【解決手段】すなわち、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、或いは前記配列中に変異を有するアミノ酸配列を含む、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質;前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含むベクター;前記ポリヌクレオチド又は前記ベクターを含む形質転換体;前記タンパク質、前記ポリヌクレオチド、前記形質転換体の用途、を提供する。
請求項7に記載の形質転換体において前記ポリヌクレオチドを発現させて、産生されたタンパク質を採取することを含む、請求項1又は請求項3に記載のタンパク質の生産方法。
請求項2及び/又は請求項4に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを作製すること、前記ベクターを植物器官、植物組織又は植物細胞に導入し形質転換体を得ること、並びに前記形質転換体から植物体を生育させること、を含むスギ花粉の免疫原性を有する植物体の作出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3及び特許文献4に記載のペプチドは、すべてのスギ花粉症患者に対し効果を奏するものではない点で花粉症治療効果が充分とはいえなかった。
【0008】
本発明は、ほぼすべての患者に優れたスギ花粉治療効果を奏し、また食品としての摂取が可能なタンパク質の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、スギ花粉アレルゲンCryj1及びCryj2のアミノ酸配列に着目し、それぞれの改変を試みた。その結果、それぞれに特定の改変を加えて得られるアミノ酸配列を含むタンパク質は、スギ花粉の免疫原性を維持しながらも、スギ花粉抗原とは相異なる立体構造を有するのでIgEとの結合性が低減され、安全性が高いことを見出した。さらに、前記タンパク質をコードする遺伝的情報の解析も行い、前記タンパク質及び前記タンパク質を含む植物体の大量生産も実現可能であることを見出した。本発明は係る知見に基づくものである。
【0010】
〔1〕以下の(A)〜(C)からなる群より選ばれるタンパク質。
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
〔2〕以下の(a)〜(c)からなる群より選ばれるポリヌクレオチド。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
〔3〕 以下の(D)〜(F)からなる群より選ばれるタンパク質。
(D)配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(E)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(F)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
〔4〕 以下の(d)〜(f)からなる群より選ばれるポリヌクレオチド。
(d)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(e)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
〔5〕 以下の(p)〜(r)からなる群より選ばれる、上記〔4〕に記載のポリヌクレオチド。
(p)配列番号5に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(q)配列番号6〜8のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(r)配列番号5に記載の塩基配列、及び配列番号6〜8のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
〔6〕 上記〔2〕、〔4〕及び〔5〕のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
〔7〕 上記〔2〕、〔4〕及び〔5〕のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、もしくは〔6〕に記載のベクターが導入された形質転換体。
〔8〕 前記形質転換体が、植物である上記〔7〕に記載の形質転換体。
〔9〕 前記形質転換体が、イネ科植物である上記〔7〕に記載の形質転換体。
〔10〕 上記〔7〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の形質転換体において前記ポリヌクレオチドを発現させて、産生されたタンパク質を採取することを含む、上記〔1〕又は〔3〕に記載のタンパク質の生産方法。
〔11〕 上記〔2〕、〔4〕及び〔5〕のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを植物に導入することにより、植物にスギ花粉の免疫原性を付与する方法。
〔12〕 上記〔2〕、〔4〕及び〔5〕のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを作製すること、前記ベクターを植物器官、植物組織又は植物細胞に導入し形質転換体を得ること、並びに前記形質転換体から植物体を生育させること、を含むスギ花粉の免疫原性を有する植物体の作出方法。
〔13〕 上記〔1〕又は〔3〕に記載のタンパク質及び上記〔7〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の形質転換体から選ばれる1又は2以上を有効成分として含むスギ花粉症の治療又は予防剤。
〔14〕 上記〔1〕又は〔3〕に記載のタンパク質及び上記〔7〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の形質転換体から選ばれる1又は2以上をヒトに投与する、スギ花粉症の治療又は予防方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により提供されるスギ花粉の免疫原性を有するタンパク質は、スギ花粉症患者のほぼすべてにおいて、スギ花粉の免疫原性を発揮するにもかかわらず花粉特異的IgE抗体との結合性が低く、生体においてアナフィラキシー反応を引き起こすことがない可能性が低い。Cryj1及びCryj2に対し、スギ花粉症患者のほぼ全員が免疫原性を示すことから、本発明のタンパク質は、スギ花粉症患者を網羅するスギ花粉症治療又は予防剤として有用であるといえる。よって、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質は、それ自体、或いは、これを含む植物体などとして、スギ花粉症の治療に有用である。
【0012】
また、本発明によりスギ花粉の免疫原性を有するタンパク質の遺伝的情報が提供されるので、これを元にスギ花粉の免疫原性を有するタンパク質の大量生産、該タンパク質を含む形質転換体の大量生産、該形質転換体の子孫(イネなど)の大量生産も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタンパク質は、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質である。スギ花粉の免疫原性とは、スギ花粉抗原特異的T細胞により抗原として認識されることを意味し、スギ花粉アレルゲンが備える性質である。スギ花粉アレルゲンには、Cryj1及びCryj2がある。本発明のタンパク質はこのようなスギ花粉の免疫原性を有するものであり、その活性はCryj1及びCryj2のいずれか、或いは両方が奏する免疫原性と同等であることが好ましい。
【0015】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質としては、例えば、(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げ得る。配列番号1に示されるアミノ酸配列は、スギ花粉アレルゲンCryj2のアミノ酸配列のシャッフリングにより設計されたものである。すなわち、Cryj2のアミノ酸配列のN末端側から数えて、93−388番目の部分、59−92番目の部分及び1−58番目の部分をこの順に連結したものである。(A)タンパク質は、スギ花粉の免疫原性を有し、好ましくはCryj2と同等の免疫原性を有する。
