【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を示し、本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学的技術はJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., DNA Cloning, 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995)などに記載の方法により、またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
本発明で使用する各種蛋白質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.arabidopsis.org/またはhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=pubmed等)から入手することができる。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0029】
(実施例1)
転写抑制因子VNI2と繊維細胞マスター因子NSTとの結合能の評価
(1−1)
酵母Two-hybrid法に用いるベクターの構築
転写因子VND7(配列番号1)のサブドメインIからV(1〜146aa、VND7
1-146)のN末端領域と共に、VND転写因子群と共通のNACドメイン構造を有するNST転写因子群に属する転写因子NST1(配列番号2)、NST2(配列番号3)及びNST3(配列番号4)について、当該N末端領域に対応するNST1(1〜158aa、NST1
1-158)、NST2(1〜157aa、NST2
1-157)、NST3(1〜160aa、NST3
1-160)のN末端領域を、VNI2(配列番号5)のサブドメインV以降のC末端領域(147〜252aa、VNI2
147-252)のcDNA配列を下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅した。それぞれのcDNAを、pENTR/D-TOPOベクター(Life Technology)にエントリークローニングした。
【0030】
VNI2
147-252
5’ - CACCATGGGTCCCACTCAGAACTGGGTACTC- 3’ (配列番号6)
5’ - TCATCTGAAACTATTGCAACTACTGGTCTC- 3’ (配列番号7)
VND7
1-146
5’ - CACCATGGATAATATAATGCAATCGTCAAT- 3’ (配列番号8)
5’ - TTACTGAACCGGGGCAAGCTCGGA- 3’ (配列番号9)
NST1
1-158
5’ - CACCATGATGTCAAAATCTATGAGCATATC- 3’ (配列番号10)
5’ - TTACTCATGAACGGTGACATCCTCGGGGGA- 3’ (配列番号11)
NST2
1-157
5’ - CACCATGAACATATCAGTAAACGGACAGTC- 3’ (配列番号12)
5’ - TTACGTTTCTACGTTGACGTCATGATCGCC- 3’ (配列番号13)
NST3
1-160
5’ - CACCATGGCTGATAATAAGGTCAATCTTTC- 3’ (配列番号14)
5’ - TCAATTAGACATTGGAGTATCGTCGAGGCG- 3’ (配列番号15)
【0031】
この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pENTR/D-TOPO-VNI2
147-252、pENTR/D-TOPO- VND7
1-146、pENTR/D-TOPO- NST1
1-158、pENTR/D-TOPO- NST2
1-157、pENTR/D-TOPO- NST3
1-160とした。また、コントロールとして、下記のMCS(Multi Cloning Site)配列をエントリークローニングした。
MCS
5’- CACCTAGTGGATCCCCCGGGCTGCAGGAATTCGATATCAA(配列番号16)
5’- CATCACGAGGTCGACGGTATCGATAAGCTTGATATCGAATTCC(配列番号17)
【0032】
次にpENTR/D-TOPO-VNI2
147-252、およびpENTR/D-TOPO-MCSはpGAL4-AD-GWRFCベクター(参考文献1)と、またpENTR/D-TOPO-MCSと残りのプラスミドはpGAL4-BD-GWRFCベクター(参考文献1)と組換え反応によりクローニングを行なった。
【0033】
(1−2)
酵母two-hybrid法によるVNI2とNST転写因子との相互作用解析
まず、出芽酵母AH109株を用いて、S.c.EasyComp
TM Transformation kit(Life Technology)によりコンピテントセルを作出した。
次に、作出したコンピテントセルに、上記(1−1)で作製したpGAL4-BD-GWRFC、およびpGAL4-AD-GWRFCにクローニングしたベクターを同時に導入し、SD Trp-Leu-培地に播き30℃で生育させることで、形質転換体を選抜した。
