特開2016-214218(P2016-214218A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2016-214218転写抑制因子を利用した植物の二次細胞壁の量的形質を改変する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-214218(P2016-214218A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】転写抑制因子を利用した植物の二次細胞壁の量的形質を改変する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161125BHJP
   C12P 19/02 20060101ALI20161125BHJP
   A01H 5/00 20060101ALI20161125BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12P19/02
   A01H5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-106764(P2015-106764)
(22)【出願日】2015年5月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「ゼロから創製する新しい木質の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100102668
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 憲生
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100158872
【弁理士】
【氏名又は名称】牛山 直子
(72)【発明者】
【氏名】山口 雅利
(72)【発明者】
【氏名】光田 展隆
(72)【発明者】
【氏名】坂本 真吾
【テーマコード(参考)】
2B030
4B024
4B064
【Fターム(参考)】
2B030AA03
2B030AB04
2B030AD20
2B030CA14
4B024AA08
4B024BA80
4B024CA01
4B024CA11
4B024DA01
4B024EA04
4B024GA11
4B064AF02
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA11
4B064DA16
4B064DA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】木質繊維細胞の二次細胞壁の量的形質を改良し二次細胞壁形成を抑制した、木質バイオマス利活用に有用な形質転換植物の提供。
【解決手段】NST3プロモーターの制御下にあるVNI2をコードする核酸により植物を形質転換することで、木質繊維細胞の二次細胞壁形成が抑制された形質転換植物。そのことにより野生型対照と比較して成長が良くなって全バイオマス量前記形質転換植物が増大し、かつ糖化効率が高まるという木質バイオマスの利活用に有用な方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質繊維細胞の二次細胞壁形成が抑制された植物を製造するための核酸であって、繊維細胞特異的に発現を促すプロモーターの制御下にVNI転写因子をコードする核酸を含むことを特徴とする、上記核酸。
【請求項2】
繊維細胞特異的に発現を促すプロモーターが、繊維細胞内で木質形成促進作用を有するNST転写因子のプロモーターである、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
NST転写因子のプロモーターが、NST1プロモーター又はNST3プロモーターである、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
VNI転写因子がVNI2転写因子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項5】
VNI転写因子がC末側改変VNI転写因子であり、VNI転写因子のアミノ酸配列におけるC末側改変が、VNI2のC末端側1〜30アミノ酸配列に対応する領域の1以上30個までの任意のアミノ酸残基が欠失するか、又は当該領域において1〜数個のアミノ酸残基が置換、挿入もしくは付加されている改変である、請求項3又は4に記載の核酸。
【請求項6】
VNI転写因子がVNI2のC末端側1〜30アミノ酸配列の全てが欠失したVNI2ΔC(VNT21〜121)転写因子である、請求項5に記載の核酸。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の核酸、又は請求項7に記載のベクターによって形質転換されたことを特徴とする、木質繊維細胞の二次細胞壁形成が抑制された形質転換植物又はその子孫。
【請求項9】
野生型対照と比較して全バイオマス量が増大し、かつ糖化効率が高まっている、請求項8に記載の形質転換植物又はその子孫。
【請求項10】
野生型対照と比べてリグニン含量が低下している、請求項8又は9に記載の形質転換植物又はその子孫。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の植物の種子。
【請求項12】
木質繊維細胞の二次細胞壁形成が抑制された形質転換植物の作出方法であって、野生型植物又はその組織もしくは細胞を、請求項1〜6のいずれか一項に記載の核酸又は請求項7に記載のベクターで形質転換することを含む、上記方法。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の形質転換植物又はその子孫を用い、その少なくとも一部を取得して硫酸糖化処理を施す工程を含む処理が施されることを特徴とする、単糖類の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の形質転換植物又はその子孫を用い、その少なくとも一部を取得して苛性ソーダによる前処理工程、及びセルラーゼによる糖化工程を含む処理が施されることを特徴とする、グルコースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質バイオマス利活用の効率化にとって重要な植物の二次細胞壁の量的形質を、転写抑制因子を利用して制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化防止に向けた二酸化炭素削減などの要因により、カーボンニュートラルな植物由来バイオマスを原料としたバイオエタノールなどバイオ燃料が注目を集め、その生産が活発化している。特に我が国では、食糧、飼料と競合しない森林廃棄物系の木質バイオマスを活用したバイオエタノール生産への期待が高まっている。さらに、木質バイオマスから糖化処理で得られた単糖類は、バイオエタノール原料となるだけでなく、バイオプラスチックや機能性食品などのバイオマテリアル原料としても注目されている。
