特開2016-216410(P2016-216410A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2016-216410アルコールと水を用いた芳香族化合物の核水素化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-216410(P2016-216410A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】アルコールと水を用いた芳香族化合物の核水素化方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 27/04 20060101AFI20161125BHJP
   C07C 35/08 20060101ALI20161125BHJP
   C07C 49/403 20060101ALI20161125BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161125BHJP
【FI】
   C07C27/04
   C07C35/08
   C07C49/403 A
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-104656(P2015-104656)
(22)【出願日】2015年5月22日
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】白井 誠之
(72)【発明者】
【氏名】永澤 佳之
(72)【発明者】
【氏名】七尾 英孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修
(72)【発明者】
【氏名】山口 有朋
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC11
4H006AC41
4H006AC44
4H006BA25
4H006BA61
4H006BB61
4H006BC10
4H006BC31
4H006BE60
4H006FC22
4H039CA40
4H039CA62
4H039CB10
(57)【要約】
【課題】安全性向上および水素源の多様化のために、水素を使用せずに芳香族化合物の核水素化する方法を提供する。
【解決手段】芳香族化合物の核水素化方法は、パラジウムが活性炭等の担体に担持された触媒の存在下で、第一級アルコール、水、および芳香族化合物を反応温度300℃〜350℃で接触させて、芳香族化合物の芳香環炭素に水素を付加する。水の体積に対する第一級アルコールの体積の比が0.2〜5であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムが担体に担持された触媒の存在下で、
アルコール、水、および芳香族化合物を接触させて、
前記芳香族化合物の芳香環炭素に水素を付加する芳香族化合物の核水素化方法。
【請求項2】
前記アルコールが第一級アルコールである請求項1に記載の芳香族化合物の核水素化方法。
【請求項3】
前記水の体積に対する前記アルコールの体積の比が0.2〜5である請求項1または2に記載の芳香族化合物の核水素化方法。
【請求項4】
前記担体が活性炭である請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族化合物の核水素化方法。
【請求項5】
前記アルコール、前記水、および前記芳香族化合物を接触させるときの温度が300℃〜350℃である請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族化合物の核水素化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールと水を用いた芳香族化合物の核水素化方法に関するものであり、より詳しくは、水素を使用せずにアルコールと水を用い、触媒によって効率良く芳香族化合物を核水素化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の核水素化反応は、化学産業、石油化学産業、医薬品産業、さらにはバイオマスの有効利用において重要な反応である。従来、芳香族化合物の核水素化反応は、水素を利用し、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、ニッケルなどの担持金属触媒を利用して行われる。例えば、特許文献1には、ルテニウム担持金属酸化物触媒と水素を用いた芳香族化合物の核水素化反応が示されている。また、特許文献2には、活性炭に担持したルテニウム触媒と水素を用いた芳香族化合物の核水素化反応が示されている。
【0003】
循環型社会の構築において、化石資源の代替としてバイオマスを利用することが重要である。バイオマス、特にセルロースから得られるエタノールを石油に代わる燃料として用いるシステムが導入されているが、エタノールを水素源として用いることはバイオマス利用の多様性を示すことになる。安全性向上および水素源の多様化のために、水素を使用せずにアルコールを用いた水素化反応技術、いわゆる移動水素化反応技術が開発されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、2−プロパノールを溶媒として、炭素に担持したルテニウム触媒を用いて、フルフラールを2−メチルフランに還元する反応が示されている。また、非特許文献2には、水とメタノールを溶媒として、アルミナに担持したパラジウム触媒を用いて、ニトロベンゼンをアニリンに還元する反応が示されている。しかしながら、水素を使用しない水素化反応は、芳香族化合物の置換基の還元は進行するが、芳香族化合物の核水素化反応は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−111252号公報