SD Trp-Leu-培地で生育後3日目の形質転換体をSD Trp-Leu-培地(許容培地)、およびSD Trp-Leu-His-培地(選択培地)に塗り広げ、22℃で7日間生育させた。
その結果、GAL-DB-VND7同様、GAL4-DB-NST1からGAL4-DB-NST3とGAL4-AD-VNI2を同時に発現させた酵母は、選択培地であるヒスチジン欠損培地においても生育することが明らかとなった(
図1)。
このことは、本来、道管細胞でのみ機能するVNI2は、道管細胞マスター因子であるVND7と同様に繊維細胞マスター因子であるNST1、NST2及びNST3とも結合することを示している。
【0034】
(実施例2)
一過的発現解析を用いた転写抑制因子VNI2による繊維細胞マスター因子NST1、およびNST3の機能制御の評価
(2−1)
一過的発現解析に用いるベクターの構築
VNI2のC末端側の30アミノ酸残基を欠失させたVNI2ΔC(1〜221aa、VNI2
1-221)は、全長のVNI2タンパク質よりも安定化することが知られている(非特許文献5)。
そこで、本実施例では、エフェクターコンストラクトとして、全長VNI2、NST1、NST3、およびC末端を欠失させたVNI2 (VNI2ΔC)のcDNA配列(配列番号18)を下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅し、pENTR/D-TOPOベクター(Life Technology)にエントリークローニングした。
【0035】
VNI2
5’ - CACCATGGATAATGTCAAACTTGTTAAGAA- 3’ (配列番号19)
5’ - TCATCTGAAACTATTGCAACTACTGGTCTC- 3’ (配列番号7)
NST1
5’ - CACCATGATGTCAAAATCTATGAGCATATC- 3’ (配列番号10)
5’ - TTATCCACTACCATTCGACACGTGACA- 3’ (配列番号20)
NST3
5’ - CACCATGGCTGATAATAAGGTCAATCTTTC- 3’ (配列番号14)
5’ - TCATACAGATAAATGAAGAAGTGGGTCTAA- 3’ (配列番号21)
VNI2ΔC
5’ - CACCATGGATAATGTCAAACTTGTTAAGAA- 3’ (配列番号19)
5’ - TCACGGCAAAAGGTTCAAATCTGTTGT- 3’ (配列番号22)
【0036】
この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pENTR/D-TOPO-VNI2、pENTR/D-TOPO-NST1、pENTR/D-TOPO-NST3、pENTR/D-TOPO-VNI2ΔCとした。
次に完成したプラスミド、およびpENTR/D-TOPO-MCSはpA35Gベクター(参考文献2)と組換えに反応によりクローニングを行なった。
この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pA35G-VNI2、pA35G-NST1、pA35G-NST3、pA35G-VNI2ΔC、pA35G-MCSとした。
また、レポーターコンストラクトとして、MYB46遺伝子(At5g12870)、およびIRX5遺伝子(At5g44030)の翻訳開始点より9塩基下流を含むプロモーター領域を、下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅し、pENTR/D-TOPOベクター(Life Technology)にエントリークローニングした。
【0037】
MYB46プロモーター
5’ - CACCTACACTTCTACAGTTGTTAACCTCACACTA - 3’ (配列番号23)
5’ - CTTCCTCATATTTTTGGTTGAGTTAATTGT - 3’ (配列番号24)
IRX5プロモーター
5’ - CACCATTAAGTAAGACTAAAGTAGAAATAC - 3’ (配列番号25)
5’ - TGGTTCCATGGCGAGGTACACTGAGCTCTC - 3’ (配列番号26)
【0038】
この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pENTR/D-TOPO-MYB46pro、pENTR/D-TOPO-IRX5proとした。
次に完成したプラスミド、およびpENTR/D-TOPO-MCSはpAGLベクター(参考文献2)と組換えに反応によりクローニングを行なった。この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pAGL-MYB46pro、pAGL-IRX5pro、pAGL-MCSとした。
レファレンス用プラスミドとして、pRLベクター(参考文献3)を用いた。
【0039】
(2−2)
一過的発現解析による、VNI2のNST1、およびNST3に対する作用機構の解析