木質バイオマスの実体は、二次木部を構成する道管細胞や繊維細胞に形成される二次細胞壁である。二次細胞壁の大部分を占めているのが繊維細胞であることから、とりわけ繊維細胞の量的形質の改良が、木質バイオマス利活用の効率化にとってきわめて重要である。
二次細胞壁は、およそ50%のセルロース及び20〜25%のヘミセルロースとからなる多糖類と、複雑な三次元構造の芳香族ポリマーである25〜30%のリグニンとで構成されており、これらが強固に絡み合っている状態である。そのため、木質バイオマスからバイオエタノールなどバイオ燃料を得るために、セルロースなど多糖類を加水分解する糖化工程に先立ち、リグニンの絡みつきを解いて除去する前処理工程に多大な時間と費用を費やさざるを得ない。
そこで、効率よいバイオエタノール生産のためには、木質バイオマス、とりわけその主要成分の繊維細胞中のリグニン含量をできるだけ減らした植物体の作出が望まれる。
【0003】
植物体でのリグニン含量を低下させる技術開発は以前から知られており、リグニン生合成経路であるフェニルプロパノイド生合成経路に注目された技術として、当該経路で働く酵素の発現促進転写因子の機能抑制によってリグニン含有量を低減させる方法(特許文献1)、当該経路由来の複数の遺伝子による植物形質転換方法(特許文献2)が提案されている。他に、セルロース合成経路に関わる酵素を植物で発現させることで、セルロースの生合成を増強しかつリグニンの生合成を低減させる方法(特許文献3)も提案されている。
【0004】
本発明者らは以前に植物特異的な転写因子であるNACファミリー転写因子群をシロイヌナズナにおいて網羅的に機能解析する過程で、木質形成を根本的に制御する転写因子遺伝子として、NST転写因子群(NST1、NST2、NST3)を発見した(非特許文献1)。モデル実験植物シロイヌナズナのnst1 nst3二重変異体では、道管を除いて木質の繊維細胞の二次細胞壁がまったく形成されなくなる。そのような植物では結晶性の低いセルロースが一次細胞壁にしか含まれず、セルラーゼによる酵素糖化性が高まるという大きなメリットがある(特許文献4、非特許文献2)が、二次細胞壁がないために個体あたりのセルロース量は少なくなり、最終的な糖収量は減少してしまうと想定される。しかも茎の強度が大幅に低下して直立することができない。逆に、NST転写因子を植物体全体で過剰に発現させると、あらゆる細胞で異所的な木質形成が起きてしまい、植物の成長が著しく阻害されてしまう。
このように、リグニン含量を減じようとするとセルロース含量など木質バイオマス全体のバイオマス量(乾燥重量)が減少してしまう傾向が多く、繊維細胞における二次細胞壁形成をコントロールすることで、木質バイオマス全体のバイオマス量や物理的強度を必要以上に低減させることなく、リグニン含量を減少させる技術開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3444191
【特許文献2】特許第4871487
【特許文献3】特許第4880819
【特許文献4】WO2007/102346
【特許文献5】特開2009−219397号公報
【特許文献6】特開2009−240248号公報
【特許文献7】特開2014−132858号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mitsuda et al., 2007, The Plant Cell 19: 270-280
【非特許文献2】Iwase et al., 2009, Journal of Biotechnology, 142: 279-284
【非特許文献3】Kubo et al., 2005, Genes & Dev. 19: 1855-1860
【非特許文献4】Yamaguchi et al., 2007. IUFRO Tree Biotechnology Abstract SVIII.5
【非特許文献5】Yamaguchi et al., 2010, The Plant Cell, 22: 1249-1263
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、植物の二次細胞壁にとってNST転写因子は主要なマスター因子といえるものの、NST転写因子の働きを抑えすぎると木質の繊維細胞が形成できず、茎強度が大幅に低下するばかりか全バイオマス量も減少するなど、制御が困難である。
本発明においては、NST転写因子の機能を適切に制御するための技術を提供することで、木質バイオマス利活用に重要な役割を担う二次細胞壁の量的形質を改良して木質バイオマス利活用を促進し、低炭素化社会の実現に向けて貢献しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが発見したNST転写因子群(NST1、NST2、NST3)は、二次細胞壁の大部分を占める繊維細胞の木質形成を根本的に制御する転写因子である(非特許文献1)。
NST転写因子のうちでもNST1及びNST3については、nst1 nst3二重変異体などとして完全に発現を抑えてしまうと、繊維細胞での木質の形成がされずに茎強度が大幅に低下して直立することもできなってしまう(非特許文献1)。
NST転写因子は、植物特有の転写ファミリーの1つであるNAC転写因子ファミリーに属しているが、同じファミリー内の道管形成に関わるVND転写遺伝子の制御機構については本発明者らにより著しく解明が進んでおり、道管形成を任意に制御する技術開発もなされている(特許文献5,6など)。そして、道管形成誘導を正に制御する道管形成マスター因子のVND7 (Vascular-related NAC-Domain7)(非特許文献3)と相互作用し、その道管形成誘導機能を負に制御しているVNIDIP2(VND7-Interacting Protein 2, 後にVNI2に改名)が発見され、道管細胞内での両者の相互作用による道管誘導制御機構が解明された(非特許文献4)。さらに、VND7プロモーター制御下でVNI2遺伝子を植物で発現させることで道管形成を任意に抑制させることができていた(非特許文献5)。
【0009】
本発明者らは、非特許文献5において、VND7遺伝子とVNI2遺伝子との結合に際して、両者の配列を詳細に解析した結果、VND7のサブドメインIからIVまでのN末端領域(1〜146aa、VND71-146)及びVNI2のサブドメインV以降のC末端領域(147〜252aa、VNI2147-252)の領域で十分であることを見出した。そうしてみると、VND7と同じNACドメイン構造を有しているNST転写因子群に対しても、VNI2が相互作用することで繊維細胞誘導を負に制御できる可能性に思い至り、VNI2遺伝子を植物の繊維細胞で発現させることを試みた。
