば、情報信号d(t)の周期情報が含まれる信号が得られる。
【0041】
図5は、周波数比(決定論的周期信号F(t)の周波数fF /情報信号d(t)の周波数fd )と増幅器10の出力する再生信号P(t)のS/Nとの関係を、再生信号P(t)の観測時間をパラメータとしてシミューションにより求めた特性図である。これによると、再生信号P(t)の観測時間が長くなる程、S/Nは大きくなる。また、観測時間を十分に長くとると、周波数比が5以上の時に、S/Nの値は飽和していることが分かる。観測時間が短い程、周波数比を大きくすることで、S/Nは向上することが分かる。したがって、この特性から決定論的周期信号F(t)の基本周波数は、再生すべき信号の最大周波数の5倍以上、望ましくは10以上とすることが望ましい。
【実施例2】
【0042】
本実施例は、情報信号d(t)の最小レベルdmin が第2閾値ξH より高くなる場合である。この場合には、増幅器10の出力する再生信号P(t)は一定レベルの飽和状態となり、情報信号d(t)が再生されない。ところが、図6(a)に示すように、情報信号d(t)に決定論的周期信号F(t)を加算した合波信号S(t)のレベルは、決定論的周期信号F(t)の負レベル(平均レベルより低いレベル)の領域によりその絶対値が大きい程且つ情報信号d(t)のレベルが低い程、第2閾値ξH 以下となる確率が高くなる。よって、増幅器10の出力には、図6(b)のように、再生信号P(t)が得られる。この再生信号P(t)を、決定論的周期信号F(t)の基本周波数fF を遮断周波数とするローパスフィルタに入力させて増幅すれば、図6(c)に示すように、決定論的周期信号F(t)を除去でき、第2閾値ξH より高い区間を含む情報信号d(t)の一部を再生することができる。
【0043】
また、図7(a)に示すように、情報信号d(t)の最小レベルdmin が第2閾値ξH 以下である場合であっても、決定論的周期信号F(t)を情報信号d(t)に加えることにより、情報信号d(t)が第2閾値ξH より高くなる区間においても、合波信号S(t)のレベルが、第2閾値ξH 以下となる確率が高くなる。よって、増幅器10の出力には、図7(b)のように、再生信号P(t)が得られる。この再生信号P(t)を、決定論的周期信号F(t)の基本周波数fF を遮断周波数とするローパスフィルタに入力させて増幅すれれば、図7(c)に示すように、決定論的周期信号F(t)を除去でき、第2閾値ξH より高い区間を含む情報信号d(t)を再生することができる。
【0044】
決定論的周期信号F(t)の振幅AF は、情報信号d(t)の最小レベルdmin が第2閾値ξH より高い場合(ξH <dmin )には、振幅AF を情報信号d(t)の最小レベルdmin と第2閾値ξH との差Δ3 (Δ3 =dmin −ξH )以上、すなわち、(dmin −ξH )≦AF とすると、合波信号S(t)は、そのレベルが第2閾値ξH 以下となる区間を有する。よって、再生信号P(t)の下方包絡線は情報信号d(t)の一部となる。また、振幅AF を、最小レベルdmin と第2閾値ξH との差Δ3 以上、最大レベルdmax と第2閾値ξH との差Δ4 以下、すなわち、(dmin −ξH )≦AF ≦(dmax −ξH )とすると、再生信号P(t)の下方包絡線は、情報信号d(t)が含まれる区間を必ず有することになり、情報信号d(t)に含まれる情報の復調が可能となる。
【0045】
また、情報信号d(t)の最大レベルdmax が第2閾値ξH より高い場合(ξH <dmax )において、最小レベルdmin と第2閾値ξH との高低関係にかかわらず、決定論的周期信号F(t)の振幅AF を、情報信号d(t)の最大レベルdmax (ξH <dmax )と第2閾値ξH との差Δ4 (Δ4 =dmax −ξH )とすると、すなわち、AF =(dmax −ξH )とすると、合波信号S(t)の下方包絡線は全区間において第2閾値ξH 以下とすることができる。この結果、再生信号P(t)の下方包絡線は情報信号d(t)の全波形を含むことになり、情報信号d(t)の正確な検出が可能となる。一般には、決定論的周期信号F(t)の振幅AF を、レベル差Δ4 以上、すなわち、(dmax −ξH )≦AF とすると、再生信号P(t)の下方包絡線は情報信号d(t)の全波形を含むことになり、情報信号d(t)の正確な検出が可能となる。
【0046】
また、情報信号d(t)の平均レベルLM が第2閾値ξH より高い場合において、決定論的周期信号F(t)の振幅AF は、(情報信号d(t)の平均レベルLM −第2閾値ξH )で与えることができる。これによると、合波信号S(t)の下方包絡線の平均レベルは第2閾値ξH と同一レベルとなる。この結果、合波信号S(t)が第2閾値ξH 以下となる確率が高くなり、再生信号P(t)には、情報信号d(t)の平均レベル以下の波形が含まれ、情報信号d(t)の検出が可能となる。
以上の何れの場合も、増幅器10の出力である再生信号P(t)を、決定論的周期信号F(t)の基本周波数fF を遮断周波数とするローパスフィルタに入力させれば、決定論的周期信号F(t)を除去でき、第2閾値ξH より高い区間を含む情報信号d(t)を再生することができる。よって、非線形素子のダイナミックレンジが高レベル側に拡大されたのと等価となる。
【0047】