【特許文献2】特開平10−204002号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Paraskevi Panagiotopoulou,Dionisios G. Vlachos、Applied Catalysis A: General、480 (2014) p.17−24
【非特許文献2】Yizhi Xiang,Xiaonian Li,Chunshan Lu,Lei Ma,Qunfeng Zhang,Applied Catalysis A: General、375 (2010)p.289−294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決する課題は、安全性向上および水素源の多様化のために、触媒存在下で、水素を使用せずにアルコールと水を用いて芳香族化合物の核水素化する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく、鋭意研究を積み重ねた結果、固体触媒の存在下で、水素を使用せずに第一級アルコールと水を用いた芳香族化合物の核水素化反応を発見するに至った。
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)パラジウムが担体に担持された触媒の存在下で、アルコール、水、および芳香族化合物を接触させて、芳香族化合物の芳香環炭素に水素を付加する芳香族化合物の核水素化方法。
(2)アルコールが第一級アルコールである(1)の方法。
(3)水の体積に対するアルコールの体積の比が0.2〜5である(1)または(2)に記載の方法。
(4)担体が活性炭である(1)〜(3)に記載の方法。
(5)アルコール、水、および芳香族化合物を接触させるときの温度が250℃〜350℃である(1)〜(4)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルコールと水を用いて、化学産業、石油化学産業、医薬品産業、さらにはバイオマスの有効利用において重要な芳香族化合物の核水素化ができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の芳香族化合物の核水素化方法について、実施形態と実施例に基づいて詳細に説明する。重複説明は適宜省略する。なお、2つの数値の間に「〜」を記載して数値範囲を表す場合には、この2つの数値も数値範囲に含まれるものとする。
【0012】
本発明の実施形態に係る芳香族化合物の核水素化方法は、パラジウムが担体に担持された触媒の存在下で、アルコール、水、芳香族化合物を接触させて、芳香族化合物の芳香環炭素に水素を付加する。担体に担持されたパラジウムは金属以外に、酸化物や水酸化物等であってもよい。担体は反応条件下で安定なものであれば無機系または有機系のいずれでもよく、例えば、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、ジルコニア、アルミナ、シリカ、ゼオライト、種々の炭素材料、金属酸化物、および複合金属酸化物等が本実施形態の担体として使用できる。これらの中でも、比表面積が大きく、アルコールと水を用いた反応条件で極めて安定である活性炭が好ましい。触媒は微粒子状のパラジウム金属を担体に担持したものが好ましいが、パラジウム以外に、例えば、希土類元素、遷移金属、貴金属、アルカリ土類金属、アルカリ元素、ハロゲン元素等を触媒に含んでいてもよい。
【0013】
担体の質量に対するパラジウムの質量の比は0.01〜30%であることが好ましい。芳香族化合物の核水素化反応に高い活性を示すからである。担体の質量に対するパラジウムの質量の比が0.01%より少ないと、十分な触媒活性が得られず核水素化生成物が少なくなり、30%より多いと、担体上の金属粒子が大きくなり金属原子あたりの活性が低下する。本実施形態の触媒の形状は特に限定されず、粉末や成形品等いずれの形状でもよい。
【0014】
本実施形態の触媒は、例えば以下のようにして調製できる。まず、塩化パラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、酢酸パラジウム等のパラジウム含有水溶液またはパラジウム含有有機溶剤溶液に担体を含浸する。この含浸に代えて、これらの溶液を担体上に噴霧してもよい。つぎに、得られたパラジウム含有担体を、順次乾燥、焼成、および還元して、パラジウム金属が担持された触媒が得られる。なお、焼成工程や還元工程は省略してもよい。また、各種バインダーを用いて触媒を調製してもよい。
【0015】
本実施形態の方法で核水素化できる芳香族化合物としては、ベンゼン環を有する有機化合物に限定されず、ナフタレンやアントラセン等の複合環化合物、およびフランやチオフェン等の複素芳香族化合物等の芳香環を有する化合物が挙げられる。本実施形態のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール等の第一級アルコールが好ましい。本実施形態において、水の体積に対するアルコールの体積の比、すなわち「アルコールの体積/水の体積」が0.1〜10であることが好ましく、0.2〜5であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態の核水素化方法で使用する反応器は特に限定されないが、回分式、固定床流通式、流動床流通式等の反応器が使用できる。そして、触媒を入れた反応器に、アルコール、水、および芳香族化合物を供給することにより核水素化が行われる。核水素化反応するときに、反応器内は窒素、ヘリウム、アルゴン、メタンまたは二酸化炭素等で充填されていてもよい。核水素化反応温度は、通常は300℃〜450℃、好ましくは300〜350℃である。450℃を超える反応温度でも核水素化生成物が得られるが、高い反応温度であるためエネルギーの消費が多い。また、反応温度が200℃以下でも核水素化生成物が得られるものの、触媒の十分な活性が得られないため、核水素化生成物の生成量は極めて少ない。