しかし、VNI2は専ら道管細胞内で働く転写因子であり、NST転写因子とVND転写因子とが同じファミリーに属するとはいえ、両者の配列の相同性は、全長、およびNACドメインの領域におけるアミノ酸レベルでたかだか40%、および70%程度の同一性であることから、NST転写因子との相互作用が仮に期待されるとしてもVND7転写因子とは比べものにならないほど弱いものであることが予測された。
【0010】
しかしながら、VNI2とNST転写因子との相互作用は予想外に高く、特に実際の形質転換植物でのモデル実験では、繊維細胞内でのNST転写因子への阻害効果が、本来の道管細胞内でのVND転写因子への阻害効果と同等若しくはそれ以上の効果を示した。具体的には、VNI2遺伝子をNST3プロモーター下流に繋いで繊維細胞特異的に発現させたところ、繊維細胞内でVNI2はNST転写因子の木質形成能を強く阻害し、自立できない系統も出現することが見いだされた。しかも、これら自立できない系統においても、二次細胞壁が薄くなっているものの、nst1 nst3二重変異体とは異なり二次細胞壁形成は明確に確認できた。このことは、繊維細胞内でのVNI2発現量を調整することで、望みの厚さの二次細胞壁を設計することができることを意味する。
【0011】
さらに、VNI2としてそのC末側を削除したVNI2ΔCを用いることで、VNI2タンパク質安定性が高まり、NST転写因子阻害活性が高まると共に、植物成長に好影響を与え、コントロールと比較して主茎の長さが6〜10%増加し、個体あたりの平均重量は約26%も多くなるという予想外の結果を得た。細胞壁の構成要素である多糖やリグニン由来のアルコール不溶性残渣重量は、鮮重量あたりではコントロールと比較して減少するものの、酵素糖化性が約20%も増加するため、個体あたりのグルコース収量は約50%も増加するという結果が得られ、バイオエタノール生産などの木質バイオマスの活利用において極めて有利なことを見いだした。
以上の知見を得たことから、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕 木質繊維細胞の二次細胞壁形成が抑制された植物を製造するための核酸であって、繊維細胞特異的に発現を促すプロモーターの制御下にVNI転写因子をコードする核酸を含むことを特徴とする、上記核酸。
〔2〕 繊維細胞特異的に発現を促すプロモーターが、繊維細胞内で木質形成促進作用を有するNST転写因子のプロモーターである、前記〔1〕に記載の核酸。
〔3〕 NST転写因子のプロモーターが、NST1プロモーター又はNST3プロモーターである、前記〔2〕に記載の核酸。
〔4〕 VNI転写因子がVNI2転写因子である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の核酸。
〔5〕 VNI転写因子がC末側改変VNI転写因子であり、VNI転写因子のアミノ酸配列におけるC末側改変が、VNI2のC末端側1〜30アミノ酸配列に対応する領域の1以上30個までの任意のアミノ酸残基が欠失するか、又は当該領域において1〜数個のアミノ酸残基が置換、挿入もしくは付加されている改変である、前記〔3〕又は〔4〕に記載の核酸。
〔6〕 VNI転写因子がVNI2のC末端側1〜30アミノ酸配列の全てが欠失したVNI2ΔC(VNT21〜121)転写因子である、前記〔5〕に記載の核酸。
〔7〕 前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の核酸を含むベクター。
〔8〕 前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の核酸、又は前記〔7〕に記載のベクターによって形質転換されたことを特徴とする、木質繊維細胞の二次細胞壁形成が抑制された形質転換植物又はその子孫。
〔9〕 野生型対照と比較して全バイオマス量が増大し、かつ糖化効率が高まっている、前記〔8〕に記載の形質転換植物又はその子孫。
〔10〕 野生型対照と比べてリグニン含量が低下している、前記〔8〕又は〔9〕に記載の形質転換植物又はその子孫。
〔11〕 前記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の植物の種子。
〔12〕 木質繊維細胞の二次細胞壁形成が抑制された形質転換植物の作出方法であって、野生型植物又はその組織もしくは細胞を、前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の核酸又は前記〔7〕に記載のベクターで形質転換することを含む、上記方法。
〔13〕 前記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の形質転換植物又はその子孫を用い、その少なくとも一部を取得して硫酸糖化処理を施す工程を含む処理が施されることを特徴とする、単糖類の製造方法。
〔14〕 前記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の形質転換植物又はその子孫を用い、その少なくとも一部を取得して苛性ソーダによる前処理工程、及びセルラーゼによる糖化工程を含む処理が施されることを特徴とする、グルコースの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によりVNI2転写因子を繊維細胞で発現させた形質転換植物では、薄い二次細胞壁で背の高い植物となる。モデル植物のシロイヌナズナの結果では、リグニン含量が低下しており、主茎の長さは約6〜10%増加し、個体あたりの平均重量は約26%も多くなり、個体あたりのグルコース収量が約50%も増加する。
本発明を木質バイオマス原料となる植物に適用することで、バイオエタノール生産などへ木質バイオマスの活利用が飛躍的に高まると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】酵母two-hybrid法によるVNI2とNST転写因子との相互作用解析。
図2】一過的発現解析による、VNI2のNST1及びNST3に対する作用機構の解析。(a) レポータープラスミド及びエフェクタープラスミド内の挿入遺伝子の構造。(b) VNI2との相互作用によるNST1及びNST3の転写活性の解析(MCSをレポーターとして用いた解析結果)。(c) VNI2との相互作用によるNST1及びNST3の転写活性の解析(MYB46プロモーターをレポーターとして用いた解析結果)。(d) VNI2との相互作用によるNST1及びNST3の転写活性の解析(IRX5プロモーターをレポーターとして用いた解析結果)。(e) VNI2及びVNI2ΔCとの相互作用によるNST3の転写活性の解析(MYB46プロモーターをレポーターとして用いた解析結果)。
図3】NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物の形態観察。左から、野生型、nst1 nst3二重変異体、コントロール形質転換体2系統、VNI2ΔCをNST3プロモーターで発現させた形質転換体4系統。
図4】VNI2遺伝子の発現解析。