上記(2−1)で作製したエフェクタープラスミドのpA35G-NST1、pA35G-NST3は120 ng、一方pA35G-VNI2、pA35G-VNI2ΔCは600 ng、さらにレポーター、レファレンスプラスミドをそれぞれ1.2 μgずつを、直径2μmのタングステン粒子1.5μgにコーティングさせた。
コーティングしたタングステン粒子は25 μlの100%エタノールで懸濁しながら、Idera GIE-III particle bombardment system (タナカ, http://www.kktanaka.co.jp/iderapage.htm)のDNAカートリッジ3個に均等に分注した。
DNAカートリッジ、および湿らせたろ紙の上にシロイヌナズナの花茎が伸長する直前の成熟したロゼット葉2枚を載せたシャーレをIdera GIE-III particle bombardment systemにセットし、真空圧力 80kPa、ヘリウム圧力320kPa、DNAカートリッジと葉の距離を6.5 cmの条件で遺伝子導入を行なった。導入後、乾燥を防ぐためシャーレのふたを閉じ、22℃暗所下で一晩静置した。余分な水分を除いた後、葉を液体窒素で凍結させ、マルチビーズショッカーで破砕した(バイオメディカルサイエンス)。
Dual-Luciferase Reporter Assay System(プロメガ)に添付されている、抽出バッファーを5倍希釈したものをそれぞれ150μlずつ加えて懸濁し、14,000 rpm×15分、4℃で遠心した。上清10μlずつを96穴プレートに分注し、Mithras LB940 Multimode Microplate Reader(ベルトールド)にセットした。
また、Dual-Luciferase Reporter Assay Systemのルシフェラーゼ基質溶液もMithras LB940 Multimode Microplate Readerのインジェクタにセットして、各サンプルのルシフェラーゼ活性を測定した。
【0040】
その結果、エフェクターとして、NST1やNST3を単独で導入することでMYB46、およびIRX5プロモーターに連結させたルシフェラーゼの発現を上昇させること、またVNI2を共発現させることでこのルシフェラーゼの発現が抑えられる結果が得られた(
図2B−D)。
一過的発現解析の結果、特にC末端領域30アミノ酸残基を欠失させたVNI2ΔCは、全長のVNI2タンパク質の場合(実施例1−2)よりも、MYB46プロモーターに対するNST3の転写活性の阻害を亢進することが明らかとなった(
図2E)。これらの結果からも、VNI2はNSTファミリーの転写制御を介した、繊維細胞の二次細胞壁量の改変に有用である可能性が示唆された。
【0041】
(実施例3)
VNI2ΔCを繊維細胞で発現させる植物体の作出
(3−1)
形質転換用ベクターpBGH-NST3pro:VNI2ΔCの構築
pBGベクターのNOSターミネーター領域(非特許文献5)をSacI/EcoRIサイトで除き、HSP-pBI221ベクター(参考文献4)よりSacI/EcoRIサイトで切り出したHSPターミネーター(配列番号34)を連結させた。この工程で完成したベクターをpBGHとした。
NST3プロモーター(配列番号27)とVNI2ΔCが連結したDNA断片を作出するために、2段階に分けてPCRを行なった。まず、NST3プロモーター、およびVNI2ΔCを下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅した。
【0042】
NST3プロモーター
5’ - CACCAATTTACCCAACAAACACTTATTTTA - 3’ (配列番号28)
5’ - TTTGACATTATCCATTAACGAAGATAGCAA - 3’ (配列番号29)
VNI2ΔC
5’ - CTATCTTCGTTAATGGATAATGTCAAACTT - 3’ (配列番号30)
5’ - TCACGGCAAAAGGTTCAAATCTGTTGT - 3’ (配列番号22)
【0043】
それぞれ増幅したDNA断片を混ぜて鋳型とし、配列番号28及び配列番号22のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅し、pENTR/D-TOPOベクター(Life Technology)にエントリークローニングした。
この工程で完成したプラスミドを、pENTR/D-TOPO-NST3pro:VNI2ΔC、とした。
次に完成したプラスミド、およびpENTR/D-TOPO-MCSはpBGHベクターと組換えに反応によりクローニングを行なった。この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pBGH-NST3pro:VNI2ΔC、pBGH-MCSとした。
【0044】
(3−2)
フローラルディップ法を用いたシロイヌナズナ形質転換
上記(3−1)で得られたpBGH-NST3pro:VNI2ΔC、pBGH-MCSプラスミドを土壌細菌アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens strain GV3101 (C58C1Rifr) pMP90(Gmr) (Koncz and Schell, MGG 1986)株にエレクトロポレーション法で導入し、LB-Spec培地で選抜した。