【0016】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質としてはまた、例えば、(D)配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列から選ばれる1又は2以上を含むタンパク質も挙げ得る。配列番号2〜4のそれぞれに示されるアミノ酸配列は、Cryj1を3断片化して設計されたものである。すなわち、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、Cryj1のアミノ酸配列の、N末端側から数えて1−144番目の部分に相当する。配列番号3に示されるアミノ酸配列は、Cryj1のアミノ酸配列のN末端側から数えて126−257番目の部分に相当する。配列番号4に示されるアミノ酸配列は、Cryj1のアミノ酸配列のN末端側から数えて231−353番目の部分に相当する。(D)タンパク質は、スギ花粉の免疫原性を有し、好ましくはCryj1と同等の免疫原性を有する。
【0017】
(D)タンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列、配列番号3に示されるアミノ酸配列及び配列番号4に示されるアミノ酸配列のうちのいずれかを有していればよいが、これらの2つ以上を組み合わせて有していてもよく、全てを有することが好ましい。2つ以上のアミノ酸配列を有する場合の連結の順番は特に限定されないが、3つ全てを有する場合には、配列番号3に示されるアミノ酸配列、配列番号2に示されるアミノ酸配列及び配列番号4に示されるアミノ酸配列の順序で連結していることが好ましい。
【0018】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質としてはさらに、例えば、(G)配列番号1に示されるアミノ酸配列、及び配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質も挙げ得る。(G)タンパク質は、スギ花粉の免疫原性を有し、好ましくはCryj1及びCryj2と同等の免疫原性を有する。(G)タンパク質においては、配列番号1に示されるアミノ酸配列のほかに、配列番号2に示されるアミノ酸配列、配列番号3に示されるアミノ酸配列、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列から選ばれる1又は2以上のアミノ酸配列を含んでいればよく、好ましくは配列番号2〜4に示されるすべてのアミノ酸配列を含むものである。
【0019】
(G)タンパク質において、配列番号1に示されるアミノ酸配列、及び配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列、のそれぞれの連結の順序に制限はないが、N末端側から、配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列、配列番号1に示されるアミノ酸配列、の順に連結していることが好ましい。また、(G)タンパク質において、配列番号2〜4に示されるすべてのアミノ酸配列を含む場合、これらの配列の連結の順序も特に制限されないが、配列番号3に示されるアミノ酸配列、配列番号2に示されるアミノ酸配列及び配列番号4に示されるアミノ酸配列の順番に連結していることが好ましい。
【0020】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質の起源、及び、該タンパク質を得る方法は、いずれも特に限定されるものではない。すなわち、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質としては、例えば、天然のタンパク質、遺伝子工学的手法により組換えポリヌクレオチド等から発現させたタンパク質、及び化学合成により得られるタンパク質が挙げられる。そして、例えば、(A)タンパク質は、スギ花粉アレルゲンタンパク質Cryj2をシャッフリングすることにより得ることができる。また例えば(D)タンパク質は、それぞれスギ花粉アレルゲンタンパク質Cryj1を3断片化(F1(fragment 1:1aa−144aa)、F2(126aa−257aa)、F3(231aa−353aa))することにより得ることができる。さらに例えば(I)タンパク質は、スギ花粉アレルゲンタンパク質Cryj2をシャッフリングすることにより得るタンパク質と、スギ花粉アレルゲンタンパク質Cryj1を3断片化して得られるタンパク質とを連結して得ることができる。
【0021】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質は、スギ花粉の免疫原性を有する限り、上記(A)タンパク質、(D)タンパク質及び(G)タンパク質のように、配列番号1に記載のアミノ酸配列そのもの及び配列番号2〜配列番号4のいずれかに示されるアミノ酸配列そのものを有するもののみならず、これと相同のタンパク質、すなわちそれぞれのアミノ酸配列に改変を加えたアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。
【0022】
(A)タンパク質のアミノ酸配列に改変を加えたアミノ酸配列を含むタンパク質としては、下記の(B)及び(C)のタンパク質が例示される。
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
【0023】
(D)タンパク質に改変を加えたアミノ酸配列を含むタンパク質としては、例えば、(E)及び(F)のタンパク質が挙げられる。
(E)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(F)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
【0024】
(E)タンパク質においては、配列番号2に示されるアミノ酸配列、配列番号3に示されるアミノ酸配列、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列のうちのいずれか、或いは2種類以上が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含んでいればよく、それ以外に置換等の対象でない配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列を有していてもよい。(F)タンパク質においても、配列番号2に示されるアミノ酸配列、配列番号3に示されるアミノ酸配列、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列のうちのいずれか、或いは2種類以上が90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいればよく、それ以外に置換等の対象でない配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列を有していてもよい。
【0025】
(G)タンパク質のアミノ酸配列に改変を加えたアミノ酸配列を含むタンパク質としては、(H)〜(O)のタンパク質が例示される。
(H)配列番号1に示されるアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(J)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(K)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(L)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(M)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(N)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