図5】花茎の染色。自立できなかった2つの系統(1629-9及び1629-8)においても二次細胞壁の形成が確認できる。
図6】主花茎の長さ。NST3pro:VNI2ΔC導入系統では主花茎の長さが6〜10%伸びていた。
図7】アルコール不溶性残渣の個体あたりの平均重量の計測。
図8】アルコール不溶性残渣の花茎の下部10 cmにおける鮮重量あたりの重量の計測。
図9】グルコース収量。左:花茎10 cm分の酵素糖化性。右:個体あたりのグルコース量。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
1.NST転写因子について
NST転写因子(Nac Secondary Wall Thickening Promoting Factor)は、本発明者らが二次細胞壁の大部分を占める繊維細胞で働き、繊維細胞における木質形成を根本的に制御する転写因子であることを発見した転写因子であり、植物特有の転写ファミリーの1つのNAC転写因子ファミリーに属する(非特許文献1)。そのN末端側にファミリー間で保存性の高いNACドメインを持っており、ドメイン中で特に保存性の高い5つの領域はサブドメインIからVと呼ばれている。
NST転写因子の遺伝子としては、シロイヌナズナで発現するNST1〜NST3遺伝子が最初に発見されたが、他の植物でも例えばイネ由来のOsNST2遺伝子などのオーソログ遺伝子の存在が確認され、種を越えて作用することが知られており(特許文献7)、最近ポプラやトウモロコシ、ミナトカモジグサなどでも報告されている。
【0016】
しかし、本発明においてNST転写因子遺伝子というとき、二次細胞壁を構成する繊維細胞内で発現している木質形成のマスター因子が対象となるため、繊維細胞で発現していないNST2遺伝子は除かれ、シロイヌナズナ由来のNST1及びNST3遺伝子の他、OsNST2遺伝子など他の植物の繊維細胞内で木質形成に関わるオーソログ遺伝子も含むものである。
【0017】
2.VNI2転写因子について
VNI(VND-Interacting)転写因子もまた本発明者らが発見したNAC転写因子ファミリーに属する転写因子であって、植物の木部道管の分化、形成を制御するマスター因子であるVND(Vascular-Related NAC-Domain)転写因子と相互作用する因子として単離された。シロイヌナズナからは、VNI1及びVNI2が見いだされており、中でもVNI2は、木部道管細胞内でのVND転写因子の形成を抑制する働きをすることが見いだされた(非特許文献5)。
VNI2のオーソログはポプラにも存在することが知られている。
さらに、このVNI2転写因子のアミノ酸配列において、C末端側の一部配列、具体的にはC末端側1〜30アミノ酸配列の1以上30個までの任意のアミノ酸残基が欠失する場合、又は当該アミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸残基が置換、挿入もしくは付加された場合であって、かつもとのVNI2転写因子と同様に繊維細胞内のNST転写因子機能阻害活性を有する場合も含む。ここで、数個とは、2〜30個、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜5個を指す。このような、C末側のアミノ酸配列の一部が欠失又は置換、挿入、付加された改変VNI2転写因子を、本発明では「C末側改変VNI2転写因子」ということもある。
「C末側改変VNI2転写因子」のうちでも特に、VNT2のC末端側1〜30アミノ酸配列の全てを欠失させたVNT2ΔC(VNT21-121)又はそのオーソログが、タンパク質安定性が高く、かつ阻害活性も高い。
【0018】
3.本発明におけるVNI転写因子による二次細胞壁形成の制御方法
(3−1)繊維細胞で特異的に発現するプロモーター
本発明は、本来道管細胞で働くVNI2転写因子を、繊維細胞で特異的に発現させることで、繊維細胞内で恒常的に働いているNST転写因子に対して相互作用を起こさせ、NST転写因子の働きのみを効率的に抑制しようとする技術である。したがって、繊維細胞内で特異的に制御下の遺伝子を働かせるプロモーターが必須となる。
そのような繊維細胞特異的プロモーターとしては、繊維細胞内で特異的に発現している遺伝子制御配列であれば、どのような遺伝子由来でもよいが、典型的には、上記NST1及びNST3およびそのオーソログ遺伝子のプロモーターである(特許文献1など)。NST3遺伝子由来のプロモーター(配列番号27)は、繊維細胞で高い発現を促す作用が知られており(非特許文献1)特に好ましい。
【0019】
(3−2)VNI2転写因子が繊維細胞で発現する形質転換植物の作出方法
本発明において、VNI2転写因子が繊維細胞で特異的に発現する形質転換植物を作出するためには、VNI2転写因子をコードする核酸をNST3プロモーターなど繊維細胞で特異的に発現するプロモーター配列の下流に繋ぐ必要がある。また、その3’末端側にはターミネーターを連結させることが好ましい。その際のターミネーターとしては、植物細胞内で働く既知のターミネーターであればどのようなターミネーターでも良い。例えば、NOSターミネーター、又は転写蓄積量を高める働きを持つことが知られているHSP18.2ターミネーター(配列番号34:参考文献4)などが好ましく用いられる。
【0020】
当該核酸を植物における形質転換に適したバイナリーベクターなどを用い、既知の植物形質転換法により植物に導入する。得られた形質転換植物では、NST3のプロモーター制御下にあるVNI転写因子は繊維細胞内で特異的に発現し、繊維細胞内で働くNST転写因子の木質形成機能を抑制する作用を示す。
【0021】
本発明の前記核酸又はそれを含む組換えベクターを植物中に導入する方法としては、アグロバクテリウム法が典型的であるが、PEG-リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法、ウイルスベクター法、フローラルディップ法(Clough et al., 1988, Plant J., 16, 735-743)、リーフディスク法等が適用できる。
【0022】
(3−3)対象となる植物の種類
本発明において対象となる植物は、イモ類、豆類、ナス科類などの双子葉植物の他、単子葉植物、裸子植物、樹木など植物一般に適用できる。特にバイオマス資源の観点からは、ポプラ、ユーカリ、アカシアなどの双子葉木本植物が好ましい。ただし、本発明は、これらの植物に限定されるものではなく、ミスカンザス、エリアンサス、ダンチク、ソルガム、ススキなどの単子葉エネルギー植物の育種一般にも適用できる。
【0023】
4.本発明における形質転換植物の形質的特徴
本発明の植物細胞又は植物は、その繊維細胞内で本発明のVNI2転写因子をコードする核酸が発現しており、これによって二次細胞壁の厚みが薄くなり、リグニン量が低下して糖化効率が高まっていることを特徴とする。また、形質転換植物は成長が早く、野生型よりも花茎が高い傾向がある。
【0024】