本実施例においても、図1の増幅器10は、入力のレベルが第2閾値ξH 以下に変化すると、出力がHレベルからLレベルとなるコンパレータであっても良い。この場合には、合波信号S(t)のレベルが第2閾値ξH 以下となる期間だけ、コンパレータの出力はLレベルとなり、その他の期間はHレベルとなるパルス列となる。このLレベルのパルスの幅は、情報信号d(t)のレベルに逆比例(レベルが低い程、パルス幅は広くなる)しているので、コンパレータの出力をローパスフィルタに通過させれば、情報信号d(t)の周期情報が含まれる信号が得られる。
【実施例3】
【0048】
本実施例は、図8(a)に示すように、情報信号d(t)の振幅が大きく、そのレベルが、第1閾値ξL より低い期間と、第2閾値ξH より高い期間とが存在する場合である。実施例1で決定される決定論的周期信号F(t)の振幅AF1、例えば、AF1=(ξL −dmin )と、第2実施例で決定される振幅AF2、例えば、AF2=(dmax −ξH )とのうちの大きい方を、決定論的周期信号F(t)の振幅AF とすることで、非線形素子のダイナミックレンジを低レベル側及び高レベル側の方法に拡大することができる。この場合には、増幅器10の出力する再生信号P(t)は、図8(b)に示す波形となる。この再生信号P(t)を、決定論的周期信号F(t)の基本周波数fF を遮断周波数とするローパスフィルタに入力させれば、決定論的周期信号F(t)を除去でき、図8(c)に示すように、情報信号d(t)の全区間を再生することができる。
【0049】
本実施例においても、図1の増幅器10は、入力のレベルが第1閾値ξL 以上に変化すると出力がLレベルからHレベルへ変化し、出力のレベルが第2閾値ξH 以下に変化すると、出力がHレベルからLレベルとなるウインドウコンパレータであっても良い。この場合には、合波信号S(t)のレベルが第1閾値ξL より低いレベルから増加し第1閾値ξL に達したタイミングで立ち上がり、第2閾値ξH を越えるレベルから減少し第2閾値ξH に達したタイミングで立ち下がるパルス列となる。パルス幅は、情報信号d(t)のレベルが第1閾値ξL 又は第2閾値ξH に近い程狭くなり、情報信号d(t)の平均レベルに近い程広くなる。したがって、コンパレータの出力をローパスフィルタに通過させれば、情報信号d(t)の半波整流をπ/2位相シフトさせた波形に近似した波形が得られる。これにより、情報信号d(t)の成分を得ることができる。
【実施例4】
【0050】
本実施例4は、実施例2の応用である。本装置は、夜間における車両前方の歩行者を検出する装置である。本装置は、図9に示すように、ホトダイオードと抵抗との直列接続の並列回路で構成されたホトダイオードアレイ30と、LEDと抵抗との直列接続の並列回路で構成されたLEDアレイ31とを有している。前方から入射する光がホトダイオードアレイ30により測定される。そして、ホトダイオードアレイ30により検出された光強度に比例した起電力により、LEDアレイ31の各LEDが駆動される。すなわち、前方の夜間の画像がLEDアレイ31に表示されることになる。このとき、ホトダイオードアレイ30の各ホトダイオードPDには、直流バイアスV0 と共に信号発生装置12の出力する決定論的周期信号F(t)が印加されている。そして、決定論的周期信号F(t)の振幅AF は、ホトダイオードPDの検出信号の下方包絡線のレベルが第2閾値ξH より低下するように決定されている。これにより、ホトダイオードアレイ30で受光する光が強くとも、LEDアレイ31の発光が飽和することなく、グレアを防止することができる。
【実施例5】
【0051】
本実施例5は、実施例1の装置をn系統並列に設けたものである。図10に示すように、第n系統の合波装置14nは、情報信号d(t)と信号発生装置12nの出力する決定論的周期信号Fn (t)を入力して加算する。決定論的周期信号Fn (t)の基本周波数fF は、nf0 であり、各系統で異なる。nf0 は、いずれも、再生されるべき信号成分の最大周波数の5倍以上に設定されている。情報信号d(t)と決定論的周期信号Fn (t)とを加算して得られた合波信号Sn (t)は第n系統の非線形素子15nに入力して、レベルが第1閾値ξL より低い情報信号d(t)又はレベルが第2閾値ξH より高い情報信号d(t)が再生される。そして、各系統の非線形素子15kの出力が、合成装置50に入力して、各系統の再生信号が合成される。これにより、より情報信号d(t)を精度良く再生することができる。各系統の決定論的周期信号Fn (t)の周波数は異なるので、合成装置50の出力する再生信号には、決定論的周期信号が除去されることになる。このようにして、レベルが第1閾値ξL より低い部分、又は、レベルが第2閾値ξH より高い部分を含む情報信号d(t)を再生することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、微弱の情報信号を再生する装置、ダイナミックレンジを低レベル側又は高レベル側に拡大する装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
F(t)…決定論的周期信号
d(t)…情報信号
P(t)…再生信号
10…増幅器(非線形素子)
12…信号発生装置
14…合波装置
50…合成装置
15n…非線形素子
図1
図2
図3
図4
図6
図7
図8
図10
図5
図9