(O)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質
【0026】
上記タンパク質のそれぞれにおいては、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸残基の個数は、上述の通り1個もしくは数個である。通常、1〜15個であり、例えば、1〜10個であり、好ましくは1〜7個であり、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個である。一般に、アミノ酸配列に1個もしくは数個の変異を導入して、元のアミノ酸と同様の性質を有するタンパク質を作製する手法は、当業者に周知である。通常、タンパク質において、アミノ酸を同様の性質を有するアミノ酸への置換(塩基性アミノ酸同士の置換、酸性アミノ酸同士の置換、極性アミノ酸同士の置換、疎水性アミノ酸同士の置換、芳香族アミノ酸同士の置換など)を行った場合、置換前後のタンパク質を比較すると同様の性質を有することが多い。
【0027】
上記タンパク質のそれぞれにおいては、上述の通り、同一性が90%以上である。好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、中でも好ましくは99%以上である。アミノ酸配列の同一性は、BLAST、FASTA等のアルゴリズムを使用して、適宜検索条件を設定することにより決定され得る。
【0028】
本発明のポリヌクレオチドは、スギ花粉アレルゲンタンパク質免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。
【0029】
ポリヌクレオチドとしては、例えば、DNA、RNA、PNAが挙げられる。このうちDNAが好ましい。また、ポリヌクレオチドの起源、製法は特に限定されず、天然由来であってもよいし、組換えポリヌクレオチド、化学合成により得られるポリヌクレオチドであってもよい。
【0030】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、上記(A)〜(C)のいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドが例示される。具体的には、下記の(a)、(b)及び(c)が例示される。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0031】
また、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、上記(D)〜(F)のいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドが例示される。具体的には、下記の(d)、(e)及び(f)が例示される。
(d)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
(e)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0032】
さらに、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、下記の(g)〜(r)も例示される。
(g)配列番号1に示されるアミノ酸配列、及び配列番号2〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(h)配列番号1に示されるアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(j)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列と、配列番号2〜4から選ばれるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(k)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(l)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(m)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(n)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列とを含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(o)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列と、配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列のうち1又は2以上のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0033】
一方、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、塩基配列の面からは下記の(p)〜(r)が例示される。
(p)配列番号5に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(q)配列番号6〜8のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
(r)配列番号5に記載の塩基配列、及び配列番号6〜8のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド
【0034】
配列番号5に記載の塩基配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対応する塩基配列である。また、配列番号6〜8に記載の塩基配列は、それぞれ配列番号2〜4に示されるアミノ酸配列に対応する塩基配列である。
【0035】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号5に記載の塩基配列自体及び配列番号6〜8に記載の塩基配列自体を含まなくても、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質を発現するポリヌクレオチドの全てを含む。スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、以下の(s)〜(z)が挙げられる。
【0036】
(s)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(t)配列番号5に示される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド
(u)配列番号5に示される塩基配列において1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(v)配列番号6〜8のいずれかに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(w)配列番号6〜8のいずれかに示される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド
(x)配列番号6〜8のいずれかに示される塩基配列において1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(y)配列番号5に示される塩基配列において上記(s)、(t)及び(u)のいずれかの変異を含む塩基配列と、配列番号6〜8のいずれかに示される塩基配列とを有するポリヌクレオチド
(z)配列番号5に示される塩基配列と、配列番号6〜8のいずれかに示される塩基配列において上記(v)、(w)及び(x)のいずれかの変異を含む塩基配列とを有するポリヌクレオチド
【0037】