二次細胞壁の厚みの変化は、例えば透過型電子顕微鏡を用いて細胞を観察することによって行うことができる。該当細胞の二次細胞壁についてはフロログルシノール塩酸により染色することで、二次細胞壁の厚さだけでなくリグニン量が変化についても通常の顕微鏡で観察できる。リグニン量の増減は、サフラニンによる染色で発する蛍光を共焦点顕微鏡で観察してもよく、また該当細胞の二次細胞壁は微分干渉顕微鏡で強調される。なお、草本植物の場合は目視により自立性を観察することによって、二次細胞壁の厚み及び成長の早さは簡単に判別できる。
【0025】
5.本発明の植物の木質バイオマスとしての利用
(5−1)バイオマス成分の抽出
本発明により得られた植物の全部又は地上部分を収穫後、適宜の大きさに裁断し、煮沸工程を含む有機溶媒処理により、有機溶媒不溶性残渣をバイオマス成分(細胞壁成分)として採取することができる。
この工程は省略することができ、直ちに植物を乾燥させたものをバイオマス成分としても良い。
【0026】
(5−2)硫酸糖化処理による単糖類の製造
「硫酸糖化処理」は、バイオマス成分から大半の中性糖を抽出するための周知の手法であり、硫酸存在下で加熱炭化した後加水分解して単糖類を取得し、バイオエタノールなどの原料とする。
得られた形質転換植物の花茎の下部10cmを取得して細胞壁精製粉末を得た後、硫酸糖化処理を行い、鮮重量あたりで得られるグルコース量を比較する。
【0027】
(5−3)「苛性ソーダ前処理+セルラーゼ糖化」によるグルコースの製造
バイオエタノール生産のための一般的な方法として「苛性ソーダ前処理+セルラーゼ糖化」法が周知であり、具体的には細胞壁成分を苛性ソーダ処理によってリグニンを除去した残渣に対してセルラーゼによる酵素糖化反応を施す。
この酵素糖化で得られるグルコース含有溶液は、酵母を添加することでバイオエタノール原料となる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を示し、本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学的技術はJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., DNA Cloning, 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995)などに記載の方法により、またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
本発明で使用する各種蛋白質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.arabidopsis.org/またはhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=pubmed等)から入手することができる。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0029】
(実施例1)転写抑制因子VNI2と繊維細胞マスター因子NSTとの結合能の評価
(1−1)酵母Two-hybrid法に用いるベクターの構築
転写因子VND7(配列番号1)のサブドメインIからV(1〜146aa、VND71-146)のN末端領域と共に、VND転写因子群と共通のNACドメイン構造を有するNST転写因子群に属する転写因子NST1(配列番号2)、NST2(配列番号3)及びNST3(配列番号4)について、当該N末端領域に対応するNST1(1〜158aa、NST11-158)、NST2(1〜157aa、NST21-157)、NST3(1〜160aa、NST31-160)のN末端領域を、VNI2(配列番号5)のサブドメインV以降のC末端領域(147〜252aa、VNI2147-252)のcDNA配列を下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅した。それぞれのcDNAを、pENTR/D-TOPOベクター(Life Technology)にエントリークローニングした。
【0030】
VNI2147-252
5’ - CACCATGGGTCCCACTCAGAACTGGGTACTC- 3’ (配列番号6)
5’ - TCATCTGAAACTATTGCAACTACTGGTCTC- 3’ (配列番号7)
VND71-146
5’ - CACCATGGATAATATAATGCAATCGTCAAT- 3’ (配列番号8)
5’ - TTACTGAACCGGGGCAAGCTCGGA- 3’ (配列番号9)
NST11-158
5’ - CACCATGATGTCAAAATCTATGAGCATATC- 3’ (配列番号10)
5’ - TTACTCATGAACGGTGACATCCTCGGGGGA- 3’ (配列番号11)
NST21-157
5’ - CACCATGAACATATCAGTAAACGGACAGTC- 3’ (配列番号12)
5’ - TTACGTTTCTACGTTGACGTCATGATCGCC- 3’ (配列番号13)
NST31-160
5’ - CACCATGGCTGATAATAAGGTCAATCTTTC- 3’ (配列番号14)
5’ - TCAATTAGACATTGGAGTATCGTCGAGGCG- 3’ (配列番号15)
【0031】
この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pENTR/D-TOPO-VNI2147-252、pENTR/D-TOPO- VND71-146、pENTR/D-TOPO- NST11-158、pENTR/D-TOPO- NST21-157、pENTR/D-TOPO- NST31-160とした。また、コントロールとして、下記のMCS(Multi Cloning Site)配列をエントリークローニングした。
MCS
5’- CACCTAGTGGATCCCCCGGGCTGCAGGAATTCGATATCAA(配列番号16)
5’- CATCACGAGGTCGACGGTATCGATAAGCTTGATATCGAATTCC(配列番号17)
【0032】
次にpENTR/D-TOPO-VNI2147-252、およびpENTR/D-TOPO-MCSはpGAL4-AD-GWRFCベクター(参考文献1)と、またpENTR/D-TOPO-MCSと残りのプラスミドはpGAL4-BD-GWRFCベクター(参考文献1)と組換え反応によりクローニングを行なった。
【0033】
(1−2)酵母two-hybrid法によるVNI2とNST転写因子との相互作用解析
まず、出芽酵母AH109株を用いて、S.c.EasyCompTM Transformation kit(Life Technology)によりコンピテントセルを作出した。
次に、作出したコンピテントセルに、上記(1−1)で作製したpGAL4-BD-GWRFC、およびpGAL4-AD-GWRFCにクローニングしたベクターを同時に導入し、SD Trp-Leu-培地に播き30℃で生育させることで、形質転換体を選抜した。