【実施例】
【0017】
以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の好適な例を具体的に説明したものであり、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
実施例1〜5、比較例1、2(アルコールと水の混合比)
まず、内容積6cm3のステンレス製バッチ式反応管内に、活性炭担体の質量に対するパラジウム金属の質量の比が5%の粉末状の触媒(5%Pd/C、和光純薬工業株式会社製)0.15g、4−プロピルフェノール0.1g、ならびに表1に記載した量のエタノールおよび水を入れ、反応管内の空気をアルゴンに置換した。つぎに、サンドバスを用いてこの反応管を300℃に加熱し、1時間反応させた後に水冷した。
【0019】
そして、シリンジを用いてガス生成物の体積を測定し、ガスクロマトグラフィー(GC−TCD)により分析した。また、反応管内の溶液中の反応物と生成物をガスクロマトグラフィー(GC−FID)により分析した。その結果、実施例1〜5では、4−プロピルフェノールの核水素化反応による生成物である4−プロピルシクロヘキサノン、cis−4−プロピルシクロヘキサノール、およびtrans−4−プロピルシクロヘキサノール、ならびに水素ガスが表1に記載した量だけ得られた。一方、比較例1および比較例2では、4−プロピルシクロヘキサノン、cis−4−プロピルシクロヘキサノール、およびtrans−4−プロピルシクロヘキサノールが得られなかった。なお、比較例2では水素ガスが表1に記載した量だけ得られた。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示すように、水の体積に対するエタノールの体積の比が0.5である実施例1で、4−プロピルフェノールの核水素化反応による生成物である4−プロピルシクロヘキサノンが最も得られた。水素の生成量はエタノール量の増大とともに増大した。また、比較例1および2より、核水素化にはエタノールと水の両方が必要であることがわかった。
【0022】
実施例6〜8(反応時間)
反応時間を変更した点を除いて、実施例1と同様にして4−プロピルフェノールの核水素化を行った。その結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示すように、反応時間が1.5時間である実施例7で、4−プロピルフェノールの核水素化反応による生成物である4−プロピルシクロヘキサノンが最大となった。
【0025】
実施例9、10(アルコールの種類)
実施例1のエタノールを表3に記載した各種アルコールに変更した点を除いて、実施例1と同様にして4−プロピルフェノールの核水素化を行った。その結果を表3に示す。
【0026】
【表3】
【0027】
表3に示すように、第二級アルコールである2−プロパノールと比べて、第一級アルコールであるエタノールまたはメタノールを用いたときに、芳香族化合物の核水素化反応が効果的に進行した。
【0028】
実施例11(フェノールの核水素化)
実施例1の4−プロピルフェノールに代えてフェノールを用いた点を除いて、実施例1と同様にしてフェノールの核水素化を行った。その結果、フェノールの核水素化反応による生成物であるシクロヘキサノン0.2mmolと、シクロヘキサノール0.045mmolが得られた。また、水素ガスが0.4mmol得られた。
【0029】
実施例12(反応温度)
実施例1の反応温度を350℃に変更した点を除いて、実施例1と同様にしてフェノールの核水素化を行った。その結果、4−プロピルフェノールの核水素化反応による生成物である4−プロピルシクロヘキサノン0.16mmol、cis−4−プロピルシクロヘキサノール0.035mmol、およびtrans−4−プロピルシクロヘキサノール0.062mmolが得られた。また、水素ガスが2mmol得られた。
【0030】
以上より、担持パラジウム触媒の存在下で、アルコールと水と芳香族化合物とを混合することにより、水素を使用せずに芳香族化合物を核水素化できることがわかった。
【0031】
比較例3〜5(触媒中の金属)
触媒中の金属を変更した点を除いて、実施例1と同様にして4−プロピルフェノールの核水素化を試みた。すなわち、比較例3では活性炭担体の質量に対するロジウム金属の質量の比が5%の粉末状の触媒(5%Rh/C、和光純薬工業株式会社製)を、比較例4では活性炭担体の質量に対する白金金属の質量の比が5%の粉末状の触媒(5%Pt/C、和光純薬工業株式会社製)を、比較例5では活性炭担体の質量に対するルテニウム金属の質量の比が5%の粉末状の触媒(5%Ru/C、和光純薬工業株式会社製)をそれぞれ用いた。
【0032】
その結果、すべての比較例で4−プロピルシクロヘキサノンおよび4−プロピルシクロヘキサノールが得られなかった。また、比較例3では0.9mmolの、比較例4では3mmolの、比較例5では0.4mmolの水素ガスがそれぞれ得られた。したがって、白金族元素の中でもパラジウムを担持した触媒を用いれば、水とアルコールを用いた芳香族化合物の核水素化反応ができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
アルコールと水を用いる本発明の芳香族化合物の核水素化方法によれば、水素を用いることなく、工業的に効率良く芳香族化合物を核水素化することができる。本発明は、芳香族化合物の核水素化を利用する化学産業、石油化学産業、医薬品産業、さらにはバイオマスの有効利用等の種々の分野において、極めて有用な技術として利用することができる。