上記ポリヌクレオチドにおいて、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。ストリンジェントな条件としては、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、(例1)42℃、5×SSC(sodium chloride/sodium citrate)、0.1%SDSで洗浄する条件、(例2)50℃、5×SSC、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)で洗浄する条件、(例3)65℃、5×SSC、0.1%SDSで洗浄する条件が例示され、このうち、(例2)又は(例3)であることが好ましく、(例3)がより好ましい。
【0038】
上記ポリヌクレオチドにおいては、置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基の個数は、1個もしくは数個である。通常、1〜15個であり、例えば、1〜10個、1〜7個であり、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個である。また、上記ポリヌクレオチドにおいては、同一性が90%以上であり、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、中でも好ましくは99%以上である。塩基配列の同一性は、BLAST、FASTA等のアルゴリズムを使用して、適宜検索条件を設定することにより決定され得る。
【0039】
ポリヌクレオチドを取得する方法は特には限定されないが、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質のアミノ酸配列の一部や、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列の一部をもとに、公知の技術を利用して、生物などから単離することができる。公知の技術としては、クローニング、遺伝子組換え、PCR、ハイブリダイゼーション、部位特異的突然変異、変異剤処理、制限酵素処理等が例示される。また、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列を人工的に作製してもよい。さらに、後述の形質転換体を利用してポリヌクレオチドを産生してもよい。
【0040】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質は、種々の生物において発現され得る。タンパク質を生物において発現させる方法は特に限定されないが、ポリペプチドの発現を制御する因子を利用することができる。ポリペプチドの発現を制御する因子としては、プロモーター、ターミネーター、シグナル配列が例示される。
【0041】
プロモーターとしては、宿主において発現可能なプロモーターであればよい。このうち、植物(例えばイネ科植物)で発現可能なプロモーターが好ましく、中でも種子の貯蔵組織で発現可能なプロモーター(種子特異的プロモーター)がより好ましく、コメ(イネ種子)で発現するプロモーターがさらに好ましく、コメ(イネ種子)で特異的に発現するプロモーターがさらにより好ましい。種子特異的プロモーターとしては、グルテリン、プロラミン、グロブリンなど種子貯蔵タンパク質遺伝子のプロモーターが例示される。グルテリンのプロモーターとしては、GluB1プロモーター(例えば、配列番号11に記載の塩基配列を有する)、GluB4プロモーター(例えば、配列番号12に記載の塩基配列を有する)が例示される。プロラミンのプロモーターとしては、16kDaプロラミンプロモーター(例えば、配列番号13に記載の塩基配列を有する)、10kDaプロラミンプロモーター(例えば、配列番号14に記載の塩基配列を有する)が例示される。もっとも、本発明において用い得るプロモーターは、上記種子特異的プロモーターに限定されるものではなく、これ以外のプロモーター、例えば植物ウイルス由来のプロモーター等であってもよい。
【0042】
ターミネーターとしては、宿主において発現可能なターミネーターであればよい。このうち、植物(例えばイネ科植物など)で発現可能なターミネーターが好ましく、中でも種子の貯蔵組織で発現可能なターミネーターがより好ましく、コメ(イネ(Oryza sativa))種子)で発現するターミネーターがさらに好ましく、コメ(イネ種子)で特異的に発現するターミネーターがさらにより好ましい。ターミネーターとしては、例えば、ポリペプチドをイネで発現させる場合、植物貯蔵タンパク質であるグルテリンの0.6kb GluB1ターミネーター(例えば、配列番号18に記載の塩基配列を有する)、GluB4ターミネーター(例えば、配列番号19に記載の塩基配列を有する)、10kDa プロラミンターミネーター(例えば、配列番号21に記載の塩基配列を有する)、16kDa プロラミンターミネーター(例えば、配列番号20に記載の塩基配列を有する)、グロブリンターミネーター等が使用できる。その他にも、ノパリン合成酵素のターミネーター、オクトピン合成酵素のターミネーターをはじめ、DNAデーターベースに登録されている植物遺伝子のターミネーターを種々選択して使用することができる。
【0043】
シグナル配列をコードするポリヌクレオチドとしては、宿主の細胞内で発現するものであれば特に限定されないし、発現させたいポリヌクレオチドの5´末端及び3´末端のどちらに付加するものであってもよい。中でも、植物(例えばイネ科植物)で発現可能なシグナル配列、中でも種子の貯蔵組織で発現可能なシグナル配列が好ましく、コメ(イネ種子)で発現するシグナル配列がより好ましく、コメ(イネ種子)で特異的に発現するシグナル配列がさらにより好ましい。このようなシグナル配列としては、特開2004−321079号公報に例示されたものを用い得る。このうち、貯蔵タンパク質シグナルや、小胞体係留シグナル(例えば、Lys−Asp−Glu−Leu)が好ましい。貯蔵タンパク質シグナル配列は、本発明のタンパク質を小胞体へ以降させる働きを有する。また、小胞体係留シグナル配列によれば、種子の貯蔵部位において、本発明のタンパク質の集積量を向上させる機能を有する。
【0044】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質を発現させる方法は特には限定されないが、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いる方法が好ましい。ベクターは、発現させたい植物の種類を適宜考慮して公知の種々のベクターから選択でき、本遺伝子構成を安定に保持するものであれば特に制限されない。ベクターへの目的のポリヌクレオチドの挿入は、常法に従って行うことができ、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる。ベクターは目的のポリヌクレオチドの他に、必要に応じて、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合部位、複製開始点等の発現調節因子;選抜マーカー遺伝子を含み得る。プロモーター及びターミネーターの挿入部位は通常それぞれ、ポリヌクレオチドの5´末端側、3´末端側である。
【0045】
選抜マーカー遺伝子としては、例えば抗生物質ハイグロマイシンへの耐性を付与するハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシン又はゲンタマイシンへの耐性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、除草剤であるホスフィノスリシンへの耐性を付与するアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、除草剤であるピリミノバックへの耐性を付与する変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子(mALS)等が挙げられる。選抜マーカー遺伝子が導入されたベクターを用いることにより、目的のポリヌクレオチドが導入されたサンプルの選抜が容易となる。