SD Trp-Leu-培地で生育後3日目の形質転換体をSD Trp-Leu-培地(許容培地)、およびSD Trp-Leu-His-培地(選択培地)に塗り広げ、22℃で7日間生育させた。
その結果、GAL-DB-VND7同様、GAL4-DB-NST1からGAL4-DB-NST3とGAL4-AD-VNI2を同時に発現させた酵母は、選択培地であるヒスチジン欠損培地においても生育することが明らかとなった(図1)。
このことは、本来、道管細胞でのみ機能するVNI2は、道管細胞マスター因子であるVND7と同様に繊維細胞マスター因子であるNST1、NST2及びNST3とも結合することを示している。
【0034】
(実施例2)一過的発現解析を用いた転写抑制因子VNI2による繊維細胞マスター因子NST1、およびNST3の機能制御の評価
(2−1)一過的発現解析に用いるベクターの構築
VNI2のC末端側の30アミノ酸残基を欠失させたVNI2ΔC(1〜221aa、VNI21-221)は、全長のVNI2タンパク質よりも安定化することが知られている(非特許文献5)。
そこで、本実施例では、エフェクターコンストラクトとして、全長VNI2、NST1、NST3、およびC末端を欠失させたVNI2 (VNI2ΔC)のcDNA配列(配列番号18)を下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅し、pENTR/D-TOPOベクター(Life Technology)にエントリークローニングした。
【0035】
VNI2
5’ - CACCATGGATAATGTCAAACTTGTTAAGAA- 3’ (配列番号19)
5’ - TCATCTGAAACTATTGCAACTACTGGTCTC- 3’ (配列番号7)
NST1
5’ - CACCATGATGTCAAAATCTATGAGCATATC- 3’ (配列番号10)
5’ - TTATCCACTACCATTCGACACGTGACA- 3’ (配列番号20)
NST3
5’ - CACCATGGCTGATAATAAGGTCAATCTTTC- 3’ (配列番号14)
5’ - TCATACAGATAAATGAAGAAGTGGGTCTAA- 3’ (配列番号21)
VNI2ΔC
5’ - CACCATGGATAATGTCAAACTTGTTAAGAA- 3’ (配列番号19)
5’ - TCACGGCAAAAGGTTCAAATCTGTTGT- 3’ (配列番号22)
【0036】
この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pENTR/D-TOPO-VNI2、pENTR/D-TOPO-NST1、pENTR/D-TOPO-NST3、pENTR/D-TOPO-VNI2ΔCとした。
次に完成したプラスミド、およびpENTR/D-TOPO-MCSはpA35Gベクター(参考文献2)と組換えに反応によりクローニングを行なった。
この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pA35G-VNI2、pA35G-NST1、pA35G-NST3、pA35G-VNI2ΔC、pA35G-MCSとした。
また、レポーターコンストラクトとして、MYB46遺伝子(At5g12870)、およびIRX5遺伝子(At5g44030)の翻訳開始点より9塩基下流を含むプロモーター領域を、下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅し、pENTR/D-TOPOベクター(Life Technology)にエントリークローニングした。
【0037】
MYB46プロモーター
5’ - CACCTACACTTCTACAGTTGTTAACCTCACACTA - 3’ (配列番号23)
5’ - CTTCCTCATATTTTTGGTTGAGTTAATTGT - 3’ (配列番号24)
IRX5プロモーター
5’ - CACCATTAAGTAAGACTAAAGTAGAAATAC - 3’ (配列番号25)
5’ - TGGTTCCATGGCGAGGTACACTGAGCTCTC - 3’ (配列番号26)
【0038】
この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pENTR/D-TOPO-MYB46pro、pENTR/D-TOPO-IRX5proとした。
次に完成したプラスミド、およびpENTR/D-TOPO-MCSはpAGLベクター(参考文献2)と組換えに反応によりクローニングを行なった。この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pAGL-MYB46pro、pAGL-IRX5pro、pAGL-MCSとした。
レファレンス用プラスミドとして、pRLベクター(参考文献3)を用いた。
【0039】
(2−2)一過的発現解析による、VNI2のNST1、およびNST3に対する作用機構の解析
上記(2−1)で作製したエフェクタープラスミドのpA35G-NST1、pA35G-NST3は120 ng、一方pA35G-VNI2、pA35G-VNI2ΔCは600 ng、さらにレポーター、レファレンスプラスミドをそれぞれ1.2 μgずつを、直径2μmのタングステン粒子1.5μgにコーティングさせた。
コーティングしたタングステン粒子は25 μlの100%エタノールで懸濁しながら、Idera GIE-III particle bombardment system (タナカ, http://www.kktanaka.co.jp/iderapage.htm)のDNAカートリッジ3個に均等に分注した。
DNAカートリッジ、および湿らせたろ紙の上にシロイヌナズナの花茎が伸長する直前の成熟したロゼット葉2枚を載せたシャーレをIdera GIE-III particle bombardment systemにセットし、真空圧力 80kPa、ヘリウム圧力320kPa、DNAカートリッジと葉の距離を6.5 cmの条件で遺伝子導入を行なった。導入後、乾燥を防ぐためシャーレのふたを閉じ、22℃暗所下で一晩静置した。余分な水分を除いた後、葉を液体窒素で凍結させ、マルチビーズショッカーで破砕した(バイオメディカルサイエンス)。
Dual-Luciferase Reporter Assay System(プロメガ)に添付されている、抽出バッファーを5倍希釈したものをそれぞれ150μlずつ加えて懸濁し、14,000 rpm×15分、4℃で遠心した。上清10μlずつを96穴プレートに分注し、Mithras LB940 Multimode Microplate Reader(ベルトールド)にセットした。
また、Dual-Luciferase Reporter Assay Systemのルシフェラーゼ基質溶液もMithras LB940 Multimode Microplate Readerのインジェクタにセットして、各サンプルのルシフェラーゼ活性を測定した。