得られたコロニーはLB-Spec液体培地5 mlで一晩培養し、菌体を回収した。10 mlの浸潤培地に懸濁し、シロイヌナズナの開花前の花序に1〜2滴垂らして感染させた後、通常通り育成しT1種子を収穫した。その後、T1種子を2%PPM、50mg/l MgCl
2の溶液で一晩処理することで滅菌し、10mg/lのビアラフォスを含むMS選択培地に播種した。選択培地で生育した形質転換体をJiffy-7(サカタのタネ)に移替えて育成し、T2種子を収穫した。無菌処理した後、選択培地に播種したT2種子系統の中で、選択培地上で生育する個体と枯死する個体の割合が約3:1だった系統については、シングルコピー挿入系統として、Jiffy-7(サカタのタネ)に移替えて育成し、T3種子を収穫した。無菌処理した後、選択培地に播種したT3種子系統の中で、全ての個体が選択培地上で生育する系統をシングルコピーホモ挿入系統として以降の解析に用いた。
【0045】
(実施例4)
NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物の形質評価
(4−1)
NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物の形態観察
野生型(Col)、およびnst1 nst3二重変異体、確立した形質転換体系統の種子をJiffy-7に直接播種した後、長日条件下(16時間明所、8時間暗所)で約6週間育成した。その結果、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物のいくつかの系統では、nst1 nst3二重変異体と同様な花茎が自立できなくなるような表現型が観察された(
図3)。
【0046】
(4−2)
VNI2遺伝子の発現解析
野生型(Col)、およびnst1 nst3二重変異体、確立した形質転換体系統の種子をJiffy-7に直接播種した後、長日条件下(16時間明所、8時間暗所)で育成した。花茎が10 cm以上生育した個体の先端部から10 cmの長さの花茎を回収し、枝や花芽、鞘を切除した。RNAを抽出するまで-80℃で保存した。花茎2本分を1つにまとめ、マルチビーズショッカーで破砕した(バイオメディカルサイエンス)。その後、NucleoSpin RNAキット(タカラ)を用いてRNAを回収した。精製したRNAは、MultiScribe Reverse Transciptase(Life Technology)を用いて逆転写反応を行ない、cDNAを合成した。
【0047】
cDNA、およびVNI2を増幅させるオリゴヌクレオチドペア、SYBR Green Real-Time PCR Master Mix(Life Technology)のキットを混合し、ABI 7300(Life Technology)により、Real-Time PCRを行なった。UBQ10の発現量を用いて補正することで、VNI2の相対的発現量を算出した。
Real-Time PCRに用いたVNI2、およびUBQ10のプライマー配列は下記の通りである。
UBQ10
5’ - AACTTTGGTGGTTTGTGTTTTGG - 3’ (配列番号31)
5’ - TCGACTTGTCATTAGAAAGAAAGAGATAA - 3’ (配列番号32)
VNI2
5’ - CACCATGGATAATGTCAAACTTGTTAAGAA - 3’ (配列番号19)
5’ - TTGCCAGCTTCAATCATCCCTGAGTTTGAT - 3’ (配列番号33)
UBQ10の発現量を用いて補正することで、VNI2の相対的発現量を算出した。その結果、VNI2遺伝子の発現量は自立できない系統で高いことを発見した(
図4)。
【0048】
(4−3)
花茎の染色
野生型(Col)、およびnst1 nst3二重変異体、形質転換体個体それぞれの種子をJiffy-7に直接播種した後、長日条件下(16時間明所、8時間暗所)で育成した。花茎が25cm以上生育した個体の基部から1 cmの部分を回収し、FAA液で固定した。1.2%アガロース中に花茎を包埋し、マイクロスライサーZERO1(堂坂イーエム)を用いて80μmの厚さの切片を作製した。切片はフロログルシノール塩酸溶液で染色した後、顕微鏡で観察した。
その結果、nst1 nst3二重変異体の繊維細胞では、非特許文献1の記述の通り、二次細胞壁が全く形成されなかった。一方、自立できないNST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統では、野生型と比較して二次細胞壁の厚さが薄くなっているものの、明確に二次細胞壁が形成されていることが確認できた(
図5)。また、これら自立できない系統では、繊維細胞のフロログルシノール塩酸による染色性が弱かったことから、二次細胞壁を構成するリグニン量が減少していることも見て取れた。
【0049】
(4−4)
バイオマス量の計測
NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物7系統、具体的には、上記(4−3)で得られた1629-1、1629-3、1629-5、1629-8,1629-9、1629-23、1629-25の種子、及びそれぞれに対応する独立したベクターコントロール7系統、具体的には1631-11、1631-12,1631-15、1631-17、1631-21、1631-24,1631-28の種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X-100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、MS寒天培地に播種し、23℃・長日条件下で育成した。
播種後3週間で人口培養土に移植し、移植1週間後から4週間後にかけて毎週主花茎の長さを測定したところ、予想していなかったことに、移植3週間後、4週間後においてNST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべてそれぞれ約10%、6%有意に長かった(
図6)。
移植5週間後に地上部をすべて収穫し、茎生葉や花などをすべて切り落として茎を集め、下部10 cmとそれ以外に分けてその後の実験に供した。まず、細胞壁成分を抽出するため、下部10 cmおよびそれ以外を1 cm 以下の長さになるよう花茎を刻み、メタノールに浸し一晩静置した後、新しいメタノールに交換しクロロフィルを除去した。次いで、80℃で10分間煮沸し、新しいメタノールに交換した。この操作を2回繰り返した後、アセトン溶液に浸し、70℃で煮沸した後、新しいアセトン溶液に交換した。この操作を2回繰り返した後、50%クロロホルム、50%メタノール溶液に浸し70℃で煮沸した後、新しい50%クロロホルム、50%メタノール溶液に交換した。この操作を2回繰り返した後、100%エタノール溶液で2回リンスし、70℃で1晩乾燥させたものをアルコール不溶性残渣とし、重量を測定した。
【0050】
その結果、予想していなかったことに、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて個体あたりの平均重量が約26%多かった(
図7)。
このことから、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて予想外にバイオマス量が多くなるといえる。
一方で、形態や切片の観察結果から予想されたとおり、集めた花茎の下部10 cmにおける鮮重量あたりのアルコール不溶性残渣重量(細胞壁成分)は、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて減少傾向にあった(
図8)。
【0051】
(4−5)
グルコース収量の分析
前記(4−4)で収穫した茎のうち、下部10cmのアルコール不溶性残渣はシェイクマスターネオ(バイオメディカルサイエンス)を用いて2000 rpm 10分間の粉砕処理を行い、細胞壁粉末を得た。得られた細胞壁粉末を1 ミリリットルの50 mMマレイン酸、2 mM 塩化カルシウム、0.02%アジ化ナトリウム溶液に懸濁し、70℃で10分間デンプンを糊化した後、4ミリリットルの50 mMマレイン酸、2 mM 塩化カルシウム、0.02%アジ化ナトリウム溶液を加えて、室温で10分間静置した。その次に、500 U α-アミラーゼ、0.33 Uアミログルコシダーゼ、50 mMマレイン酸、2 mM 塩化カルシウム、0.02%アジ化ナトリウム溶液を1 ミリリットル加えた後、37℃で18時間、デンプンを加水分解し、除デンプンを行った。除デンプンを行った細胞壁粉末懸濁液は、蒸留水で3回、100%エタノールで2回リンスした後、70℃で1晩間乾燥させ、細胞壁精製粉末を得た。
得られた細胞壁精製粉末2 mgを2ミリリットルマイクロチューブに分取した後、1ミリリットルの5 mMクエン酸緩衝液(pH 4.8)、0.02%アジ化ナトリウム、0.4 FPU Celluclast 1.5L、0.8 CBU Novozyme 188溶液を加えて、50℃、200 rpmで24時間振盪しながら、酵素糖化反応を行い得られるグルコース量を調べた。
【0052】
その結果NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて酵素糖化性が約20%高かった(
図9左)。この結果をもとに、全花茎の酵素糖化性が下部10 cmのそれと同じであると仮定して、個体あたりのグルコース収量を計算したところ、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて約50%多くグルコースを得られると計算された(
図9右)。
この結果から、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて単位栽培面積当たりより多くのグルコースを得ることができ、バイオエタノール生産等に有利であると考えられた。
【0053】
<参考文献>
参考文献1:Yamaguchi et al. The Plant Journal, 2008, 55, 652-664
参考文献2:Endo et al. Plant Cell Physiology, 2015, 56, 242-254
参考文献3:Ohta et al. The Plant Journal 2000, 22, 29-38
参考文献4:Nagaya et al. Plant Cell Physiology, 2010, 51, 328-332