【0046】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドをベクターに挿入するにあたっては、他のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと共に挿入してもよい。これにより、ベクターを形質転換させる際に、目的のタンパク質を含む融合タンパク質として発現させることができ、他のタンパク質の選択いかんにより、発現部位、発現量等を調節することができる。他のタンパク質としては、形質転換の宿主がイネの場合には、イネの種子で安定的に高発現するタンパク質が好ましく、グルテリンがより好ましい。ポリヌクレオチドを他のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと共に挿入する方法は特に限定されず、他のタンパク質の可変領域に、任意のDNA配列を挿入できるようなサイト(例えば他のタンパク質がグルテリンの場合はCfr9Iサイトなど)を付加しておき、このサイトを利用して挿入する方法が例示される。
【0047】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質を発現させる方法としては、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが導入された形質転換体を利用することが好ましい。これにより、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質を発現する遺伝子組換え体(例えば遺伝子組換え植物体、好ましくは遺伝子組換えイネ)を効率よく得ることができる。また、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質を効率よく複製し大量生産につなげることができる。さらに、ベクターの保存も容易となる。
【0048】
形質転換体の作製方法は特に限定されず、前記ベクターを、必要に応じて発現調節因子と共に、宿主細胞に導入して形質転換させる方法が例示される。ベクターの宿主組織又は細胞への導入方法は、特に限定されない。例えば、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへベクターを導入する方法、電気パルスによりプロトプラストへベクターを導入する方法、パーティクルガン法により細胞へベクターを直接導入する方法、DEAEデキストラン法、リン酸カルシウム法、及びアグロバクテリウムを介してベクターを導入する方法など、いくつかの技術が既に確立し、当技術分野において広く用いられており、本発明においてもこれらのいずれかを利用し得る。
【0049】
ベクターを導入する宿主は、特に限定されず、必要に応じて適宜選択できる。
【0050】
一つの例として、スギ花粉の免疫原性を有する植物体の作出を目的として形質転換体を作製する場合の宿主としては、植物体に再生可能なあらゆる植物が含まれる。植物としては、例えば、葉、根、茎、花、種子中の胚盤等の植物器官;該植物器官のそれぞれを構成する植物細胞;維管束等の植物組織;カルス、懸濁培養細胞等の植物培養細胞;が挙げられるが、これらに制限されるものではない。また、植物体の植物種も特に限定されないが、食用の植物がより好ましく、イネ科植物の細胞がさらに好ましい。イネ科植物としてはイネ(Oryza sativa)が例示される。
【0051】
他の例として、ベクターの保存、複製等を目的として形質転換体を作製する場合には、宿主は、必ずしも植物である必要はなく、例えば、大腸菌、酵母、動物細胞等であってもよい。
【0052】
選抜マーカー遺伝子が導入されたベクターを用いて形質転換を行う際には、該ベクターを導入した宿主細胞は、該ベクターと共に導入されたマーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養することにより、形質転換体の選抜が容易となり得る。また、選抜マーカー遺伝子が導入されていなくても、ポリヌクレオチドが導入されたベクターとは別に、選抜マーカー遺伝子が導入されたプラスミドベクターを用意し、これらを宿主細胞に導入することにより、同様の選抜が可能となりうる。
【0053】
免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを作製し、該ベクターを、宿主細胞としての植物器官、植物組織又は植物細胞に導入し形質転換体を得て、この形質転換体から植物体を生育(再分化)させることにより、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質を発現可能な植物体が作製され得る。植物体の生育(再分化)は、植物細胞の種類に応じて公知の方法で行うことが可能である。
【0054】
形質転換体から1代目の植物体が得られれば、該植物体を生育し、さらに有性生殖又は無性生殖させて、本発明のタンパク質を発現可能な、子孫としての、植物体を順次得ることが可能である。また、該形質転換体、その子孫、及びこれらのクローンのいずれかから、繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に、さらにスギ花粉の免疫原性を有するタンパク質を発現可能な植物体を作出し、量産することも可能である。
【0055】
スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質、これをコードするポリヌクレオチドを含む形質転換体、及びスギ花粉の免疫原性を有するタンパク質が導入された植物体は、いずれも、ヒトを含む哺乳類のスギ花粉症患者或いはいわゆる花粉症予備軍を対象とするスギ花粉症の治療又は予防剤の有効成分として有用である。スギ花粉症の治療又は予防剤の、1日当りの用量、服用方法、及び剤形は、特に限定されず、対象者の健康状態、性別、体格等の諸条件に基づき、適宜定めることができる。本発明のスギ花粉症の治療又は予防剤は、医薬品、医薬部外品、食品、動物(実験動物、ペット等)用飼料としての利用が可能である。また、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質、これをコードするポリヌクレオチドを含む形質転換体、及びスギ花粉の免疫原性を有するタンパク質が導入された植物体は、ヒトを含む哺乳類の花粉症患者に対するいわゆるペプチド免疫療法において好適に用いられ得る。すなわち、スギ花粉の免疫原性を有するタンパク質、これをコードするポリヌクレオチドを含む形質転換体、及びスギ花粉の免疫原性を有するタンパク質が導入された植物体を、ヒトを含む哺乳類に投与することにより、花粉症の治療又は予防が可能である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において分子生物学的手法の詳細な実験操作は、特に述べる場合を除き、Molecular Cloning(Sambrook et.al.,1989)又は試薬製造業者の取り扱い説明書に従って行った。また、マウスやマウス由来の試料を対象とする免疫学的研究方法の詳細な実験操作は、特に記述する場合を除き、細胞工学別冊 マウス解剖イラストレイテッド(秀潤社)、生物化学実験法 50 腸管細胞機能実験法(学会出版センター)、あるいは、試薬製造業者の取り扱い説明書に従って行った。
【0057】
[実施例1]
I.プラスミドpCSPmALS Cryj1Cryj2の作製
目的とするバイナリーベクターを作製するため、カルス特異的プロモーター(CSP、クミアイ化学株式会社)に変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子(mALS、クミアイ化学株式会社)を連結し、下流には10kDaプロラミンターミネーターを連結した選抜マーカー遺伝子カセット、及びattR4−attR3をトランスファーDNA(T−DNA)領域に含む、pPZP200由来のデスティネーション・バイナリーベクター(pCSPmALS 43GW)を作製した。
【0058】
pCSPmALS 43GWに遺伝子カセットを挿入するため、専用のエントリークローンを作製した。すなわち、pBluescript KS+プラスミド(配列番号10)のマルチクローニングサイトの両端に位置するBssHIIに、以下の(1)〜(3)の3種の組み合わせのattachment region及びオリジナルマルチクローニングサイト(配列番号9)からなるDNA断片を順次挿入し、それぞれpKS4−1 MCS II、pKS221 MCS II、pKS2−3 MCS IIと命名した。