【0040】
その結果、エフェクターとして、NST1やNST3を単独で導入することでMYB46、およびIRX5プロモーターに連結させたルシフェラーゼの発現を上昇させること、またVNI2を共発現させることでこのルシフェラーゼの発現が抑えられる結果が得られた(図2B−D)。
一過的発現解析の結果、特にC末端領域30アミノ酸残基を欠失させたVNI2ΔCは、全長のVNI2タンパク質の場合(実施例1−2)よりも、MYB46プロモーターに対するNST3の転写活性の阻害を亢進することが明らかとなった(図2E)。これらの結果からも、VNI2はNSTファミリーの転写制御を介した、繊維細胞の二次細胞壁量の改変に有用である可能性が示唆された。
【0041】
(実施例3)VNI2ΔCを繊維細胞で発現させる植物体の作出
(3−1)形質転換用ベクターpBGH-NST3pro:VNI2ΔCの構築
pBGベクターのNOSターミネーター領域(非特許文献5)をSacI/EcoRIサイトで除き、HSP-pBI221ベクター(参考文献4)よりSacI/EcoRIサイトで切り出したHSPターミネーター(配列番号34)を連結させた。この工程で完成したベクターをpBGHとした。
NST3プロモーター(配列番号27)とVNI2ΔCが連結したDNA断片を作出するために、2段階に分けてPCRを行なった。まず、NST3プロモーター、およびVNI2ΔCを下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅した。
【0042】
NST3プロモーター
5’ - CACCAATTTACCCAACAAACACTTATTTTA - 3’ (配列番号28)
5’ - TTTGACATTATCCATTAACGAAGATAGCAA - 3’ (配列番号29)
VNI2ΔC
5’ - CTATCTTCGTTAATGGATAATGTCAAACTT - 3’ (配列番号30)
5’ - TCACGGCAAAAGGTTCAAATCTGTTGT - 3’ (配列番号22)
【0043】
それぞれ増幅したDNA断片を混ぜて鋳型とし、配列番号28及び配列番号22のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅し、pENTR/D-TOPOベクター(Life Technology)にエントリークローニングした。
この工程で完成したプラスミドを、pENTR/D-TOPO-NST3pro:VNI2ΔC、とした。
次に完成したプラスミド、およびpENTR/D-TOPO-MCSはpBGHベクターと組換えに反応によりクローニングを行なった。この工程で完成したプラスミドをそれぞれ、pBGH-NST3pro:VNI2ΔC、pBGH-MCSとした。
【0044】
(3−2)フローラルディップ法を用いたシロイヌナズナ形質転換
上記(3−1)で得られたpBGH-NST3pro:VNI2ΔC、pBGH-MCSプラスミドを土壌細菌アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens strain GV3101 (C58C1Rifr) pMP90(Gmr) (Koncz and Schell, MGG 1986)株にエレクトロポレーション法で導入し、LB-Spec培地で選抜した。
得られたコロニーはLB-Spec液体培地5 mlで一晩培養し、菌体を回収した。10 mlの浸潤培地に懸濁し、シロイヌナズナの開花前の花序に1〜2滴垂らして感染させた後、通常通り育成しT1種子を収穫した。その後、T1種子を2%PPM、50mg/l MgCl2の溶液で一晩処理することで滅菌し、10mg/lのビアラフォスを含むMS選択培地に播種した。選択培地で生育した形質転換体をJiffy-7(サカタのタネ)に移替えて育成し、T2種子を収穫した。無菌処理した後、選択培地に播種したT2種子系統の中で、選択培地上で生育する個体と枯死する個体の割合が約3:1だった系統については、シングルコピー挿入系統として、Jiffy-7(サカタのタネ)に移替えて育成し、T3種子を収穫した。無菌処理した後、選択培地に播種したT3種子系統の中で、全ての個体が選択培地上で生育する系統をシングルコピーホモ挿入系統として以降の解析に用いた。
【0045】
(実施例4)NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物の形質評価
(4−1)NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物の形態観察
野生型(Col)、およびnst1 nst3二重変異体、確立した形質転換体系統の種子をJiffy-7に直接播種した後、長日条件下(16時間明所、8時間暗所)で約6週間育成した。その結果、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物のいくつかの系統では、nst1 nst3二重変異体と同様な花茎が自立できなくなるような表現型が観察された(図3)。
【0046】
(4−2)VNI2遺伝子の発現解析
野生型(Col)、およびnst1 nst3二重変異体、確立した形質転換体系統の種子をJiffy-7に直接播種した後、長日条件下(16時間明所、8時間暗所)で育成した。花茎が10 cm以上生育した個体の先端部から10 cmの長さの花茎を回収し、枝や花芽、鞘を切除した。RNAを抽出するまで-80℃で保存した。花茎2本分を1つにまとめ、マルチビーズショッカーで破砕した(バイオメディカルサイエンス)。その後、NucleoSpin RNAキット(タカラ)を用いてRNAを回収した。精製したRNAは、MultiScribe Reverse Transciptase(Life Technology)を用いて逆転写反応を行ない、cDNAを合成した。
【0047】
cDNA、およびVNI2を増幅させるオリゴヌクレオチドペア、SYBR Green Real-Time PCR Master Mix(Life Technology)のキットを混合し、ABI 7300(Life Technology)により、Real-Time PCRを行なった。UBQ10の発現量を用いて補正することで、VNI2の相対的発現量を算出した。
Real-Time PCRに用いたVNI2、およびUBQ10のプライマー配列は下記の通りである。
UBQ10
5’ - AACTTTGGTGGTTTGTGTTTTGG - 3’ (配列番号31)
5’ - TCGACTTGTCATTAGAAAGAAAGAGATAA - 3’ (配列番号32)
VNI2
5’ - CACCATGGATAATGTCAAACTTGTTAAGAA - 3’ (配列番号19)
5’ - TTGCCAGCTTCAATCATCCCTGAGTTTGAT - 3’ (配列番号33)