【0059】
attachment region(1)attL4−AscI−HindIII−XbaI−BamHI−EcoRV−SmaI−KpnI−SacI−EcoRI−MluI−attR1
【0060】
attachment region(2)attL1−AscI−HindIII−XbaI−BamHI−EcoRV−SmaI−KpnI−SacI−EcoRI−MluI−attL2
【0061】
attachment region(3)attR2−AscI−HindIII−XbaI−BamHI−EcoRV−SmaI−KpnI−SacI−EcoRI−MluI−attL3)
【0062】
なお、上記attL1、attL2、attL3、attL4、attR1、attR2としては、Invitrogen社の製品を用いた。
【0063】
3種類の胚乳特異的プロモーター(10kDa プロラミンプロモーター(配列番号14)、GluB4プロモーター(配列番号12)、16kDaプロラミンプロモーター(配列番号13))、予め可変領域に任意のDNA配列を挿入できるよう内部にCfr9Iサイトを付加した種子貯蔵タンパク質グルテリン(GluA2(配列番号15)、GluB1(配列番号16)、GluC(配列番号17))のコード領域、及びターミネーター(10kDa プロラミンターミネーター(配列番号21)、GluB4ターミネーター(配列番号19)、16kDa プロラミンターミネーター(配列番号20))をそれぞれ組み合わせて構成される遺伝子カセットを、pKS4−1 MCS II、pKS221 MCS II、pKS2−3 MCS IIに挿入した。すなわち、10kDaプロラミンプロモーター:GluB1コード領域:10kDa プロラミンターミネーターからなる遺伝子カセットが挿入されたプラスミドであるpKS4−1を得た。また、GluB4プロモーター:GluA2コード領域:GluB4ターミネーターからなる遺伝子カセットが挿入されたプラスミドであるpKS221を得た。さらに、16kDaプロラミンプロモーター:GluCコード領域:16kDaプロラミンターミネーターからなる遺伝子カセットが挿入されたプラスミドであるpKS2−3を得た。
【0064】
pKS221のGluA2コード領域中のCfr9Iサイトに、配列番号6に示される塩基配列(配列番号2に示されるアミノ酸配列に対応)からなるポリヌクレオチドを挿入した。その結果pKS221に含まれることになった、GluB4プロモーター:GluA2コード領域(配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む):GluB4ターミネーターからなる遺伝子カセットを、Cryj1 F1発現型遺伝子カセットと名づけた。
pKS4−1のGluB1コード領域中のCfr9Iサイトに、配列番号7に示される塩基配列(配列番号3に示されるアミノ酸配列に対応)からなるポリヌクレオチドを挿入した。その結果、pKS4−1に含まれることになった、10kDaプロラミンプロモーター:GluB1コード領域(配列番号7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む):10kDa プロラミンターミネーターからなる遺伝子カセットを、Cryj1 F2発現型遺伝子カセットと名づけた。
pKS2−3のGluCコード領域中のCfr9Iサイトに、配列番号8に示される塩基配列(配列番号4に示されるアミノ酸配列に対応)からなるポリヌクレオチドを挿入した。その結果、pKS2−3に含まれることになった、16kDaプロラミンプロモーター:GluCコード領域:16kDaプロラミンターミネーターからなる遺伝子カセットを、Cryj1 F3発現型遺伝子カセットと名づけた。Cryj1 F1発現型遺伝子カセット、Cryj1 F2発現型遺伝子カセット及びCryj1 F3発現型遺伝子カセットをまとめて、Cryj1全長発現型遺伝子カセット群と名づけた。
【0065】
一方、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号5)のC末端に、小胞体係留シグナルLys−Asp−Glu−Leuをコードするポリヌクレオチドを付加し、ポリヌクレオチドを得た。そのポリヌクレオチドの5’側にGluB1プロモーター(配列番号11)、3’側にKDEL配列とGluB1ターミネーター(配列番号18)を連結し、得られる遺伝子カセットをCryj2全長発現遺伝子カセットと名づけた。その後、Cryj2全長発現型遺伝子カセットを、Cryj1 F3発現型遺伝子カセットを有するpKS2−3のMluIサイトに挿入した。
【0066】
Gateway(登録商標) system(インビトロジェン社)の取扱説明書に従い、LR反応を行った。まず、Cryj1 F2発現型遺伝子カセットを含むpKS4−1、Cryj1F1発現型遺伝子カセットを含むpKS221、Cryj1 F3発現型遺伝子カセットとCryj2全長発現型遺伝子カセットを含むpKS2−3の、3種類のエントリークローンの濃度を10ng/μLに合わせた。これらについて、インビトロジェン社のLR clonase plus enzyme Mix IIを用い、LR反応を25℃で16時間おこなった。反応液組成はエントリークローン各10ng、デスティネーション・バイナリーベクター(配列番号22に記載の塩基配列のうち、塩基番号8794〜10327の部分に代えて、CSP:mALS:10kDaTer遺伝子カセット(クミアイ化学株式会社)が挿入されているもの)100ng、LR clonase plus enzyme mix II 2μL、TEバッファーでトータル液量を10μLとした。反応終了後、2μgのproteinase Kを加え、37℃で10分間静置した。
【0067】
LR反応完了後、得られた発現クローンを大腸菌DH5α(TOYOBO、competent high)に形質転換した。得られた大腸菌コロニー群から目的のクローン、すなわち上記の4種類の遺伝子カセットが導入されたバイナリーベクターを選抜した。LR反応の効率は極めて高く、コロニーPCRによる一次スクリーニングでは、ほとんどのコロニーがポジティブである可能性を示した。候補クローンはABI DNAシーケンサー Genetic Analyzer 3130を用いて塩基配列の最終確認を行い、これをpCSPmALS Cryj1Cryj2とした。
【0068】
II.アグロバクテリウムへのpCSPmALS Cryj1Cryj2の導入
アグロバクテリウム ツメファシエンス(A.ツメファシエンス)EHA105株を、10mLのYEB液体培地(ビーフエキス5g/L、酵母エキス1g/L、ペプトン5g/L、シュークロース5g/L、2mM MgSO
4、22℃でのpH7.2(以下、特に示さない場合、22℃でのpHとする。))に接種し、OD630が0.4から0.6の範囲に至るまで、28℃で培養した。培養液を、6900×g、4℃、10分間遠心して集菌した後、菌体を20mLの10mM HEPES(pH8.0)に懸濁して、再度6900×g、4℃、10分間遠心して集菌した。次いで集菌された菌体を200μLのYEB液体培地に懸濁して、これをプラスミド導入用菌液とした。
【0069】
0.5mLチューブ内で、プラスミド導入用菌液50μLと3μLのプラスミドpCSPmALS Cryj1Cryj2を混合し、これにエレクトロポレーション法(ジーンパルサーIIシステム[BIORAD社])を用いてプラスミドを導入し、次いで200μLのYEB液体培地を加えて25℃で1時間振とうして培養した。この菌体を、100mg/L スペクチノマイシン添加YEB寒天培地(寒天1.5w/v%、他の組成は上記に同じ。)に播種して28℃で2日間培養し菌コロニーを得た。さらに、この菌コロニーをYEB液体培地に移植して更に培養した後、その菌コロニー中の菌からアルカリ法でプラスミドを抽出し、A.ツメファシエンスEHA105株にプラスミドpCSPmALS Cryj1Cryj2が導入されていることを確認した。該菌をアグロバクテリウムEHA105(pCSPmALS Cryj1Cryj2)と名づけた。
【0070】
III.感染材料の調製
遺伝子導入の対象として、イネ品種「コシヒカリ系統a123」を用い、その完熟種子の殺菌を、細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ4 モデル植物の実験プロトコール(p93−98)の方法に従い行った。殺菌された完熟種子を、N6Cl2培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、2mg/L 2,4−D、4g/L ゲルライト、pH=5.8)に置床し、サージカルテープでシールして28℃明所で培養して発芽させ、発芽種子を得た。この発芽種子を、下記IVにおいて、アグロバクテリウムEHA105(pCSPmALS Cryj1Cryj2)による感染材料とした。
【0071】
IV.EHA105(pCSPmALS Cryj1Cryj2)によるイネの形質転換及び形質転換イネの作製
YEB寒天培地(ビーフエキス5g/L、酵母エキス1g/L、ペプトン5g/L、シュークロース5g/L、2mM MgSO
4、15g/L 寒天)で培養したアグロバクテリウムEHA105(pCSPmALS Cryj1Cryj2)を、YEB培地で25℃、180rpmで一晩培養した。その後、3000rpm、20分間遠心して集菌し、アセトシリンゴン(10mg/L)を含むN6液体培地(N6無機塩類及びビタミン類(Chu C.C.,1978,Proc.Symp.Plant Tissue Culture,Science Press Peking,pp.43−50)、30g/L シュークロース、2mg/L 2,4−D、pH=5.8)に、OD
630=0.15となるように菌体を懸濁し、感染用アグロバクテリウム懸濁液とした。
【0072】
上記IIIで調製した発芽種子を50mLチューブに入れ、そこに感染用アグロバクテリウム懸濁液を注ぎ発芽種子を浸漬した。1.5分間の浸漬後、アグロバクテリウム懸濁液を捨て、発芽種子を滅菌したろ紙の上に置いて余分な水分を除去した。その後、共存培養培地N6Cl2培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、2mg/L 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、4g/L ゲルライト、pH=5.2)に置床し、サージカルテープでシールして28℃暗所で3日間培養した。続いて、共存培養を行った発芽種子を、N6Cl2TCH25培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、2mg/L 2,4−D、4400mg/L カルベニシリン、1μM ピリミノバック、4g/L ゲルライト)で1週間培養した後、発芽した芽を胚盤組織から切り出した。
【0073】
次いで、この芽をN6Cl4TCH25培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/L シュークロース、2.8g/L プロリン、0.3g/L カザミノ酸、4mg/L 2,4−D、400mg/L カルベニシリン、1μM ピリミノバック、4g/L ゲルライト)で1週間培養した。更に、MSRC培地(MS無機塩類及びビタミン類(Murashige,T.and Skoog,F.,1962 Physiol.Plant.,15,473)、30g/L シュークロース、30g/L sorbitol、2g/L casamino acids、1μg/mL ナフタレン酢酸(NAA)、2μg/mL ベンジルアミノプリン(BAP)、400mg/L カルベニシリン、4g/L ゲルライト)で培養した。
【0074】
このようにして、感染種子とアグロバクテリウムEHA105(pCSPmALS Cryj1Cryj2)との共存培養開始後1ヶ月から2ヶ月の間に、感染種子から芽又は幼植物体が再分化した。再分化した芽又は幼植物体は発根培地に移植して生育させ、背丈20cm程度の幼苗を得た。この幼苗より、染色体DNAを抽出し、サザンハイブリダイゼーションにて、幼苗中のCryj1Cryj2遺伝子の存在を確認した。
【0075】
V.組換えイネの大量生産
上記IVで得られた、形質転換体であるイネ(Tgイネ)の発芽種子をウレタンへ播種後、特定網室内の育苗室(人工太陽光室)で育苗し、苗を得た。すなわち、苗をベッド全域に49本/パネル定植後、約12,000本/棟を植栽した。
【0076】
特定網室内の栽培棟の中には、水耕ベッド(M式水耕研究所製、H:73cm×W:120cm×D:2,900cm)が、1棟あたり5台設置されている。各水耕ベッドの養液配管は一つに繋がっており、水耕養液は循環ポンプにより水耕ベッド間を循環するため、各水耕ベッド内の養液組成は同じである。水耕ベッド内には、各種センサー(pH計、電気伝導率(EC)計、水温計)があり、そのデータは10分間隔で環境制御パソコン(PC)に自動保存されている。また、養液コントローラーにより、施肥及びpH調整剤の添加制御がなされている。前記センサー、環境制御パソコン及び溶液コントローラーにより、水耕ベッド内の各種条件(pH、EC及び水温)の自動制御が可能である。
【0077】
肥料については、水耕養液中の硝酸性窒素とアンモニア性窒素の濃度測定結果に基づいて以下の市販水耕専用肥料(M式水耕研究所製)を使用した(M1:硝酸性窒素7%、アンモニア性窒素3%、水溶性リン酸8%、水溶性カリ23%、水溶性マグネシウム4%、水溶性マンガン0.1%、水溶性ホウ素0.1%;M2:硝酸性窒素11%;M5:アンモニア性窒素6%、水溶性カリ9%、水溶性マンガン1%、水溶性ホウ素1%)。水耕養液の液温は、29℃に設定した。
【0078】
日長は、補光ランプと100%遮光カーテンにより調整した(長日環境:明12時間、暗12時間、短日環境:明11時間、暗13時間)。内温度は、環境制御システムによる天窓側窓の開閉により自動制御した。但し、開花期については、花粉飛散を防止する目的で、エアコンを稼動させた上で窓非開放とした。本栽培法で、播種してから収穫まで150日間イネを栽培した。
【0079】
その結果、Tgイネの発芽種子から発芽させた個体に関しては、全ての個体でCryj1遺伝子及びCryj2遺伝子の存在が確認された。さらに、該個体から収穫されたイネ種子(米)を分析したところ、0.1g/米gの総タンパク質量を含有していること、及び、3断片化したスギ花粉アレルギー抗原Cryj1(配列番号2〜4のそれぞれに示されるアミノ酸配列)とシャフリングしたCryj2(配列番号1に示されるアミノ酸配列)を含むこと、を確認した。
【0080】
VI.マウスへのイネ種子経口摂取による免疫寛容の誘導
5週令のオスのBALB/cマウスを、日本チャールス・リバー株式会社より購入し、上記VでTgイネの発芽種子から収穫されたイネ種子(以下、Tgイネ種子(Tg−rice、Tg−seed)と称する。)の経口摂取を開始した。まず、形質転換処理をしていないイネ種子(以下、Non−Tgイネ種子(Non−Tg rice、Non−Tg seed)と称する。)及びTgイネ種子のそれぞれ(いずれも完熟種子玄米)を、フリッチュ・ジャパン株式会社製P−14 ロータースピードミルを用いて、回転数約10,000rpmで微粉末状に破砕し、それぞれのイネ種子粉末を得た。次に、マウスを2群に分け、それぞれのイネ種子粉末を給餌瓶に入れ、20日間、各群のマウスに自由摂取させた。イネ種子粉末の経口投与期間終了後に、各群についてイネ種子粉末の総摂取量を算出したところ、マウス1匹当たり約6グラムであると推定された。
【0081】
VII.スギ花粉アレルゲンによるチャレンジ
上述したNon−Tgイネの粉末あるいはTgイネ種子の粉末を経口摂取した全てのマウスに対して、イネ種子粉末の経口摂取最終日の翌日に、マウス1匹当たり、株式会社エル・エス・エル製スギ花粉抽出タンパク質(品番LG−5280)0.1mg、株式会社エル・エス・エル製アラム(水酸化アルミニュムゲル、品番LG−6000)5mg、R&D Systems Inc.製マウスIL−4(品番404−ML)0.1μgの混合液を腹腔投与した。この1週後に、マウス1匹当たり、スギ花粉抽出タンパク質0.1mgとアラム5mgとの混合液を腹腔投与した。
【0082】
VIII.T細胞増殖活性とサイトカイン産生量の測定