UBQ10の発現量を用いて補正することで、VNI2の相対的発現量を算出した。その結果、VNI2遺伝子の発現量は自立できない系統で高いことを発見した(図4)。
【0048】
(4−3)花茎の染色
野生型(Col)、およびnst1 nst3二重変異体、形質転換体個体それぞれの種子をJiffy-7に直接播種した後、長日条件下(16時間明所、8時間暗所)で育成した。花茎が25cm以上生育した個体の基部から1 cmの部分を回収し、FAA液で固定した。1.2%アガロース中に花茎を包埋し、マイクロスライサーZERO1(堂坂イーエム)を用いて80μmの厚さの切片を作製した。切片はフロログルシノール塩酸溶液で染色した後、顕微鏡で観察した。
その結果、nst1 nst3二重変異体の繊維細胞では、非特許文献1の記述の通り、二次細胞壁が全く形成されなかった。一方、自立できないNST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統では、野生型と比較して二次細胞壁の厚さが薄くなっているものの、明確に二次細胞壁が形成されていることが確認できた(図5)。また、これら自立できない系統では、繊維細胞のフロログルシノール塩酸による染色性が弱かったことから、二次細胞壁を構成するリグニン量が減少していることも見て取れた。
【0049】
(4−4)バイオマス量の計測
NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物7系統、具体的には、上記(4−3)で得られた1629-1、1629-3、1629-5、1629-8,1629-9、1629-23、1629-25の種子、及びそれぞれに対応する独立したベクターコントロール7系統、具体的には1631-11、1631-12,1631-15、1631-17、1631-21、1631-24,1631-28の種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X-100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、MS寒天培地に播種し、23℃・長日条件下で育成した。
播種後3週間で人口培養土に移植し、移植1週間後から4週間後にかけて毎週主花茎の長さを測定したところ、予想していなかったことに、移植3週間後、4週間後においてNST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべてそれぞれ約10%、6%有意に長かった(図6)。
移植5週間後に地上部をすべて収穫し、茎生葉や花などをすべて切り落として茎を集め、下部10 cmとそれ以外に分けてその後の実験に供した。まず、細胞壁成分を抽出するため、下部10 cmおよびそれ以外を1 cm 以下の長さになるよう花茎を刻み、メタノールに浸し一晩静置した後、新しいメタノールに交換しクロロフィルを除去した。次いで、80℃で10分間煮沸し、新しいメタノールに交換した。この操作を2回繰り返した後、アセトン溶液に浸し、70℃で煮沸した後、新しいアセトン溶液に交換した。この操作を2回繰り返した後、50%クロロホルム、50%メタノール溶液に浸し70℃で煮沸した後、新しい50%クロロホルム、50%メタノール溶液に交換した。この操作を2回繰り返した後、100%エタノール溶液で2回リンスし、70℃で1晩乾燥させたものをアルコール不溶性残渣とし、重量を測定した。
【0050】
その結果、予想していなかったことに、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて個体あたりの平均重量が約26%多かった(図7)。
このことから、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて予想外にバイオマス量が多くなるといえる。
一方で、形態や切片の観察結果から予想されたとおり、集めた花茎の下部10 cmにおける鮮重量あたりのアルコール不溶性残渣重量(細胞壁成分)は、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて減少傾向にあった(図8)。
【0051】
(4−5)グルコース収量の分析
前記(4−4)で収穫した茎のうち、下部10cmのアルコール不溶性残渣はシェイクマスターネオ(バイオメディカルサイエンス)を用いて2000 rpm 10分間の粉砕処理を行い、細胞壁粉末を得た。得られた細胞壁粉末を1 ミリリットルの50 mMマレイン酸、2 mM 塩化カルシウム、0.02%アジ化ナトリウム溶液に懸濁し、70℃で10分間デンプンを糊化した後、4ミリリットルの50 mMマレイン酸、2 mM 塩化カルシウム、0.02%アジ化ナトリウム溶液を加えて、室温で10分間静置した。その次に、500 U α-アミラーゼ、0.33 Uアミログルコシダーゼ、50 mMマレイン酸、2 mM 塩化カルシウム、0.02%アジ化ナトリウム溶液を1 ミリリットル加えた後、37℃で18時間、デンプンを加水分解し、除デンプンを行った。除デンプンを行った細胞壁粉末懸濁液は、蒸留水で3回、100%エタノールで2回リンスした後、70℃で1晩間乾燥させ、細胞壁精製粉末を得た。
得られた細胞壁精製粉末2 mgを2ミリリットルマイクロチューブに分取した後、1ミリリットルの5 mMクエン酸緩衝液(pH 4.8)、0.02%アジ化ナトリウム、0.4 FPU Celluclast 1.5L、0.8 CBU Novozyme 188溶液を加えて、50℃、200 rpmで24時間振盪しながら、酵素糖化反応を行い得られるグルコース量を調べた。
【0052】
その結果NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて酵素糖化性が約20%高かった(図9左)。この結果をもとに、全花茎の酵素糖化性が下部10 cmのそれと同じであると仮定して、個体あたりのグルコース収量を計算したところ、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて約50%多くグルコースを得られると計算された(図9右)。
この結果から、NST3pro:VNI2ΔCシロイヌナズナ植物系統はベクターコントロール系統にくらべて単位栽培面積当たりより多くのグルコースを得ることができ、バイオエタノール生産等に有利であると考えられた。
【0053】
<参考文献>
参考文献1:Yamaguchi et al. The Plant Journal, 2008, 55, 652-664
参考文献2:Endo et al. Plant Cell Physiology, 2015, 56, 242-254
参考文献3:Ohta et al. The Plant Journal 2000, 22, 29-38
参考文献4:Nagaya et al. Plant Cell Physiology, 2010, 51, 328-332
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]