上記VIIで述べた2回目のスギ花粉抽出タンパク質とアラムとの混合液の腹腔投与から2週後に、マウスの脾臓から、Miltenyi Biotec K.K.製CD4(L3T4)MicroBeads(品番130−049−201)、及び、Miltenyi Biotec K.K.製autoMACS
TM自動磁気細胞分離装置(品番130−020−101)を用いて、CD4
+T細胞を分離した。このCD4
+T細胞1×10
5個と、ナイーブBALB/cオスマウスの脾臓から調製した抗原提示細胞5×10
5個、及び、抗原として、20μg/mLのスギ花粉抽出タンパク質とを、細胞培養用96穴プレート中に混合し、37℃で5日間、培養した。
【0083】
細胞培養終了後に、プロメガ製CellTiter 96
(R)AQueous One Solution Cell Proliferation Assay試薬(品番G3580)を用いた比色定量法により、生細胞数を測定した。
図1に、Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群と、Non−Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群の、CD4
+T細胞の増殖活性を、スギ花粉アレルゲン特異的なStimulation Index(S.I.)として示した。なお、抗原であるスギ花粉抽出タンパク質を添加せずに培養した時の増殖細胞数に対する、スギ花粉抽出タンパク質添加時の増殖細胞数の割合を、スギ花粉アレルゲン特異的なStimulation Index(S.I.)として表記した(
図1)。
【0084】
その結果
図1から明らかなように、Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群では、Non−Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群と比較して、スギ花粉アレルゲンの刺激によるT細胞の増殖活性が、有意に抑制された(P<0.01)。
【0085】
また、培養終了時点で、T細胞を培養した上清画分の一部を回収し、R&D Systems Inc.製Quantikine ELISA Kitを用いて、各種のサイトカインの産生量を測定した。
図2〜
図7に、Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群と、Non−Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群の、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−13及びIFNγの産生量を、それぞれ示す。
【0086】
その結果、Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群では、Non−Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群と比較して、スギ花粉アレルギーなどのTh2型の免疫応答を誘導する各サイトカイン(IL−4、IL−5、IL−13)の産生が、顕著に抑制された。さらに、別の各サイトカイン(IL−10、IFN−γ)の産生にも、抑制傾向が見られた(
図2〜
図7)。IL−5(
図3)、IL−10(
図5)及びIFN−γ(
図7)の産生量は、p<0.05で各実験群の間に有意差があることが確認された。IL−4(
図2)及びIL−13(
図6)の産生量は、p<0.01で各実験群の間に有意差があることが確認された。
【0087】
IX.スギ花粉アレルゲン特異的抗体、及び、ヒスタミン産生量の測定
上述した2回目のスギ花粉抽出タンパク質とアラムとの混合液の腹腔投与の2週後に、マウスの血清を採取し、スギ花粉アレルゲン特異的抗体の産生量及びヒスタミンの産生量を調査した。まず、スギ花粉アレルゲン特異的抗体の産生量を測定するため、96穴プレートの各ウェルに、50mM Carbonate−Bicarbonate緩衝液(pH9.6)で2μg/mLに希釈した、Southern Biotech社製の抗マウスIgE抗体、及び同様に希釈した抗マウスIgGを、それぞれを加え、4℃で一晩、静置した。PBSで洗浄した後、DSファーマバイオメディカル株式会社製ブロックエース(品番UK−B80)を添加し、25℃で2時間ブロッキングを行った。
【0088】
次に、マウスから採取した血清を各ウェルに添加し、25℃で2時間反応させた後、ビオチン化されたスギ花粉抽出タンパク質を各ウェルに添加し、25℃で2時間反応させた。続いて、1/5000に希釈されたEndogen社製ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(品番N100)を、各ウェルに添加し、25℃で1時間反応させた後、HRP酵素の基質であるBD Biosciences社製BD OptEIA溶液(品番550536)を各ウェルに加えて発色させ、マイクロプレートリーダーを用いて、発色強度を測定した。また、ヒスタミンの産生量の測定については、NEOGEN CORPORATION社製Histamine ELISA Kit(品番409010)を用いた。
図8〜
図10に、Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群と、Non−Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群の、IgE抗体、IgG抗体、及びヒスタミンの、各産生量を示す。
【0089】
その結果、Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群では、Non−Tgイネ種子の粉末を経口投与した実験群と比較して、スギ花粉アレルゲン特異的IgE抗体の産生、スギ花粉アレルゲン特異的IgG抗体の産生及びヒスタミンの産生が、顕著に抑制された(
図8〜
図10)。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
配列番号1:スギ花粉アレルゲン(Cryj2)免疫原性を有するタンパク質のアミノ酸配列(93aa−388aa、59aa−92aa、1aa−58aa)
配列番号2:スギ花粉アレルゲン(Cryj1)の免疫原性を有するタンパク質のアミノ酸配列(1aa−144aa)
配列番号3:スギ花粉アレルゲン(Cryj1)の免疫原性を有するタンパク質のアミノ酸配列(126aa−257aa)
配列番号4:スギ花粉アレルゲン(Cryj1)の免疫原性を有するタンパク質のアミノ酸配列(231aa−353aa)
配列番号5:スギ花粉アレルゲン(Cryj2)の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列
配列番号6:スギ花粉アレルゲン(Cryj1)の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列
配列番号7:スギ花粉アレルゲン(Cryj1)の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列
配列番号8:スギ花粉アレルゲン(Cryj1)の免疫原性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列
配列番号9:エントリークローンに含まれるオリジナルマルチクローニングサイトの塩基配列
配列番号10:pBluescript KS+の塩基配列
配列番号11:GluB1プロモーターの塩基配列
配列番号12:GluB4プロモーターの塩基配列
配列番号13:16kDaプロラミンプロモーターの塩基配列
配列番号14:10kDaプロラミンプロモーターの塩基配列
配列番号15:内部にCfr9Iサイトを付加したGluA2の塩基配列
配列番号16:内部にCfr9Iサイトを付加したGluB1の塩基配列
配列番号17:内部にCfr9Iサイトを付加したGluCの塩基配列
配列番号18:GluB1ターミネーターの塩基配列
配列番号19:GluB4ターミネーターの塩基配列
配列番号20:16kDプロラミンターミネーターの塩基配列
配列番号21:10kDプロラミンターミネーターの塩基配列
配列番号22:デスティネーション・バイナリーベクターの塩基配列